働く広場2025年9月号
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管理などに配慮を行うことで、生活と仕事をつないでいくことは十分に可能である。また、定期的な面談や生活状況に関するヒアリングを通じて、仕事上の課題と生活上の課題を一体としてとらえる姿勢をもつことで、職場定着率を高めることにもつながる。就労継続の土台には、本人の安心できる日常があることを認識することが、企業側にも求められる時代となっている。「職住一体型」の雇用モデルはたしかに理想の一つであるが、その本質は「生活と仕事を切り離さずに考える」という価値観にある。この価値観を自社なりの形で取り入れていくことで、より多くの企業が障害者雇用の成果と可能性を実感できるようになると考える。  障害者雇用を進めるうえで、しばしば課題としてあげられるのが「どのような業務を任せるか」という点である。採用したはよいものの、業務内容が本人の特性と合わないことによる業務上のミスマッチや、業務内容を調整する際に生じるストレス、こうした悩みは多くの企業が直面する現実であろう。そうしたなか、植村牧場が実践してきた「業務の切り出し」という工夫は、多くの企業にとって示唆に富む実践だといえる。植村牧場では、牛の世話、搾乳、牛乳瓶の洗浄、製品の箱詰め、配達助手など、多岐にわたる業業務の切り出しとマッチングり組むようになっていったとのこと。また、生活のなかでこうした小さな成功体験を積み重ねることで、休日には電車に乗って映画を観に行ったり、大阪・関西万博にも出かけたりするようになった。そうした活動が本人にとっての「楽しみ」となり、生活の豊かさを実感できるようになる。植村牧場の仕事は単なる労働ではなく、生活の延長線上に位置づけられており、相互に好循環をもたらしていた。 植村牧場における「職住一体型」の雇用形態は、仕事と生活を切り離さずに支えるという取組みである。グループホームを敷地内に設け、働く場と住まいを一体的にとらえることで、生活面の安定と仕事への責任感が相乗効果をもって育まれている。これは、日々の生活が自立につながり、やがて職場での成長へとつながるという、まさに循環的なモデルである。しかしながら、すべての企業が植村牧場のような「職住一体型」の体制を整えることができるわけではない。都市部では用地の確保がむずかしく、生活支援のノウハウを社内に備えることも現実的ではない企業も多いだろう。それでも、この「職住一体型」から学べる重要な示唆がある。それは、仕事の安定のためには、生活面の安定が不可欠であるという視点だ。例えば、通勤スタイルの雇用であっても、働く障害のある人の生活状況に関心を持ち、必要に応じて地域における支援機関と連携を図り、住環境や通勤支援、体調ている様子がうかがえた。  初期の雇用は通勤スタイルだったが、第1期生の雇用が施設入所によって終了したことをきっかけに、黒瀬さんは「住み込み」という新たなスタイルを提案し、第2期生の雇用に踏み出すことになる。敷地内に居住スペースを設け、生活と仕事を一体で支える仕組みを整えた。いわゆる「職住一体型」の雇用である。背景にあったのは、「しっかり働いてもらうためには、しっかりとした生活の土台が必要」という思い。親元を離れての宿泊体験から始まった「職住一体型」の雇用であるが、その効果は「朝早い牧場の仕事への適応」以外にも、生活スキルの向上が本人の自信となり、やがて仕事への挑戦意欲にもつながっていくという効果をもたらした。洗濯、布団干し、着替えといった日常の営みが、「やってみたい」という意欲を生み出し、働く力へと変わっていったという。ある男性従業員は、最初は生活のなかでもほとんどのことに手助けを必要としていたが、グループホームでの生活を始め、自分の洗濯をし、時間を見て就寝し、定時には持ち場に向かう生活を続けるなかで、いまでは早朝3時の業務に向けて自力で起床できるようになった。自分のことが自分でできるようになることで、自然と仕事にも責任感をもって取「生活」が支える「仕事」居住スペース内のリビング。従業員の憩いの場だ植村牧場株式会社代表取締役の黒瀬礼子さん敷地内の居住スペース働く広場 2025.922

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