働く広場2025年9月号
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く課題があることも知りました。なかでも多かったのが「働くことへのハードル」です。やってみたいアルバイトがないとか、就職先が非常に限られているといった悩みを聞きました。 僕自身は、働くことを幸せなものにできるかどうかと、人生を幸せにできるかどうかは、ほぼ同義ではないかと感じています。精神的な成長や自己実現の場にもなる機会を、見えないとか見えにくいというだけで閉ざされるのは納得できませんでした。 そこで僕たちは、視覚障害のある人も「楽しんで働ける場」をつくってみようと動き始めました。彼らの希望で多かったのが接客業で、カフェや洋服店などが候補にあがるなか、ちょうどシェアリングコーヒーショップ「蜃しん気き楼ろう珈こー琲ひー」のオーナーさんとつながりました。蜃気楼珈琲は焙ばい煎せん機やキッチンなどを共有し、経営に挑戦しながら互いに学べる仕組みで、資金の少ない僕らでも始められます。そのお店の月曜夜の部(17時半~21時半)を借り、2025年2月にオープンしたのが、視覚障害のあるスタッフがいる「Moonloop Cafe(ムーンループ カフェ)」です。視野の違いを月の満ち欠けで表現――Moonloop Cafeには、どんな特徴や工夫がありますか。浅見 このカフェをつくるにあたり、視覚障害を違った視点からとらえてみようと話し合って出てきたコンセプトが「視野の違いを月の満ち欠けで表現する」でした。視覚障害というと全盲を想像する人が多いなかで、人によって視野の欠け方が違うことを、月の満ち欠けと融合させて体験してもらうというものです。 現在、店のスタッフを務めている視覚障害のある学生は、見え方が全盲の人と、右目がまったく見えず左目も弱視の人、弱視の人の3人です。担当日にあわせ新月、半月、おぼろ月と名づけた特別メニューとして、スパイスなどの調合を変えたチャイとデザートを提供します。晴眼者もスタッフに入り、協力して運営しています。 12席ある店内は、視覚障害のある人の動線を考慮したレイアウトに変更しました。カトラリーやカップをあらかじめトレーに並べ、テーブル席で直接チャイなどを注ぎ入れる手順です。デジタル音声が出るスケールなどを活用し、カクテルもつくります。フードメニューも増やし、最近全盲のスタッフが「食べやすくて映えるパフェ」を開発しました。「楽しい雇用」生み出していきたい――これまでのカフェの手応えと、今後の展開について教えてください。浅見 同じ視覚障害のある人や関係者を中心にカフェの認知度が上がっていて、問合せも多いです。晴眼者のお客さまからは、店内にある点字の一覧表や点字器に触って「よい体験になった」、「スタッフと気軽に話せて楽しかった」などの感想をもらいました。また全盲のスタッフは「カフェで働いてみたいという憧れが現実になったとき、それぞれ選択肢から外していたのは自分自身だったと気づいた。同じように諦めている人の背中を押してあげたい」と話してくれています。 大きなミッションの「楽しい雇用を生み出す」現場として、自分たちの思いやエネルギーが存分に発揮されていると感じています。課題は来店者数の波が大きいことで、障害の有無に関係なく多くの人たちにどう興味を持ってもらうか探っているところです。 僕自身は今年9月の大学卒業後、NPO法人に就職し、一般社団法人ビーラインドプロジェクトと二足の草わらじ鞋になります。社会経験や知見も重ねたうえで、数年後には新しい事業を始めたいと考えています。欧州では視覚障害者団体が4ツ星ホテルを経営している例もあると聞きました。僕たちも、視覚障害のある人たちが働く選択肢を広げられる雇用の場をつくったり、視覚障害にかかわる課題を解決していったりできるビジネスを目ざします。 スポンサー企業も大募集中です。障害者雇用や福祉の分野で協業できることも多いと思いますので、関心のある企業の方は、ぜひご連絡ください。お待ちしています。働く広場 2025.93

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