らされるのではないかという不安があった」という。一方、指導役であり現場のリーダーを務める契約社員の工く藤どう七なな佳かさんは、「最初から『できる、できない』を決めず、まずやってみて、苦手なことを教えてもらえたら、できることも増やしていける」と背中を押し続けた。この言葉に岩崎さんも、自分から周囲に助言を求めたりサポートを受けたりできるようになったそうだ。例えば、手の小指が無意識に動くことで余計な入力をしてしまう課題を相談したときは、ほかの先輩がオリジナルの治具を手づくりしてくれて解消できたという。 現在はマイナンバーに関連する重要な業務も任されるようになった岩崎さん。工藤さんからの「私の業務を代行できるよう育成中です。期待しています」との激励に、「自分にとって最適な方法やスピードで着実にスキルアップしながら、障がいに関係なく評価されるようになりたいです」と語ってくれた。 岩崎さんは、職場の近くで一人暮らしも始めている。母校や特別支援学校などから職業講話を依頼されることも多く、会社で働くことや自立生活について後輩たちにアドバイスしているそうだ。 2022年から嘱託社員として働く長ちょう助すけ澤ざわ馨かおるさん(49歳)は、生まれつき聴覚障がいがありコミュニケーションはほぼ手話か筆談だという。札幌近郊に引っ越してきたのを機に「事務職に挑戦してみよう」とハローワーク経由で入行した。 担当しているのは振込の処理や管理システム業務などで、複雑な仕事内容を上司や同僚が根気よく筆談で指導し、長助澤さんも理解を重ねるごとに仕事のやりがいにつながっていったという。 同じ係に聴覚障がいのある職員が4人いることもあり、職場で細やかな工夫も重ねてきた。参事の田た崎ざき浩ひろ子こさんによると「帳票ごとの複雑な手順や注意点がひ手話教室で距離縮まると目でわかるよう、大判の単語帳のようなマニュアルツールを考案しました。複数の業務を組み合わせた日々の作業予定表も作成し、それをチェックしながら各自で仕事を進めていけます」とのことだ。 長助澤さんが仕事になじんできた昨年からは、職場での手話教室も始まった。経緯について、元行員で嘱託社員の森もり敏とし子こさんは「彼女たちが手話で会話しているのを見て、私たちも手話を少しでも使えたら、一緒に働くうえで、もっと気持ちの疎通ができるのではないかと感じていました。それで長助澤さんに頼んでみたら、快諾してくれました」と話す。 最初は森さんと田崎さんの2人が生徒だったが、いまは4人に増えた。毎日16時ごろから30分間ほど行っており、いま事務センターで働く長助澤馨さん長助澤さんは、振込の処理などの業務を担当している処理手順や注意点などが記載されたマニュアルツール岩崎さんは、マイナンバーに関連する業務を担当している岩崎さんの指導にあたる工藤七佳さん働く広場 2025.108
元のページ ../index.html#10