「築ちく盛せい」と呼ばれる工程。筆でポーセレンを盛り上げていく調合したポーセレンの粉末を蒸留水と混ぜ合わせる天然歯の構造に合わせ、調合を変え、色合いの違うポーセレンを盛り上げる乾燥後、焼成機に入れ、高温で焼成する 先天性感音性難聴のある中なか澤ざわ昇しょう一いちさん(59歳)は、筑波大学附属聾ろう学校歯科技工科(当時)で技術を学んだ。卒業後は、歯科技工所での勤務やトレーニングセンターでの研修を経て、和田精密歯研株式会社(以下、「和田精密歯研」)に入社。その後、ドイツ歯科技工マイスターのいる歯科技工所に転職してドイツ流の技術を学んでから、和田精密歯研に復帰した。キャリア37年のベテラン歯科技工士だ。 中澤さんは、天然歯に近い色や形を持つ歯科技工物の制作を手がけており、金属フレームに、セラミックの一種でポーセレンと呼ばれる陶材を盛り上げていく「ポーセレンワーク」を担当している。天然歯の構造に合わせ、陶材を使い分け、一層一層ていねいに積み重ね、焼しょう成せい機きで焼き固める。焼成時の収縮を予測し盛り上げるなど、経験やテクニックが求められる仕事だ。その技術力の高さから指名での依頼も多いという。 中澤さんは、全国障害者技能競技大会(全国アビリンピック)歯科技工種目への出場を重ね、2021(令和3)年の第41回大会において「金賞」を受賞。令和5年度には、「卓越した技能者(現代の名工)」障害者部門において、歯科技工士として表彰を受けた。また、「令和7年春の褒章」において、業務に精励し、他の模範となるような技術や業績を有する人に授与される「黄おう綬じゅ褒ほう章しょう」を受章している。 現在、中澤さんは定年を控え、後進の育成に力を入れている。職場で机を並べるのは、2023年にフランスで開催された、第10回国際アビリンピック歯科技工種目の金メダリスト、中なか川がわ直なお樹きさんだ。 聾学校の後輩である中川さんから、「現代の名工」中澤さんのもつドイツ流歯科技工の技術を学びたいとの申し出を受け、和田精密歯研への転職をすすめたという。聴者へも手振り身振りや筆談、実際に作業をやってみせることなどによりその技術を伝え、教え子が全国のラボ(営業所)で活躍しているそうだ。中澤さんは、「定年後も再雇用として、体力の続くかぎり歯科技工士として働き続け、後進に技術を伝えていきたい」と話す。働く広場 2025.1016
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