働く広場2025年10月号
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ITが切り開く、視覚障害者の新しい可能性覚障害者向けITサポート」という事業を立ち上げることを決意した。現在の活動現在の活動 現在、全国の視覚障害者に画面読み上げソフトの設定や、オフィスアプリケーションの操作支援などを提供し、一人ひとりのニーズに応えている。具体的にはワープロソフトや表計算ソフトの操作指導を行い、就労移行支援事業所と連携し転職につながった実績や、教員免許を持った全盲の方が一般の学校で授業を行えるよう支援した事例もある。 この活動を通じ、同じ課題を抱える人々にとっての希望となることを目ざしている。視覚障害者の就労は、適切な支援とITの活用により十分に可能であることを、日々の実践を通じて証明し続けている。 私は未熟児網膜症と脳性麻痺による重度の視覚障害と肢体不自由を抱え、現在は視覚障害者向けのIT支援や福祉体験講座を開催している。日常では点字を使用し、外出時には車いすと介助者が必要な、身体障害者手帳1級の重複障害者である。 そんな私がなぜ、視覚障害者向けのITサポートという仕事を始めたのか。その原点には、私自身が経験した「希望」と「絶望」、そして「逆転の発想」があった。ITが広げた新しい可能性ITが広げた新しい可能性 私にとってITとの出会いは、まさに革命であった。中学から大学まで一般の学校で学んでいた私は、ワープロソフトと点訳ソフトの組合せにより、普通文字(墨すみ字じ)で提出物を作成しつつ、自分用には点字で保管できるようになった。この瞬間、初めて「ほかの生徒と同じ土俵に立てた」という感覚を味わい、言葉にできない喜びを感じた。社会が突きつけた社会が突きつけた「通勤」という壁「通勤」という壁 しかし、ITが可能性を広げてくれた反面、社会には別の大きな壁が存在していた。それが「通勤」という現実的な課題である。 就職活動の企業の面接でIT活用能力や学業成績を評価されても、「通勤はどうするのか?」という理由で不採用になることが続いた。当時、通勤のための公的な介護制度はなく、一人での通勤が困難な私にとって、この壁は大きな課題であった。何十社もの不採用通知を受け取るたびに、大学生活で築いた自信が揺らいだ。当時の社会は、まだ私たちの可能性を十分に理解していなかったのかもしれない。 現在は「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」などの制度が整備されつつあるが実施自治体が限定されているうえ、利用には申請手続きの複雑さがともなうなどの課題がある。だからこそ、企業側の柔軟な対応―例えばアクセシビリティを確保したうえでのリモートワークの導入―が、障害者雇用を成功に導く鍵となる。絶望を希望に変えた絶望を希望に変えた「起業」という選択「起業」という選択 通勤困難という「弱み」に直面し、何十社もの不採用通知を受け取るたびに、「自分には何ができるのか」と深く考えた。そして、自分自身がITを活用して困難を乗り越えた経験が、同じ課題を抱える視覚障害者の力になれるのではないかという思いに至った。このような経緯で「視エッセイ私が視覚障害者向けITサポートを始めた理由第1回情報アクセシビリティ専門家、AI活用教育コンサルタント。視覚障害と肢体不自由の重複障害がある。東京都立大学卒業後、福祉情報技術コーディネーターとして独立。障害当事者向けのIT指導やサポートを行い、転職や自立につながった実績も多数。共著に『24色のエッセイ』、『本から生まれたエッセイの本』(みらいパブリッシング)がある。https://fukurou-assist.net株式会社ふくろうアシスト代表取締役河和 旦(かわ ただし)19働く広場 2025.10

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