アの道筋のほかに、現職場で安心して働き続けながら職務遂行能力を高めてゆく道筋を求める人も少なくないそうです。まとめ 両社に共通する障害者雇用の質の向上に向けた方法は、①採用時からの職場実習や本人の希望をふまえた適性配置、②明確な職位制度と評価基準による公正な処遇、③スモールステップや研修・自己啓発支援による能力開発、④現場と人事部門の緊密な連携、⑤昇進志向と安定志向の双方に応える多様なキャリアパス、⑥仲間との協働や承認を通じたモチベーション維持などが指摘できるでしょう。 これらの多くは、組織内キャリアの開発に関する「キャリアコーン・モデル」(シャイン〈Schein,E.H〉図)と一致することが少なくありません。①組織内の縦の異動として職位を上昇させてゆく「地位・階層」では、第一生命チャレンジドの職位制度や、キトーの契約社員から正社員への昇格が相当します。昇進を目ざす社員には職位段階を明確にした公正な評価制度でモチベーションを高めています。②組織内の横の異動として部署間の異動や特定の技能力を深めてゆく「職能・技術」では、第一生命チャレンジドの社内トレーニー制度や、キトーの他工程の実習と資格取得の支援が該当しま業の同一現場に10年以上勤務していますが、2年目にはクレ―ン操作資格を取得し、令和7年度優秀勤労障害者として当機構理事長努力賞を受賞しました。丸山良一さん 「将来については、他部署への異動や転職は不安を感じるので、現在の安定した状況を維持することで安心感のある働き方をしたいです。正社員になることが唯一のキャリアとは思わないです。現在の担当作業では人に教えることができる技量はあると思いますが、正社員になるといまとは異なる技術が求められるので、その職位を遂行することはむずかしいのではないかと考えています」 彼の上司の越水拓郎さんは、丸山さんの入社時から指導してきており、彼自身が同僚と同じ仕事量をこなすことを目ざしてきたことでチームに受け入れられてきたといいます。会社の組織風土と人事管理のち密な支援があることで、本人が安定・安心感のあるキャリアを描いているのだということです。5 取組みの全体的特徴 同社は、障害のある社員を障害特性にかかわりなく、現場のニーズに応じて配属してゆく過程で、さまざまな取組みを次第に増やしてきました。それらは生産現場と人事労務部門との緊密な連携によるところが大きいといえます。こうしたことを基盤に、障害のある社員は、職位を段階的に昇進するという組織内キャリす。障害の有無にかかわらず能力発揮の場を広げる仕組みができています。③専門性や技能を高めて部署内の中核としてリーダーシップを発揮する「中心性・部内化」では、第一生命チャレンジドのリーダーやトレーナーによるチーム運営と後輩育成、キトーの長期勤務による熟練技能の蓄積と社内資格取得などがあてはまります。部門内の核となりリーダーシップを発揮できています。 このように、多様なキャリアパスを提供することで障害のある社員が活躍できる場が確保され、そのことが社員の「安心と成長」を担保しているといえます。図「キャリアコーン・モデル」中心性部内化職能技術地位・階層中心性部内化職能技術地位・階層組織内キャリアのコーンモデル地位・階層(職位)の異動(例)見習い ― 1級 ― 2級 ― 係長職能・技術(部門間)の異動(例)製造 ― 販売 ― マーケッティング中心性・部内化(部門内)の異動(例)部門の末端から中核の職務へ出典:松爲(2024)図5-5を修正製造本部加工工程グループ 表面処理班の丸山良一さん丸山さんは、部品の熱処理作業を担当している製造本部加工工程グループ 表面処理班班長の越水拓郎さん丸山さんは、クレーンの操作資格を取得、業務に活用している働く広場 2025.1025参考文献:松爲信雄『キャリア支援に基づく職業リハビリテーション学-雇用・就労支援の基盤-』ジアーズ教育新社、2024年
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