たことだという。一人ひとりが座ったときの距離感が広がり、当事者たちから「集中したい作業のときは、部屋の壁側を向いて座るだけで十分」といわれたそうだ。 片岡さんは「広くなったことが直接的な要因ですが、それまでの間に、本人たちが職場内外での業務をこなしながら人と接する機会が増え、自信をつけたことも大きかったように思います」と話してくれた。 実際に、かつて使っていた社員から話を聞くことができた。入社4年目になる事業部業務担当でチーフの田中さん(28歳)だ。前職のIT関連会社を過労のため4カ月ほどで退職したという田中さんは、その後、以前から気になっていた自分の症状についてクリニックを受診し、社交不安障害と診断されたという。「じつは中学時代から、どうしても周囲に視線がいってしまう症状に悩まされていました。授業での板書をノートに書き写そうとすると、周囲の人の動きに目がいって書けないのです。学校生活自体が苦痛でした」とふり返る。 就労移行支援事業所に通いながら再就職を目ざすなか、そこの支援員が片岡さんとJEEDの職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修(※4)で出会ったご縁で、ウィルアクトに入社した。周囲の視線が気になる症状については伝えてあったので、最初は既製品のパーテーションを自分なりに改造して使っていたが、指導員が手づくりしてくれたものは「周囲が完全にみえなくなり、集中できるようになりました」という。 その後、パーテーションを使わなくなった理由を、田中さんはこう説明する。 「自分なりにキャリアアップし、仕事に余裕を持って取り組めるようになったという精神的な安定が大きいと思います。日常生活でも社交不安障害の症状が軽くなってきています」 ただ、目から入る刺激が気になる傾向は残っているため、疲れが出たときや少し不安定なとき、特に集中したいときなどは、先に紹介した、両サイドに細工をほどこした特製眼鏡を使っているそうだ。 すでに正社員の田中さんは、現在はチーフという役割も任され、パソコンスキルを活かした業務管理など職場改善にも貢献している。「コーチや指導員、さらにその上のマネージャーも目ざすつもりです」としっかり話してくれた。 働きやすい職場づくりを目ざし、改善を重ねてきたウィルアクトでは、その一方で、一人ひとりのスキルアップと業務拡大にも力を入れてきた。スキルアップと業務拡大 例えば大きな業務の一つに、健康診断表のコード番号の並べかえ作業がある。グループ会社の従業員約2万人の個人データを、会社や部署ごとの指定された数字順に並べるというものだが、習得は簡単ではない。そこで、職場実習の予定者がいる特別支援学校や就労移行支援事業所に対し、あらかじめダミーデータを送って予習してもらっている。指サックをつけて紙の束を数える練習もある。これは年に数回、グループ会社運営の水族館に出向いて行う、割引チケット12万枚の封入・配送業務で活かされているそうだ。 清掃関連の業務は、細かく切り出してきた。職場近くで運営されているグループ会社のホテル2カ所では、シーツ類をリネン室から運び客室内に置いておく業務を請け負う。「部屋の清掃は別会社の担当ですが、セットしておくだけで助かるそうです」(片岡さん)。このほかグルー※4「職場適応援助者養成研修」など、各種研修については、JEEDホームページをご覧ください。https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/supporter04.html事業部業務担当でチーフの田中さんコード番号の並びかえのデモンストレーションを行う田中さん西鉄本社ビルでコピー用紙の補充業務にあたるウィルアクトの従業員(写真提供:西鉄ウィルアクト株式会社)現在、田中さんは作業に集中したいときに改良型の眼鏡を活用している働く広場 2026.38
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