雇用における合理的配慮 「社会的障壁の除去」という目的は共通していますが、民間事業主にとって当初は努力義務から始まり、2024(令和6)年4月から法的義務となった、障害者差別解消法における合理的配慮は、サービス提供者(店舗、交通機関、教育施設など)が、一般市民や受益者としての障害者に対し、障害者が他者と同等に社会生活を営むための「アクセスの機会」を提供するものです。それに対して、障害者雇用促進法における合理的配慮は、事業主と障害者との間に雇用契約が存在することが前提です。雇用契約とは、労働者が事業主の求める仕事を遂行するのに対して、事業主がその労働にみあう給与を支払うという、互いに対価関係にある権利義務を中核としています。この相互的な契約関係を成り立たせ、継続するという目的に照らして、必要であり、その効果を期待できる、すなわち「合理的な」配慮が求められているのです。 本連載では、合理的配慮を単なる法令順守(コンプライアンス)の枠組みに留めず、変化の激しい時代を生き抜き、個人と組織がともに成長していくための「キャリア戦略」、「経営戦略」としてとらえ直してみたいと思います。 第1回となる今回は、合理的配慮の概念を根本から問い直す、三つの視点を提示します。視点①:普遍性(Universality)~だれにでも起こりうる「制約」への備え~ まず強調したいのは、事業主が合理的配慮の提供義務を負っている対象者は、法定雇用率をカウントするときのような障害者手帳を持つ労働者だけにはかぎられないという事実です。法律上の「障害者」の定義、すなわち、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」に該当するならば、合理的配慮の対象になります。手帳の有無にかかわらず、つまり、「障害者雇用」ではないという意味で「一般雇用」であっても、メンタルヘルス不調、がん、難治性疾患、若年性認知症、高次脳機能障害などのある労働者も対象となり得るのです。 コロナ禍を経て、私たちは「健康」や「家族」の事情が仕事に強く影響する現実を目の当たりにしました。感染リスクへの不安・恐怖、テレワーク下での孤立・孤独、育児や介護などの家庭責任との両立など、正社員であっても何らかの「制約」を抱えて働くことがあたり前になりました。労働人口の減少と高齢化が進む日本において、労働者が心身の機能的制約を抱えることは、何ら特別なことではなく「だれにでも起こりうる」普遍的なライフイベントです。したがって、合理的配慮を考えることは、特定のだれかのためだけの福祉施策ではなく、すべての労働者にとって普遍的な課題であり、組織のリスクマネジメントそのものなのです。視点②:能力主義(Meritocracy)~戦力化のための「投資」~ 合理的配慮に関する最大の誤解は、それが「能力不足を許容する温情」だと思われている点にあります。本来、合理的配慮とは、「障害者の能力発揮を妨げる社会的障壁を取り除くこと」であり、その目的は、障害者の持てる能力を発揮させることにあります。 これはアメリカのADA(Americans 執筆者プロフィール小こ島じま 健けん一いちさん鳥とり飼かい総合法律事務所弁護士 人事労務を基軸に、問題社員処遇から組織・風土改革、産業保健、障害者雇用まで、紛争予防・迅速解決を助言・支援。日本産業保健法学会理事など、労働法務・人事労務と産業保健を架橋する諸活動を行う。精神・発達障害者の就労、治療と仕事の両立などの執筆・講演多数。クローズクローズアップアップ 2016(平成28)年4月の障害者雇用促進法改正により、事業主には障害のある労働者に対する合理的配慮の提供が法的に義務づけられ、それ以降、働く障害者のみなさんの間では、合理的配慮への期待が大いに高まっているのを感じます。 そこで今号から弁護士の小島健一さんにご執筆いただき、「キャリア戦略」、「経営戦略」の観点から合理的配慮についてとらえ直していきます。 第1回は、合理的配慮の概念の三つの視点からの解説です。「合理的配慮」という希望「合理的配慮」という希望~人事と法務の交差点から~~人事と法務の交差点から~それは「免除」ではなく「工夫」それは「免除」ではなく「工夫」 ~合理的配慮をめぐる三つの再定義~ ~合理的配慮をめぐる三つの再定義~第1回第1回働く広場 2026.310
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