働く広場2026年3月号
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with Disabilities Act : 障害をもつアメリカ人法)に由来する概念ですが、そこでは合理的配慮はあくまで「業務の周辺的・副次的な要素を調整・補完するもの」であり、業務における「本質的な能力(Essential Functions)」を免除するものではないとされています。 つまり、合理的配慮とは、その人が本来持っていると期待される「本質的な能力」の発揮を阻害している「壁」を取り除き、公正な競争を実現するための環境調整です。 ここで重要なのは、この「環境調整」を欠いたまま行われる能力評価は、決して公正とはいえないという点です。障害者雇用促進法において、「差別の禁止」と「合理的配慮」は車の両輪の関係にあります。必要な合理的配慮を提供せずに、「成果が出ない」ことを理由に低い評価を下したり、不利益に扱ったりすることは、原因(障壁)を取り除かずに結果だけを求めることになり、それは実質的な「差別」にほかなりません。合理的配慮という土台があって初めて、公正な評価が可能になるのです。 また、企業が負うもう一つの重要な義務である「安全配慮義務」についても触れておく必要があります。「配慮して無理に働かせることで、かえって本人の健康を害したらどうするのか」という懸念は、もっともです。しかし、安全配慮義務を「危険だから働かせない(排除・禁止)」という方向だけでとらえるのは、あまりにも消極的です。真の安全配慮とは、本人の能力や健康状態に見合った適切な合理的配慮を提供することによって、「安全に能力を発揮できる状態」をつくり出すことにほかなりません。 「安全か、雇用か」の二者択一ではなく、「工夫によって安全と雇用を両立させる」。この発想の転換こそが、組織の持続可能性を高めるのです。企業は合理的配慮を人材戦力化のための「投資」ととらえるべきです。「できないこと」を数え上げて排除するのではなく、「どうすればできるか」という視点で環境(物理的環境、意思疎通、ルール・慣行)を調整する。それは、眠っている人材の潜在能力を引き出し、組織の生産性を向上させるためのきわめて合理的なアプローチなのです。視点③:個別性(Individuality)~日本型雇用の壁を超える「対話」~ 合理的配慮は、バリアフリーのような不特定多数に向けた事前の対処とは異なり、個々の労働者の、個々の場面での困りごとに対応する「事後的な対応」です。同じ診断名であっても、職場環境や本人の特性、業務内容によって必要な配慮はまったく異なります。したがって、何が必要かを決定するためには、当事者間での「建設的な対話」が絶対条件となります。 しかし、ここで日本の職場特有の壁が立ちはだかります。欧米の「ジョブ型雇用」ではまず職務という入れ物があってそこに人を充てますから、あらかじめ職務の内容を明確に記述しようとする文化がありますが、日本の「メンバーシップ型雇用」では、そもそも職務が無限定であり、職場全体の調和や「空気を読む」といった「ハイコンテクストなコミュニケーション能力」そのものが、あらゆる職務における「本質的な能力」とみなされがちです。この現状においては、特にコミュニケーションに困難を抱える障害(例:自閉スペクトラム症〈ASD〉)のある労働者にとって、必要な配慮(例:曖昧な指示を避け、明文化する等)を求めること自体が、「本質的な能力の欠如」とみなされかねないというジレンマがあります。 だからこそ、私は、事業主が合理的配慮提供義務を履行するための「補助線」として、「誠実対話義務(仮称)」を意識するべきだと考えています。自らのニーズを把握して、援助を求めること自体が苦手な障害者に対し、会社が率先して「対話」の場をつくり、意思疎通を支援しなければ、真に必要な配慮にはたどり着けません。「対話」のプロセスにおいて合理的配慮を提供すること、すなわち、安心して本音を話せる環境をつくることこそが、すべての出発点となります。「工夫することは生きること」 若年性認知症への合理的配慮を考える過程で感銘を受けた言葉に、当事者である丹たん野の智とも文ふみさんが紹介している「工夫するということは生きているってことだ」という言葉があります。合理的配慮とは、本人の心の声に耳を傾け、「どうすればやりやすいか」、「どうすればうまくいくか」をともに考え、クリエイティブに工夫するプロセスです。その営みは、本人が自分の人生の主導権(自己決定権)を取り戻すことを支援するだけでなく、一緒に工夫する上司や同僚、ひいては組織全体に、多様な人材を活かすマネジメント能力をもたらします。 次回からは、合理的配慮のバリエーションとプロセスについて掘り下げ、具体的な「対話」の手法を提示していきます。「わからない」から生じる恐怖や不信を乗り越え、互いに成長していくためのヒントを、読者のみなさんと共有できれば幸いです。 (第2回へ続く)働く広場 2026.311

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