私のひとこと 車いすユーザーの看護師が伝える、障害受傷から一般就労に至るまでの心境 車いすユーザー・医療者 三井和哉 看護師キャリアをスタートした矢先に障害当事者に  私は幼いころより運動が得意で、高校ではバスケットボール部に所属し、インターハイに出場した経験もあるなかでけがをすることも多く、医療者とかかわる機会が多かったことから医療に興味を持ち、高校卒業後は看護学校へ入学し、看護師と保健師の資格を取得しました。看護学校卒業後は総合病院でICU(集中治療室)勤務を希望して配属され、業務を始めて1年も経たないころに事故で脊髄(せきずい)損傷による四肢麻痺(ししまひ)のため車いすユーザーになりました。  受傷直後の搬送先は、たまたま私が勤務していた病院のICUであったため、排泄の介助などを同僚の看護師にお世話になり、また、昨日まで私が受け持っていた患者が隣で寝ている状況から自尊心がボロボロになりました。そこから入院期間の2年間は毎日「死にたい」と思いながら過ごして、退院後も1年間自宅で引きこもっていました。 引きこもりから一般就労までの心境の変化  障害を負って気持ちが沈んでいたことから1年以上も自宅に引きこもっていましたが、心の中では「早く障害を受け入れて社会復帰しないといけない」と焦っていました。しかし、焦りの気持ちと同じくらい障害を負ったことのショックで気持ちの整理ができず、結局行動を起こすことができませんでした。そんなときにクリニックを経営する医師の方から「私のクリニックで非常勤の看護師として働いてみないか?」とお誘いいただきました。障害を負って車いすユーザーとして働くことに不安と恐怖がありましたが、「このままではいけない」という想いもあったので、迷いながらもそのお誘いを受けてみることに決めました。  働き出した当初は、車いすユーザーの看護師として患者の前に出ることは、ネガティブな感情しかなく、仕事に行くのが嫌でした。しかし、車いすユーザーだとしても看護師として頼ってくれる患者とかかわるなかで、「車いすユーザーでも人の役に立てる、感謝してもらうことができる」という経験をさせてもらい、少しずつ障害のある身体でも自信をつけることができてからは、仕事に行くことが楽しくなってきました。  雇用形態が非常勤だったこともあり、看護師・保健師として正規採用してくれる勤務先を探し始めましたが、やはり車いすユーザーであることがネックで、採用試験に落ち続けていました。その後は金銭的な理由などで看護師として働く目標を諦め、車いすユーザーを採用した実績のある会社の採用試験に受かったため、事務職として一般就労しています。  ただ、障害を負って麻痺のある身体で一般就労をしていると、「障害のことを受け入れて、仕事ができるまで回復していてすごいね!」といわれることがあります。しかし、私はいまでも手足の動かなくなった自身の身体を受け入れる「障害受容」はできていません。動かなくなった身体に折り合いをつけて、障害のない方が仕事をするのと同じ理由で自分自身や家族のためになんとか仕事を続けているのです。 非常勤講師として医療学校の学生とかかわる喜び  現在、事務職以外に医療学校の非常勤講師も務めており、障害のある当事者と医療者の両方の視点を持っている強みを活かして、看護科の学生やリハビリ科の学生へ脊髄損傷を主とした運動・脳神経系の講義を、実技も入れて行っています。5年前から始めたこの活動は岡山県内だけでなく、他県の学校からもオファーをいただけるようになってきました。  看護師の仕事を諦めて事務職へと転身しましたが、心の中では医療の仕事を続けたいという想いが強く残っていました。そんなときに医療学校の学生に講義するという形の役割をいただき、諦めていた医療にたずさわる仕事ができているということを本当にうれしく思っています。事務職の仕事にやりがいがないというわけではありませんが、ダブルワークとして非常勤講師を務めさせてもらうことで、大きなやりがいと喜びを得られていると感じています。 「信頼できる看護師」と「話しやすい看護師」は違う  ここで、医療学校の学生へ伝えている内容の一つを紹介します。看護師として働いていた私が長期入院する患者の立場になって「信頼できる看護師と話しやすい看護師は違う」と感じたできごとがありました。  脊髄損傷専門の病院に1年半以上入院し、リハビリを行っていたころ、休憩室では脊髄損傷の車いすユーザーの方々が集まって談話しており、「看護師Aさんは話しやすいから、ドラマやおもしろい話をするのは楽しいけど、治療のことや障害のことで困ったら知識のある看護師Bさんに相談するほうがいいよ」と聞いたときに、とても衝撃を受けました。  「そんなことあたりまえでしょ?」と感じるかもしれませんが、多くの看護学生は「患者とコミュニケーションを取り、信頼関係を築く」という目的で最初の実習を行うので、「患者との信頼関係=コミュニケーション」と考えている看護師・看護学生は少なくないと思います。もちろん話しやすさや性格が明るいことも看護師には大切なことだと思いますが、医療を提供する立場なので、知識がなければ患者からの信頼を得ることができません。そのため、看護師として働く以上は、つねに学ぶ姿勢で知識を増やしていく必要があることを学生には伝えています。 自分自身に価値をつけるためのYouTubeによる情報発信  非常勤講師を始めて感じたのは「車いすユーザーの看護師」以外の肩書きがないことです。非常勤講師の仕事をさらに広げていきたかったのですが、ほかの非常勤講師と比べて看護師経験も少なく、実績もないため、より多くの医療学校に自身を売り込むにはどうしたらよいかを考えて、始めたのがYouTubeでした。チャンネル登録者数は少ないですが、学校に売り込む際に動画で自己紹介ができるようになりました。仕事の依頼につながっており、学校からの依頼は年々増えてきています。YouTubeを始めることに迷いはありましたが、何も行動しなければ自身の価値は広がらなかったので、障害のある・なしにかかわらず、「行動する」ことの重要性を実感しています。 三井 和哉 (みつい かずや)  車いすユーザー(脊髄損傷)、医療者(看護師/保健師)。  2012(平成24)年に看護学校を卒業し、看護師および保健師免許を取得。看護師として総合病院のICUで従事するなか、事故により脊髄損傷を受傷し、四肢麻痺により車いすユーザーとなる。2年間のリハビリ入院期間後、車いすユーザーの看護師としてクリニックでの勤務を経験。2017年から事務職として一般就労を行うかたわら、岡山県と広島県で看護師や理学療法士、作業療法士の養成校で非常勤講師を務め、脊髄損傷に関する講義を担当。  2021(令和3)年にYouTube「みついちゃんねる」を開設し、医療者と障害者、両方の視点から脊髄損傷に関する情報を発信中。