職場ルポ ピッキングや梱包作業、物流を支える戦力に ―株式会社タカショー(和歌山県)― 約3万種のエクステリア資材などを扱う企業の物流現場では、障害のある従業員がピッキングや検品、梱包作業などで大事な戦力となっている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 株式会社タカショー 〒642-0017 和歌山県海南市(かいなんし)南赤坂20-1 TEL 073-482-4128 FAX 073-486-2560 Keyword:聴覚障害、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、製造・販売業、物流、ピッキング、梱包、集計 POINT 1 一般求人に応募してきた聴覚障害のある人を採用し、成功例に 2 障害者就業・生活支援センターなどの助言で職場の配慮を進める 3 人手不足だからこそマッチングを重視、働きやすい職場づくり エクステリア資材・ガーデン用品などを販売  シュロ(棕櫚)のたわしをはじめとする家庭用品の一大生産地として知られる和歌山県海南市(かいなんし)。ここで1935(昭和10)年に創業した「高岡(たかおか)正一(しょういち)商店」もシュロ縄などの卸売業を営んでいたが、2代目となる高岡(たかおか)伸夫(のぶお)さんが事業を発展させ、1980年に設立したのが「株式会社タカショー」(以下、「タカショー」)だ。造園や庭園資材に関する商品の企画開発やガーデン用品の販売を手がけ、国内やヨーロッパ、アメリカ合衆国、アジアなどに20拠点以上を展開している。  タカショーでは2008(平成20)年ごろから障害者雇用に取り組んでおり、いまでは従業員440人のうち障害のある従業員が10人(身体障害5人、知的障害2人、精神障害3人)で、障害者雇用率は3.41%(2024〈令和6〉年6月1日現在)だという。2022年には「障害者雇用優良事業所」として和歌山県知事表彰を受賞している。  今回は、物流拠点でピッキングや検品、梱包作業などを担当する障害のある従業員の働く様子とともに、職場のこれまでの取組みなどを紹介したい。 商品約7000種からピッキング  タカショー本社から車で5分ほど離れた場所にある物流拠点「中央ロジスティックセンター」。延べ床面積2万2000uもある倉庫では、国内外から集められた大小さまざまな商品約7000種が保管され、日々、注文に応じて次々と輸送トラックに積み込まれていくという。この現場で働く60人のうち45人ほどがパートタイム従業員で、タカショーでは「フレンド社員」と呼ばれている。  この職場で、はじめて障害のあるフレンド社員を雇用したのは2008年。聴覚障害のある女性で、この日のインタビュー取材は遠慮されたが、現場では同僚と笑顔でジェスチャーつきの会話をしながらテキパキと動き回っていた。  その女性の採用は偶然だったという。経営管理本部総務部部長の木村(きむら)浩介(こうすけ)さんが説明してくれた。  「彼女は当時、一般の求人枠に応募してきました。補聴器をつけていて、大きな声で話せば聴こえるということもあり採用してみたところ、現場ですばらしい働きぶりを見せてくれました。いまもベテランの1人として活躍してくれていますが、同僚との意思疎通もスムーズになり、もう大きな声は必要ないようです」  当時から現場を知る、執行役員で商品部部長の阿武(あんの)正幸(まさゆき)さんは「この成功例によって『障害があるからといって一緒に働けないわけじゃない』と採用枠を見直すことになりました」とふり返る。  2年後には、ハローワークを通じて発達障害のある男性を採用した。大学の理系学部を卒業したその男性は、計算能力がとても高い一方でコミュニケーションが不得手とのことだったが、2週間ほどの職場実習を経て、互いに大丈夫だと判断したそうだ。阿武さんが話す。  「物流現場のおもな仕事であるピッキングは基本的に単独作業なので、本人には合っていたのだと思います。しかも作業がとても速く、正確でした」  一方で男性は、現場でときおり叫び声をあげることがあり、男性の定着支援を担当していた障害者就業・生活支援センターの訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)に相談したという。「どうやら思い通りに作業できなかったときなど、自分に腹が立ったときに、つい声が出てしまうようでした」と木村さんは話す。阿武さんによると「最初は近くにいた従業員が驚いたのは事実ですが、広い倉庫内の片隅なので、大きな声を出してもそんなに影響はありません。いい意味でだれも気にせず、見守っているような感じです」とのことだ。  それよりも当時の懸案は、本人がまじめに取り組むあまり、意識的に休憩を取れないことだった。特に夏場は水分補給も必要だが、ずっと作業を続けてしまう傾向があった。  そこで再びジョブコーチに相談したところ「『しんどいだろうから適宜休憩してね』というあいまいないい方ではなく、『あなたは10時から10分間休憩することになっています』とはっきり決めておけば、規則として守りやすいとのことでした」と木村さん。実際その後はきちんと休憩を取るようになったそうだ。  すっかり職場定着したその男性の家族からは感謝の手紙が届いたこともあったそうだが、「こちらが感謝したいぐらいです」と阿武さんはいう。 大事な存在の聴覚障害のある男性  2011年には、2人目の聴覚障害のある従業員、後藤(ごとう)慎一郎(しんいちろう)さん(43歳)が入社した。生まれつき耳が聴こえないという後藤さんは聾学校を卒業後、住宅用ドアなどを製造する会社に10年以上勤めていたが、リストラにあってしまったという。その後、後藤さんの聾学校時代の恩師の同級生がタカショーの従業員だったことから、紹介を受けて入社したそうだ。  後藤さんの上司で、商品部物流輸送課マネージャーの西浦(にしうら)伸幸(のぶゆき)さんは、慣れた様子でジェスチャーを交えたコミュニケーションをしていた。  「きちんと説明がいるときは筆談をしますが、ふだんは口を大きく開けて話しながら身ぶり手ぶりを加えています。最初は食い違うこともありましたが、もういまでは大体わかりあえます」  職場には、後藤さんたちと「もっと会話をしたい」と手話を習得したフレンド社員も2人いて、休憩時間などに手話で盛り上がっているそうだ。  後藤さんがよく任されるのが大きな特殊資材の梱包。この日はプラスチック製の人工池を同僚と2人がかりで段ボールを組み合わせながら手際よく梱包していた。さらに1日に搬送する800件近い商品の集計作業までこなす。合間に見せる大きな笑顔が、周囲を明るい雰囲気にしているのも印象的だった。  西浦さんは「この現場で最も重要な集計作業や特殊な梱包作業などで、後藤さんは本当によく活躍していて、現場になくてはならない存在です」と明かす。  後藤さんは筆談でこう答えてくれた。  「入社した当初は周囲とのコミュニケーションに慣れるまでむずかしいときもありましたが、いつも会っているうちに職場のみなさんが大きな口や身ぶり手ぶりを使って話してくれるので、スムーズになりました。以前いた職場よりも、みなさん話しやすい人たちばかりです」  若いころにサッカー経験もあり体力にも自信があるという後藤さんは、いまは阿武さんと釣り仲間だそうだ。 まじめな働きぶり  中央ロジスティックセンターで最も人手を要するというピッキング作業を見せてくれたのは、矢倉(やぐら)卓尚(たかひさ)さん(27歳)。手に持っているのはピッキングリストと呼ばれる紙だ。国内12拠点から本社に送られてくる受注内容が、倉庫管理システム(WMS)(※)を通じて提供され、その情報が印字されたピッキングリストには、商品ごとに置かれている場所をゾーン、列、棚、段まで示す8桁の数字が並んでいる。西浦さんは「リストによっては倉庫内の1階と2階を往復することもあり、たいへんな作業です」と説明してくれた。  矢倉さんは特別支援学校を卒業後、就労継続支援B型事業所で訓練し、その後、就労移行支援事業所に通っていたときにタカショーを紹介してもらったという。2週間ほどの職場実習をしたときは、「覚えることが多くてたいへんだと思った」そうだが、タカショーへの入社を希望した。いまは20分かけて自転車で通勤しているそうだ。  西浦さんたちは当初「あわてず、ゆっくりやっていこう」と励ましたが、しばらくすると、その働きぶりに目を見張ったという。  「本当にまじめに取り組んでくれています。逆にこちらから『休憩してください』と声をかけないと、ずっと作業を止めないほどです。出荷作業が終わる17時までに少しでも早く終わらせようという使命感が強いようですね」  矢倉さん自身も「つい、やらなくちゃと思ってしまうんです」と苦笑いしつつ、「毎日ここに通い、フルタイムで働けていることがうれしいですね。休憩時間などに職場の人とスポーツの話など雑談できるのも楽しいです」と教えてくれた。  今後の目標は、検品と梱包作業ができるようになることだという。西浦さんは「梱包はエンドユーザーに届く直前の一番気を遣う部分であり、時間と手間がかかる作業なので、これができるようになると、さらに大きな戦力になるはずです」と期待する。 介護職から転身  倉庫の奥まったエリアには、竹など2m以上になる長細い資材が保管されている。ここで黙々と竹資材を立てかけていたのが、沖(おき)和雅(かずまさ)さん(36歳)。入荷商品の管理を担当している。  沖さんは大学を中退後、介護職として正社員で7年近く働いていたが「看取りなどで精神的につらくなった」こともあり退職。就労移行支援事業所を経てタカショーに2021年、入社した。職場側には「手先を使った細かい作業が苦手です」と伝えていたそうだ。  沖さんの上司で、商品部物流企画管理課マネージャーの浴(さこ)正信(まさのぶ)さんは当初、沖さんはコミュニケーションが苦手とも聞いていた。  「こちらの話がきちんと伝わっているか見きわめるのがむずかしいかなとも思っていたのですが、実際には、『理解しました』、『わかりません』としっかり受け答えもでき、まったく問題ありませんでした。新しい仕事を覚えることにも前向きで、どんどん吸収していってくれています。人見知りの度合いが少し高いというぐらいですね」  さらに沖さんは、求職中にフォークリフトの免許を取得していた。タカショーの現場でも練習を経て半年前から実際に扱うようになり、ますます1人でできる仕事の幅が広がっているそうだ。  「免許を取得してから10年近く経っていたのですが、なんとかできるようになりました」と説明する沖さんは、「人と話すのが苦手なので、1人で作業ができるのも精神的に負担が少ないと思います。体だけは壊さないように気をつけて、長く働き続けていきたいです」と話してくれた。 人手不足の物流現場で  「近年は、慢性的な人手不足の状態にあることが大きな課題です。一般雇用も含めてなかなか人が集まらない状況です」と明かす阿武さん。大きく拡大しているEC(インターネットショッピング・サイト)業界の物流現場では自動化やロボット化が進んではいるが、タカショーの商材は特殊な形のものが多いこともあり、どうしても人の手が必要になるのだという。阿武さんが続ける。  「私たちの職場は、障害のある方たちも大きな戦力として働いてもらっていますから、連携しているハローワークや就労移行支援事業所にも、日ごろから『だれかいい人がいたら、いつでも職場実習やトライアル雇用を行いますので声をかけてください』と呼びかけています」  職場は特に組織だった支援体制があるわけでもない状況で、障害のある従業員の定着率が高いことについては、「職場の人間関係が良好なことも大きいかもしれません」と阿武さんは話す。それは多くの一般従業員を、フレンド社員として採用するまでの過程にあるようだ。  タカショーでは春の園芸シーズンである4〜6月が一番忙しいことから、この3カ月間に派遣社員を多く雇用している。その間にひと通り仕事を経験してもらって、人間関係や職場の雰囲気、業務の中身も十分に理解してもらったうえで、互いにマッチングがうまくいった人にそのままフレンド社員になってもらうケースが少なくないそうだ。結果として双方が満足した状態で働いている従業員が多いことから、「職場の雰囲気もよく、自然と支えあえる形ができています。例えば子育て中の従業員が、急きょ休まなければならなくなった場合、だれかがフォローしてくれます。障害のある従業員も、同じように働きやすくなっているようです」という。  あらためて阿武さんは「障害者雇用の取組みは、最初はたまたまの採用でしたが、トライをしてみて本当によかったと思っています」とふり返る。  「やはり最初の一歩をふみ出せるかどうかですよね。少し前にハローワークの主催で20社ほどの担当者が合同で会社見学にいらっしゃったときも、『はじめの一歩ですよ。本人の特性や事情を考慮しながら職場実習をすれば、きちんとマッチングも判断できます。ぜひみなさんもチャレンジしてください』と伝えました」  タカショーでは中央ロジスティックセンター以外にも、本社で品質管理や営業サポートをしている身体障害のある従業員や、鳥取県にある開発拠点でパース(完成予想図)制作を担当している精神障害のある従業員がいる。フレンド社員は障害の有無に関係なく、一定の条件を満たす場合には正社員登用の道もあるそうだ。  タカショーでは今後も引き続き、一般雇用と同様に障害者雇用も、大事な人材獲得の手段の一つとして進めていく方針だという。阿武さんが話す。  「物流現場は、ほかの業界と比べても人手不足が顕著に出てきていると感じます。特に海南市がある地域は、家庭用品を扱う企業が多く、人材の取りあいが続いている状況です。せっかく入社してくれたいまいる従業員をきちんと守っていけるよう、今後も、だれもが働きやすい職場環境づくりを大事にしていきたいと思っています」 ※倉庫管理システム(WMS):英語で、Warehouse Management System。倉庫への商品の入出庫管理や在庫管理などの機能を搭載した物流業界で主流のソフトウェア 写真のキャプション 株式会社タカショー 中央ロジスティックセンター 倉庫内には、約7000種の商品が保管されている 経営管理本部総務部部長の木村浩介さん 執行役員で商品部部長の阿武正幸さん 中央ロジスティックセンターで働く後藤慎一郎さん 商品部物流輸送課マネージャーの西浦伸幸さん 大型商品の梱包を行う後藤さん 後藤さんは集計作業も担当している 中央ロジスティックセンターで働く矢倉卓尚さん 矢倉さんはピッキング作業を担当 中央ロジスティックセンターで働く沖和雅さん 入荷商品の管理にあたる沖さん 商品部物流企画管理課マネージャーの浴正信さん 沖さんはフォークリフトでの作業もこなす