研究開発レポート AI等の技術進展に伴う障害者の職域変化等に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門 1 はじめに  本調査研究は、現在の障害者が従事している業務の状況やAI等の技術進展に伴い、障害者の職域がどのように変化しているかについて把握を行うとともに、今後のAI等の技術進展をふまえた障害者の職域変化等について展望することを目的として実施しました。本稿ではその一部について紹介します。 2 調査の内容 (1)企業アンケート調査  障害者が従事している業務の状況やAI等の技術進展に伴う障害者雇用への影響等について、企業における全体的な状況を把握することを目的に、2021(令和3)年6月1日現在1人以上障害者を雇用している一般企業1万4438社(抽出)および特例子会社562社(全数)の計1万5000社を対象に、2022年8月〜9月にWebフォームを用いた企業アンケート調査を実施しました。有効回答数は、一般企業3693件、特例子会社235件、有効回答率は一般企業25.6%、特例子会社41.8%でした。 (2)企業へのヒアリング調査  企業アンケート調査結果をふまえ、デジタル化に伴う障害者の職域変化の状況等に関する具体的事例を把握することを目的に、アンケート調査協力企業のなかで障害者がデジタル機器等を使った業務に従事していた企業16社を選定し、2022年12月〜2023年5月に、企業への訪問またはオンライン会議システムを用いたヒアリング調査を実施しました。 3 調査結果の概要 (1)障害者が従事するデジタル関連業務の状況について  企業アンケート調査によると、一般企業においては、障害者が何らかのデジタル関連業務に従事している企業の割合は約7割であり、デジタル関連業務への障害者の従事は、すでに普及していることがうかがわれました。また、データ処理やシステム開発等の企画・調整・判断等を伴う業務に従事している障害者がいる企業も一定程度あることがわかり、業種によって特徴的なコア業務や、どの業種においても比較的共通しているバックオフィス業務など、さまざまな業務に従事する例が見られました。  特例子会社においては、障害者が何らかのデジタル関連業務に従事している企業の割合は約8割であり、障害者のデジタル関連業務の従事に対して、より積極的・意識的に取り組んでいることがうかがわれました。業務内容は、バックオフィス業務が多く、企画・調整・判断等を伴う業務に従事している障害者がいる特例子会社においては、システム開発やWebサイト構築、RPA開発等に従事する例が見られました。 (2)デジタル化に伴う障害者雇用への影響  企業アンケート調査の結果から、デジタル化の影響について見てみると、一般企業においては、「これまでの影響」について、プラスの影響があったと考える企業は約2割、特に影響なしが半数を占め、「今後の影響」については、プラスの影響があると考える企業は約4割、特に影響なしが約2割でした。特例子会社は、一般企業より前向きな回答となっており、「これまで」、「今後」ともにプラスの影響ありが半数を占めていました(図)。  具体的な影響としては、一般企業・特例子会社に共通して、「業務の効率性・正確性が向上した」、「業務の手順が単純化した」、「組織全体の生産性が向上した」、「業務の種類が増加した」、「業務の量が増加した」といった項目において、あてはまると回答した企業の割合が高くなっていました。加えて、特例子会社では、「障害者のモチベーションの維持・向上につながった」、「障害者が高度な業務に従事できるようになった」という項目においても、あてはまると回答した企業の割合が高くなっていました。一方で、特例子会社においては、「障害者をサポートする時間・頻度が増加した」、「新たな業務ができるようになるまでの訓練・マニュアルの整備等に時間がかかるようになった」という項目においても、あてはまると回答した企業の割合が高く、新たにデジタル関連業務に従事させる場合には、プラスの効果のみならず、支援負担が増加する面もあることがうかがわれました。 (3)企業ヒアリング調査の結果  16社の企業を対象とした企業ヒアリング調査を通じ、障害者が従事するデジタル関連業務の内容、当該業務に取り組むこととなったきっかけやデジタル化の影響、デジタル関連業務に従事する障害者の採用やスキルの習得方法、障害者が円滑に業務に従事できるようにするための業務分担や人的サポート等に関する取組みおよび課題・今後の見通しについて把握することができました。ヒアリングの結果については、収集したデジタル関連業務を(表)の4パターンに分類しましたのでご参照ください。また、業務内容の具体例は後述のリーフレットに掲載していますのでぜひご覧ください。 4 総括  AI等のデジタル技術の進展に加え、テレワークやオンライン会議の普及など社会全体の働き方が大きく変わるなか、障害者の業務においてもデジタル関連業務への従事や業務内容の変化が見られました。今後、社会全体のデジタル化のさらなる進展とあわせて、企業においても障害者の業務のデジタル化が進展していくことが予想されるなか、障害者の業務の検討や職域拡大にあたり、今回の調査研究がその一助となれば幸いです。  本レポートの元となる調査研究報告書No.177「AI等の技術進展に伴う障害者の職域変化等に関する調査研究」(※1)は障害者職業総合センターホームページからご覧いただけます。  また、関連する研究成果物として、マニュアルNo.82「デジタル技術を活用した障害者の業務の状況と具体例」(事業主、就労支援機関向けリーフレット)(※2)を作成しましたので、あわせてご活用ください。 ※1 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku177.html ※2 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai82.html ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図 デジタル化に伴う障害者雇用への影響 一般企業(n=3,693) 障害者雇用へのこれまでの影響 プラスの影響が大いにあった4.6% どちらかというとプラスの影響があった17.8% どちらともいえない19.7% どちらかというとマイナスの影響があった0.8% マイナスの影響が大いにあった0.1% 特に影響なし51.9% 無回答5.1% 障害者雇用への今後の影響 プラスの影響が大いにある8.3% どちらかというとプラスの影響がある31.4% どちらともいえない30.5% どちらかというとマイナスの影響がある2.3% マイナスの影響が大いにある0.4% 特に影響なし24.3% 無回答2.8% 特例子会社(n=235) 障害者雇用へのこれまでの影響 プラスの影響が大いにあった20.0% どちらかというとプラスの影響があった32.8% どちらともいえない22.1% どちらかというとマイナスの影響があった4.3% マイナスの影響が大いにある0.4% 特に影響なし15.7% 無回答4.7% 障害者雇用への今後の影響 プラスの影響が大いにある19.1% どちらかというとプラスの影響がある35.7% どちらともいえない28.9% どちらかというとマイナスの影響がある7.2% マイナスの影響が大いにあった0.4% 特に影響なし6.4% 無回答2.1% 表 デジタル関連業務の4分類 パターン 定義と業務内容 デジタル化に伴う新たな業務 @ デジタル技術を活用した非定型的(問題解決や複雑なコミュニケーション活動を必要とする)業務 業務アプリ開発、Webサイト管理、動画編集、チラシデザインなど A デジタル技術を活用した定型的(作業手順が明確である)業務 アノテーション(AIの学習に用いるデータの加工)、スキャン業務、データ入力、インターネットを活用した情報収集など 従来業務(デジタル化の進展以前から存在する業務) B デジタル技術が導入されたことにより、業務内容が変化した業務 生産管理、ピッキング、備品管理、部品の照合など C 業務内容は変わらないものの、デジタル技術の導入により一部のタスクが変化した業務 調理(作成数の入力)、介護補助や清掃(記録の入力)、トラック運転(デジタルタコグラフの利用)など