【表紙】 令和5年10月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第553号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2023/11 No.553 職場ルポ ともに働き成長する、ものづくりの現場 西精工株式会社(徳島県) グラビア 高精度な「ものづくり」を支える 栗田アルミ工業株式会社(茨城県) 編集委員が行く 障害者が働き続けることを支える支援ネットワーク 株式会社加藤えのき、みやざき障害者就業・生活支援センター、宮崎障害者職業センター(宮崎県 メダリストを訪ねて 〜第10回国際アビリンピック〜 仕事とアビリンピックで「挑戦を楽しむ」人生に 歯科技工種目金メダリスト 中川直樹さん 「自然の中で稲作」静岡県・堀(ほり)傑(すぐる)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 11月号 【前頁】 心のアート 馬頭観音(ばとうかんのん) 塚田 修二 (特定非営利活動法人eばしょ結屋(むすびや)) 画材:木材、アクリル絵の具/サイズ:530mm×750mm  表情豊かで明るい笑い声が聞こえてきそうな「馬頭観音」。自身もおしゃべりが大好きで、ユーモア溢れるトークはいつも人を惹きつける。いたずらな表情を浮かべる馬頭観音は、彼の表情がそのまま絵になったようだ。  幼少期は絵を描くのがあまり好きではなかったが、60歳ごろから板にアクリル絵の具で花や風景を描き始める。  当初は「絵なんか描けるかー」といっていたが、人から褒められたことをきっかけに段々と自信をつけていく。  ビデオを見ながら下書きをし、色は4〜5回ほど、時間をかけて塗り重ねる。色を塗るときは写真やビデオは見ない。これは、頭の中のイメージを、自分の思うまま、感覚的に塗り重ねていく過程をとても大切にしているからだ。  普段は(床に敷く)マットづくりを中心に仕事をしており、ていねいに制作された作品はオーダーが入るほど人気だ。 (文:まちごと美術館 cotocoto(ことこと) 廣田(ひろた)千祐貴(ちゆき)) 塚田 修二(つかだ・しゅうじ)  1946(昭和21)年生まれ。  「特定非営利活動法人eばしょ結屋」に週1回通所し、軽作業や創作活動に励む。  作業時間中は黙々と手を動かし、ふざけている利用者には「何やってんだぁ!」とゲキを飛ばす仕事人間。一方で、休憩時間は話し相手をつかまえては、いたずらな笑顔でおやじギャグをくり出す。野球や時代劇を観ることが好きで、特に野球の会話が止まらない。  恋愛話も得意な、結屋最年長のアーティスト。 協力:まちごと美術館 cotocoto 【もくじ】 目次 2023年11月号 NO.553 「働く広場」は、 障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 馬頭観音 作者:塚田修二(特定非営利活動法人eばしょ結屋) メダリストを訪ねて 〜第10回国際アビリンピック〜 2 第1回 仕事とアビリンピックで「挑戦を楽しむ」人生に 歯科技工種目金メダリスト 中川直樹さん 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 JEEDインフォメーション 6 14 第43回全国アビリンピック開催のお知らせ/令和5年度職業リハビリテーションに関する研修のご案内/「障害者雇用事例リファレンスサービス」を活用して本誌「働く広場」の掲載記事が探せます! 職場ルポ 8 ともに働き成長する、ものづくりの現場 西精工株式会社(徳島県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 グラビア 15 高精度な「ものづくり」を支える 栗田アルミ工業株式会社(茨城県) 写真/文:官野 貴 エッセイ 19 相談員の苦悩と心得 第3回 日本相談支援専門員協会 顧問 福岡寿 編集委員が行く 20 障害者が働き続けることを支える支援ネットワーク 株式会社加藤えのき、みやざき障害者就業・生活支援センター、宮崎障害者職業センター(宮崎県) 編集委員 松爲信雄 クローズアップ 26 障害者雇用担当者のモチベーションアップ 最終回 〜障害のある人と向き合い、ともに成長する〜 研究開発レポート 28 発達障害のある学生に対する大学等と就労支援機関との連携による就労支援の現状と課題に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 JEEDメールマガジン登録受付中! ※「省庁だより」は休載します 表紙絵の説明 「自分でつくった米を食べてみたいと思い、題材に選びました。手足を描くのがむずかしかったです。受賞の知らせを聞いて驚いたし、うれしかったです。さらに農業に興味がわきました。いまは、高校進学に向けて勉強をがんばっています」 (令和5年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 中学校の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-5】 第1回 メダリストを訪ねて 〜第10回国際アビリンピック〜 仕事とアビリンピックで「挑戦を楽しむ」人生に 歯科技工種目金メダリスト 中川直樹さん (株式会社中田デンタル・センター勤務) なかがわ・なおき 1986(昭和61)年、埼玉県生まれ。2010(平成22)年、鶴見大学歯学部歯科技工研修科修了、埼玉県内の歯科技工所に就職。現在は株式会社中田デンタル・センター(東京都)に勤務。2018年、第38回全国アビリンピック(沖縄県)の「歯科技工」種目で金賞、2023(令和5)年、第10回国際アビリンピックフランス・メッス大会の同種目で金賞受賞。  本誌でも毎年、特集記事として紹介しているアビリンピック(※1)。2023(令和5)年3月、フランスのメッス市で開催された「第10回国際アビリンピック」には、日本選手30人が17種目に出場、8人がメダルを獲得した。  今回は本誌連載コーナー「この人を訪ねて」の特別編として、同大会で日本選手団唯一の金メダリストに輝いた中川直樹さん(埼玉県)に、大きな夢を叶えるまでの道のり、国際アビリンピックでの経験やこれからについて語っていただいた。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 通常学級で広い世界を知る ――重度の聴覚障害がある中川さんは、小中学校は通常学級に通ったそうですね。 中川 1歳のころ、大きな音がしても起きなかった私を親が心配して病院に連れて行き、重度の感音性難聴と診断されました。自分の発音も聞こえません。  ろう学校幼稚部と通常の保育園の両方に通い、小学校は自宅から近い公立の通常学級に入学しました。親が学校に相談し、先生はクラスメートに私のことを伝えてくれていたようです。  当時の私は手話ができませんでしたが、口の動きで理解できる部分もあり、身ぶり手ぶりや筆談を交えて周囲と意思疎通を図っていました。授業では、先生の口の動きを読み取りやすいよう前方の席でしたが、それでも不十分なので、ことばの教室(言語通級指導教室)(3ページ※2)で補習を受けました。さらに自宅で予習復習をしても、授業についていくのが精いっぱいでした。ただ美術だけは得意で、手先を使った工作なども大好きでしたね。  友だちとの遊びには困りませんでしたが、補聴器を取られるようないじめにもあったり、負けず嫌いな私はケンカもしたりしました。それでも総じて、通常学級に通って本当によかったと思っています。友だちができ、文章力がつき、聞こえる人たちの広い世界を知ることができたからです。手話はその後、大宮ろう学校(現・埼玉県立特別支援学校大宮ろう学園)で3年間かけて習得しました。 歯科技工士への道 ――歯科技工士になった経緯を教えてください。 中川 もともとは、ろう学校の理科教員を目ざし大学を受験したのですが、残念ながら不合格でした。進路に迷った私に先生が、筑波大学附属聾学校(現・筑波大学附属聴覚特別支援学校)歯科技工科の体験学習をすすめてくれました。参加してみるとミニ入れ歯の製作やカービング作業などが楽しく、軽い気持ちで入学しました。その後、社会見学として訪れた鶴見大学歯学部歯科技工研修科で、先生からの「彫刻がうまくなれば仕事もうまくなる」との言葉に心を動かされ、鶴見大学に進学しました。  再び障害のない学生たちと一緒に学ぶことになり、やはり苦労したのは授業です。先生の話す内容がよくわからず、先生の手の動きを見よう見まねでやるしかありません。隣の席の学生に筆談で教えてもらったり、授業後に先生に個別質問をしたりする日々でした。そして技術力向上のため、インターネットで検索した歯の形を参考にカービング作業を毎日練習。地道な努力のかいもあって、修了式では上級課程で優秀な成績を修めた者に与えられる「細井賞」を受賞しました。 職場の協力でアビリンピック挑戦 ――アビリンピックには在学中から挑戦してきたそうですね。 中川 初めての挑戦は鶴見大学在籍中で、筑波大学附属聾学校の先生からすすめられたのがきっかけです。自分の力を試してみたくて先輩たちと出場しましたが、力不足を実感させられました。  就職後は仕事に追われ、アビリンピックのために休暇を取る余裕もなく出場から遠のいていました。それからはキャリアアップを目ざし、3回転職しました。スタートは小規模な技工所です。ここでは私の技術力を評価してくれていた上司が、職場に筆談ボードを用意し、手話の指文字表を貼ってくれました。「話すときはマスクをはずして、わかりやすい口の形で」と同僚にうながしてくれたのも助かりました。多忙でしたが、仕事を段取りよくこなす技術やスピードを向上させることができたと思います。  2カ所目は病院内の職場で、CAD/CAMと呼ばれるコンピュータを使ったインプラントの設計・製作を経験しました。次に千葉県にある総合病院で聴覚障害者として初採用され、ここで9年ぶりに、アビリンピックへの再挑戦が実現しました。上司や同僚が「病院の知名度アップにも貢献するね」と時間をさいて支援してくれ、2017年の第37回全国アビリンピック(栃木県)で銀賞を獲得できました。  その後、いまの職場である「株式会社中田デンタル・センター」に入社してからもアビリンピックのことを相談すると、すぐに出場許可が下りました。上司である田川(たがわ)哲成(てつのり)さんたちがアドバイスをくれ、練習にもつき合ってくれました。職場の期待を背負って臨んだ2018年の第38回全国アビリンピック(沖縄県)は、これまでの長年の努力が出し切れた結果の金賞だったと思います。第10回国際アビリンピック派遣選手選考会を兼ねた2020年の第40回全国アビリンピック(愛知県)に招へい選手として出場し、念願の日本代表に決まったときは「15年越しの夢が叶った」と、感無量でした。 ハプニング続きの国際大会 ――初めての国際大会は、いかがでしたか。 中川 選考会後、コロナ禍で第10回国際アビリンピックは延期が続き、いったんは国際情勢により中止となりましたが、最終的に私自身初めての欧州行きが決まり、モチベーションが上がりました。  今回の競技課題は、上顎蝋総義歯(じょうがくろうそうぎし)製作(4時間)と上顎右側1、2番2本のワックスアップ(2時間)でした。選手はフランス・韓国・日本から出場していて、国際審査員もこの3カ国の方々でした。国によって歯科技工の考え方が違うため、私はインターネットで他国の歯科技工所や技工物を調べ、どんなつくり方や仕上げ方、表現方法をしているかなどを研究しました。  準備万端のつもりでしたが、現地では思わぬハプニングもありました。まずホテルの部屋でさっそく練習しようとしたら、日本から持参した機器が、フランスでは変圧器がないと使えないことがわかったのです。日本選手団に国際審査員として同行されていた伊集院(いじゅういん)正俊(まさとし)先生が、メッス市内を探しまわり変圧器を見つけてくれました。  また競技前日の説明会では、競技の事前説明とは異なり、3Dプリンターでつくられた歯列模型にワックスアップをすることを初めて知ったほか、日本で使われていない材料や咬合器が用意されていたりして驚きました。国内大会では考えられない変更ですが、他国の選手たちは「よくあること」と思っていたかもしれません。そういう意味では大会前の練習会で、伊集院先生からの「臨機応変に対応すること」というアドバイスが大きな力になりました。じつは競技中もワックスペンを温める機械が故障するトラブルに見舞われましたが、出国前に田川さんが貸してくれた予備機で救われました。本当に、みなさんの支えあっての金賞だったと思います。 技術だけでなく人間性も ――国際アビリンピックを経験し、どのようなことを感じましたか。 中川 手話によって、いろいろな国の人と言葉の壁を越えたコミュニケーションを図ることができました。同じ聴覚障害のある人たちの豊かな表情が、周囲を楽しい雰囲気にしているのを見て、私も自然と笑顔になっていたのを思い出します。すばらしい人間性を持った異国の選手たちとの出会いをはじめ、ハプニングも含めて、日常では得がたい体験をさせてもらいました。  ふり返ると、私自身の国際アビリンピック金賞までの道のりは、とても険しいものでした。生まれつき重い聴覚障害のある者は、言語習得の壁はもちろん、情報格差も大きいと痛感することが少なくありませんでした。でも同時に、個々の努力は必ず報われることもわかりました。  いまあらためて、歯科技工士は、技術だけでなく人間性を磨くことも大切だということを実感しています。歯科技工士という仕事には、ものづくりの楽しさと、人の役に立てる喜びがあります。そして日々、ユーザーのことを考えながら調和する歯を目ざす姿勢こそが、さらなる技術の向上につながっていくと思っています。 障害があっても自由に学べる環境に ――今後の抱負について教えてください。 中川 もっと多くの人たちがアビリンピックに興味や希望を持ってかかわってくれるよう、自分ができることを考えています。特に歯科技工種目に今後もどんどん出場してほしいです。  母校の現・筑波大学附属聴覚特別支援学校の歯科技工科は、今年度からの新入生の募集を停止しました。一方で、いまはさまざまな機器や通訳者の助けを借りつつ、聴覚障害があっても通常の専門学校などで自由に学べる環境が整ってきています。私は母校の歯科技工士ОB会の役員を務めていますが、いまは専門学校に進んだ後輩たちをバックアップできる体制づくりに向けて動いています。  手話については昨年、地元の手話サークルで講師を務めました。最近はドラマなどの影響もあって、手話に関心を持つ人が増えているのはうれしいですね。2025年には日本で初めての開催となる「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025」が予定されているので、さらに手話を広める機会になると期待しています。 ――最後に、アビリンピック出場を考えている人へのメッセージを。 中川 私はこれまでの仕事やアビリンピックを通して「挑戦を楽しむ」ことを覚えました。挑戦には悩みがつきもの、人生にも悩みはつきもの。そして悩みは人間を大きくする力があると考えます。挑戦すること自体が楽しいと思えるようになれば、人生も絶対に楽しくなるはずです。だれにとっても人生は一度きり、アビリンピックという挑戦を、ぜひみなさんも楽しんでください。 本誌2023年6月号で「第10回国際アビリンピック」を特集しています。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/202306.html ※1 本誌2023年2月号で「第42回全国アビリンピック」を特集しています。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/202302.html ※2 ことばの教室:小中学校の通常学級に在籍し、言葉の発達に課題のある児童が、個々の状況に応じた特別な指導を受ける教室 ※3 本誌2023年9月号でご紹介しています。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202309/index.html#page=33 職場の方より 株式会社中田デンタル・センター 取締役 技術部長 田川哲成さん  私自身、聴覚障害のある方と一緒に働くのは初めてでしたが、コミュニケーションは口話や携帯メモを使った筆談などで問題なく取れています。中川さんは技術力に加えて集中力が高く、職場では高難度の歯科技工力が問われる仕事も任せています。国際アビリンピックでの金賞受賞は業界内でも広く知れわたり、顧客の歯科医院から「ぜひ中川さんに」という依頼もきました。弊社は指名制ではないのですが、うれしい反響です。これからも社内外でさまざまな活躍をしてくれると思います。 写真のキャプション 中川さんは職場で、歯科技工物の製作を担当している 田川哲成さん(奥)のアドバイスを受ける中川さん 友人や同僚らの寄せ書きとともに国際アビリンピックに臨んだ 第10回国際アビリンピックで中川さんが獲得した金メダル ハプニングを乗り越え、金メダルを手にした 2023年6月26日には、岸田文雄内閣総理大臣から表彰を受けた(※3) 次回の「メダリストを訪ねて」は、2024年2月号に掲載予定です。お楽しみに!! 【P6-7】 JEEDインフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 第43回 全国アビリンピック 入場無料 障害者ワークフェア2023 〜働く障害者を応援する仲間の集い〜 令和5年11月18日(土) 11月17日(金) 16:00〜16:30 開会式(ウェブ配信) 11月18日(土) 9:00〜17:00 技能競技および障害者ワークフェア 11月19日(日) 9:00〜10:30 閉会式 開催場所 愛知県国際展示場 AICHI SKY EXPO 愛知県常滑市セントレア5-10-1 ●中部国際空港駅より徒歩5分 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 全国アビリンピック 第43回全国アビリンピックでは、全25種目の技能競技と2職種の技能デモンストレーションを実施し、全国各地から集った約380人の選手たちが日ごろつちかった技能を披露し、競い合います。 障害者ワークフェア 障害者ワークフェアでは、「働く障害者を応援する仲間の集い」として、約90企業・団体による出展を予定しています。能力開発、就労支援、職場紹介の3つのエリアによる展示・実演のほか、ステージイベント、各種特設コーナーなどがあります。 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 当日はライブ配信も予定しています! アビリンピック 検索 写真のキャプション 電子機器組立 フラワーアレンジメント ワード・プロセッサ 障害者ワークフェア 令和5年度 職業リハビリテーションに関する 研修のご案内 受講料無料 労働、福祉、医療、教育等の機関における障害者の就業支援担当者を対象に、職業リハビリテーションに関する知識や、就業支援に必要な技術の修得、資質の向上を図る研修を実施しています。 医療・福祉等の機関で企業等への就職・定着に向けた就業支援を担当する方 ステップ1 初めて担当する方 就業支援基礎研修 就業支援の基礎作り 全国の地域障害者職業センター ステップ2 2年以上実務経験のある方 就業支援実践研修 アセスメント力と課題解決力の向上 発達障害/精神障害/高次脳機能障害 コース 全国14エリアの地域 障害者職業センター ステップ3 3年以上実務経験のある方 就業支援スキル向上研修 障害特性に応じた支援スキルの向上 発達障害/精神障害/高次脳機能障害 コース 障害者職業 総合センター 就業支援課題別セミナー 新たな課題やニーズに対応した知識・技術の向上 障害者職業 総合センター 職場適応援助者(ジョブコーチ)を目ざす方・支援スキルの向上を目ざす方 ステップ1 養成研修修了者サポート研修 支援の実践ノウハウの修得 全国の地域障害者職業センター 職場適応援助者養成研修 ジョブコーチ支援をする際に必要な知識・技術の修得 障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター 全国の地域障害者職業センター ステップ2 支援スキル向上研修修了者サポート研修 困難性の高い支援の実践ノウハウの修得 全国の地域障害者職業センター 職場適応援助者支援スキル向上研修 ジョブコーチとしての支援スキルの向上 障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター 受付中の研修、今後受付を開始する研修(令和5年10月25日時点) 研修 日程 受付期間 開催形式・場所 職場適応援助者支援スキル向上研修 【対象】 ジョブコーチとして1年以上の実務経験のある訪問型・企業在籍型職場適応援助者の方 第3回 令和6年1月16日(火)〜1月19日(金) 令和5年10月24日(火)〜12月1日(金) ※定員を超える申込みがある場合は、予定より早く受付を締め切ることがあります。 オンライン形式 就業支援スキル向上研修 精神障害・発達障害・高次脳機能障害コース 【対象】 就業支援の実務経験3年以上の方 令和6年1月31日(水)〜2月2日(金) 令和5年11月8日(水)〜12月8日(金) ※定員を超える申込みがある場合は、予定より早く受付を締め切ることがあります。 オンライン形式 職場適応援助者養成研修 【対象】 訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)としての援助を行う予定の方など 2月期 @オンライン形式 令和6年2月14日(水)〜2月15日(木) A集合形式 令和6年2月21日(水)〜2月22日(木) 令和5年11月22日(水)〜12月14日(木) オンライン形式かつ集合形式 (千葉県千葉市) @とAすべての受講が必須 □実務経験に応じて、講義・演習・事例検討などを組み合わせた、実践的なカリキュラムとなっています。 □研修の参加には事前のお申込みが必要です。受講料は無料です。 □各研修のカリキュラム、会場、受講要件など、詳しくはホームページをご覧ください。 お問合せ先 職業リハビリテーション部 人材育成企画課 Email:stgrp@jeed.go.jp TEL 043-297-9095 FAX 043-297-9056 JEED 就業支援担当者 研修 検索 【P8-13】 職場ルポ ともに働き成長する、ものづくりの現場 ―西精工株式会社(徳島県)― ナット類の製造を手がける工場では、従業員の特性に合わせた職場改善や勉強会の開催、本人の努力によって、全員が一緒に働き成長できる職場を目ざしている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 西精工株式会社 〒770-0005 徳島県徳島市南矢三町(みなみやそちょう)1-11-4 TEL 088-631-7177(代表) FAX 088-632-7626(代表) Keyword:製造業、知的障害、発達障害、ジョブコーチ、職場実習、特別支援学校、障害者職業センター POINT 1 職場実習や職業評価で、本人の具体的な特性や必要な合理的配慮を把握 2 特性に沿った作業日誌や連絡ノート、ケース会議で就労定着を図る 3 部署ごとに「障碍特性勉強会」を開催し、だれもが働きやすい職場づくりを 創業100年のナットなどの製造企業  自動車から家電やゲーム機、メガネまで大小さまざまな工業製品に使われる金属製のナットや精密機器などの部品を製造・販売する「西精工(にしせいこう)株式会社」(以下、「西精工」)は、徳島市で1923(大正12)年に創業して以来100年を迎える。  2008(平成20)年から5代目として代表取締役社長を務めている西(にし)泰宏(やすひろ)さんは、専務だった2006年に経営理念、2009年に経営ビジョン、2010年には社是・社訓に代わる「創業の精神」をつくり、人間尊重や大家族主義などを掲げてきた。  大きな社内改革のなかで障碍者雇用も進められ、いまでは全従業員243人のうち障碍のある従業員は13人(身体障碍3人、知的障碍7人、精神障碍3人)で、「障害者雇用率」は5.79%(2023〈令和5〉年8月1日現在)だという。障碍のある従業員は、製造現場を中心に9部署に配属されている。  「職場では、障碍のある従業員を周囲がフォローしつつ、フォローする側が一番成長させてもらうよい循環」を目ざしてきたという同社は、2013年に法政大学など(当時)による「第3回日本でいちばん大切にしたい会社大賞」中小企業庁長官賞を受賞、2020年には当機構(JEED)の「障害者雇用優良事業所 厚生労働大臣表彰」を受けた。これまでの取組みとともに、現場で一緒に働くみなさんの様子を紹介したい。 自閉症のある実習生を採用  西精工が障碍のある従業員の雇用に取り組みはじめたのは、15年ほど前のことだという。当時からかかわってきた、総務部総務課労務係主任の渡辺(わたなべ)敏江(としえ)さんによると、「それまでは1人の中途障碍のある従業員がいただけでしたが、ハローワークからの指導を受け、新たに身体障碍のある人を採用しました」。  その後2012年に、特別支援学校から職場実習生を受け入れることになった。きっかけは、近隣に発達障碍のある生徒を対象とする「徳島県立みなと高等学園」が開校したことだった。同校からさっそく、職場実習の受入れを依頼され、渡辺さんによると「社長からの『試してみたら』のひと言で決まった」という。実習に来たのは自閉症のある男子生徒だったそうだ。  「検査業務をやってもらいましたが、従業員が1時間ごとに交代しながらつきっきりで指導して、当時は無事に1週間を終えることが目標でした」  生徒は1年次から3年次まで計5回の実習を経て採用された。そこに至るまでは生徒と学校、職場それぞれの努力があった。  「実習中の課題を学校側に報告し、本人が次の実習までに克服してくることをくり返しながら、できることを一つずつ増やしていきました。最初は着替えに1時間かかっていたのも、だんだん短くなりました。工場では機械にランプを設置し、点滅する色を見て作業手順を確認できるようにするなど、改善と工夫を重ねました」  入社前には従業員40人ほどを集め、本人の特性や具体的な対応方法などについて勉強会を開いた。  「彼はコミュニケーションが苦手でしたが、一緒に働くうえで共有したのは『必要なときは、きちんと叱る』こと。安全第一ですから『それは危ないから絶対にダメ』などと注意していました」  それから8年の間に、パソコン入力など、できる作業がどんどん増えたという。渡辺さんが話す。  「職場では『品質管理検定○R(QC検定○R)』(★1)の個別勉強会も行い、4級に合格しました。いまは障碍のある同僚2人とともに、3級の勉強中です」  ちなみに西精工では、全従業員の8割以上がQC検定○R3級合格を目ざしている。日々の現場でも専門用語などが出てくるため、「障碍者は特別というのではなく、同じように理解していく土壌をつくりたい」という西さんの方針もあるそうだ。西さんが講師役となり月1回、朝の時間に行う全従業員向けの「リーダーシップ勉強会」も、出勤時間が異なる障碍のある従業員らが受講できるよう昼の部もつくった。同じ内容を、少しかみくだいて説明しているそうだ。 職場適応のために  特別支援学校からの新卒採用が増えていった西精工では、複数回の職場実習のほか、JEEDの徳島障害者職業センターを利用している場合は、「職業評価」の情報を本人同意のうえ提供してもらい、取組みの参考にしている。  職業評価は、就労の可否や適職を判定するものではなく、聞き取りや各種の検査・作業を通じて本人の得意・不得意や職業上の特性を整理するものだ。より働きやすい環境や就労に向けての努力課題などを把握できる。「職場実習だけでは細かな特性の凸凹(でこぼこ)がわかりにくいこともあり、入社後の仕事内容や合理的配慮を検討するうえで、とても参考になっています」と渡辺さん。  入社後は、一人ひとりの特性に沿った作業日報を書いてもらい、人によっては連絡ノートを用いて家庭ともやり取りをしている。家族を対象とした職場見学で理解を深めてもらうほか、年末に家庭へ電話をかけるのも恒例だ。一年間の成長ぶりをふり返り、翌年の働き方なども相談している。  西精工では、24人の障害者職業生活相談員が各部署に配置されているが、それでも仕事上の問題が出てきたときには、障害者職業センターの職場適応援助者(ジョブコーチ)支援を利用したり、家族を含めたケース会議を行ったりすることもある。渡辺さん自身、企業在籍型ジョブコーチとしても活動している。  「いまもスキルアップのための講習や研修に参加しています。全国から集まった会社の担当者たちとのグループワークは、互いの職場の失敗事例などを話し合い『こんな方法もあるのか』と勉強になりますし、なにより『私もがんばろう』と気持ちが引き締まります」 普通科高校の生徒も  西精工の障碍者雇用の取組みは、地元のテレビや新聞でも紹介された。するとある日、県内の普通科高校からも職場実習受入れの依頼が来た。発達障碍のある生徒が、就職を希望しているとのことだった。  本人は幼少期に診断を受け、発達障碍児向けの訓練を受けながら普通科高校に進学。しかし、「大学ではうまくいかないのでは」と心配した親御さんが、県外の専門教育機関に相談したところ「お子さんはスキルが高すぎて教えることがない」と断られた。そして、学校の三者面談で就職を模索することになり、西精工の名前があがったという。  本人はもともと自宅でCAD操作に取り組んでいたことから、CADにかかわる実習を希望。西精工は受入れ条件として、立体の展開図などを考える課題3問を出したところクリアした。  実際に受け入れてみると、文章の読み取りは苦手だが視覚的情報の理解度は高いこと、社会性やコミュニケーションに困難があるということがわかった。また、職場のCADが自宅のものとは異なる仕様だったことからうまく操作できず、「本人は初めて挫折を感じたようでした」と渡辺さん。その後しばらくして、本人と親御さんから「もっと勉強が必要でした。また実習をさせてほしいです」と直接連絡があったそうだ。  そして、計3回の実習を経て採用に至ったのは、学校側の支援も大きかったと渡辺さんが明かす。  「職場実習がスムーズに実施できるよう、担任の先生が学内の調整をしてくれました」  入社後は1日6時間のパートタイム勤務から始まったが、すぐに職場内外での言葉づかいなどがトラブルになった。渡辺さんは、徳島県発達障がい者総合支援センターに相談し、本人にソーシャルスキルトレーニングを受けてもらったり、「会社の制服を着ている間は、だれに対しても敬語を使う」ことをルール化したりして、対人スキルの向上につなげたそうだ。  本人と周囲の努力が実り、2021年2月には正社員になった。登用試験には目標シート作成や読書感想文、社長面接などがあるという。  「いまもできることとできないことに大きな差があります。感情に波があり、集中力も途切れがちなので、つねに周囲が見守っていますが、彼はCAD操作がなによりも好きで、好きな仕事への執着が強み。彼を理解し、指導してくれる居場所があるのも大きいと思います」と渡辺さん。 顔と名前をシートで覚える  ほかにも障碍のある従業員の働く現場を見せてもらった。案内役は、昨年から障碍者雇用に関する業務を渡辺さんから引き継いでいる総務部総務課労務係の藤原(ふじわら)侑子(ゆうこ)さんだ。  本社工場内の一角。大きな機械の前でポリケースを抱えていたのは、製造部製品管理課製品管理係に所属する入社6年目の住友(すみとも)郁也(ふみや)さん(24歳)だ。  担当していたのは、各部署でつくられた多種多様なナット類をポリケースから機械に移し入れて自動的に袋詰めし、空(から)のポリケースをまとめて前工程に送り返す段取りまでだ。住友さんは徳島県立阿南(あなん)支援学校在学時の職場実習に参加し、「力仕事が得意なので、自分に合っていると思いました」という。  一方、上司である製造部製品管理課製品管理係係長の田中(たなか)一生(かずき)さんは、配属前に渡辺さんたちから、住友さんの苦手なことをいくつか伝えられていた。  「例えば、長い表現の言葉は理解しにくいので、なるべく要点をしぼって短い言葉で伝えるようにしました」  なかでも大きな課題は「人の顔を覚えにくい」ことだった。渡辺さんによると「小中高を一緒に過ごした友達は1人も覚えていませんが、漫画の主人公など2次元の情報は記憶しているという特性がありました」という。  仕事でもだれに指示されたのか、だれに聞くべきなのかわからなくなる。そこで渡辺さんたちは住友さんに、職場で一緒に働く上司や同僚の「顔写真と名前」がセットになったシートを渡した。  さらに活用したのが「ありがとうカード」。以前から職場では、だれかにやってもらったことやよかったことを、感謝の言葉で伝えるカードを書いている。  「住友さんも毎日シートを見ながらカードを書くことで、半年ぐらいかけて徐々に顔と名前を覚えていきました。彼から話しかけてくれるようになったのも、顔を覚えた効果だと思います」と田中さんはいう。  一方で、住友さんの強みは「折り紙がプロ級の腕前」といわれるほど手先が器用なことだ。はんだごてを使った修理や箱の組立て、梱包時の計量など細かい作業を任せられ、いまでは「なくてはならない存在」になっている。 まじめすぎて体調を崩す  住友さんたちの隣のスペースで、機械のモニター画面を見ながら、いくつも並んだボタンを押していたのは、製造部品質保証課品質管理係に所属する入社5年目の三木(みき)裕介(ゆうすけ)さん(22歳)。徳島県立みなと高等学園在学時、最初は自衛隊入隊志望だったが、むずかしいとわかり断念。代わりに「少しでも人の役に立つようなものづくりがしたい」と思っていたところ、先生が西精工をすすめてくれたそうだ。  担当は画像検査で、ナットに余計なバリやキズなど不具合がないか自動確認する機械を操作する。職場実習で、自分が趣味でつくるプラモデルに西精工のナットが使われていることを知った三木さんは、「自分もキズや汚れのついたナットは使いたくないので、徹底的によい製品になるよう努力したいです」と話す。  製造部品質保証課品質管理係班長の栗本(くりもと)雅宣(まさのり)さんは、「いまでは投入したナットが詰まるなどのトラブルが起きても、冷静に対処してくれます。つい隠したくなるような小さなミスが出たときに、逐一報告してくれるのも信頼できるところです」と評価する。  ただ三木さんはまじめすぎるあまり、たまに体調を崩すこともあるそうだ。  「本人の様子を見ながら、『今日はこのぐらいの量で十分やし、無理せんで大丈夫やから』などと声がけをしています。余計なプレッシャーや焦りが体調に響かないよう、『このぐらいでいい』という気持ちをコントロールできれば、同じ仕事量でも心身への負担がかなり違ってくると思います」  三木さんは「失敗したときも、周囲から責められるのではなく、しっかり注意してもらえるのがありがたいです。よく見てくれていると感じます」と語っていた。 「障碍特性勉強会」  障碍のある従業員の配属先などでは、渡辺さんや藤原さんが中心となって障碍者雇用にかかわる知識を深める「障碍特性勉強会」も行っている。  住友さんが働く製品管理係では、自主的に毎月20数人のメンバーで勉強会を続けているそうだ。仕切り役は林(はやし)千秋(ちあき)さん。率先して取り組むようになったのは「一緒に働く以上は、1人の戦力として成長してほしい、仕事をしっかり覚えていってほしいと思っていました。そのためには、私たちも住友さんを理解しないといけないと考えたからです」という。  「実際に一緒に働き出すと、よほどの理由がないかぎり休まず、一所懸命に仕事に取り組む住友さんの姿勢に、周りの人たちもよい刺激を受けています」  林さんは毎回、本誌などを参考にして資料をつくり、勉強会で用いている。事例などに触れ「私たちの職場だったら何ができるだろうか」などと話し合うそうだ。参加している田中さんは、「住友さんが安全に働きやすい職場は、当然ほかの従業員にとっても働きやすく、職場環境全体の向上につながっていると実感します」と効果を語る。  日ごろから現場を巡回している藤原さんも、「従業員同士が『ここはつまずきやすくて危ないね』、『同じミスが出るから、機械の置き方を変えてみようか』と話しながら工夫を重ねている様子をよく見かけます。自分たちで仕事を進める形が習慣になっているのも、勉強会の成果だと感じます」という。 初めてのアビリンピック挑戦  最後に紹介したいのは、2020年入社の峰(みね)祐紀(ゆうき)さん(22歳)。総務部総務課労務係に所属し、本社工場敷地内などの植木剪定(せんてい)を中心に緑地管理や屋外清掃などを担当している。この日は、噴霧器を使って芝生に薬剤を撒いていた。  峰さんは徳島県立国府(こくふ)支援学校在学時の職場実習で屋内外の清掃作業を担当し、「職場の雰囲気がよいのが印象的でした」とふり返る。当時から指導役を務め、いまも一緒に働く総務部総務課の小倉(おぐら)国太郎(くに(たろう)さんは、従業員最高齢の81歳。60歳の定年退職後いったん植木職人になったが、そのことを知った西精工から「ぜひうちの植栽を」と再雇用されたそうだ。  峰さんは小倉さんに、剪定技術を一から教わってきた。最初はあまりのむずかしさに、やっていけるか不安だったと明かす。  「面の水平な刈上げ、角部分の面取りの加減などがほんとうにむずかしいです。刈りすぎると新芽が出てこない恐れもあり、命あるものを扱っているだけに奥が深い仕事だと感じています」  小倉さんは「峰さんは仕事を覚えるのが早く、もう剪定技術は一人前」と太鼓判を押す。「あとは作業の段取りから一人で全部できれば独り立ち。まだ私に頼っているところがあるから、もう少しやな」と笑顔で話してくれた。  また峰さんは、2年前から夜間中学校に通っている。「中学校時代は登校できなかった時期もあり、勉強したい気持ちになって通学用に車も買いました」という。クラスには老若男女の生徒が10人あまり。校外学習でお遍路に行ったり、90歳の男性や外国籍の生徒と交流したりと、貴重な経験もあるようだ。  そんな峰さんは今年9月、地方アビリンピック徳島大会のビルクリーニング種目で銅賞を獲得した。西精工では初めてのアビリンピック選手だ。藤原さんによると「母校の国府支援学校の協力を得て、勤務時間を使い校内で特訓してもらいました」という。在学中に出場した地方アビリンピックでは銀賞だったそうで、「競争が激しい種目でブランクもありますが、がんばりたい」と意欲的に挑み、再度の受賞となった。 難病の従業員のために  いま渡辺さんたちが取り組んでいるの は、難病の従業員が働き続けられるため の環境づくりだ。きっかけは40代の営業 職の従業員が筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)(ALS)を発症したことだという。近く傷病休暇を終えるが入院中のため、リモートワークで週10時間の仕事ができないか、所属部署と外部の支援機関が一緒になって検討中だ。就業規則を変更し、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)○R」(★2)を活用して実現の道を探っているという。  病室のベッドにいても働けるようにするためには、ハード・ソフトの両面でいくつもハードルがあり容易ではないそうだが、渡辺さんたちは、「従業員は大事な家族ですから」と口をそろえる。現場に浸透しつつある大家族主義の社風を土壌に、西精工では、だれもが一緒に働き成長できる職場を目ざした挑戦が続く。 ★1 品質管理検定○R、QC検定○Rは、一般財団法人日本規格協会の登録商標です。 ★2 「OriHime」は、オリィ研究所の登録商標です。 写真のキャプション 西精工株式会社は、ナットや精密部品などの製造を手がけている 代表取締役社長の西泰宏さん(写真提供:西精工株式会社) 総務部総務課労務係主任の渡辺敏江さん 障碍のある社員も参加する「リーダーシップ勉強会」の様子(写真提供:西精工株式会社) 総務部総務課労務係の藤原侑子さん 製造部製品管理課で働く住友郁也さん 製品管理の作業をする住友さん 住友さんの指導にあたる製造部製品管理課係長の田中一生さん 製造部品質保証課で働く三木裕介さん 三木さんは、品質管理係として画像検査を担当している 三木さんの指導にあたる製造部品質保証課班長の栗本雅宣さん 製品管理係チームで行われた「障碍特性勉強会」の様子(写真提供:西精工株式会社) 勉強会の仕切り役を務める林千秋さん(写真提供:西精工株式会社) わかりやすく説明した勉強会の資料 総務部総務課で働く峰祐紀さん 緑地管理業務を行う峰さん 峰さんの指導にあたる総務部総務課の小倉国太郎さん 小倉さん(右)のアドバイスを受け、作業にあたる峰さん(左) アビリンピックに向け、母校の国府支援学校での特訓に臨む峰さん(写真提供:西精工株式会社) 【P14】 JEEDインフォメーション 「障害者雇用事例リファレンスサービス」を活用して本誌「働く広場」の掲載記事が探せます! 障害者雇用を進めたいけれど、ほかの企業ではどんな取組みをしているんだろう? 「障害者雇用事例リファレンスサービス」をご活用ください! 障害者雇用事例リファレンスサービスとは  障害者雇用について創意工夫を行い、積極的に取り組んでいる企業の事例や、合理的配慮の提供に関する事例を紹介するJEEDのウェブサイトです。 https://www.ref.jeed.go.jp ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.ref.jeed.go.jpであることを確認のうえアクセスしてください。 アクセスはこちら! 「働く広場」掲載記事の検索 「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、「働く広場」に掲載した「職場ルポ」、「編集委員が行く」の記事 (※)を検索・閲覧することができます。※取材先から、同サイトへの掲載許可が得られた記事に限ります。 検索方法 1 「働く広場」の記事検索をする場合は、「モデル事例」をチェックしてください。 2 検索条件で、「働く広場」にチェックし、「業種」「障害種別」「従業員規模」「フリーワード」等の条件を設定して検索ボタンをクリックすることで、探したい記事をピックアップできます。 3 クリックすると、該当企業の事例ページが表示されます。 4 該当記事のPDFファイルまたはデジタルブック※にアクセスできます。 ※2022年度掲載記事からデジタルブックで掲載しています。 JEEDホームページでも記事検索ができます! 「働く広場」の掲載記事については、「障害者雇用事例リファレンスサービス」で検索できるほか、JEEDホームページにて、バックナンバー(過去4年分)の記事索引の閲覧や、「グラビア」、「クローズアップ」などのコーナーも記事検索ができます。どうぞご利用ください。 記事索引画面 ■「働く広場」に関するお問合せ 企画部 情報公開広報課 TEL:043-213-6200 FAX:043-213-6556 E-mail:hiroba@jeed.go.jp ■「障害者雇用事例リファレンスサービス」に関するお問合せ 障害者雇用開発推進部 雇用開発課 TEL:043-297-9513 FAX:043-297-9547 E-mail:ref@jeed.go.jp 【P15-18】 グラビア 高精度な「ものづくり」を支える 栗田アルミ工業株式会社 (茨城県) 取材先データ 栗田アルミ工業株式会社 〒300-0015 茨城県土浦市北神立町(きたかんだつまち)4-5 TEL 029-831-0534(代表) FAX 029-831-9486 写真・文:官野 貴  茨城県土浦市にある「栗田アルミ工業株式会社」。アルミ部品の鋳造(ちゅうぞう)から機械加工まで一貫した生産を手がけており、特に高精度を要求される自動車精密部品には高い実績がある。そして同社は、長年にわたり障害者雇用に取り組んできた。現在、3工場において知的障害や聴覚障害、体幹機能障害などのある社員10人が、「ものづくり」の現場において活躍している。  聴覚障害のある柳澤(やなぎさわ)寿光(としみつ)さん(40歳)もその一人で、入社して23年目。製造部鋳造課において金型の整備を担当している。柳澤さんの作業は製品の精度につながる重要な工程だ。職場でのコミュニケーションは、身ぶり手ぶりや筆談でとり、作業のミスを防いでいる。  製造部素材加工課では、知的障害のある社員3人が働いている。入社20年目の井上(いのうえ)重男(しげお)さん(41歳)は、鋳造された中空部品内の砂中子(すななかご)を、ブラスト装置を使って取り出す「砂落とし」を担当している。作業の注意点をたずねると、「安全第一で作業しています。また、打痕を見逃さないように注意しています」と教えてくれた。  入社16年目の武井(たけい)恒夫(つねお)さん(42歳)は、ショットブラスト装置を使って、部品のバリ取り作業を担当している。「仕事は楽しいです。定年まで働き続けたいです」と話す。  入社4年目の追平(おいひら)準(じゅん)さん(26歳)は、出荷準備を担当。「いまの部署に来て2年目です。覚えることも多く、メモを取ることを心がけています。メモを見返してもわからないときは、同じ部署のベテラン社員に聞いてミスをしないようにしています」という。  障害のある社員が、ものづくりの現場を支える貴重な人材となっている同社では、2023(令和5)年3月に、「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度」(もにす認定制度)の認定を受けた。今後も積極的に障害者雇用を続けていくという。 写真のキャプション 入社23年目の柳澤寿光さん 金型の組立てを行う柳澤さん。一つひとつ正確な作業が求められる 入社20年目の井上重男さん ブラスト装置に部品をセットする。正しい位置に取りつけることがポイント ブラスト装置から取り出した部品を、作業台に打ちつけ内部に残った砂を取り除く 部品についた打痕を見逃さないよう注意を払う ショットブラスト装置に部品をセットする武井恒夫さん 出荷用のラベルをコンテナに貼りつける追平準さん 入社16年目の武井さん。休憩中の一コマ 装置は、事故防止のため左右のスイッチを同時に押さないと動かない ハンドリフトを使い、コンテナの載ったパレットを移動させる 【P19】 エッセイ 第3回 相談員の苦悩と心得 日本相談支援専門員協会顧問 福岡寿 福岡寿(ふくおか ひさし)  金八先生にあこがれて中学校教師になるも、4年で挫折。その後、知的障害者施設指導員、生活支援センター所長、社会福祉法人常務理事を経て、2015(平成27)年退職。田中康夫長野県政のころ、大規模コロニーの地域生活移行の取組みのため、5年間県庁に在籍。  現在は「NPO法人日本相談支援専門員協会」顧問、厚生労働省障害支援区分管理事業検討会座長。  著書に、『施設と地域のあいだで考えた』(ぶどう社)、『相談支援の実践力』(中央法規)、『気になる子の「できる!」を引き出すクラスづくり』(中央法規)などがある。  相談支援専門員は、障害のある方に寄り添い、伴走者として相談に応じていく。これが本分ですが、「寄り添う」とはどういうことか、「伴走者として相談に応じる」とはどういうことか。あらためて考えると、わからなくなってきます。  相談に応じるといっても、本人に、助言やアドバイスをしたり、正しいことを伝えてもあまり役に立たないという実感があります。例えば、お酒をなかなかやめられない人に「健康のためにお酒はよくないので、週に一回くらいにして、できるだけ控えた方がいいですよ」という忠告や、アドバイス、助言をしただけでは、ほとんど実効性がありません。  相談業務に長年たずさわっているなかで、「本人との作戦会議」が持てる関係をどう育てていくかが肝だなと考えるようになってきました。ただ、いつも注意や忠告をされたり、諭されるばかりの関係では、本人は支援者とのかかわりをポジティブには受けとめてくれませんし、「作戦会議」を持つという関係を育てるには至りません。  「本人との作戦会議」は、幼少期から始める場合もあります。本人には、そうした伴走者の必要性を実感してもらう日々が大切なのです。  例えば、保育園年中児のA君は、ゲームに負けたり、一番になれなかったりするとかんしゃくを起こすことが多い日々でした。そこで保育士さんは、A君が帰る前に一日のふり返りを兼ねて、A君との「作戦会議」を積み重ねることにしました。  「今日、フルーツバスケットで負けちゃって、おイスを蹴飛ばして、お部屋から飛び出しちゃったね。明日もフルーツバスケットにチャレンジだけど、どうやったら勝てるか、作戦会議をしよう」、「A君は、リンゴグループだから、『リンゴ』というコールがあったら、同じリンゴグループの○○ちゃんのおイスめがけてダッシュしよう」、「じゃ、一回練習してみよう」、「それでも、負けちゃったら、お部屋から飛び出しちゃうのは格好悪いから、先生、応援席と応援旗を用意するね。負けたらその応援席で、『○○ちゃん、がんばれ』と応援してみよう」などなど、注意や反省ではなく、こうした「作戦会議」に持ち込みます。  こうした経験を積み重ねるなかで「そうか、自分の勝手なふるまいやマイルールの言動は社会的にアウトだけど、相談して決めていけば大丈夫なんだ」という知恵をつけていってくれます。  次にBさんの例を紹介します。Bさんは発達障害があり、感覚過敏や人とのコミュニケーションに苦手意識があります。  就職が決まり、職場への初出勤に備えて事前に職場に出向き、上司の係長さんとの「作戦会議」をふまえて、初出勤の日を迎えました。  職場の同僚のみなさんとの初対面の日、Bさんは「お仕事のお忙しいなか、私に5分だけ時間をいただいてもいいでしょうか」と前置きしたうえで、係長さんとの「作戦会議」に基づいてつくってきた、A4のペーパー一枚を同僚のみなさんに配り、自らの特性を伝えました。  「私のデスクが部屋の奥の壁際と決まっていましたが、聴覚過敏があって音の反響で仕事に支障が出てしまいそうなので、係長さんと相談のうえで、デスクの位置を変えていただきました」、「お昼の一時間の休憩時間ですが、みなさんとの会食がとても緊張してしまいます。そこでしばらくの間は、一人で短時間で昼食をすませ、早めに業務につかせていただき、残りの休憩時間を午前と午後に分散して取らせていただくことを係長さんと相談させていただきました」、「少し変則的になりますが、仕事をがんばりますので、みなさん今日からよろしくお願いします」と伝え、同僚のみなさんの理解を得たうえでの職場スタートとなりました。  私は、歌手の西野カナさんの曲にちなんで、こうした取組みを「私のトリセツづくり」と呼んでいます。 【P20-25】 編集委員が行く 障害者が働き続けることを支える支援ネットワーク 株式会社加藤えのき、みやざき障害者就業・生活支援センター、宮崎障害者職業センター(宮崎県) 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 取材先データ 株式会社加藤えのき 〒880-2223 宮崎県宮崎市高岡町浦之名(うらのみょう)4309 TEL 0985-82-0717 FAX 0985-82-1101 みやざき障害者就業・生活支援センター 〒880-0902 宮崎県宮崎市大淀4-6-28 宮交シティ内2F TEL 0985-63-1337 FAX 0985-53-5999 宮崎障害者職業センター 〒880-0014 宮崎県宮崎市鶴島2-14-17 TEL 0985-26-5226 FAX 0985-25-6425 編集委員から  えのきを年間約6千トンも一貫生産する中小企業。地域の多様な組織間ネットワークに支えられて障害のあるスタッフの雇用を継続するとともに、外国人スタッフも採用しダイバーシティ&インクルージョンを展開している。特に、組織間ネットワークの基盤は人的ネットワークから成り立っていることを紹介する。 写真:官野 貴 Keyword:食品生産、中小企業、障害者職業センター、ジョブコーチ、障害者就業・生活支援センター、ダイバーシティ&インクルージョン POINT 1 中小企業の障害者雇用は地域支援機関との連携に支えられている 2 外国人スタッフと障害者のダイバーシティ&インクルージョンの展開 3 組織間ネットワークの構築の基盤は人的ネットワーク  今回の訪問先は、食卓におなじみの「えのき」を工場で一貫生産し、年間約6千トンもの出荷をする西日本最大級のえのき生産会社です。正直なところ、取材前は企業そのものに興味津々でした。ですが、実際に訪問をしてみると、障害者雇用における中小企業の底力を考えさせられた取材になりました。 中小企業の障害者雇用の展開 1.えのきの工場一貫生産  えのきが工場で一貫生産される工程は、「詰め込み」、「殺菌」、「種菌(たねきん)接種」、「培養」、「菌掻(きんかき)」、「芽出し・育成」、「紙巻き」、「収穫」、「計量・包装・出荷」の九つから成り立っています。  取材した株式会社加藤えのき(以下、「加藤えのき」)は、1973(昭和48)年にみかん生産からえのきの単品生産に事業を切り替え、2017(平成29)年に株式会社に登記変更しました。資本金は3千万円、スタッフ数はパートを含めて230人(2023〈令和5〉年8月現在)、五つの工場を擁する企業です。 2.障害者雇用  同社の障害者雇用は、2005年に当機構(JEED)の宮崎障害者職業センターからの依頼を受けて採用したことから始まったそうです。翌年に大手企業の半導体製造部門で25年間勤務された柳本(やなぎもと)千晴(ちはる)さんが入社されて以来、同氏を中心に、現在に至るまで十数人の障害のある人を採用してきました。  いまでは、常務取締役となった柳本さんが総括となって、各部の部長が障害のあるスタッフに個別対応する体制になっています。現場スタッフからのさまざまな意見を、上司が随時吸い上げて柳本さんのところに集約されるのです。問題が複雑な場合には、障害者職業センターに相談して職場適応援助者(ジョブコーチ)の支援を利用しています。スタッフの採用にあたっては、社長の知り合いといった地縁関係からの紹介も少なくありません。  最近では、長年の経験をふまえて現場の作業状況を基にした、同社独自の能力評価様式を開発しており、障害者職業センターの事業主援助業務の一環で、雇用管理の仕方についての見学先として他社に紹介されるほどになっているということです。 3.人材不足と外国人スタッフ  急速な事業拡充によりスタッフ数が増大してきたことから、障害者雇用率の達成に向けた障害のあるスタッフの確保は、つねに課題となっています。柳本さんは、「こうしたたいへんなことにこそチャレンジして、他社のできないことに取り組んでいくことが当社の企業姿勢である」ことを強調されます。  このような企業風土の背景には、将来的な人材不足を見越して早い時期から、ベトナム、中国などから多くの実習生を受け入れてきたことがあります。現在も80人あまりの外国人スタッフが働いています。生活習慣のまったく異なる若者が一人で来日して寮生活をするとなると、買い物の同行や地域の人とのトラブル対応など、仕事以外のことも面倒を見ることが不可欠になります。この親代わりのような世話を当然のこととして受け入れるにつれて、障害のある人に対しても生活全般に向けた配慮をすることの重要性が認識されてきました。その意味で、同社では外国人スタッフと障害のあるスタッフによる、ダイバーシティ&インクルージョンが展開されています。 採用した障害のある人  こうした特徴のある同社における障害者雇用のいくつかの事例について、柳本さんと、同社の雇用支援に深くかかわってこられた、宮崎障害者職業センターの障害者職業カウンセラーである向山(むこうやま)玲緒菜(れおな)さん、ジョブコーチである串間(くしま)陵子(りょうこ)さんの3人にうかがいました。 1.初めての採用者 向山さん・串間さん 最初に採用された方(Aさん)は、知的障害と身体障害がありました。普通高校を卒業後に一般企業に就職されたのですが、対人関係の不調で3カ月で退職。その後の対応をハローワークと障害者就業・生活支援センターがにない、それらの紹介で当障害者職業センターが、ジョブコーチの支援により連携しました。Aさんが地元の出身者で、社長も知っていたことから、採用に至りました。  入社以来、会社の成長とともに工場が増設されるにともなって、その都度、Aさんは異なる職場に配属され、次第にスキルアップしながら熟練工の域に達していきました。そして、ほとんどの生産工程に従事した唯一の人材として、将来が期待されていました。  ところが、Aさんは最近になって15年近く勤務した同社を退職されました。その理由は、家族との関係をきっかけにメンタル不調となり、働き続けるモチベーションの低下や、アパートでの一人暮らしの負担もあって、グループホームの利用を検討しつつ、就労継続支援A型事業所の利用へと切り替えることになったためです。  ここに至るまでの障害者就業・生活支援センターと当障害者職業センターとの連携は、非常に緻密(ちみつ)に行われています。家族関係に関する相談を受けた直後にAさんがアパート契約を先行したこともあって、急遽(きゅうきょ)、障害福祉サービスを多面的に活用して生活支援の全体を組み直しました。また、不安定な感情への対応もあわせて行いながら、支援の共同作業が続いています。何よりも出勤が不安定になった際も、会社はつねにあたたかく見守ってくれていたことが、自分の将来をじっくり考えてみることにつながったと思います。 柳本さん Aさんは最初に採用した障害者で、私もまったくの未経験でしたので対応の仕方もわからずとまどいました。当初Aさんはネガティブな状態にあり、他人と目を合わせることもできませんでした。串間さんと緻密な情報交換をしながら、日報への記載と報告を求めてからは、次第に自発的に意見を述べるようになり、友だちの輪も広がっていきました。できる仕事を全工程のなかから探し出して配属させていくなかで、次第にスキルアップしていきました。  メンタル不調ということで退職しましたが、串間さんにその背景をうかがいながら、回復時にはいつでも復職を受け入れることを本人に伝えてあります。 2.長期の勤続者 向山さん・串間さん 現在60代の男性で知的障害のある方(Bさん)です。40代前半までいくつかの一般企業を転職、その間に結婚・離婚を経験しましたが、両親の深い理解ときめ細かい職場の支援を得ながら、入社後は部署を異動し複数の工程を経験して、現在も在職しています。 柳本さん Bさんは知的障害のある方ですが、気分の変調や発達障害の傾向もあります。コミュニケーションがむずかしくて、どの仕事に就いてもらうかをご両親との面談を重ねて検討し対応しました。仕事自体は的確にできるのですが、出勤の日時や勤務時間に拘泥(こうでい)されず、いろいろなことに目移りし、頻繁なトイレの利用などで職場を離脱することがあります。そのため、安心して働けるようにトイレの近辺に配置したり、動き回る仕事を優先的に提供して本人の特性に対応しています。また、家族との相談を密に行い、家族にも本人の勤労に対する支援をしてもらっています。また、周りのスタッフにも、本人の特性を理解し対処していくように働きかけています。 3.正社員への登用 向山さん・串間さん 次に、日(ひだか)拓哉(たくや)さんを紹介します。7年前に入社し現在29歳で、高機能自閉症と診断された方です。マルチメディアの専門学校を20歳で卒業した後、宮崎市内の就労移行支援事業所で訓練を受けながら、加藤えのきで実習をし、2016年の入社のタイミングで当障害者職業センターと連携してジョブコーチ支援の利用を開始されました。高い能力をお持ちですが、入社後は実際の仕事と自分の想いがかみ合わないことなどから、次第に落ち込んで体調不良に陥ってしまいました。ですが、同僚社員と仲よくなっていろいろと示唆を受けていくうちに、自信を取り戻し始め、さまざまな部署への異動を意欲的に経験しながら、ほかのスタッフの作業をカバーしたり指導も行ったりするようになっていきました。  そうした実績から、昨年4月にパート待遇から正社員に昇格しました。現在では、ジョブコーチの養成研修などで柳本さんとともに講師を務められることもあります。 柳本さん 入社当初は、指示が伝わらない、自分で考えて行動はするものの、ミスが多いといったこともあって、教育訓練をやり直しました。その際に発達障害のある同僚社員と仲よくなり、彼から多くの刺激を受けて仕事の楽しさなどに目覚め、モチベーションも向上し始めました。その同僚の異動によって一緒に仕事ができなくなったことから退職を希望したこともあったのですが、同じ部署に再配属することでモチベーションが再向上してきました。これらを評価して、正社員として登用しました。 4.日さんのビジョン  日さんもインタビューに応じてくださいました。 日さん 1週間の体験実習では敷地が広いことが印象的で、最初は務まるかどうか不安でした。10月に入社し配属先が出荷棟だったので、冷蔵庫が寒かったことをよく覚えています。また、直後から会社の繁忙期となり、残業も当然という状況にとまどいを感じました。でも、やがてそうした意識は吹き飛んで、繁忙期を乗り切ったことが強い自信となり、自分よりがんばっている先輩社員を見ると、自分もがんばろうと前向きな気持ちになり始めたのです。  正社員となった自分を入社当時と比べると、仕事への見方が明らかに変わりました。以前はほどほどに仕事をこなせばよいと思っていたのですが、いまは目に見えない重圧をとても感じています。それは、仕事は自分の好き嫌いだけで終わるのではなく、与えられた役割と責任をきちんとこなすこと、それを果たさないと会社に大きな損失を与えるという自覚が生じてきたからなのです。 ● ● ●  そして日さんに、今後の抱負についてたずねると、ほかの社員に自分の存在を認めてもらい、外国人スタッフが中核となっているといっても過言ではない同社にあって、モデル社員となることが目標だといいます。  さらに、社長の経営ビジョンを知るにつれて、以前にも増して会社が好きになってきたそうです。働きたい人であれば、国籍や障害を問わずに門戸を開き、えのきの生産工場を海外にまで展開させたいという経営戦略に感動して、それを自分の意思に取り込み、会社から期待される人材として成長していきたいと語ってくれました。 組織間ネットワークの基盤となる人的ネットワーク  串間さんによれば、障害者職業センターのジョブコーチとして、県内のハローワークや障害福祉サービス事業所の担当者と緊密な共同作業を進めることができるのは、強固な人的ネットワークが存在しているからということです。しかもその構築には宮崎県固有の施策があったといいます。  宮崎障害者職業センター所長の高瀬(たかせ)健一(けんいち)さんによれば、障害者就業・生活支援センターの設置以前から県の単独事業として育成された「障がい者雇用コーディネーター」の存在が、その背景にあるといいます。保健福祉圏域ごとの市町村の障害担当部局、当時の雇用支援センターなどに配属されたこの人材は、障害者を雇用する企業へのきめ細かいフォローアップとともに強固な人的ネットワークを構築し、その効果が現在も支援組織間のネットワークとして活かされているのです。そのため、個々のケースの課題の状況や展開に即応して、ハローワーク(障害者職業センターもあわせて)と障害福祉サービス事業所の担当者相互の共同作業と引継ぎが円滑に行われているそうです。全国的に見てもこれほど深い連携ができる地域は多くはないということです。  また、社会福祉法人宮崎県社会福祉事業団は、「障害者就業・生活支援センター事業」を国から受託し、「みやざき障害者就業・生活支援センター」を運営しています。所長の大坪(おおつぼ)哲郎(てつろう)さんのお話では、同センターの正規職員は事業団の職員のため、事業団内全体で人事異動が定期的にあり、就労支援や困難事例への対応が不十分になりかねないという懸念があるそうです。しかしながら、この支援組織間のネットワークが機能していることにより、雇用支援の経験が浅い人でも、企業やほかの支援機関との共同支援を円滑に行えるという利点があるということです。  「加藤えのき」の事例で見たように、障害者職業センターと障害者就業・生活支援センターは一体となって、つねに情報共有をしながら、就業と生活支援の両側面の支援を一緒にになっているのです。 まとめ  えのきの一貫生産工場への興味から始まった訪問でしたが、障害者雇用における中小企業の底力として、いくつかのことを考えさせられました。  第一に、地元の中小企業の有用性です。長年住み慣れた生活圏にある中小企業の関係者は、障害のある方本人やその家族あるいは近親者と知り合いであれば、縁故採用の機会が生まれます。状況をよく知っているため、本人の職務遂行上の能力ばかりでなく、生活全般に対する面倒を見る事業主も少なからずおられます。そうした職務遂行と生活支援の双方に対する面倒見のよさは、障害のある人の働く場として非常に望ましいといえます。  第二に、ダイバーシティ&インクルージョンの効用です。多くの外国人スタッフとともに障害のある人も雇い入れて活き活きと働いている姿を動画などにしてSNSで発信することにより、「働きたい企業」のイメージ形成とともに、国内外の人材募集に貢献しています。障害のある人も求人に応募したい気持ちに駆られることでしょう。  第三に、人的ネットワークを基盤とした支援ネットワークの構築の重要性です。ジョブコーチや支援者などの個人的ネットワーク(ミクロネットワーク)の重要性をあらためて知るとともに、それが、支援人材の所属する機関・組織同士のネットワーク(メゾネットワーク)の構築の原動力となっています。強固なミクロネットワークを基盤にしたメゾネットワークになると、同時並行的に異なる機関が同じ人を担当することで、状況に応じて支援組織や機関に円滑に引き継ぎやすくなるでしょう。そのことが支援サービスの断片化を防ぐのです。 写真のキャプション 株式会社加藤えのき本社 株式会社加藤えのき常務取締役の柳本千晴さん 宮崎障害者職業センター障害者職業カウンセラーの向山玲緒菜さん 宮崎障害者職業センタージョブコーチの串間陵子さん 宮崎障害者職業センター 株式会社加藤えのきの出荷部門で働く日拓哉 冷蔵室で出荷準備を行う日さん 敷地内には、複数棟の工場や出荷棟などが立ち並ぶ みやざき障害者就業・生活支援センター所長の大坪哲郎さん みやざき障害者就業・生活支援センター 【P26-27】 クローズアップ 障害者雇用担当者のモチベーションアップ 最終回 〜障害のある人と向き合い、ともに成長する〜  障害のある人の雇用と定着のために重要な役割を果たすのが、障害者雇用にかかわる担当者の方々。この連載では、担当者のみなさんがモチベーションを維持・アップしながら、スムーズに業務を行うためのヒントを探っていきます。最終回は、これまでの連載をふり返りながら、障害者雇用担当者のモチベーションアップのポイントについて、三鴨岐子さんにお話をうかがいました。 『働く広場』編集委員 三鴨岐子 (みかも みちこ)  名刺や冊子などのデザイン制作を手がける「有限会社まるみ」の取締役社長。  障害のある社員の雇用をきっかけに「中小企業の障害者雇用推進」に関する活動を精力的に行っている。精神保健福祉士。  当連載の第2回と第3回では、企業の障害者雇用担当者のみなさんに、業務の工夫の仕方ややりがいなどについて、座談会形式でお話をうかがいました。最終回は、座談会の司会進行を行った本誌編集委員の三鴨(みかも)岐子(みちこ)さんに、座談会を通じて感じたことや、障害者雇用担当者へのアドバイスなどを語っていただきました。 座談会をふり返って ―座談会の司会をされてどのようなことを感じましたか?  今回の座談会に参加してくださった障害者雇用担当者のみなさんは、障害者を多く雇用している「特例子会社」で働いており、障害者雇用に関して多くの知識や経験がありました。情熱を持ちながら障害者雇用の業務にあたっている姿勢に、とても感銘を受けました。  特に印象深かったのは、みなさんが口をそろえて、「障害のある人と向き合い、寄り添う」ことの重要性を強調していたことです。障害のある社員、ともに働く仲間が、ハンディキャップを乗り越えて業務を遂行していくには、少なからず障壁があります。一人ひとりと時間をかけて向き合って人間関係を構築し、その人たちが安心して働き続けられるようにサポートすることが求められます。障害者雇用担当者に求められることの一つとして、障害のある人に対しての「理解」と「共感」が欠かせない要素だと感じました。 新任担当者のモチベーションアップのためには? ―読者のなかには、障害者雇用にはじめて取り組む企業や、担当者になったばかりで不安に感じている方もいると思います。新任担当者がモチベーションを維持し続けるために重要なことはありますか?  私からできるアドバイスは、まずは、「障害のある人に興味を持つことから始めてほしい」ということです。障害者雇用を実現するための基礎的なノウハウは、本誌でもお伝えしており、情報としても比較的集めやすいものだと思います。  そういった情報を集めて実践することはとても大切ですが、一方で、単なるノウハウだけでは成り立たないのが障害のある社員とともに働く職場づくりです。障害のある社員一人ひとりに目を配り、時間をかけて向き合い続けることは、知識を得たからといって簡単にできることではありません。「障害者雇用に取り組む意義は何か」が腑に落ちていないと、モチベーションを維持しきれないこともあると思います。  それには、やはり、障害のある人に対しての「理解」と「共感」が欠かせないと思います。「障害のある人たちの生きづらさとはどのようなものか」、「障害のある人たちは、どのような困りごとを持っているのか」など、障害のある人が置かれている立場を少しでも理解できるように、普段の生活のなかでも、アンテナを張っていただくとよいと思います。障害のある人のことを知る手段は、書籍や映画、インターネットなどをはじめ、さまざまな場にあります。支援機関などで行われている交流会に参加して、ほかの企業の障害者雇用担当者とつながることで、その人たちがどのような想いで障害のある社員にかかわり、業務にあたっているのか、話を聞いてみるのもよいでしょう。障害のある人が置かれている状況について理解を深めることは、業務のモチベーションアップにもつながると思います。 担当者のオンとオフの切替えについて ―障害者雇用担当者が、ストレスをため込まないためにも、オンとオフの切替えは、どのようにしたらよいのでしょうか。  「プライベートの時間に、仕事のことが頭から離れない」という状況は、障害者雇用の仕事にかぎったことではなく、ほかの仕事でも起こりうることです。その場合、どこまで対応するかは個人の判断に委ねられることが多いと思います。障害者雇用であっても同じです。例えば、「業務時間外のプライベートの時間にも、障害のある社員から悩みごとの相談がある」といった場合、職場の同僚として、相談に乗ってあげられる状況にあるならば応じればよいし、それを負担と感じたり、緊急性がない場合は「明日、会社で話しましょう」と伝えても問題はないと思います。障害者雇用は、障害のある社員を「特別扱い」するものではありません。一般的なルールの範疇(はんちゅう)で伝えるべきことは伝え、人として対等に向き合う姿勢が大切だと思います。 * * * * *  障害者雇用は、障害のある人の人生にかかわる、大きな責任をともなう仕事です。そして、その分、障害のある社員の成長を肌で感じ、ともに成長できるという喜びもあります。そこにやりがいを感じられることが、モチベーションアップの秘訣なのではないでしょうか。 困ったときは… ■企業を支援する機関とおもな支援内容 支援機関名 おもな支援内容 ハローワーク ・求人に関する支援 ・障害者雇用率達成指導など 障害者職業・生活支援センター ・就職・職場定着に向けた支援 ・生活支援、健康管理、金銭管理などの日常生活の助言 就労移行支援事業所 ・就労に必要な訓練など 特別支援学校 ・職業教育、職場実習など 障害者職業能力開発校 ・職業訓練など ※障害者職業能力開発校全国19校(国立13校、都道府県立6校)のうち、2校はJEEDが運営 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 都道府県支部 地域障害者職業センター ・事業主への相談・援助 ・ジョブコーチ支援 ・リワーク支援 など 高齢・障害者業務課 ・障害者雇用納付金等の申告・申請や助成金申請の受付、「障害者職業生活相談員資格認定講習」の開催、障害者の雇用事例の紹介など  企業は、外部の支援機関と連携しながら障害のある社員を支援することで、障害者雇用をスムーズに進めることができます。またそれが、障害者雇用担当者の実務的・精神的な負担を軽減させることにもつながります。  そして、支援機関が開催する勉強会などは、障害者雇用に関するノウハウを学べるだけではなく、企業の障害者雇用担当者同士が業種をまたいでつながり、情報交換をしたり、互いに悩みを相談したりする場にもなっています。そのほかに、障害者雇用担当者のメンタル面の相談窓口として、外部のカウンセリング機関を利用している企業もあります。 寄稿 障害者雇用担当業務のこれからに向けて 障害者就業・生活支援センターTALANT(タラント)センター長、特定非営利活動法人わかくさ福祉会 理事長、精神保健福祉士 野路(のじ)和之(かずゆき)さん  障害者就業・生活支援センターの立場として、企業側に障害者雇用の担当者がおられることは、日々たいへん心強く感じています。多くの担当者が職場適応援助者や障害者職業生活相談員の研修や講習を受けられ、職業リハビリテーションやソーシャルワークといった共通視点・言語を持たれることが、外部の就労支援機関と連携を容易にし、当事者の安定した職場定着につながっていきます。また、今回の座談会でもありましたように、担当者のみなさんは障害特性の理解にとどまらず、上司、同僚としてきちんと向き合っておられ、そのことの重要性に触れられていました。  現在、障害のある方の雇用を支える側の研修や資格などのあり方が議論されています。今後さらに障害者雇用の機運が高まっていくなかで、これまで以上に負担が増えることも予想され、担当者の育成とキャリア形成の視点、担当者を支える仕組みや処遇の改善なども求められていきます。また同時に、これから取り組もうという中小企業の担当者に、経験者がこれまでの経験を共有していくことも大切です。そういった点では、身近な地域で、立場を超えて支える“にない手同士”の情報交換や交流が、これまで以上に求められていくのではないかと、あらためて気づかされました。今後、そうしたネットワーク構築を深めていけたらと思いました。 【P28-29】 研究開発レポート 発達障害のある学生に対する大学等と就労支援機関との連携による就労支援の現状と課題に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 1 はじめに  本調査研究では、発達障害のある学生(発達障害の診断を受けている学生だけでなく、発達障害の診断はないが発達障害が推察され支援を受けている学生を含む。以下、「発達障害学生」)に対する大学等(大学、短期大学および高等専門学校。以下同じ)と就労支援機関との連携による就労支援の現状と課題を調査しましたので、調査結果の一部を紹介します。 2 大学等における発達障害学生の就労支援に関する調査 (1)アンケート調査  全国の大学等1147校の障害学生支援部署およびキャリア支援部署を対象としたアンケート調査を2020(令和2)年11月から12月に実施しました(回収率39.3%)。  障害学生支援部署が「障害学生支援の専門部署である」と回答したのは23.2%であり、「障害学生支援の専門部署ではないが対応している」は72.0%でした(図1)。キャリア支援部署が「障害学生支援の専門部署である」と回答したのは2.3%であり、「障害学生支援の専門部署ではないが対応している」は88.6%でした(図1)。  障害学生支援部署から発達障害学生の在籍が報告された校数の割合は67.7%であり、キャリア支援部署から発達障害学生の利用が報告された校数の割合は50.0%でした。  発達障害が推察される学生(診断なし)を把握している校数の割合は障害学生支援部署で44.8%、キャリア支援部署で43.4%であり、未診断の発達障害学生の存在または利用が半数近くの大学等で確認されました。  キャリア支援部署における就労支援の実施率をみると、「就職に関する個別相談」(65.3%)、「就職に関する情報提供」(61.4%)、「履歴書等書類作成指導」(57.3%)が高くなっています。 (2)ヒアリング調査  上記アンケート調査に回答のあった大学等のうち、13校の障害学生支援部署やキャリア支援部署の担当者を対象としたヒアリング調査を2021年8月から10月に実施しました。  就労支援の課題としては、未診断の学生が少なくない現状をふまえ、障害の自己理解を促進することが基本的な課題となっていることがわかりました。就職活動のつまずきを契機として発達障害特性が顕在化する学生の存在が多くの大学等から報告され、卒業までに時間がないなかで障害の自己理解をうながしながら就労支援を行う困難さが指摘されました。制度・環境面の課題として、就労支援機関の情報不足や利用制限、学内支援体制の人員不足等が報告されました。 3 就労支援機関における発達障害学生の就労支援に関する調査 (1)アンケート調査  新卒応援ハローワーク56所および地域障害者職業センター(以下、「職業センター」)52所(5支所を含む)を対象としたアンケート調査を2021年8月から9月に実施しました(回収率:新卒応援ハローワーク64.3%、職業センター92.3%)。  発達障害学生の利用状況は図2のとおりであり、職業センターの利用状況は新卒応援ハローワークと比較して診断のない学生の利用を確認できたところが少なく、障害者を対象にしている機関であることの影響が推察されます。 (2)ヒアリング調査  ハローワーク2所、新卒応援ハローワーク1所および職業センター4所の担当者を対象としたヒアリング調査を2021年12月から2022年1月に実施しました。  ハローワーク(新卒応援ハローワークを含む。以下同じ)における発達障害学生の利用開始時期としては、卒業年次の4月から5月が最も多く、次いで卒業年次の秋ごろが多いことが報告されました。職業センターでも卒業年次に利用する発達障害学生が多いようです。  就労支援の課題として、ハローワークからは未診断のケースは障害者手帳の取得や障害者施設の利用に抵抗感があること等、職業センターからは職業評価を実施してもその後に必要な職業準備支援につながらないケースがあること等の指摘がありました。卒業年次より前から相談支援を開始し、自己理解の深化や課題の改善等を時間をかけて段階的に支援することが必要であるとの意見が多数出されました。 4 おわりに  本調査研究において収集したさまざまな取組事例や参考情報をわかりやすく提供し、積極的な活用をうながしていくため、調査研究報告書(※1)とは別に、「発達障害のある学生の就労支援に向けて−大学等と就労支援機関との連携による支援の取組事例集−」(※2)を作成し、障害者職業総合センターホームページに公開しています。ぜひご覧ください。 ※1 本レポートの元となる「調査研究報告書No.166」は、下記ホームページからご覧いただけます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku166.html ※2 支援の取組事例集は、下記ホームページからご覧いただけます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai77.html ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図1 障害学生対応部署の状況 キャリア支援部署 障害学生支援の専門部署でないが対応している 88.6% 障害学生支援の専門部署でなく対応もしていない 9.1% 障害学生支援の専門部署である 2.3% 障害学生支援部署 障害学生支援の専門部署である 23.2% 障害学生支援の専門部署でないが対応している 72.0% 障害学生支援の専門部署でなく対応もしていない 4.8% 図2 発達障害学生の利用状況 新卒応援ハローワークの利用状況 発達障害の診断がある学生の利用あり 83.3% 発達障害の指摘がある学生の利用あり 80.6% 発達障害がうかがわれる学生の利用あり 86.1% 地域障害者職業センターの利用状況 発達障害の診断がある学生の利用あり 85.4% 発達障害の指摘がある学生の利用あり 27.1% 発達障害がうかがわれる学生の利用あり 22.9% 【P30-31】 ニュースファイル 地方の動き 東京 車両置き去り防止へ補助  東京都は、障害福祉サービス事業所や介護サービス事業所において、利用者の送迎などの際に「車両への置き去り」などが発生しないよう、安全装置の設置などにかかわる経費の補助を実施すると発表した。  車両1台あたり100万円を上限に経費を補助する。補助対象となる経費は、「送迎車両用の安全装置の設置」、「安全管理マニュアル等に基づく研修の実施」、「車両の安全点検、改修など都が認めるもの」で、2023(令和5)年4月1日以降に設置した安全装置などが対象。障害福祉サービス事業所に関する問合せは、東京都福祉局障害者施策推進部施設サービス支援課まで。 電話:03−5320−4156 滋賀 アール・ブリュット作品を寄贈  滋賀県は、公益財団法人日本財団(東京都)が所蔵していた43人の作家によるアール・ブリュット作品549点の寄贈を受けたと発表した。これにより寄贈先の滋賀県立美術館(大津市)が収蔵しているアール・ブリュットコレクションは、世界的にも有数の731点となった。  今回寄贈された作品群は、2010(平成22)年にパリで開催された「アール・ブリュット・ジャポネ」展に出品されて高く評価され、その後は日本財団が収蔵していたもの。  県によると、同美術館は国内の公立美術館で唯一、アール・ブリュット作品を収集方針の柱に掲げていることなどから、日本財団側から寄贈を打診されたという。同美術館では2024年4月から寄贈作品を中心にした企画展を開催する予定。 https://www.shigamuseum.jp/ 生活情報 全国 パラスポーツ9団体が連携  パラスポーツ9団体が合同プロジェクト「P.UNITED(ピーユナイテッド)」を立ち上げた。2021(令和3)年のパラ五輪東京大会を機に生まれた連携を深め、「健常者と障がい者がごく当たり前に共に過ごせる社会作り」を目ざしたジョイントマーケティングを行っていく。  団体名の「P」は、Positive(ポジティブ)やPower(パワー)などの頭文字から取った。今回参加している9団体は、一般社団法人日本車いすカーリング協会、一般社団法人日本障害者カヌー協会、一般社団法人日本障がい者乗馬協会、特定非営利活動法人日本パラ射撃連盟、一般社団法人日本身体障害者アーチェリー連盟、一般社団法人日本知的障害者水泳連盟、一般社団法人日本知的障がい者卓球連盟、特定非営利活動法人日本パラ・パワーリフティング連盟、一般社団法人日本パラフェンシング協会。  競技認知の向上や競技人口の増加、アスリートの練習環境、財政面など、パラスポーツ団体が直面する課題について団体ごとの経験や知恵を共有し、具体性を持って共生社会の実現を目ざす。パートナー企業も募集しており、公式ウェブサイトで情報を発信していく。 https://punited.org/ 東京 「デフリンピック」東京大会のPR映画  一般財団法人全日本ろうあ連盟スポーツ委員新宿区)は、2025年11月に聴覚障害者の国際総合スポーツ大会「デフリンピック」が東京で開催されることを前に、PRのためのドキュメンタリー映画『みんなのデフリンピック』を製作した。職場や地域、サークルなどでの上映会の開催を呼びかけている。  パラ五輪は聴覚障害の競技や種目がなく、それに代わるデフリンピックが夏季・冬季で4年ごとに開催されている。前回ブラジルで開催された夏季大会には、日本から選手団149人を派遣し、過去最高となる金メダル12個、銀メダル8個、銅メダル10個を獲得した。  東京大会は世界70〜80の国・地域から約3000人が集まる見込み。陸上やサッカー、ハンドボール、柔道、空手、ボウリングやオリエンテーリングなど21競技を予定している。映画上映の問合せは、一般財団法人全日本ろうあ連盟スポーツ委員会『みんなのデフリンピック』上映会担当まで。 電話:03−3268−8847 https://www.jfd.or.jp/sc/deaflympics/minnano/ 働く 岡山 大原美術館と連携協定  障害のあるアーティストの自立を支援する就労継続支援A型事業所「ありがとうファーム」(岡山市)と大原美術館(倉敷市)が、地域社会活動に関する連携協定を結んだ。  協定は、ありがとうファームに所属する障害のあるアーティストに大原美術館が作品鑑賞の機会を提供し、アーティストの作品制作に活かしてもらうことで、アートを通じた地域活性化や共生社会の実現を目ざすという内容。2023(令和5)年5月には、約30人のアーティストが休館日に大原美術館を見学し、対話型鑑賞や作品制作を行った。アーティストの作品は大原美術館の児島(こじま)虎次郎(とらじろう)記念館でも展示するなど、地域の魅力を発信していく。 本紹介 『障害者家族の老いを生きる支える』  名古屋市の「社会福祉法人ゆたか福祉会」と、北星学園大学短期大学部の藤原(ふじわら)里佐(りさ)教授、佛教大学社会福祉学部の田中(たなか)智子(ともこ)教授が『障害者家族の老いを生きる支える』(クリエイツかもがわ発行)を出版した。  障害のある人とその家族の高齢化が大きな課題となっているなか、彼らが置かれた現実について、1969(昭和44)年に障害者の「共同作業所」として設立されたゆたか福祉会が、運営する作業所やグループホーム、生活施設などさまざまな事業所の600人近い利用者の本格的な実態調査を、教授2人の全面的な協力を得て行った。障害者家族の老い(障害者・家族・職員それぞれの経験)などをテーマにした全数調査からの考察や分析、個別の支援ケースなどを紹介しながら、現場で高齢期支援に取り組んでいる職員の実践などをまとめている。A5判240ページ、2420円(税込)。 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2023年度地方アビリンピック開催予定 10月末〜11月 青森県、千葉県、滋賀県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 ※全国アビリンピックは11月17日(金)〜11月19日(日)に、愛知県で開催されます。 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 写真のキャプション 青森県 千葉県 滋賀県 ミニコラム 第29回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は松爲委員が執筆しています。 ご一読ください。 地域の中小企業はおもしろい 神奈川県立保健福祉大学名誉教授 松爲信雄  今回取材した「株式会社加藤えのき」には、食材のえのきが年間約6千トンも工場生産されること自体に、たいへん興味を惹かれました。ハウスや露地栽培ではなくて、機械化された工程で一貫生産されているというのですから。  ですが、関係者の方々のお話をうかがうにつれて、障害のある人が住み慣れた生活圏にある中小企業で働くことのよさと、地域の人的ネットワーク構築の仕方について深く考えさせられました。  住み慣れた生活圏のなかで働くことのよさはいろいろとあります。何よりも通勤が容易なことによって、ワーク・ライフ・バランスのとれた生活が担保されるでしょう。また、地域の濃厚な人間関係や人的なつながりから、本人の職務遂行上の能力のみならず、生活全般に対する面倒も気にかける事業主が少なからずおられます。  「加藤えのき」の場合、多くの外国人スタッフの寮生活を含めた生活面の支援が日常的に行われ、職場外の生活にまで気配りをしながら従業員の定着とキャリア形成を支援する組織風土ができあがっているように見受けられました。このように、障害のある人にかぎらず、多様な人たちがインクルージョン、あるいはダイバーシティのもとに働いています。そのことが広報活動を通して広く周知されることで、「働きたい企業」として人材の募集にも貢献できることがうかがわれます。  また、かつて県の単独事業として育成された「障がい者雇用コーディネーター」たちの個人的(ミクロ)ネットワークが基盤となって、所属する機関・組織同士のメゾネットワークが現在も維持され続けていることにも興味深いものがあります。同時並行的に異なる機関が同じ人を担当することで状況に応じて支援組織や機関に円滑に引き継ぎやすく、支援サービスの断片化を防いでいるからです。 【P32】 掲示板 JEEDメールマガジン 登録受付中!  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、全国で実施する高齢者や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を、毎月月末に、配信しています。 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当者のみなさま、必読! 高齢 定年延長や廃止・再雇用 障害 障害のある従業員の新規・継続雇用 求職 ものづくり技能開発・向上の手段 みなさまの「どうする?」に応えるヒント、見つかります! JEED メルマガ で 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 次号予告 ●私のひとこと  大阪・京都こころの発達研究所葉の代表を務める浜内彩乃さんに、障害者雇用の担当者が応用できる相談援助のコツなどについてご執筆いただきます。 ●職場ルポ  特定医療法人財団博愛会(福岡県)を訪問。支援機関と連携し、積極的に障害者雇用を進める現場の様子を取材しました。 ●グラビア  ワイン造りを行う有限会社ココ・ファーム・ワイナリー(栃木県)を取材。同社で活躍する、指定障害者支援施設こころみ学園の園生の様子をお伝えします。 ●編集委員が行く  金塚たかし編集委員が、株式会社共同物流サービス(青森県)を訪問。支援機関との連携や、職場定着の工夫などについてお伝えします。 読者アンケートはこちら 公式X(旧Twitter)はこちら 本誌購入方法  定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。  1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み 株式会社広済堂ネクストまでご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 管理部次長 金井渉 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田淳 常磐大学 准教授 若林功 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境 伸栄 編集人−−企画部次長 中上英二 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6526(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社広済堂ネクスト 〒105−8318 東京都港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 11月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和5年10月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 【P33】 障害者雇用支援月間(9月)における厚生労働大臣表彰などの表彰式が開催されました  9月12日(火)、東京都千代田区のイイノホールにおいて、令和5年度障害者雇用優良事業所等表彰式が開催されました。  当日は、障害者雇用優良事業所および優秀勤労障害者ならびに障害者の雇用の促進と職業の安定に貢献した個人に対する厚生労働大臣表彰20件のほか、障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト厚生労働大臣賞および当機構理事長賞8件の表彰が行われました。  表彰式の最後に、「障害者雇用優良事業所」として厚生労働大臣表彰を受けられた、株式会社栄久代表取締役柴ア(しばさき)洋輔(ようすけ)様が被表彰者を代表して挨拶を述べられました。 写真のキャプション 障害者雇用優良事業所 厚生労働大臣表彰被表彰者 ※赤い花の胸章をつけている方々が被表彰者 障害者雇用優良事業所 厚生労働大臣表彰 株式会社栄久(えいきゅう)様(群馬県)による代表者挨拶 優秀勤労障害者 厚生労働大臣表彰 菊地(きくち)理恵(りえ)様(岩手県) 絵画コンテスト 中学校の部 厚生労働大臣賞 長瀬(ながせ)葵(あおい)様(長野県) 【裏表紙】 今、手に取られている「働く広場」をデジタルブックでもお読みいただけます! JEEDでは、障害者に対する雇用支援などを実施しており、その一環として障害者雇用の月刊誌「働く広場」を発行しています。 本誌はJEEDホームページにおいてデジタルブックとしても公開しており、スマートフォンやパソコンでいつでも無料でお読みいただけます(※)。ぜひ、ご利用ください!(毎月5日ごろに最新号が掲載されます) 掲載をお知らせするメール配信サービスもございますのであわせてご利用ください。 ※2019年4月号〜最新号まで掲載しています ホームページの画面 読みたいページにすぐ飛べる! 自由に拡大できて便利! お問合せ  企画部 情報公開広報 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL:043-213-6526 FAX:043-213-6556 E-mail:hiroba@jeed.go.jp https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html JEED 働く広場 検索 11月号 令和5年10月25日発行 通巻553号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)