エッセイ ITが切り開く、視覚障害者の新しい可能性 最終回 AI時代の新たな役割革命 〜障害者雇用と「協働」の未来図〜 株式会社ふくろうアシスト 代表取締役 河和 旦 (かわ ただし) 情報アクセシビリティ専門家、AI活用教育コンサルタント。視覚障害と肢体不自由の重複障害がある。東京都立大学卒業後、福祉情報技術コーディネーターとして独立。障害当事者向けのIT指導やサポートを行い、転職や自立につながった実績も多数。共著に『24色のエッセイ』、『本から生まれたエッセイの本』(みらいパブリッシング)がある。https://fukurou-assist.net  この連載を通じて私は、ITとAIがいかにして個人の可能性を切り開くか、具体的な事例とともに語ってきた。通勤の壁に直面し起業した私自身の経験(第1回)、既存スキルを磨きキャリアチェンジを果たしたAさん(第2回)、Markdownという技術で創造性を解放した教員のBさん(第3回)、そしてAIによる「翻訳」で行政手続きの壁を乗り越えたCさん・Dさん夫婦(第4回)※。  これらの物語は、一つの共通した真実を示している。それは、AIの登場によって、私たち障害当事者と社会とのかかわり方そのものが、いま大きな変革のときを迎えているということだ。 AI時代における「障害」の再定義  AIの進化がもたらすもっとも大きな変化は、「障害は個人ではなく、環境との『摩擦』に存在する」という事実を、だれもが実感できるようになったことである。  かつては、視覚情報がなければアクセスできなかった紙の申込書や見た目で操作するシステムが、その摩擦の正体であった。私たちはその摩擦の前で立ち尽くすしかなかった。しかし、AIはその摩擦を劇的に低減させる強力な「潤滑油」であり、異なる世界をつなぐ「翻訳機」となった。  AIは障害そのものを消す魔法ではない。しかし、環境の方を個人にあわせて変化させる力を、私たち一人ひとりに与えてくれたのだ。 三者に求められる「役割のアップデート」  この新しい時代において、障害者雇用にかかわる企業、当事者、そして支援者は、それぞれその役割をアップデートする必要がある。  まず企業に求められるのは、「特別な配慮」から「柔軟なプロセス」への転換である。合理的配慮を、高価なシステム改修や特別な人員配置といった「コスト」ととらえる時代は終わった。第4回の事例のように、当事者がAIで作成したテキストデータでの申請を受け入れるなど、プロセスの柔軟性こそが、もっとも低コストで効果的な合理的配慮となる。多様なアウトプットを受け入れる器の大きさが、これからの企業の競争力に直結するだろう。  次に障害当事者に求められるのは、「支援を待つ」姿勢から「解決策を提案する」主体性への転換である。「できません」で終わるのではなく、「このAIツールを使えば、このように業務を遂行できます」と、自ら解決策を学び、提示する姿勢が必要だ。私たちはもはや、単なる支援の受け手ではない。テクノロジーを武器に、自らの働きやすい環境をつくり出す「環境構築のプロデューサー」になるべきときが来ている。  そして支援者に求められるのは、「個別の支援」から「連携の生態系」への進化である。第2回で紹介したAさんの事例が示すように、私たちのようなITコンサルタントが「技術」を教え、就労移行支援事業所が「職場適応」を支え、ジョブコーチが「現場での定着」を助ける。このように、各分野の専門家が密に情報共有を行い、チームとして一人の当事者を支えるエコシステムの構築が、これからの時代には不可欠である。 私たちが目ざす、真にインクルーシブな社会  これからの社会は、だれか一方がもう一方を「助ける」だけの社会ではない。企業、当事者、支援者が、それぞれの役割を果たし、テクノロジーを共通言語として「協働」する社会である。  白杖、盲導犬、ヘルパー。そして第四の支援者「AI」。これらのすばらしいパートナーたちとともに、私たちは、これまで想像もしなかった未来を、自らの手でつくりあげていくことができる。 ※本連載の第1回(2025年10月号)〜第4回(2026年1月号)はJEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/backnumber.html