私のひとこと 障害者就労支援の質を担保する「スーパービジョン」 ――支援者の専門性向上と就労支援への展開に向けて―― 立命館大学産業社会学部 教授 岡田まり はじめに  障害者の就労支援において、支援者に求められる役割は年々高度化している。就職先を見つける「マッチング」のみならず、障害者本人の特性や状況、および職場の物理的・対人的環境についてのアセスメント、それをふまえた業務内容の具体化や調整、さらには業務遂行のための継続的なサポートなど、多角的な視点に基づいた支援が不可欠である。障害者本人の強みを職場のニーズと適合させ、安定した雇用を実現するには、高い専門性が必要とされる。  その一方で、現在の障害者支援の現場は、ニーズの多様化と複雑化の渦中にある。精神障害や発達障害、高次脳機能障害など、外見ではわかりにくい困難さを抱える層への支援が増大し、支援者が直面する葛藤も深まっている。こうした状況下で、支援現場では二つの大きな課題に直面している。一つは、支援者の「バーンアウト(燃え尽き症候群)」である。過度なストレスにより、志半ばで離職するケースもある。もう一つは、「支援の属人化」である。特定の熟練支援者の経験や勘に頼りすぎることで、組織としての支援の質が安定せず、貴重なノウハウが継承されないという問題である。  これらの課題に対応し、支援者が安定して高い専門性を発揮し続けるための鍵となるのが「スーパービジョン」である。 スーパービジョンとは何か機能と日本における課題  スーパービジョンとは、経験豊かな上司/指導者(スーパーバイザー)が、現任の支援者(スーパーバイジー)に対して行う、教育的・支持的・管理的なプロセスの総称である。その目的は、効果的かつ倫理的な実践と支援者の専門的な成長を支え、サービスの質を担保すること、そして組織機能の維持・向上にある。  具体的には、スーパービジョンには以下の四つの機能がある。 @教育的機能:支援者が自身の実践をふり返り、必要な知識や技術を習得することをうながす。 A支持的機能:対人援助にともなう心理的ストレスを緩和し、支援者が自信を持って業務にあたれるよう情緒的なサポートを提供する。 B管理的機能:組織の方針や倫理綱領に則った適切な支援がなされているかを点検し、サービスの質を維持する。 C仲介機能:支援者と所属組織(ほかの組織構成員)の間を仲介し、支援者が組織で適切に機能できるようにするとともに、組織側が構成員のニーズや状況に対応できるように調整を図る。  欧米では、スーパービジョンは福祉専門職の業務の一環と位置づけられており、多くの評価研究も行われている。その結果からは、適切なスーパービジョン(課題遂行支援や社会的・情緒的サポート等)があるほど、有益な実践結果が増え、有害な結果の減少が明らかになっており、その効果が実証されている。  しかしながら、日本の福祉現場では、スーパービジョンが定着しているとはいいがたい。その背景には、スーパーバイザーとしての機能をになえる人材の不足、スーパービジョンについての共通認識の欠如がある。スーパービジョンを「単なる指導」や「ミスの指摘」ととらえる誤解を解き、組織文化として根づかせることが急務である。 就労支援・雇用支援のためのスーパービジョン  では、スーパービジョンは就労支援の場面でどのように活かされるのか。特に重要となるのが、ジョブコーチ(職場適応援助者)による支援と、企業へのコンサルテーションの局面である。  ジョブコーチの主たる業務は、障害者本人と職場の間に立ち、双方が円滑に役割を遂行できるようにしていくことにある。個々人の特性と業務内容を精緻(せいち)にアセスメントし、物理的な配慮や作業手順の工夫を提案し、実際に作業ができるようサポートを行う。さらに、障害者本人と周囲の従業員が互いに理解を深められるよう「橋渡し」を行い、職場全体で支える体制の構築を目ざす。このプロセスにおいてジョブコーチは、「本人・企業・支援機関」という三者の利害や期待の板挟みになりやすく、一人で抱え込むと的確な判断をすることが困難になる場合がある。  ここでスーパービジョンを受けることで、ジョブコーチは自らの支援を客観視し、アセスメントの妥当性を再確認することができる。スーパーバイザーが背後で支えることで、ジョブコーチは孤独な判断から解放され、よりたしかな専門性に基づいた支援を障害者本人にも企業に対しても提供できるようになるのである。  また、企業が障害者雇用を促進し、継続的な雇用を維持するためには、支援機関によるコンサルテーションが役立つだろう。企業に対して「合理的配慮」の具体的な形を提案し、職場全体のマネジメントに資する助言を行うためには、支援者自身がスーパービジョンを通じて、つねに自らの専門性を磨き、最新の知見や倫理的視点をアップデートし続ける必要がある。支援者を支えることは、結果として企業に対する支援の質を向上させ、障害者雇用の安定につながるのである。 おわりに  障害者支援におけるスーパービジョンの確立は、単なる「支援技術の向上」に留まらない。それは、支援者が一人の人間として大切にされ、研鑽(けんさん)を積める環境をつくることであり、そのポジティブな影響は必ず障害者本人や受入れ企業へと還元される。  支援者がエンパワメントされ、組織として質の高い支援を継続できる体制が整えば、障害のある人々がその能力を最大限に発揮し、社会の一員として誇りを持って働く機会がよりたしかなものとなるだろう。スーパービジョンという「支援者を支える仕組み」が日本のすみずみにまで浸透し、だれもが働きやすく、自己実現ができる共生社会の実現に向けた揺るぎない土台となることを切に願っている。 岡田まり (おかだ まり)  立命館大学産業社会学部人間福祉専攻教授。米国コロンビア大学大学院教育学研究科博士課程修了。教育学博士。専門は、ソーシャルワーク(社会生活上の問題に直面している個人や家族への支援〈特に、高齢者・障害者の地域生活支援〉)およびスーパービジョン。