職場ルポ 就労支援機関と連携し、マッチングや就労定着を図る 株式会社グリーンズ(三重県) ホテルなどを全国展開する企業では、障がい者雇用をうながす公的支援事業などを活用し、就労支援機関などと連携しながら雇用拡大と安定就労につなげている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 株式会社グリーンズ 〒510-0067 三重県四日市市(よっかいちし)浜田町(はまだちょう)5-3 TEL 059-351-3415 FAX 059-354-1355 Keyword: ホテル事業、サービス業、精神障害、知的障害、就労移行支援、就労定着支援、マッチング、委託訓練、IT POINT 1 県や市の支援事業なども活用し、障がい者雇用をゼロからスタート 2 3カ月間の委託訓練や支援機関との連携で、マッチングと就労定着を図る 3 雇用状況の見える化で、職場全体の安定就労につなげる 全国でホテル・レストランを運営  1957(昭和32)年に、駅前旅館「新四日市(よっかいち)ホテル」を創業し70年近くになる「株式会社グリーンズ」(以下、「グリーンズ」)は、全国120カ所でホテル・レストランを運営している(2025〈令和7〉年12月現在)。  グリーンズの障がい者雇用は、2016(平成28)年に「障害者雇用率」1.43%と当時の法定雇用率2.0%を大きく下回っていた。ハローワークからの指導を機に、会社組織として取り組むことを決め、積極的な採用と定着を図ってきた。いまでは全従業員2397人のうち障がいのある従業員は47人(身体障がい11人、知的障がい11人、精神障がい25人)で、「障害者雇用率」は3.17%という。2025年度には「障害者雇用優良事業所」として、当機構理事長努力賞を受賞している。  人事管理部専任課長の加藤(かとう)聡(さとし)さんは「私自身を含めて何もわからないゼロからのスタートでした。最初は失敗もありましたが、三重県や四日市市などによる支援や就労支援機関などとの密接な連携によって、マッチングや定着支援がうまくいくようになったと感じています」という。これまでの取組みの経緯とともに、精神障がいのある従業員2人の活躍の様子なども紹介したい。 県のコンサルティング支援  もともと中途採用の身体障がいのある従業員しかいなかったというグリーンズでは、2015年9月にハローワーク四日市所長らから直接指導を受けたことを機に、加藤さんが障がい者雇用担当者となって動き出した。  翌10月にはハローワーク主催の面接会に参加し、精神障がいのある1人を採用する。配属先は、当時加藤さんが在籍していた人事部だ。ちょうど入力作業など細かい業務で人手が足りなかったこともあり「まずは自分たちの部署で一緒に働き、成功例として周囲にアピールしようと思いました」(加藤さん)。  さらに三重県が募集していた「障がい者雇用活性化事業」の対象企業に登録し、定着支援のコンサルティングを半年間受けられることになった。当時、三重県内の民間企業における「障害者雇用率」は全国平均を下回る状況で、改善に向けた取組みが図られていたという。  コンサルティング会社から助言を受け、まず三重県内の地区支配人クラスを対象にアンケート調査を行い、雇用の可能性などを探った。すると四日市地区の協力が得られることになり、同地区の4ホテル合同で受入れ側の研修を行った。同時並行でホテルの現場を回りながら、厨房の洗い場や宴会場の準備・片づけ、清掃などの業務を切り出し、リストアップしていった。  一方で加藤さん自身は、三重県やハローワーク、当機構(JEED)の三重障害者職業センターによる企業向け研修会、四日市市が主催する「障害者雇用サポートフェア」のセミナーなどにも参加し「障がい者雇用について、一から学んでいきました」という。 退職者が相次いだ理由  その後グリーンズでは、2016年4月から12月にかけて障がいのある人5人を採用し、人事部やホテルに配属した。ところが、うち3人が数カ月で退職してしまったという。加藤さんは「ハローワークの求人票を見て応募してきた人を、面接だけですぐに採用し、そのまま現場に任せっきりでした」と当時をふり返る。  「本人たちは就労支援機関に登録していなかったこともあり、全体的に定着支援が不十分でした。しかも退職者が出た現場では、うまくいかなかったことだけが印象に残り、次の雇用がさらにむずかしくなってしまったのです」  そんななかで救いとなったのが、「障がい者委託訓練」事業だったという。これは県やハローワークが窓口となり、訓練を希望する求職者と企業とのマッチング支援を行ったうえで、最長3カ月間の訓練を企業側に委託するというもので、訓練後、お互いに希望すれば採用に進む流れになっている。  2016年10月に人事部で訓練生1人を受け入れ、翌年からは県内のホテルでも行うようになった。訓練期間中は、10日ほど経ったところで現場スタッフを集め、支援機関による「接し方の説明会」を行うなどのサポートもし、相互理解と働きやすい職場環境をつくっていった。  加藤さんは「3カ月という期間は、マッチングの意味で大きな効果がありました。事前に話を聞いていても、やはり本人の特性や適性を把握するのに1カ月はかかります。3カ月めになってようやく適性がわかることもありました」という。多いときで一度に5人の委託訓練を実施し、採用人数を増やしていった。さらに加藤さんは各地の特別支援学校を訪問し、職場実習も受け入れるようにしたそうだ。  現在では委託訓練や採用面接において「多少時間がかかっても正確に業務をこなすこと」、「あいまいな理由で欠勤しないこと」、「何かあったときに支えてくれる人たち(家族や支援機関)がいること」、「受入れ部署の人たちとの相性」などを重視しながら、マッチングを見きわめているという。 就労移行支援事業所との密接な連携  委託訓練を機に連携するようになった就労支援機関も、加藤さんたちにとって大きな支えとなった。ちょうど取材日にも、就労移行支援や就労定着支援を行う「障碍者ITカレッジ四日市」(以下、「ITカレッジ」)でサービス管理責任者を務める藤田(ふじた)江津(えつ)さんが、打合せのため来社していた。藤田さんは精神保健福祉士で訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)(※1)でもあり、これまでグリーンズに入社した精神障がいのある従業員の定着支援を担当してきたそうだ。  ITカレッジではグリーンズでの委託訓練の実施前に、訓練当事者の特性や得意なこと、苦手なこと、職場で接するときの留意点や必要な配慮などを書いた「ナビゲーションブック」と呼ぶ資料を用意し、加藤さんや職場管理者と一緒に打合せを行う。訓練期間の折り返し時点と終了前にも同様に集まり、ふり返りと今後の対応などを話し合う。本人の入社後も3年半の定着支援にかかわっている藤田さんは、月1回の定期面談のほか、メールや電話などで本人や家族と連絡を取り合っている。  一方、加藤さんのところには、本人の受入れ部署から、突発的な相談や報告が入ってくることもあるという。  「Aさんが興奮状態で階段を降りていったとか、Bさんが壁に頭を押しあてているなど切羽詰まったような情報がくると、私も慌てて駆けつけて、本人を個室に呼び話を聞きます。その内容や本人の状況しだいで、そのまま帰らせることもありますが、『藤田さんに連絡したから、帰りに寄っていくといい』とうながします。私にもいいにくいことがあるでしょうからね」(加藤さん)  藤田さんも本人からあらためて話を聞き、必要に応じて家族や主治医に連絡して対応を求めるが、「だいたいは話を聞いてあげることで、本人も落ち着きます」とのことだ。話の内容は、仕事での失敗を必要以上に引きずってしまうことや、家庭内のことを含めたプライベートな悩みなどが多いという。  加藤さんは、障害者職業生活相談員(※2)の資格認定講習と、企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成研修(※3)も受けているが、藤田さんとの連携もずっと続いている。ちなみに加藤さんも、ITカレッジで行っている面接練習会に面接官役として参加するなどの協力もしているそうだ。  続いて、ITカレッジからグリーンズに入社した2人の従業員からも話を聞くことができた。 電話機のないデスクで安心  2020年に入社した山下(やました)航平(こうへい)さん(27歳)は、もともとコンピュータ関連の専門学校卒業前に内定していた会社があったが、就職はしなかったという。「幼少時からコミュニケーション面で不安がありました」という山下さんは、卒業後に病院で診断を受け、精神障害者保健福祉手帳を取得。その後、家族のすすめでITカレッジに通い始めたそうだ。藤田さんによると「当初は、工場と事務の両方を想定した訓練をしていましたが、やはり意思疎通でむずかしい部分がある一方、専門学校でITパスポートを取得しパソコン操作が得意だったことから、事務系での就職を目ざすことになりました」。  いくつか会社見学をするなかでグリーンズを志望した理由について、山下さんは「それまでアルバイトも含めて働いた経験がなかったので、通いやすい時間帯で短時間から始められること」をあげた。  10時から16時まで、3カ月間の委託訓練で山下さんが担当したのは、全国のホテルなどで働くパート従業員らの給与明細や源泉徴収票などのデータ入力だ。「自分のデスクに電話機がないこともよかったです」(山下さん)という。これについて加藤さんが説明してくれた。  「就労移行支援事業所などの担当者や本人が職場見学に来ると、『電話対応はありますか』などとよく聞かれます。電話対応を気にせず入力作業だけに集中してもらうよう、最初から彼らのデスク周りに電話を置かないことにしました」  2022年に新しい本社ビルが建ってから職場内はフリーアドレスになったが、山下さんたちの入力チームだけは固定席とし、フロアの一角を低めのパーテーションで囲っている。  また、「当初山下さんは、会話のキャッチボールに少し時間がかかりましたが、加藤さんや同僚たちとの連絡をメールで行うことで、コミュニケーションがスムーズになりました」と藤田さんはいう。こうして山下さんは入社後も、得意のパソコンスキルを発揮していった。  山下さんの働きぶりについて、藤田さんはこう話す。  「訓練中の10倍ぐらい能力を発揮していると感じます。そして、本当によく話すようになりました。定期面談でも、『自分からこんなに話すようになるとは』と驚いています」  加藤さんも「最近は、業務で対応が必要なときに『これどうします?』とか、『この書類、早く確認してください』などと直接せっつかれるようになりました。たまに漫才みたいなやりとりもしています」と冗談交じりに説明する。藤田さんは「加藤さんという信頼できる上司のもとで、自分の仕事に自信が持てるようになったことが大きいと思います」と教えてくれた。  山下さんの今後の目標は「勤務時間をフルタイムまで延ばすこと」だという。現在は10時から17時までだが、繁忙期などには少し残業することもあり、少しずつ慣れていきたいそうだ。さらに「後輩に仕事を教えていきながら、自分もほかの業務ができるようになっていけたらいいですね」と笑顔を見せていた。 大学院中退から一念発起  2022年に入社した森本(もりもと)涼太(りょうた)さん(36歳)も、ITカレッジに通っていた1人だ。関東の大学院で法律を学んでいた森本さんは、高校生のころから時おり悩んでいた幻聴などの症状が悪化。一人暮らしの部屋から出られなくなっていたのを心配した親が迎えに来てくれ、その後、病院で統合失調症と診断された。大学院を中退し、薬を飲みながら3年間近く自宅療養をしていたところ、ITカレッジのことを知った父親からのすすめもあり、一念発起して通うことにしたという。  藤田さんによると「最初のころは通ってくるだけで精一杯という印象で、意思疎通もうまくとれなかったのですが、どんどん快活になって、訓練も順調に進められるようになりました」とのことだ。森本さんも当時をふり返る。  「薬の服用で症状が落ち着いてきたと同時に、スタッフさんとの会話や利用者同士の交流で、自分なりに気持ちが上向いていきました」  森本さんも就労経験がなかったことから、3カ月間の委託訓練時は10時〜15時の勤務時間でスタートしたが、いまでは10時〜17時まで延びている。職場では山下さんの隣に座り、一緒に各店舗の給与関連の入力作業を担当している。「山下さんにはていねいに仕事を教えてもらい、いまは協力して仕事をこなせています」という。一方でこれまで苦労したのは、店舗からの月ごとの申請で不備があったときの対応だったそうだ。  「私たちは電話対応をしていないので、申請内容の不備や催促などはメールで行います。最初は、文書につける修正依頼のコメントなども含め、いかに的確に手短に伝えるかに悩みました。山下さんや加藤さんとも相談しながら、スムーズなやりとりができるようになりました」  半年ほど前からは、月締め後の集計と資料のとりまとめ作業も任されるようになった。それまで担当していた上司が、森本さんに引き継ぐための専用マニュアルも作成してくれたという。「おかげで月末は数日、休日出勤をすることもありますが、もう慣れました」と森本さん。  ここまで順調に働いてこられたことについて森本さんは「周りの人に恵まれていると思います。加藤さんたちには仕事以外でも、『ご飯ちゃんと食べているか』などと声をかけてもらい、見守られているという安心感があります」。現在も3週間に1回通院しているが、主治医からは「症状が安定していてよいね」と激励されているそうだ。今後について聞くと「この会社で長く働きたいですし、勤務時間もフルタイムまで延ばしたいですね。他部署などの新しい業務も挑戦していけたらと考えています」と意欲的に語っていた。 年間を通じた見守り体制も  グリーンズでは、特に精神障がいのある従業員については、年間を通じた体調の波を本社側で見守る体制もつくった。「精神障がいのある従業員は、天候や気温の変化で体調を崩すことが少なくありません。現場の管理職にも、あらかじめ把握しておいてもらうことが大事です」と、加藤さんはいう。  この体制づくりを打ち出したのが、2018年に情報システム部から異動し、人事総務本部人事管理部長を務める岩崎(いわさき)瑞穂(みずほ)さんだ。  岩崎さんは、各部署や各ホテル店舗に散在する従業員の月ごとの労働総時間などを連携させた集計表を作成。「毎月の労働時間の変動をひと目で確認することで、少し先の職場全体の雇用状況も予測できるようにしました。例えば、もともと冬の時期に体調を崩しやすい人がいるホテル店舗には、無理せず働けるよう責任者にアドバイスしておくなどの対策が取れるようになりました」と手応えを語る。  こうした本社からの見守りの効果もあり、全国各地の職場が、年間を通じて安定した雇用環境を整えていくことができたという。「今後も引き続き、従業員一人ひとりが安心して働き続けられる職場づくりを目ざして努力していくつもりです」(岩崎さん) 職場全体への好影響も実感  岩崎さんたちは今後の会社の規模拡大を見すえ、採用の継続と職域開発の検討を続けている。その一つとして、数年前にホテルで新しく切り出した業務が「ルームインスペクション」だ。専門業者による客室の清掃が終わった後、不備等がないかの最終チェックについて、以前は正社員が行っていた一連の業務のうち、客室のチェック作業だけを切り出したという。  また最近は、あるホテル店舗で障がい者雇用を経験した管理職が、ほかの地域に異動した先で「また障がい者を採用しよう」と提案してくれるようになってきたそうだ。加藤さんは「いまも面接などには私が顔を出していますが、採用後は現場だけでスムーズに支援できるようになり、そのまま任せられるようになっています」と手応えを語る。さらに、職場全体への好影響も感じているという。  「受け入れた現場では、配慮のあり方なども学びながら、結果として、障がいの有無に関係なく相手を思いやれる従業員が増えていると聞いています。これは接客業として何より大事なことですから、グリーンズ全体としてもよい相乗効果につながっていることは間違いないと思いますね」  ちなみにグリーンズでは、三重県教育委員会と連携し、県内の特別支援学校で「接客サービス技能講習」を行っている。社員が講師を務め、基本的な接客スキルの講義やロールプレイング実習などを通じて、就労に役立つスキルなどの習得をうながしているそうだ。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社グリーンズ様のご意向により「障がい」としています ※1 職場適応援助者(ジョブコーチ)については、厚生労働省ホームページをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06a.html ※2 「障害者職業生活相談員」については、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer04.html ※3 「企業在籍型職場適応援助者養成研修」については、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/seminar/job_adapt02.html 写真のキャプション 株式会社グリーンズは、全国120カ所でホテル・レストランを運営している 株式会社グリーンズ人事管理部専任課長の加藤聡さん 障碍者ITカレッジ四日市サービス管理責任者の藤田江津さん グリーンズ本社で働く山下航平さん 山下さんは、給与明細などのデータ入力を担当している グリーンズ本社で働く森本涼太さん 店舗から送られてきた書類の入力をする森本さん 「ルームインスペクション」の様子。客室の清掃状態を確認する(写真提供:株式会社グリーンズ) 株式会社グリーンズ人事総務本部人事管理部長の岩崎瑞穂さん ホテル店舗では、朝食会場の後片づけ(左)やロビーの清掃(右)などの業務でも障がいのある従業員が活躍している(写真提供:株式会社グリーンズ)