研究開発レポート 第33回 職業リハビリテーション研究・実践発表会 Part1 特別講演 「誰もが力を発揮できる職場づくり〜一人ひとりが生き生きと成長し、能力を発揮できる組織へ〜」 オリンパスサポートメイト株式会社 代表取締役社長 龍田久美氏  当機構(JEED)では、毎年、職業リハビリテーションに関する研究成果を周知するとともに、参加者相互の意見交換、経験交流を生み出すための場として、「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を開催しています。第33回となる2025(令和7)年度は、当日の「会場参加」のほか、「特別講演」、「パネルディスカッションT・U」などの開催模様について、収録した動画を障害者職業総合センター(NIVR)ホームページに掲載しています(※1)。また、その内容を広く発信するために、同ホームページで発表資料などの掲載も行っています。ここでは、オリンパスサポートメイト株式会社代表取締役社長龍田(たつた)久美(くみ)氏の特別講演をダイジェストでご紹介します。 インクルージョンを基盤に「健やかな組織文化」をつくる  本日は、私どもオリンパスサポートメイト(以下、「OSM」)の取組みをお話しします。まずOSMは世界的な医療機器メーカーであるオリンパスグループの特例子会社として、同グループの存在意義である「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」に向けた活動をしています。グループ全体の経営戦略上の重要課題として「インクルージョン推進」、「健やかな組織文化」、「ESG」が位置づけられ、日本統括役員(COI)が推進をリードしています。こうした全社方針のなかで、OSMは障がいのある社員一人ひとりが、喜びを感じながら成長し、能力を発揮できる職場を提供することをミッションに掲げています。  当社は設立16年で、青森、東京、長野など6拠点に展開し、従業員は198名、うち障がいのある社員が144名(2025年8月1日現在)で、全員が正社員です。オリンパスグループは特例子会社だけに任せるのではなく、親会社・関係会社とOSMが「両輪」で雇用を進めています。2017(平成29)〜2018年ごろには雇用率の転換期があり、法定雇用率を上回る水準を目ざしてきました。一方、2021〜2024年は大型改装工事の影響で清掃事業が縮小し、人員の伸びは横ばいになりました。加えて年齢分布が上がり、体調や意欲、認知機能などの課題も見え始めています。だからこそ私は、インクルージョンを単なる制度ではなく、組織の土台として育て、だれもがベストな状態でパフォーマンスを発揮できる「健やかな組織文化」に結びつけたいと考えています。 まずはOSMでの相互理解の促進からグループ全体の土壌づくりを目ざす  私が大切にしているのは、当社だけで完結しない「土壌づくり」です。インクルージョンが根づくには、グループ全体が共通言語を持ち、心理的安全性や称賛が働く環境が必要です。オリンパスグループでは、ファミリーデーのような啓発イベントを開催し、車いす体験や妊婦体験、ボッチャ、各国料理やゲームなどを通じて、多様性を「体験として理解する」場をつくっています。こうした小さな交流が、自然な共感や会話を生み、職場の空気をやわらかくしてくれます。  さらに管理職向けには、インクルージョン・ワークショップを国内外で実施し、国内では約700名が参加しました。内容は「インクルージョンを自分事としてとらえる」、「アンコンシャスバイアスに気づく」、「心理的安全性を高めるリーダー行動を考える」といった、現場のマネジメントに直結するテーマです。  OSMとしても、全従業員向けのeラーニングを「障害者週間」にあわせて5年連続で配信してきました。障がいに関する基礎知識だけでなく、活躍している社員のインタビューや、合理的配慮・コミュニケーションの実践を学べる構成にしています。加えて管理者向け講座では、法定雇用率や合理的配慮の理解にとどまらず、現場でどう声をかけ、どう仕事をわかりやすく伝えるかといった実務も扱います。  そしてもう一つは、コアバリューの理解と自分事化です。「私たちを理解してください」だけでなく、「私たちは自社の価値観を語れますか」という問いを立て直し、コアバリュー宣言の掲示やブロックを用いたワークショップで相互理解をうながしています。そのほかトイレ鏡の清掃者メッセージプレートや感謝メッセージの掲示など、可視化によって交流を増やす工夫も、日々の小さな誇りを育てています。 事業の多角化とマルチスキル化で「仕事づくり」と成長機会を広げる  OSMの事業は構内清掃を根幹に、メール室、カフェ、文書電子保存、機密シュレッダー、チェアクリーニング、植栽など多岐にわたります。さらに近年は、開発に近い領域としてAI学習用の画像アノテーション(※2)やタグづけ業務も拡大しています。私はここに、障がいのある社員が「自分は医療事業に貢献している」と実感できる大きな転機があると感じています。守秘性が高く外部委託がむずかしい業務でも、グループ内であれば権限設定や契約面の負担が軽くなり、システム開発のスピードにも機敏に対応できます。委託元の開発者と定期的にディスカッションすることで、責任感ややりがいが高まり、相互の理解も深まります。障がいのある社員がプレゼンを行い、驚きと称賛が生まれた場面は、まさにアンコンシャスバイアスを揺さぶる経験でした。  人材育成の面では、マニュアル整備や業務検定(初級〜上級)で成長を可視化し、スキルマップやタレントマネジメントで配属・ローテーションを設計しています。さらに、社会人基礎力を参考にした自己分析表を使い、週次のチャレンジ機会(例:研修講師役)を設け、リーダーシップを発揮する場をつくっています。ボランティア活動も、医療関連分野でグループ社員と協働し、「人の役に立つ」実感を育てています。私は、仕事の幅が広がれば、本人の強みが生きる場所も増えると確信しています。  また私は、評価・処遇制度の刷新も重要だと考え、今年度から職務型志向の役割等級型へ改訂しました。等級・報酬・評価の三制度を統合し、「がんばった人が報われる」仕組みにしています。障がいのある社員にも賞与を支給し、成果に応じて係数を上乗せする一方、マイナスは適用しません。成果目標を事業方針にひもづけて評価することで、「自分の仕事が会社の価値にどうつながるか」を意識できるようにしました。  そして、インクルージョンがもたらすものは、障がい者雇用の枠を越えて「人を活かす力」そのものを引き上げることだと思っています。見える化、具体化、指示の工夫は、だれにとっても働きやすい職場をつくります。清掃の仕事も、私はNASAの逸話(※3)を引合いに「自分は医療を支えている」と語れる仕事にしたいのです。2026年度は、コアバリュー意識醸成、イノベーションの実行、そして称賛奨励による心理的安全性向上を軸に、各事業所で計画を具体化し、月次での進捗レビューなどを実行します。そのほか、指導員カンファレンス、他社見学、デモワークショップやスクラムトーク、工場見学などを通じて、互いに認め合い、誇りを持って働き続けられる職場を、これからも育てていきます。 ***  次号では、「第33回職業リハビリテーション研究・実践発表会」のパネルディスカッションT「働き続けたい≠支える 〜高齢化する障害者雇用の今とこれから〜」、パネルディスカッションU「定着・活躍・成長≠ノつながる障害者雇用×雇用の質を高めるための支援を考える」をダイジェストでお届けします。 ◇お問合せ先 研究企画部企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) ★本誌では通常「障害」と表記しますが、発表資料の表記を尊重し「障がい」としています ※1 下記のホームページにて、本特別講演の動画や発表資料等をご覧いただけます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/33kaisai.html ※2 画像アノテーション:AIに画像の内容を学習させるため、画像内の物体や領域に対してラベルづけ(例:枠線、輪郭、名称、属性情報など)を行う作業 ※3 NASAの逸話:NASAを訪れた大統領が、ほうきを持った清掃員に「あなたは何をしているのですか?」とたずねると、清掃員は「私は人類を月に送る手伝いをしているのです」と答えたというもの 写真のキャプション 龍田久美氏 特別講演の様子