職場ルポ 障害に配慮した働きやすい環境で能力を発揮 パーソルコミュニケーションサービス株式会社 松山サポートセンター(愛媛県) ITサポート事業などを行う会社では、発達障害のある社員の採用を機に支援機関などと連携しながら職場環境を整え、各部署で活躍する人材を育成してきた。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ パーソルコミュニケーションサービス株式会社 松山サポートセンター 〒790-0011 愛媛県松山市千舟町(ちふねまち)5-6-1 ひめぎん末広町ビル TEL 050-3163-9100 FAX 089-915-5110 Keyword:精神障害、知的障害、発達障害、職場実習、キャリアアップ、障害者就業・生活支援センター、在宅勤務、ジョブコーチ支援事業 POINT 1 職場内の勉強会で共通理解を図り、働きやすい環境づくりを推進 2 本人の希望で「特段の配慮なし」としながらも、ナチュラルサポートでフォロー 3 入社後に課題が見つかった場合は、ジョブコーチ支援事業を積極活用 コールセンターやITサポート事業  神奈川県横浜市に本社を置く「パーソルコミュニケーションサービス株式会社」は、1994(平成6)年に設立され2006年に社名を変更した富士通コミュニケーションサービス株式会社が前身だ。2025(令和7)年にパーソルビジネスプロセスデザイン株式会社の完全子会社となった。同社はコンタクトセンターやITサポートのアウトソーシング事業を手がけ、全国10拠点にサポートセンターを展開している。  拠点の一つである松山サポートセンターは2003年に開設され、コールセンター業務とITサポート事業のアウトソーシングサービスを行っている。全社員335人のうち障害のある社員は14人(身体障害3人、知的障害1人、精神障害10人)で、同センターの障害者雇用率は4.7%(2026年2月1日現在)になるという。2024年度には「障害者雇用優良事業所」として当機構理事長努力賞を受賞した。  特に2019年から組織的な積極採用と定着を図ってきたという松山サポートセンターの取組みと、活躍する社員のみなさんの様子を紹介する。 発達障害のある人を初めて採用  松山サポートセンターでは、以前から身体障害のある社員が数人在籍し、法定雇用率を上回っていたが、2019年、本格的に障害者雇用を進めることになったという。その担当者に抜てきされたのが、センター管理部の菅原(かんばら)陽子(ようこ)さんだった。  当時、もっとも社員の多いコールセンター事業の雇用状況が落ち着いてきたころで、もともと採用担当でもあった菅原さんは上司から「そろそろ障害者雇用にも力を入れてみないか」と提案を受けた。他拠点の積極採用の動きに合わせたものだったという。そこで「ここに連絡してみて」と渡されたのが、「えひめ障がい者就業・生活支援センター」(以下、「えひめ支援センター」)の紹介リーフレットだった。  菅原さんがえひめ支援センターに連絡してみると、さっそく担当者が職場の見学に訪れ、しかもその場で、発達障害のある30代前半の男性を紹介された。男性は接客業や営業職をしていたが、あることをきっかけにうつ症状となり、心療内科で自閉スペクトラム症(ASD)と診断されたという。  上司は採用に前向きだったが、菅原さんが現場の同僚たちにも聞いてみたところ、一様に躊躇する反応だった。「理由は、やはり『どう接したらよいのかわからない』といったものでした。そこで、えひめ支援センターとも相談し、まずは職場向けに勉強会を開催してもらうことにしました」  社内の保健師や教育担当、各部署の管理職が一堂に集まり、発達障害のさまざまな特性や配慮事項などについて基本的なことを学んだ。菅原さんは「まずは、みんな一緒に話を聞き、職場全体で『やらないといけないし、できるかも』という共通理解が得られたことは大きな一歩でした」とふり返る。本人とも面談して「人柄もよさそうだ」と感じた菅原さんは、「人混みが苦手」といったことなどが書かれた資料をえひめ支援センターからもらい、採用に向けて動いていくことにした。  まず、えひめ支援センターの助言を受けて導入したのが、約2週間の職場実習だ。学生のインターンシップのような形で毎日4時間、軽作業や簡単なパソコン操作から始めた。その後、あらためてトライアル雇用として6時間勤務を経て、2019年11月に入社した。  しばらくはセンター管理部に配属され、菅原さんたちが社内で実際に必要なパソコンスキルの習得を指導した。「その期間も、たびたびえひめ支援センターさんに連絡して、対応の仕方などを相談していましたが、現場でも試行錯誤はありました」という。例えば、イベント準備で受付業務に意欲を見せてくれたものの、何百人と来場者が増えるなかで、ふと本人を見ると顔面蒼白になっていて慌てて退避させたこともある。菅原さんによると「大小さまざまな失敗や悩みがありましたが、私と上司だけで抱え込まず、みんなで共有しながら職場全体の改善につなげていきました」という。男性は仕事ぶりが評価され、入社5カ月後に営業事務の部署に配属、約30人の同僚とともにデータ入力業務を担当するようになったそうだ。 知的障害のある男性  男性の部署配属後は、えひめ支援センターから就労移行支援事業所の利用者を紹介されるようになった。  その一人、2020年12月に入社した栗田(くりた)龍征(たつまさ)さん(25歳)は、知的障害をともなう自閉スペクトラム症があり、特別支援学校を卒業後、就労移行支援事業所に通っていた。もともと水泳競技に打ち込んでいたこともあって、集中力があり、くり返し作業が得意だ。  栗田さんの仕事は、感染症対策で職場に設置されているアクリル板などの消毒、郵便物の投かんなどから始まり、入社翌年には社内のパソコンのアップデート作業も加わった。栗田さんは「最初は作業内容を覚えるのがたいへんで、メモに書いていましたが、いまはメモを見なくてもできます」と話す。さらに他部署からの応援依頼で、書類のスタンプ押しや封入作業などを任されるようになっているそうだ。  栗田さんには、定期的に任されている大事な仕事がある。一つめは、職場内の防火設備の点検で、週1回、防災ヘルメットをかぶって各フロアにある消火器や非常灯などを確認し、ほこりを払うなどしている。  この点検作業は、松山センター長の田中(たなか)勝也(かつや)さんの掲げる「安心安全な職場づくり」の一環だという。前職の製造メーカーの生産現場や海外駐在の経験から、とりわけ大事にしてきた方針なのだそうだ。  「国や文化が違っても、職場の安全を『日常的に点検・確認する』取組みによって、『自分たちは守られている』という安心感とともに、社員自身の防災意識が向上します。ちなみに栗田さんは、防災ヘルメットのかぶり方にだれよりも慣れていて、いざというとき安心です」(田中さん)  二つめが、職場内のロッカールームや廊下、休憩室の壁などへの飾りつけ作業だ。パソコンを使ってフリー素材のイラストを選び出し、印刷やラミネート加工まで1人で手がける。12パターンを考案し、毎月貼り替えているという。菅原さんによると「クリスマスの飾りつけを手伝ってもらったときに得意だとわかり、お願いしました。社員たちには『殺風景だったフロアが、季節感のある明るい雰囲気になった』と好評です」とのことだ。  栗田さんは2025年、松山サポートセンターから初めて、地方アビリンピック愛媛大会のオフィスアシスタント種目に出場した。田中さんが「挑戦できる場は多い方がいい」とすすめたそうで、今後も出場の機会を増やしていく予定だ。 資格を取得しキャリアアップへ  栗田さんと2カ月違いで2021年2月に入社した井手(いで)隆貴(りゅうき)さん(25歳)は、センター管理部の隣にある健康相談室で、保健師とともに事務を担当している。  先天性の脳性まひで車いすユーザーの井手さんは、特別支援学校を卒業後、就労移行支援事業所を経由して入社した。松山サポートセンターでは以前から職場内のバリアフリー化を図ってきたが、井手さんの入社後、新たにスロープの角度を緩やかにしたり自動ドアを導入したりしてきた。  井手さんは、センター管理部で電話対応や事務作業を担当しながら1年余りかけてパソコンスキルを習得したそうだ。「就労移行支援事業所でも基本的なことは学びましたが、あまり得意ではありませんでした。入社してから大きくスキルアップできました」とふり返る。健康相談室に異動後は、資料をまとめたり議事録を作成したりしながら、職場の安全衛生に関する業務にたずさわってきた。  そして3年間の実務経験を経た2025年10月には、衛生管理者の免許も取得。「国家資格の試験は初めてで緊張しましたが、1回目で合格できました」という井手さんは、衛生管理者の業務として、社員の健康診断に関する事務作業などを引き継いでいるところだ。「今後もいまの部署で仕事の幅を広げながら、自分のキャリアアップにつなげていきたい」と意欲を見せていた。 職場内での工夫と取組み  採用を増やしていくなかで、障害のある社員の採用から定着までの基本的な流れもできた。  本人の職場見学、職場実習やトライアル雇用を経て入社した後は、センター管理部に所属しながら各部署の業務につながるスキル習得などを重ねる。その後、本人の希望や適性を見ながら、必要とされる部署に配属するというものだ。原則として時間給社員からスタートするが、トライアル雇用を経ない場合などは契約社員から始まり、登用試験に合格すれば正社員への道もあるという。  センター管理部をはじめとする各部署では、本人の業務習得やコミュニケーションを円滑に進めやすい工夫や取組みも行ってきた。  まずは業務マニュアルで、写真やイラストを活用したわかりやすい「見える化」を図った。田中さんは「障害のある人だけのためではありません。視覚的な説明に慣れた人が多いという最近の傾向に合っていると思います」と説明する。  職場実習時から書いてもらっている日報は、記入しやすいチェック式の表のひな型を他拠点からもらい活用。毎日の体調や業務をふり返り、菅原さんたちがコメントをつけて確認し合う。部署に配属後もなるべく続けるよう、うながしているそうだ。「口頭では周囲にいいにくいことも日報なら伝えやすいので、部署ごとにカスタマイズした形で使ってもらっています」(菅原さん)  またセンター管理部では、朝礼で毎日1人の部員が決められたテーマに沿って話をしている。「先日は栗田さんが節分にまつわる楽しい思い出話を披露し、みんなを笑わせてくれました」(菅原さん)  呼びかけ人の田中さんも「話すのが苦手な人も自信がつきますし、何より職場内のコミュニケーションが活性化します。部内はいつも明るいですよ」と手ごたえを語る。  こうしてセンター管理部で育成され送り出された人材は、各部署から高評価を得て、「次もお願いしたい」、「配属してほしい」との声も増えていったそうだ。 完全在宅勤務で活躍  なかには、フルリモートで完全在宅勤務をしながら活躍している社員もいる。2024年11月に入社した阿部(あべ)元(げん)さん(28歳)は、週4日いずれも16時から25時まで(うち1時間休憩)の8時間勤務。夜だけの勤務シフトは、阿部さんが希望したという。  大学で機械工学を専攻していた阿部さんは、対人関係が苦手で、学内のカウンセリングルームを経て病院で初めて自閉スペクトラム症と診断されたそうだ。就職した企業では機械保守の仕事を担当したが、体調を崩し退職。その後、自宅療養を経て就労移行支援事業所に通い、コミュニケーションのとり方や体調管理のアドバイスをもらったという。一方で学生時代から夜型生活のため、「夜勤務のリモートワークがあれば」と思っていたそうだ。  高いパソコンスキルのある阿部さんを紹介された菅原さんたちは、本人の働きやすい環境を尊重しつつ、社内研修のため最初の2週間だけは昼間に通勤してもらい、トライアル雇用から在宅勤務とした。  配属先はサービスデスク事業部第3サービス部で、阿部さんの担当業務は、クラウドサーバーを使っている顧客企業からの問合せ対応だ。昼間に寄せられたメールを確認し、同僚数人とチャットツールで相談しながら、メールでの技術的サポートをともなう返信や、サーバーのメーカー側への情報提供を行っている。  阿部さんの上司の津田(つだ)早苗(さなえ)さんは、阿部さんの働きぶりについて「すばらしいの一言です」と話す。  「扱うサーバーのマニュアルは、膨大な量のエクセルやパワーポイントに分散され、質問の対応部分を探すのもひと苦労です。阿部さんは複雑な内容をていねいに整理し、必要な情報を把握しているので、同僚たちも『この内容は、どこを見ればいいんだっけ?』などといつも頼るほどです」  一方の阿部さんは「逆に、緊急で電話対応が必要なときは同僚に頼っています。自分もできるようになるといいのですが」と明かした。津田さんは「メール対応だけで十分に活躍してくれていますから」とねぎらっていた。 障害を開示しナチュラルサポート  松山サポートセンターでは、最初から、発達障害を含む精神障害を開示したうえで、本人の希望で「現場では特段の配慮はいらない」として、ほかの一般社員と同様の条件で契約社員として働く人もいる。  ただそういう場合でも菅原さんは、定期的な面談を含め体調管理の面でフォローをしている。「現場の同僚たちも本人の特性などについては把握しているので、いわゆるナチュラルサポートのような形になるかもしれません」  本人が就労支援機関に登録していない場合、菅原さんたちのフォローだけでは解決が困難なこともある。例えば、ある社員は、専門部署で高い能力を発揮していたが、主治医との関係がこじれるなどしてうつ症状が悪化。本人からも相談を受けた菅原さんは、連携している就労支援機関を紹介し「客観的なアドバイスをもらえるから」と見学をうながした。本人は実際に何度か足を運んで指導員と話し、いまは体調も落ち着いているそうだ。 ジョブコーチ支援の活用  菅原さんは2020年に企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修(※1)を受講し、さらに田中さんのすすめで2024年にはキャリアコンサルタントの資格も取得している。「その過程で障害者雇用についての理解が深まり、支援機関とも専門的な話まで踏み込みながら、より自信を持ってサポートできるようになりました」(菅原さん)  それでも、ときに社内だけでは対応がむずかしい課題や、入社後に新たに課題が出てくることがある。そこで活用するようになったのが、当機構(JEED)運営の愛媛障害者職業センター(以下、「職業センター」)が実施するジョブコーチによる支援事業(※2)だ。この1年ですでに4人の社員が、職業センターから派遣されたジョブコーチの支援を受けている。  例えばある社員は、入社後しばらくして業務を1人で任されるようになると、納期が守れなかったり、何度も同じミスをしたりすることが目立つようになってきた。その理由も改善法も見いだせず、菅原さんは職業センターに相談した。そして、職場センターの障害者職業カウンセラーによるアセスメントで、本人は予定を立てるのが苦手であることが判明。その後、ジョブコーチが3カ月ほどかけ、本人にスケジュールの立て方やメモのつくり方などを細やかに指導し、業務をきちんとこなせるようになったという。菅原さんが話す。  「さすが専門分野のプロは違うなと感心しました。なぜここでその行為が必要なのかといった伝え方、アプローチの仕方がとても勉強になりました」  さらに、本人の生活習慣を整えてもらったり、業務上のミスを防ぐためのツールを提案してもらったりしたほか、パニック障害のある若手社員と同僚社員らに対し、毎週30分ずつジョブコーチによる面談を通して互いの不安を解消するよう、うながしてもらったケースがあったそうだ。 担当者だけに任せない  これまでの取組みについて菅原さんは、支援機関などからの依頼で、地元企業向けの勉強会やセミナーに講師として招かれる機会が増えているそうだ。会場では、まだ障害者雇用に踏み出せていない企業からの質問も少なくなく、うまく進めていくためのアドバイスを行っている。  「よく聞く失敗例が、採用して現場に配属しっぱなしにしてしまうケースです。ぜひ就労支援機関の方を頼り、ジョブコーチ支援を活用してほしいですね。『すぐに担当者が飛んできてくださいますよ』といって背中を押しています」(菅原さん)  加えて田中さんは「障害者雇用の担当者だからといって、だれか一人に任せきりにするのもよくありません」として、社内の支援体制づくりについて次のように語ってくれた。  「じつは当初、支援方法をめぐる変更にも『上長を通してから』といった縦割り的な文化が残っていました。いまでは部署同士が直接やり取りできる関係ができ、対応もよりスムーズになりました。現場と担当者、支援機関がつねに連携できる環境があり、小さなトラブルがあってもみんなで解決していけるようになっていると思います。さまざまな社員が日常的にかかわり合える職場環境が、何ごとにおいても大切なのだとあらためて感じています」 ※1 「企業在籍型職場適応援助者養成研修」については、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/seminar/job_adapt02.html ※2 「職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援」については、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/person/job01.html 写真のキャプション パーソルコミュニケーションサービス株式会社松山サポートセンターセンター管理部の菅原陽子さん センター管理部で働く栗田龍征さん 栗田さんは、防火設備の自主点検も担当している パソコンのアップデート作業にあたる栗田さん 松山センター長の田中勝也さん ロッカールームを飾りつける栗田さん 健康相談室で働く井手隆貴さん 書類の照合作業にあたる井手さん フルリモートで在宅勤務するサービスデスク事業部第3サービス部の阿部元さん 会議室でパソコンに向かう阿部さん。通常は、自宅で業務にあたっている サービスデスク事業部第3サービス部の津田早苗さん