エッセイ 障がいのある人が働きやすくなるヒントと考え方 第3回 働く「場所」と「役割」の理解とは? 放送作家・ライター 姫路(ひめじ)まさのり  放送作家として、数多くのテレビ・ラジオ番組の制作をにない、ライターとして、新聞や雑誌、ウェブメディアで記事を執筆。同時に、ダウン症をはじめ、自閉症などの障がい、HIV・AIDSなどの支援事業にたずさわり、当事者の声を取材。執筆や講演活動を通し、その思いを伝える。  著書に『ダウン症で、幸せでした。〜10年追いかけて分かった幸福の秘密』(東京ニュース通信社・講談社、2025年)、『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。〜ソーシャルファームという希望』(新潮社、2020年)などがある。 よく聞かれるお金の稼ぎ方のコツ  「お金を稼ぐにはどうしたらいいですか?」  お金にシビアな関西を中心に活動をしているからでしょうか。施設の関係者から一番聞かれるのが、この質問です。それに対して私は決まってこう答えるようにしています。  「劇的に給料が上がるマジックはありません」  働く人の状況や、施設環境や地域も違うなか、一律に給料が上がる方法があれば、こぞって取り入れているでしょう、とはいえ、そう答えては身も蓋もないので、“考え方を習う”という意味合いで、お伝えする事例が、「チャレンジャー」の取組みです。 個人の能力ごとに働く場所が変わる  ご存じの方も多いと思いますが、チャレンジャーは東京都の社会福祉法人武蔵野千川(むさしのせんかわ)福祉会が運営する事業所です。いくつも特徴があるなかで、きわ立っているのが「機能分化」です。法人では、「支援を受けて取り組める」、「自律的に取り組める」、「安定して取り組める」、「効率的に取り組める」、「協調し目標に向かって取り組める」というふうに、運営する施設に応じて利用者を分けています。スキルアップが認められた利用者は上位の施設に移動。逆に下位の施設に移ることもあります。  肝心のお仕事はチラシやDMなどの封入・梱包作業、それだけです。施設の作業も多様化するなか、昔からあるシンプルな仕事に絞って取り組んでいるのです。作業を一律化することで、施設でつちかった経験が移動先でも無駄にならないと聞いて、「なるほど!」と膝を打ちました。 驚きの連続だったチャレンジャー  その最上位にあるのが「チャレンジャー」です。私も実際に見学させていただいたのですが、まぁ!驚きの連続でした。中央に大きなテーブルがドン、ドンと並べられており、ここは方向をそろえる帳合い作業、別の机は宛先のラベルを貼る作業と、テーブルごとに内容が異なります。黙々と手を動かす姿を見て気づいたのは、全員が「立ち仕事」なのです。座ったほうが楽なのでは……と思いきや、「作業中に寝る人もいないし、いすだと姿勢を正してという指示の理解に時間もかかる」とは職員さんの解説。さらに作業時間も8時45分〜17時までと一般就労に合わせて延長。レクリエーションなども廃止したといいます。  こうした働き方の変化により、「ここは仕事をする場所」と、利用者の意識が大きく変化し、自然と遅刻もなくなったとふり返ります。納期という“目標”を理解したうえで、目の前の作業に従事する……そこにいた全員が、まさに“プロのDM職員”でした。 完成を感じる、働く役割を知る  何より痛感した特色は、“完成を間近で感じられる”というポイントでした。例えば製造業だと、部品の仕分けなど切り出した途中作業を請け負いがちです。でもチャレンジャーでは、封入にラベル、さらには郵便局まで運ぶことまで、すべての作業を担当。それにより、自分たちが何をつくり、どんな役割をになっているかを理解しているのです。  別の施設で、こんな女性の話を聞きました。いつも軽作業ばかりの施設に、有名ブランドのタオルの梱包作業が舞い込みます。フカフカのタオルをていねいに畳み、重厚な箱に入れ、布をかぶせてラッピングする。後日、自分がつくった商品が百貨店に並ぶのを見たその女性は、「あれ私がつくったの! だから買う!」と、お小遣いでタオルセットを購入し、以来、大切に使い続けたそうです。  もちろん、人員などの都合もあり、チャレンジャーのシステムをどこでも導入できるとは思っていません。でも、そのマインドはまねすることができると思うのです。それは「利用者とトコトン向き合うこと」ではないでしょうか?「働く意欲」と「働く力」は人によって違います。利用者の個々の力に応じて、その能力を伸ばしていく。それが福祉の目線でいえば「利用者支援」であり、企業の目線でいえば「社員教育」です。対人援助と経済活動は相反する、という根強い意識を払しょくした先に、“シン・作業所”とでも呼ぶべきネクストステージが広がることを願っています。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、姫路まさのりさんのご意向により「障がい」としています