特別企画 「職場改善好事例集」最新刊!! 『障害者の加齢に伴う課題の克服や就労継続に向けた職場改善ケースブック』のご紹介  当機構(JEED)では、障害のある人の雇用および職場定着を進めるため、事業所において雇用管理や職場環境の整備などさまざまな改善や工夫を行った事例について、テーマを定めて募集し、ほかの事業所が職場改善を進めるうえでモデルとなる好事例を周知する「障害者雇用職場改善好事例」事業を行っています。  ここでは2024(令和6)年度に募集した、「加齢に伴う体力・能力等の変化や就労継続に伴い生じる諸課題に対する事業所の配慮・工夫」について、応募事例のなかから参考となる取組みをとりまとめた『障害者の加齢に伴う課題の克服や就労継続に向けた職場改善ケースブック』(2026年2月発行)から一部(抜粋・修正)をご紹介します。 仕事をスキル別に分類し、個人スキルと適正にマッチングすることにより加齢に伴うスキルダウンに対応した取組 株式会社オープンアップウィズ 事業所の概要、取組の背景と課題  株式会社オープンアップウィズは特例子会社であり、231人(2024〈令和6〉年4月1日時点)の障がい者スタッフのうち、知的障がい者スタッフが全体の56%を占める。また、知的障がい者スタッフは平均勤続年数が23年と長く、多くの研究報告においてスキルダウンが現れるといわれている40歳以上の割合が48%となっている(図1)。このような状況において、同社では知的障がい者スタッフの加齢に伴う@業務ストレスによる就労意欲の減退、A注意力の散漫・手順の忘却等を原因として作業時間が増加し、漸次(ぜんじ)生産性が逓減(ていげん)していた。  特にステーショナリー事業においては、知的障がい者スタッフのスキルダウンが顕著に見られた。本事業では、不要紙をリサイクルし、エコ循環作業(分別・シュレッダー・紙(かみ)漉(す)き)によってできる再生紙を用いて、グループ会社で使用するカレンダー、販促品、その他様々なステーショナリー製品を手作りで製作しており、今後も需要の増加が見込まれるものである。一方、2026年には、本事業に所属する45歳以上の知的障がい者スタッフの数は2024年と比べて横ばい、50歳以上の知的障がい者スタッフは1.4倍の増加が見込まれ(図2)、本事業における高年齢化に伴う課題の深刻化が想定される。このような中で、効果的に産出の絶対量を増加させるために、知的障がい者スタッフへの対応を喫緊の課題として、業務改善に取り組むこととした。 取組1 ステーショナリー事業の仕事を必要スキル別に分類 (1)ステーショナリー事業では、これまで原材料の回収から製品の出荷までを一連の作業として、業務の繁忙に合わせて、知的障がい者スタッフを各工程に配置し、出荷量で全体としてのスキルを把握してきたことから、個人としてのスキル把握はしておらず、適正配置の課題が挙げられていた。これに対する改善策として、まず、ステーショナリー事業の仕事フローを作業の特性や求められる能力等の視点から整理し、4つの仕事ユニット(「紙の加工作業ユニット」、「紙漉き業務ユニット」、「軽作業 内職業務ユニット」、「仕分け・シュレッダーユニット」)に分類した。そのうえで、仕事ユニットごとに「基礎スキル(視力、知的能力、体力)」と「繊細(より緻密な作業)・タフ(体を動かすこと)」の2軸に基づいてスキルレベルを分類し、必要とされるスキル幅を設定することで、仕事ユニットごとの仕事量を把握することとした。この結果、「紙の加工作業ユニット」と「紙漉き業務ユニット」のスキルレベルはほぼ同等であり、「仕分け・シュレッダーユニット」が最も基本的なスキルで業務可能であることが分かった(22ページ図3)。 (2)さらに、上記(1)で分類した「仕分け・シュレッダーユニット」について、再度、作業の特性や求められる能力等の視点から整理し直し、4つの作業(「取り外し作業」、「分別」、「カット作業」、「シュレッダー機にかける」)に細分化し、加齢に伴うスキルダウンに、より細かく対応できることを目指した。縦軸を「視力、指先の感触、手ざわり」、横軸を「正確な動作(手を動かすこと)・視力(弱視も可)、判断能力」としてスキルレベルをプロットした。この結果、「取り外し作業」と「カット作業」はほぼ同等のスキルレベルであり、また、「分別」と「シュレッダー機にかける」作業もほぼ同等のスキルレベルであった(図4)。 取組2 個人スキルの適正把握及びマルチタスク化の促進 (1)健康状態や身体機能等は高齢になるほど個人差が拡大するとされており、個人のスキル把握では、継続的かつ客観的な確認が不可欠である。このため、毎月1回、全スタッフを対象に実施している同社のカウンセラーとの定期面談において、従事している業務内容や遂行状況等について本人及び指導員双方に聞き取りを行う相互確認を導入し、健康状態や身体機能等に関する最新の個人スキルの把握に努めている。同社だけで対応が難しいケースでは、支援機関が実施している定着面談を起点に連携をとり、面談内容を共有し、個人スキルの適正な把握に努めている。 (2)前記(1)で把握した個人スキルを踏まえて、数度の配置換えを経験させ、一人で複数の業務ができるようになるマルチタスク化も目指している。マルチタスク化を図ることにより、ひとつの業務だけではなく、様々な業務ができるという自信もつくことで、生産力の維持・向上のための取組もスムーズに進められる。 取組3 仕事の必要スキルと個人スキルの適正マッチング  これらの取組を導入後、スタッフの配置換えを行い、一定期間適性を確認した後、他の業務の適性も見ながら、3年間で知的障がい者スタッフ6名の配置転換を行った。概要は左の表および図5のとおり。 (1)「紙の加工作業ユニット」から「紙漉き業務ユニット」に配置転換 スキルダウンが現れた年齢 現れた現象 Aさん 47歳 ・手先の動きが鈍くなる (2)「軽作業 内職業務」から「仕分け・シュレッダー」に配置転換 スキルダウンが現れた年齢 現れた現象 Bさん 47歳 ・作業スピードが極端に遅くなる ・単純ミスが多くなる Cさん 51歳 ・作業手順を忘れることが多くなる Dさん 50歳 ・作業手順を忘れることが多くなる ・視力の低下で移動の際に製品を床に落とすことが何度もある Eさん 48歳 ・作業手順を忘れて、ぼーっとしている時間が長くなる ・仕事のスピードが遅くなる Fさん 40歳 ・数え間違いが多くなる ・作業手順を忘れることが多くなる 事例  当時50歳のDさんは加齢の影響で視力が低下していたため、作業場で人とぶつかったり、製品を何度も床に落としてしまうことがあり、検品でもミスが増えていた。定期面談で、座り仕事である分別やシュレッダー作業への配置換えを提案したところ、当初、Dさんはやり慣れた軽作業の仕事を続けることを希望していた。そこで、Dさんとの面談を重ねながら、現作業における職務遂行の客観的な状況を伝え、業務上の負荷を軽減するので無理なく働き続けてほしいこと、経験のある分別作業で力を発揮してもらいたいことといった会社の期待を丁寧に説明し、理解を得られるようにした。また、再配属先においても自信を持ってもらえるよう、ポジティブなフィードバックをしながら話をしたことで、Dさんは今後の働き方のイメージを鮮明に持つことができ、配置換えを前向きに受け入れることができた。 取組の効果 1.従業員のストレス解消・安心安全の確保  Dさんは、「座って作業をすることで他の人とぶつからず、また紙の取り扱いだけなので、落としてしまっても問題はなく、安心して作業に取り組むことができる」と配置換え後の面談で話されている。このように安全な環境が整えられ、業務上のストレスが解消されたことが、Dさんの安心につながったと考えられる。現在は、シュレッダーの最後の工程である紙を機械に入れる業務に従事し、指導員からは以前の業務よりも自主性が発揮され、積極的に取り組む姿勢への変化が見られていると評価されており、配置換えはDさんのモチベーションの向上にもつながった。 2.生産量の増加 (1)紙のシュレッダー量の増加 (令和3年)3・8t/年 ↓ (令和6年)7・3t/年 →加工前原材料192%増加 (2)製品出荷量の増加 (令和3年)4000部/年 ↓ (令和6年)8000部/年 →製品の出荷量200%増産 (3)古紙(機密情報)回収社数の拡大 (令和3年)2社/年 ↓ (令和6年)14社/年 →@古紙(機密情報)回収対象会社拡大7倍 A回収対象会社の拡大により各社が負担していた古紙の分別作業時間の削減 3.原材料の選別の細分化と製品の質の向上 (1)古紙(機密情報)の分別の細分化 (令和3年)分別2工程 ↓ (令和6年)分別4工程 →分別作業の細分化により原材料を厳選できるようになり、製品の質が向上 担当者の声 ユニット長 佐々木様  今回の加齢に伴うスキルダウンによる配置換えがスムーズに行われたのは、定期的に通常業務の配置換えを行っていたことが大きな要因です。  作業環境が変わることは本人にとってストレスや不安が強く現れる場合がありますが、これは配置換えの経験の有無で大きな差が生じると考えます。当社ではひとつの業務に固執せずに、様々な業務を遂行できるほうが良いことを丁寧に説明しています。加齢に伴いスキルの低下が見られた場合はそのことを本人が自覚し、納得した形で業務ができるよう意識して話を進めています。そして、自信を常に持たせるようにしたことで、最初はためらっていた方の配置換えも、スムーズに進めることができています。  数年後にはさらに45歳以上の障がい者スタッフの人数の増加が見込まれるので、引き続き仕事の細分化と本人のスキル把握、面談の継続、仕事とのマッチングを丁寧に行っていきたいと思います。  過去に募集した職場改善好事例は、好事例集(ケースブック)として取りまとめ、JEEDホームページにもデジタルブックとして掲載しておりますので、ぜひご活用ください。 2022年2月初版発行 2024年1月初版発行 New! 2026年2月初版発行 ◆「職場改善好事例集」はこちら https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/ca_ls.html 障害者雇用職場改善好事例に関するお問合せ先 障害者雇用開発推進部 雇用開発課 TEL:043-297-9515 Mail:manual@jeed.go.jp 図1 知的障がい者スタッフの年齢構成 40歳未満 52% 40歳以上45歳未満 21% 45歳以上50歳未満 19% 50歳以上 8% 図2 ステーショナリー事業の知的障がい者スタッフの年齢構成別推移(:男性、:女性) 2021年 5名 14名 2024年 10名 22名 2026年 14名 22名 図3 ステーショナリー事業における4つの仕事ユニット分類とスキルレベル分類 基礎スキル(視力、知的能力、体力) 高 低 繊細 タフ 1 2 3 4 1 紙の加工作業ユニット 作業:紙のカット・のり付け・組立・紙の計量・ローラーがけ 特性:座り仕事・一人で黙々とできる求められる能力:手先の器用さ、視力、知的能力 2 紙漉き業務ユニット 作業:紙漉き作業・紙はがし 特性:体を動かす仕事・他メンバーとの連携 求められる能力:視力、知的能力、体力 3 軽作業 内職業務ユニット 作業:検品・箱詰め作業 特性:座り仕事・一人で黙々とできる求められる能力:視力、知的能力(数を数える能力)、処理速度 4 仕分け・シュレッダーユニット 作業:紙の分別・カット・シュレッダー 特性:座り仕事・一人で黙々とできる求められる能力:視力(弱視でも可)、定規で紙をカット・紙を機械に入れる 図4 仕分け・シュレッダーユニットの細分化とスキルレベル分類 視力、指先の感触、手ざわり 高 低 正確な動作 視力(弱視も可)、判断能力 1 2 3 4 1 取り外し作業 作業:ファイルから紙を外す、ホッチキスを外す 特性:座り作業・一人で黙々とできる求められる能力:視力、手先を動かす 2 分別 作業:コピー機かそれ以外の紙かを分別する、白黒とカラーの分別 特性:座り作業・一人で黙々とできる求められる能力:視力 3 カット作業 作業:余白部分を定規でカット 特性:座り仕事・一人で黙々とできる求められる能力:視力、定規が使えること 4 シュレッダー機にかける 作業:紙をシュレッダー機に入れる、袋を変える作業 特性:座り仕事・一人で黙々とできる求められる能力:視力(弱視でも可)、紙を機械に入れる 図5 知的障がい者スタッフ6名の配置転換のイメージ図 基礎スキル(視力、知的能力、体力) 高 低 繊細 タフ 1 紙の加工作業 1名 2 紙漉き業務 3 軽作業 内職業務 5名 4 仕分け・シュレッダー