研究開発レポート 第33回 職業リハビリテーション研究・実践発表会 Part2 パネルディスカッション T「“働き続けたい”を支える〜高齢化する障害者雇用の今とこれから〜」 U「“定着・活躍・成長”につながる障害者雇用×雇用の質を高めるための支援を考える」  前号(※)に続き今号では、2025(令和7)年11月12日〜13日に当機構(JEED)が開催した、第33回職業リハビリテーション研究・実践発表会のパネルディスカッションT・Uの様子をダイジェストでお伝えします。 パネルディスカッションT 働き続けたい、という本人の思いをどのように支えていくのか  障害者雇用の現場では職場定着への取組みが進展する一方、就労者の高齢化という新たな課題が浮かび上がっています。パネルディスカッションTでは、「働き続けたい」という当事者の願いをどのように支えていくかをテーマとして、年齢を重ねるごとに変化する状況をふまえた企業の取組みや支援の実態を共有しました。そのうえで、研究、医療、企業、支援機関それぞれの視点から、今後求められる支援のあり方や具体的な工夫について意見交換が行われました。  コーディネーターはJEED障害者職業総合センター上席研究員の宮澤(みやざわ)史穂(しほ)氏。パネリストとして産業医科大学リハビリテーション医学講座教授の佐伯(さえき)覚(さとる)氏、株式会社堀場(ほりば)製作所(せいさくしょ)グループ人事部人財サポート・DE&I推進チームサブリーダーの福岡(ふくおか)宏水(ひろみ)氏、株式会社新陽(しんよう)ランドリー専務取締役の加藤(かとう)幹太郎(みきたろう)氏、社会福祉法人愛育会(あいいくかい)障碍者就業・生活支援センターわーくわく主任就業支援ワーカーの佐野(さの)和明(かずあき)氏が登壇しました。  冒頭、宮澤氏はテーマ設定の背景として、企業で働く障害者の年齢構成が変化していることを提示。年齢分布は若年層と高年齢層に山を持つ「二峰性」を示していて、45歳以上の割合がこの10年で着実に増加していると説明。また、「以前より仕事ができなくなった」と感じる割合は障害種別によって差があり、事業所側が配慮の必要性を感じる年齢層も異なることを紹介。こうした実態をふまえ、中高年齢障害者の雇用継続と一人ひとりのキャリア形成に焦点を当てた今回の議論が重要であると強調しました。  まず、佐伯氏が医療の視点から、加齢にともなう身体機能の変化とその対応について解説しました。筋力や視覚、聴覚などの機能低下は個人差が大きいものの、過負荷を避けることが重要であり、「就業能力」と「作業負荷」の均衡を保つことが就労継続の鍵になると指摘。定期的な健康相談や体力測定、補装具の見直しなど、早期対応の重要性を示しました。  福岡氏は企業人事の立場から、自社の理念「おもしろおかしく」を土台とした多様性推進の取組みを紹介しました。中途で視覚障害となった社員への段階的な勤務調整や在宅勤務導入、支援機関との連携、通勤環境への働きかけなど、個別事情に応じた柔軟な対応を重ねてきた経緯や、社内外の多様な資源と情報を活用しながらダイバーシティを実現している様子が報告されました。  加藤氏は、障害者雇用の現場からの報告として、障害者雇用率が高い同社における実践を紹介しました。30年以上勤務する社員が多く、高齢化は避けられない現実であるとしたうえで、生活支援やグループホームの整備、業務工程の自動化などにより、働き続けられる環境を整備してきたと説明。日々のコミュニケーションと定量的な作業把握を組み合わせ、変化を見逃さない工夫を続けているといいます。  就労と生活の両面を支援している立場から佐野氏は、継続した職場訪問を行い、さりげない会話のなかで変化を察知することの大切さを強調しました。多様化している就労上の課題は勤務時間の短縮だけでは解決しない場合もあり、本人の生活状況、思いや誇り、家族関係を含めた総合的な支援が必要だと指摘しました。  意見交換では、企業が単独で抱え込まず地域や支援機関と連携する重要性が共有されました。  また、高齢化は個別の問題ではなく、今後の障害者雇用全体に共通するテーマであるとの認識でも一致。これからも議論を深め、加齢による変化を前提としながらも、一人ひとりが安心して働き続けられる仕組みづくりを続けていくという方向性が示されました。  パネルディスカッションU 障害者の挑戦を後押しし、「定着・活躍・成長」をともに喜べる職場づくりを  パネルディスカッションUでは、「定着・活躍・成長につながる障害者雇用と雇用の質を高める支援」をテーマに、企業、医療機関、支援機関、研究機関の4者がそれぞれの立場から実践と課題を持ち寄り、今後の方向性を展望しました。コーディネーターはJEED障害者職業総合センター職業リハビリテーション部調査役の佐々木(ささき)直人(なおと)氏。パネリストとして、グリコチャネルクリエイト株式会社総務人事部部長の武田(たけだ)直明(なおあき)氏、公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院人事部障害者雇用促進室・チャレンジドステーションの中田(なかだ)恭子(きょうこ)氏、大阪障害者職業センター南大阪支所支所長の佐藤(さとう)伸司(しんじ)氏、障害者職業総合センター上席研究員の中山(なかやま)奈緒子(なおこ)氏が登壇しました。  はじめに佐々木氏は近年の政策動向をふまえ、雇用数の拡大を基盤としつつ、「質」の向上へと重点が移行している現状を説明。雇用率達成を優先する姿勢への反省から、能力発揮やキャリア形成支援を企業の責務として明確化する法改正が行われたと指摘。単なる採用にとどまらず、労働者本人一人ひとりに合わせたモチベーション維持や成長支援を含めた「人材マネジメント」への転換が求められていると強調しました。  武田氏からは、拠点が全国に分散しているため本社人事部門による障害のある社員へのタイムリーな支援がむずかしかったという同社の事例が紹介されました。当初の本社配属中心から、段階的に現場配属へと転換し、業務範囲も少しずつ拡大。あわせて、現場責任者に対して雇用の目的やビジョンをくり返し伝え、「多様な人材が現場力を高める」という共通認識を醸成し、苦手な業務がある社員には業務を分担する二人体制を導入するなど、さまざまな取組みや工夫によって雇用を推進している様子が紹介されました。  中田氏は、医療機関としての社会的使命をふまえ、障害者雇用を「持続可能な、人・環境・教育・仕事の整備」と位置づけて、風土づくり、教育体制、サポート体制の三本柱で雇用環境の整備を推進してきたと報告。看護学校移転後の空きスペースを活用して「チャレンジドステーション」を開設し、軽作業から段階的に職域を広げていることなどが示されました。  支援機関の立場から佐藤氏は、事業主からの相談が、「初めての雇用」から合理的配慮の具体化やキャリア形成へと広がっていると指摘。採用計画から定着・キャリア形成までを四段階で支援する体系的アプローチを示し、事例提供、職務開発助言、社内研修、ジョブコーチ支援などを組み合わせて支援の質を高めていると述べました。  後半のディスカッションに先立ち中山氏は、2024年度から2025年度にかけて実施している「企業における障害者雇用の質の向上に向けた取組の現状と課題に関する調査研究」について、企業における「質を高める取組」の実施状況と、その効果の見え方を中心に紹介しました。  その後のディスカッションでは、雇用の質を高めるうえで、現場の理解と納得感をいかに醸成するかが議論されました。方針を示すだけでなく、人事と現場が連携し、上司が指導者育成をにないながらチームで支える体制を築くこと、さらに三者面談などを通じて指導側を孤立させない支援が基盤になるとの意見が示されました。  パネルディスカッション後の質疑応答では、障害のある社員が新たな業務に挑戦し、ステップアップしていく過程を、企業としてどのように評価し、処遇やキャリア形成につなげているのかという質問が寄せられるなど、障害者の挑戦を後押しし、成長をともに喜べる職場づくりへ向けて幅広い論議が交わされました。 (注)コーディネーターおよびパネリストの方々の所属先・役職は開催時点のものです ※前号(2026年4月号)は、JEEDホームページでもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202604/index.html#page=30 ★下記のホームページにて、パネルディスカッションの動画や発表資料等をご覧いただけます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/33kaisai.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 写真のキャプション 宮澤史穂氏 佐伯覚氏 福岡宏水氏 加藤幹太郎氏 佐野和明氏 佐々木直人氏 武田直明氏 中田恭子氏 佐藤伸司氏 中山奈緒子氏