職場ルポ 地域農業を支える加工工場、手作業で力発揮 株式会社パンドラファームグループ(奈良県) 人口減少が進む山間地域の農作物加工工場は、技能実習生らとともに障害のある従業員を戦力としながら、地域の農福連携にもかかわっている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 株式会社パンドラファームグループ 〒637-0037 奈良県五條市(ごじょうし)野原中(のばらなか)4-5-27 TEL 0747-26-2121 FAX 0747-25-1832 Keyword:知的障害、精神障害、ジョブコーチ、加工工場、農福連携 POINT 1 知的障害のある従業員1人を初めて採用、ベテラン従業員の指導で定着 2 引きこもりの若者も農業体験で受け入れながら採用の幅を広げる 3 就労継続支援A型事業所と協力し、農福連携の取組みも 農作物の加工販売  梅や柿といった農作物の生産から加工、流通・販売までを手がける「株式会社パンドラファームグループ」(以下、「パンドラファーム」)は、奈良県五條市で果樹農家をしていた王隠堂(おういんどう)誠海(まさみ)さんが、有機農業を実践する仲間たちと1984(昭和59)年に立ち上げた生産者団体「有限会社王隠堂農園」を母体としている。パンドラファームは、生産者が農業に専念し、出荷商品の品質を平準化・安定化することを目的に地域共同事業センターとして1996(平成8)年に設立された。農産物の集出荷や選果・選別作業を請け負うほか、さまざまな農産物加工品を生活協同組合(生協)などに販売している。現在は奈良のほか三重、和歌山の各県に点在する共同農場や生産者組織とも連携し、紀伊半島地域の生産力強化を図っている。  パンドラファームの障害者雇用は、2005年に初めて知的障害のある従業員を採用したことを機に、ハローワークなどからの紹介を受ける形で続けてきた。いまでは全従業員117人のうち障害のある従業員は6人(身体障害1人、知的障害4人、精神障害1人)で、障害者雇用率は5.1%という。  同社の設立時から代表取締役を務める和田(わだ)宗隆(むねたか)さんは「私たちが運営する加工工場やビニールハウスでは、障害のある従業員も、本人に合った取組み方で安定して働いてくれており、大事な戦力です」と話す。  今回は、加工工場で働く従業員の様子とともに、地域の農福連携を含めた同社の取組みなどについて紹介する。 梅干しの選別作業  加工工場の1階フロアでは、ベルトコンベヤーの脇に並んで立つ10人ほどの従業員が、主力商品である梅干しの選別作業を行っていた。手作業で実の大きさを選り分け、サイズごとのラインに載せていく流れだ。案内をしてくれた管理本部参与の中田(なかだ)正寛(まさひろ)さんが、「この工程は、まだまだ人の手が必要です。ちょうどいま、ミャンマーやベトナムからの技能実習生が来て働いてくれています」と説明する。  しばらくすると、男性が奥から大きなプラスチック製のカゴを運び込んできて、コンベヤーの端から大量の梅干しを投入し、選別作業に加わった。この男性が2005年に入社した辻田(つじた)武弘(たけひろ)さん(42歳)だ。現在は8時から17時までのフルタイムで勤務している。  知的障害のある辻田さんは、以前はパン製造・販売店で働いていたが、職場になじめず退職したという。その後、辻田さんの家族からの相談をハローワーク経由で受けた和田さんが、「とりあえず本人に会ってみよう」と応じた。そして、辻田さんとの面接を担当した中田さんは「口数は少ないもののまじめそうな印象でした。加えて運転免許を持っており、自力通勤が可能であったことも大きな要素でした。というのも、工場の周辺は公共交通機関を利用しようとするととても不便ですから」と語る。  パンドラファームにとっては、知的障害のある人を雇用するのは初めてだったが、和田さんは「当時の工場は現在ほど大きくなかったこともあり、目も届きやすい環境でしたから、まずはやってみようという判断でした」という。  辻田さんを指導したのは、ベテランの女性従業員だった。選別作業の手順を手取り足取り教えながら、「厳しさも含め、母親のように見守ってくれていたようです」(中田さん)。当初の印象通り、辻田さんは欠勤することもなくまじめに取り組みながら、1人でも仕事ができるようになった。  現在、現場のリーダー役を務めている福嶋(ふくしま)崇人(たかと)さんは、辻田さんについて「日々の作業については安心して任せています。休まず出勤してくれるのも大きな支えです」と評価する。「全体の工程の流れにあわせて指示を出すこともありますが、しっかりと理解して動いてくれます。心がけているのは、たまに確認の声がけをすることぐらいです」とのことだ。  近年は技能実習生や特定技能外国人が増えており、辻田さんが身ぶり手ぶりで作業を教える場面も見られるそうだ。福嶋さんは「今後も職場の先輩として、さらに指導できるようになってもらえたら」と期待する。  辻田さんにも話を聞いたところ、最初に仕事を教えてくれた女性従業員はすでに定年退職しているそうだが、「とてもやさしかった」とふり返ってくれた。いつも磨きあげた車で通勤してくる辻田さんは、車の運転が好きとのことで、中田さんたちにすすめられてフォークリフトの資格も取得したという。  最後に、この会社に入ってよかったことを辻田さんにたずねたところ、「事業内容自体がすばらしいと思います。安心して食べられるものをつくっているからです」と、はっきりした言葉で答えてくれたのが印象的だった。 手作業で商品シール貼り  加工工場の2階には、商品の箱詰めや出荷作業を行うフロアがある。梅干しをはじめ、梅酢を使った紅ショウガ、干し柿、ドライフーズなど30種類以上のパック・袋詰め商品が、生協などからの注文に応じて日々出荷されている。  フロア内は、大口注文に対応する複数人での作業と、小口注文に対応する個別作業に分かれている。このうち小口注文用の作業台では、注文数にあわせて印刷されたシール状のラベルと商品がセットになったものを確認しながら、1ケースごとにラベルを貼って箱詰めしていく流れとなっている。  ここで同僚2人とともに作業していたのが、2018年に入社し勤続8年になる山田(やまだ)真由美(まゆみ)さん(31歳)。就労移行支援事業所に通っていたときに、奈良県内の障害者就業・生活支援センターの担当者と一緒に加工工場を見学し、1週間ほどの職場実習を経験。「みなさんがやさしく、すごくよい雰囲気でした」と入社を希望したそうだ。山田さんも車通勤をしている。  最初は大口注文用の作業現場に配属され、同僚と一緒にラベル貼りや箱詰めをしながら作業の段取りを覚えていった。2年ほど前からは、一連の作業を1人で完結させる小口注文用の担当も任されるようになったそうだ。  加工事業部で上司の松本(まつもと)左余三(さよみ)さんは、山田さんの仕事ぶりについて「ほかの人よりも少しだけ作業がゆっくりかもしれませんが、その分、ラベルの位置をきっちり正確にそろえて貼ってくれています。作業は特に指示をしなくても任せられますし、わからないことはすぐに聞いてくれます」と評価している。また出勤時と退勤時には、松本さんが離れた場所にいても必ず近くまで来て「おはようございます」、「お先に失礼します」と挨拶してくれるそうで「とてもていねいなので感心しています」とつけ加えた。  一方で、山田さんはふだん自分から話すタイプではなく、作業も黙々とこなしていることが多いため、松本さんは「たまに心配になって『楽しくやっているかな?』と声をかけるようにしています」という。  そんな山田さんと松本さんはSNS(LINE)でも連絡を取りあっており、体調不良による欠勤時も、きちんと理由を含めて伝えてくれるとのことだ。ちなみに先日は、LINEを通じて、山田さんがウクレレを演奏している動画を送ってくれた。10年ほど前から母親の知人である先生のもとで月2回レッスンを受けていて、得意な曲は『涙(なだ)そうそう』だそうだ。  パンドラファームで働き始めてよかったことについてたずねると「自分の好きなものが買えるようになったことです」と語る山田さん。「お給料のうち2万円をお母さんにあげて、2万円を貯金して、残りは自分でウクレレ関係のものを買っています」と教えてくれた。 臨時アルバイトから  パンドラファームでは、障害のある求職者だけでなく、引きこもりなど働きづらさを抱えた人にも職場体験の場を提供し、状況に応じて雇用につなげてきた。  きっかけの一つが、15歳から49歳までを対象としている、厚生労働省委託の就労支援機関「地域若者サポートステーション(サポステ)」(※1)から農業体験者を受け入れたことだ。これまでに30回以上、延べ80人以上が参加したという。  さらに、当時サポステの指導員だった女性を、2015年から障害者雇用担当として採用した。入社後は、当機構(JEED)が実施する企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修(※2)を受講してもらい、職場定着支援や地域の支援機関との連携強化に取り組んだそうだ。女性はその後、持病の療養のためやむなく2023(令和5)年に退職したが、中田さんは「在籍中は、新たに採用した人たちへの支援に加え、毎月一人ひとりと面談を行って心理面のフォローもになってくれました。必要な情報を職場内で共有してくれたことで理解が進み、障害のある従業員本人と同僚とのコミュニケーションも深まったように感じます」とふり返る。  現在は専任の障害者雇用の担当者がいるわけではないが、和田さんは「職場全体が自然体で見守る雰囲気になっていると思います。技能実習生も含め、いろいろな方たちが一緒に働いていることで、互いに思いあえる関係ができているのだと感じます」と語る。  また、サポステからの受入れとは別に、臨時アルバイトをきっかけに採用へとつながったケースもある。パンドラファームが新聞の折り込みチラシで募集した臨時アルバイトに応募してきた男性は、担当する柿の選果作業に最後までまじめに取り組んだ。この様子を見ていた中田さんたちは、そのまま常勤の従業員として、ビニールハウス栽培の手伝いなどを担当してもらうことにした。採用時にあらためて本人から話を聞いていくと、精神障害があることを打ち明けられたそうだ。和田さんは「私たちのおもな業務は加工と流通・販売ですが、収穫された梅や柿をサイズごとに選り分ける選果作業、所有するビニールハウスでの野菜の栽培なども行っています。各工程で、さまざまな仕事がありますから、障害の有無に関係なく、その人ができる範囲で無理なく取り組めるのではないかと思います」と説明してくれた。 福祉施設との連携  2021年に奈良県内で初となる「もにす認定制度」(※3)の認定を受けたことを機に、和田さんたちは「もっと地域の障害者雇用に貢献できることはないか」と考えるようになったという。  まず検討したのが、知的障害のある人たちが通う福祉作業所への業務委託だ。例えば、干し柿の一種「あんぽ柿」の加工工程のうち、皮むき作業は専用の機械に一つずつセットしていけば自動的に皮がむける。比較的取り組みやすい手作業であることから、和田さんは、地域に点在する複数の作業所に声をかけて「毎日5、6人程度を工場に派遣してもらえる体制がとれるよう、作業所同士で連携できないか」と提案してみたという。しかし、残念ながら実現はしなかった。シフトを組んで決まった人数を派遣するというのは、通所者の急な休みなどもあるためむずかしいからだという。「よかれと思っての提案でしたが、現場の実情から、簡単にはいかないものだと実感しました」(和田さん)  その後、パンドラファームは、主要取引先でもある「市民生活協同組合ならコープ」(以下、「ならコープ」)の子会社で、就労継続支援A型事業所を運営する「株式会社ハートフルコープよしの」(以下、「ハートフルコープ」)の新たな取組みに協力している。  拠点となるのは五條市内にある旧小学校で、2021年の統廃合で廃校となったのを機にハートフルコープが市から借り受けた。体育館や教室を活用してシイタケ栽培や干し柿・干し芋の加工などを行う計画だ。  このうち干し柿は、パンドラファームから提供される半生状態の「あんぽ柿」を、体育館でさらに乾燥させるのだという。昨年、試験的にパンドラファームからの業務委託で取り組んだところ、無事に仕上がったそうだ。今後はあんぽ柿を仕入れる形にして、ハートフルコープで販売していくという。  「干しいも」は、2025年に総務省の地域振興関連の助成金を活用して加工用機械などを導入し、ならコープから仕入れたサツマイモで商品化することができた。さらに校庭の一部を畑に整備しサツマイモ栽培も手がける予定で、2026年から本格的に動き出したい考えだ。  ハートフルコープでは現在、フレンドリー社員と呼ばれる利用者56人が、宅配水の製造や小ロット農産物の集荷作業、水耕栽培などを行っている。専務取締役の竹村(たけむら)彰(あきら)さんは「利用者が増えていることもあり、より安定した働く場の確保を視野に入れた農福連携事業として、パンドラファームさんの協力も得ながら取り組んでいきたい」と説明する。和田さんも「農業従事者の高齢化が進むなかで、柿の生産量を守っていくためにも、加工分野を含めた農福連携の重要性は今後さらに高まっていくと思います」と期待を寄せる。 農業を守っていくために  パンドラファームが、地域の就労支援機関などと連携してきた背景には、やはり急速に進む労働力人口の減少がある。和田さんは「このあたりの山間地域では、通常の求人募集だけでは、なかなか人員確保をするのはむずかしいのが現実です」と話す。  五條市は、2005年の市町村合併時には人口3万8000人を超えていたが、2026年3月末時点では約2万6107人まで減少している。約20年間で1万2000人ほど減ったうえ、高齢化率も約4割に達しようとしている。和田さんは「五條市は柿の生産量が市町村で日本一を誇りますが、収穫時期などには都市部から臨時で多くの方を雇用し、私たちの工場も3年ごとに技能実習生に依存せざるを得ないのが現状です」と明かす。  農業そのものを守っていくために、和田さんたちは、にない手不足を解消すべくスマート農業(※4)の導入にも取り組んでいる。山の斜面に広がる梅の圃場(ほじょう)は作業負担が大きいことから、リモコン式草刈り機や自走型運搬車などのスマート農機を生産者間で共有し、効率的な生産を目ざす実証プロジェクトを進めているそうだ。「それでも」と、和田さんは続けて語ってくれた。  「農作物の生産から加工、販売までの間には、やはり人の手に頼らざるを得ない作業が多くあります。そのなかには、障害のある人も特性を活かして戦力になれる作業もまだまだあるでしょう。今後も地域で連携し、いろいろな人が多様な働き方をしながら、少しでも農業にかかわることのできる場や機会を増やしていけたらと考えています」 ※1 「地域若者サポートステーション(サポステ)」については、厚生労働省ホームページをご覧ください。 https://saposute-net.mhlw.go.jp/ ※2 「企業在籍型職場適応援助者養成研修」については、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/seminar/job_adapt02.html ※3 「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)」については、厚生労働省ホームページをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/monisu.html ※4 スマート農業:ロボットやAIなどの先端技術を使って、農業の作業効率化や品質向上を目ざす取組み 写真のキャプション 株式会社パンドラファームグループ代表取締役の和田宗隆さん 管理本部参与の中田正寛さん 加工工場で働く辻田武弘さん 梅干しの選別作業を行う辻田さん 加工工場のリーダー役を務める福嶋崇人さん 山田さんは、小口注文の出荷作業を担当している 商品にラベルを貼り、ダンボール箱に詰めてゆく 出荷部門で働く山田真由美さん 加工事業部の松本左余三さん 干し柿の一種で半生状態の「あんぽ柿」(写真提供:有限会社農悠舎) 「あんぽ柿」をより乾燥させた「干し柿」(写真提供:有限会社農悠舎) ならコープで販売された「干しいも」(写真提供:株式会社ハートフルコープよしの) 総務省の地域振興関連の助成金を活用して導入した「乾燥機」(写真提供:株式会社ハートフルコープよしの)