エッセイ 障がいのある人が働きやすくなるヒントと考え方 第4回 福祉の世界に“ビジネスのプロ”が少ない理由 放送作家・ライター 姫路(ひめじ)まさのり  放送作家として、数多くのテレビ・ラジオ番組の制作をにない、ライターとして、新聞や雑誌、ウェブメディアで記事を執筆。同時に、ダウン症をはじめ、自閉症などの障がい、HIV・AIDSなどの支援事業にたずさわり、当事者の声を取材。執筆や講演活動を通し、その思いを伝える。  著書に『ダウン症で、幸せでした。〜10年追いかけて分かった幸福の秘密』(東京ニュース通信社・講談社、2025年)、『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。〜ソーシャルファームという希望』(新潮社、2020年)などがある。 本棚にビジネス本、どれくらい並んでいますか?  週末ともなれば、ご家族や関係者向けのセミナーに参加する機会も増えました。「親なき後」、「就労支援」などテーマはさまざまですが、ふと感じるのは登壇者の多くは福祉の専門家で、ビジネスの専門家が少ないという現実です。放送作家という職業柄、他人の本棚を分析するのが大好きで、施設に出向くたびにブックスペースや卓上の本棚を眺めてしまいます。すると大抵は、福祉関連の書籍は充実しているわりに、ビジネス関連の書籍は隅っこにこぢんまりと置かれていることに気づきます。職員さんに、ベストセラーとなったビジネス書についてたずねても、「そんな本、あるんですね?」とビックリされることさえも…。  勘違いしないでほしいのは、職員さんが不勉強だとは思っていません。前述のようなセミナーや勉強会にも足しげく通う方も多く、むしろ勉強熱心な方が多い印象です。ただ、その勉強すべき範疇に「ビジネス」の要素が抜け落ちていませんか?と感じるのです。 経営の視点を兼ね備えた“福祉ビジネスマン”!  じつは僕の周りには、経営の視点を兼ね備えた“福祉ビジネスマン”とでも呼ぶべき人物が何人かいます。例えば、企業関係の交流会に参加しては、「その仕事、うちで請け負いますよ」と仕事を取ってくる営業マン。彼は飲食店のDM作業やSNS運営のお手伝いなど、絶えず新規の仕事を発掘している。利用者に新しい作業に挑戦してもらいながら、可能性を探り続けています。  もう一人、僕も尊敬する人物が砂長(すななが)美(び)んさんです。彼女は商品開発から売り場開拓まで、施設の商品開発コンサルティングをしています。一躍有名になったのが、2014(平成26)年に始めた国会議員会館での障がい者施設がつくった商品の販売です。彼女曰く、もっともよく売れた商品がコーヒーだそうで、中身ではなく、パッケージに国会議事堂のイラストをあしらうことで、“永田町おみやげ”に変えるという“マジック”をかけたのです! 砂長さんは、『障がい者がつくったんです、買ってくださいは全然違う。お客さんが、「おもしろいな」、「友だちや会社に配りたい」、という気持ちになる商品こそが大切』と語ります。ほかにも金箔を豪華にあしらった「金箔紅茶」。利用者さん手づくりの粘土細工を「群馬埴輪(はにわ)」として売り出すなど、そのアイデアはユニークで、同時に実益にもつながっています。  砂長さんにかぎらず、作業所における「外部コンサルティング」がになう役割は少なくないと感じています。ただ、業務の切り出しや定着など“利用者の就労支援のコンサルティング”はさておき、商品開発や販路拡大など“売上げを伸ばすためのコンサルティング”に、報酬を支払って依頼することに、ためらいを感じる人も多いのではないでしょうか? 実際には、ロイヤリティを払えば東京タワーの絵柄をパッケージに使うことも可能だったり、プロでしか知りえない知見や提案は無数にあります。 大切なのはビジネスと福祉のバランス  ただもちろん、売上げがすべてとは思っていません。このエッセイでもいく度とご紹介した滋賀県にあるクッキーなどのお菓子工場「がんばカンパニー」さんも、かつて大企業の発注に依存するあまり、“無理な仕事”を受注していた過去もあったとふり返ります。いまはその反省を糧とし、「自分たちの商品に共感してくれる取引先」を吟味し、オリジナリティを構築しています。  大切なのは【ビジネスと福祉のバランス】であり、就労をになう作業所は、その両輪を考え続けることが求められます。だからこそ、そのやりくりは、一般企業よりもむずかしいと、私自身も強く感じています。企業と違い営業や広報などの部署を持つことは現実的ではありません。ただ、そうした志向を持ち得ることは、だれでも可能です。みなさんの脳内メーカーの片隅に少しでも、「ビジネス」、「経営」という視点が入れば、また違った世界が見えてくるのではないでしょうか? ぜひ、本屋にお出かけの際は、ビジネス本コーナーもチェックしてみてくださいね! ★本誌では通常「障害」と表記しますが、姫路まさのりさんのご意向により「障がい」としています