研究開発レポート 職場復帰支援におけるキャリア再形成に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 1 はじめに  2022(令和4)年に改正され、2023年4月から施行された改正「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、雇用の質の向上に向け、事業主の責務が明確化され、キャリア形成の支援を含め適正な雇用管理をよりいっそう積極的に行うことが求められることとなりました。休職した精神障害者の職場復帰支援は本人のキャリア形成の観点からも重要です。  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)障害者職業総合センター職業センターでは、うつ病等により休職した労働者の職場復帰を支援するためのリワークプログラムなどを開発し、全国の地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)においてリワーク支援を行っています。企業による積極的な職場復帰支援につながるよう、重要な要素であるキャリア形成支援に焦点を当て、キャリア形成支援の実態や本人への影響、キャリア観の変化等を明らかにするため、2023年度〜2025年度に「職場復帰支援におけるキャリア再形成に関する調査研究」を実施しました。  本調査研究では、「キャリア」を「『個人が生涯にわたって仕事や社会とどのように向き合い、どのようにかかわっていくのかということ。ライフキャリア』を意味する」と定義し、リワーク支援等を活用して復職した社員のキャリア観(仕事観・やりがい・人生・興味といった自身の価値観)のふり返りを「キャリアの見つめ直し」と表現しています。 2 職場復帰支援実施機関における「キャリアの見つめ直し」に影響を与えた支援  職場復帰支援実施機関による復職支援の実態等について、医療機関と地域センターを対象にアンケート調査を行うとともに、医療機関、地域センター、EAP(※1)機関、リハビリテーション機関に対し、ヒアリング調査を実施しました。  医療機関では、利用者の「キャリアの見つめ直し」に影響を与えた支援として、「自己洞察」(100%)、「症状自己管理」(84.1%)が高い割合で見られました。  地域センターでは、「キャリアの見つめ直し」に影響を与えた支援として、「キャリア支援」と「障害特性支援」が高い割合であげられました(図)。また、キャリアと直接的な関連はないように見える「基礎体力支援」についても一定数回答が見られました。職業生活では、睡眠や食生活など生活リズムの安定が重要であり、長時間の残業等による生活リズムの乱れがメンタル不調の要因となる場合があります。そのため、生活リズム表を活用した生活管理≠ネどの支援を通じて、働き方をふり返ることが、キャリアの見つめ直しにあたって重要であり、「基礎体力支援」の回答につながったと推測されます。 3 企業における復職支援とキャリア形成の取組み リワーク支援等を利用し復職した社員が在籍する企業でのキャリア形成支援の実態について、アンケート調査とインタビュー調査を実施しました。対象企業は、地域センターやリハビリテーション機関による支援を利用し復職した社員が在籍する企業です。アンケート調査への回答企業は30社(回収率83.3%)、インタビュー調査は13社を分析対象としました。  アンケート調査では、復職した社員に対して、「産業保健スタッフ、管理部門、従業員所属部署等」が連携して対応しており、休職に至るまでの働きかけでは、「取得可能な休職期間や休業補償、復職に関する情報(傷病手当金などの経済的な保障・休業の最長期間)等について説明した」や「産業医相談を勧める、受診を促す」が多くあげられました。  また、キャリア形成を支える取組みについて、一般社員に対しては、回答企業の8割以上が、「スキルアップ研修」、「定期面談・1on1ミーティング」、「目標管理制度」を実施していました。一方、復職した社員に対しては、「定期面談・1on1ミーティング」、「目標管理制度」、「スキルアップ研修」の順に実施率が高かったものの、一般社員と比べると実施率の割合が低位でした。  インタビュー対象企業では、一般社員と復職した社員に対するキャリア形成の仕組みに差異はなく、同様の研修制度や目標管理制度が適用されていました。一方で、復職後の支援は個別対応が中心であり、産業保健スタッフ、人事、上司が連携し、面談や業務調整を通じて本人の状態に応じた支援が行われていました。発達障害の特性や高次脳機能障害のある社員については、企業のキャリア形成支援の方針と本人の特性との調整の困難性が指摘され、適性の見きわめや職務設定に苦慮する声もありました。  復職支援のなかで行われる業務調整や面談は、社員本人の希望や主体性を尊重する姿勢が顕著であり、本人の意向をていねいに聴取し、キャリア形成支援に反映させる取組みが多く見られました。こうした支援は、復職後の安定した就業がキャリア形成支援の出発点となるとともに、その後の自律的なキャリア構築をうながすうえで重要な取組みになっているものと考えられます。 4 復職した社員から見た「キャリアの見つめ直し」  復職した社員のキャリア観の変化やその変化に影響を与えた要因、企業や支援機関による取組みに対する受けとめの実態を明らかにするため、アンケート調査への回答企業のうち、インタビュー調査に協力いただける社員(分析対象:12名)に対しインタビュー調査を実施しました。対象者にはキャリアに対する考え方や、その考えに影響を与えたこと、企業や支援機関による復職およびキャリアを支える取組みへの受けとめなどをたずねました。  精神疾患により休職し復職した社員からは、地域センターのリワーク支援のプログラムやメンバーとの交流などを通じて、健康や人間関係などを重視する働き方や生き方へと価値観が変化したことが語られました。復職後の部署や職務、配慮事項に対してはおおむね肯定的に受けとめられていました。リワーク支援での企業を交えた定期的な面談が、配慮事項の調整や上司・同僚によるサポートにつながり、企業によっては、組織の働き方改革との相乗効果で、復職した社員の受けとめによい影響を与えたと考えられました。高次脳機能障害により休職し復職した社員からは、休職期間を経て、仕事中心の考え方から、健康を重視する考え方へと変化したことが語られました。復職後に職務内容や周囲の人の態度に不安などを抱いていた時期があったものの、上司や産業保健スタッフ、人事担当者とコミュニケーションをとり、復職後の部署異動や職務内容の調整を通じて、前向きに働くことができていることが語られました。また、復職支援を通じて障害が職務に及ぼす影響に気づいたうえで、自分ができる範囲で会社に貢献したいという思いや、自身の状態を知る人がいなくなった場合など将来のキャリアへの不安を抱いていることが示されました。これらの点から、企業と復職した社員とのコミュニケーションが重要になると考えられました。 5 最後に  本調査研究では、職場復帰支援機関を対象としたヒアリング調査やアンケート調査、企業および職場復帰した社員へのインタビュー調査結果等が示されており、復職した社員がどのようにキャリア形成を図っていくか、支援を検討するうえでの参考としてご利用いただけます。本調査研究報告書(※2)は障害者職業総合センターホームページで公開していますので、ぜひご活用ください。 ※1 EAP:Employee Assistance Programの略で、従業員支援プログラムのこと ※2 調査研究報告書No.183「職場復帰支援におけるキャリア再形成に関する調査研究」は、以下のホームページでご覧になれます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku183.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図 利用者の「キャリアの見つめ直し」に影響を与えた(復職)支援(複数回答) 医療機関の回答 n=69 自己洞察(n=69) 100.0% 症状自己管理(n=69) 84.1% モチベーション(n=62) 72.6% コミュニケーション(n=68) 58.8% 感情表現(n=34) 50.0% 作業能力・集中力(n=65) 35.4% その他(n=10) 30.0% リラクセーション(n=68) 29.4% 基礎体力(n=63) 20.6% 地域障害者職業センターの回答 n=48% キャリア支援(n=48) 89.6% 障害特性支援(n=48) 79.2% 作業遂行支援(n=48) 52.1% 企業連絡支援(n=44) 47.7% 新たな職務支援(n=28) 46.4% 対人技能支援(n=48) 45.8% その他(n=11) 45.5% 基礎体力支援(n=48) 41.7% 企業支援(n=45) 31.1% 医療連絡支援(n=44) 27.3%