クローズアップ マンガでわかる! わが社の障害者雇用物語 最終回 障害者雇用を始めてみませんか  第1回のマンガで、障害者雇用について何も知らないところから取り組み始めたジード工業株式会社。社長と人事担当者の2人が奮闘する姿を通して、障害者雇用で検討すべき内容や相談先、募集から採用、定着までの道のりを5回にわたり紹介してきました。最終回はこれまでの内容をふり返りながら、ポイントなどを再確認します。ぜひ実際に障害者雇用に取り組んでみましょう。 ★これまでの連載(2024年9月号〜2025年1月号)はこちらからご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html 監修:三鴨(みかも)岐子(みちこ) (『働く広場』編集委員)  名刺や冊子などのデザインを手がける「有限会社まるみ」の取締役社長。精神保健福祉士。  障害のある社員の雇用をきっかけに「中小企業の障害者雇用推進」に関する活動を精力的に行っている。 1 情報収集から始めよう  2024(令和6)年4月から民間企業の障害者の法定雇用率が2.5%になり、2026年7月には2.7%に上がります。雇用障害者数は、週の所定労働時間と障害の程度などによって算定します(※1)。障害者雇用は法的義務にとどまらず、企業の社会的責任やダイバーシティ&インクルージョンの一環としても重要な取組みです。  マンガでは、働田社長は経営者の集いで自社に障害者の雇用義務があることをはじめて知りました。その後の情報収集にはハローワークや地域障害者職業センターなどの支援機関(※2)の活用が役立ちます。また、人事担当者の広田さんと一緒に行動していますが、このように経営トップだけでなく、チームを組んだり、企業全体で障害者雇用に取り組むことで、障害者雇用を円滑に進めることが可能となります。 2 職務を選定しよう  はじめて障害者雇用を考える企業では、「どんな仕事を任せたらよいのか」と悩むケースが見られますが、障害のある人が「活躍できる」職務を選定することが大切です。そのためには業務全体を見直して、適した職務を探して創出する「業務の切り出し」が有効です。また、職務を選定しても、採用後に障害特性や本人の希望をふまえたり、就労支援機器の導入や教育・訓練を通じて職場環境を整えたりして、職務の幅を広げていきましょう。  導入初期の職務の内容は、@判断要素が少ない、A納期に縛られない、B作業内容に変化がなく恒常的な作業量である、とよいでしょう。マンガでは地域障害者職業センターへ相談後、各部署の声を聞きました。それらを反映させた整理表(※3)を作成し、活用することで、自社に合った職務を創出することができます。 3 職場実習で相互理解を深めよう  求人票を出すなど本格的な採用活動を始める前に、職場実習を行うことは、企業と障害のある人双方が相互理解を深めるよい機会です。  実習を設定するには、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、特別支援学校などに相談し、自社に適した実習希望者を紹介してもらう方法があります。  実習前には、作業内容や時間、必要な配慮事項などを十分打ち合わせしておくことが重要です。企業側は「障害のある人の特性を理解し、職場環境を見直し、どう改善すればよいのかを確認する場」、実習者側や支援機関も「実際の職場環境でどの程度本人が実務にたずさわれるのかを知る機会」となります。そのため、実習中には、支援機関等のチェックリスト(第3回で紹介)を活用することで実習者の様子を確認し、相互理解を進めるとよいでしょう。  マンガでは実習後に働田社長と人事担当者の広田さん、現場社員、実習者本人、支援機関が集まり、「ふり返り面談」で感想や課題などを述べています。このふり返りによって、必要な気づきや課題解決へのヒントが得られ、よりよい職場環境を構築できます。 4 採用活動と合理的配慮  障害のある人の採用活動そのものは、一般的な採用活動と同様ですが、留意する点や配慮が必要な点もあります。障害者雇用のノウハウがない場合は支援機関を活用するとよいでしょう。  例えば、ハローワークでは求人票作成や採用時の留意事項の相談ができ、障害者トライアル雇用や特定求職者雇用開発助成金など(※4)についての説明も受けられます。  そして重要になるのが雇用の分野における合理的配慮です。障害のある人が障害のない人と均等な待遇を得られるよう、また能力を有効に発揮できるよう障害特性などに応じた配慮を提供することです。  採用選考時は、障害のある人の申し出により、面接日までに本人と話し合うことが必要です。採用後についても雇入れ時までに本人と話し合います。マンガでは人事担当者の広田さんが面接時の合理的配慮についてハローワークの職員から教わっています。 5 支援機関と連携して職場定着を目ざそう  だれでも新しい職場に慣れるには時間が必要です。加えて、障害のある人は疲れやすさなどの特性があったり、「配慮してほしい」といえず、早期離職したりする場合もあります。一方、企業側も業務で生じた課題や本人の要望が障害特性に起因するものか、そうでないかの判断や適切な指導方法に悩むことがあります。そのため、支援機関と連携して職場定着に向けた支援に取り組みましょう。  企業は、障害のある人が職場に適応しやすくするため、職場に職場適応援助者(ジョブコーチ)の派遣を受けることができます(※5)。ジョブコーチは、障害のある人に対しては、職務遂行に関する支援や職場でのコミュニケーションに関する支援を行い、企業に対しては、障害を適切に理解し配慮するための助言、職務内容や指導方法を改善するための助言・提案を行います。また、障害者就業・生活支援センターからは、就業面と生活面の一体的な支援を受けることができます。マンガでは、一例として職場でのサポートは地域障害者職業センター(ジョブコーチによる支援)が行い、健康面での相談も含めた日常生活等に関するサポートは障害者就業・生活支援センターが行う様子を描いています。 おわりに  障害者雇用は個人や担当者任せにせず、必要に応じて支援機関と連携し、職場内の理解を深めながら企業全体で取り組むことが大切です。そのうえで、マンガ(第5回)で働田社長と人事担当者の広田さんが会話しているように、「働くその人自身をしっかりと見る」ことが、ともに長く働いていくためにもっとも重要な姿勢なのです。 ※1 障害者雇用率の算定方法:JEED『はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜』2024、P129 ※2 障害者雇用について相談できる支援機関一覧:https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003mbkm.html ※3 職務内容の整理表:JEED『はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜』2024、P30 ※4 制度の詳細はこちらをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jigyounushi/intro-joseikin.html ※5 職場適応援助者の詳細はこちらをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06a.htm 写真のキャプション 働田(どうだ)社長 人事担当者広田さん 出荷部門社員 障害者職業カウンセラー 実習生 千葉さん ハローワーク職員 障害者就業・生活支援センター職員