特集 第44回 全国アビリンピック 11月22〜24日  「第44回全国障害者技能競技大会(全国アビリンピック)」が2024(令和6)年11月22日(金)〜24日(日)、第62回技能五輪全国大会とともに愛知県常滑(とこなめ)市の愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)で開催された。今回は、全国47都道府県から集まった選手398人が、技能競技25種目と技能デモンストレーション2職種で日ごろつちかってきた技能を披露した。 文:豊浦美紀/写真:官野 貴・岩尾克治 11月22日(金) 開会式  2019(令和元)年以来の対面形式となった開会式は、第62回技能五輪全国大会と合同で行われた。オープニングでは、愛知県立春日井(かすがい)高等特別支援学校音楽部によるハンドベル演奏と、名古屋たちばな高等学校マーチングバンド部のパフォーマンスが会場を盛り上げた。  大村(おおむら)秀章(ひであき) 愛知県知事の挨拶のあと、安藤(あんどう)たかお厚生労働大臣政務官に続き登壇した当機構(JEED)の輪島(わじま)忍(しのぶ)理事長は「1972(昭和47)年に日本で始まったアビリンピックは、いまや世界的な広がりをみせ、多くの人々が参加するたいへん重要なイベントになっています。選手のみなさんは代表としての誇りを胸に、これまでに職場や学校で磨き上げてきた自分の技をいかんなく発揮し競技に臨んでください」などと激励した。また石破(いしば)茂(しげる)内閣総理大臣のメッセージを代読した厚生労働省の堀井(ほりい)奈津子(なつこ)人材開発統括官は「両大会に参加される選手のみなさんがつちかってきた優れた技能が競技を通じて人々に感動を与え、わが国の成長と未来の原動力となることを確信しております」などと伝えた。  アビリンピック大会旗入場では、「家具」種目に出場する井出(いで)依芭(よりは)さん(愛知県)が旗手をつとめた。その後、愛知県立愛知商業高等学校書道部が、音楽にのせた書道パフォーマンスを披露。巨大な紙に「奮励激闘(ふんれいげきとう)」などと躍動感あふれる筆文字を書き上げ、選手たちにエールを贈った。  最後に行われた選手宣誓は、「喫茶サービス」種目に出場する波多野(はたの)千夏(ちなつ)さん(愛知県)が、技能五輪の選手とともに「われわれ選手一同は、これまで支えてくださった方々への感謝の気持ちを胸に、日ごろの訓練成果を最大限に発揮し、最後まで諦めず、正々堂々と競技することを誓います」と力強く表明した。 11月23日(土) 競技紹介 選手・関係者の声 ●ビルクリーニング/喫茶サービス/オフィスアシスタント/製品パッキング  「ビルクリーニング」は、カーペット床清掃(7分)(※)、弾性床(だんせいゆか)清掃と机上清掃(10分)の2課題。資機材の使い方や無駄のない動線、作業態度などが評価ポイントとなる。古川(ふるかわ)拓夢(たくむ)さん(福岡県)は、衛生管理会社に勤めて12年のベテランで、いまは公共施設内の清掃などを任されているそうだ。姿勢と正確な作業順序に気をつけ、社内の研修室で何十回も特訓を重ねてきたという古川さんは「大きな目標は世界一ですが、まずは日本一を目ざしてがんばりたい」と意欲をみせていた。  「喫茶サービス」は、会場につくられた模擬喫茶店で3〜4人程度のグループごとに連携・協力しながら、お客さまがくつろげるよう正確かつスムーズな接客サービスを目ざす(1グループ約60分)。全国アビリンピック初出場の福田(ふくだ)弥空(みく)さん(宮崎県)は、大手化学メーカーの特例子会社で働いている。カフェの仕事に興味があった福田さんにアビリンピック挑戦をすすめたという同社社員は、「将来的には社内でもカフェ事業を検討したい」と話す。1回目の競技後に福田さんは「緊張して練習と全然違っていました。次はもっと周りをよく見て、チームで声がけをして、笑顔で接客したいです」と話していた。  「オフィスアシスタント」は、@配布物の準備(15分)、A発送書類の封入(30分)、B社内便の仕分け(10分)の3課題。スピーディーかつ過不足のない封入、ピンポイントに宛名シールを貼るための集中力や注意力が求められる。  何度か挑戦して念願の全国アビリンピック初出場となった中村(なかむら)楓(かえで)さん(福島県)は、特別支援学校卒業後に地元の銀行の特例子会社で封入作業や振込関係のデータ入力などを担当。同行した上司によると「昨年この種目で銅賞を受賞した先輩社員からアドバイスをもらい、特訓しました」とのこと。競技後、中村さんは「少し緊張しましたが、練習した通りにできました。今後の仕事にもつなげていきたいです」と話してくれた。  「製品パッキング」は、@2種類の緩衝材の組立・結束25セットを5束(30分)、A小箱・中箱・化粧箱・外箱の組立・セットアップ4梱包を4箱分(60分)の2課題。より速く正確にパッキングを完成させるための改善が必要とされる。2回目の挑戦で全国アビリンピック出場を決めた安食(あじき)香菜美(かなみ)さん(島根県)は、母親によると、特別支援学校時代にアビリンピックを見学して興味を持ち、就労移行支援事業所で箱づくりなどをしながら自宅でも熱心に練習していたそうだ。競技後、安食さんは「お母さんにも手伝ってもらって一生懸命練習してきました。点数としては50点ぐらいですが、楽しくできました」と笑顔をみせていた。 ●ワード・プロセッサ/パソコンデータ入力/パソコン操作/表計算  「ワード・プロセッサ」は、ワープロソフトの各種機能(ページ設定、文字入力、書式設定、図表等の利用、ファイルの操作・印刷)を使いこなしながら、作成見本と作業指示書に沿って、和文文書の作成(80分)と英文文書の作成(60分)を行う。  鈴木(すずき)誉(ほまれ)さん(三重県)は、過去の全国アビリンピックで努力賞、銀賞を受賞。電子部品関連メーカーの特例子会社でデータ入力などを担当して9年目。「前回は機能設定に少し手間取ってタイムロスをしたので、今回はしっかり確認してきました」と話す鈴木さんに、同行した社員は「彼は知識もスピードもすばらしく、私たちが教えてもらうほど優秀です」と話していた。結果は銀賞だった。  知的障害のある選手が対象の「パソコンデータ入力」は、アンケート内容の入力、書類とパソコン画面上のデータを見比べたうえでの文書修正、表計算ソフトを使った指示通りの帳票等作成の3課題(各約30分)で、速さと正確さを競う。柳(やなぎ)綺佳(あやか)さん(山口県)は、4回目の全国アビリンピック出場。情報システム会社で事務補助をになっている。同行した社員は「アビリンピックでよい成績を出して職場にもアピールできますように」と神社にお参りしてきたという。過去の講評で「スピードは十分だから、あとは正確さ」と助言され、柳さんは自宅で練習してきたそうだ。「今回は練習の成果を発揮できたと思います。悔いはありません」とふり返っていた柳さんは見事、銀賞を受賞した。  視覚障害のある選手が対象の「パソコン操作」は4課題で、@適切な関数を用いた表計算ソフトのデータ修正・加工、Aインターネットから情報を入手し、表計算ソフトの指定フォーマットへのデータ入力・作成、Bプレゼンテーションソフトを使用した資料の作成、C表計算ソフトの関数を用いたデータ処理(計90分)。藤戸(ふじと)雅也(まさや)さん(岩手県)は、県庁に入職し6年目。いまは表計算ソフトでマクロ設定などの業務を担当している。「銀賞だった昨年は初めてで緊張していたので、今年は落ち着いて臨みたいです」と話していた藤戸さんは、今年は銅賞受賞と健闘した。  「表計算」の競技課題は、@表計算ソフトを使用した表の装飾・編集、A関数式による表の完成、Bデータ処理、Cグラフ作成を行うなかで総合的なスキルを競う(計75分)。畠山(はたけやま)直雄(なお)さん(秋田県)は、大学卒業後に東京都内の企業で働いたあと、地元の銀行に再就職した。アビリンピックへの初挑戦をうながした上司は「職場でも激励会を開催して盛りあがっています」といいながら、畠山さんの様子の動画をリアルタイムで職場に送信していた。競技後、畠山さんは「いままで使ったことがないような表計算ソフトの機能を求める問題も出てきて、いろいろ学べる機会になりました」と笑顔で語っていた。 ●DTP/データベース/ホームページ/コンピュータプログラミング  「DTP」の課題は、「働く大人のためのリスキリング講座」がテーマのオンライン講座を告知し受講意欲を喚起するリーフレット(両面カラー)の作成(3時間30分)。プランニング力のほかタイトルや色彩、レイアウト、フォントなどオールマイティな知識が求められる。大手農業機械メーカーの特例子会社に勤める政所(まんどころ)明日香(あすか)さん(大阪府)は、データ入力などの補助業務を担当し、社内行事のチラシ作成なども任されている。同行した社員は「職場では多様なデザインを時間内にできるよう練習していました。自然と作業スキルも上達し、日ごろの業務にも活かされています」と話す。「全力を出し切りました。今後も好きなデザインを続けていきたいです」とふり返っていた政所さんは、銅賞に輝いた。  「データベース」の競技内容は、機器用具のレンタル会社における貸出品の「レンタル管理システム」を指定された7課題に沿って作成するというもの(3時間)。3回目の全国アビリンピックという手島(てしま)拓身(たくみ)さん(東京都)は、大手電機機器メーカーの特例子会社に勤めて17年。同行した社員は「レベルの高い業務改善の仕事をやってくれています。アビリンピックは本人の希望で、就業時間外に練習していました」とのこと。これまでも全国アビリンピックの表計算とデータベースで銅賞を受賞している手島さんは「レベルの高い方たちと競え、人生の糧になりました。これまでは自分一人で練習することが多かったのですが、今回は周囲からのアドバイスもいただけてよかったです」と笑顔で語り、銀賞に輝いた。  「ホームページ」の課題は、「パラスポーツの魅力を紹介するホームページ」の作成(4時間30分)。作成スキルのほか情報設計や独創性、芸術性、ユーザビリティ、アクセシビリティに関する知識が求められる。上間(うえま)真弓(まゆみ)さん(沖縄県)は、就労継続支援A型事業所でホームページ制作から保守管理、DTP業務なども手がける。競技後は「アクセシビリティへの対応など去年よりむずかしくなっていましたが、なんとか完成させました。今度は、みんなに嫉妬されるような作品を目ざしたいです」と意欲をみせ、努力賞を受賞した。  「コンピュータプログラミング」は、人間と同様に手先の位置と方向を操作できる小型卓上ロボットアームの動きを指示するプログラムを作成し、今回は埴輪(はにわ)の描画を完成させる(6時間)。大手建材メーカーに勤める上島(かみしま)一晃(かずあき)さん(埼玉県)は、5回目の全国アビリンピックで、これまでに「表計算」種目で努力賞を受賞している。「今大会に向けて使用プログラムのロジックを覚えましたが、とにかく計算などがむずかしかったです。今後もメダルを目ざしてがんばりたいです」と前向きだった。 ●機械CAD/建築CAD/電子機器組立/パソコン組立  「機械CAD」の課題は、3次元CADシステムを使用した「伝動軸」の部品図と組立図、組立図と立法分解図の作成(3時間10分)。与えられた組立図、部品図を読図して立体的に把握し、指示内容にしたがって作図と寸法記入などを行う。木村(きむら)智成(ともなり)さん(福井県)は、15年以上勤める大手電子部品メーカーで機械CADを使いこなす。応援に来ていた上司や同僚は「片手が使えない彼にとって、この競技は時間的なハンディキャップがあると感じます」と話していたが、木村さんは「言い訳はしません。全国アビリンピックの問題のレベルが高かったですね。競技のための時間配分が必要でした」と悔しそうにふり返っていた。  「建築CAD」は、小規模なグループホームを目的とした鉄筋コンクリート造2階建てビルの図面(縮尺1/100の平面図、立面図、断面図)をA3用紙2枚に仕上げるなかで、作業の正確さと速さを競う(3時間30分)。佐藤(さとう)康太郎(こうたろう)さん(東京都)は、勤続11年になる大手住宅メーカーで住宅内部設計を担当。4回目となる全国アビリンピックに向けて練習を重ねてきたそうだ。「まだまだ甘いところがあって、悔しい思いがあります」と明かしたが、今回は同種目出場選手のなかで唯一の入賞となる銀賞に輝いた。  「電子機器組立」の課題は、省エネコントローラーの組立(4時間30分)。近年の機器小型化にあわせ、競技でも3.2mm×1.6mm、厚さ0.6mmなど小さな部品を正確に取り扱う技術が求められている。電子機器関連企業に勤めて2年目の静谷(しずや)康平(こうへい)さん(栃木県)は全国アビリンピック初挑戦。応援に来ていた上司らによると「昨年は技能五輪のサポートチームに同行していました。本人は技能検定2級にも合格し、特訓を重ねてきました」という。競技後、同僚たちに囲まれ大粒の涙をこぼしていた静谷さん。「ミスに気づかず作業を進めてしまいました。来年は必ず完成させて入賞、いや金賞を目ざします」と力強くリベンジを誓っていた。  「パソコン組立」は、デスクトップ型パソコンの中身を組み立て、ソフトウェアのインストールや設定を行う(4時間)。ハードとソフトの両面から、作業の完成度や的確さなどを競う。石原(いしはら)正太郎(しょうたろう)さん(愛知県)は、情報システム会社でデータ整理などを担当。前職でパソコン組立の経験があるが、今回は残念ながら完成しなかった。同僚たちに励まされつつ「途中でどこかが破損したのか、画面が映らなくなりました。こうしたトラブル回避も競技のうちですね。また挑戦したいです」とふり返っていた。 ●歯科技工/義肢/家具/木工  「歯科技工」の課題は、歯科医療で使われるCADを用いた被(かぶ)せもの(歯列)のデザイン(2時間)と、CAMを用いてプリントした製作物の課題模型への適合(1時間)。天然歯列に調和したデザイン、かみ合わせ、模型への適合などが評価ポイントだ。箱石(はこいし)哲郎(てつお)さん(青森県)は、歯科技工所を経営しながらアビリンピックに何度も挑戦している。「僕らアナログ世代は、デジタル化についていくのもたいへんですが、思いきって設備投資もして新しい技術を学んでいます」と話し、関係者と熱心に情報交換をしていた。  「義肢」の課題は、繊維強化プラスチック製の「下腿義足ソケット」の製作(4時間15分)。切断部分の正確な型どり、解剖学的・人間工学的知識をもとにした修正、正確な加工・組立を行うための技能などが求められる。今回出場したのは大橋(おおはし)義樹(よしき)さん(茨城県)と、吉原(よしはら)晃一(こういち)さん(長崎県)の2人で、それぞれ義肢の会社に勤めながらの初出場。競技後に大橋さんは「見られながら製作するのは初めてで作業も予想外のことがありました。貴重な経験をていねいな義肢づくりに活かしたいです」と話した。一方の吉原さんは「自身が義足で、会社では測定装具をつくっています。今回の挑戦で多くのことを学べました」とふり返った。結果、吉原さんは金賞に、大橋さんは銀賞に輝いた。  「家具」の課題は、花台の製作(5時間30分)。手工具や木工機械を使って図面にもとづいた正確で見栄えのよい作品を完成させる。板と板、角材と角材の接合をいかに正確に加工できるかが重要だ。選手3人を送り出していた愛知県のろう学校の先生は、「初めてで緊張したようで、いつも通りにはできませんでしたね。3人とも2年生なので、また来年がんばると思います」と話していた。ちなみに同校OBで、第10回国際アビリンピック(フランス・メッス大会)の「家具(応用)」で銅賞を受賞した伊藤(いとう)俊貴(としき)さんは、今回、第62回技能五輪全国大会に出場したそうだ。  知的障害のある選手が参加する「木工」の課題は、「蓋(ふた)付き木箱」の製作(5時間)。のこぎり、のみ、かんななどの手工具を使い、機械作業ではできないような完成度の高い洗練された製品づくりを競う。高等特別支援学校3年生の坂尾(さかお)麻奈(まな)さん(茨城県)は、銅賞だった昨年の講評を参考に、重点的に練習したそうだ。同行した先生は「学校には各種コースがありますが、専門的な学習を通して、働くときに必要な姿勢、挨拶や報告、同僚との協力などを全般的に学び、どんな業種でも通用するようにして就職を目ざしています」という。すでに木工関係の会社から内定をもらったという坂尾さんは、「今年は90点です。思い残すことはありません」と手応えを語った通り、銀賞に輝いた。 ●洋裁/縫製/フラワーアレンジメント/ネイル施術/写真撮影  「洋裁」の課題は、薄手ウールを使ったオーダー仕立ての「オーバーブラウス」の製作(6時間)。粗裁(あらだち)された布地の裁断→芯貼り→印付け→本縫いミシン→アイロン→ロックミシンの順で作業を進める。見た目も美しい仕上がりが求められる。梅本(うめもと)遙香(はるか)さん(大分県)は、10年近く勤める服飾会社で裁断を担当し、社長からアビリンピック挑戦をすすめられ、初挑戦。「職場とは違うやり方が多くて戸惑いましたが、なんとか仕上がりました」と安堵の様子だった梅本さんは、今回同種目でトップとなる銀賞を受賞した。  「縫製」の課題は、エプロンの縫製(4時間)。配布された9枚のパーツをもとにミシンやアイロンなどを使って完成させる。布地の表裏を正しく見きわめ、各工程にあわせた適切な技術と判断力が必要とされる。松(まつたか)美咲(みさき)さん(佐賀県)は、大手自動車部品メーカーの子会社で車のシートカバーの縫製などを担当。アビリンピックには特別支援学校時代から挑戦し、今回の初出場を受けて先生が自宅に指導に通ってくれたそうだ。「今回はポケットの部分がきれいにできなかったのが反省点。練習がたいへんだったので、再挑戦するかどうかは考えます」と苦笑いしていた。  「フラワーアレンジメント」は花束(55分)、ブライダルブーケ(55分)、会場装飾(90分)の3課題。このうち会場装飾は骨組みを使ったアレンジメントで、国際アビリンピックの競技内容が取り入れられた。不動産会社に勤める兵頭(ひょうどう)麻耶(まや)さん(愛媛県)は、フラワー教室の講師も務めるほどの腕前で、以前通っていた職業訓練校にすすめられて出場。「今日は講評で先生にブーケをほめていただいて励みになりました」と語っていた兵頭さんは、努力賞を受賞した。  「ネイル施術」は、ネイルケアとカラーリング(75分)、ネイルチップアート(70分)の2課題。健康的で美しい爪と指を保つためのマニキュアサービス技術と、小さな爪の上に表現するアートの芸術性などを競う。初出場の櫻田(さくらだ)史武(ふみたけ)さん(広島県)は歯科技工士だ。妻のネイルを歯科材料で修復できたことから興味を持ち、専門学校に通ってネイルの資格を取得。いまは週末にネイルサロンや教室を開いている。聴覚障害のある櫻田さんは競技後「アビリンピック出場を機にネイル技術への向上心が深まり、よい経験になりました。また参加して金メダルを目ざしたい」と話し、今回努力賞を受賞した。  「写真撮影」の課題は、愛知県国際展示場で開催されるアビリンピックをパンフレットなどで紹介することを想定した、「行ってみたい」と思える魅力的な写真の撮影(4時間)。展示ブースで撮影許可を得たポートレートも含め、基本的な技術や構成力などを競う。森ア(もりさき)久美子(くみこ)さん(香川県)は、就労継続支援B型事業所で梱包作業などをしているが、写真が趣味であることから周囲にすすめられ2回目の出場。「昨年よりもできたと思うのですが、参加選手が増えてレベルが高いですね。次は編集ソフトを使えるようになりたいです」と抱負を語ってくれた。 ●技能デモンストレーションRPA/ドローン操作  今回初めて実施された「RPA」は、「Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」のことで、パソコンで行う事務作業の自動化をさす。競技は@プログラムの新規作成、Aプログラムの修正と機能追加の2課題で、成果物の結果の正しさや処理動作の安定性・速さ、可読性(わかりやすさ)が求められる。競技形式で実演した、不動産企業の特例子会社で働く4人は、日ごろは入金記録やインボイスの入力自動化などを手がけている。関係者は「RPAは障害者雇用の新しい領域として広まりつつあるので、関心が高いですね」と手応えを語っていた。  一方、前回に続き実施された、岡山県の国立吉備高原職業リハビリテーションセンターによる「ドローン操作」は、車いすユーザーや聴覚障害のある人なども職場で活躍できるという。特設会場では、建築物の点検業務を想定し、高い場所に設置された模擬障害物に貼りつけた数字や破損個所などをドローンで見つけて撮影し、位置を把握するまでが披露されていた。  また競技会場では、愛知県の協力により、見学者のために競技解説ガイドを配置。特別支援学校高等部2校の生徒10人とアビリンピック出場企業からの専門家10人が、8種目の競技をわかりやすく解説していた。 ●障害者ワークフェア2024  競技エリアの隣接フロアで開催された「障害者ワークフェア2024〜働く障害者を応援する仲間の集い〜」は、全国アビリンピックの一環として、障害者の職業能力や雇用に関する展示・実演などを通して来場者に理解と認識を深めてもらうことが目的。今年は100団体・事業所等が「能力開発エリア」、「就労支援エリア」、「職場紹介エリア」、「特設コーナー」にそれぞれ出展し、多くの来場者でにぎわっていた。特設ステージでは出展者の紹介や実演、トークショーなども開催。なかでも今回は、国指定難病の黄色じん帯骨化症を克服し再び一軍マウンドに復帰した中日ドラゴンズの福(ふく)敬登(ひろと)投手を招き、ろう学校の生徒を公式戦などに招待する「福敬登招待プロジェクト」活動について紹介し、つめかけたファンらとともに盛り上がっていた。 11月24日(日) 閉会式  午前10時から行われた閉会式には、開会式同様に大勢の選手たちが参加した。前日にくり広げられた全競技のハイライト映像が放映されたあと、大会会長挨拶に立ったJEEDの輪島忍理事長が「3年後の2027年にはフィンランドのヘルシンキにおいて第11回国際アビリンピックが開催されます。次の第45回大会は、その選手選考会も予定しています。国際大会に向けて国内大会のさらなる充実を図っていきます」などと挨拶。続いて厚生労働省の高橋(たかはし)秀誠(ひでのり)大臣官房審議官の来賓挨拶のあと、成績発表と表彰が行われた。ステージ上では、大きな拍手とともにメダルをかけてもらった受賞者たちが、笑顔やガッツポーズで喜びの気持ちをあらわしていた。  最後に、次回大会開催地である愛知県の大村秀章愛知県知事が大会名誉会長として登壇し「今回は、閉会式前に各都道府県選手団の交流会を開催しました。今大会を通じて生まれたつながりをぜひ大切にしてください。第45回全国アビリンピックもみなさんにお会いできることを楽しみにしております」などと締めくくった。閉会式終了後は、ステージ前で記念写真を撮ったり、選手同士でたたえ合ったりする姿があちこちでみられた。 金賞受賞者たちの喜びの声  「DTP」の佐山(さやま)いせ子(こ)さん(長野県)は、「初めての全国アビリンピックで金賞をとれるとは思わず、ちょっと驚いていますが、応援してくれた職場のみんなに感謝したいです。今回の経験を仕事に活かしていきます」。  「機械CAD」の篠(しの)孝忠(たかのり)さん(愛知県)は、「とてもうれしいです。最高です。新しい課題だったので少し心配していました。また挑戦したい気持ちです。今後も仕事に活かしていきたいです」。  「電子機器組立」の小西(こにし)将矢(まさや)さん(愛知県)は、「初めての全国アビリンピックだったので緊張しましたが、一生懸命に練習してきた成果を出せてうれしく思います。いまの仕事にも通じるので、これからもがんばっていきたいです」。  「義肢」の吉原(よしはら)晃一(こういち)さん(長崎県)は、「初出場で、練習よりはうまくできましたが、すでに次大会のことを考えていたくらいでした。もっと技術を向上させて、仕事にも発揮していきたいです」。  「歯科技工」の土持(つちもち)龍人(りゅうと)さん(東京都)は、「初出場だったので正直、金賞がとれると思っていなくて驚いています。今後も仕事をがんばっていきたいです。本当にありがとうございました」。  「ワード・プロセッサ」の岡出(おかで)慎之介(しんのすけ)さん(東京都)は、「努力賞さえもらえるかどうかと思っていたので、応援してくれた方たちに感謝したいです。今後はもっと遊び心のある文書もつくっていきたいですね」。  「データベース」の米田(よねだ)涼子(りょうこ)さん(福岡県)は、国際アビリンピック経験者。「銀賞だった昨年の失敗からミスをしないよう心がけました。言葉にあらわせられないほどうれしいです。支えてくれたみなさんに感謝したいです」。  「ビルクリーニング」の橋(たかはし)里実(さとみ)さん(福井県)は、「本当に驚いています。練習はつらくて逃げたくなりましたが、親や先生に相談しながら、諦めずに最後までやり切ることができてよかったです」。  「製品パッキング」の匂坂(さぎさか)まどかさん(愛知県)は、「これまで何度も挑戦し続けてきて、やっと夢がかないました。うれしくて、言葉が出ないほどです。職場でもがんばっていきます。ありがとうございました」。  「喫茶サービス」の細井(ほそい)日菜(ひな)さん(東京都)は、「職場に背中を押してもらい4年ぶりの参加で、チームのサポートでここまでこられました。磨いてきた技術を社内カフェでも発揮していきたいです」。  「表計算」の西本(にしもと)康次郎(こうじろう)さん(富山県)は、「全国アビリンピック3回目での金賞は本当にうれしいです。自分に足りないものを練習し続けたことがよかったと思います。今後もスキルアップを目ざします」。  「ネイル施術」の板倉(いたくら)令奈(れな)さん(沖縄県)は、涙を見せながら「初挑戦でうれしいです。ネイルの先生に恩返しできました。身体障害者になっても夢を諦めずにいれば、世界が広がることを知りました」。  「写真撮影」の日(ひだか)有彩(ありさ)さん(鹿児島県)は、「初めての全国アビリンピックで、言葉にならないほどのうれしさです。参加をすすめてくれた先生には遊び心をもつよう助言してもらいました。国際大会も目ざします」。  「パソコン組立」の柿木(かきのき)徹夫(てつお)さん(栃木県)は、「最高の気分です。日ごろからスキルを忘れないよう練習を続けてきました。好きなことはとことん夢中になれます。今後もアップデートしていきます」。  「パソコンデータ入力」の石井(いしい)郁光(いくみ)さん(奈良県)は、「感無量です。2年連続で銀賞だったので、今年こそという気持ちでした。周囲への感謝とともに自分をほめてあげたいです。誇れるものができました」。  「木工」の福島(ふくしま)大樹(だいき)さん(岩手県)は、「全国アビリンピックは4回目です。練習の成果を発揮して、きれいな箱とふたをつくることができました。金賞をとれて、びっくりしました。ありがとうございました」。 ※課題内容後の( )内の時間は、競技時間をさします 写真のキャプション 会場となった「愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)」 輪島忍JEED理事長による挨拶 大村秀章愛知県知事による挨拶 名古屋たちばな高等学校マーチングバンド部のパフォーマンス 愛知県立春日井高等特別支援学校音楽部によるハンドベル演奏 開会式は5年ぶりに対面形式で行われた 石破茂内閣総理大臣のメッセージを代読する堀井奈津子厚生労働省人材開発統括官 愛知県立愛知商業高等学校書道部によるパフォーマンス 井出依芭さんはアビリンピック大会旗の旗手を務めた 波多野千夏さんは技能五輪の選手とともに選手宣誓を行った 「ビルクリーニング」古川拓夢さん(福岡県) 「喫茶サービス」福田弥空さん(宮崎県) 「オフィスアシスタント」中村楓さん(福島県) 「製品パッキング」安食香菜美さん(島根県) 「ワード・プロセッサ」銀賞、鈴木誉さん(三重県) 「パソコンデータ入力」銀賞、柳綺佳さん(山口県) 「パソコン操作」銅賞、藤戸雅也さん(岩手県) 「表計算」畠山直雄さん(秋田県) 「DTP」銅賞、政所明日香さん(大阪府) 「データベース」銀賞、手島拓身さん(東京都) 「ホームページ」努力賞、上間真弓さん(沖縄県) 「コンピュータプログラミング」上島一晃さん(埼玉県) 「機械CAD」木村智成さん(福井県) 「建築CAD」銀賞、佐藤康太郎さん(東京都) 「電子機器組立」静谷康平さん(栃木県) 「パソコン組立」石原正太郎さん(愛知県) 「歯科技工」箱石哲郎さん(青森県) 「義肢」銀賞、大橋義樹さん(茨城県) 「義肢」金賞、吉原晃一さん(長崎県) 開会式で大会旗旗手をつとめた井出依芭さん(愛知県)は「家具」種目に出場 「木工」銀賞、坂尾麻奈さん(茨城県) 「洋裁」銀賞、梅本遙香さん(大分県) 「縫製」松美咲さん(佐賀県) 「フラワーアレンジメント」努力賞、兵頭麻耶さん(愛媛県) 「ネイル施術」努力賞櫻田史武さん(広島県) 「写真撮影」森ア久美子さん(香川県) 技能デモンストレーション「RPA」 技能デモンストレーション「ドローン操作」 「障害者ワークフェア2024」 特別イベントに登壇した中日ドラゴンズの福敬登投手(中央) 閉会式では、ハイライト映像の上映が行われた 客席からの拍手にこたえ、表彰台から手をふる入賞者 「DTP」金賞、佐山いせ子さん(長野県) 「機械CAD」金賞、篠孝忠さん(愛知県) 「電子機器組立」金賞、小西将矢さん(愛知県) 「義肢」金賞、吉原晃一さん(長崎県) 「歯科技工」金賞、土持龍人さん(東京都) 「ワード・プロセッサ」金賞、岡出慎之介さん(東京都) 「データベース」金賞、米田涼子さん(福岡県) 「ビルクリーニング」金賞、はし里実さん(福井県) 「製品パッキング」金賞、匂坂まどかさん(愛知県) 「喫茶サービス」金賞、細井日菜さん(東京都) 「表計算」金賞、西本康次郎さん(富山県) 「ネイル施術」金賞、板倉令奈さん(沖縄県) 「写真撮影」金賞、日有彩さん(鹿児島県) 「パソコン組立」金賞、柿木徹夫さん(栃木県) 「パソコンデータ入力」金賞、石井郁光さん(奈良県) 「木工」金賞、福島大樹さん(岩手県)