研究開発レポート 障害者の雇用実態および障害者の従事する職務の実態 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 1 はじめに  近年、障害者の雇用数が増加するなか、合理的配慮の義務化や法定雇用率の引上げ等が行われ、障害者の雇用や就労をめぐる環境が大きく変わっています。また、そのような変化のなか、特に2018(平成30年)年に厚生労働省が実施した「障害者雇用実態調査」によれば、回答事業所は、障害者を雇用するにあたっての課題として、「会社に適当な仕事があるか」を最も多く選択していました。  以上の背景から、次の二つの目的のために調査を行いました。 【目的1】事業所に雇用されている障害者の職場環境・労働条件、必要な合理的配慮、利用している支援機関等の実態を明らかにする 【目的2】就労支援機関が職務設定、職務創出・再設計等を検討する事業所に助言する際、および事業所が自ら職務設定、職務創出・再設計を行う際の参考とするための事項を明らかにする 2 調査の方法  調査は総務省統計局が整備する事業所母集団データベースを用いて、従業員5人以上の事業所から産業、従業員規模、地域で層化抽出した1万5000事業所に対して、「調査票A(身体障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害、難病のある方向け調査)」および「調査票B(知的障害のある方向け調査)」と、「事業所調査(障害者の雇い入れ・雇用管理を担当されている方)」を送付することで実施しました。なお、調査票AとBは事業所から雇用する障害者に渡すようお願いしました。 3 調査の結果 (1)障害者の雇用の実態等に関する調査  調査票Aに回答のあった障害のある労働者5698人について、障害種別では「身体障害」が3482人(61.1%)で最も多く、次いで、「精神障害」が849人(14.9%)、「発達障害」が582人(10.2%)、「難病」が230人(4.0%)、「高次脳機能障害」が100人(1.8%)、「その他」が203人(3.6%)でした。回答不明は252人(4.4%)でした。また、調査票Bに回答のあった知的障害のある労働者は、1166人でした。 (2)障害者の雇用の実態等に関する調査の結果分析  【目的1】の達成のために、障害のある労働者の方には、アンケートでさまざまなことをうかがっています。「今後の職業生活を充実させるために希望すること」を聞いた設問では、10の項目について、当てはまるものを選択してもらいました。その項目のなかの「現在の業務を引き続き行いたい」(調査票Bでは「今やっている仕事をこれからもやりたい」)は、障害のある労働者の職場定着とも関係する重要な項目ですが、調査票Aで3951人(69.3%)、調査票Bで857人(73.5%)が「当てはまる」と回答していました。いずれの調査票でも約7割の人が「現在の業務を引き続き行いたい」と回答していたのです。しかし、それは約3割の人はそのように回答しなかったことも意味します。では、障害のある人が「現在の業務を引き続き行いたい」と回答する可能性のある要素、あるいは回答しない可能性のある要素とはいったいどのようなものなのでしょうか?  本調査研究では、「現在の業務を引き続き行いたい」という回答と関係する要素があるか、ロジスティック回帰分析という統計手法を使って検討してみました。ちなみに、ここでは、調査票Aと調査票Bで言葉遣いや項目数が異なることがあることから、調査票Aについて取り上げます。  その分析の結果、年齢が高くなること、19の合理的配慮の項目について「十分な配慮を受けている」の選択が1項目以上あること、相談先として職場の人をあげていることが促進的な要素と考えられました。反対に、合理的配慮項目について「必要だが配慮を受けていない」の選択が1項目以上あること、将来への不安があると回答していることが阻害的な要素として考えられました。  まとめると、障害のある労働者が現在の業務を続けたいと思うかどうかの判断は、必要な合理的配慮が得られているかどうか、相談先があるかどうかなどの要素に影響を受けている可能性があることが示唆された、といえます。このような結果は、障害のある人にとっては、配慮の求め方や相談の仕方を考えるきっかけに、障害のある人を雇用する事業所は、必要な配慮の検討や相談しやすい職場づくりを考えるきっかけになるかもしれません。 (3)障害者の従事する職務に関する調査の結果  さて、【目的2】の達成のために、事業所に対して、事業所の形態、おもな事業内容、現在雇用している・もしくは過去に雇用していた障害者の障害種別、障害種別ごとの具体的な職務内容等をたずね、2734件の事業所から有効回答が得られました。 ア 障害者が携わる(携わっていた)具体的な職務内容の分類・整理  障害者が携わる(携わっていた)職務内容は、具体的な職務内容を読み取ることが困難であったものを除外して集計した結果、1万5536件ありました。本調査研究では、回答のあった障害者の従事する具体的な職務内容を「課業等」として分類・整理することとし、得られた回答を研究担当者複数名で251の「課業等」に分類・整理しました。 イ 障害者が従事する課業等(1万5536件)  件数が最も多かった課業等は「データ入力」で1520件でした。次いで「書類の整理・管理」が1201件、「清掃」が1190件と続きました。  また、18種類の産業別、10種類の障害種別にも課業等を整理したところ、いずれの産業および障害種別でも「データ入力」、「書類の整理・管理」、「事務」等が上位でした。また、「清掃」も多くの産業およびいずれの障害種別でも上位でした。  一方で、例えば「製造業」では「製造・加工・組立」、「試験・検査・実験・解析」が、「卸売業、小売業」では「品出し」、「販売」が、「教育、学習支援業」では「教育」が当該産業に特有の課業等として上位となっていました。  さらに、視覚障害では「鍼灸・マッサージ」、聴覚障害では「試験・検査・実験・解析」等、身体障害では専門・技術関係の課業等が比較的多く見られました。知的障害では「清掃」がとりわけ多かったほか、「書類の整理・管理」、「データ入力」等の事務関係の課業等とともに「洗濯・リネン」、「梱包・包装」、「品出し」等の現業関係の課業等が多く見られました。 ウ 結果の効果的な活用について  アンケートから得られた内容は、産業別×障害種別でのクロス集計も行い分類・整理しました。そのため、障害者の職務設定、職務創出・再設計を検討する際にさまざまな視点から可能性を探る参考になり得ると思われます。  今回の調査結果を単純な課業等の切り出しではなく、スキルアップのための職務拡大等を検討するなど、障害者の活躍の場を広げる可能性の模索や、障害者のキャリア形成の促進のための継続的な検討にもご活用ください。 4 おわりに  本レポートの元となる「調査研究報告書No.176」(※1)では、今回ご紹介した内容以外にも、障害者の雇用の実態および障害者の従事する職務に関するさまざまなデータを掲載しています。また、事業所アンケート調査結果から「障害者の職務設定、職務創出・再設計のためのデータブック」(※2)を作成しています。ご関心のある方はぜひ障害者職業総合センターのホームページからご覧ください。 ※1 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku176.html ※2 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai81.html ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 表 障害者が従事する課業等 上位20種 課業等 主な回答例 件数 データ入力 データ入力、PCの入力、伝票入力 1,520 書類の整理・管理 ファイリング、スキャニング(PDF化)、日報管理 1,201 清掃 店舗清掃、応接室の清掃、社内清掃業務 1,190 事務 事務職、一般事務、事務全般 1,141 文書等発受 郵便物の回収・仕分け・配布、封入、ラベル貼り 568 コピー・印刷 書類・資料のコピー、印刷 531 電話・受付業務 コールセンター業務、受付・案内業務、電話応対 529 書類・資料の作成 DM・名刺等作成、会議資料作成、POP作成 499 製造・加工・組立 製造作業、ライン加工、部品の組立 438 会計事務 経理、会計、入出金処理 252 事務補助 事務補助業務、事務サポート 251 教育 教員、大学教員、授業 247 備品等物品管理 コピー用紙の管理・補充、消耗品補充、備品管理 236 品出し 商品陳列、品出し、商品整理 204 庶務・総務 一般庶務、総務業務、庶務業務全般 197 梱包・包装 梱包、パック詰め、商品袋詰め 190 洗濯・リネン クリーニング、リネンの仕分け、洗濯業務 179 試験・検査・実験・解析 各種試験・実験、製品検査、分析作業 177 仕分け 仕分け作業、商品の仕分け、製品仕分け 176 研究 研究業務、研究職、論文作成 172