職場ルポ 土質試験業務やCAD操作などで能力を発揮 ―株式会社ダイワ技術サービス(宮城県)― 公共事業にかかわる測量や図面設計を手がける会社では、精神障害のある従業員が一定の配慮を受けながら、検査業務やCAD操作で能力を発揮している。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 株式会社ダイワ技術サービス 〒983-0842 宮城県仙台市宮城野区五輪(ごりん)1-8-3 TEL 022-298-5183 FAX 022-296-3431 Keyword:建設関連業、入札制度、精神障害、就労移行支援、運転業務、検査業務、CAD、就労定着支援 POINT 1 地域のセミナーや労働局への相談などで、現状や対応策を確認 2 求める能力や仕事内容をわかりやすく提示し、幅広く求人 3 就労支援機関との継続的な連携で、情報更新を図る 測量や地質調査  宮城県仙台市に本社を置く「株式会社ダイワ技術サービス」(以下、「ダイワ技術サービス」)は、1985(昭和60)年に設立された建設関連会社。おもに公共事業にかかわる測量や地質調査、設計などを手がけてきた。  同社では、2017(平成29)年から障害者雇用に取り組んでおり、いまでは全従業員61人のうち障害のある従業員は5人(身体障害1人、精神障害4人)、障害者雇用率は8.4%(2024〈令和6〉年6月1日現在)だという。  当初から障害者雇用の陣頭指揮をとってきた理事の小野寺(おのでら)伸(しん)さんは「何もわからない状態からのスタートでしたが、この6年間で採用してきた精神障害のある従業員4人全員が、大事な戦力として働き続けてくれています」と話す。  これまでの経緯とともに、現場で働く4人の仕事ぶりを紹介していきたい。 きっかけは入札制度の変更  ダイワ技術サービスが障害者雇用に本腰を入れることを決めたきっかけは、2017年8月に「宮城県の入札制度が変更される」と報道があったためだったそうだ。変更後の総合評価落札方式では、価格だけでなく技術力や社会性、地域性も加味されていた。当時、取締役営業部長を務めていた小野寺さんが説明する。  「具体的な項目に障害者雇用状況などが含まれていましたが、私たちの職場では当時、障害のある従業員がゼロでした。これだけで大きな劣勢になるとわかり、急いで部長会議で報告した私が、そのまま責任者として取り組むことになりました」  とはいえ障害者雇用について知識がなかったという小野寺さんは、インターネット検索で見つけた仙台市と仙台市障害者就労支援センター「はたらポート仙台」が共催するセミナーに参加した。当日一緒に行われた個別相談会のことを、いまも鮮明に覚えているそうだ。  「私が、担当者の方たちを前に『コンピューターサーバーが管理できる、35歳までの身体障害のある人が希望です』と伝えたところ、全員がポカンと口を開けたような表情になり、『あれ、何かまずかったかな』と思ったぐらいの理解度しかありませんでした」  小野寺さんはその後も障害者雇用について自分なりに調べ、宮城労働局にも足を運んで相談したところ、次のようなアドバイスをもらったという。  「翌年度から障害者の法定雇用率のカウントに精神障害が加わること。また、私たちのような技術系の仕事は、集中力を持続できる特性を活かせるのではないかということ。さらに今後も法定雇用率は上がっていくだろうということでした」 「車を200q運転できる人」  持続性のある障害者雇用を見すえながら、どんな業務で求人票を出せるか検討した小野寺さんは、まず自分の仕事の一部を任せることを思いついた。  「週2〜3日かけて県内の官公庁を回って名刺を置いてくるという営業です。直接職員とは話ができないため、コミュニケーションの不得手を気にする必要がない代わりに、長距離の車の運転が必須です」  小野寺さんはあらためて「はたらポート仙台」に求人のマッチングを依頼し、仕事内容とともに条件として「自動車を200km運転できる人」と伝えた。  そこで紹介されたのがNさん(52歳)だった。もともと不動産系の会社に勤めていたというNさんは、ある日妻から「表情がひきつって手も震えている」と病院の受診をすすめられ、抑うつ状態と診断されて退職。約3年間の療養後に電話オペレーターの仕事に就いたが、2年半で職場が広島県に移転したため再び退職し、あらためてハローワークに通ったそうだ。  「自分のことを話すと『精神障害はむずかしい』と不採用になった会社がいくつかありました。そんなときにダイワ技術サービスを紹介されました。車の運転は好きなので応募してみました」  小野寺さんの指導を受けながら、1週間の職場実習であちこち運転して回ったNさんは「これなら働き続けられそうだ」と自信をつけ、2018年3月に入社した。1日10カ所以上を回って150km以上の運転をするNさんに、小野寺さんは「おかげで私の業務負担は相当軽くなりました」とねぎらう。  Nさんは気圧の変化で体調を崩すことがあるため、勤務はフルタイムの週3日から始めた。3年目には週4日に増やせたが少し無理をしたようで、翌年には再び週3日に戻してもらったという。「休んでしまうときは、別の曜日に振り替えるなど臨機応変に調整させてもらえるのも助かります」というNさんは、「この仕事を続けられるよう、安全運転と健康管理を心がけていきたいです」と話していた。 「土のう15kgを持てる人」  Nさんの働く様子が職場内に知られるようになると、今度は技術第二部の部長から「うちの部署でも採用できないだろうか」と小野寺さんに相談があった。業務は、土質(どしつ)試験だ。それまで担当していた従業員が定年退職するため一般求人を出したものの、なかなか採用に結びつかなかったという。ネックは、試験機に手作業で出し入れする土のうの重さが15kgもあることだった。  そこで、小野寺さんは再び、「はたらポート仙台」に相談をした。今度は「土のう15kgを持てる人」と伝えると、「作業系に強い」と宣伝している就労移行支援事業所からEさん(52歳)を紹介された。  陸上自衛官として20年以上勤務したというEさんは、双極性障害のため40代なかばで3年間の休職を経て辞めた。主治医の紹介で就労移行支援事業所に通っていたEさんは、「パソコン操作などは苦手なので、土のうを運ぶ仕事なら大丈夫だと思いました」と話す。計2週間程度の職場実習を経て、2019年12月に入社した。 作業内容の見える化  まずEさんは、水浸膨張試験と呼ばれる検査業務から覚えた。15kgの土のうを運び入れるだけでなく、吸水・変位計の記録、加熱管理や重量計測などの作業も加わる。  2020年からEさんの指導役として技術第二部の係長を務める宮ア(みやざき)健太郎(けんたろう)さんは、「Eさんは自分の気持ちをなかなか言葉に出さない方なので、私の話をどこまで理解してくれているか把握しにくい状況でした」と明かす。  そもそも土質試験の業務は、取引先から依頼される試験内容が異なっており、定期的な試験だけで12種類もある。作業内容は毎日変わり、それぞれの作業内容や順番も多岐にわたる。  「私が異動してきたときは、現場に職人的な文化が残っていて、なんでも口頭で引き継いでいました」とふり返る宮アさんは、最初はやはり口頭で指示をしていたが、場合によってEさんの頭上に「はてな」マークが並んでいるような表情に気づいた。そこで毎朝、その日に行う作業内容をメモ書きして渡したところ、本人も「ああ!」といって明るい表情になり、スムーズに作業に移るようになったという。  そのうち宮アさんは、作業回数など細かいルールを含めた各試験内容を一覧表にまとめ、現場に貼ることにした。  「口頭だけの指示は、Eさんだけでなく私や新入社員もわかりづらいと感じていました。今後の職場全体のためにも、作業内容を“見える化”させてよかったと思います」  さらに宮アさんは、Eさんが覚えるべき業務として12試験40種ほどの作業をまとめた「習熟度確認表」も作成し、現場に掲示した。そして毎日、作業内容について「これは覚えた?」、「まだ1人でやるのはむずかしい?」などと一緒に確認してきた。宮アさんは「この表を2人で確認しながら、本人が何の作業に不安があるかも把握できますし、なにより日々のコミュニケーションのよいきっかけにもなりました」と話す。  一方で宮アさんはEさんの毎朝の反応を見ながら、その日の会話の仕方も変えていたそうだ。  「昨日はハキハキと話してくれていたのが、今日は別人のように話さなくなるということがあって、あとで薬の影響だと知りました。毎朝のあいさつの様子から『今日は調子がよさそうだな』とか、『今日はゆっくり話すようにしよう』と判断していました。現在は薬の調整もうまくいっているそうで、体調も安定しているようです」  5年経ったいまでは、習熟度確認表は使っていないという。「Eさんは、もうほぼパーフェクトに1人で作業できるようになっているので必要なくなりました」と宮アさんは話す。一方のEさんは、「まだ宮アさんに教わっていることもあるので、頼ることなく、なんでも自分の判断で作業できるようになりたいです」と話してくれた。 CAD未経験の2人  Nさん、Eさんの2人が順調に働き続けているなか、小野寺さんは会社全体の従業員が増加傾向にあることや、今後の段階的な障害者の法定雇用率アップを見すえ、再び部長会で「新たに1人の障害者雇用を進めたい」と提案した。  小野寺さんによると「これまでも部長会や社員向けの経営計画説明会で、障害者雇用の状況や効果を説明し、2人の事例も含めて理解が進んでいたので、部長会でもすんなり了承されました」という。会議では、測量部門からCADオペレーターとして育成できる人であれば採用してみようと了解を得た。  測量部門では、3次元測量機器などを使って集めた道路などの点群データを生成してCAD化し、図面作成を行っている。そこで小野寺さんたちは、「CADの操作ができるか、または興味がある人」という条件で「はたらポート仙台」に相談したところ、精神障害のある2人の応募者を紹介された。  「1週間の職場実習では、それぞれCAD未経験者ながらパソコンスキルが高く優秀だったため、部長会で検討した結果、1人ではなく2人そろって2022年10月から採用することになりました」と小野寺さん。さっそく2人の仕事ぶりを見せてもらった。 働き方の配慮で戦力化  二つのモニター画面を見ながら工事用の図面作成などを行っていたKさん(37歳)は、「職場実習で初めてCADを操作しましたが、使い慣れていたアドビ株式会社のイラストレーターやフォトショップなどのソフトと似た操作も多く、取り組みやすかったです」と笑顔で話す。  Kさんは専門学校で広告美術を学び、デザイン系の印刷会社などで8年ほど働いた経験がある。転機は33歳のころ。ある日突然、職場で倒れた。「当時は、仕事が忙しすぎて眠れない日々でした」とKさん。  「1カ月間休職して復職したものの、体調のすぐれない状態が続きました。複数の病院で検査しても原因が見つからず、最終的に心療内科で初めて不安障害と診断されました」  会社を辞めて1年間の療養生活を送ったKさんは、主治医のすすめもあって障害者手帳を取得、近所の就労移行支援事業所に通った。そこで認知行動療法を受けながら、ワードやエクセルなど一般的なパソコンスキルも習得したそうだ。また訓練期間中に、体調について自己理解が進んでいったという。  「体調が悪くなるときの統計を自分でとってみたら、天候や気圧変化に左右されているようでした。主治医からは、以前の過労による昼夜関係のない生活が続いたことで、自律神経に影響が出たのだろうともいわれました」とKさんはいう。  ダイワ技術サービスに入社するときには、職場の人たちに自己紹介として障害についても説明し、必要に応じた配慮を依頼したそうだ。  職場の指導役を務める1人、菅原(すがわら)由希子(ゆきこ)さんは「デザインソフトなどになじんでいたKさんは、CAD操作の理解も早かったですね。しかも、わからないときはすぐに質問してくれたり、自分でリストをつくって整理しながら聞いてくれたりしたので、とても教えやすかったです」とふり返る。  体調の波については、その都度Kさんから伝えてもらうことで対応できているそうだ。「場合によって外の現場に出ることもあるのですが、職場内のメッセージ機能を通じて『今日は体調がすぐれないので社内業務に専念させてほしい』などと、伝えてもらっています」と菅原さんはいう。  すっかり戦力の1人となったKさんに、菅原さんも「さらにスキルアップを続けて、今後は繁忙期に入ってくる派遣社員への指導役をになってくれるようになってほしいですね」と期待する。  Kさん自身も「日ごろから健康的な生活を送ることを心がけながら、スキルを磨き、測量関係の資格も取っていけたらと思っています」と語ってくれた。 職場の理解で正社員を目ざす  もう1人のCADオペレーターとして、この日は図面のトレース作業に取り組んでいたWさん(34歳)は、10代のころから困難な時期を過ごしてきた。  「県内トップの進学校に入学したのですが、勉強がたいへんだったせいか、小さなミスや忘れ物などが気になって仕方ないという強迫性障害の症状が出始めました。1年生の6月ぐらいから通院し、なんとか卒業したものの、2浪して大学に進みました」  入学後に統合失調症の診断を受け、3年次には1年間休学。主治医から「学業を優先させよう」と助言され、就活をしないまま大学を卒業した。その後、飲食店でアルバイトをしていたころ、自宅のポストに入っていた就労移行支援事業所のチラシを見つけ、「ITスキルに特化した訓練内容が魅力的に感じ、通ってみることにしました」という。  その訓練を受けて、フォトショップやイラストレーターを使ったDTPやウェブデザインのスキルを習得したWさん。ダイワ技術サービスの職場実習では、「CAD操作は感触が似ているなと手ごたえを感じました」という。  入社を希望した理由はほかにもある。「職場の雰囲気がよい意味で静かなので、仕事に集中できそうだということと、それから小野寺さんの人柄のよさというか、私たちのような障害がある者のことを理解してくれている人がいるのは、安心して働けそうだなと感じました」とWさんは話す。  入社後も体調の波はあったが「仕事の忙しさというよりも、家庭内の事情が原因でした。家族と衝突した翌日はガクッと体調を崩すことがありました」と明かす。それも昨年末から自宅を出たことでグンと改善したそうだ。月1回の通院と服薬を続けながら体調の安定に努めている。  最近、測量士補という資格の勉強を始めたというWさん。  「勉強の内容が現場の仕事に活かせるので一念発起しました。いまは週4日5時間勤務なので、体調を安定させながら勤務時間も延ばし、必要なスキルも身につけながら正社員を目ざしたいと考えています」 就労支援機関との連携  精神障害のある4人の雇用が比較的順調に進んできた理由について、小野寺さんは「本人たちの能力や得意なことをうまく仕事で活かせたこと、逆に体調の波などを調整しやすい職場環境だったことが大きいと思います」としたうえで、「なにより就労定着支援サービスによって、就労移行支援事業所との関係が継続してきたことも、私たちのような専門知識を持ち合わせていない会社にとっては非常に心強かったと実感しています」と話す。  面談はそれぞれ1〜3カ月に1回だが、そのときには、まず本人と支援担当者が話をして、その後は小野寺さんたちが加わり職場側からも現状と評価を伝え、本人が困っていることや課題について対応方法を検討する。「支援担当者と本人とのやり取りを聞きながら学ぶことも多いですし、毎回、新しい情報や知見を得られることも大きなメリットです。本人への就労定着支援サービスは最長3年までですが、その後も職場として支援機関と連携していけたらいいですね」と小野寺さん。  今後も、ダイワ技術サービスの規模拡大や障害者の法定雇用率も考慮しながら採用を進めていく必要性があると語る小野寺さんは、目下の課題についてこう話した。  「4人は時短勤務の契約社員なので、将来的に、正社員として雇用できるよう制度も整えたいと思っています。能力を無理なく発揮してもらいながら長く働き続けてもらうために、どんな方法や制度があればよいか考えていきたいですね」 写真のキャプション 株式会社ダイワ技術サービス理事の小野寺伸さん 営業業務を担当するNさんは、1日150km以上の運転を行う 技術第二部係長の宮ア健太郎さん 土質試験を担当するEさん。検査用に供試体を作製している様子 作業工程を打ち合わせるEさん(左)と宮アさん 習熟度確認表の一部。習熟度を示す記号が記されている 作成した図面を出力するCADオペレーターのKさん Kさんの指導役を務める菅原由希子さ Kさんは菅原さんの指導を受けスキルアップを目ざす 図面のトレース作業に取り組むCADオペレーターのWさん 障害のある従業員と就労支援機関の面談の様子(写真提供:株式会社ダイワ技術サービス)