省庁だより 特別支援教育における就労支援の取組み 文部科学省初等中等教育局 特別支援教育課  改正障害者雇用促進法などの法的整備を背景に障害者の社会参加が進むなか、特別支援教育の教育現場でも、障害のある生徒の就職や職場定着を促進するための教育の充実に力が注がれています。ここでは、特別支援教育における就労支援の取組みの現状について紹介します。 1 就職する特別支援学校卒業生が増加  特別支援学校の卒業生の進路として、直近10年間を概観すると、企業に就職する生徒が増加傾向にあります(図1)。  背景としては、障害者を積極的に採用しようとする企業が増えていること等が考えられ、最近はそうした雇用ニーズに呼応して、企業就労も目指した特別支援学校高等部を設ける学校も見られるようになりました。 2 キャリア教育・職業教育の推進  文部科学省においても、障害者の社会参加が進み続ける現状をふまえ、障害者の就労支援に向けたキャリア教育・職業教育の充実に取り組んでいます。  平成31年2月に公示された特別支援学校高等部学習指導要領では、キャリア教育・職業教育の充実を目指して、次の点が示されています。 キャリア教育及び職業教育に関して配慮すべき事項 ●学校においては、キャリア教育及び職業教育を推進するために、生徒の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等、学校や地域の実態等を考慮し、地域及び産業界や労働等の業務を行う関係機関との連携を図り、産業現場等における長期間の実習を取り入れるなどの就業体験活動の機会を積極的に設ける。 ●地域及び産業界や労働等の業務を行う関係機関の人々の協力を積極的に得るよう配慮する。 キャリア教育の充実 ●生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科・科目等又は各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図る。 ●その中で、生徒が自己の在り方や生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、組織的かつ計画的な進路指導を行う。その際、家庭及び地域や福祉、労働等の業務を行う関係機関との連携を十分に図る。  また、テレワーク、在宅勤務など、働き方も大きく変化しており、障害のある生徒等に対して新しい働き方を踏まえた指導や支援が求められています。このため、文部科学省では、令和5年度から6年度にかけて、特別支援学校が企業等と連携して、将来の職業生活において求められるICT活用に係る知識や技能等を習得するために必要な指導方法等の開発を行い効果的な指導の在り方についての調査研究を実施しているところです。 3 教育・労働などの関連機関・部局の連携  障害者の就労支援をさらに推し進めていくためにいま、教育・労働などの関連機関・部局の連携強化が強く求められています。  厚生労働省においては、障害者の雇用に関する労働関係機関と教育、福祉、医療など関係機関の連携について、都道府県労働局や公共職業安定所などにおいて特別支援学校などとの連携を一層強化するよう、厚生労働省職業安定局長より通知が出されました(平成25年3月29日に通知、平成30年4月2日改正)。これを受けて、文部科学省では、教育委員会などに対し、労働関係機関との一層の連携のもとに、障害のある生徒の就労に向けた支援の充実を図るよう周知しました。 4 共生社会の実現に向けた生涯学習の推進  障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会の実現とともに、障害者が生涯にわたり自らの可能性を追求でき、地域の一員として豊かな人生を送ることができる環境を整えていくことが求められています。  文部科学省では、障害者が生涯を通じて教育、文化、スポーツなどのさまざまな機会に親しむことができるよう、次のような事業を実施しています。 ●学校卒業後における障害者の学びの支援推進事業 ・都道府県を中心とした地域コンソーシアム形成による持続可能な生涯学習支援モデルの構築や、地方公共団体と民間団体等の連携による障害者の生涯学習機会の拡大促進、大学・専門学校等における生涯学習機会創出・運営体制のモデル構築を目指す取組みを実施 ・生涯学習の担い手の育成や学習環境の実質的な整備につなげるための研究成果発信・実践交流等を行うコンファレンスを実施 ●特別支援学校等における障害者スポーツの充実 ・特別支援学校等を活用した地域における障害者スポーツの拠点づくり等を実施 ・特別支援学校の児童生徒等を対象とした全国大会の開催 ●障害者の文化芸術活動の充実 ・障害のある生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場の提供 ・障害のある生徒に対する文化芸術の鑑賞・体験機会の提供 ・障害の種別や年齢にかかわらず、鑑賞・創造・発表等の文化芸術活動に取り組むことができる機会の提供 ●障害のある学生の修学・就職支援促進事業 ・先進的な取組みや知見を持つ複数の大学等が中心となり、国公私立大学等や関係機関等が参加・連携するプラットフォームを形成し、組織的なアプローチにより、高等教育機関全体における障害学生支援体制を充実させることを目的とした「障害のある学生の修学・就職支援促進事業」を実施 ※本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 図1 特別支援学校高等部(本科)卒業後の状況 (令和5年3月卒業者) 区分 卒業者 進学者 教育訓練機関等 就職者等 社会福祉施設等入所・通所者 その他 計 21,023人 360人(1.7%) 352人(1.7%) 6,165人(29.3%) 13,182人(62.7%) 964人(4.6%) (学校基本調査より) 社会福祉施設等入所・通所者 就職者等 平成24 4,420人 25.0% 平成25 平成26 平成27 平成28 平成29 平成30 平成31 令和2 令和3 令和4 令和5 6,165人 29.3% 進学者・教育訓練機関等 その他 (各年3月時点) ※「就職者等」について、令和2年度の学校基本調査で就職状況の区分が細かく分類されたことから、令和2年度以降においては「就職者等」の数を、平成31年度以前は「就職者」の数を学校基本調査から抽出することとした。