ニュースファイル 国の動き 厚生労働省 障害者の子育て支援を推進  厚生労働省は、令和5年度障害者総合福祉推進事業「障害者が希望する地域生活を送るための意思決定支援等の取組に関する調査研究」において支援事例などをとりまとめ、こども家庭庁と連名で、全国の自治体に支援の推進について通知した。  このなかで「結婚、出産、子育てを含め、障害者がどのような暮らしを送るかは、本人が決めることが前提であり、その意思決定の支援に配慮しつつ、障害者の希望を踏まえた生活の実現に向けた支援を推進する必要がある」と明記。  そのうえで共同生活援助(グループホーム)における留意事項として、「こどもを含め、障害者ではない家族が同居して支援を受けることは基本的には想定していない」が、「グループホームを利用する障害者が出産した場合であって、直ちに新たな住居等を確保することが困難な場合には、それまでの間、こどもとの同居を認めても差し支えない」とした。  さらにグループホーム事業者に対して、「こどもの適切な養育環境の確保を図る観点を踏まえて、新たな住居の確保等の必要な支援を行うとともに、相談支援事業者と連携の下、こども家庭センター等の関係機関による適切な支援体制の確保に努めること」を求めている。 https://www.mhlw.go.jp/content/001262137.pdf 外務省 国連障害者権利委員会委員に日本人  外務省は、このほどアメリカ合衆国ニューヨークの国連本部で開催された「第17回障害者権利条約締約国会合」において障害者権利委員会委員選挙が行われ、日本政府が擁立した田門(たもん)浩(ひろし)弁護士が選出されたと発表した。日本から障害者権利委員会に委員を輩出するのは、静岡県立大学名誉教授の石川(いしかわ)准(じゅん)さんに次いで2人目。  外務省によると田門さんは、自身もろうあ者として国内外における障害者の権利保護・促進について広く活動を行うとともに、25年以上にわたり弁護士として障害のある人を含む弱い立場にある人たちの権利の保護・促進に尽力してきたという。  「障害者の権利に関する条約(通称:障害者権利条約)」は、障害者の人権や基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利を実現するための措置等について規定している障害者に関する初めての国際条約のこと。2006(平成18)年の国連総会で採択され、日本は2014年1月に批准、同年2月に発効している。 地方の動き 東京 都施設に音声表示ディスプレイ設置  東京都は、音声を多言語で表示する透明ディスプレイ(35cm×20cm)を都の施設38カ所に設置した。  専用機器が会話をリアルタイムに文字に変換し、ディスプレイに投影するとともに、32カ国語での表示が可能。声を発することがむずかしい聴覚障害のある人などは、付属のタブレットで文字入力を行うことでディスプレイに表示できる。設置場所は、都庁舎総合案内や都民情報ルームほか、味の素スタジアムなどのスポーツ施設、障害者施設、消費生活総合センター、観光情報センター、都立図書館、ろう学校など。  今回の設置について都は、「東京2025世界陸上」や「東京2025デフリンピック」を機に、デジタル技術を活用し「いつでも・どこでも・誰とでも」つながるインクルーシブな街・東京の実現に向けた取組みの一環としている。 https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/06/06/15.html 働く 全国 重度障害者の就労中の支援に関する調査報告と好事例集  PwCコンサルティング合同会社(東京都)が、厚生労働省の令和5年度障害者総合福祉推進事業「重度障害者の就労中の支援の推進方策の検討に関する調査研究」についての事業報告書と好事例集を発表した。  研究は、重度訪問介護を利用している障害者の就労の実態や就労中の課題について、重度訪問介護事業所の7602事業所を対象に調査。これによると、利用者の働き方については自宅で仕事をしている人が多く、障害支援区分が重くなるほどその割合は高くなることや、企業からさまざまな合理的配慮を受けて働いていることなどが明らかになった。また、厚生労働省が2020(令和2)年10月から始めている特別事業(雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業)の利用によって就労が可能になった、利用せずに働いている人よりも就労中の課題が少なかったなどの効果のほか、企業の合理的配慮を推進している点も確認できたという。  一方で、重度訪問介護事業所への調査や検討委員会における議論では、特別事業等の手続きの煩雑さや実施自治体の少なさ、認知度の低さ、事業所への報酬単価・企業への助成金支給のサイクル、通勤支援の改善点など、特別事業等の具体的な課題が指摘された。  「重度訪問介護利用者の働き方と企業による配慮の好事例集」では、当事者5人の働き方と雇用する4企業が行う就労中の配慮について掲載している。事業報告書と好事例集は同社のホームページから閲覧できる。 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/track-record/welfare-promotion-business2024.html 本紹介 『不自由な脳は続く: 高次脳機能障害に対する支援再考』  高次脳機能障害を抱えるルポライターの鈴木(すずき)大介(だいすけ)さんと、長年リハビリテーションセンターに勤務していた臨床心理士の山口(やまぐち)加代子(かよこ)さんが、『不自由な脳は続く:高次脳機能障害に対する支援再考』(金剛出版刊)を出版した。  2015(平成27)年に脳梗塞を発症した鈴木さんの、高次脳機能障害の診断を受けて8年が経ったこれまでの経過をたどり、長年この領域にかかわってきた山口さんとの対話のなかで、症状そのものだけではなく症状にともなう不自由感、心理面を重視した支援について考えることの必要性を説く。  自身の障害理解と対策・工夫にたどり着くまでの思考、多くの当事者たちと交流するなかで発見した視点で、医療職や援助職をはじめ当事者と家族を含む多くの人がこの障害の回復と支援について考えることにも役立つ。四六判250ページ、2860円(税込)。 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2024年度地方アビリンピック開催予定 9月〜11月上旬 北海道、青森県、神奈川県、新潟県、石川県、山梨県、広島県、山口県、徳島県、大分県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 ※全国アビリンピックは11月22日(金)〜11月24日(日)に、愛知県で開催されます。 写真のキャプション 北海道 青森県 神奈川県 新潟県 石川県 山梨県 広島県 山口県 徳島県 大分県 ミニコラム 第38回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は諏訪田委員が執筆しています。 ご一読ください。 農福連携再考 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦  今回の取材先「こまつな菊ちゃんハウス」は、富山県射水(いみず)市(人口約9万人)の農業エリア円池(つぶらいけ)にあり、障害のある人や中高年の女性が多く働いていた。隣のビニールハウスでは外国人従業員の姿も見られ、この地域でも「人手不足」の現状を感じた。日本における農業就業人口は、農林水産省の発表によると2010(平成22)年で約260万人、その後毎年10〜50万人ほど減り続け、2019年には約168万人にまで減少している。このようななかで、農林水産省が取り組んでいる「農福連携」は人手不足を補う一策になるのではと考える。農福連携は、2010年に農林水産政策研究所が「農業と福祉の連携」の必要性を訴えたことをきっかけに、全国的に広まってきた。2023年度の農林水産省の調査によると、農福連携の取組み主体数は、3年間で2226件増加し6343件になっている。  さらに、一般社団法人日本基金「農福連携に関するアンケート調査結果」(令和5年3月)によると、農福連携の効果について、福祉事業所の回答では利用者へのプラス効果として、@「体力が付き長い時間働けるようになった」(80.5%)、A「表情が明るくなった」(58.3%)、B「コミュニケーション力が高まった」(46.5%)となっている。さらに、農業経営体の回答では障害者等を受け入れることの効果として、@「障がい者等が貴重な戦力となっている」(56.4%)、A「労働力確保で営業等の時間が増えた」(55.7%)、B「品質の向上や収量の増加につながった」(31.6%)との報告もある。  農福連携は「障害者の農業分野での活躍を通じて自信や生きが いを創出し、社会参画を促す」ことを目的としている。この取組 みは「人手不足」が追い風となって、今後さらにさまざまな農業 事業体、福祉事業体に広まっていくことを期待したい。