【表紙】 令和6年9月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第564号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2024 10 No.564 職場ルポ 一緒に働くことが、あたりまえの職場に 株式会社大風印刷(山形県) グラビア 高齢化が進む製材業の貴重な働き手 堀長木材商店(和歌山県) 編集委員が行く 人的支援ネットワークが職場定着を支える 清流障がい者就業・生活支援センターふなぶせ、岐阜障害者職業センター、株式会社名岐サービス(岐阜県) 私のひとこと 他人の大人 脚本家・舞台手話通訳家 米内山陽子さん 「工事、着々と」静岡県・杉本(すぎもと)有里(ゆり)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 10月号 【前ページ】 心のアート 私の心の中 本田律子 (たんぽぽの家アートセンターHANA) 画材:アクリル絵の具、キャンバス/サイズ:F6(410mm×318mm)  この絵を描いたのは、ちょうど阪神タイガースの試合を見ていたとき。幼少期のころからずっと好きな野球をイメージして制作した。真ん中にいるのは野球帽をかぶった男の子で、明るい色のユニフォームを着ているのは試合に勝利するイメージで描いたそう。だが、表情は涙を流し「試合に負けてしまうかも…」と、勝利と敗北を表した表裏一体の感情を描いている。そんな本田は彩色の際には必ず明るい色を使う。その理由は「明るい色を見るとがんばれるから」。 (文:たんぽぽの家アートセンターHANA 橋(たかはし)桜介(ようすけ)) 本田律子(ほんだ・りつこ)  1968(昭和43)年生まれ、奈良県在住。先天性関節拘縮症。1988年より「たんぽぽの家」で活動をはじめる。 〈略歴〉 2018年「ビッグ幡(ばん)in東大寺」にて作品が東大寺に掲げられる幡のデザインに使用 2021年「奈良県大芸術祭・障害者大芸術祭“プライベート美術館”」(奈良県)「六条山プライベート美術館 vol.3」(奈良県) 2023年本田律子個展「BLOOM -ブルーム-」(大阪府) 2024年本田律子個展「Moments Past」(東京都) 【もくじ】 障害者と雇用 2024年10月号 目次 NO.564 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 私の心の中 作者:本田律子(たんぽぽの家アートセンターHANA) 私のひとこと 2 他人の大人 脚本家・舞台手話通訳家 米内山陽子さん 職場ルポ 4 一緒に働くことが、あたりまえの職場に 株式会社大風印刷(山形県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 クローズアップ 10 マンガでわかる!わが社の障害者雇用物語 第2回 業務の切り出し・選定のコツ JEEDインフォメーション 12 「障害者雇用納付金制度に基づく各種助成金」の活用事例/国立職業リハビリテーションセンター国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 訓練生募集のお知らせ グラビア 15 高齢化が進む製材業の貴重な働き手 堀長木材商店(和歌山県) 写真/文:官野貴 エッセイ 19 てんかんとともに 第4回 眠れぬ夜はだれのせい 映画監督 和島香太郎 編集委員が行く 20 人的支援ネットワークが職場定着を支える 清流障がい者就業・生活支援センターふなぶせ、岐阜障害者職業センター、株式会社名岐サービス(岐阜県) 編集委員 松爲信雄 省庁だより 26 ハローワークを通じた「障害者の就職件数」が過去最高を更新 ─令和5年度障害者の職業紹介状況等─ 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 研究開発レポート 28 オンラインによる就労支援サービスの提供に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 JEEDメールマガジン登録受付中! 表紙絵の説明 「一人ひとりがそれぞれ自分の仕事をがんばっているところを描こうと思って、この題材を選びました。工事がだんだんできあがっていく様子を絵にしたかったので、どうやって1枚の絵にしようか悩みましたが、看板を書いている人の後ろに工事前の風景を描くことにしました。受賞を聞いて、私も両親も驚きました。うれしさでいっぱいです」 (令和6年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 高校生・一般の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-3】 私のひとこと 他人の大人 脚本家・舞台手話通訳家 米内山陽子  わたしの家には、しばらく電話がなかった。  小学校の連絡網には敷地内別居している親戚の家の電話番号が載っていた。電話が一般家庭にも広く普及している、1980年代のことである。  耳の聞こえない両親にとって、電話は不必要なものだったからだ。  外からの電話は敷地内別居している親戚が取り次いでくれ、両親に伝言をメモで残してくれた。わたし宛にかかってくる電話は、離れのわが家まで親戚が呼びに来た。だから、わたしの家の勝手口の鍵はいつでも開放されていた。  やがてミニファクスと呼ばれる家庭用ファクシミリが導入され、通話するための電話がやってきたのは家族だけで暮らし始めた1989(平成元)年だった。  わたしは電話が嫌いになった。  基本的に、親はわたしを通訳として扱わなかった。自分が必要なことはほとんど筆談でこなしていた。でも、電話だけはどうしようもない。親の代わりに受話器を取り、親に何かを伝えたい大人の言い分を言付(ことづ)からなければならなかった。  むずかしい言葉、前提のわからない言付け、名乗りもしない怒号。顔も知らない他人の大人の言葉は、わたしをひどく理不尽な気持ちにさせた。  直接いえ。直接いいに来い。ずっとそう思っていた。  他人の大人は理不尽なものだと思い知らされた。  そして社会を見渡せば、そんな理不尽な他人の大人が大多数を占めて社会を運営していることに、深く深く絶望した。  他人の大人は善意の顔をしていう。「かわいそうにね」、「ご両親を助けてあげてね」、「あなたがしっかりしないと」、「えらいね、親の役に立っているね」。  そして同じ口でいうのだ。「あの子は親が障害者だから友だちになるな」、「親が障害者だと変わった子になるんだな」。  他人の大人は耳の聞こえる人ばかりではなかった。耳の聞こえない他人の大人も「君は聞こえる体で産んでもらったんだから通訳して親に恩返しをしなさい」と平気でいってきた。「本当は耳の聞こえないもの同士の方がわかり合えるんだ。君の親は君が聞こえてガッカリしたんじゃないかな」とまでいってきた。  全部全部ふざけるなと思った。  何かいってくる奴は何もしてくれない。いいたいだけの奴が本当に嫌いだった。  その一方で「親はわたしが守らねば」と思わされた。  当時の社会にはまだ「情報保障」という概念もなく、親が止めてもどうしようもなく通訳をせざるを得ない場面は多々あった。  そして他人の大人は容易に褒(ほ)めるのだ。「えらいね」と。  その言葉は当時の幼いわたしに甘く響いた。親を助けていると褒められる。自分はしっかりしている「よい子」なのだ、と。何もしてくれない他人の大人が勝手に求める「障害のある親をもつ障害のない子ども像」をどんどん内面化していった。  内面化した「理想の子ども像」と本来の自分とのギャップは、反抗期という形で爆発した。  親とは毎日手話で喧嘩をしていた。当時住んでいたマンションの壁を蹴って大きな穴を開けたこともある(いま思えば、反抗期にのびのび反抗できる自己を親が育ててくれていたのだとわかる。もっと追い詰められたり、本来の自己が素直であったりすれば、反抗すらできなかったかもしれない)。  わたしはだれよりもしっかりした人間でなくてはならない。  わたしはだれよりもちゃんとした人間でなくてはならない。  だれよりも品行方正で、だれもが認めるよい人間でなければならない。  そうでなければ他人の大人に「やっぱり障害者が育ててるからダメな人間になるんだ」などといわれてしまう(これに似たことを元恋人に実際にいわれた。そいつとは別れた)。  行き場のないフラストレーションを全部親と自分のせいにしていた。  他人の大人が大多数を占める社会の方に問題があるのだとわかったのは、わたしが大人になってからのことである。  だけど、その社会を構成する他人の大人たちは、自分たちの社会に問題があるとはなかなか自認してくれない。マジョリティの特権というやつだ。「知らずにすんでいる特権」というゲタを履かされているが、透明なので見えないのである。  その透明なゲタで、当事者やその家族、支援者などを踏みつけながら生きているんだろう。  もちろんわたしも、だれかにとって他人の大人であるから、無意識にゲタを履いているんだろう。  自分の特権性(加害性といい換えてもいいだろう)に向き合うことは、心情的にかなり苦しいことだというのは理解できる。  理解できるが、「じゃあしょうがない」で片づけるわけにはいかない。  その特権性でもって、本来社会がになうべきケアを子どもに押しつけているのだ。  「家族のことは家族で解決する」。こんな美辞麗句で透明化されて苦しんでいる子どもが、いまだにたくさんいる。  子どもが子どもらしく生きるために、家庭は安心の場であってほしい。  そして、障害のある親だって同じだ。  なぜ障害があるだけで、何もかもができないと思われてしまうのか。  わたしはわたしの親を見ていて思う。わたしの親はとても明晰で論理的で外向的な人たちだ。自分一人でどこでも出かけるし、だれとだってコミュニケーションを試みるし、なんでもできる。父も母も、自ら社会に飛び込んで道を開いてきた人だ。  ただその場に音情報だけしかないときに、サポートが必要なだけなのだ。  そのサポートは、社会からもたらされるべきであると思う。  スムーズなサポートを実現するテクノロジーの進歩は目覚ましい。より安価でより手軽になっていっている。スマートフォンやアプリなどを例にとっても、日々更新されている。それをどのように使うのか、質が問われる時代になってきた。当事者とともに考え、サポートの質もより高く合理的になっていけるはずだ。  共生社会、インクルーシブ、ダイバーシティ……。よく目にする美しい言葉たちに、実感をもちたい。透明化された人々に、色を甦(よみがえ)らせたい。生きていていいんだと、ここにいていいんだと、そして幸せを追求していいんだと、本当の意味で「だれもが」思える社会になるといい。  それは、わたしたち「他人の大人」にしかできないことだと思う。 プロフィール 米内山陽子 (よないやま ようこ)  脚本家・舞台手話通訳家。広島県三原(みはら) 市出身。ろう両親のもとに生まれた聴者(CODA)で、ネイティブサイナー(手話を母語とする人)。  脚本家として舞台・映画・アニメなどに活動の幅を広げ、舞台手話通訳・手話指導としても活躍中。  代表作は、アニメ「スキップとローファー」(脚本)、アニメ「ゆびさきと恋々」(シリーズ構成・脚本・手話監修)、ドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(CODA考証・手話指導)など。 【P4-9】 職場ルポ 一緒に働くことが、あたりまえの職場に ―株式会社大風印刷(山形県)― 創業77年を迎える印刷会社では、何十年も前から障害のある社員が戦力として一緒に働き、それがあたりまえと思える職場であり続けることを目ざしている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 株式会社大風(おおかぜ)印刷(いんさつ) 〒990-2338 山形県山形市蔵王松ヶ丘(ざおうまつがおか)1-2-6 TEL 023-689-1111 FAX 023-689-1212 Keyword:身体障害、精神障害、印刷業、DTP、アビリンピック、スペシャルオリンピックス POINT 1 長年にわたり障害のある社員が一緒に働いてきた職場ならではの社風 2 アビリンピックに参加しながらスキルアップを図る 3 スペシャルオリンピックスを機に障害のある人と一緒にスポーツチームを結成 多様な印刷事業  1947(昭和22)年の創業から77年を迎える「株式会社大風(おおかぜ印刷(いんさつ)」(以下、「大風印刷」)は、山形県内や宮城県仙台市、東京都内に計6拠点を構える印刷会社だ。山形市の郊外にある本社は印刷工場も併設され、チラシ作成から製本、オンデマンド印刷、ノベルティグッズ制作までさまざまな事業を展開している。  2009(平成21)年から代表取締役社長を務める大風(おおかぜ)亨(とおる)さんによると、大風印刷での障害者雇用は、父が経営していたころから定着していたという。大風さんは「私が小さいころは社員30人ほどの職場でしたが、足の不自由な社員さんが2人いました。親が忙しく、私たちきょうだいがその社員さんに預けられ、車で一緒に海へ遊びに行った思い出があります。ほかにも聴覚障害のある人やダウン症の男性が長年働いてくれていたのを覚えています」と語る。  大風印刷では現在、社員116人のうち障害のある社員が3人(身体障害2人、精神障害1人)で、障害者雇用率は3.46%(2024〈令和6〉年6月1日現在)だそうだ。2014年度には「障害者雇用優良事業所厚生労働大臣表彰」を受賞した。  今回は、職場での3人の仕事や同僚らとのかかわりを中心に紹介していきたい。 DTPや文字入力  まず案内してもらったのが、さまざまな印刷物のデータを作成する生産部プリプレス課だ。パソコンで、アドビ株式会社のデザインソフトのイラストレーターを使いながら名刺作成をしていたのは、上肢機能障害や移動機能障害など重い身体障害のある安達(あだち)健司(けんじ) さん(49歳)。  県内の高校を卒業後、1994年に入社した安達さんは、当初はおもに文字入力の業務を行っていたそうだ。しかし、パソコンの普及とともに顧客からの原稿などがデータで送られてくるようになったため、今後の入力作業の減少を見越し、上司のすすめでイラストレーターの操作スキルを習得。いまは名刺作成業務の8割を担当するまでになった。  発語の障害があり、大風さんが会話するときはよくメモパッドを使用するそうだが、安達さんの隣席にいる生産部プリプレス課課長の田崎(たさき)剛(つよし)さんは「コミュニケーションで困ることはありません。いっていることがわからないときは、わかるまで何度も聞きますから」と断言し、そばで聞いていた安達さんと笑い合った。「遠慮もないので押し問答になることもありますし、だんだんとニュアンスで通じる部分もたくさんあります。ほかの社員と同じように接しています」と田崎さん。  安達さんに、ここで働いてよかったことなどを聞くと、最初は話してくれていたのだが、こちらが聴き取りに慣れていないとわかるやいなや、素早くパソコンのメモ機能を立ち上げて「周りのみなさんがフレンドリーなことです」と打ってくれた。  あとで大風さんが教えてくれたのは「安達さん自身がとてもフレンドリーなので、みんなに好かれているんですよ」ということだ。ちなみに職場内には安達さんの名前から取った『だちけん会』という集まりがあり、花見や花火大会、芋煮会などを開催しているという。毎回、安達さんが呼びかけて10人から20人ほどが参加。安達さんともう1人が場所取りの担当で、そのほかの食材調達などはみんなで手分けするそうだ。  大風さんは「私も何度か顔を出しましたが、宴会時間が長すぎてつき合いきれません」と苦笑いしつつ、「そんなふうにみんなで一緒に過ごすなかで、日ごろから社員も職場の雰囲気も、自然とやさしくなっているように感じます。これは本当に大きな効果だと思います」と話す。 持病を伝え配慮  安達さんと同じ生産部プリプレス課で2015年から働いている荒木(あらき)昌之(まさゆき)さん(29歳)は、高校在学時と短期大学在学時の2回にわたって大風印刷のインターンシップに参加。「カレンダーのデザインを考えたり、文字の配置の仕方などを教えてもらったりしてDTPの仕事に魅力を感じました」とふり返る。足などに障害のある荒木さんは、就職活動では障害者を雇用している企業の契約社員の求人もあったが、大風印刷では正社員として採用していたこともよかったそうだ。  入社時には、てんかんの持病があることも伝え、体調を崩しそうになったときの配慮を頼んだ。上司の田崎さんは「日ごろはまったくといっていいほど、ほかの社員と同じように指導しています。これまで一度だけ職場でめまいのような症状になったことがあったため、体調がよくないと感じたらすぐに連絡してもらい必要に応じて休んでもらうようにしています」と説明する。荒木さん自身は「入社してから、てんかん発作が起こったことはありません」と教えてくれた。  DTPのスキルは入社してから学んでいるという荒木さん。日ごろは入力作業や写真選びなど補佐的な業務が多いが、少しずつ名刺のデザインなどを担当するようになっているそうだ。「働くようになってから、印刷にかかわる知識やデザインについて学ぶことができてよかったなと思っています。これからも勉強しながらスキルアップしていきたいです」と語っていた。 全国アビリンピック出場  安達さんと荒木さんは、アビリンピックへの挑戦も続けてきた。大風さんによると、DTP種目が山形県の地方アビリンピックで始まった当初から、大風さんの父・茂吉(もきち)さんや社員が審査員を務めた縁もあり、安達さんはDTP種目、荒木さんはワード・プロセッサ種目に何度も参加してきた。  今年11月に愛知県で開催予定の全国アビリンピックには、2人揃って出場権利を得た。安達さんは事情により残念ながら参加できないかもしれないとのことだが、荒木さんは「全国アビリンピックは、今年で3回目の出場です。課題を時間内に作成できるようがんばります」と抱負を語ってくれた。  2人とも日ごろから仕事のなかで腕を磨いてきているので、特訓はしていないそうだ。大風さんは「たくさんの人と競えるよい機会」としつつ、「競技はだれかに勝つことが大切なのではなく、過去の自分に勝つことが大切です。全国大会という場で緊張すると思いますが、昨年できなかったこともあると思うので、平常心で楽しんできてほしいですね」と激励する。 印刷・製本の現場でも  本社建物内にある印刷・製本の現場には、大型の印刷機械が何台も並び、大小さまざまなタイプの印刷物があちこちに積み上がっている。現場を案内してくれた、総務部長を務める設楽(したら)博信(ひろのぶ)さんは「私たち大風印刷は、多品種・小ロットの製品づくりが強みです。最近は紙以外のクリアファイルやキーホルダーといったグッズ制作も手がけていて、作業の一部を地域の就労支援施設にも委託しています」と説明する。  機械に囲まれた一角で、束(たば)になった印刷物の梱包作業をしていたのは浅野(あさの)さん(31歳)。大風印刷に勤務していた父親からすすめられ、1週間ほどの職場実習を経て2012年に入社した。  浅野さんが梱包した製品は、ピシッとした折り目のきれいな仕上がりが特徴だという。「同じ梱包でも明らかにできばえが違うので、営業担当者の間で評価が高く、ときには『浅野さんにやってもらいたい』と指名されるほどですよ」と設楽さんが教えてくれた。  生産部製本加工課の課長を務める結城(ゆうき)隆紀(たかのり)さんは「浅野さんの長所は、とにかく真面目で責任感が強く、きっちり作業してくれることです」と話す。一方で、最初のころは知らぬ間に浅野さんに負担がかかり、体調を崩してしまうことが何度かあったという。  「1人でがんばってしまうことがあるので、助けが必要なときはいつでも相談するように伝えています。引っ込み思案なところもあり、私や周囲の社員のほうから声がけもしながら作業の調整をしています」  ここ5年ほどは、体調を崩して休むこともなくなったそうだ。浅野さんは「最初は覚えることがたくさんありすぎて、たいへんでした」とふり返りつつ、いま仕事で心がけているのは「納期に遅れが出ないようにすることです」と話す。ちなみに職場で楽しみにしているのは、2年に一度の社員旅行だそうだ。「今年は愛知県に行くらしいです」とうれしそうに教えてくれた。  大風印刷では特別支援学校や就労移行支援事業所などからの依頼にあわせて職場実習も行っている。「印刷の機械音が大きい製本現場などは敬遠されることもありますが、印刷にかかわる作業がいろいろあるので、マッチングさえうまくいけば今後も採用していきたいですね」と大風さんは話してくれた。 スペシャルオリンピックス  これまで大風さんは、仕事以外の場でも障害のある人とかかわってきた。その一つがスペシャルオリンピックス(※)にかかわる活動だ。2008年に山形県でスペシャルオリンピックス日本冬季ナショナルゲームが開催され、当時大風さんの子どもが通っていた中学校のPTA仲間に誘われ、フロアホッケー競技の運営にボランティアでかかわったのがきっかけだ。中学校内でも、特別支援学級の生徒たちと一緒にチームをつくってフロアホッケーを楽しんだそうだ。大風さんは、その活動で知り合った、ある男子生徒の母親の言葉が、いまも心に残っている。  「そのお母さんは、『息子に知的障害があるとわかってから、ずっと過保護にしてきてしまった。でもこんなふうにほかの子たちと一緒にスポーツができる姿を見て、手を放す決心がついた』と話していました。子どもの自立をめぐる親の思いはみんな一緒なのだとあらためて実感しました」  大風さんは「この盛り上がりを一過性のものにせず、知的障害のある人たちと一緒に続けよう」と、山形フロアホッケー連盟を立ち上げた。大風さんたちも友人や社員を誘って混成チームを結成、近くの障害者支援施設の体育館で練習や試合を行ったそうだ。  「私も含め社員たちは、重度の障害のある人とも、一緒にスポーツを楽しみながら自然とかかわれるようになりました。こういう経験によって、日常生活でも障害のある人と自然体で接していけると感じます」  その後、フロアホッケーが世界大会の競技種目から外れてしまったこともあり、活動は小休止の状態だが、「今後もなんらかの形で、障害のある人も一緒に活動できる機会を増やしていけたらいいですね」と大風さんは話す。 一緒に働いているからこそ  大風さんはこれまでの自身の経験もふまえて、あらためて障害のある人もない人も職場で一緒に働くことの大切さを語ってくれた。  「ふだんの社会生活のなかでは、障害のある人とのかかわり方がわからないという人が少なくないと思います。どこまで手伝ったらよいのか、どこからやるべきではないのか迷ってしまいますよね。でも職場で日ごろから一緒に働いていると、それがわかるようになります」  例えば、手と足が不自由な安達さんが、ビニール袋のごみを持って2階から階段を降りてごみ置き場まで持っていくときは、少し時間がかかってもだれも手伝わないのだという。大風さんが話す。  「でも重そうなものを運ぼうとしているときは、自然とだれかが手伝っています。気負いなく助け合う判断ができるのは、地域社会で障害のある人とかかわるなかでも大事なことだと感じますね」  大風さんが発信してきた「障害の有無にかかわらず一緒に働き、ともに暮らす」という思いは、取締役として現場を支える実妹の奥山(おくやま)朋子(ともこ)さんも同じだ。じつは奥山さんには、障害のある社員にまつわる忘れがたいエピソードがあるという。  奥山さんが中学生のころ、同級生が、近所に住む聴覚障害のある人のことを作文にして、賞をもらったそうだ。その作文がみんなの前で読み上げられたとき、奥山さんは思わず涙が出てきてしまったのだという。  「作文に登場した聴覚障害のある人は、私たちの職場で働いていた女性でした。当時の私とは友達のような関係で、特別視することもなく一緒に過ごしてきた彼女のことを、なぜあんなふうに障害者として特別に紹介されなければいけないのかと、複雑な気持ちになったことを、いまも思い出します」  仕事にかぎらず困っていたら一緒に解決しようと動いてしまう奥山さんが、最近、なんとかしたいと思っていることがあるという。それは、車いすを使う重度障害のある子どもをもつ女性社員からの相談だ。「スクールバスが回ってこない地域のため送り迎えをしなければならず、短時間勤務しかできないことが悩みだそうです。働く意欲のある彼女のためにも、何かよい方法はないか、一緒に関係機関とかけ合ってみようと検討しているところです」  奥山さんの言葉に、長年だれもがあたりまえのように一緒に働いてきたという大風印刷が、今後も変わらず、ともに支え合える職場を目ざしていく様子を、想像することができた。 ※スペシャルオリンピックス:知的障害のある人たちに、さまざまなスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を、年間を通して提供する国際的なスポーツ組織のこと。日本国内においてスペシャルオリンピックスの活動を推進しているのは「公益財団法人スペシャルオリンピックス日本」である 写真のキャプション 株式会社大風印刷代表取締役社長の大風亨さん 生産部プリプレス課で働く安達健司さん 安達さんは名刺のレイアウト作業をになう 生産部プリプレス課課長の田崎剛さん 安達さん(手前)と作業内容を打ち合わせる田崎さん 生産部プリプレス課で働く荒木昌之さん 荒木さんは入力作業や写真選びなどを担当している 2023年に開催された第43回全国アビリンピック(愛知県)でワード・プロセッサ種目に臨む荒木さん 総務部長の設楽博信さん 印刷物の梱包作業にあたる浅野さん 生産部製本加工課課長の結城隆紀さん 取締役の奥山朋子さん 【P10-11】 クローズアップ マンガでわかる! わが社の障害者雇用物語 第2回 業務の切り出し・選定のコツ  はじめて障害のある人の雇用を考える企業では、「障害のある人にどんな仕事を任せたらよいのか」という点に悩む方が多いようです。その際、仕事に人を合わせるのではなく、現在の仕事全体を見直して、障害のある人に任せられる職務を見つける方がうまくいく場合があります。詳しく見ていきましょう。 監修:三鴨(みかも)岐子(みちこ) (『働く広場』編集委員)  名刺や冊子などのデザインを手がける「有限会社まるみ」の取締役社長。精神保健福祉士。  障害のある社員の雇用をきっかけに「中小企業の障害者雇用推進」に関する活動を精力的に行っている。 職務選定のコツ  はじめて障害のある人の雇用を進める企業からは「どのような仕事を担当してもらえばよいのかわからない」といった声が多く聞かれます。採用したい職務を決めてから、それに合わせて障害の種類や程度を限定してしまい、応募が思わしくないという結果になったケースもあります。  採用後に仕事の経験を積みつつ、職場環境の改善や就労支援機器の導入、教育・訓練などで、職域を広げて活躍している障害のある人も数多くいます。そのため、障害の種類や程度等をあらかじめ限定せず、障害のある人それぞれがもつ力を活かすことのできる職務を、障害の特性を考慮しながら柔軟に考えてつくっていくことが大切です。 業務の切り出しとは  職務の創出には、「切り出し・再構成モデル」、「積み上げモデル」、「特化モデル」という三つのモデルがあります(※1)。  その職場に存在する定型的・反復的な作業を探し出し、これを切り出して障害のある人の職務とするのが「切り出し・再構成モデル」です。そしてこの方法を軸に、個人のもつ特性等を考慮して、最初は少ない作業からスタートするのが「積み上げモデル」、個々の得意分野や経験などの強みを活かせる作業を集めて任せるのが「特化モデル」です。各モデルについては、左ページのマンガで図解しています。なお、この三つのモデルは、必要に応じて選択したり、組み合わせたりしながら職務を考えていくとよいでしょう。  採用時にある程度、職務を選定して提示するとしても、実際に担当してもらう業務は、採用が決定した人の障害特性や本人の希望などをふまえて、あらためて確定していくようにしましょう。 整理表を活用しよう  職務の創出は、社内の作業を下段の【表】のように詳しく整理すると、判断しやすくなります。各部署にヒアリングして、確認していきましょう。  採用を検討する職務の内容は、例えば次の点がポイントとなります。 @判断要素が少ないこと。 A納期に縛られないこと。 B作業内容の変化が少なく、恒常的に作業量を確保できること。  また、この機会に外部に委託している清掃や発送などの業務を選定の候補とし、内製化を図っていくのもよいでしょう。  職務の検討については、ハローワークや地域障害者職業センターなどの支援機関からも、アドバイスをもらうことができます。 表 整理表の作成 (注)表の内容は、医療機器製造業を例とする 作業名 作業内容(工程等) 要件1(身体負担) 要件2(理解・判断) 要件3(コミュニケーション) 要件4(資格・スキル) 時間頻度 施設設備 適否 部品の検品 部品形状やキズの確認 普通 必要 必要 不要 終日 否 部品収納・ピッキング 数字・アルファベットを判読し、収納ピッキングを行う 負担やや大 必要 必要 不要 終日 否 配送用の段ボール準備 配送製品に合わせて段ボールを組立 負担やや大 不要 不要 不要 随時 適 部品の組立 5種類の製品の組立 立ち作業 必要 必要 不要 終日 工具使用 否 輸入製品の開梱・ラベル貼り・箱詰め 100単位の製品を10個単位に詰め直す 負担やや大 不要 不要 不要 終日 適 指示書作成の数値入力 エクセル帳簿に商品No・個数・日付を入力 負担小 必要 必要 パソコン操作 随時 否 段ボール解体・整理 梱包用発泡スチロールと分別し、整理 負担やや大 不要 不要 不要 随時 適 表の出典:JEED『はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜』2024、P30 ※1 精神障害、発達障害のある人の職務創出のモデルについて、「調査研究報告書No.133」で詳しく紹介しています。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku133.html マンガでわかる! わが社の障害者雇用物語 第2回 業務の切り出し・選定のコツ ★この物語はフィクションです。 ※2 障害のある人に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、地域の関係機関に対する助言・援助も実施しています。各都道府県の地域障害者職業センターの所在地はこちらをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/location/chiiki/index.html 【P12-14】 JEEDインフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 「障害者雇用納付金制度に基づく各種助成金」の活用事例  「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」は、事業主が障害者の雇用にあたって、施設・設備の整備や適切な雇用管理を図るための特別な措置を行う場合に、その費用の一部を助成することにより、事業主の一時的な経済的負担を軽減し、障害者の雇用の促進や雇用の継続を図ることを目的としています。  今回は、これらの助成金を効果的に活用した事例を紹介します 事例1 〜職場に適応していくための企業在籍型職場適応援助者の支援〜 【企業在籍型職場適応援助者助成金】  精神障害のあるAさんは、特例子会社B社に勤務しています。  勤務するなかで、ストレスがたまると体に痛みが出ることや、複数の指示を受けると余裕がなくなりミスが増えるという悩みを抱えていました。  その悩みを解消するためにB社は、助成金の活用を想定し、必要な支援が常時できるよう企業在籍型職場適応援助者(企業在籍型ジョブコーチ)の資格を有するCさんを配置し、計画に基づきAさんの支援を始めました。  Cさんは、ストレスをためないための休憩の仕方をAさんに助言し、自身を客観的にふり返るための業務日誌の作成やミスを少なくできるような業務マニュアルの作成などを行いました。  Aさんは、Cさんの支援で自身の抱える悩みを解消する方法を身につけることができ、いままでよりも安心して勤務に励んでいます。 事例2 〜視覚障害の負担を軽減するための就労支援機器の購入〜 【障害者作業施設設置等助成金(第1種作業施設設置等助成金)】  視覚障害のあるDさんは、事務職としてE社に採用され、パソコンを使用して顧客情報や書類の確認などを行う業務に従事することになりました。  E社は、Dさんの障害に配慮するため、JEEDの中央障害者雇用情報センターの就労支援機器無料貸出し制度を利用し、Dさんの業務に適した拡大読書器やパソコンの画面読上げソフトの貸与を受けました。採用後、Dさんは、貸出し機器を利用しながら、事務職として支障なく業務に従事することができました。  機器の有効性を確認したE社は、今後も継続して利用するため、機器の購入を決定し、その際、助成金を活用しました。  Dさんは、就労支援機器の活用により、業務遂行上の支障が軽減され、現在も円滑に業務に従事しています。 事例3 〜中途障害者の職場復帰に配慮したトイレ改修工事〜 【障害者作業施設設置等助成金(第1種作業施設設置等助成金)】  F社で生産管理を担当していたGさんは、健康診断で指摘を受け、再検査により直腸がんが見つかり、人工肛門造設の手術を受けました。  しばらく入院し休職していましたが、その後体調も回復し職場復帰が可能となりました。ところが、F社にはオストメイト対応トイレがなく、Gさんは定期的に近隣の公共施設の多機能トイレで処理やストーマ装具の交換・洗浄を行うことが必要となりました。  そこでF社は、助成金を活用し、社内のトイレをオストメイト対応トイレに改修しました。  社内にオストメイト対応トイレが整備されたことにより、Gさんの負担は軽減され、中途障害を負う前と同様に活躍しています。 事例4 〜常時見守りつつ就業上の支援を行う職場支援員の配置〜 【障害者介助等助成金(職場支援員の配置助成金)  難病等患者のHさんは、治療による効果で病状を抑えることができており、J社で就労支援利用者の軽作業のフォローや事務作業を行う仕事に就いていますが、ときには病状が悪化して業務が負担となることや、無理をしすぎて体調を崩すことがありました。  そのためJ社は、助成金を活用して職場支援員を配置し、Hさんを常時見守る体制や定期的な面談体制を整備しました。  その結果、Hさんの体調管理の支援と業務量の調整が適切に行えるようになり、業務負担の軽減により、無理なく働き続けています。 事例5 〜視覚障害者をサポートする職場介助者の配置〜 【障害者介助等助成金(職場介助者の配置助成金)】  建設業を営むK社で勤務するLさんは、管理部において発注・納品管理、行政機関への各種申請、見積書の作成などの業務に従事しています。  Lさんは以前から視覚障害がありましたが、障害の程度が進み、書類やメール、図面の確認に支障をきたすようになりました。  そこでK社は、助成金を活用して職場介助者を配置し、Lさんの業務のサポートを行うことにしました。メールの代読やLさんが下書きした書類の代筆、図面を確認する際には職場介助者が内容を伝えて業務をサポートします。また、職場介助者の同行により、自身で行政機関等の窓口へ各種申請に行くことも可能になりました。  その結果、Lさんは以前と同じ業務で働き続けることができています。 令和6年4月に新設された【障害者雇用相談援助助成金】の受付を開始しています 【助成金の概要】 対象障害者の雇入れおよびその雇用の継続を図るために必要な一連の雇用管理に関する援助の事業(障害者雇用相談援助事業)を、当該援助事業の利用事業主に対して行う事業者に支給します。 【対象となる事業等】 @障害者雇用相談援助事業の利用事業主の公共職業安定所への求人申込みにつながったもの A対象障害者を雇入れし、6カ月以上の雇用継続を行ったもの 【支給限度額】 @60万円(中小企業または除外率設定業種事業主は80万円) A対象障害者1人につき7万5000円(中小企業または除外率設定業種事業主は10万円) ※JEEDの助成金等に関する申請手続き等は、JEED都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)にお問い合わせください。 https://www.jeed.go.jp/location/shibu/index.html 国立職業リハビリテーションセンター 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 訓練生募集のお知らせ 〜障害のある方々の就職に向けた職業訓練や就職支援を実施しています〜 募集訓練コース、募集日程、訓練開始月 国立職業リハビリテーションセンター 訓練系 訓練コース メカトロ系 機械CADコース 電子技術・CADコース FAシステムコース 組立・検査コース 建築系 建築CADコース 情報系 DTPコース Webコース ソフトウェア開発コース システム活用コース 視覚障害者情報アクセスコース ビジネス系 会計ビジネスコース OAビジネスコース オフィスワークコース 物流系 物流・資材管理コース 職域開発系 オフィスアシスタントコース 販売・物流ワークコース サービスワークコース 入所期 ハローワークへの申請書提出締切日 入所日 1月入所期 令和6年10月18日(金) 令和7年1月9日(木) 3月入所期 令和6年12月13日(金) 令和7年3月11日(火) 4月入所期 令和7年1月20日(月) 令和7年4月17日(木) 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 訓練系 訓練コース メカトロ系 機械CADコース 電気・電子技術・CADコース 組立・検査コース 製造ワークコース ビジネス情報系 システム設計・管理コース 【視覚障害者対象】ITビジネスコース 会計ビジネスコース OAビジネスコース オフィスワークコース アシスタント系 販売・物流ワークコース サービスワークコース 入所期 ハローワークへの申請書提出締切日 入所日 1月入所期 令和6年11月7日(木) 令和7年1月9日(木) 2月入所期 令和6年11月21日(木) 令和7年2月5日(水) 4月入所期 令和7年2月6日(木) 令和7年4月8日(火) ●訓練の期間は……  1年間が基本です。「システム設計・管理コース」、「ITビジネスコース」(ともに国立吉備高原職業リハビリテーションセンター)のみ2年間です。 ●遠方の方については……  国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでは、併設の宿舎が利用できます。国立職業リハビリテーションセンターでは、身体障害、高次脳機能障害のある方、難病の方は、隣接する国立障害者リハビリテーションセンターの宿舎を利用することができます。 国立職業リハビリテーションセンター 埼玉県所沢市並木4-2 職業評価課 TEL:04-2995-1201 https://www.nvrcd.jeed.go.jp 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 職業評価課 TEL:0866-56-9001 https://www.kibireha.jeed.go.jp 写真のキャプション 視覚障害者の支援機器を活用した訓練風景 3DCADを活用した訓練風景 【P15-18】 グラビア 高齢化が進む製材業の貴重な働き手 堀長木材商店(和歌山県) 取材先データ 堀長木材(ほりちょうもくざい)商店(しょうてん) 〒649-2621 和歌山県西にし牟婁郡(むろぐん)すさみ町(ちょう)周参見(すさみ)4581-36 TEL 0739-55-3731(事務所) 写真・文:官野貴  和歌山県西にし牟婁郡(むろぐん)すさみ町(ちょう)において製材業を営む堀長(ほりちょう)木材(もくざい)商店(しょうてん)では、知的障害のある従業員が活躍している。1人は2021(令和3)年に「優秀勤労障害者」として独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞の表彰を受けた奥野(おくの)伸治(しんじ)さん。そしてもう1人が柴田(しばた)将之(まさゆき)さん(36歳)だ。2人は、高齢化が進む製材業において貴重な働き手となっている。  柴田さんは、梱包用木材の固縛(こばく)、製材作業の補助、薪の結束、木質バイオマスボイラーの燃料となるチップづくりなどの作業に従事している。  梱包用木材の固縛作業では、ほかの従業員が加工した角材をずれがないようにきっちりと積み上げていく。角材の状態にも注意をはらい、割れなどがあれば除外し、大きなバリ(ささくれ)を取り除く。最後にPPバンドで固縛し出荷準備が整う。柴田さんのていねいな仕事ぶりは、納品先からも高く評価されており、安定した受注につながっているという。  製材作業の補助では、同社の代表を務める堀谷(ほりたに)伸二(しんじ)さんやほかの従業員とペアを組み、帯鋸盤(おびのこばん)での作業にあたっており、安全のため、帯鋸の刃がついていない側での作業を担当している。  薪の結束作業では、輪状の鉄線(たが)に薪を詰めていき、最後は中心部に細く割った薪を詰め込むことで、型崩れすることのない薪の束ができる。柴田さんは作業時、薪がきれいに丸くなるように意識しているという。  燃料用チップづくりでは、木材を切り出した際に出る端材を、切削(せっさく)チッパー機に投入し加工を行う。このチップづくりは、SDGsの一環として木質バイオマスの利用促進ともリンクし、長期間の継続した受注が見込めるという。  堀長木材商店は2022年に創業70周年を迎えた。代表の堀谷さんは、「柴田さんに100周年を目ざしてほしい」との思いがある。柴田さんは「ここは楽しい職場です。ずっと働き続けたいです」と話してくれた。 写真のキャプション 梱包用木材の固縛 角材の状態を確認しながら、積み上げる柴田将之さん 木槌(きづち)や端材を使って角材の端を揃える PPバンドでの固縛作業。PPバンドがねじれないように注意が必要 封緘機(ふうかんき)でPPバンドを閉じる 出荷準備が整った梱包用木材。納品先の機械メーカーなどで出荷用の木枠やパレットなどに加工される 梱包用木材の固縛では、PPバンドの引締機や鋸(のこぎり)などの道具を使用する 製材作業の補助 帯鋸盤での製材作業。柴田さんは前取りを担当しており、切り出された板材を受け取り、残りの材木を送り返す 薪の結束 たがの輪の中に薪を詰める 鉈(なた)で細い薪をつくり、中心部に差し込む きれいに束ねられた薪。キャンプ場などで販売される 薪の結束では、木槌や鉈を使いこなし作業にあたる チップづくり 端材を切削チッパー機に投入する 切削チッパー機で切削されたチップが作業小屋の隣で積み上がっていく チップは木質バイオマスボイラーの燃料として活用される 【P19】 エッセイ てんかんとともに 公益社団法人日本てんかん協会にご協力いただき、「てんかんとともに」と題して全5回シリーズでお一人ずつ語っていただきます。 映画監督 和島 香太郎 (わじま こうたろう) 第4回 眠れぬ夜はだれのせい  1983(昭和58)年、山形県酒田市生まれ。映画監督。代表作に『梅切らぬバカ』(2021年公開)がある。15歳でてんかんと診断を受けるが、投薬治療で発作を抑制しながら暮らしている。また、自主制作のネットラジオ「てんかんを聴く ぽつラジオ」も不定期で配信中。患者や家族、医療従事者らを招き、てんかんを巡るさまざまな話題について話し合っている。  撮影が終わったのは深夜。はじめて商業映画を監督することになった私は、毎晩助監督に呼び出されてダメ出しを食らっていた。「もっと効率よく撮れ」という。なにしろ、30秒に満たない場面をいろいろなアングルから撮ろうとして一時間半もかかっていたのである。「超低予算の現場で時間もかぎられているのだからシーンごとカットしろ」とまでいわれていたが、聞く耳を貸さずに現場に臨んでしまった。  ようやく宿泊施設に戻って布団に入ると、背中が痛かった。閉園した保育園を借りて寝泊まりしていたので、床はフローリングだった。スタッフ全員が同じ部屋に雑魚寝しているので、いびきも気になる。翌朝も早いが、あと何時間眠れるだろう。目が覚めたときに、発作が起きませんように……。  私にはてんかんという持病があり、15歳で診断を受けて以来投薬治療によって発作を抑制していた。しかし、疲労と睡眠不足が蓄積すると、発作の再発リスクが高まる。手がビクッと動く程度の小さい発作ならすぐに治まるが、大きな発作の場合は全身がガクガクとけいれんした後、嘔吐して意識を失う。直近の記憶を一時的に失うため、撮影中の映画の内容を思い出せなくなるのが致命的だ。  自主映画を撮っていたときに、大きな発作を起こしてスタッフを驚かせたことがあるが、商業映画の現場で同じことが起きれば、出資者や制作会社に損害を与えてしまう。私のようなでくのぼうでも、現場にいなければ撮影は始まらない(と信じたい)。撮影のために拘束していた役者とスタッフの人件費、ロケ地の使用料や機材費も無駄になるだろう。予算を管理するプロデューサーやスケジュールを管理する助監督の立場になって考えれば、そうしたリスクは知っておきたいはずだ。  しかし、自分本位な私は、病気を理由に降板を言い渡されることを恐れて黙っていた。かつて友人にてんかんがあることを伝えたことはあるし、嫌な顔をされた経験もないが、これは仕事であり、私が対峙するのは組織である。だれがどんな反応を示すのかが読めない。社会に偏見が根づいていることを言い訳にすれば、病気を伏せて働くことも肯定できそうな気がした。けれど、劣悪な労働環境で懸命に働くスタッフを見ていると、罪悪感が募った。彼らは、私が倒れて現場が崩壊するリスクが高まっていることを知らない。  結局大きな発作は起きなかったが、再び同じような現場で映画を撮る自信はなかったし、その資格もないと思った。というより才能がないことがバレて、仕事を依頼されなくなった。  「これからどのように働いていけばいいんでしょうか」。てんかんの主治医に相談すると、患者同士の交流会への参加をすすめられた。実際に足を運んでみると、私のように病気を伏せて働く人が多く、それぞれに悩みを抱えていた。同時に、病気を開示して働く人もいた。詳しく話を聞いてみると、病名ではなく症状を伝えることに意義があるという。病名自体が何をさしているのかわからないし、患者によって症状も異なるためだ。私のように全身がけいれんして倒れる患者もいれば、目を開けたまま意識や動作が停止する患者もいる。さらに発作時の対応を伝えておけば、周囲の混乱を最小限に抑えることができる。私は、自分の症状を端的に伝える練習を始めた。  現場復帰は、ドキュメンタリー映画の編集の仕事だった。自閉症スペクトラムの初老の男性の暮らしを追った内容である。監督も40歳を過ぎてADHDの診断を受けたばかりだったこともあり、私のてんかんとそれに付随する困りごとに、関心を持ってくれた。病や障害は人と人との関係を断ち切ってしまうものだと思い込んでいたが、それは私の勘違いだったのかもしれない。  やがて、7年ぶりに劇映画の監督を務める機会が巡ってきた。前回より予算は増えたものの、撮影期間は10日間と短い。前回の失敗をふまえて、シーン数やカット数を減らした。また、てんかん発作時の対応をプロデューサーと助監督に伝え、寝不足にならないスケジュールが組まれた。「作品のためですから遠慮はなしです」という返事が心強かった。一日の撮影を終えて戻った先は、ホテルの個室。ふかふかのベッドに沈み込んで眠った。 【P20-25】 編集委員が行く 人的支援ネットワークが職場定着を支える 清流障がい者就業・生活支援センターふなぶせ、岐阜障害者職業センター、株式会社名岐サービス(岐阜県) 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 取材先データ 清流(せいりゅう)障がい者就業・生活支援センターふなぶせ 〒502-0841 岐阜県岐阜市学園町2-33 (岐阜県障がい者総合就労支援センター内) TEL 058-215-8248 FAX 058-215-8029 岐阜障害者職業センター 〒502-0933 岐阜県岐阜市日光町6-30 TEL 058-231-1222 FAX 058-231-1049 株式会社名岐(めいぎ)サービス 〒501-6012 岐阜県羽島郡岐南(ぎなん)町八剣(やつるぎ)2-45 TEL 058-247-2444(代表) FAX 058-247-2440 Keyword:障害者就業・生活支援センター、障害者職業センター、ジョブコーチ、精神障害、中小企業、警備業、職場定着写真:官野 貴 松爲(まつい)信雄(のぶお) 編集委員から  障害のある人が雇用されて定着し戦力化していくには、さまざまな支援担当者による支援ネットワークの構築とそれを維持するコーディネーターの存在、企業の文化や風土の基盤となる経営者の価値観と実際の支援をになうキーパーソンの存在によって、当事者が安心・安全を感じる職場環境でキャリア構築の意欲を喚起していくことを知ってもらいたいとリポートしました。 POINT 1 支援関係者による情報の共有 2 人的支援ネットワークを維持するコーディネーター 3 社員の安心・安全を担保するキーパーソン  地方の中小企業が、精神障害のある人を採用して定着に至る経過を取材したく、岐阜県を訪れました。そこから見えてきたのは、さまざまな支援機関の担当者や企業の方々が、本人の状況を共通認識して重厚な人的支援ネットワークを形成している様相です。 取材した組織と企業  清流(せいりゅう)障がい者就業・生活支援センターふなぶせ  最初に訪れたのは、「岐阜県障がい者総合就労支援センター」の一角にある「清流障がい者就業・生活支援センターふなぶせ」(以下、「支援センターふなぶせ」)です。所長で精神保健福祉士の森(もり)敏幸(としゆき)さんと精神障害者就労支援ワーカーの佐村( さむら)枝里子(えりこ)さんにお会いしました。  森さんによれば、支援センターふなぶせは、県下で最も古い精神科の病院である岐阜病院から、2008(平成20)年に独立した社会福祉法人舟伏(ふなぶせ)が運営し、岐阜北エリアを管轄しています。職員は所長を含めて9人ですが、そのうちの7人が精神保健福祉士ということです。そのため、精神障害者の支援に力量のあるセンターとして定評があり、現在の利用登録者数は900人強、相談件数は年間7000〜8000件になるということです。  今回の支援を担当された佐村さんも精神保健福祉士で、法人内での生活支援部門も経験されながら2016年から支援センターふなぶせに所属され、常時の担当は100人近くになるということです。 岐阜障害者職業センター  次に、当機構(JEED)が運営する岐阜障害者職業センター(以下、「職業センター」)の主任障害者職業カウンセラーの茂木(もぎ)修(おさむ)さん、上席障害者職業カウンセラーの橋(たかはし)達也(たつや)さん、職場適応援助者(ジョブコーチ)の國枝(くにえだ)正樹(まさき)さんと片桐(かたぎり)朱美(あけみ)さんにお会いしました。  茂木さんによれば、岐阜県の就労支援の体制は、県内に6カ所ある障害者就業・生活支援センターが地域の軸となって支援機関ネットワークをしっかりつくっているそうです。特に岐阜圏域では、おもに長良川の北エリアをになう「支援センターふなぶせ」と南エリアをになうもう1カ所が職業センターと連携して、地域に密着したていねいな支援が行われています。最近では岐阜圏域以外のエリアにある障害者就業・生活支援センターとの連携も重視しているそうです。  また、橋さんによると、職業センターのジョブコーチ支援は、支援の対象者や事業主のニーズに対応したジョブコーチ支援計画に基づいて派遣し、その期間は標準3カ月程度でフォローアップは1〜2年程度を計画することが多いため、以降の定着支援を見すえて障害者就業・生活支援センターと連携するそうです。  國枝さんと片桐さんは、これからご紹介する株式会社名岐(めいぎ)サービスのジョブコーチとして今回の支援を担当されました。 株式会社名岐サービス  最後に、警備事業を展開している株式会社名岐サービス(以下、「名岐サービス」)の取締役社長の朝日(あさひ)智哉(ともなり)さん、総務課長の井戸(いど)玲子(あきこ)さん、そして障害のある社員で交通誘導警備係の瀬尾(せお)さんにお会いしました。  朝日さんによれば、同社は1993年に設立され、現場の警備担当社員の働きやすい環境を整えることを経営の基本とされています。また、障害者の採用は、障害者雇用率や人手不足などの理由ばかりではなく、小学校のときの仲のよい友人に障害があったこともあって、彼らと一緒に仕事をしてみたいという思いが原点だそうです。  警備事業には、交通誘導警備、イベント警備、巡回警備、施設警備、建物総合管理などがあり、社員数は40人で60歳以上の社員が7割を占めます。警備員は法律で20時間以上の新任研修と年間10時間以上の現任教育が課せられ、立ち入り検査が毎年行われますから、研修体制を厳格に維持しながら社員の質を担保しています。  井戸さんによれば、社員は定年退職後の再就職で入社された人が多く、生活費を稼ぐこと以外のさまざまな価値観で働いている方が少なくありません。警備は単独かグループで行いますが、交通誘導では通行人とのトラブルが起きることもあります。そのため、どの現場にだれを配属させてだれとチームを組ませるか、というシフトの管理が最も重要な仕事になるということです。 就職から定着に至る支援の経過  今回お話をうかがった瀬尾さんは、現在40歳です。瀬尾さんが同社に就職した前後から現在に至るまでの過程を、瀬尾さんからうかがったお話をはじめ、支援センターふなぶせの佐村さん、職業センターの橋さんと國枝さん、片桐さん、名岐サービスの井戸さんなどの、異なる面談場所で取材した複数の人からの情報をつなぎ合わせながら再現してみました。 これまでの経歴  (支援センターふなぶせ:佐村さん)瀬尾さんは、奈良県出身で学校卒業後に神奈川県内で配送業務に就いた後、2017年に一過性精神病と診断されて入院。退院後は、精神障害者保健福祉手帳(2級)を取得してクリニックに通院し、2018年に岐阜県に帰省されました。コロナ禍で通院できなかったために手帳の更新期限切れになったのですが、ハローワークを介して求職活動を始められました。  ハローワークの紹介で瀬尾さんと初めてお会いし、精神障害者保健福祉手帳の再取得に向けてセカンドオピニオンとして受診に同行しました。手帳取得の見込みが立った時点で職業センターとの連携を始めました。 就職前の支援  (職業センター:橋さん)瀬尾さんは、職業評価や職業準備支援を受けられ、それらの終了後にハローワークの合同面接会に参加されました。名岐サービスに内定後に、警備現場、勤務期間、通勤などへの配慮事項を含んだジョブコーチ支援計画を作成しました。  (支援センターふなぶせ:佐村さん)瀬尾さんは、自分のことを言語化することが苦手でした。そのため、職業センターやハローワークの職員と一緒になって、キャリアパスポートを作成しながら経歴の見える化をしました。こうした課題にとてもまじめで真剣に取り組まれていました。 集団面接と求職活動  (名岐サービス:瀬尾さん)合同面接会に参加するにあたって、仕事を探す条件として、自宅から通勤できることと仕事内容が時間的な強制を受けないことを基準にしました。名岐サービスはその希望に合致したのです。  (支援センターふなぶせ:佐村さん)合同面接会でも瀬尾さんに同行しました。いろいろな不安をお話しになり、名岐サービス社長の朝日さんや総務課長の井戸さんからていねいな回答をいただいていました。例えば、警備中のトイレ対応や、日中の立ち作業での体力消耗に対する配慮、正社員としての待遇、入社後の研修内容などです。  (名岐サービス:井戸さん)合同面接会に参加する前に、ハローワークでの障害者雇用に関する研修セミナーに社長とともに複数回参加して、精神障害のある人への理解と対応のしかたを学習しました。障害者雇用はハードルが高いという意識があったので、それなりの準備をしたのです。 入社後の研修  (名岐サービス:井戸さん)事前に学習していたこともあって、瀬尾さんの新任研修には法定時間の倍近くを費やしました。納得できるまで復習をくり返すとともに、現場では同僚の支援を受けながら業務に取り組めることなど、仕事に対するさまざまな不安を解消することに努めました。 支援機関の継続的な支援  (職業センター:橋さん)実務に就かれて1年以上経過したころ、ストレスが蓄積して急性の精神症状を発症して入院されました。退院後の復職支援では、職業センターのリワーク支援を活用し、終了後は職業センターのジョブコーチ支援を受けて現在に至っています。また、定着支援は、支援センターふなぶせと共同で進めています。  (支援センターふなぶせ:佐村さん)入社後の短期入院の際にも受診同行をしました。退院に際してのケース会議では、瀬尾さん自身が病識を深め、服薬への不安を解消して自己管理できるよう病院で指導していただきました。その後は安定して服薬を遵守されています。  (職業センター:國枝さん)現在は月1回程度の会社訪問で、佐村さん、井戸さん、私たちジョブコーチ、それに瀬尾さんを交えて情報共有をしています、それによって、支援ネットワークが非常にうまく維持されています。また、リワーク支援中に活用していた日誌をいまも継続してもらっています。日誌を続けることで、症状や健康維持のセルフマネジメントをしていただくようにしています。  (職業センター:片桐さん)仕事のことにかぎらず家族や生活上の困りごとも表に出して、ほかの人の支援を受け入れることが大切であることを理解してもらうようにしています。  (支援センターふなぶせ:佐村さん)障害者職業カウンセラーやジョブコーチの支援があることで、私自身が定着支援を行うにあたって役割分担して連携することができ、業務の遂行に非常な恩恵を受けています。 職場定着に向けた企業対応  (名岐サービス:瀬尾さん)現在は、通勤は片道1時間程度。交通誘導の業務を行っていますが、酷暑のなかでの立ち作業は体力を消耗します。チームで勤務するときは、先輩がいろいろと気を遣ってくださるので感謝しています。入社直後は不安が大きかったのですが、周りの人にいろいろと相談したり教えてもらいながら、そこから抜け出しました。  (支援センターふなぶせ:佐村さん) 会社側は、瀬尾さんの不安感の解消に向けてさまざまな取組みをされました。例えば、入院時には病状回復への期待や退院後の職場復帰の確約などを伝え、傷病手当の手続きや休職中の給与支払いの迅速な対応をされました。そうしたことが、安心して入院から職場復帰に至ることができたといえます。  (名岐サービス:井戸さん)瀬尾さんの入社にあたっては、事前に、全社員に非常にていねいな説明をするとともに協力を求めました。最初にチームを組んだ先輩はとても面倒見のよい人で、送迎やさまざまな気遣いをしていただきました。それ以降も、瀬尾さんとシフトを組む社員は面倒見がよく相性もよい人を選んでいます。ですが、面倒を見るよう押しつけることはしません。  シフトの作成は、ふだんから社員一人ひとりの性格や家庭事情、そして現場の様子をできるだけ把握していないとできません。そのため、会社への出退勤時に社員の状況を把握するように努め、ちょっとした様子の変化が見られると、ただちに対応します。  瀬尾さんが仕事に慣れるにつれて、先輩や同僚の瀬尾さんに対する見方が明らかに変わり始め、次第に仕事仲間として意識されていきました。そのおかげでシフト編成も容易になって、先輩や同僚との間で良好な人間関係が生まれてきました。いまでは、社員の多様な価値観を尊重した働きやすい職場になってきたと社長ともども感じています。  (支援センターふなぶせ:佐村さん)名岐サービスは、障害のある人に対して企業全体で面倒見のよいことが定着につながっている典型的な例です。そうした組織風土を生み出しているキーパーソンが名岐サービスの井戸さんといえます。 見えてきたこと  今回の取材を通して、いくつかのことが見えてきました。  第一に、定着には関係機関の強固で持続的なネットワークが不可欠です。異なる場所での取材にもかかわらず瀬尾さんに対する一貫した支援経過を再現できたのは、それだけ、支援担当者同士で情報が共有されて持続的な人的支援ネットワークが形成されている証でしょう。  第二に、人的支援ネットワークの維持にはコーディネーターが不可欠です。支援センターふなぶせの佐村さんがその役割をになうことで、担当者相互のミクロネットワークが維持されています。  第三に、事業所内のキーパーソンが定着の要(かなめ)になります。名岐サービスの井戸さんのように、社員や当事者から信頼され、人間関係の調整を含むさまざまな環境整備のできる人がいると安定的な定着につながります。  第四に、障害のある人を雇用する場合、社員の不安に対応しながらキャリア育成を目ざすとともに、それらをになうキーパーソンのいることが望ましいでしょう。当事者が安心して働くことができる職場環境は、求職者が企業を選択する際の重要な価値基準の一つとなっているのです。  第五に、雇用を継続させてこそ、障害のある人も戦力化して同僚との関係性が変化していきます。仕事を継続することでお互いに支援し合う組織風土が育成され、ウェルビーイングな社風をつくりダイバーシティにつながります。  今回の取材では、企業における雇用の質、さまざまな支援者の質、そして、当事者自身の働くことへの意欲とキャリア意識、の三位一体となった活動が重要であることをあらためて知ることができました。 写真のキャプション 岐阜県障がい者総合就労支援センター 清流障がい者就業・生活支援センターふなぶせ 清流障がい者就業・生活支援センターふなぶせの所長で精神保健福祉士の森敏幸さん 精神障害者就労支援ワーカーで精神保健福祉士の佐村枝里子さん 岐阜障害者職業センター主任障害者職業カウンセラーの茂木修さん 岐阜障害者職業センター上席障害者職業カウンセラーの橋達也さん 岐阜障害者職業センタージョブコーチの國枝正樹さん 岐阜障害者職業センタージョブコーチの片桐朱美さん 株式会社名岐サービス 株式会社名岐サービス取締役社長の朝日智哉さん 総務課長の井戸玲子さん 株式会社名岐サービスで交通誘導警備係として働く瀬尾さん リワーク支援で活用された作業日誌。睡眠時間や服薬の有無、作業内容などを記入する 工事現場で交通誘導警備にあたる瀬尾さん(写真提供:株式会社名岐サービス) 【P26-27】 省庁だより ハローワークを通じた「障害者の就職件数」が過去最高を更新 ─令和5年度障害者の職業紹介状況等─ 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課  厚生労働省は令和6年6月28日、令和5年度の障害者の職業紹介状況等をまとめ公表しました。  ハローワークを通じた障害者の就職件数は、令和4年度の10万2537件から、11万756件(対前年度比8・0%増)となり、就職件数が過去最高だった令和元年度実績(10万3163件)を上回りました。 〈ポイント〉(第1表) 〇ハローワークにおける障害者の新規求職申込件数は24万9490件で、対前年度比6.9%増、就職件数は11万756件で、前年度と比べ8.0%増となり、いずれも前年度を上回った。就職件数の増加要因として、前年度に引き続き、新規求職申込件数が増加するとともに、法定雇用率の引上げなどを見すえて障害者雇用に取り組む企業が増えたことなどにより、求人数が増加したことが影響しているものと考えられる。 〇就職率(就職件数/新規求職申込件数)は44.4%で、対前年度差0.5ポイント増となった。 〇ハローワークに届け出のあった障害者の解雇者数は2407人であった(前年度1605人)。 〈産業別にみたときの特徴〉(第2表) ○産業別の就職件数は、「医療、福祉」(4万4153件、39.9%)の割合が大きく、「製造業」(1万3098件、11.8%)、「卸売業、小売業」(1万1623件、10.5%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(1万1520件、10.4%)が続いている。 〈職業別にみたときの特徴〉(第3表) ○職業別では、「運搬・清掃・包装等従事者」(3万4912件、31.5%)の割合が大きく、「事務従事者」(2万6696件、24.1%)、「サービス職業従事者」(1万4748件、13.3%)、「生産工程従事者」(1万2904件、11.7%)が続いている。 ★本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 第1表 ハローワークにおける障害者の職業紹介状況(令和5年度) @新規求職申込件数 前年度比 A有効求職者数 前年度比 B就職件数 前年度比 C就職率(B/@) 前年度差 合計 249,490(件) 6.9(%) 406,591(人) 6.4(%) 110,756(件) 8.0(%) 44.4(%) 0.5(ポイント) 身体障害者 59,202 1.9 120,925 2.7 22,912 4.6 38.7 1.0 知的障害者 37,515 5.4 58,047 2.3 22,201 7.9 59.2 1.4 精神障害者 137,935 11.6 209,411 9.3 60,598 12.1 43.9 0.1 その他の障害者(注) 14,838 △ 8.0 18,208 13.1 5,045 △15.6 34.0 △ 3.0 (注)「その他の障害者」とは、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳等を保有しない者であって、発達障害、高次脳機能障害、難治性疾患等により、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者である。ただし、令和2年1月のハローワークシステム刷新により、障害者手帳を有する者も一部計上されている。 第2表 産業別就職件数(令和5年度) 産業 障害者計 前年度比 身体障害者 前年度比 重度 前年度比 知的障害者 前年度比 重度 前年度比 精神障害者 前年度比 その他の障害者 前年度比 合計 110,756(件) 8.0(%) 22,912(件) 4.6(%) 8,482(件) 8.3(%) 22,201(件) 7.9(%) 3,329(件) 3.7(%) 60,598(件) 12.1(%) 5,045(件) △15.6(%) 農林漁業 1,095 △5.7 192 △18.6 58 7.4 251 1.2 34 6.3 591 △1.5 61 △20.8 鉱業,採石業,砂利採取業 38 0.0 17 30.8 6 100.0 5 66.7 1 − 14 △30.0 2 0.0 建設業 2,855 3.7 788 △1.1 256 6.2 419 0.5 49 6.5 1,509 9.5 139 △13.7 製造業 13,098 2.6 2,417 1.3 858 3.0 3,464 4.4 457 0.9 6,595 5.1 622 △21.0 電気・ガス・熱供給・水道業 152 58.3 53 60.6 16 0.0 14 133.3 4 − 77 57.1 8 0.0 情報通信業 1,837 9.3 329 2.2 147 △1.3 179 32.6 25 △3.8 1,252 13.5 77 △35.8 運輸業,郵便業 4,482 5.2 1,286 4.9 406 12.5 963 2.3 128 △11.7 2,063 11.2 170 △28.6 卸売業,小売業 11,623 3.6 1,933 3.9 666 5.2 3,139 1.8 442 △0.2 5,992 6.1 559 △11.3 金融業,保険業 1,213 15.4 375 4.2 140 2.2 109 10.1 14 △41.7 700 28.4 29 △38.3 不動産業,物品賃貸業 1,192 10.3 294 △4.2 106 21.8 193 25.3 38 100.0 651 19.0 54 △26.0 学術研究,専門・技術サービス業 2,377 12.6 429 10.0 152 △4.4 276 40.1 47 113.6 1,554 12.8 118 △19.2 宿泊業,飲食サービス業 4,417 10.0 979 13.7 360 18.0 1,156 8.5 159 △8.6 2,098 11.5 184 △10.7 生活関連サービス業,娯楽業 2,196 9.3 466 14.2 161 19.3 490 4.3 82 5.1 1,152 13.7 88 △25.4 教育,学習支援業 2,444 2.0 690 △8.4 247 △9.2 306 12.9 44 △10.2 1,354 8.4 94 △24.2 医療,福祉 44,153 12.9 7,733 7.8 3,175 12.0 8,330 12.4 1,349 7.0 26,041 17.0 2,049 △9.9 複合サービス事業 794 △4.6 132 △27.5 39 △17.0 198 △7.9 28 27.3 412 6.5 52 8.3 サービス業(他に分類されないもの) 11,520 7.4 2,834 7.1 1,010 12.7 2,356 7.4 388 3.5 5,859 10.4 471 △18.2 公務・その他 5,270 0.9 1,965 0.2 679 0.9 353 1.4 40 △2.4 2,684 4.4 268 △21.4 第3表 職業別就職件数(令和5年度) 職業 障害者計 構成比 身体障害者 構成比 重度 構成比 知的障害者 構成比 重度 構成比 精神障害者 構成比 その他の障害者 構成比 合計 110,756(件) 100(%) 22,912(件) 100(%) 8,482(件) 100(%) 22,201(件) 100(%) 3,329(件) 100(%) 60,598(件) 100(%) 5,045(件) 100(%) 管理的職業従事者 67 0.1 26 0.1 8 0.1 2 0.0 0 0.0 35 0.1 4 0.1 専門的・技術的職業従事者 7,992 7.2 2,273 9.9 1,050 12.4 339 1.5 33 1.0 4,785 7.9 595 11.8 事務従事者 26,696 24.1 6,457 28.2 2,616 30.8 2,367 10.7 277 8.3 16,602 27.4 1,270 25.2 販売従事者 4,545 4.1 721 3.1 257 3.0 1,279 5.8 165 5.0 2,306 3.8 239 4.7 サービス職業従事者 14,748 13.3 3,041 13.3 1,005 11.8 3,364 15.2 486 14.6 7,639 12.6 704 14.0 保安職業従事者 1,406 1.3 600 2.6 159 1.9 138 0.6 11 0.3 597 1.0 71 1.4 農林漁業従事者 3,182 2.9 411 1.8 140 1.7 907 4.1 178 5.3 1,733 2.9 131 2.6 生産工程従事者 12,904 11.7 2,062 9.0 771 9.1 3,462 15.6 435 13.1 6,755 11.1 625 12.4 輸送・機械運転従事者 3,112 2.8 1,514 6.6 426 5.0 141 0.6 15 0.5 1,295 2.1 162 3.2 建設・採掘従事者 1,192 1.1 270 1.2 70 0.8 271 1.2 29 0.9 588 1.0 63 1.2 運搬・清掃・包装等従事者 34,912 31.5 5,537 24.2 1,980 23.3 9,931 44.7 1,700 51.1 18,263 30.1 1,181 23.4 分類不能の職業 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 ※令和5年度実績より、平成21年12月改定の「日本標準職業分類」を適用 【P28-29】 研究開発レポート オンラインによる就労支援サービスの提供に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門 1 はじめに  新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響下における新しい生活様式の普及などの影響から、障害者の就労支援においても、Web会議システムなどを用いたオンラインによる相談などの就労支援サービスの提供の可能性が検討されました。しかしながら、多くの障害者就労支援機関において、オンラインによる支援についてのノウハウの積重ねや共有がまだ十分ではないことも推測されました。このため、オンラインによる支援の現状と課題を把握するとともに、オンラインによる支援を実施していくうえでの配慮事項や条件整備などの確認が必要であると考えられました。  そこで障害者職業総合センターは2022(令和4)〜2023年度に「オンラインによる就労支援サービスの提供に関する調査研究」を実施しました。今回、障害者就労支援機関(以下、「支援機関」)におけるオンラインによる支援の課題や工夫、その具体例などの調査結果の一部を紹介します。 2 調査の概要 (1)アンケート調査  2022年10月に、障害者就業・生活支援センター、自治体単独の障害者就労支援センター、就労定着支援事業所、地域若者サポートステーション(合計2008所)を対象に、各支援機関で実施する事業におけるオンラインによる就労支援の現状、支援の実施にあたって必要な配慮事項や条件整備、支援実施上の課題などを把握するためアンケート調査を実施しました(有効回答率40.3%)。 @オンライン支援の実施状況  約5〜8割の支援機関が利用者(障害者本人)に対してオンライン支援を実施していました。また、障害者就業・生活支援センターと自治体単独の障害者就労支援センターの約6割、就労定着支援事業所の約3割が利用者と企業の両方に対してオンライン支援を実施しており、多くの支援機関がオンライン支援に取り組んでいました(図1)。  オンライン支援の実施率は支援内容および利用者の障害種別によって異なっていました。支援内容では「定着支援(本人との面談)」や「支援機関同士の打ち合わせ、会議」などでのオンライン支援実施率が高く、「標準化された作業をともなう検査」や「場面設定法などによる行動観察」の実施率は低い状況が見られました。また、障害種別では全体的に精神障害のある利用者へのオンライン支援実施率が高い結果でしたが、定着支援などを中心に知的障害や発達障害のある利用者に対しても一定数行われていました。 Aオンライン支援のメリット、デメリット、課題  オンライン支援のメリットとして、利用者の外出・移動負担の軽減、日程調整のしやすさ、訪問がむずかしい企業への支援の継続、マスクを外した利用者の表情の確認ができる、などが多く選択されました。  一方、オンライン支援のデメリットとしては、通信状況の問題や利用者の非言語的手がかりの把握のむずかしさなど、通信環境・機器、アセスメントおよびラポール形成に関する項目が多く選択されました。  オンライン支援を推進していくうえでの課題については、いずれの支援機関も「オンラインでの面談技法の向上」が最も多く選択されていました。 B課題を軽減する取組み・工夫  オンライン支援の際に実施している工夫について、いずれの支援機関も支援前では「事前に通信テストを行った」、支援中では「話す際の声のトーンやスピードに留意した」の選択率が50%を超えていました(図2)。 (2)ヒアリング調査  上記アンケートに回答のあった支援機関のうち、オンライン支援を積極的に行っているなど特徴的な取組みが見られた15支援機関を対象としたヒアリング調査を2023年2月中旬から5月中旬に実施しました。  オンライン支援の開始時期は、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとする支援機関が多く見られました。相談は、すべての支援機関で、初回もしくはいずれかのタイミングで、できるだけ来所してもらっているとの話がありました。アセスメントは、対面で行っている支援機関が多かったですが、職業に対する希望、職歴、生育歴などの聞き取りはオンラインでも行う例が見られました。面談は感染予防などの理由からオンラインで面談を行った後、その後もオンライン支援を継続している例のほか、病気や体調などの理由で来所は困難であるが、オンラインにより支援を継続できた例が見られました。本人向け講習・プログラムについては、支援機関により支援内容に差が見られ、オンライン支援の実施状況が大きく異なりました。定着支援はすべての支援機関でオンラインでも行っていました。在職者については、企業のオンライン環境が利用できる、パソコンスキルが高い、来所する時間が取れないなどの理由から、オンラインによる定着支援が多く実施されていました。加えて、ケース会議をオンラインで行った例が障害者就業・生活支援センターを中心にいくつかの支援機関で見られました。  オンライン支援の課題を軽減する取組み・工夫として、準備面では、オンライン支援用にマイクやカメラ、イヤホンマイクなどを準備した支援機関が複数見られたほか、操作マニュアルの作成や、操作手順の動画を作成してWebサイトに掲載している例が見られました。コミュニケーション面では、リアクションや表情などをいつもより大きくする、言葉による確認を行う、相手の話をさえぎらないよう間の長さを変えて話す、支援者側も自分のことを意図的に話す、チャットの活用、画面共有の活用、グループワークでグループに職員も入る、疲れないよう面談時間を短くするなどの工夫が見られました。 3 おわりに  このほかにも、利用者の障害特性に応じた工夫など、オンライン支援を実施するうえでのさまざまな工夫や配慮の実例などを把握することができました。オンライン支援は、今後も支援の一つの選択肢として重要であり、オンライン支援の課題を軽減する取組みを共有していくことが必要であると思われます。  本レポートの元となる調査研究報告書No.174(※)は障害者職業総合センターのホームページからご覧いただけます。ぜひご活用ください。 ※https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku174.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図1 オンライン支援の実施の有無【複数回答】 利用者と企業の双方に対して実施している 利用者に対してのみ実施している 企業に対してのみ実施している いずれに対しても実施していない 障害者就業・生活支援センター (n=130) 59.2% 12.3% 10.0% 18.5% 自治体単独の障害者就労支援センター (n=53) 62.3% 0.0% 20.8% 17.0% 就労定着支援事業所 (n=559) 33.6% 15.7% 3.8% 46.9% 地域若者サポートステーション (n=61) 14.8% 65.6% 1.6% 18.0% 図2 オンライン支援を実施する際の工夫 障害者就業・生活支援センター(n=106) 自治体単独の障害者就労支援センター(n=44) 就労定着支援事業所(n=297) 地域若者サポートステーション(n=50) 〈支援前〉 操作手順等に関するマニュアルを作成した 通信トラブルや不測の事態が発生した際の対応方法を事前に伝えた 事前に通信テストを行った 利用者が使用する機器や通信回線の準備作業を一緒に行った 対面支援で使用している資料をオンライン支援用に改良した 事前にフォーマットを送り、記入してもらったものを補助的に活用した 〈支援中〉 話す際の声のトーンやスピードに留意した 対面よりも表情や仕草をわかりやすくする等を工夫した 言語による質問や確認を対面時よりも増やした 画面共有等により、視覚的な補助ツールを活用した 話した内容の整理や振り返りの時間を設けた 〈その他〉 その他 利用者に対するオンライン支援は実施していない 無回答 【P30-31】 ニュースファイル 国の動き 厚生労働省 障害者テレワーク雇用の相談窓口を開設  厚生労働省は、ICTを活用した障害者のテレワーク雇用を推進するため、障害者をテレワークで雇用することを検討している企業などを対象に、個別具体的な課題の解決に向けたサポートを行う相談窓口を開設した。  テレワーク導入について「まだ情報収集中である」、「相談事項が明確になっていない」といった状況であっても、経験豊富な専門アドバイザーが他社事例の紹介や課題整理に向けた支援を行うなど、業務構築から採用、定着・活躍支援まで一貫してサポートする。初めての雇用でも追加雇用でも1社あたり最大5回まで無料で利用でき、サポートを受けて障害者のテレワーク雇用を導入した場合は追加で最大2回の支援を受けられる。相談窓口の詳細については左記ホームページで。 https://twp.mhlw.go.jp 地方の動き 埼玉 県が「就労B型受注拡大ステーション」を開設  埼玉県が、県障害者交流センター(さいたま市)内に「埼玉県就労B型受注拡大ステーション」を開設した。就労継続支援B型事業所と民間事業者の需要をマッチングする窓口を設置するとともに、事業所の受注確保に向けて民間の需要に対応できる商品開発やデザイン力などのスキルの向上、販路の拡大などを支援する。  具体的な事業は、@共同受注窓口の設置(仕事を依頼したい一般企業からの受注を集約し、受託先となる就労継続支援B型事業所とのマッチングを行う窓口の設置・運営)、A専門家派遣(経営指導、商品開発、デザイン指導など事業所のニーズに応じた専門家の派遣)、B販売戦略・生産効率向上研修会(経営コンサルタント、中小企業診断士、税理士などによる研修)、C販路拡大支援(就労継続支援B型事業所の販路の開拓のため企業などへの働きかけや事業所との仲介)、など。  運営は一般社団法人埼玉県セルプセンター協議会(さいたま市)に委託。開所時間は10時〜15時(月〜金)。 電話:048−711−2523 https://www.saitama-jyusan.jp/b-gata-station 生活情報 全国 障害者施設の倒産・廃業が過去最多  信用調査会社の株式会社帝国データバンク(東京都)は、障害者の就労支援やグループホーム運営、生活介護事業などを手がける障害者支援事業者について、倒産(負債1000万円以上、法的整理)と休廃業・解散となった件数が、2023(令和5)年度は計71件となり、前年度の41件から約1.7倍に急増し、過去最多を更新したと発表した。  発表資料によると、近年は利用者の囲い込みなど競争が激化し、計画通りの利用者獲得や事業収入が見込めなくなり、事業継続を断念した事業者が目立っているという。2022年度の損益動向が判明した障害者支援事業者のうち、37.2%にあたる1427事業者が「赤字」運営となり、割合は「障害者総合支援法」が施行された2013(平成25)年度以降で最高だった。前年度からの「減益」(28.3%、1086事業者)を合わせると、3分の2で業績が「悪化」した。  2024年度に改定された障害者福祉サービス報酬では、物価高騰や賃上げに配慮した項目がある一方で、生活介護などでは基本報酬の算定ルールが見直された。質の高い支援やサービスが提供できない事業者を中心に、今後さらに淘汰が進む可能性があるとしている。 https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p240611.pdf 茨城 点字本『宇宙と物質の起源「見えない世界」を理解する』を制作  大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の素粒子原子核研究所(つくば市)は、国立大学法人筑波技術大学(つくば市)と共同で点字本『宇宙と物質の起源「見えない世界」を理解する』を制作した。大学や学校の図書館、視覚障害者情報提供施設などに書籍と触図版のセットを寄贈する予定。点訳版と触図版のデータは国立国会図書館とKEK、筑波技術大学のリポジトリ(大学や研究機関の知的生産物の提供システム)に登録され、無料でダウンロードできる。  同書は、宇宙が138億年前に誕生してから物質や地球、生命が生まれた過程についてこれまでの知見や今後の研究で解明が期待される内容をやさしく解説した入門書。同書の原本は、同名の書籍として2024年3月に発行されている(講談社刊)。  自然科学系の図書の内容に精通した点訳者が少なく流通も少ないなか、宇宙や物質について学びたい視覚障害者の思いに応えるべく企画された。研究者10人がテーマごとに執筆した原稿を、筑波技術大学・障害者高等教育研究支援センターのチームが点訳を行った。視覚障害当事者による試読を経て文章を校正し、視覚障害者にわかりやすい表現に修正。グラフや概念図のほとんどを省略せず、文章と触図(視覚障害者が触って読むために紙面を盛り上がらせた図)で表現したという。 https://www.kek.jp/wp-content/uploads/2024/05/pr20240510braille.pdf 本紹介 『障害をもつ人の「自立」と人権――学びと就労のために』  明治大学文学部専任教授の小林(こばやし)繁(しげる)さんが『障害をもつ人の「自立」と人権――学びと就労のために』(現代書館刊)を出版した。  社会教育を専門とする小林さんが長年、“障害をもつ”人の学習文化支援にたずさわることによって実感した、社会との「つながり」の重要性や、“障害をもつ”人が就労のなかで学び、学びながら働き続けることによって、地域のなかでの「自立」が真に可能になるという。そして、“障害をもつ”人の生活の質(QOL)と人権が担保されることなど、“障害をもつ”人の人権と自立を支えるための概念や、日本と世界における就労の実践について紹介している。  “障害をもつ”人の人権から考える優生思想と「固有の尊厳」、北欧やイタリアでの精神保健福祉・教育文化の取組み、精神障害当事者のリカバリーを支えるアメリカのヴィレッジISAの取組みのほか、日本での就労支援の展望と課題としてソーシャルファームと農福連携、さらに“障害をもつ”人が働く喫茶(カフェ)の可能性と課題としてコロナ禍での対応をめぐる就労とその支援方法などについても解説。A5判、264ページ、2970円(税込)。 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2024年度地方アビリンピック開催予定 10月〜11月 北海道、青森県、千葉県、神奈川県、石川県、山梨県、滋賀県、山口県、大分県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 ※全国アビリンピックは11月22日(金)〜11月24日(日)に、愛知県で開催されます。 地図文字 北海道 青森 千葉 神奈川 石川 山梨 滋賀 山口 大分 ミニコラム 第39回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は松爲委員が執筆しています。 ご一読ください。 障害者雇用の近未来 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄  8月に上梓した「キャリア支援に基づく職業リハビリテーション学―雇用・就労支援の基盤―」(ジアース教育新社)のなかで、私は、社会的環境の変化が企業経営に及ぼす影響と、それに対応して企業は障害者雇用をどのように進めていくべきかについて、少し触れました。  社会全体の変化に対応して企業が障害者雇用を展開させていくには、@企業の存在価値を明確にした「パーパス」を設定してそれに対応しながら業務を遂行していくこと、AD&Iの深化と定着が促進することから、一人ひとりの障害者の特性をさらに鮮明に把握してその特性を伸ばすこと、B障害者雇用の現場では、特例子会社や障害者雇用組織の大型化とそれにともなうマネジメント手法の変化、超短時間労働者などの障害者雇用率制度への追加、副業や複業・起業などの新しい働き方の展開、などが必要とされています。また、障害のある人から企業への要望として、@障害特性に対応した法定雇用率算入の仕方の細分化、A仕事の内容や成果に応じた賃金や昇進・昇給等制度の整備、B個人特性の的確な把握と研修などによる能力向上の支援、などがあり、特に多様な働き方やキャリアを提供して「選ばれる組織」になることを求めています。  今回の取材から、障害のある人の雇用に際しては、当事者のさまざまな不安の解消と安心して働くことができる職場環境が、求職者の企業選択の重要な基準の一つとなっていることがわかりました。また、研修を通して能力が向上して戦力化されると、同僚との関係性が変化してお互いに支援し合う組織風土が育成され、ウェルビーイングな社風が形成されてダイバーシティにつながることも示唆されました。  取材を通して、著書で言及したことをあらためてふり返る機会になりました。 【P32】 掲示板 JEEDメールマガジン 登録受付中!  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、JEEDが全国で実施する高齢者や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を、毎月月末に配信しています。 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当者のみなさま、必読! 高齢 定年延長や廃止・再雇用 障害 障害のある従業員の新規・継続雇用 求職 ものづくり技能開発・向上の手段 みなさまの「どうする?」に応えるヒント、見つかります! JEED メルマガ で 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 読者アンケートにご協力をお願いします! ※カメラで読み取ったリンク先が「https://krs.bz/jeed/m/hiroba_enquete」であることをご確認ください。 回答はこちらから→ 次号予告 ●私のひとこと  北星学園大学短期大学部教授の藤原里佐さんに、障害のある人と家族の高齢化問題について、ご執筆いただきます。 ●職場ルポ  食用油の回収・リサイクル等の事業を行う株式会社吉川油脂(栃木県)を訪問。知的障害のある従業員の生活面も含めたサポートなど、職場定着を図る現場を取材します。 ●グラビア  青森市内を中心に保育園や特別養護老人ホームなど、多岐にわたる施設を運営している社会福祉法人和幸園(青森県)を取材。施設で活躍する障害のある職員の様子を紹介します。 ●編集委員が行く  金塚たかし編集委員が、総合作業用品店などを展開するハミューレ株式会社(北海道)を訪問。精神障害のある人の雇用の取組みについて取材します。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_hiroba 本誌購入方法  定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。  1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み 株式会社広済堂ネクストまでご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 管理部次長 金井渉 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田淳 国際医療福祉大学 准教授 若林功 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 電話 043-213-6200(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社広済堂ネクスト 〒105-8318 東京都港区芝浦1-2-3 シーバンスS館13階 電話 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 10月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和6年9月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 【P33】 画像の為加工できませんでした。 【裏表紙】 第44回 全国アビリンピック 障害者ワークフェア2024 〜働く障害者を応援する仲間の集い〜 入場無料 令和6年11月22日(金)〜11月24日(日) 11月22日(金)開会式 11月23日(土)技能競技および障害者ワークフェア 11月24日(日)閉会式 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 開催場所 愛知県国際展示場AICHI SKY EXPO 愛知県常滑市セントレア5-10-1 ●中部国際空港駅より徒歩5分 全国アビリンピック 第44回全国アビリンピックでは、全25種目の技能競技と2職種の技能デモンストレーションを実施し、全国各地から集った約400人の選手たちが日ごろつちかった技能を披露し、競い合います。 障害者ワークフェア 障害者ワークフェアでは、「働く障害者を応援する仲間の集い」として、約100企業・団体による出展を予定しています(能力開発、就労支援、職場紹介の三つのエリアによる展示・実演のほか、ステージイベント、各種特設コーナーなど)。 当日はライブ配信も予定しています! アビリンピック 検索 主催 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)、愛知県 写真のキャプション 建築CAD 家具 フラワーアレンジメント 障害者ワークフェア Check! 10月号 令和6年9月25日発行 通巻564号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)