研究開発レポート オンラインによる就労支援サービスの提供に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門 1 はじめに  新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響下における新しい生活様式の普及などの影響から、障害者の就労支援においても、Web会議システムなどを用いたオンラインによる相談などの就労支援サービスの提供の可能性が検討されました。しかしながら、多くの障害者就労支援機関において、オンラインによる支援についてのノウハウの積重ねや共有がまだ十分ではないことも推測されました。このため、オンラインによる支援の現状と課題を把握するとともに、オンラインによる支援を実施していくうえでの配慮事項や条件整備などの確認が必要であると考えられました。  そこで障害者職業総合センターは2022(令和4)〜2023年度に「オンラインによる就労支援サービスの提供に関する調査研究」を実施しました。今回、障害者就労支援機関(以下、「支援機関」)におけるオンラインによる支援の課題や工夫、その具体例などの調査結果の一部を紹介します。 2 調査の概要 (1)アンケート調査  2022年10月に、障害者就業・生活支援センター、自治体単独の障害者就労支援センター、就労定着支援事業所、地域若者サポートステーション(合計2008所)を対象に、各支援機関で実施する事業におけるオンラインによる就労支援の現状、支援の実施にあたって必要な配慮事項や条件整備、支援実施上の課題などを把握するためアンケート調査を実施しました(有効回答率40.3%)。 @オンライン支援の実施状況  約5〜8割の支援機関が利用者(障害者本人)に対してオンライン支援を実施していました。また、障害者就業・生活支援センターと自治体単独の障害者就労支援センターの約6割、就労定着支援事業所の約3割が利用者と企業の両方に対してオンライン支援を実施しており、多くの支援機関がオンライン支援に取り組んでいました(図1)。  オンライン支援の実施率は支援内容および利用者の障害種別によって異なっていました。支援内容では「定着支援(本人との面談)」や「支援機関同士の打ち合わせ、会議」などでのオンライン支援実施率が高く、「標準化された作業をともなう検査」や「場面設定法などによる行動観察」の実施率は低い状況が見られました。また、障害種別では全体的に精神障害のある利用者へのオンライン支援実施率が高い結果でしたが、定着支援などを中心に知的障害や発達障害のある利用者に対しても一定数行われていました。 Aオンライン支援のメリット、デメリット、課題  オンライン支援のメリットとして、利用者の外出・移動負担の軽減、日程調整のしやすさ、訪問がむずかしい企業への支援の継続、マスクを外した利用者の表情の確認ができる、などが多く選択されました。  一方、オンライン支援のデメリットとしては、通信状況の問題や利用者の非言語的手がかりの把握のむずかしさなど、通信環境・機器、アセスメントおよびラポール形成に関する項目が多く選択されました。  オンライン支援を推進していくうえでの課題については、いずれの支援機関も「オンラインでの面談技法の向上」が最も多く選択されていました。 B課題を軽減する取組み・工夫  オンライン支援の際に実施している工夫について、いずれの支援機関も支援前では「事前に通信テストを行った」、支援中では「話す際の声のトーンやスピードに留意した」の選択率が50%を超えていました(図2)。 (2)ヒアリング調査  上記アンケートに回答のあった支援機関のうち、オンライン支援を積極的に行っているなど特徴的な取組みが見られた15支援機関を対象としたヒアリング調査を2023年2月中旬から5月中旬に実施しました。  オンライン支援の開始時期は、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとする支援機関が多く見られました。相談は、すべての支援機関で、初回もしくはいずれかのタイミングで、できるだけ来所してもらっているとの話がありました。アセスメントは、対面で行っている支援機関が多かったですが、職業に対する希望、職歴、生育歴などの聞き取りはオンラインでも行う例が見られました。面談は感染予防などの理由からオンラインで面談を行った後、その後もオンライン支援を継続している例のほか、病気や体調などの理由で来所は困難であるが、オンラインにより支援を継続できた例が見られました。本人向け講習・プログラムについては、支援機関により支援内容に差が見られ、オンライン支援の実施状況が大きく異なりました。定着支援はすべての支援機関でオンラインでも行っていました。在職者については、企業のオンライン環境が利用できる、パソコンスキルが高い、来所する時間が取れないなどの理由から、オンラインによる定着支援が多く実施されていました。加えて、ケース会議をオンラインで行った例が障害者就業・生活支援センターを中心にいくつかの支援機関で見られました。  オンライン支援の課題を軽減する取組み・工夫として、準備面では、オンライン支援用にマイクやカメラ、イヤホンマイクなどを準備した支援機関が複数見られたほか、操作マニュアルの作成や、操作手順の動画を作成してWebサイトに掲載している例が見られました。コミュニケーション面では、リアクションや表情などをいつもより大きくする、言葉による確認を行う、相手の話をさえぎらないよう間の長さを変えて話す、支援者側も自分のことを意図的に話す、チャットの活用、画面共有の活用、グループワークでグループに職員も入る、疲れないよう面談時間を短くするなどの工夫が見られました。 3 おわりに  このほかにも、利用者の障害特性に応じた工夫など、オンライン支援を実施するうえでのさまざまな工夫や配慮の実例などを把握することができました。オンライン支援は、今後も支援の一つの選択肢として重要であり、オンライン支援の課題を軽減する取組みを共有していくことが必要であると思われます。  本レポートの元となる調査研究報告書No.174(※)は障害者職業総合センターのホームページからご覧いただけます。ぜひご活用ください。 ※https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku174.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図1 オンライン支援の実施の有無【複数回答】 利用者と企業の双方に対して実施している 利用者に対してのみ実施している 企業に対してのみ実施している いずれに対しても実施していない 障害者就業・生活支援センター (n=130) 59.2% 12.3% 10.0% 18.5% 自治体単独の障害者就労支援センター (n=53) 62.3% 0.0% 20.8% 17.0% 就労定着支援事業所 (n=559) 33.6% 15.7% 3.8% 46.9% 地域若者サポートステーション (n=61) 14.8% 65.6% 1.6% 18.0% 図2 オンライン支援を実施する際の工夫 障害者就業・生活支援センター(n=106) 自治体単独の障害者就労支援センター(n=44) 就労定着支援事業所(n=297) 地域若者サポートステーション(n=50) 〈支援前〉 操作手順等に関するマニュアルを作成した 通信トラブルや不測の事態が発生した際の対応方法を事前に伝えた 事前に通信テストを行った 利用者が使用する機器や通信回線の準備作業を一緒に行った 対面支援で使用している資料をオンライン支援用に改良した 事前にフォーマットを送り、記入してもらったものを補助的に活用した 〈支援中〉 話す際の声のトーンやスピードに留意した 対面よりも表情や仕草をわかりやすくする等を工夫した 言語による質問や確認を対面時よりも増やした 画面共有等により、視覚的な補助ツールを活用した 話した内容の整理や振り返りの時間を設けた 〈その他〉 その他 利用者に対するオンライン支援は実施していない 無回答