【表紙】 令和6年10月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第565号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2024/11 No.565 職場ルポ 社員寮完備、生活支援を受けながら安定就労 株式会社吉川油脂(栃木県) グラビア 障害者雇用で人材不足を乗り越える 社会福祉法人和幸園 特別養護老人ホーム和幸園(青森県) 編集委員が行く 成果を上げるためのチームづくり 〜障害者の法定雇用率未達成企業から5年間の軌跡〜 ハミューレ株式会社、ハミューレ株式会社 プロノ札幌本店、NPO法人クロスジョブ クロスジョブ札幌(北海道) 私のひとこと 障害者家族の高齢化〜ケアの限界と家族支援〜 北星学園大学短期大学部教授 藤原里佐さん 「小説を書く人」鹿児島県・若松(わかまつ)愛莉(あいり)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 11月号 【前頁】 心のアート サンダーバードよ永遠に 京谷真理子 (たんぽぽの家アートセンターHANA) 画材:アクリル絵の具、キャンバス/サイズ:F6(318mm×410mm)  大学3回生の夏から始めた500円玉貯金。貯まったお金で金沢へ卒業旅行に行ったときに乗った、初めての特急「サンダーバード」。それから京谷の自分へのご褒美はサンダーバードに乗ることになったという。理由を聞くと、「平日の人が少ないときに窓際の席に座ってゆっくりする時間が心地いい」と話す。そんな大阪から金沢を結ぶサンダーバードが2024(令和6)年3月16日に敦賀(つるが)止まりになり、一本で向かうことができなくなってしまった。京谷は寂しい表情を浮かべながらも、「あたしなりのさよならを描きました」と語っている。 (文:たんぽぽの家アートセンターHANA 橋(たかはし)桜介(ようすけ)) 京谷真理子(きょうたに・まりこ)  1984(昭和59)年生まれ、奈良県在住。知的障害がある。2018(平成30)年より「Good Job!センター香芝(かしば)」にて活動を始める。2023年からは「たんぽぽの家アートセンターHANA」にて活動している。 〈略歴〉 2023年 GJ!アトリエ個展シリーズ京谷真理子展「私のクローゼット」(奈良県) 株式会社ファーマシー木のうた(奈良県)が顧客に送付するハガキサイズのカードのデザインに使用 【もくじ】 障害者と雇用 働く広場 目次 2024年11月号 NO.565 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 サンダーバードよ永遠に 作者:京谷真理子(たんぽぽの家アートセンターHANA) 私のひとこと 2 障害者家族の高齢化〜ケアの限界と家族支援〜 北星学園大学短期大学部教授 藤原里佐さん 職場ルポ 4 社員寮完備、生活支援を受けながら安定就労 株式会社吉川油脂(栃木県) 文:豊浦美紀/写真:官野貴 クローズアップ 10 マンガでわかる!わが社の障害者雇用物語 第3回 職場実習をやってみよう! JEEDインフォメーション 12 第44回全国アビリンピック開催のお知らせ/2024(令和6)年度1月開催 研修のご案内/「障害者雇用事例リファレンスサービス」を活用して「働く広場」の掲載記事が探せます! グラビア 15 障害者雇用で人材不足を乗り越える 社会福祉法人和幸園 特別養護老人ホーム和幸園(青森県) 写真/文:官野貴 エッセイ 19 てんかんとともに 最終回 夢を追い、そして与え続ける 元力士 豊ノ島 編集委員が行く 20 成果を上げるためのチームづくり 〜障害者の法定雇用率未達成企業から5年間の軌跡〜 ハミューレ株式会社、ハミューレ株式会社 プロノ札幌本店、NPO法人クロスジョブ クロスジョブ札幌(北海道) 編集委員 金塚たかし 省庁だより 26 令和6年版 障害者白書概要@ 内閣府ホームページより抜粋 研究開発レポート 28 障害者手帳のない難病患者の就労困難性と支援ニーズの実態 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 障害者雇用の月刊誌「働く広場」がデジタルブックでいつでもお読みいただけます! 表紙絵の説明 「私は物語を書くのが好きで、小説家になりたいと思い、小説家になった理想の自分をイメージして描きました。重ね塗りをするのがたいへんでした。鉛筆を持っている手をリアルに描けたのはよかったと思います。最近は自分のオリジナルの小説を書いています。大人になったら自分が書いた小説を出したいです」 (令和6年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 中学生の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-3】 私のひとこと 障害者家族の高齢化 〜ケアの限界と家族支援〜 北星学園大学短期大学部教授 藤原里佐 はじめに  私は、現職に就く以前、障害児教育にたずさわっていた。先日、元勤務校の教職員仲間、保護者が集まる機会があった。当時、15歳だった子どもは40歳になり、40代だった母親は「高齢者」になっていたが、かつてと同様に、ケアのにない手としての生活が継続していた。  現代社会において、子どもの「自立」をめぐる考え方やその実態は多様である。就職後も親元で暮らし、家族に家事を任せることや、結婚後の育児や経済面を実家が援助することもあるだろう。総じて、親が子どもを支える期間が延長している傾向が見られるが、障害者家族の親役割が長期化することにともなう、親の不安や物理的な負担は、その実態が可視化されていないという特徴がある。  これまで、私たちが行ってきた、家族の高齢期調査(※1)などから示唆されたことをふまえ、障害者の離家(りけ)にともなう家族の不安、家族であることを支える視点について考えていきたい。 1.親のライフステージを横断する「ケア役割」  障害が診断、告知され、療育がスタートするときから、障害児の母親は、子どもにかかわる専門機関から、種々の役割を求められる。それは、家庭内での療育であり、服薬管理であり、発作時の対応であり、医療的なケアなども含まれる。また、早期療育、訓練、就学などのシステムは、母親の介在を余儀なくし、母子通園や母子入院は、母親が子どもの「専門家」であり、アドボケーター(※2)となることを強化する。やがて、子どもが就学するころには、母親のケア力や障害に関する情報量、各機関との調整力が卓越し、子どもの障害状況をもっとも理解している一人として、直接、間接に子どもの学校生活を支えることになる。  さらに、成人期の子どもが「生活介護」、「就労移行支援」、「就労」などの日中活動の場につながり、社会参加を果たすうえでのサポートは、引き続き、母親の役割となっていく。朝の身支度を援助し送り出し、夕方には帰宅を迎え入れる。安定的に通所ができるよう、生活リズムを整え、持ち物を揃え、健康管理をする。つまり、親による支援があることで、成人期の障害者が、30年、40年と作業所や事業所に通うことができるという面が窺(うかが)える。ある母親は、外出をしても、子どもの作業所からの帰宅時間が自身の門限であり、15時半までには自宅に戻らなければならないという暮らしを30年以上続けている。  子どもの誕生以来、自身の行動範囲やスケジュールをつねに制限してきた高齢期の母親が、「自分が元気なうちは子どもの在宅生活を守りたい」という覚悟で子どもを支えているのである。 2.家族が果たしてきた役割−いつどのように移行するのか  障害のある子どもの日常のケアをはじめ、医療機関への同行、進路先の選択など、家族が果たしている役割は多岐にわたる。いわゆる「親亡き後」を見すえ、将来に向けた準備を始めることも、家族が負うべき責任の一つとみなされてきた。ただし、実際に離家する時期については、非常に逡巡(しゅんじゅん)していることも窺える。子どもの入居を前提に、グループホームの設立準備会に参加していた母親が、「もう少し、家族と過ごす時間を持ちます」と、入居を見送る例も、インタビューのなかで少なからずあった。こうした判断に対し、研究者や専門職から、「子どもの自立は早い方がよい」、「親が元気なうちに新しい暮らしを見届けるべきである」などの指摘があることも事実であろう。  しかし、脱施設化の思潮のもとで、地域であたりまえの暮らしを営むことを実践してきた経過、家族メンバーの健康状態、障害者自身の意向などを背景に、離家のタイミングは、個別的であり、流動的であって然るべきだと私は考える。  通所先、就労先では、移送を他機関に委ねる場合も含め、家族と会う機会は限られる。親の体調や心身の変化を把握することのむずかしさがあるなかで、障害当事者の衣服の汚れや、書類提出の遅れなどをきっかけに、「母親が寝込んでいる」、「父親が要介護になっていた」ことが判明した例も散見される。家族は、だれに、どのようにSOSを出してよいのかを思案し、ぎりぎりまで、子どもの日常を守ろうとする傾向があることも否めない。障害者にかかわる支援者が、業務外のボランティアや、事業所のやりくりのなかで、家族のニーズに応えている例も見られる。障害者福祉現場の人手不足などから、家族支援を業務に位置づけることのむずかしさはあるが、家族がサービスを受けている高齢者福祉分野などとの協働も含め、障害者と家族を複合的に支える視点も必要ではないだろうか。 3.家族であることの尊重と支援  身体障害者の自立生活運動は、「脱施設化」であり、「脱家族」でもあったといえる。一方、知的障害者の「脱施設化」は、むしろ、家族のケアに依拠するところが大きく、親のがんばりで、地域生活が長く継続できた経緯がある。  そして、障害のある子どもの施設入所やグループホーム入所が、親役割のゴールではないことも、本論で強調したい点である。家族の心配の一つめは、障害症状や加齢にともなう体調変化が生じた際の、診断や治療方針に関すること、看病や看取りについてである。加えて、体調不良や障害の重度化は、時間をかけて慎重に選択をしたいまの暮らしの場からの退所を迫られるのではないかと危惧している。二つめは、余暇活動、地域とのつながり、家族との交流を維持することへの不安である。日常生活が安全に営まれていることへの安心感がある半面、生きるうえでの楽しみや、ときには、集団生活から離れ、心身ともに寛(くつろ)げる時間と場所を子どもに確保したいという意向を親は抱いている。親が体調を崩しても限界まで続けていた、子どもの自宅帰省を断念することの無念さ、車の運転が困難になり、家族の慶事に子どもを迎えに行くことができない口惜しさ、病床の父親との面会が叶わなかった後悔などとして、それは表現されている。  在宅障害児者への福祉サービスが乏しい時代に、あたりまえの暮らしを営むことを目ざし、奮闘してきた障害者家族が高齢化を迎えている。その晩年に、「子どもと会いたい」、「束の間、家族で過ごしたい」と願うことは、当然の思いであり、無理な要望ではない。障害のある子どもを長く支えてきた家族が、家族としての時間を持つことに、支援が必要なのであり、それを保障することは、喫緊の課題であると思われる。 ※1 藤原里佐・田中智子・社会福祉法人ゆたか福祉会編著『障害者家族の老いを生きる支える』(2023年、クリエイツかもがわ) ※2 アドボケーター:自分の意見などをうまく伝えることのできない人の代わりに、それを主張する代弁者のこと 藤原 里佐 (ふじわら りさ)  北星学園大学短期大学部教授。同志社大学文学部社会学科社会福祉学専攻卒業、北海道大学大学院教育学研究科博士課程修了。保育所、特別支援学校での勤務を通し、障害のある子どもの家族、とりわけ、母親が果たすケア役割の肥大化、長期化に関心を持ち、聞き取り調査を行っている。  主著『重度障害児家族の生活−ケアする母親とジェンダー』(2006年、明石書店)。落合恵美子編著『どうする日本の家族政策』「知的障害者のケアにみる家族依存−いつまでどこまで親役割か」(2021年、ミネルヴァ書房)。 【P4-9】 職場ルポ 社員寮完備、生活支援を受けながら安定就労 ―株式会社吉川油脂(栃木県)― 廃食用油のリサイクル事業を行う会社では、約45年前から知的障害のある従業員を雇用し、現在は16人が生活支援を受けながら安定就労を実現させている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 株式会社吉川(よしかわ)油脂(ゆし) 〒327-0231 栃木県佐野市飛ひ駒こま町ちょう3845-3 TEL 0283-66-2233 FAX 0283-66-2234 Keyword:知的障害、特別支援学校、生活支援、社員寮、リサイクル事業、農業、社会福祉士 POINT 1 約45年前から住み込みで受け入れ、社員寮も完備 2 本人の性格や特性を考慮し、試しながら業務を決定 3 リサイクルの視える化と業務創出を目的に温室水耕栽培も 廃食用油をリサイクル  1975(昭和50)年創業の「株式会社吉川(よしかわ)油脂(ゆし)」(以下、「吉川油脂」)は、廃食用油の回収・リサイクル・販売を手がけ、栃木県のほか埼玉県、長野県、福島県、茨城県にも事業所がある。各地の大手ファストフード店やスーパー、飲食店などから出る廃食用油を回収して不純物などを取り除き、飼料用や工業用、肥料用の原料、バイオディーゼルなどの燃料用原料へ、ほぼ100%のリサイクルを実現させているという。近年はSAF(持続可能な航空燃料)の原料供給者として、国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキームの要件を満たす「ISCC(アイエスシーシー) CORSIA(コルシア)認証」を日本で先がけて取得、大手石油会社と提携するなど注目されている会社の一つだ。  一方で、約45年前から障害者雇用にも取り組み、現在は従業員151人のうち知的障害のある従業員が16人、障害者雇用率は12.20%(2024〈令和6〉年6月1日現在)にのぼるという。2代目の代表取締役を務める吉川(よしかわ)千福)ちふく)さんによると、きっかけは創業者である父の勲(いさお)さんが、同級生の紹介で、障害のある青年2人を住み込みで雇用したことだそうだ。いまも障害のある従業員は、全員が本社の敷地内にある社員寮で生活している。  吉川油脂は2021年度「もにす認定制度」(※)の認定を受けた。これまでの経緯と取組み、生活支援を受けながら働いている従業員のみなさんを紹介したい。 特性を考慮しチャレンジ  最寄りのJR足利(あしかが)駅から車で30分あまり。山間部の県道沿いに吉川油脂の本社事務所と工場がある。木々が生い茂る敷地内にログハウス風の建物などが点在している。  ちょうど正面入口から入ってきたトラックが私道をゆっくりと進んでいった先に工場があった。半屋外エリアで、トラックから大きなドラム缶や一斗缶が次々に下ろされている。各地から回収されてきた廃食用油だ。この工場だけで1日60t前後を扱っているという。  案内をしてくれた総務部マネージャーの大室(おおむろ)明日香(あすか)さんによると、現場ごとに障害のある従業員と一般従業員がチームで作業しているが、職場全体では「まず障害のある方を理解してもらうところから始めています」という。  大室さんは「『どう声をかけてよいのかわからない』と思う人も少なくないので、私たちが作成した障害についてまとめた資料を使い、前もって講義の時間を取っています。特に本社でかかわりのある人には、必要な配慮点などを細かく具体的に伝え、ほかの事業所の人たちにも勉強会などに参加してもらっています」と話す。  一方、障害のある従業員の仕事は「まず安全に気をつけて、本人の性格や特性を見ながら、『これをやってみようか?』と無理強いせずに担当業務を決めていきます」と大室さん。吉川さんも「『障害のある人にはこの仕事』と決めておくのではなく、できることがありそうならやってみるよう現場側にうながしています。例えば、道を覚えるのが得意な従業員はドライバーの補助役になれますし、いったん覚えた作業を職人のように続けられる従業員もいます。チャレンジしてもらうことが大事です」と説明する。 勤続34年のベテランも  積み下ろされた一斗缶は、まず選別作業が行われる。廃食用油は加熱して水分を除去し殺菌するが、油の種類や異物の混入によって加熱処理の仕方が異なるためだ。  この日は従業員3人が、廃食用油の一斗缶一つひとつについて不純物の有無なども見分けながら、手で持ち上げて、数メートル先の大きな鉄製容器に流し込んでいた。うち2人が障害のある従業員で、ヘルメットに黄色のラインが入っている。「はじめて工場に出入りするようなドライバーさんが戸惑わないよう、わかりやすい目印にしています」と大室さん。  一斗缶の油を流し込んでいた早川(はやかわ)悟(さとる)さん(49歳)は、養護学級の先生の紹介で1990(平成2)年に入社、勤続34年になる。2020年には、長年の模範的な勤労が認められ、障害者雇用優良事業所等表彰式で「栃木県知事表彰優良勤労障害者」に輝いた。  15歳で入社したころは「仕事をやりたくない」といって周囲を困らせたそうだが、年齢の近い吉川さんが、ドラム缶の転がし方から少しずつ教えていったという。「いまでは一斗缶を持ち上げただけで、水や異物が混入しているのがわかるほどのベテランです」と大室さん。早川さんは、「けがをしないように気をつけて作業しています。油を見分けることは、できます」といいながらも、ほかの人に教えることは「好きじゃないからできません」と正直に語ってくれた。  社員寮では、同僚と卓球をするのが一番楽しいという早川さん。吉川油脂に入社してよかったことを聞くと、「海外に2回行けたこと」と返ってきた。先代社長の勲さんが、まだ従業員が少なかったころに台湾と韓国に連れていってくれたそうだ。  分別された廃食用油は、大きなタンクのなかで高温加熱され、水分除去と殺菌の処理が行われる。さらにろ過や遠心分離などの工程を経て、油かすが完全に除去されるという。油かすは肥料に生まれ変わるそうだ。  最終段階の工程が、フィルタプレスと呼ばれるろ過。細かい目地の布状のフィルターシートが何層も重なっている機械の中を通過させながら、極限まで不純物をこし取り純度を高める。  機械のそばの台の上には使用済みのフィルターシートが広げられ、一面にはりついた汚れがこそぎ落とされていた。大ぶりのヘラを使って手ぎわよく作業していたのは、栗原(くりはら)愼一郎(しんいちろう)さん(26歳)。群馬県の特別支援学校2年次と3年次に職場実習を受けたそうだ。1回あたり1週間程度で社員寮での生活も体験し、2017年に入社した。  仕事内容について栗原さんは「シートについたものをすべて落とし、きれいにして、挟んだときにきれいな油が出るようにしています。(シートを)取り出したら最初は120℃もあって熱いので、やけどをしないよう手袋をはめて気をつけて作業します」と教えてくれた。  大室さんによると「シートが破けないようていねいに、すみからすみまで落としていくのは根気のいる作業ですが、栗原さんはまじめに続けて、やり遂げることができます」とのこと。すでに分別・抜缶(ばっかん)作業(缶から油を出す作業)なども経験し、最近はトラックに同乗して回収の手伝いもしている。  栗原さんは「寮では(早川)悟くんと卓球をしたり、みんなでカラオケをしたりするのが楽しいです。ずっと寮で生活しながら働きたいです」と話していた。 社員寮の生活を支える  1994年に建てられた現在の社員寮は、木材がふんだんに使われ、ガラス張りの壁面が開放的な印象の半平屋建て。完成当時、広い屋内スペースに完全独立型の個室が並ぶ斬新なデザインは、一般社団法人日本建築学会の賞を受けた。先代社長の勲さんは「従業員にも小さな家をつくるような体験をしてほしい」との思いがあり、自分たちで部屋を組み立てたのだという。社員寮の周囲にみんなで植えた木々も大きく成長して、いまでは窓の借景になるほど美しい林になった。また、2018年にリフォームをし、女子寮を別につくり、空いたスペースを研修・会議室などに使っている。  社員寮の運営管理は、2006年に設立された吉川油脂の子会社「有限会社佇(たたずまい)」が行っている。もともと障害のある従業員の生活の世話は、吉川さんの母・美枝子(みえこ)さんが一手に引き受けていたという。「いわゆる寮母さんのような存在でした。だんだん1人では負担が大きくなり、いまは7人で行っています」と吉川さんが話す。  美枝子さんはいまも有限会社佇の従業員たちと一緒に働いている。吉川油脂の職場は近くに商店がないため、従業員用に総菜を配送してもらうこともあるが、「ごはんとみそ汁だけは温かいものを」と、美枝子さんたちがつくっている。  社員寮で働く7人のうち障害のある従業員は4人。食事の準備から衣類の洗濯、寮内外の清掃などさまざまな業務にたずさわっている。その1人、中谷(なかたに)明子(あきこ)さん(49歳)は1991年に入社し33年目。この日は大浴場のある建物の2階でほかの従業員と一緒に洗濯物を干していた。  敷地内にある大浴場の建物は、ヒノキの香りがするログハウスのようなつくり。終業後に入寮者たちが職場から歩いて大浴場に直行し、入浴後は各自用意されている私服に着替える流れだ。汚れた服はまとめて洗濯機で洗い、2階の広いスペースで干しているそうだ。  エプロン姿の中谷さんは「私は食事のお手伝いもしています。下ごしらえの野菜を切っています。一番得意な作業はキャベツのみじん切りです。先代社長の奥さん(美枝子さん)からたくさん教えてもらいました」と笑顔で話してくれた。  いまでは寮内のお姉さん的な立場だそうで「だれかとだれかが喧嘩になっちゃうときもあるけど、注意したり、仲裁したり、なだめたりしています」という中谷さん。入社してよかったことを聞くと、早川さんと同じく「旅行に連れて行ってもらったことです」とのこと。今年のお盆休みは、地域のショッピングセンターでDVDを買うのが楽しみだそうだ(注:取材日は8月上旬)。  じつは以前、お盆になると、入寮者のなかで実家に帰省できる人とできない人がいて、休み明けの人間関係がギクシャクすることがあった。そこで先代社長の勲さんが、社員寮に残った従業員たちを連れて旅行に行っていたのだそうだ。週末には入寮者をマイクロバスに乗せて買い物に出かけるのも恒例で、いまは吉川さんがその役割を務めている。  吉川油脂の敷地内には、ちょっとした畑もある。ジャガイモやキュウリ、ナス、トマトなどを育て、寮の食事に使われているという。この日も畑で作業中だったのは、社員寮で働く唯一の男性従業員である吉田(よしだ)尚幸(なおゆき)さん(44歳)。2012年に入社した当初は工場で働いていたが、施設内の掃除や草取りなども器用にできることから社員寮担当となったそうだ。この日の午前中は掃除をして、午後は食器洗いのあと、屋外で草取りや畑仕事に従事。吉田さん自身も「こちらでは、いろいろな仕事を任せてもらえるので、やりがいを感じます」と語る。週末の休みには寮の自分の部屋を片づけたり、趣味のクロスワードパズルなどを解いたりして過ごす。「いまこうして仕事ができるのがうれしいです。長く働き続けていきたいです」と語った。 一緒に働くことで支援  今回話を聞いた従業員たちが、口を揃えて「やさしいです」と評する大室さんは、彼らの職場や生活も支える大事な存在だ。大室さんは元ピアノ講師で、障害のある人とはまったく接点がなかったという。吉川さんの子どもにピアノを教えるなど家族ぐるみのつき合いだったが、あるとき「一緒に働いてみないか」と誘われ職場を訪問し、先代社長の勲さんから障害者雇用のことも聞いたそうだ。  最初は人事部に配属され、何もわからない状態から障害のある従業員とかかわっていくようになったという大室さんは、「それまで自分一人では障害のある人を助けることはなかなかむずかしいと思っていましたが、同じ職場で一緒に働くことで、自然な形で支援の輪に参加できるのだとわかりました」とふり返る。  大室さんは社会福祉士の資格取得の勉強も始め、今年、念願の合格となった。  「これまでは職場の関係者という肩書きしかなく、役所での手続きにもふみ込むことができないことがありました。いまは社会福祉士という立場でもかかわれるようになったのが何よりうれしいですね。日々、法律や制度も変わっていくので、今後もしっかり彼らをフォローしていきたいと考えています」 従業員の将来も見すえ  吉川油脂では現在、障害者雇用の定員を20人までと決めている。「それが、いまの私たちが責任をもって支援できる限界だからです」と話す吉川さんは、「受け入れ始めたころは、障害のある従業員の多くが、頼れる家族のいない境遇だったことから、父は里親のように従業員の生活全般まで面倒を見ていました」とふり返る。  自身も6歳のころから自宅で従業員ときょうだいのように育ち、高校生のころには父の勲さんに「今後の勉強のために」といわれて入寮者の面談にも参加し、彼らの置かれている状況も理解するようになった。  勲さんが隠居の身となったあとは、日ごろのさまざまな生活支援にかかわる業務は大室さんや吉川さんたちがになっている。従業員によっては、いまも複雑な家庭事情を抱えているため、吉川さんたちが親代わりのようにフォローしているのが実情だ。「一人ひとりの人生も含めて支援している以上、目の届く範囲が20人だと思っています」と吉川さん。  さらに入寮者たちが老後も困らないよう、障害者の日常生活自立支援事業を行う社会福祉法人佐野市社会福祉協議会に金銭管理を委託しているそうだ。  なかには、若いうちに社員寮から出て自立生活を始めた従業員もいる。特別支援学校を卒業した男性は、勲さんに見込まれ、自動車やフォークリフトの免許を取得。一般の従業員と同じように働けるようになったことから、療育手帳も返還し、いまはアパートで一人暮らしをしながら県外の工場で働いているそうだ。 ミニトマトの温室水耕栽培  吉川油脂は、2022年に新たな子会 社「株式会社Green(グリーン) Sustainable(サステナブル) Agriculture(アグリカルチャー)」(以下、「GSA」)を設立し、ミニトマトの生産・販売を始めた。廃食用油を精製したバイオマス燃料を活用した温室水耕栽培だ。  8月後半に苗を定植し、日常の散水や温度管理は自動的に行われる。11月ごろから収穫が始まり翌年の6月末ごろまで続く。昨シーズンは吉川油脂の障害のある従業員2人が収穫作業を行った。その1人、前出の栗原さんは「またトマトの収穫の仕事をしたい」と話していた。  GSAの代表取締役として運営を任されているのは、吉川油脂の統括部長を務める田中(たなか)史子(あやこ)さん。農業はまったくの素人だという田中さんは、いまも試行錯誤の真っ最中だと語る。  「トマトの育て方の基本は、種苗会社の方に指導してもらいました。栽培の基本は自動制御なので大丈夫ですが、問題は、販売先の開拓でした」  初めてのシーズンから驚くほどトマトを収穫できたが、どこでどう売ったらよいのかわからなかったという田中さんは、近くの卸売市場に持ち込んだ。引き取ってもらったが、セリにかけられた値段はとても低かったという。小売店との直接取引をするため、思いつくかぎりの有名スーパーなどに営業をして回ったが、門前払いのところも少なくなかった。  そんなとき出会ったのが、廃食用油の回収元として吉川油脂の工場見学に訪れていた大手スーパー系列の食品加工会社。温室も案内してトマトの商談を持ちかけ納入が決まった。いまでは取引先も、地元のスーパーや結婚式場、道の駅、またふるさと納税品などに広がったそうだ。  「初シーズンはかなり売れ残りがあったのですが、今シーズンはずいぶん減りました。販路拡大を図りながら、さらにおいしいトマトづくり、商品開発に力を入れたいです」としつつ、「将来は、温室と工場があるこの場所で直接販売もしたいと思っています。ここに足を運んでもらってリサイクルの流れを見てもらい、トマトを買って帰ってもらうのが理想です」と話す。  吉川さんは、この事業を始めた理由について「廃食用油がどのようにリサイクルされているか、なかなか一般の人たちはわからないですよね。温室水耕栽培は『リサイクルの視える化』を示し、みなさんに興味を持っていただくきっかけになればと思っています」としつつ、もう一つの目的として、新たな業務創出をあげた。  「工場内の機械化や効率化が進んでくると、いままで障害のある人が担当していた仕事がなくなっていく可能性もでてきます。また60歳以降も本人の希望にそって雇用を継続していますが、工場には体力的に厳しい作業が多く、ドライバー業務も限界があります。無理のない仕事を少しでも増やしたいと思っています」  そうして一人ひとりが安心して働き続けられる職場が、より質の高い商品づくりにもつながるという。吉川油脂は今後も、重要性の高まる廃食用油リサイクル事業を発展させながら、障害のある従業員の雇用や生活支援による共生社会の実現にもかかわり続けていく方針だ。 ※もにす認定制度:障害者の雇用の促進および雇用の安定に関する取組みの実施状況などが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する制度 写真のキャプション 廃食用油の回収・リサイクル・販売を手がける株式会社吉川油脂の正面入口 株式会社吉川油脂代表取締役の吉川千福さん 総務部マネージャーの大室明日香さん リサイクル事業部門で働く早川悟さん 早川さんは、油脂の分別や抜缶作業を担当している リサイクル事業部門で働く栗原愼一郎さん フィルターシートの汚れをこそぎ落とす栗原さん 社員寮で働く中谷明子さん 洗濯後、従業員の作業服を干す中谷さん 社員寮の入口。社員寮は美しい木立に囲まれている 社員寮の内部。広い室内を区切り、個人用のスペースとしている 大浴場や洗濯場などが入る建物 敷地内の一角につくられた畑ではナスなどが実っていた 社員寮で働く吉田尚幸さん 畑の草取りに精を出す吉田さん ミニトマトの水耕栽培を行う温室 ミニトマトの収穫作業の様子(写真提供:株式会社吉川油脂) 株式会社Green Sustainable Agriculture代表取締役の田中史子さん 収穫したミニトマトは、地元のスーパーや道の駅で販売される(写真提供:株式会社吉川油脂) 【P10-11】 クローズアップ マンガでわかる! わが社の障害者雇用物語 第3回 職場実習をやってみよう!  本格的な採用の前に、職場で実習を行い、障害のある人を実習生として受け入れることで、企業も「障害のある人と働く」という経験をすることができます。障害のある人も、就労への不安を抱えていたり、「環境に慣れるための実習をしたい」という要望があったりします。職場における実習は、企業と障害のある人双方にメリットがあり、相互理解が育まれるよい機会にもなります。 監修:三鴨(みかも)岐子(みちこ) (『働く広場』編集委員)  名刺や冊子などのデザインを手がける「有限会社まるみ」の取締役社長。精神保健福祉士。  障害のある社員の雇用をきっかけに「中小企業の障害者雇用推進」に関する活動を精力的に行っている。 実習を設定する  障害のある人を雇用したことがなく、どのような対応や配慮をすべきかわからないという不安がある場合は、本格的に採用する前に、「職場実習」を設定し、受け入れてみるとよいでしょう。実習を通して、企業は障害のある人と一緒に働く経験を得ることができます。また障害のある人にとっても、「環境に慣れる」、「自分に合う仕事や作業を探せる」といったメリットがあります。  その場合、当機構(JEED)の地域障害者職業センター(※1)や、障害者就業・生活支援センター(※2)などに相談し、利用者のなかからその企業に合った実習希望の人を紹介してもらう方法があります。また、就労移行支援事業所や特別支援学校の職場実習を受け入れる方法もあります。特別支援学校は年間計画で実習時期が決まっていることが多いので、その点に注意しましょう。 実習前の準備  採用を前提とした実習ではないため採用面接は行いませんが、事前の打合せは必要です。打合せでは、実習する人に任せる作業や実習時間帯などの検討、作業をするにあたり会社が配慮すべきことなどを確認し、すり合わせていきます。また、打合せ時に実際の職場を見てもらうのもよいでしょう。  実習において、企業側としては「障害のある人の特性を知り、障害への理解を深める」という目的があるように、実習する人や支援機関側も「実際の職場環境で、どのくらい本人が実務にたずさわれるのかを知る」という目的があります。そのため、実習の結果をふり返る機会をつくることを支援機関側から依頼される場合があります。  【表】は、地域障害者職業センターで使用している実習時のチェックリストの項目の一例です。リストは、各支援機関で独自のものがありますが、実習の際は、項目にあるような視点で実習する人の様子を確認し、相互理解を進めましょう。 実習後のふり返りが大事  職場実習のふり返りは、面談形式で、本人や支援機関の担当者も交えて行います。  この場では、感想を伝え合うだけで終わりにせず、できなかった作業があれば、その原因は作業が本人に合っていなかったからなのか、会社側の配慮や工夫が足りなかったからなのか、といった検証をして課題を洗い出し、改善策を検討します。このふり返りによって、障害のある人と働くことについての多くの気づきを得られるでしょう。 ※1 「地域障害者職業センター」の所在地一覧:https://www.jeed.go.jp/location/chiiki/index.html ※2 「障害者就業・生活支援センター」の所在地一覧:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18012.html 表 実習時のチェックリスト 評価項目(例) (1)作業的側面 □ 熱心に作業に取り組む □ 集中して作業に取り組む □ 終日コンスタントに作業に取り組む □ 正確に作業する □ 指示どおりに作業する □ 自分で工夫して作業に取り組む □ 道具・機械・部品などをていねいに扱う □ 作業に慣れるに従って習熟する □ 作業終了、事故・異常時に報告する □ 指示が分からないときには質問する □ 作業の準備・後片づけをする □ 危険(物・箇所)に配慮し、対応する □ 自分の仕事に責任を持つ (2)社会的側面 〈勤労習慣〉 □ 欠勤・遅刻・早退をしない □ 欠勤・遅刻・早退の場合に連絡する □ 勤務時間等職場の規則・規律を守る □ 清潔な身なりをする 〈社会性・対人態度〉 □ 日常の挨拶や返事をする □ 指示や注意に従う □ 他人の迷惑になることはしない 〈労働の理解など〉 □ 仕事や作業への興味・関心がある □ 働くことの意義を理解している □ 自分で健康管理ができている マンガでわかる! わが社の障害者雇用物語 第3回 「職場実習をやってみよう!」 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 第44回 全国アビリンピック 障害者ワークフェア2024 〜働く障害者を応援する仲間の集い〜 入場 無料 令和6年11月22日(金)〜11月24日(日) 11月22日(金)開会式 11月23日(土)技能競技および障害者ワークフェア 11月24日(日)閉会式 開催場所 愛知県国際展示場AICHI SKY EXPO 愛知県常滑市セントレア5-10-1 ●中部国際空港駅より徒歩5分 全国アビリンピック 第44回全国アビリンピックでは、全25種目の技能競技と2職種の技能デモンストレーションを実施し、全国各地から集った約400人の選手たちが日ごろつちかった技能を披露し、競い合います。 障害者ワークフェア 障害者ワークフェアでは、「働く障害者を応援する仲間の集い」として、約100企業・団体による出展を予定しています(能力開発、就労支援、職場紹介の三つのエリアによる展示・実演のほか、ステージイベント、各種特設コーナーなど)。 当日はライブ配信も予定しています! アビリンピック 検索 主催 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)、愛知県 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 建築CAD 家具 フラワーアレンジメント 障害者ワークフェア Check! 2024(令和6)年度 1月開催 研修のご案内 受講料 無料  労働、福祉、医療、教育等の機関における障害者の就業支援担当者を対象に、職業リハビリテーションに関する知識や、就業支援に必要な技術の修得、資質の向上を図る研修を実施しています。 ●職場適応援助者支援スキル向上研修 研修 職場適応援助者支援スキル向上研修 【対象】 ジョブコーチとして1年以上の実務経験のある訪問型・企業在籍型職場適応援助者の方 日程 第3回 2025年 1月21日(火)〜1月24日(金) 受付期間 2024年10月22日(火)〜11月29日(金) ※定員を超える申込みがある場合は、予定より早く受付を締め切ることがあります。 開催形式・場所 オンライン形式 職場適応援助者(ジョブコーチ)を目ざす方・支援スキルの向上を目ざす方 ステップ1 職場適応援助者養成研修 ジョブコーチ支援をする際に必要な知識・技術の修得 障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター 全国の地域障害者職業センター 養成研修修了者サポート研修 支援の実践ノウハウの修得 全国の地域障害者職業センター ステップ2 職場適応援助者支援スキル向上研修 ジョブコーチとしての支援スキルの向上 障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター 支援スキル向上研修修了者サポート研修 困難性の高い支援の実践ノウハウの修得 全国の地域障害者職業センター ●就業支援スキル向上研修 研修 就業支援スキル向上研修 精神障害・発達障害・高次脳機能障害コース 【対象】 就業支援の実務経験3年以上の方 日程 2025年1月29日(水)〜1月31日(金) 受付期間 2024年11月6日(水)〜12月3日(火) ※定員を超える申込みがある場合は、予定より早く受付を締め切ることがあります。 開催形式・場所 オンライン形式 医療・福祉等の機関で企業等への就職・定着に向けた就業支援を担当する方 ステップ1 初めて担当する方 就業支援基礎研修 就業支援の基礎づくり 全国の地域障害者職業センター ステップ2 2年以上実務経験のある方 就業支援実践研修 アセスメント力と課題解決力の向上 発達障害/精神障害/高次脳機能障害 コース 全国14エリアの地域障害者職業センター ステップ3 3年以上実務経験のある方 就業支援スキル向上研修 障害特性に応じた支援スキルの向上 発達障害/精神障害/高次脳機能障害 コース 障害者職業総合センター 就業支援課題別セミナー 新たな課題やニーズに対応した知識・技術の向上 障害者職業総合センター □実務経験に応じて、講義・演習・事例検討などを組み合わせた、実践的なカリキュラムとなっています。 □研修の参加には事前のお申込みが必要です。受講料は無料です。 □各研修のカリキュラム、会場、受講要件など、詳しくはホームページをご覧ください。 お問合せ先 職業リハビリテーション部 人材育成企画課 E-mail:stgrp@jeed.go.jp TEL:043-297-9095 FAX:043-297-9056 JEED 就業支援担当者 研修 検索 「障害者雇用事例リファレンスサービス」を活用して 「働く広場」の掲載記事が探せます! 障害者雇用を進めたいけれど、ほかの企業ではどんな取組みをしているんだろう? 「障害者雇用事例リファレンスサービス」をご活用ください! 障害者雇用事例リファレンスサービスとは  障害者雇用について創意工夫を行い、積極的に取り組んでいる企業の事例や、合理的配慮の提供に関する事例を紹介するJEEDのWebサイトです。 https://www.ref.jeed.go.jp ※カメラで読み取ったリンク先が https://www.ref.jeed.go.jpであることを確認のうえアクセスしてください。 アクセスはこちら! 「働く広場」 掲載記事の検索 「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、「働く広場」に掲載した「職場ルポ」、「編集委員が行く」の記事 (注)を検索・閲覧することができます。 (注)取材先から、同サイトへの掲載許可が得られた記事にかぎります。 検索方法 1 「働く広場」の記事検索をする場合は、「モデル事例」をチェックしてください。 2 検索条件で、「働く広場」にチェックし、「業種」、「障害種別」、「従業員規模」、「フリーワード」等の条件を設定して検索ボタンをクリックすることで、探したい記事をピックアップできます。 3 クリックすると、該当企業の事例ページが表示されます。 4 該当記事のPDFファイルまたはデジタルブック※にアクセスできます。 ※2022年度掲載記事からデジタルブックで掲載しています。 JEEDホームページでも記事検索ができます! 「働く広場」の掲載記事については、「障害者雇用事例リファレンスサービス」で検索できるほか、JEEDホームページにて、バックナンバー(過去4年分)の記事索引の閲覧(※1)や、「グラビア」、「クローズアップ」などのコーナーも記事検索(※2)ができます。どうぞご利用ください。 ※1 各年度のバックナンバーのページ ※2 「働く広場」トップページ内「取材先一覧」 記事索引画面 「働く広場」に関するお問合せ 企画部 情報公開広報課 Email:hiroba@jeed.go.jp TEL:043-213-6200 FAX:043-213-6556 「障害者雇用事例リファレンスサービス」に関するお問合せ 障害者雇用開発推進部 雇用開発課 E-mail:ref@jeed.go.jp TEL:043-297-9513 FAX:043-297-9547 【P15-18】 グラビア 障害者雇用で人材不足を乗り越える 社会福祉法人和幸園 特別養護老人ホーム和幸園(青森県) 取材先データ 社会福祉法人和幸園(わこうえん) 特別養護老人ホーム和幸園 〒039-3504 青森県青森市矢田字(やだあざ)下野尻(しものじり)48-3 TEL 017-737-3333 FAX 017-737-3332 写真・文:官野貴  青森県青森市にある「社会福祉法人和幸園(わこうえん)」では、障害のある従業員13人がさまざまな職域で活躍し、うち8人が同法人が運営する「特別養護老人ホーム和幸園」で働いている。障害のある従業員は、人材不足が問題となっている介護業界で、欠かすことのできない人材となっている。  ランドリーで働く奥谷(おくや)敦士(あつし)さん(32歳)、山内(やまうち)大士(たいし)さん(33歳)は精神障害がある。身体障害のある阿部(あべ)孝子(たかこ)さん(52歳)や障害のないスタッフとともに、施設内の洗濯業務を一手に任されている。入職10年目の奥谷さんは、その働きぶりから、2024(令和6)年9月、「優秀勤労障害者」として独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞の表彰を受け、同僚のよき模範となっている。  事務補助として働く山内(やまうち)陽人(はると)さん(30歳)は、視覚障害があり、右目の狭い範囲しか見えない。目の負担を少なくするため、作業スペースの照明を暗くするなどの配慮のもとで事務作業にあたっている。  知的障害のある能登谷(のとや)司(つかさ)さん(33歳)は、施設内の清掃業務を担当している。夏場は暑さが苦手なため、自分のタイミングで空調の効いた部屋で休憩を取れるように、配慮がなされている。  全盲の福士(ふくし)拓実(たくみ)さん(26歳)は、マッサージを担当。利用者にやさしく声をかけながら行うマッサージは、体も気分も軽くなると利用者に好評だ。これまでは障害者雇用枠で働いてきたが、今年6月から一般雇用の職員となり、なおいっそうの活躍が期待されている。  同法人では今後も積極的な障害者雇用を続けるとともに、障害者福祉の分野においても地域に貢献していくという。 写真のキャプション ランドリー @施設内の浴室から洗濯物が入ったカートを回収し、洗濯室へ運ぶ奥谷敦士さん A色や素材ごとに選別し、大型洗濯機で洗浄する。選別作業にあたる山内大士さん(左)と阿部孝子さん(右) B選別時には食べこぼしなどのしみ汚れの有無も確認。しみがある場合には、専用の洗濯機で洗浄する C洗濯、乾燥を終えた衣類を畳み、利用者ごとに仕分ける山内大士さん。氏名がよく似た利用者もいるため注意が必要だ D居室エリアで仕分け作業を行う阿部さん。衣類を運ぶ際には2段の棚がついた台車を使用する。歩行の補助にもなり、大きくかがむことなく衣類を取り出せる E仕分けた衣類を居室のたんすに収納する。阿部さんは、「立ち仕事も多いが、適宜休憩を取りながら自分のペースで働けるため、苦にならない」と話す 事務補助 面会票の入力作業の様子。山内陽人さんは、得意なパソコンを駆使して事務補助作業にあたる 昼休みはそれぞれが思い思いに過ごしている。スマートフォンを見て過ごす山内大士さん(左)。能登谷司さん(中央)は、総務部長で障害者職業生活相談員の和田(わだ)拓実(たくみ)さん(右)との雑談が楽しみだ 山内陽人さん(左)と奥谷さん(右)は、スマートフォンで行うゲームの話題で盛り上がっていた 昼休みのあとは、館内放送される演歌に合わせて行う介護予防体操に参加する。奥谷さんが見本を示す 施設内のマッサージルームで使用したタオルを洗濯のため回収する奥谷さん 清掃 台車に貼られたスケジュール モップがけを行う能登谷さん。清掃用具を載せた台車には、清掃スケジュールが貼られており、作業のペース配分の参考としている 手すりの拭き掃除を行う能登谷さん。細かいところにも気を配り作業にあたる マッサージ 福士拓実さん 特別養護老人ホームに併設されたデイサービスセンターの利用者にマッサージを行う福士さん 【P19】 エッセイ てんかんとともに 公益社団法人日本てんかん協会にご協力いただき、「てんかんとともに」と題して全5回シリーズでお一人ずつ語っていただきます。 元力士 豊ノ島 (とよのしま) 最終回 夢を追い、そして与え続ける  1983(昭和58)年、高知県宿毛(すくも)市で豆腐店の長男として生まれ、6歳で相撲を始める。県立宿毛高校から第2新弟子検査合格。2002(平成14)年1月場所初土俵。小兵(こひょう)だが差し身のよさと鋭い投げで、三賞を 10 度受賞。最高位は東関脇。幕内在位71場所、三役通算13場所。2020(令和2)年現役引退、年寄・井筒(いづつ)襲名。2023年退職。私生活では、2011年結婚。2012年娘を授かる。現在は力士の物まねも入れた軽妙なトークで、タレント業で相撲界を盛り上げる。小柄だがよく食べる。目標は「タレントとして横綱になること!」。  私は、1983(昭和58)年に高知県宿毛(すくも)市で、豆腐屋の長男として生まれた。相撲との出会いは、小学校1年生のとき。豆腐屋で働くおばちゃんから「地元のお祭りで相撲大会がある。勝ったらお祭りのくじ引きを買ってあげるから出て」といわれ、相撲大会に出た。子どものころは身体が大きかったので、同級生には負けず、年上の子にも勝てた。ただ、相撲経験者にはやはり敵(かな)わなかった。相撲を取り終えた後に、「ボク、相撲をやらないか」と、声がかかった。地元の相撲クラブ関係者だった。私はサッカー少年だったが、稽古に通ううちに相撲に魅了された。柔道をやっていた父親も、最初は関心がなかったが、「お前はこれから勉強をしても日本一は無理だろう。でも、相撲なら日本一は狙えるだろう。日本一になれ」と中学生のときにいわれて、中学生で全国優勝した。  現役時代の私は、どんな大きな相手にも、立合いは胸から当たった。私のような小兵(こひょう)力士は頭から当たり相手の懐に潜るのが常套手段だが、私は子どものころからこの立合いだった。小学校2年生の冬休み、母親から「ご飯、できたよ」と呼ばれたが「もうちょっと寝る」といったまま、そこから記憶がなくなった。3歳上の姉が泣きながら「弟がおかしい」と母親を呼びに行き、母親が見に行くと白眼をむいて口から泡を吹いていた。救急車で病院に運ばれたときには、息をしていなかった。医師から「てんかん」と診断され、「このまま意識が戻らないかもしれないし、戻っても植物状態になるかもしれない。覚悟しておいてください」といわれたそうだ。幸い翌朝には目を覚ましたが、母親は相撲をやめるようにいい続けた。てんかんは脳の病気で、頭から当たる激しいスポーツをさせたくないという親心だった。「自分はもう相撲ができないかも」と諦めかけていたが、当時の監督が「頭で当たらないことを条件に相撲を続けさせてくれないか」と父親に話をしてくれ、父親は医師と相談し、「頭に衝撃を与えないなら」という条件で相撲を続けることにした。  学校では、水泳の授業は母親が立ち会わないと参加できず、ほかの子と見分けるために1人だけ白ではなく赤い水泳帽をかぶった。1人でお風呂に入るときは、母親がときどき声をかけて発作が起きていないか確認した。発作が起きたのは、小学校2年生、3年生、中学校2年生のときの3回だけで、定期的な検査と服薬も続けた。高校時代はインターハイ団体予選四国大会や国体高知県代表で団体優勝を経験した。そして、プロ入り。時津風(ときつかぜ)部屋に入門し、てんかんがあることは師匠と兄弟弟子みんなに話した。その後、21歳で十両のときに1回だけ発作があった。昼寝から起きて出かけようとしたときに、けいれんが起きた。兄弟子が舌を噛まないようにと口に指を入れたので、噛んで爪を割った(※)。救急車で病院に行き、意識は回復した。その後発作は起きていない。薬をきちんと飲み、病気に影響があると思いお酒は飲まない。170cmに満たない小さな身体ながら、持ち前の柔軟性やバネと、何よりも“相撲が好き”という気持ちで、18年以上の力士生活を全うした。関脇など三役を13場所、三賞10回、金星4個、2010(平成22)年九州場所では14勝1敗で横綱(白鵬関(はくほうぜき))と優勝決定戦を戦った。上出来だ。  いまは、タレントの道を歩んでいる。断髪後に脳波検査も受け、自分の身体をしっかり見つめながら、家族や多くのみなさんの支えを受け、夢を追い続けている。同じ病気のある人に、てんかんがあっても治療を行い社会生活ができることを、私の経験が励みになればと語り続けていく。 ※てんかん発作の症状はさまざまありますが、意識を消失し、倒れて、けいれんなどの症状がある場合の応急処置は、身体を少し横向けにして、気道の確保を心がけてください。窒息や口腔内のけがにつながりますので、決して口の中には物を入れないでください。基本は冷静に様子を観察し、必要な場合は病院を受診しましょう。 ★公益社団法人日本てんかん協会https://www.jea-net.jp 【P20-25】 編集委員が行く 成果を上げるためのチームづくり 〜障害者の法定雇用率未達成企業から5年間の軌跡〜 ハミューレ株式会社、ハミューレ株式会社 プロノ札幌本店、NPO法人クロスジョブ クロスジョブ札幌(北海道) NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 取材先データ ハミューレ株式会社 〒007-0834 北海道札幌市東区北34条東14-1-23 TEL 011-712-8300 FAX 011-712-8277 ハミューレ株式会社 プロノ札幌本店 〒007-0834 北海道札幌市東区北34条東14-1-1 TEL 011-752-0012 NPO法人クロスジョブ クロスジョブ札幌 〒060-0001 北海道札幌市中央区北1条西3-3-41マルイト時計台前ビル8F TEL 011-596-0622 FAX 011-596-0623 金塚(かなつか)たかし 編集委員から  障害者の法定雇用率の順守を障害者雇用のゴールとする企業が多いなか、ハミューレ株式会社は障害者の戦力化を目ざす過程において、気がつくと企業全体の生産性が向上していたという一つの理想的な姿であるが、これには支援機関との出会いがあり、さまざまな取組みを協働した結果である。しかし、障害者雇用のスタートは法定雇用率未達成で行政指導を受けるところから始まった。障害者雇用にかかわる人たちにとってヒントの多い記事になっているのではなかろうか。 Keyword:販売・接客業、法定雇用率、就労移行支援事業所、ジョブコーチ、障害理解、職場環境改善 写真:官野貴 POINT 1 2019年に法定雇用率未達成企業として社名公表の一歩手前まで。障害者雇用に取り組むなかでクロスジョブ札幌と出会う 2 時間をかけて社内での理解を醸成。障害の有無にかかわらず、「みんながステップアップできる」仕組みをつくる 3 障害者雇用によって社員のマネジメント力が格段にアップ。業務改善が進み生産性も上がった はじめに  北海道札幌市内に本社を置くハミューレ株式会社を訪問。店舗運営部部長であり、企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の齊藤(さいとう)浩二(こうじ)さん、NPO法人クロスジョブ(大阪府)の代表理事である濱田(はまだ)和秀(かずひで)さん、就労移行支援事業所クロスジョブ札幌(以下、「クロスジョブ札幌」)の訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)の角井(かくい)由佳(ゆか)さんにご同席いただき、障害者雇用の始まりから現在に至るまでについてお話をうかがった。  法律ありき、数字あわせの障害者雇用ではなく、成果を上げるためのチームづくりの一環として、障害者雇用に取り組んでおられる姿を、リアルにお伝えできるように対話形式でお届けする(以下、敬称略)。 クロスジョブ札幌と出会い障害者雇用が進み始める 金塚たかし(以下、金塚) 御社の業務内容について教えてください。 齊藤浩二(以下、齊藤) 「プロノ」という屋号で、作業用品の専門店を、北海道内中心に全52店舗(本州に15店舗)、運営しております。専門職のお客さまだけでなく、一般の方向けにも使いやすい商品を提供する形で、展開を続けてまいりました。 金塚 障害者雇用に対する考え方をお聞かせください。 齊藤 いままで取り組んできて感じるのは、「障害者雇用自体がゴールではない」ということ。障害の有無に関係なく、すべてのスタッフが戦力として活躍することで、会社そのものが成長できる。つまり「成果を上げるためのチームづくり」の一環として、障害者雇用をとらえています。真剣に取り組めば取り組むほど、会社全体の業績や店舗運営に多大な寄与があると実感しています。 金塚 障害者雇用を始めたきっかけは? 齊藤 2019(令和元)年から始めたのですが、きっかけは厚生労働省の担当者が2人、突然弊社を訪ねてきたことです。私は当時、人事課長として応対したのですが、「このままでは、障害者の法定雇用率未達成企業として来年には社名が公表されます」と告げられました。私自身とても勉強不足で、会社の置かれている立場や、法定雇用率についても詳しい知識がありませんでした。当然、それ以前から障害者雇用納付金は払い続けている状況だったのですが、会社としての意識が低く、是正のための指示があるわけでもなく、ただただ払い続けて何もしていない……という。 金塚 そのような状況から、どのように障害者雇用に取り組んでいかれたのでしょうか? 齊藤 何から始めてよいのかわからないので、とりあえず手当たり次第にインターネットで調べて、最初にJEEDの北海道障害者職業センター等が行うイベントにたどり着きました。「障害者を雇用したい企業と、求職中の当事者のマッチング」をテーマにしたイベントでした。何も知らずに参加したところ、1人の障害のある方とマッチングすることができました。「なんてラッキーなんだ!」と思い、職場見学も職場実習もなく入社していただくことになりました。が、その方は2週間で退職してしまいました。 金塚 見学も実習もなくですか。 齊藤 はい。その後「これじゃダメなんだろうな」と薄々は感じていたところ、たまたま、クロスジョブ札幌のスタッフの方から電話がかかってきたんです。「障害者雇用にご興味はありませんか?」というような内容だったので、お会いして話を聞きました。いろいろ質問などをするなかで、クロスジョブ札幌とのつながりが少しずつ生まれてきて、見学や実習を受け入れるようになりました。 金塚 最初につながった支援機関がクロスジョブ札幌だったのですか? 齊藤 いいえ。じつは2週間で退職してしまった方にも支援機関がついていたのですが、本人に関する情報提供もなく、ただ「いい方ですよ」といわれただけでした。一方、クロスジョブ札幌からは本人に関する情報をしっかりもらえ、これまでに9人が入社しています。 金塚 現在は御社全体で障害のある方を何人雇用していますか? 齊藤 16人です。身体障害のある方が1人。知的障害のある方が6人。精神障害のある方が9人(うち5人が高次脳機能障害)です。 採用したら企業の責任 意欲を見きわめ戦力化 金塚 採用の際のポイントはありますか? 齊藤 最初は「作業マッチング」がとても大事だなと感じていました。一方で、さまざまな経験を積むうちに、それだけではなく「職場マッチング」がいかに重要かを学びました。弊社の作業は一人で行うわけではなく、周囲の方と協力して働くことが前提です。自分のことを相手にしっかりと伝え、相手のことを十分に知る。障害特性はもちろんですが、特性を越えて「目の前にいるその人自身を知る」。周囲の人にはその部分での協力を呼びかけています。反対に本人にも自己開示をしていただき、障害特性を含めて、自分自身を周囲の人に伝えてほしい。その部分を積極的に行うようになってから、周囲の理解や協力体制が深まりました。結果、就労定着につながったと思います。 金塚 障害の開示、つまりオープン就労は必須条件にされていますか? 齊藤 必須条件にはしていません。実際、1人だけ非開示の方もいますので、無理強いすることはありません。しかし、入社の際に「障害をオープンにしてもらってかまいません」という方が、結果的に15人いたという形です。 金塚 「その人自身を知る」という点に関して、どのような工夫をされていますか? 齊藤 まず、入社前の職場見学と職場実習を必須にしています。見学の段階でできるだけ多くの情報をクロスジョブ札幌から教えていただいて、それをもとに本人と話をして、最低1週間以上の実習に入っていただきます。その際に障害特性はもちろん、「どういったことが気になるか」、「どういう働き方をしたいのか」、「どういうときにどんな反応が出るのか」といった情報を得ます。その後、本人の承諾を得たうえで、それらの情報を配属先の職場の方に共有します。 金塚 まずは実習で、その人のことを知る。 齊藤 はい、それが第一段階です。次の段階としては、店舗の枠を越えて、障害者雇用のための勉強会や座談会を行っています。事例を共有することで、さまざまなケースを学び、雇用管理のノウハウをつちかっています。 金塚 基本的に1週間の実習のあとは、即採用ですか? 齊藤 そういう方もいますが、再度実習をする方もいます。充分な実習を経て採用、または、障害者トライアル雇用(※)を経て採用と、そのときの状況によって使い分けます。弊社では「採用したら絶対に企業の責任」だと考えていますので、間違いなく戦力化できる人材かどうかは、慎重に見ます。「大丈夫だな」という確信がもてた方に関しては、「ぜひ一緒に働きましょう」と声をかけます。 金塚 どのあたりが確信をもつポイントですか? 齊藤 素直さがあること、謙虚さがあること。また、意欲。「何をモチベーションとして働きたいと考えているのか」という部分は大事にしています。その方の言葉できちんと説明ができているかどうかは、本気かどうかを見きわめるポイントになります。私自身が「わかる!」と共感できる方と、ぜひ一緒に働きたいです。 周囲への「理解」を深め本人の「ステップアップ」を図る 金塚 クロスジョブ札幌では、そのあたりを意識して人材を紹介されていますか? 角井由佳(以下、角井) はい。「この方はマッチしそうだな」という方をご紹介しています。明確に意識はしていませんでしたが、たしかに先ほど齊藤さんがおっしゃった要素がある方ばかりだな、と思いました。 金塚 もう一つ齊藤さんが言及されていた「作業面でのマッチング」について、詳しく教えてください。 齊藤 見学の段階で本人の意志を確認し、それに合わせた業務で職場実習に入っていただきます。ただ「もしかしてやってみたら、思わぬ形でできるようになるかもしれない。好きになるかもしれない」とも考えるようにしています。企業として本人の可能性を潰したくないですし、私も可能性を見きわめる責任があると思っています。大きく分けて作業系と事務系の仕事があります。いろいろやってみてもらったなかで、本人が将来的に活躍し続けられそうな業務を、慎重に見ています。 金塚 「可能性」という部分で、何か成功例があれば教えてください。 齊藤 私は最初、接客の仕事は障害のある方にお任せしていませんでした。しかし彼らの働きぶりを見ていると「接客もできるのではないか」と思うようになりました。むしろ接客にやりがいを感じたり、モチベーションが上がる様子も見えましたので、いまは担当していただいています。もちろん特性上、「どうしても苦手です」という方は外しています。また最近では、レジ作業で力を発揮している方も増えています。そのほかの作業系の仕事としては、品出し・補充・清掃といった店内業務一般。事務職はパソコンだけではなく、裾上げの作業も担当してもらっています。 金塚 どんどん業務の幅を広げていくために、工夫していることはありますか? 齊藤 「ステップアップシート」という評価表を独自につくっています。レベル1からスタートして、レベル8まであります。もともとは一般従業員向けに用意していたものを、障害のある従業員用にアレンジして使っています。それぞれのレベルごとにチェック項目があり、8割に〇がつけば次のレベルにステップアップして、業務の幅が増えていきます。チェックを行うのは、教育担当者と呼ばれるキーパーソンです。自己評価と担当者の評価にずれがあったときは、フィードバックをしてずれを埋めていく作業をします。会社として明確に基準を設け、OJT作業を日々くり返していくことで、できる作業がどんどん増えていきます。2割は×でもいいんです。特性上できないことはあるけれど、「みんながステップアップできる」ことが重要です。 金塚 合理的配慮について、例があれば教えてください。 齊藤 何か定型例があるわけではなく、個別で行っています。じつは合理的配慮に対して、「あの人だけずるい」という声が周囲から出てきたことがあります。そのときは理解が得られるように話をして、それが何年も積み重なってようやくいま、納得してもらえるようになったかなと思います。小手先でうまく問題を解決するようなことは私にはできなかったので、本当に時間をかけてくり返してきました。一度だけ、「障害のある従業員のフォローばかりをしていて私たちは損をしている」といわれたことがありました。話合いの結果、退職者を出してしまったのですが、私は彼らの要求を呑むことはせず、毅然とした態度で向き合いました。結果、会社の強い意志がほかの従業員に伝わり、障害者雇用に対する社内の空気が一気に変わりました。 金塚 障害のある従業員を戦力化するポイントは? 齊藤 「ステップアップシート」の効果が大きいです。加えて、障害のある従業員に対しては週1回、30分の定期面談を必ず行っています。それ以外にも必要なことが出てきたら「ちょっといいかな?」と教育担当者が声をかけ、週2〜3回は10〜20分程度のフィードバックを行っています。形にこだわらずに、日々のコミュニケーションをしっかりとる環境が、戦力化につながっているのだと思います。 業務改善が進みマネジメント力がアップ 金塚 障害者雇用を始めて約5年。この先のビジョンをどう描いておられますか? 齊藤 一般の従業員は主婦層のパートさんが多く、そこから正社員を目ざすモチベーションのある方が少ないことが現実です。しかし、障害者雇用枠で入社された方は、パートから正社員を志す方がとても多いので、「ステップアップシート」を活用しながら、正社員として働ける方が増えればいいな、と考えています。 金塚 障害者雇用を行っている店舗と、そうでない店舗に違いはありますか? 齊藤 とてもあります。障害者雇用を行っている店舗は、店長や社員のマネジメント力がものすごく高い。業務の効率化や生産性を上げるためのスキルも、格段に上がります。他社さんに話してもなかなか信じてもらえないのですが、本当に「みんなやればいいのに」と思います。もちろん本気で取り組まなくてはなりませんが。 金塚 企業文化に影響を与えるのですか? 齊藤 一例をあげると、弊社ではオーバーオールを畳んで陳列することにこだわっています。吊るすのであれば簡単ですが、畳むのは人によって得意不得意があります。障害者雇用を始めた際、だれでも畳みやすいように「畳み板」を導入しました。それを機に全店舗に導入したところ、きれいな畳み方に統一できるようになり、作業効率も生産性も上がりました。障害者雇用から着想を得て、業務改善が進んだ事例もたくさんあります。 金塚 先ほど「本気で」とおっしゃいましたが、その心意気を店長などに伝えるためのポイントは? 齊藤 自分が一番「本気」であること。言葉だけで伝わらないのであれば、行動で示すしかありません。いまでも私が地方の店舗まで出向き、職場実習を担当することがあります。また、その「本気」を継続することです。 金塚 従業員研修などにも力を入れておられますね。 齊藤 じつは弊社はもともと、あまり研修に力を入れる会社ではありませんでした。しかしあるとき、新卒者の3年未満での離職率を調べたところ、業界の平均値は32〜33%程度なんですが、弊社は約44%でした。これは企業として致命的な数値だと思いました。そこで研修に力を入れるように取り組んできたのですが、そのときに構築した研修体制が、障害者雇用のマネジメントにおいても役に立っています。もともとのカリキュラムのなかに、「役職やキャリア、性別などにかかわらず、強みを活かせる人がリーダーシップを取る」、「モチベーションのコントロール」という要素が含まれていたため、そのまま障害者雇用の研修にも応用することができました。 金塚 就職後の定着支援について、クロスジョブ札幌とはどのような協力体制を築いていますか? 齊藤 クロスジョブ札幌は、なくてはならない存在です。一緒の目線で悩み、考えてくれます。正解をくれるわけではなく、ともに試行錯誤する。私自身もすごく成長することができました。困ったときにはその場で電話をかけて相談すると、ていねいにケース会議や面談をして確実に共有してくださり、とても助かっています。私は今後、障害者雇用で同じ志をもつ地域の企業さんとつながり、ネットワークをつくっていきたいと考えています。その際に支援機関の方につなぎ役をになってもらえたら心強いですし、ゆくゆくは弊社で蓄積したノウハウを、地域に向けて発信していけるようになれればと考えています。また、私と同じ気持ちをもつスタッフも増えてきているので、「頼もしいな!」と感じています。 * * * * *  続いて、ハミューレ株式会社本社の隣にある店舗「プロノ札幌本店」で働いている、クロスジョブ札幌でトレーニングされた森(もり)賢二(けんじ)さんにお話をうかがいました。 金塚 仕事場の雰囲気には慣れましたか? 森賢二(以下、森) 最初は緊張と不安がありましたが、現在はだいぶ慣れてきました。就職当初は勤務時間も4時間から始めましたが、現在はフルタイムで働いています。 金塚 いまはどのようなお仕事をされていますか? 森 靴売り場を担当していますが、店舗全体の品出し、レジも担当しています。徐々に仕事の範囲を広げてもらっています。 金塚 不安なく働けている要因はなんでしょうか? 森 教育担当者の方と現在は2週間に1回面談をしていますが、困ったらすぐに相談をしていますので、不安なく働けているのだと思います。 金塚 将来の夢をお聞かせください。 森 まだまだ、できないことはたくさんありますが、将来は店長をやってみたいです。 おわりに  NPO法人クロスジョブ代表理事の濱田和秀さんは「就労支援は地域をつくることだ」と口にされる。齊藤さんも、「今後は障害者雇用で蓄積したノウハウを地域に発信していきたい」と地域を意識した発言をしておられた。大きな意味でお二人の思いが一致していることは、これまでとは違った形の連携で新たな取組みが見られるのではと期待するが、そんな状況までつくりあげられた要因を私なりにまとめてみた。  まずは、クロスジョブ札幌と出会い、ネットワークを構築できたことであろう。クロスジョブの理念に「障害のある方が企業で働く未来に貢献します」とある。障害のある人を戦力化したい企業と、それを支えたいと考える支援機関の理念がマッチしたことで、一人の障害のある人の成長を双方が一緒になって悩み考えることがお互いの成長とやりがいにつながっているのであろう。  次に当事者の可能性を引き出すことをつねに頭に置いておられることが大きい。障害があるからこの仕事と限定するのではなく、支援機関からの情報を頭に置きながら、当事者のやる気を確認し仕事を提供していることが、雇用領域を広げているのであろう。そして、合理的配慮もそれぞれに合わせて提供されているが、それだけではなく、戦力化するためのステップアップする仕組みのあることが見逃せない。「ステップアップシート」を通じてスキルアップを図ることもさることながら、コミュニケーションツールの一つとして活用し、モチベーションのアップを図っていることが戦力化へ向けての大きな要因であると考える。  最後に、齊藤さんの「本気でやる」という言葉が心に刺さった。齊藤さんの、小手先で問題解決をするのではなく、一人ひとりとしっかりと向き合い対応するという姿勢が、会社の本気度を見せることにつながっている。今後、障害者雇用を通じてどのような地域をつくっていくのかがとても楽しみであり、人材育成のヒントを得るとともに、管理職のあり方を見直す時間との出会いとなった。 ※障害者トライアル雇用:障害者を一定期間(原則3〜6カ月間)試行雇用し、適性や能力を見極め、継続雇用のきっかけとなることを目的とする制度 写真のキャプション ハミューレ株式会社本社(写真提供:ハミューレ株式会社) プロノ札幌本店(写真提供:ハミューレ株式会社) ハミューレ株式会社店舗運営部部長の齊藤浩二さん 就労移行支援事業所クロスジョブ札幌 クロスジョブ札幌ジョブコーチの角井由佳さん ハミューレ株式会社では、独自の評価表「ステップアップシート」を活用し、従業員のスキルアップを図っている(資料提供:ハミューレ株式会社) 「畳み板」を使い、オーバーオールを畳んでいる様子 「畳み板」により、きれいな畳み方に統一できる プロノ札幌本店の店内 プロノ札幌本店で働く森賢二さん 森さんは、靴売り場を担当し、レジ打ちなども行う 店舗の教育担当者との打合せの様子 NPO法人クロスジョブ代表理事の濱田和秀さん 【P26-27】 省庁だより 令和6年版 障害者白書概要@ 内閣府ホームページより抜粋  障害者白書は、障害者基本法第13条に基づき、障害者のために講じた施策の概況について、毎年国会に報告しているものです。  今号と次号の2回にわたり、「令和6年版障害者白書」の概要を紹介します。 第1章  改正障害者差別解消法の施行  2021年6月、事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けること等を内容とする「改正障害者差別解消法」が公布され、2024年4月1日に施行された。  本章では、第1節で「改正障害者差別解消法」等の概要を説明する。  第2節では、@関係府省庁や地方公共団体が定める「対応要領」の策定・改定の概要、A関係府省庁における「対応指針」の改定の概要、B内閣府による相談窓口試行事業「つなぐ窓口」の設置、C政府による周知・啓発の取組等の「改正障害者差別解消法」の施行に向けた政府・地方公共団体における取組について報告する。 第1節 改正障害者差別解消法等の概要 1.障害者差別解消法の制定背景及び経過  「障害者差別解消法」の施行3年後の検討規定による見直しの検討を経て、2021年6月に「改正障害者差別解消法」が公布され、2024年4月1日に施行された。また、施行に向けて改定した「改定基本方針」が2023年3月14日に閣議決定された。 2.障害者差別解消法等の概要 (1)障害者差別解消法の趣旨  行政機関等や事業者に対して、障害者への「障害を理由とする不当な差別的取扱い」を禁止するとともに「合理的配慮の提供」を求め、これらの措置等を通じて、障害者が社会で提供されている様々なサービスや機会にアクセスし、社会に参加できるようにすることで、共生社会の実現を目指す。 (2)対象となる障害者  対象となる障害者は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいい、いわゆる障害の「社会モデル」の考え方を踏まえている。したがって、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。 〈障害の「社会モデル」とは〉  「障害者差別解消法」は、障害の「社会モデル」の考え方を踏まえている。これは障害者が日常生活又は社会生活で受ける様々な制限は、心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生じるものという考え方である。 (3)対象となる事業者及び分野  対象となる事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体が経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含む。)であり、個人事業主やボランティアなどの対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人なども、同種の行為を反復継続する意思をもって行っている場合は事業者として扱われ、また対面やオンラインなどサービス等の提供形態の別も問わない。  分野としては、日常生活及び社会生活全般に係る分野が広く対象となるが、雇用分野についての差別を解消するための具体的な措置に関しては「障害者の雇用の促進等に関する法律」の定めるところによる。 (4)「不当な差別的取扱いの禁止」・「合理的配慮の提供」 @不当な差別的取扱いの禁止  不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限すること、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害する行為である。「改定基本方針」では、社会的障壁を解消するための手段(車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等)の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当することを明記。 A合理的配慮の提供  障害者やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うことが求められる。  2024年4月1日に施行された「改正障害者差別解消法」により、事業者による「合理的配慮の提供」は、努力義務から義務へと改められた。  ※上記@又はAに反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣等は、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導、勧告をすることができる。 ※建設的対話の重要性  合理的配慮の提供に当たっては、社会的障壁を取り除くために必要な対応について、障害者と行政機関等・事業者双方が対話を重ね、共に解決策を検討していくことが重要となる。このような双方のやり取りを「建設的対話」という。「改定基本方針」では、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要であること等、建設的対話を行うに当たっての考え方を示している。 (5)環境の整備  「障害者差別解消法」は、合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(バリアフリー化、コミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、情報アクセシビリティの向上等)を行政機関等及び事業者の努力義務としている。これには、ハード面のみならず、職員に対する研修や、規定の整備等の対応も含まれる。  障害を理由とする差別の解消のための取組は、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進めることが重要である。 第2節 改正障害者差別解消法の施行に向けた取組 1.「国等職員対応要領」の関係府省庁の改定概要及び「地方公共団体等職員対応要領」の策定状況 〇「障害者差別解消法」第9条に基づき、国の行政機関の長等(※)はその職員が適切に対応するために必要な要領(以下「国等職員対応要領」という。)を定めることとされている。国の行政機関等においては「改正障害者差別解消法」の施行前に、障害者団体や事業者団体等からヒアリングを行った後、パブリックコメントを経て「国等職員対応要領」の改定を行った。  ※「等」には、独立行政法人などが含まれる。 〇「障害者差別解消法」第10条において、地方公共団体の機関等(※)はその職員が適切に対応するために必要な要領(以下「地方公共団体等職員対応要領」という。)を定めるよう努めるものとされている。2023年4月1日時点において、全ての都道府県及び指定都市が「地方公共団体等職員対応要領」を策定しているほか、中核市等においては99%、一般市においては90%、町村においては66%が策定しており、一般市や町村における策定割合についても増加傾向にある。  ※「等」には、地方独立行政法人(一部を除く)が含まれる。 2.関係府省庁における「対応指針」の改定概要 〇「障害者差別解消法」第11条第1項において、主務大臣は、事業者における不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めることとされている。 〇「国等職員対応要領」と同様、各主務大臣においては、「改正障害者差別解消法」の施行前に、障害者団体や事業者団体等からヒアリングを行った後、パブリックコメントを経て、「対応指針」の改定を行った。 〇各主務大臣が定めた「対応指針」には、主務大臣や事業分野ごとに、障害種別ごとの障害特性や事業内容等を踏まえ、不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供等に関する様々な事例が記載されている。  「令和6年版障害者白書」では、そうした事例の一部について、関係すると考えられる障害種別ごとに「障害特性と主な配慮事項」と併せて整理し、紹介している。 3.相談体制の整備 〇「改正障害者差別解消法」において、事業者による合理的配慮の提供が義務化されるとともに、国及び地方公共団体の連携協力や相談対応等を担う人材の育成及び確保のための措置等が明確化された。 〇「改正障害者差別解消法」や「改定基本方針」の内容を踏まえ、内閣府では以下のような取組を行っている。 ・関係省庁に働きかけ、各事業分野における国の相談窓口を整理・一覧化し、内閣府ホームページで公表 ・2023年10月から、障害のある人や事業者、都道府県・市区町村等からの障害者差別に関する相談に対して、法令の説明や適切な相談窓口等につなぐ役割を担う「つなぐ窓口」を試行的に実施 ・国や地方公共団体における相談対応や相談対応を担う人材の育成に資するようなケーススタディ集や相談対応マニュアルを作成 相談窓口試行事業「つなぐ窓口」について(2023年10月設置) 〇「つなぐ窓口」による相談対応の基本的な流れ  「つなぐ窓口」では、「障害者差別解消法」に関する説明を行うとともに、相談者の希望等に応じて、適切な自治体・各府省庁等の相談窓口と調整を行い、事案の取次を行っている。 〇「つなぐ窓口」での相談件数 @相談対応件数(2023年10月16日〜2024年3月31日:1163件)  (うち、障害のある人やその家族等817件、事業者209件、自治体等52件、その他85件) A@のうち、自治体等取次案件:121件(※)  (※)2024年3月31日現在において、国や自治体等に取り次いだ案件及び取り次ぐこととしている案件の合計件数 〇障害者差別に関する主な相談内容の例  「つなぐ窓口」に寄せられる相談の内容は様々であるが、比較的多くみられる相談内容としては、以下のようなものがあげられる。 ▼障害のある人からの相談 ・事業者から差別的な対応をされたため、対応を改め謝罪を求めたい。 ・事業者に合理的配慮の提供を求めたが、対応してもらえなかったため、対応するよう事業者と調整してほしい。 ▼事業者からの相談 ・「改正障害者差別解消法」の施行により合理的配慮の提供が義務化されると聞いたが、具体的に何をすればよいのか教えてほしい。 4.障害者の差別解消に向けたその他の取組等 (1)周知・啓発 〇政府においては、障害者の差別解消に向けた国民各層の関心と理解を深めるとともに、建設的対話による相互理解を通じた合理的配慮の提供等を推進するため、必要な周知・啓発活動を行うこととしており、例えば、内閣府では以下のような周知・啓発活動に取り組んでいる。 @事業者を対象に「改正障害者差別解消法」のオンライン説明会を実施 A事業者団体、障害者団体等が主催する講演会等において、「改正障害者差別解消法」の説明・周知を実施 B地方公共団体職員等を対象に「障害者差別解消支援地域協議会に係る体制整備・強化ブロック研修会」を実施 C「改正障害者差別解消法」に関する政府広報を実施(新聞突出し広告、インターネット広告、政府広報オンライン) D「合理的配慮の提供等事例集」を取りまとめ、内閣府ホームページに掲載 E「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト」を公開(2023年には同サイト上で「障害者差別解消に関する事例データベース」も公開) F「改正障害者差別解消法」や「つなぐ窓口」に関するリーフレットやチラシを制作し、内閣府ホームページに掲載 (2)障害者差別解消支援地域協議会の設置の促進 〇「障害者差別解消法」において、国及び地方公共団体の機関は、「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「地域協議会」という。)を組織することができるとされている。  2023年4月1日時点において、全ての都道府県及び指定都市が「地域協議会」を設置しているほか、中核市等においては88%、一般市においては74%、町村においては51%が「地域協議会」を設置しており、一般市や町村における設置割合についても増加傾向にある。 第2章 障害のある人に対する理解を深めるための基盤づくり 広報・啓発等の推進 〇「障害者週間」(毎年12月3日〜9日)  「障害者基本法」第9条に基づき、全ての国民が、相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の理念の普及を図り、障害及び障害者に対する国民の関心と理解を一層深めることを目的として、実施している。 ○各種の広報・啓発活動  「第75回人権週間」においては、「『誰か』のこと じゃない。」をテーマに掲げ、障害のある人の人権問題を含め、様々な人権問題をテーマにした人権啓発動画の配信や講演会の開催等の各種広報・啓発活動を行った。 ○教育・福祉における取組  2023年4月、「発達障害ナビポータル」(※)内に、「発達障害のある人やその家族が、必要な情報を得て、適切な支援につながれる」というコンセプトの下、当事者・家族向け情報検索ツール「ココみて(KOKOMITE)」を開設し、医療機関に関する情報や当事者会・親の会等の社会資源に関する情報等、利用者ニーズが高い情報を掲載した。  「ココみて(KOKOMITE)」には1800件を超える情報を掲載しており、内容、地域、ライフステージごとに情報を検索できる。  (※)文部科学省と厚生労働省の協力の下、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所と国立障害者リハビリテーションセンターが共同運用。 (次号では、第3章、第4章、第5章、第6章について紹介します) ★「障害者白書」は、内閣府ホームページに掲載しています。https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/index-w.html 【P28-29】 研究開発レポート 障害者手帳のない難病患者の就労困難性と支援ニーズの実態 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 1 はじめに  難病患者で就労困難性のある者は、障害者手帳制度の対象でない場合でも、障害者雇用促進法上の「障害者」ですが、障害者雇用率制度の対象は手帳がある場合に限られています。  このため、障害者手帳のない難病患者については、障害者雇用率にカウントされない状況で、事業主は障害者差別禁止や合理的配慮提供の法的義務を負い、障害者就労支援機関は就労移行支援や職業紹介、職場定着支援等を実施することが求められています。実際、障害者手帳のない難病患者にはどのような就労困難性や支援ニーズがあるのでしょうか。また、職場や支援機関はどのように対応しているのでしょうか。  当機構(JEED)の障害者職業総合センターでは、難病患者4000名以上と、全国の事業所や支援機関を対象とした実態調査を行い、体調の崩れやすさや不安定さ等により、障害者手帳の対象でない場合でも、就職や就業継続等が困難となる状況や、今後の職場や支援機関の対応強化の必要性を明らかにしています。 2 「その他の心身機能の障害」の実態  障害者雇用促進法第2条第1号の「障害者」の定義にある身体・知的・精神障害については障害者手帳制度での認定があります。一方、それらに並ぶ「その他の心身機能の障害」については障害者手帳制度での認定基準がなく、それによる就労困難性については、今回の調査により、初めてその実態が明確になりました。  そもそも、難病患者の就労問題が社会的課題となったのは、医療の進歩等により、定期的通院や服薬等の継続により難病の症状を一定程度抑えながら仕事を含む社会生活が可能となった難病患者が急速に増加しているからです。継続的な治療により重度の後遺症が回避できているため身体障害等は認定されませんが、難病が完治しているわけではありません。  今回の調査で明らかになったのは、障害者手帳のない難病患者であっても、その半数程度で、病状の見通しの不透明さ、体調の崩れやすさや変動、疲労や痛み、集中力の低下といった「その他の心身機能の障害」による就職や就業継続、さらに職業準備性に関する就労困難性につながっている実態です。難病患者は、治療と両立して仕事に挑戦しようとすれば、通院や体調管理と両立できる業務内容や勤務時間、休暇等の条件を満たす仕事に就職し、職場における理解や合理的配慮を確保する必要があります。現状、そのような支援ニーズに職場や支援機関が、必ずしも対応できていないため、比較的症状が軽症な難病患者を含め、特に治療と両立できる職種や働き方等の可能性に挑戦しようとする人ほど就労困難性を経験しやすく、その問題解決は本人の対処スキルに大きく依存し、試行錯誤でのストレスにより社会的疎外感も高い状況が明らかになっています。 3 難病患者の就労支援ニーズの明確化  難病患者の調査回答から、就職前から就職後に経験している困難状況に応じた利用機関や希望する支援内容、さらに、その困難状況の実際の軽減・解消と関係している具体的支援内容の相互関係を分析した結果、次のような障害者手帳の有無にかかわらない難病患者の就労支援ニーズの特徴が明らかになりました。 (1)治療と両立して活躍できる雇用の実現  難病患者のさまざまな就労困難性に対応して最も必要とされていた専門支援とは、障害者求人に限らず、通院、健康管理、疲労回復ができる勤務時間や休日、体調悪化時の早めの休憩・通院等の許可等への理解が就職時点からある職場の確保に関することでした。いまだ多くの支援機関が十分に対応できていないなか、難病患者就職サポーター、大学キャリアセンター等は一般求人を含めて難病でも無理なく活躍できる仕事への職業紹介・あっせん、職場の産業保健スタッフや難病相談支援センターとの連携により成果を上げていることが明らかになりました。 (2)病状悪化や障害進行時の雇用継続  就職後の難病患者の典型的な離職状況として、障害進行や病状悪化による職務遂行や通勤の困難、休職期間の超過による退職・契約非継続、医師による就業制限があること等が明確になりました。  障害進行や病状悪化に対して、難病患者は、「職場の設備改善・支援機器・テレワーク等」、「就業継続支援」、「福祉的就労や超短時間勤務」、「職業訓練や資格取得支援」、「体調や自己管理スキルの向上支援」を求めており、職場の産業医・産業保健スタッフ、就労移行支援事業所の支援が問題解決につながっていました。  休職期間の超過状況に関連して難病患者は、通院等への配慮や、出退勤時刻や休憩等、体調に合わせた柔軟な業務調整ができる職場体制等を求めており、難病相談支援センターやハローワークが効果的な相談先となっていました。  一方、医師からの就業制限に対して、通院、健康管理、疲労回復ができる仕事内容、勤務時間や休日、職場の理解確保等の個別調整を求める難病患者が多いにもかかわらず、現状ではニーズに対応できる支援機関はほとんどなく、離職につながりやすくなっていました。 (3)医療・生活等と就労の総合的相談支援  難病患者の多くは、難病とともに歩む人生設計や仕事の方向性、治療と仕事の両立の自信のなさ、社会的疎外感等の悩みを抱えていますが、現状の支援機関では、これらの悩みへの相談支援が十分に成果を上げられていません。これらの悩みを有している難病患者自身の観点から、必要な専門支援について聞いた結果、勤務内容や治療状況をふまえた就業の可否や留意事項の確認、興味や強みをふまえて活躍できる仕事を考える職業相談、障害者求人等への紹介、治療と仕事の両立支援等の必要性が高いことが明確になっており、これらを含む総合的な相談支援の充実が重要です。 4 職場や支援機関の対応状況  事業所調査の結果、実際の難病患者への配慮の内容としては、体調変動に応じた業務調整、通院や体調管理に応じた勤務時間や休日、急な欠勤に対応できる職場体制、職場内コミュニケーション、身体的負荷の少ない職務等のソフト面への配慮が比較的多く、回答事業所の半数強が負担を感じており、約20%が非常に負担と感じていました。一方、職場での難病患者の把握は、通院や業務調整の必要性や、治療と仕事の両立支援、休職等をきっかけとしており、合理的配慮を必要とする難病患者が職場に対して、自己申告しやすい職場体制の必要性も示唆されました。  また、支援機関調査の結果、就労系福祉サービスを中心に、障害者手帳のない難病患者が支援対象として明確に位置づけられていない状況や、難病関連の社会資源や治療と仕事の両立支援等の周知不足の状況も明確になっています。 5 おわりに  難病患者の就労問題は医療の進歩にともなう新たな社会的課題です。今後、特別に対処スキルの高い難病患者だけでなく、だれもが安心して難病の治療と仕事を両立できるようにするため、ハローワーク等の職業相談・職業紹介等の充実、企業の合理的配慮提供の促進、地域連携体制の整備等が具体的な課題です。それらについて、本レポートの元となる調査研究報告書No.172「難病患者の就労困難性に関する調査研究」(※)では議論の整理も行っています。 ※https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku172.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 表 「その他の心身機能の障害」による難病患者の就労困難性の典型例 その他の心身機能の障害 就労困難状況の具体例 病状が進行するおそれ 病状の不確実性による将来不安があり、支障が増すと実際の体調の不安定さ等の病状の悪化により職務遂行や仕事の予定を組むことが困難になり、有給休暇が不足する状況で、経済面を含む将来不安が増大し、離職後の再就職意欲の低下が顕著になる。 少しの無理で体調が崩れること 体調の崩れやすさは理解されにくく、支障が増すとフルタイム勤務や残業を負担と感じ、業務調整の困難や突発休の増加で離職のリスクが増加する。 全身的な疲れや体調変動 外見から分かりにくい全身的な倦怠感があり、支障が増すと仕事の活動時間や集中力が低下し、職場の人間関係等に課題が生じ、安定した就業が困難になる。 活力や集中力の低下 軽度でも効率や仕事の完遂に影響が出る場合があり、支障の程度が増すとフルタイムの勤務や業務遂行の困難が増し、重度では日常の仕事の遂行が困難となる。 身体の痛み 全身の関節痛や頭痛等による支障が増すと日常生活や仕事が困難になり、労働やストレス等による悪化もあるが、病状の説明や理解を得るのが難しい。 免疫機能の低下 外出に支障が出ることや医療職での業務制限があり、支障が増すと風邪や感染症にかかりやすくなり、仕事の制限や欠勤が多くなり、仕事の継続が困難となる。 【P30-31】 ニュースファイル 国の動き 国土交通省 自動車事故被害者受入れ施設を支援  国土交通省は、在宅で療養生活を送っている自動車事故の重度後遺障害者について、その介護者がさまざまな理由により介護がむずかしくなる場合(いわゆる「介護者なき後」)も安心して生活を送ることのできる環境を整備するため、障害者支援施設やグループホームの新設・開設後に必要となる人材確保と介護器具導入に関する経費を補助する対象事業所を40カ所選定した。施設利用を検討する際の参考にしてほしいとしている。事業所の一覧は、国土交通省のホームぺージより閲覧できる。 https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000657.html 地方の動き 福岡 障害者がARグラスで就業訓練  福岡県は、公益財団法人日本財団(東京都)と西鉄グループ(福岡県)、NPO法人セルプセンター福岡(福岡県)と連携して、実際に見ている映像をリアルタイムで共有できる「ARグラス」を活用した、障害のある人向けの業務訓練を9月からスタートした。  具体的な流れは、西鉄グループ6社で切り出した各業務をNPO法人セルプセンター福岡がマニュアル化し、ARグラスで見られる訓練ツールを作成。その際、県と日本財団が経費を助成し、オブザーバーとして助言も行う。訓練を受ける人は、ARグラスを使って視覚的に業務を理解しながら、実践的な訓練を行ったあとに面接・就職へ進むという。  訓練コースの業務内容は乗車サポート、構内見回り、高速バスのトランクの積み下ろしサポート、駅構内のクリーンキーパー、空港でのポーター業務(手荷物受取り、コンベアへ流す)、物流倉庫内のピッキング作業、バス運賃の計算書や手配書作成、作業日報による勤怠入力など(一部訓練コースはARグラス不使用)。受講後は就労定着支援施設と連携し、採用から定着までのサポートも行う。訓練期間は1〜3カ月。  その他詳細は福岡県ホームページまで。 https://www.pref.fukuoka.lg.jp/press-release/nishitetsu-arglasskunren.html 生活情報 全国 障害のある人の貧困率約8割  障害のある人が通う事業所等の全国組織「きょうされん」(東京都)は、「2023障害のある人の地域生活実態調査」の結果を公表した。  調査は2023(令和5)年5月〜2024年4月に実施。回答のあった障害のある人は5891人で障害福祉サービスを利用している人たちが大半を占めた。回答者の月額収入から年収を積算した結果、相対的貧困とされる127万円の「貧困線」を下回る人が約4000人で全体の78.6%を占め、前回の2015(平成27)年調査の81.6%と比較しても大きな変化は見られなかった。  年収200万円以下の人の割合も97.2%(4943人)と、前回調査の98.1%とほぼ同様の結果となった。また生活保護受給者は11.5%で、国民全体に占める受給者の割合1.63%の7倍以上。親と同居している人は、40〜44歳で51.7%、50〜54歳で30.7%だった。  詳細は、きょうされんのホームページへ。 https://www.kyosaren.or.jp/investigation/26729/ 働く 全国 障害者の約5000人が解雇や退職  一般社団法人共同通信社(東京都)が全国の自治体を対象に実施した調査によると、障害のある人が働きながら技術や技能を身につける就労支援事業所が2024(令和6)年3〜7月に全国で329カ所閉鎖され、事業所が各自治体に廃止届を出した時点の利用者数から解雇・退職者数を集計すると4995人だった。閉鎖した329カ所のうち4割強は、最低賃金が適用されない就労継続支援B型事業所に移行した。  調査は7月に都道府県や政令指定都市、中核市の計129自治体に実施し、すべてが回答。閉鎖が相次いでいるのは就労継続支援A型事業所で、障害者と雇用契約を結び、最低賃金以上を支払ったうえで生産活動や職業訓練を行う。全国に約4600カ所あり、精神障害や知的障害のある人を中心に8万人強が働いている。 北海道 聴覚障害のある男性が、バス運転手に  貸切りバス事業などを展開する「日軽(にっけい)北海道(ほっかいどう)株式会社」(苫小牧(とまこまい)市)が、道内で初めて聴覚障害のある男性を運転手として採用し、研修の様子を公開した。  採用されたのは生まれつき聴覚障害のある50代の男性で、企業の通勤用バスの路線などを任せる予定だという。2016(平成28)年の道路交通法改正で、補聴器をつけて一定レベルの聴覚があればバス等の営業運転に必要な2種免許を取得できるようになり、男性は6年前に大型2種免許を取得していたという。  会社内の練習コースで、隣に座った教官から「信号」、「発進」などのハンドサインや筆談でアドバイスを受けて路上教習を重ねている。 愛知 建設業界への就労移行支援  「一般社団法人One(ワン) Life(ライフ)」(名古屋市)と建設機械レンタルを行う「レンテック大敬(だいけい)株式会社」(豊橋市)が、建設業界における障害者雇用を進める就労支援事業所「Dサポート」を岡崎市に開所した。  Dサポートの就労支援サービスは、岡崎市や事業構想大学院大学などが参加した産官学連携の研究会で発案された事業。建設業界の課題である人手不足を障害者雇用で解決しながら、障害のある人の就労先の選択肢も増やす。建設関係の仕事で活躍できる資格取得支援を行い、就労へのキャリアアップを進めていくことで、処遇と配慮のバランスを整えることを目ざすとしている。  問合せは、Dサポートへ。https://d-support.life 本紹介 『しんどいから おもろいねん』  滋賀県にある「社会福祉法人わたむきの里福祉会」の理事を務める野々村(ののむら)光子(みつこ)さんが、『しんどいから おもろいねん』(コトノネ生活刊)を出版した。障害者就労などをテーマにした季刊誌『コトノネ』で連載された「なにをやんねや」、「よう来たな みっちゃん」などの22編に加え書き下ろし5編を収録。  野々村さんは20年ほど前、滋賀県近江八幡(おうみはちまん)市に障害者就業・生活支援センターとして「東近江圏域 働き・暮らし応援センター“Tekito-”」を立ち上げ、2024(令和6)年3月までセンター長を務めていた。これまでかかわってきた多くの当事者や関係者たちとの日々を、ユーモアを交えた親しみやすい文章で書いている。B6判196ページ、1980円(税込)。 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2024年度地方アビリンピック開催予定 10月末〜11月 青森県、千葉県、滋賀県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 ※全国アビリンピックは11月22日(金)〜11月24日(日)に、愛知県で開催されます。 青森 千葉 滋賀 第40回 ミニコラム 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は金塚委員が執筆しています。  ご一読ください。 育つ環境、育てる環境 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし  30代の初めのころに、障害のある人を積極的に雇用している中小企業の社長と一献交わす機会に恵まれた。お酒が進むなか、突然「なぁ金塚、人が育つ環境、育てる環境ってどんな環境かわかるか」と社長に問われた。「……」ぱっと言葉が出なかった。「そんなこともわからんと就労支援やってるんや」と一刀両断。それまでの私の支援とは直接支援が中心で、間接支援について深く考えていなかったのかもしれない。そのことがあって以来、支援の視点が環境やシステムなどの間接的支援にも重きを置くように変化していったのは間違いない。企業の人と話す機会があれば「育つ環境、育てる環境」をテーマに意見交換させてもらうようにしている。「一緒に汗を流す」、「ルールをつくる」、「合理的配慮の提供」、「育成プログラム」、「評価制度」、「フィードバック」などなど、その企業の人財育成についての考え方が表れるな、と思いながら参考にさせてもらっているし、視野が広がるよい機会であり楽しい時間でもある。  今回、「編集委員が行く」で取材させていただいたハミューレ株式会社にも「育つ環境、育てる環境」のポイントが揃っているが、まずは店舗運営部部長の齊藤(さいとう)浩二(こうじ)さんの存在が大きいのだろうと感じた。いろいろとお話をしていて、にっこりと微笑みながら誠実にていねいに受け答えされる姿に、人見知りの私がもっと話を聞いてみたいと思った。クロスジョブ札幌所長の伊藤(いとう)真由美(まゆみ)さんが「ハミューレに見学に行くと、利用者が齊藤部長のファンになって帰ってくる」と話していた。人が成長するための環境、および育てるための環境については、多様な要因があるが、真に成長してもらいたいと「本気で思い続ける気持ち」がとても重要であると、あらためて感じた。ちなみに一刀両断の社長とは、現在も定期的に一献の場を設けてもらい、人生の先輩としてアドバイスをもらっている。 【P32】 掲示板 障害者雇用の月刊誌「働く広場」がデジタルブックでいつでもお読みいただけます!  本誌はJEEDホームページで、デジタルブックとしても公開しており、いつでも無料でお読みいただけます。  また、最新号は毎月5日ごろに当機構ホームページに掲載されます。掲載をお知らせするメール配信サービスもございますのであわせてご利用ください。 自由に拡大できて便利! 読みたいページにすぐ飛べる! ※2020年4月号〜最新号まで掲載しています JEED 働く広場 検索 読者アンケートにご協力をお願いします! 回答はこちらから→ メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 次号予告 ●私のひとこと  看護師として就職直後に事故で脊髄損傷となり、現在、医療従事者として活躍している車イスユーザーの三井和哉さんに、患者と医療者の両方の視点からの気づきについてご執筆いただきます。 ●職場ルポ  庭園資材の販売等を行う株式会社タカショー(和歌山県)を訪問。障害者雇用を各支援機関と連携しながら進め、職場定着に取り組む現場を取材します。 ●グラビア  鳥取銀行(鳥取県)を取材。障害特性に応じた環境整備や支援体制と、バックオフィスで活躍する障害のある行員を紹介します。 ●編集委員が行く  金井渉編集委員が、関西電力株式会社の特例子会社、株式会社かんでんエルハート(大阪府)を訪問。障害のある社員の育成と新規業務創出の取組みなどについて取材します。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_hiroba 本誌購入方法 定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。 1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み 株式会社広済堂ネクストまでご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043-213-6200(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社広済堂ネクスト 〒105-8318 東京都港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 11月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和6年10月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 管理部次長 金井渉 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松 爲 信 雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田淳 国際医療福祉大学 准教授 若林功 【P33】 障害者雇用支援月間(9月)における厚生労働大臣表彰などの表彰式が開催されました  9月12日(木)、東京都千代田区の大手町三井ホールにおいて、令和6年度障害者雇用優良事業所等表彰式が開催されました。  当日は、障害者雇用優良事業所および優秀勤労障害者に対する厚生労働大臣表彰17件のほか、障害者雇用職場改善好事例の厚生労働大臣賞および当機構理事長賞優秀賞6件と、障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテストの厚生労働大臣賞および当機構理事長賞8件の表彰が行われました。  表彰式の最後に、「障害者雇用優良事業所」として厚生労働大臣表彰を受けられた、生活協同組合パルシステム東京理事長松野(まつの)玲子(れいこ)様が被表彰者を代表して挨拶を述べられました。 写真のキャプション 障害者雇用優良事業所 厚生労働大臣表彰被表彰者 ※前列におかけになった方々が被表彰者 障害者雇用優良事業所 厚生労働大臣表彰 生活協同組合パルシステム東京様(東京都)による代表者挨拶 障害者雇用職場改善好事例 厚生労働大臣賞 株式会社新陽(しんよう)ランドリー様(宮城県) 優秀勤労障害者 厚生労働大臣表彰 山重(やましげ)正子(まさこ)様(鹿児島県) 【裏表紙】 障害のある従業員のスキルアップや休職者の職場復帰をお考えの事業主のみなさまへ  JEEDが運営する障害者職業能力開発校では、在職中の障害のある方々がより職場で活躍できるように、次のような訓練を実施しています。 スキルアップをめざす訓練 新たな技能・知識の習得により、職務内容の変化に対応できるようにするための訓練です。 【レディメイド訓練】 訓練コース 内容 期間 ワープロソフト基礎 ・事務文書の基礎知識と文書作成 ・基本的な社内・社外文書の作成 3日間 経理(日常業務) ・簿記の仕組み ・各種取引の仕訳と記帳(伝票を含む) 3日間 ネットワーク基礎 ・ネットワーク(LAN、WAN、インターネット)の知識とTCP/IP ・LAN 構築実習 3日間 *国立職業リハビリテーションセンターにて実施した例です。 【オーダーメイド訓練】 企業のニーズに応じて訓練内容を設定 職種転換が必要な従業員に対して *2次元CAD を使用した製図作業の訓練 *リモートワーク用ツールの活用訓練 *個々に適した休息の取り方に関する助言 上記を、6カ月の期間を設定して実施 *国立吉備高原職業リハビリテーションセンターにて実施した例です。 職場復帰に向けた訓練 *疾病、事故等により受障した休職中の方が職場復帰するにあたり、必要な技術を身につけるための職業訓練です。 *オーダーメイドによる実施となるため、個々の事情、希望に合わせて訓練内容の調整が可能です(期間は6カ月以内)。 訓練場面の見学も可能です! まずは、お気軽にご相談ください。 アビリス アビリンピック (障害者技能競技大会) マスコットキャラクター お問合せ先 国立職業リハビリテーションセンター 〒359-0042 埼玉県所沢市並木4-2 TEL:(スキルアップ)04-2995-1135 (復職)04-2995-1201 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 〒716-1241 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 TEL:0866-56-9003 ※このほかにも事業主の方向けの情報を、ホームページに掲載しています。ぜひご覧ください。 11月号 令和6年10月25日発行 通巻565号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)