研究開発レポート 気分障害等の精神疾患で休職中の方のための 仕事の取組み方と働き方のセルフマネジメント支援 障害者職業総合センター職業センター  障害者職業総合センター職業センター(以下、「職業センター」)では、気分障害などの精神疾患をともなう休職者の職場復帰や雇用安定のための「ジョブデザイン・サポートプログラム」(以下、「JDSP」)の実施を通じ、ストレス対処、対人技能などの職場復帰支援に関する先駆的な職業リハビリテーション技法の開発および普及に取り組んでいます。  ここでは、「キャリア講習」、「社会人基礎力講習」、「テレワークのためのセルフマネジメント講習」の開発・改良の成果を取りまとめた冊子「仕事の取組み方と働き方のセルフマネジメント支援」(支援マニュアル23、2023〈令和5〉年3月発行)(※1)の概要をご紹介します。 【新たな開発・改良の背景】  開発等の背景として、@先行調査研究では、地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)の職場復帰支援(以下、「リワーク支援」)に対して「休職していない社員を含めた、メンタルヘルス不調の予防・改善のための企業への助言、社員への協力等」を期待する企業が有意に少なかった半面、「業務遂行力の回復」などが多かったこと、A若年休職者へのリワーク支援に際し「職業経験の少ない若年者にキャリア講習を行う難しさがある」、「自己理解・自己分析を進めにくい」などの指摘があったこと、Bテレワークなどに対応する支援技法の開発が地域センターから求められていたことなどがあげられました。 【キャリア講習の改良】  職業センターが2017(平成29)年度に開発したキャリア講習カリキュラム(支援マニュアル17「ワーク基礎力形成支援」)の一部を、先述の背景をふまえて改良しました。  従来の講習でも、利用者が会社から期待される役割とその遂行状況、職場や生活のなかのストレス要因をふり返り、休職の要因を明らかにして、対処方法を検討する場が、数多く用意されていました。そこでは、ほかの利用者からの意見や質問によって、自分とは異なる価値観、とらえ方や知識がもたらされることが、自分の経験を再評価するきっかけとなっていました(下図)。  ただ、若年者のように職業経験が少ない利用者の場合、自分の経験を他者に伝えるための言葉を持ち合わせていないため、ほかの利用者との間で共有しにくく、また、ほかの利用者にとっては、どのような質問や意見を出せばよいのかもわかりにくい状況でした。  そこで、ほかの利用者に説明しやすいよう、事前の講座のなかで、@肩書等の「外的・客観的キャリア」と、仕事上のやりがい等の「内的・主観的キャリア」との、二つの対比の視点、A人生や仕事の転機の乗り越え方の視点など、キャリアの分析の手がかりとなる知識を学習する場を設けました。  次に、学んだ知識を使って、自分のキャリアをふり返り、仕事で大変だった経験、充実した経験、仕事を乗り越えた経験、仕事に取り組むうえで自分なりに大切にしていたことなどを、ほかの利用者に対して説明し、これを受けとめたほかの利用者から前向きなフィードバックを返してもらうことで、自分のキャリアの意味を確認し、復職後の仕事や人間関係に向け、自信を持てるようにしました。  新しいキャリア講習では、利用者が記入するシートの内容や使い方などを、若年者にも扱いやすいように工夫、変更しました。例えば、これまでの仕事で成功を実感できたこと、今後の仕事への夢などに関する設問への回答から、その人のキャリア・アンカー(判断・行動のより所)を分析できる「キャリア・アンカー自己評価シート」を開発しました。 【社会人基礎力講習の開発】  前述の背景をふまえ、社会人基礎力に焦点をあてた新たな講習を開発しました。社会人基礎力とは、職場や地域社会で必要とされる能力のモデルで、おもに大学のキャリア教育などで活用されています。  講習の進め方は以下の通りです。@社会人基礎力の知識を学ぶ、A自分の社会人基礎力のできていることと課題を確認する、B信頼関係が構築された利用者同士でAを共有、検討する。  以上の結果、次のことを目ざしています。 ○「働く目的や意味がわからない」、「取り組む目標がわからない」などの課題を抱えている職業経験の浅い若年の休職者には、働くうえで必要な力、自分が持っている力、課題となっている力について検討し、次の目標や行動計画を立てる。 ○若年層にかぎらずさまざまな年齢層の休職者が、復職後の課題解決の手がかりとして、社会人基礎力を活用できるようにする。 【テレワークのためのセルフマネジメント講習】  前述の背景をふまえ、テレワークにおけるセルフマネジメントの重要性を理解し、課題検討やグループディスカッションを通じて、各自がテレワークを行う際の対処方法を具体的に検討するための講習を、新たに開発しました。  現にテレワークを実施しているか、または経験のあるJDSP修了者へのアンケート調査やインタビューの結果から、テレワークでの課題と「対処法リスト」(左図)を作成し、利用者がこれを基に各自の課題と対処方法を具体的に検討することができるよう工夫しました。  職業センターではこのほかにもさまざまな支援技法を開発・改良し、支援者への普及や共有に努めています(※2)。ぜひご活用ください。 ※1 支援マニュアルNo.23「仕事の取組み方と働き方のセルフマネジメント支援」は、下記ホームページからご覧になれます。https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/support23.htm ※2 職業センターの支援技法開発成果物は、下記ホームページからご覧になれます。https://www.nivr.jeed.go.jp/center/ ★障害者職業総合センター職業センター TEL:043-297-9043 ほかの利用者からの質問、意見 経験のふり返り 経験の説明 テレワークのための対処法リスト 仕事の取組み方 □仕事を始めるときのルーティンを決めて、仕事モードに切り替えましょう。 (例:出社しているときの身だしなみに整える、「始めるぞ」と声に出して切り替える、通勤と見立てて一度外に出てから仕事を始める) □今日、取り組む業務を箇条書きにしましょう。 □仕事の優先順位を決め、1日のスケジュールを立ててから取り組みましょう。 □タイマーを使い、定期的に休憩を取りましょう。 テレワークの課題として挙げられる「長時間労働」への対策にもなります。 □疲れが溜まってくる夕方に運動する、机に向かわずに打合せをする時間を設けるなどの工夫をしましょう。 □スケジュールを可視化しましょう。(例:スケジュールをチーム内で共有する) スケジュール共有(例) Aさん Bさん Cさん Dさん 出社 テレワーク 出社 テレワーク 9:00 打ち合わせ 会議資料作成 メールチェック 時間休 10:00 E社への企画書作成 (予備) 会議室準備 11:00 会議 会議 会議 会議 12:00 昼休憩 13:00 打ち合わせ会場準備 営業のアポ取り電話 営業 会議の議事録作成 14:00 E社との打ち合わせ 顧客リストの作成 (予備) 15:00 報告書作成 16:00 チーム内打ち合わせ チーム内打ち合わせ チーム内打ち合わせ 17:00 チームリーダーへ報告 請求書作成 打ち合わせの議事録作成 出社時と違い、テレワークでは、上司や同僚が今どのような業務をしているかわかりづらくなります。つまり、自分が今どのような業務に取り組んでいるのかも、上司や同僚にはわかりにくいと言えます。お互いに共有をすることで、業務の効率化を図ることができます。 Aさんは今打ち合わせ中か! 環境整備 □テレワーク用の部屋と私生活用の部屋を分けましょう。 部屋を分けることが難しい場合… ・座る場所を変える。 ・イスを変える。 ・服装を変える。  といった工夫も効果的です。 □テレワークの時間を事前に家族に伝え、理解を得ましょう。 □以下の図を参考に、可能な範囲で作業環境を整えると、身体への負担感が軽減されます。 例えば… ・調整機能のある椅子を使う。 (座面の体圧分散、リクライニング、調整アーム、腰部のランバーサポート付きなど) ・使いやすいマウスを使う。 ・PCスタンドを使い、ディスプレイの高さを目線に合わせる。 ・ブルーライトカットメガネを使う。 ※左図出典:厚生労働省ホームページ「自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備」 自由記述 □ □ □ □ テレワーク経験者の声 ・業務内容に合わせてテレワークにするか否かを判断している。 ※講習の受講などはテレワークで実施する。 ・チャットで要点を確認し、オンラインツールでファイルを共有して視覚で意識合わせをしている。 ・一人になることで、集中しやすい反面、人の目がなくなることで、ダレてしまう可能性がある。当日の業務目標を立て、目標達成に向け、業務に取り組んでいる。 ・朝起きて着替えて、食事の支度など一通り終わったらラジオを聴く。始業までラジオを聞いてから朝礼に参加するようにしている。 ※JDSP終了者のうちテレワーク経験のある方へのアンケート結果等より一部抜粋