編集委員が行く 専修学校での障がい者の受入れ、教育、就職への取組み 学校法人名古屋学園 名古屋情報専門学校(愛知県) トヨタループス株式会社 管理部次長 金井 渉 取材先データ 学校法人名古屋学園 名古屋情報専門学校 〒458-0924 愛知県名古屋市緑区有松(ありまつ)912 TEL 052-624-5658 FAX 052-621-0892 編集委員から  中学時代に特別支援学級にいた生徒などは、進学することがむずかしく、進学先も限定されてしまうという印象があるが、現状はどうなのだろうか。  そこで今回は、そのような生徒たちの受け皿となり、学校生活のなかで悩み・課題を克服しながら社会で必要な「人間力」を身につけることに取り組まれている「名古屋情報専門学校」を紹介する。 Keyword:専門学校、情報処理、ジョブトレーニング、ボランティア活動、インクルーシブ教育 写真:官野 貴 POINT 1 障がいのある生徒も、悩み・課題を持つ生徒も、安心して楽しく通える学校づくり 2 ジョブトレーニングで働く力を身につける 3 新しいことや、生徒がやりたいことを授業に取り入れる柔軟な対応 はじめに  江戸時代に誕生した「有松絞(ありまつしぼ)り」は全国的にも有名な織物の絞り染めで、伝統工芸として脈々と受け継がれており、地域にはいまでも当時の町並みが残っている。その愛知県名古屋市緑区有松に学舎を置く「学校法人名古屋学園名古屋情報専門学校」は、多くの障がいのある生徒や、悩み・課題を持つ生徒を受け入れている。  今回は、同校の高等課程担当で教務科長の中川(なかがわ)智晶(ともあき)先生、専門課程担当で教務主任の大西(おおにし)岳司(たけし)先生、そして就職担当で進路指導主事の中西(なかにし)達也(たつや)先生にお話をうかがい、また、ご多忙によりお会いすることが叶わなかったが、伊藤(いとう)和明(かずあき)校長先生のコメントも頂戴したので、その内容も含めて記事にさせていただいた。 障がいのある生徒や、悩み・課題を持つ生徒の受入れ  前身の学校の設立は1977(昭和52)年だが、1991(平成3)年に情報処理科目をおもな専門教科として、現在の名古屋情報専門学校(以下、「名情専(めいじょうせん)」)へ学校名を改称している。高等課程3カ年、専門課程2カ年を併置しており、高等課程は全18クラス、全生徒数750〜800人、専門課程は全6〜7クラス、生徒数250〜300人がここ数年の実績となっているが、生徒数は年々増加傾向にある。  また、名古屋鉄道名古屋本線「有松駅」から徒歩3分という立地条件と、全国でも有数の路線距離を誇る私鉄のため、県内の幅広い地域、および県外から生徒が通学している。  元々、名情専は一般の専修学校として設立されたのだが、ある年、中学時代に不登校やつらい経験をしていた生徒が、高等課程の入学生のなかにいたことがあった。その生徒はいじめにあったり、授業についていけなかったりするなど、さまざまな事情があったが、その背景に障がいがあることも、つらい経験の要因の一つだった。  学校としては、悩み・課題を持つ生徒に対応し、その年以降も継続して受け入れていくうちに、学校の取組みが口コミで広がっていった。その結果、そのような生徒が年数を重ねるごとに多く入学するようになり、同時に障がいのある生徒も増えていった。  高等課程では中学時代に特別支援学級に在籍していた生徒や、学習面の伸び悩みや不登校を経験してきた生徒、コミュニケーションをとることが苦手な生徒の入学が多く、性格もおとなしいタイプが多いという。そのため、学校側としては「まず最初に学校に慣れるよう配慮し、そして不安を抱かず毎日安心して通えるようサポート。次にワープロ・情報処理・ゲームプログラミングなどの勉強を通して自己の向上を目ざして自信を回復するとともに、専門課程や大学への進学、就職への目標をもって日々の授業に取り組めるよう教員が寄り添い、生徒が主役になれるように」との方針を掲げ、取り組んでいる。  生徒の障がいの種類は、自閉症やアスペルガー症候群などの発達障がい、精神障がい、知的障がい、身体障がいなどさまざまだが、現在は生徒全体の3〜4割ほどが「障害者手帳」の所持者、または所持見込みの生徒となっている。  理数系は苦手だが文系は得意、逆に理数系は得意で文系は苦手、もしくは「読む」、「書く」、「計算する」ことなど、学習に必要な分野で困難のある学習障がいの生徒もいる。  最初は「毎日通学できるか」、「授業についていくことができるか」、「学校生活を送ることができるか」といった不安を抱えながら入学する生徒が多い。しかし、前述の学校方針にあるように、教員が一人ひとりの個性・特性に配慮しながらサポートし、授業の内容も基礎から教えるため生徒に安心感が芽生えていくという。また、自分と同じように勉強に悩んできたり、いじめを経験してきたりした生徒が多いことで、共感し合える機会も多い。おとなしい性格の生徒も、似たタイプのクラスメイトが多いため、比較的友人ができやすい環境となっている。そして、以前の学校生活では孤立して疎外感を感じ不登校になっていた生徒でも、名情専に入ってからは元気に登校できるようになる、といったことが起きている。  さらに、障がいのない生徒も在学しているため、そのような生徒がほかの生徒の勉強でわからない点を率先して教え、面倒を見るといったこともあるという。  このように、さまざまな生徒を受け入れている学校はほかではあまり見受けられないため、非常に感心した次第である。 教育内容  高等課程の授業内容は、国語、英語、数学、体育などの「普通教科目」と、情報テクノロジーなどの「専門教科目」がある。高等課程1年次では小学校・中学校の復習をメインにすえており、苦手科目の克服も行っているが、集団で授業に取り組むことにより、勉強や体育の楽しさや、わかること・できることの喜びを知り、自信を芽生えさせる授業の展開に努めている。  入学前に、特別支援学級に在籍している生徒の進路相談を受けることもある。その際は直接名情専に来てもらい、教育方針や教員のサポート対応などを説明するとともに、親御さんからご本人が抱えている悩みや障がい特性を聞いて、認識合わせを行っている。  専門課程での教育方針は、社会人として必要な「人間力」=「自ら考え行動し、当たり前のことが当たり前としてできる力、相手の目線にたった考えを持ち、どんな困難があっても決して諦めない力」を養うこととしている。  授業は各種パソコンスキル、CAD、情報処理技術、WEBデザイン、プログラミング、サーバ構築などの情報処理関係の科目と、簿記やビジネススキルなどそのほかの科目があり、高等課程の3年間も含めて、さまざまな検定試験合格の実績が多くある。  また、障がいのある生徒のみを対象とした「就業力育成コース」があり、名情専の特長の一つとなっている。このコースでも「人間力」の醸成を方針として掲げ、障がいのある生徒が自立・自律し、社会で活き活きと働いていくために、学びを机上だけに頼らず「個々の力、共同・共働力、自己他己理解、自立・自律心、生活調整力・仕事を楽しむ力」を養う教育を行っている。  なかでも、実際の業務を想定した授業「ジョブトレーニング」に力を入れており、さまざまな業務体験を通じて、生徒を育成しているという。 ジョブトレーニング  「ジョブトレーニング」は実際の仕事を経験することにより、社会で必要な力を身につけるという考えから取り入れている。組立て作業・検査、梱包・野菜の袋詰め、事務作業のデータ入力、さらにサツマイモやスイカなどの栽培といった農作業もあり、幅広い業務体験を行っている。  なかでも、農作業体験を実施してよかった点をうかがうことができた。それは「自分を責めなくなった生徒が多くなった」ことであった。  例えば、収穫物のでき栄えが悪かった場合、その原因として、「種が悪いのではなく、水やりが足らなかった、土の状態がよくなかった」という考えに生徒はたどり着く。同じように自らに置き換えて「自分が悪いのではなく、知識を得たり、技術を習得したり、環境を変えればできるようになる」と、学校生活においても自身に対して何をすればよいか前向きに考えるようになり、農作業がそのきっかけになっていると聞くことができた。  また環境が原因だとわかることができれば、就職してからも自らに必要な合理的配慮がわかり、会社に申し出ることができることにつながるそうだ。  ジョブトレーニングは業務体験であるため、授業内容も固定していない。企業が実際に行っている作業を提供してもらい、授業に取り入れることもしている。  また過去のエピソードを紹介すると、ある生徒が業務指示を受けるたびに「〇〇さん」と自身の名前を呼ばれるのだが、何度も呼ばれるうちに「自分は求められている」と感じるようになり、必要とされる喜びを知ったとのこと。その生徒があるとき、教室の前で泣いており、その理由を聞いたところ、その日のジョブトレーニングが中止となったため、悲しくて涙が出てきたのだという。生徒の成長が感じられ、心温まるお話であった。 学校の特長  障がいのある生徒や課題を持つ生徒は、得意・不得意がはっきりしているため、学校側が目標プランを提示することがあるそうだ。学校側としては、マイナス面を見るのではなくプラス部分を伸ばしていきたいと考え、それに努めているという。  そうしていくうちに、最初は通学できるだけでよいと思っていた生徒も、だんだんと自信が芽生え、やりたいことが出てくる。そうすると、次は卒業、その次は就職と目標が生まれてくる。学校側としては、やりたいことがあればそれを実現させるため、できるだけ各自の意見を吸い上げて授業に取り入れるようにしているという。  取材しているなかで感じた名情専の強みの一つは、そういった柔軟な対応ができることにあると感じた。  授業の内容変更を一部の教員の判断で実現できること、独立した学校法人であるため自由度が高いことも要因であるようだが、大事な点は生徒との良好な関係を日ごろから構築し、コミュニケーションを図っているという点だ。  また、生徒の就職先は情報通信業、製造業、サービス業、青果業、官公庁、そのほかさまざまな業種、多くの企業がある。企業側から求められるスキルがある場合は、それを授業に取り入れて業務への適性を図ることも行っており、それが実際の就職にもつながっている。  なお、障がいのある生徒の卒業後の進路は、企業などへの一般就労が9割で、残り1割が就労移行支援事業所、就労継続支援事業所などとなっている。  就職後のフォローについては進路指導主事の中西先生がおもに担当しているが、期間を定めず継続的にフォローをしているという。  なんらかの問題が発生した際の対応はもちろんのことだが、企業の担当者や就職した生徒の意見を聞くことは、在学中に学校側が教えてきたことがよかったのか否かがわかる場となっているので、就職先の企業を訪問することを非常に大切にしているそうだ。  その答え合わせができれば、いま在籍している生徒たちへのフィードバックや授業の見直しにつなげられるとのこと。  また、それにとどまらず、名情専の卒業生が初めて受け入れる障がいのある社員となる企業もあるので、企業の担当者に対し、職場環境の見直しや既存従業員への理解活動の提案、マニュアルづくりのサポートもしている。そうすることで、企業との関係をより密にできるとうかがった。  長年のこのような取組みが実を結び、いまでは毎年数十人の障がいのある生徒が就職できるようになっているが、最初のころは中西先生も失敗の連続だったそうだ。  当初は、障がいについての知識もまったくない状態で学校への受入れを始め、障がいが関係しているが手帳を所持していない生徒も多く、手探りで授業や指導を行っていたとのこと。  そうしたなかで、いざ就職活動で生徒を送り出したときには「教育をやった気になっているだけで、まったくできていないぞ」と企業側から厳しくいわれたこともあったという。  そのときは心が折れそうになったそうだが、以降は障がいについて理解するために県内中の就労移行支援事業所を回って勉強し、また生徒一人ひとりとしっかり向き合うことにより、やる気を引き出す方法を少しずつ学んだそうだ。  そうやって長い年数をかけて、ようやくいまの形になったという、たいへんご苦労されたお話も聞かせていただいた。  授業も、最初のころは検定を数多く受けさせるなどしていたが、現在ではそういった要素は残しつつも、ジョブトレーニングなどを通じて学ぶこと、働くことの楽しさを実感してもらい、社会性を醸成することに重きを置いているとうかがった。  ここまでの記事で「生徒一人ひとりと向き合い個性・特性を見ながらサポートする、生徒に寄り添う」といった内容を何度か書いたが、教員が現場で実践するのは、やはり相当たいへんなことであるようだ。  授業は1クラス40〜50人程度で進める集合教育のため、全体の進行を重視して見ていきながら多様な生徒を個々にも見ていくのには、多くの教務経験も必要で労力も要するとのことだ。 校内・授業風景見学  名情専は1号館、2号館、体育館と三つの建物で構成されている。少子化により世間一般では学生の数が減少しているなかで、名情専は年々生徒が増加しているため、当初はなかった2号館を、2017年に増築した。  このことからも、名情専は学校生活や学習に課題を抱えた生徒たちの受け皿になっており、また受け入れた後の教育も評価されているのだと感じた。  校内では生徒たちの様子をうかがうことができたが、やはり比較的おとなしくやさしい感じの生徒が多い印象を受けた。授業の合間の休み時間でも、大きな声で談笑している生徒は見かけなかったが、仲よく話をしている生徒は多く見られ穏やかな雰囲気であった。  高等課程も専門課程も同じ校舎を利用しているが、制服があるのは高等課程のみのため服装で見分けることが可能だ。また、同校は男子生徒の比率がかなり高い。  座学の授業は専門課程の「画像編集」と「就職対策」を拝見した。素直に先生の話に耳を傾けている様子がうかがえた。  教室は黒板ではなく電子黒板を活用していた。視覚的に見やすいこと、またメモを取ることが苦手な生徒もいるために、電子黒板を取り入れたそうだ。  取材日以前にも一度見学したことがあるが、そのときは企業の方を講師として招いて行う「職業実践講座」を拝見した。仕事や職場を知る貴重な体験として講師の方がていねいに説明をされていた。これまで企業とよりよい関係を構築するために尽力してきた結果がここにも現れていると感じた。  取材日当日は、高等課程の試験期間中であったため、多くのクラスでは「学習会」を実施していた。学習会は、高等課程の取組みで、試験に向けて自習を行う時間だ。名情専では自宅では勉強ができない生徒もいるため、その日の試験が終わった後に高等課程の全員が学校に残り、翌日以降の試験に向けて勉強できるようにしている。自習のため教室では個々に自分が復習したい内容を勉強していたが、そのなかで生徒がほかの生徒に勉強を教えている様子も目にすることができた。  勉強ができる生徒が苦手な生徒を教えていると先に記述したが、実際に見ることができたのはよかった。教えられる側だけでなく、教える側もきっとよい経験になるはずだ。  最後に、ジョブトレーニングの様子を見学した。専用の作業室が常設されており、さまざまな器具が置かれていた。  行っていたのは、まずは小豆をさやから取り出し、選別する作業であった。小豆は生徒たちが畑で栽培、収穫したものだが、働くことの楽しさを知るために選別後は調理して生徒たちで食べる予定だという。自分たちが蒔(ま)いた種が成長して、やがて実となり、それをみんなで食べることは大きな楽しみに違いない。  もう一つ行っていたのは業務体験ではなく、不要になった食器を海外に送り、利用してもらうボランティア活動だったが、こういった社会貢献も授業の一環として行っていると説明を受けた。  ボランティアといっても、ひび割れや欠けがないかの検品、食器の種類ごとの仕分け、個包装、段ボールへの荷詰めといった内容について、やり方を相談しながら、チームで作業している様子を見ると、実際の業務に通じる内容だと感じた。  またボランティアを行うメリットとして、「相手先からの感謝・お礼のコメントを頂戴するので、働くことの喜びを実感でき、就業への意欲が高まる」との話も聞くことができた。 最後に  今回の取材を通じて感じたのは、障がいのある生徒もない生徒も、ともに学ぶ「インクルーシブ教育」の一つの答えが名情専にはあるのではないかということだ。  名情専が「インクルーシブ教育」を方針に掲げているわけではなく、また専門課程では障がいのある生徒のみが選択できるコースもあるので必ずしもあてはまらないが、障がいのある生徒、ない生徒、障がいはないが悩み・課題を持つ生徒など、さまざまな生徒がともに学んでいる。  一般校でインクルーシブ教育を実践しようとすると、障がいのある生徒は「マイノリティ」で「ユニーク」な存在であるために、授業についていけない、配慮が行き届かない、いじめにあうなどの問題が生じるケースがあると聞くが、名情専では障がいのある生徒と、学習面や学校生活での課題を持つ生徒の比率が高いため、そういった生徒に合わせた授業・配慮も行え、学校生活上の問題も発生しにくい。  また、生徒たち自身が何かしら悩みや課題を持つ生徒がいることを理解し、勉強を教えるなど、互いに支え合う風土が根づいている。  学校側の対応も一人ひとりの個性・特性に配慮しながらサポートし、授業も情報処理などの専門スキルを身につける科目もありながら、普通教科目では基礎から学ぶことも行っている。  非常にたいへんではあるが、すばらしい取組みをされていると感心しきりであった。  最後に、障がいや不登校などを理由に進学を悩んでいる生徒は全国に多くいるので、このような学校がもっと増えることに期待したい。そうなれば、障がい者雇用の機会も多くなるはずである。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、金井委員の意向により「障がい」としています 写真のキャプション 学校法人名古屋学園名古屋情報専門学校 伊藤和明校長(写真提供:学校法人名古屋学園名古屋情報専門学校) 高等課程担当で教務科長の中川智晶先生 専門課程担当で教務主任の大西岳司先生 就職担当で進路指導主事の中西達也先生 「ジョブトレーニング」では、さまざまな業務体験を行う(写真提供:学校法人名古屋学園名古屋情報専門学校) ジョブトレーニングの一つ、パッキンをはめる作業(写真提供:学校法人名古屋学園名古屋情報専門学校) ジョブトレーニング室には、各業務で使用する器具が揃えられている 農作業体験で、できたカブを収穫する生徒(写真提供:学校法人名古屋学園名古屋情報専門学校) 専門課程の授業「画像編集」の様子 専門課程の授業「就職対策」の様子。電子黒板を活用している 高等課程「学習会」の様子 「ジョブトレーニング」の様子。小豆の選別作業 さやから小豆を取り出す 「ボランティア活動」では、食器の梱包を行っていた