【表紙】 令和6年1月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第556号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2024/2 No.556 特集 第43回 全国アビリンピック メダリストを訪ねて 〜第10回国際アビリンピック〜 挑戦の10年「努力する大切さ」自分のものに 英文ワープロ種目銀メダリスト・特別賞受賞 佐藤翔悟さん 編集委員が行く 特別支援学校におけるキャリア教育の推進による成果 京都市立東山総合支援学校(京都府) 「おいしいケーキを作るパティシエ」福岡県・香月(かつき)彩奈(さな)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 2月号 【巻頭・巻末】 第43回 全国アビリンピック 2023年11月17日(金)〜19日(日) 写真:官野貴・岩尾克治 写真のキャプション 会場となった「愛知県国際展示場」(Aichi Sky Expo) 「ビルクリーニング」 「喫茶サービス」 「オフィスアシスタント」 「義肢」 「木工」 「データベース」 「パソコン操作」 「写真撮影」 「電子機器組立」 「洋裁」 「パソコン組立」 「表計算」 「ホームページ」 「パソコンデータ入力」 「建築CAD」 「フラワーアレンジメント」 「製品パッキング」 「ネイル施術」 「家具」 「歯科技工」 「コンピュータプログラミング」 「DTP」 「縫製」 「ワード・プロセッサ」 「機械CAD」 「障害者ワークフェア2023」 技能デモンストレーション「ドローン操作」 技能デモンストレーション「物流ワーク」 閉会式は、各都道府県の選手らが参加する集合形式で行われた 入賞者に金メダルを授与するJEEDの輪島忍理事長 喜びであふれる「パソコンデータ入力」入賞者のみなさん 喜びに涙ぐむ「喫茶サービス」金賞の高橋夏姫さん 「ワード・プロセッサ」金賞の前川哲志さん。笑みがこぼれる 大村秀章愛知県知事が大会旗を引き継いだ JEEDの輪島忍理事長による主催者挨拶 次回開催地、愛知県の大村秀章知事による挨拶 挨拶する厚生労働省の岸本武史人材開発統括官 金メダリストの記念撮影 今大会での経験や講評が各選手の成長の糧となる 専門委員から講評を受ける選手 閉会式終了後には、競技種目ごとに講評が行われた 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2024年2月号 NO.556 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 特集 第43回 全国アビリンピック 障害のある人たちが日ごろつちかった技能を互いに競い合うことにより、その職業能力の向上を図るとともに、企業や社会一般の人々に障害のある人に対する理解と認識を深めてもらい、雇用の促進を図ることを目的とした「第43回 全国アビリンピック」が、2023(令和5)年11月17日(金)〜19日(日)に、愛知県で開催されました。その模様をお届けします。 グラビア 巻頭・巻末 写真:官野貴・岩尾克治 アビリンピックルポ 4 文:豊浦美紀/写真:官野貴・岩尾克治 入賞者一覧 12 メダリストを訪ねて 〜第10回国際アビリンピック〜 14 第2回 挑戦の10年「努力する大切さ」自分のものに 英文ワープロ種目銀メダリスト・特別賞受賞 佐藤翔悟さん 文:豊浦美紀/写真:官野貴 JEEDインフォメーション 18 令和6年度「障害者雇用納付金」申告および「障害者雇用調整金」等申請のお知らせ エッセイ 19 印象深い海外の視覚障害者 第1回 アンゲリーカ・ドクヴィッツ(ドイツ) 日本点字図書館 会長 田中徹二 編集委員が行く 20 特別支援学校におけるキャリア教育の推進による成果 京都市立東山総合支援学校(京都府) 編集委員 菊地一文 省庁だより 26 農福連携の推進について 農林水産省 農村振興局 都市農村交流課 ニュースファイル 28 編集委員のひとこと 29 掲示板・次号予告 30 JEEDメールマガジン登録受付中! ※「心のアート」、「クローズアップ」、「研究開発レポート」は休載します 表紙絵の説明 「小学生のころからパティシエになりたいと思っていました。ケーキをつくって、たくさんの人を笑顔にしたいです。白いところが多くてむずかしかったけれど、青や黄をまぜて区別しました。受賞を聞いたときは、自分が選ばれると思っていなかったのでびっくりしました」 (令和5年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 中学校の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P4-11】 特集 第43回 全国アビリンピック 11月17・18・19日  「第43回全国障害者技能競技大会(全国アビリンピック)」が2023(令和5)年11月17日(金)〜19日(日)、「第61回技能五輪全国大会」とともに愛知県常とこ滑なめ市の愛知県国際展示場で開催された。全国から集まった選手369人が25種目の技能競技に参加したほか、2職種の技能デモンストレーションが実施され、応援や見学のために多くの人たちも訪れた。  また会場には、「第11回国際アビリンピック」が2027年5月にフィンランド共和国のヘルシンキ市で開催されることを伝える看板なども設置され、来場者の関心を集めていた。 文:豊浦美紀/写真:官野貴・岩尾克治 11月17日(金) 開会式  第61回技能五輪全国大会との合同開会式はウェブ配信形式で行われた。愛知県立愛知総合工科高等学校音楽部による国歌斉唱では、「建築CAD」種目に出場する天野(あまの)寛隆(ひろたか)さん(愛知県)がピアノ伴奏を務めた。続いて武見(たけみ)敬三(けいぞう)厚生労働大臣がビデオメッセージで「(この大会が)障害のある方々の職業能力向上に向けた高い意欲や技能に対し、国民の理解を深める大きな契機となると確信しています」などと挨拶し、大会会長である当機構(JEED)の輪島(わじま)忍(しのぶ)理事長が「1972(昭和47)年から開催されてきたアビリンピックは昨年50周年、日本から始まった国際アビリンピックは今年10回目を迎えました。選手のみなさんには、都道府県の代表としての誇りを胸に、これまで職場や学校などで磨き上げた技をいかんなく発揮していただくことを期待します」などと激励した。  大会旗の入場でアビリンピック大会旗の旗手を務めたのは、「ビルクリーニング」種目に出場する澤井(さわい)翔(しょう)さん(東京都)。選手宣誓では、「喫茶サービス」種目に出場する青山(あおやま)杏梛(あんな)さん(東京都)が、技能五輪の選手とともに「われわれ選手一同は、職場の指導者、仲間、そして家族への感謝を胸に、全国大会という晴れの舞台で日々つちかった技能を最大限に発揮し、正々堂々と競い合うことを誓います」と表明した。 11月18日(土) 競技紹介 選手・関係者の声 ●ビルクリーニング/喫茶サービス/オフィスアシスタント/製品パッキング  「ビルクリーニング」は、カーペット床の清掃(7分)(※1)、弾性床(だんせいゆか)の清掃と机上清掃(10分)の2課題。勤務先の制服姿で競技に臨んだ片岡(かたおか)徹(とおる)さん(徳島県)は、ビルメンテナンス会社に入社して6年目。同行の上司は「県庁知事室のお手洗いの清掃も任せられるほど信頼しています」という。そして片岡さんは、競技後に「最初は少しあわてましたが、最後までやり切りました」とふり返っていた。  「喫茶サービス」は、会場内の模擬喫茶店で3人程度のグループごとに接客サービスを行う(1グループ約60分)。お客さまの立場に立った正確かつスムーズなサービスを目ざす。高橋(たかはし)夏姫(なつき)さん(大分県)は、社会福祉法人が運営するカフェでホールを担当。「これまでの反省点を見直し、積極的に動いていきたいです」と語っていた高橋さんは、念願の金賞受賞を果たした。  「オフィスアシスタント」は、配布物の準備として書類とポケットティッシュ、付箋を手さげ袋に入れる作業(15分)、発送書類の封入(30分)、社内便の仕分け(10分)の3課題。鎮目(しずめ)英美理(えみり)さん(山梨県)は、食品関連の会社で食材を詰める仕事をしている。「昨年、訓練校ですすめられてアビリンピックに初挑戦しました。競技は最後までがんばりたい」と話してくれた。同じく初出場の平田(ひらた)梨沙(りさ)さん(奈良県)は調理器具の洗浄業務などの仕事をしていたが、ほかの仕事に挑戦したいと、現在は県立高等技術専門校で学んでいる。競技前に「アビリンピックの経験を活かして事務職に就きたい」と意気込んでいた。  「製品パッキング」は、緩衝材の組立て・結束25セット(30分)、小箱・中箱・化粧箱・外箱の組立て・組込・セットアップ4梱包(60分)の2課題だ。機器メーカーに勤める松浦(まつうら)健太郎(けんたろう)さん(山形県)は、昨年は地方アビリンピック山形大会独自競技の「製品パッキング(初級)」で実績を残し、今年は地方大会を勝ち抜き、全国大会出場を果たした。「時間内に終えられるようがんばりたい」と話す松浦さんのそばで、上司は「職場で本人の担当は部品の袋詰めですが、アビリンピック挑戦で自信をつけ、社内周知や業務拡大につなげていけたら」と話していた。宇野(うの)智貴(ともたか)さん(岐阜県)は、職場では帳票の管理や送付の作業を担当。競技後に「前回よりていねいさを心がけて取り組みました。メダルをとりたいです」と話していた通り、銀賞を受賞した。 ●ワード・プロセッサ/パソコンデータ入力/パソコン操作/表計算  「ワード・プロセッサ」は、ワープロソフトを使い、作成見本と作業指示書を見ながら和文文書の作成(80分)と英文文書の作成(60分)を行う。志水(しみず)馨(かおる)さん(岐阜県)は、特別支援学校時代はパソコン部に所属し、いまは地方銀行の特例子会社で働いて4年目。職場では書類の電子化業務を担当している。競技後「余白の“マージン”という言葉や図形の組合せ方がわからず戸惑いましたが、自分の課題も見つけられて勉強になりました」と満足そう。応援に来ていた同社の社長は「2年前から会社としてアビリンピック挑戦を支援し、今回10人が手をあげました。練習を通して自ら学ぶことも多いようです」と話し、また、「日ごろから彼らの能力の高さに驚かされています。今日応援に来ている社員たちは、さまざまな競技を見て感じることもあるはずです」と語った。  そして競技終了後、第10回国際アビリンピック(※2)「英文ワープロ」種目銀メダリストで、特別賞受賞者の佐藤(さとう)翔悟(しょうご)さんによる実演も披露された(※3)。  知的障害のある選手が対象の「パソコンデータ入力」は、アンケート入力、書類とパソコン画面上のデータを見比べたうえでの文書修正、表計算ソフトを使った帳票等作成の3課題(各30分)で、速さと正確さを競う。大原(おおはら)尚史(なおふみ)さん(滋賀県)は、入社7年目の会社でデータ入力や事務補助業務を担当し、上司のすすめでアビリンピックに挑戦し始めたという。「アビリンピックは全国のレベルがわかると同時に、ほかの競技も見ることができて勉強になります」と前向きに話していた。  視覚障害のある選手が対象の「パソコン操作」は、パソコン画面情報読み上げソフトや拡大読書器などの支援機器を活用し、表データの修正・加工や差込文書機能の利用、プレゼンテーションソフトによる資料作成など4課題(90分)。石K(いしぐろ)知頼(ともより)さん(新潟県)は、入社7年目の特例子会社で20人ほどに仕事をふり分けるリーダー役。アビリンピックには盲学校時代から挑戦してきた。競技後、「見た目を意識して取り組みました。今後もアビリンピックでの経験を活かしていきたいです」と語っていた。  「表計算」は、表計算ソフトを使用し、表の装飾・編集、関数式による表の完成、データ処理およびグラフ作成を行い、総合的なスキルを競う(75分)。下田(しもだ)康幸(やすゆき)さん(群馬県)は、職場では集計業務などを担当。「毎回ひねりがきいている課題が出る全国アビリンピックで、自分の足りない部分を認識します。若い世代を指導する年齢と立場ですが、自己研鑽(けんさん)は続けていきたいです」と語っていた。 ●DTP/データベース/ホームページ/コンピュータプログラミング  「DTP」の課題は、観光業界における「マイクロツーリズム」という新しいムーブメントをテーマに、アフターコロナの時代に消費者の興味を喚起するリーフレット(表面カラー・裏面モノクロ)の作成(3時間30分)。4回目の挑戦で全国アビリンピック出場を決めたという菅野(かんの)雄喜(ゆうき)さん(宮城県)は、競技前「説明会で審査員にわからない部分を教えてもらい安心しました。自分のペースでがんばりたいです」と意気込んでいた。お子さんを抱っこした夫に応援されていた井門(いど)明日香(あすか)さん(愛媛県)は、前回の全国アビリンピック銀賞受賞を機に転職、希望していたDTPオペレーターとして働いているそうだ。「今回は持ち込めるデータ素材が限られ、本番でどれだけ描けるかがポイントでした。得意のイラストを活かしました」と話していた。  「データベース」は、雑貨販売店における売上を管理する「売上管理システム」を指定された10の課題に沿って作成する(3時間)。小林(こばやし)隆誠(りゅうせい)さん(愛知県)は、会社でデータ入力やシステムを組む仕事などを担当。職場の上司が「社内では『先輩が出たなら私も』などとアビリンピック挑戦者が増え、今回の地方大会は約15人です。練習しながら効率的な作業にもつながるなど、よい影響も広がっています」と語っていた小林さんは、金賞を受賞した。  「ホームページ」は、「観光農園に関するホームページ作成」をテーマとする課題(4時間30分)。事前課題として作成・提出した作品に対し、当日新たに提示された要件・仕様に沿って制作する。三浦(みうら)寿規(としき)さん(宮城県)は、脊椎(せきつい)損傷による重度の身体障害があり寝たきりだが、競技会場では、目の前に固定された棒状のスイッチを口先で触れながら器用にパソコンを操作していた。約8年前から就労継続支援B型事業所で週3日、1日4時間の在宅勤務をしている。同行していた関係者によると「すばらしい実力の持ち主で、企業のホームページなどを制作しています」という。母親は「以前から働きたいといっていて、事業所で本格的にプログラミングなどを習得したようです。アビリンピックに出たいという本人の強い意思で、ここまで無事にやってこられました」。「この仕事が好きです」と答えてくれた三浦さんは、努力賞を獲得した。  「コンピュータプログラミング」は、ロボットの動きを指示するプログラムを作成し、動きの指示のしやすさや動作確認の機能、ロボットを動かしたときの正確さや速さを競う(6時間)。稲葉(いなば)洋介(ようすけ)さん(東京都)は、第三セクター企業でパソコンの研修指導をしている。「同僚に仕事を肩代わりしてもらいながら準備をしてきましたが、本番では仕様が違う点も多く苦労しました。アビリンピックには、今後も挑戦したいですね」と語っていた。 ●機械CAD/建築CAD/電子機器組立/パソコン組立  「機械CAD」の課題は、「リフト機構」の部品図と組立図、軸測投影法による組立図と立体分解図の作成(3時間10分)。IT職業訓練センターに通う東(ひがし)蒼一郎(そういちろう)さん(熊本県)は、「ソフトが違うこともあり、むずかしかったですね」と話す一方で、「機械CADを扱う職場で働くことになったので、仕事に慣れたらまた挑戦してみたいです」と意欲を見せた。  「建築CAD」は、集合住宅を目的とした鉄筋コンクリート造3階建てビルの図面(縮尺1/100の平面図、立面図、断面図)をA3用紙2枚に仕上げる(3時間30分)。割石(わりいし)崇寛(たかひろ)さん(栃木県)は、多機能型事業所で2年前から建築CADの勉強を始めた。事業所の関係者によると、「体調を崩して中断することもありましたが、アビリンピックを目標に強い意思でがんばってこられました」という。割石さんは競技後、「こんなに限られた時間で手がけたことがなく、たいへんでしたが、今後もスキルアップしていきます」と答え、努力賞を受賞した。  「電子機器組立」の課題は、省エネコントローラーの組立て(4時間)。なかでも「はんだ付け」作業は、機器の信頼性に影響をおよぼす重要な部分だという。埼玉県にある、JEEDが運営する国立職業リハビリテーションセンターで学ぶ浅野(あさの)壱哲(いってつ)さん(埼玉県)は、競技後に「完成させることができず、準備不足と実力不足を痛感しましたが、こうした経験を活かして就職にもつなげていきたいです」と話していた。  「パソコン組立」は、デスクトップ型パソコンの指定された部品を取り外し、メンテナンス作業後に組み立て直して、ソフトウェアのインストールや設定を行う(4時間)。島田(しまだ)静香(しずか)さん(北海道)は、NPO法人が運営するパソコン教室で教えたりパソコン検品などを担当したりしている。4回目の全国アビリンピックだが「じつはCPUファンの組立てが苦手で、今日もつまずいています。少しでも完成に近づけるようがんばります」と気持ちを奮い立たせていた。 ●歯科技工/義肢/家具/木工  「歯科技工」は前回大会から、歯科医療業界で多く使われているソフトを使った競技になっている。課題は、2種類のデジタルカービング(各2時間30分)だ。小林(こばやし)正典(まさのり)さん(千葉県)は、全国アビリンピックで銀賞受賞経験もあるベテラン。競技後「今回は課題内容が想定外でむずかしかったです。歯科技工もデジタル化になりつつあるので、今後もスキルアップに努めていきたいです」と答えてくれた。  「義肢」の課題は、繊維強化プラスチック製の「下腿義足ソケット」の製作(4時間15分)。7年ぶりの全国アビリンピックという武内(たけうち)啓(あきら)さん(愛知県)は13年前、交通事故で義足となったのを機に義肢装具士となった。参加選手は1人で孤軍奮闘のなか「実力は出し切ったと思います」と話していた武内さんは、見事金賞を受賞した。  「家具」の課題は、花台の製作(5時間30分)。板と板、角材と角材の接合をいかに正確に加工できるかが重要だ。参加選手は、聾(ろう)学校に通う奥野(おくの)大和(やまと)さん(長崎県)と、同校OBで船舶装備会社に勤める田中(たなか)匠貴(しょうき)さん(長崎県)の2人。競技後、奥野さんは「朝早く学校に行って練習してきました。時間オーバーでしたが楽しかったです。来年も出て1位になれるようがんばりたいです」、田中さんは「仕事でバタバタして練習時間が足りないと思い努力しました。課題内容は勉強になりました。来年も出て、国際大会を目ざしたいです」と、それぞれ思いを伝えてくれた。  知的障害のある選手が参加する「木工」の課題は、「蓋(ふた)付き木箱」の製作(5時間)。のこぎり、のみ、かんななどの手工具を使いこなして洗練された製品づくりを競う。斉藤(さいとう)大地(だいち)さん(北海道)は、手先を使った作業が得意で、就労継続支援B型事業所では木のおもちゃのやすりがけを担当。「作業台の高さが変わるだけで、微妙にむずかしくなりますね。ふた部分は練習より早くできた分、油断して箱の作業が遅れました。作業所でもおもちゃをつくるようになりたいです」と語っていた斉藤さんは、銀賞入賞を果たした。 ●洋裁/縫製/フラワーアレンジメント/ネイル施術/写真撮影  「洋裁」の課題は、薄手ウールを使ったオーダー仕立ての「オーバーブラウス」の製作(6時間)。支給される粗裁(あらだ)ちした布地を使い、裁断から芯貼り、印付け、本縫いミシン、アイロン、ロックミシンの順で作業を進める。小濱(おばま)望(のぞみ)さん(鹿児島県)は、昨年は障害者職業能力開発校から全国アビリンピックに出場した後、義肢製作所に就職。職場もアビリンピック出場への理解があるそうだ。「練習では余裕があったのに、本番では慎重になってしまいました」と話していた小Mさんだが、金賞に輝いた。  「縫製」の課題は、エプロンの縫製で、配付された9枚のパーツをミシンやアイロンなどを使って完成させる(4時間)。銅賞入賞の経験もある前田(まえだ)章江(あきえ)さん(熊本県)は、社会福祉法人が運営する作業所に通いながら、好きな縫製でアビリンピックに挑戦し続けてきた。競技後、「最後まで完成できましたので、とてもよかったです。またがんばります」と笑顔で話していた。  「フラワーアレンジメント」は花束、花嫁のブーケ、会場装飾(ワンサイドアレンジメント)に、今回から新たにサプライズ競技を加えた4課題(60分・60分・45分・45分)となった。不動産関連会社に勤める井口(いぐち)健太郎(けんたろう)さん(東京都)は、就労継続支援B型事業所で始めたフラワーアレンジメントを個人的に学び続け、いまは顧客に贈る花をつくる部署のリーダー役だ。「前回大会の講評でいわれた“滝の流れのように”というブーケのつくり方を、教室の先生に教えてもらいました」とふり返った井口さんは、銅賞を獲得。同行した先生は「彼は子ども向けの教室で教える立場でもあり、そこに通う障害のある子どもたちにも夢を与える存在です」とたたえていた。  「ネイル施術」は、ネイルケアとカラーリング(75分)、ネイルチップアート(70分)の2課題。宮城県代表の及川(おいかわ)晴菜(はるな)さんと河邊(かわべ)由菜(ゆな)さんは、私立特別支援学校の3年生だ。授業でネイルや着付けなどを学んでいるという。及川さんは「いままでにないぐらい集中しました。練習通りにできて満足です」、河邊さんは「緊張しましたが、イラストを描くのは楽しかったです」と笑顔を見せてくれた。  「写真撮影」は、愛知県国際展示場で開催されるアビリンピックを、パンフレットやホームページ上で紹介することを想定した魅力的な写真を撮影し、6枚を選択してプリントする(4時間)。聴覚障害のある福田(ふくだ)孝二(こうじ)さん(鳥取県)は、勤務先である県警本部の広報関連部署で一眼レフカメラを使って仕事をしているそうだ。「前日のオリエンテーションで内容を理解し、にぎわっていた展示場内外では、みなさんに親切にしていただいて撮影できました」と答えてくれた。 ●技能デモンストレーション物流ワーク/ドローン操作  前回に続き披露された「物流ワーク」は、国立職業リハビリテーションセンターのアシスタントワーク科に通う3人が参加した。倉庫の棚にストックしてある品物を指示書通りに選び出し、折りたたみコンテナに詰める。さらに納品物が伝票通りかを確認して店内の棚に補充するという流れだ。地方アビリンピック埼玉大会では以前から独自競技として実施している。担当者によると「コンビニやスーパー、ドラッグストアでの品出し作業を想定した訓練を重ね、就職につなげています」という。昨年のデモンストレーションでは「うちの県でもやってみたい」という関係者もいたそうだ。  一方、今回初めての「ドローン操作」は、建築物の点検業務を想定し、高い場所や操縦者から見えない位置に設置された複数の対象物をドローンで見つけて撮影し、位置を把握するという内容。デモンストレーションを実施した、岡山県にあるJEEDが運営する国立吉備高原職業リハビリテーションセンターの指導員は「ドローン操作の訓練は昨年から始め、撮影や設備点検関連の仕事に活かしてもらう予定です」と説明する。技を披露してくれた中山(なかやま)友希(ゆうき)さんは「初めてドローン操作を学んでいますが、楽しいです」と話してくれた。 ●障害者ワークフェア2023  競技エリアの隣接フロアで開催された「障害者ワークフェア2023〜働く障害者を応援する仲間の集い〜」は、アビリンピックの一環として開催しており、障害のある人の職業能力や雇用に関する展示・実演などを通して来場者に理解と認識を深めてもらうことが目的。今年は91団体・事業所などが、「能力開発エリア」、「就労支援エリア」、「職場紹介エリア」、「特設コーナー」にそれぞれ出展したほか、特設ステージでは出展者の紹介や実演、トークセッションなどが開催された。  トークセッションでは、第10回国際アビリンピック「歯科技工」種目金メダリストである中川(なかがわ)直樹(なおき)さん(※4)、東京2020パラ五輪のパラバドミントン金メダリストの山崎(やまざき)悠麻(ゆま)さん、里見(さとみ)紗李奈(さりな)さんらが、「挑戦」をテーマに意見を交わした。 11月19日(日) 閉会式  閉会式には、前日熱戦をくり広げた大勢の選手たちが参加。厚生労働省の岸本(きしもと)武史(たけし)人材開発統括官の挨拶に続き、成績発表と表彰式が行われた。競技種目ごとに努力賞・銅賞・銀賞・金賞の受賞者が発表され、ステージ上の表彰台では、大きな拍手とともに受賞者にメダルが授与された。  次回大会開催地である愛知県の大村(おおむら)秀章(ひであき)知事が、大会旗の引継ぎ後に挨拶。最後に、JEEDの輪島忍理事長がアビリンピックのマスコットキャラクター「アビリス」とともに登壇し、「2027年にフィンランドのヘルシンキにおいて第11回国際アビリンピックを開催することが決まりました。JEEDにおいても国際アビリンピックに向けて国内大会の充実を図っていきます」などと締めくくった。閉会式終了後は、専門委員による講評の場が設けられ、アドバイスを求める選手たちの長い列ができていた。 金賞受賞者たちの喜びの声  「洋裁」の小濱(おばま)望(のぞみ)さん(鹿児島県)は、「念願の金賞をいただけたことが、とってもうれしいです。まだまだ足りない知識や技能があるとわかったので、今後も勉強していきながら、国際大会を目ざしたいです」。  「DTP」の石川(いしかわ)小百合(さゆり)さん(東京都)は2回目の全国大会。IT企業の印刷部署で働いているという。「実感がわかないのですがありがたいです。今後も仕事に活かしていきながら、国際大会に行けたらと思っています」。  「機械CAD」の植村(うえむら)晃(あきら)さん(愛知県)は、職場でもCADの管理業務にたずさわる。「これまで何回も参加してきたので、すごくうれしいです。経験を活かしてさらにスキルアップしながら国際大会への出場も目ざしていきたいです」。  「建築CAD」の天野(あまの)寛隆(ひろたか)さん(愛知県)は、2回の銀賞からの金賞。「とてもうれしいです。つちかってきたスキルを仕事にも活かしていきます。アビリンピックという目標に向けてがんばることができました。今後は違う種目にも挑戦してみたいです」。  「電子機器組立」の岡本(おかもと)是信(これのぶ)さん(愛知県)は、勤務先である自動車部品メーカーの先輩が昨年、金賞を受賞。自身も初出場での快挙に「目標を達成することができてよかったです。これからも精進してがんばっていきたいです」。  「義肢」の武内(たけうち)啓(あきら)さん(愛知県)は、「私自身が義足になった後、この競技に挑戦し続けてきました。しっかりと結果を出すことができてよかったです。まだ研鑽すべき部分もあるのでがんばりながら、国際大会も目ざします」。  「歯科技工」の村むら上祐(かみゆう)太郎(たろう)さん(千葉県)は、「前大会でメダルなしに終わった反省をふまえながら練習をしてきた結果、念願の金メダルを手にすることができ、うれしく思います。これまで支えてくださった方々に恩返しができるようにがんばりたいと思います」。  「ワード・プロセッサ」の前川(まえかわ)哲志(さとし)さん(長野県)は、「前回銀賞の反省から、段取りも考え正確に取り組むようにしました。ようやく金賞がとれ、うれしいです。今後も障害のある方たちの活躍を多くの人にも知ってもらえるといいと思います」。  「データベース」の小林(こばやし)隆誠(りゅうせい)さん(愛知県)は、銅賞、銀賞からの金賞。「すごくうれしいです。職場でバックアップをしてもらいつつ自宅でも練習してきました。データベースは出場者が多くないので、もっと門戸が広がってほしいですね」。  「フラワーアレンジメント」の神田(かんだ)優花(ゆうか)さん(愛知県)は、努力賞からのジャンプアップ。「出身の聾学校の後輩たちにも、努力が結果につながることを示すことができました。アビリンピックは、いろいろな人に技能を知ってもらえるきっかけになります」。  「コンピュータプログラミング」の角田(かくた)智活(ともかつ)さん(青森県)は、「成果を評価してもらいうれしいです。改善点も承知しているので、精進して高みを目ざします。アビリンピックがもっと知られて、多くの選手が挑戦できる大会になればいいと思います」。  「ビルクリーニング」の伊藤(いとう)直明(なおあき)さん(北海道)は、勤務先ではオフィスビルの清掃業務を担当し、3回目の挑戦で初の全国大会。「いままでの練習の成果を出せたことがよかったのかなと思います。たくさんの後輩たちにも教えていきたいです」。  「製品パッキング」の佐久間(さくま)慶人(けいと)さん(宮城県)は、製造の前加工の作業を担当。昨年金賞だった会社の先輩から助言ももらった。「本当にうれしいです。職場でもパッキング作業があるので、この経験を活かしてがんばっていきたいです」。  「喫茶サービス」の高橋(たかはし)夏姫(なつき)さん(大分県)は、あふれる涙をぬぐいながら「長く挑戦してきて挫折しそうになりましたが、上司が『それでいいの?』とやさしく諭さとしてくれて金賞がとれました。あきらめずに続けてよかったです」。  「オフィスアシスタント」の菊田(きくた)真弓(まゆ)さん(愛知県)は、職場ではメール便業務を担当。「練習は辛いときもありましたが、アビリンピックに挑戦する仲間たちとがんばれました。今後は後輩たちを指導しながら、品質向上に努めていきたいです」。  「表計算」の風晴(かぜはれ)岬(みさき)さん(青森県)は、職場の同僚たちの寄せ書きの旗を手に喜びをかみしめていた。「銅賞、銀賞を経ていたので金賞を狙っていましたが本当にとれてうれしいです。職場の仕事に活かしていきます」。  「ネイル施術」の坂角(さかずみ)ゆかりさん(東京都)は、「前回の銀から金になって感無量です。競技中も含め、これまで応援してくれた職場のみなさんのおかげだと思っています。今後もスキルアップしながら国際大会を目ざしてがんばりたいです」。  「写真撮影」の小林(こばやし)梨乃(りの)さん(北海道)は、特別支援学校で美術部に所属し、趣味で鳥の写真などを撮っているという。「この経験を今後の写真活動にも役立てたいです。見てくれる人に、思いが伝わるような写真を撮り続けていきたいです」。  「パソコン組立」の坂根(さかね)武史(たけし)さん(島根県)は、就労継続支援B型事業所で中古パソコンの整備や修理を担当。「私は30歳を過ぎてから始めて5年半です。みなさんにも、年齢を気にせずにどんどんチャレンジしてほしいですね」。  「パソコン操作」の糸野(いとの)海生(かいき)さん(埼玉県)は、臨床心理士などの資格を持ち、今後は就労支援の現場でカウンセラーとして働くそうだ。「アビリンピックを目ざすプロセスのなかで大きな学びがありました。よい機会をありがとうございました」。  「パソコンデータ入力」の古澤(ふるさわ)俊則(としのり)さん(千葉県)は、職場ではデータ入力や名刺作成などの業務を担当。「時間内に正確に入力することができ、金賞がとれてよかったです。これからも長く会社で働き続けていきたいです」。  「木工」の宮ア(みやざき)裕史(ゆうじ)さん(熊本県)は、多機能型事業所で木製雑貨などをつくっている。「うれしいです」と満面の笑みを見せる本人のそばで、母親は「これまで何度も挑戦し、本番で緊張してうまくいかないことが多かったのですが、今回は驚くほど落ち着いて取り組めたようです」と喜びを分かち合っていた。 ※1 課題内容後の( )内の時間は、競技時間をさします ※2 本誌2023年6月号で「第10回国際アビリンピック」を特集しています。https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/202306.html ※3 今号の「メダリストを訪ねて」(14〜17ページ)は、佐藤さんにご登場いただいています。ご一読ください ※4 本誌2023年11月号「メダリストを訪ねて」で、中川さんをご紹介しています。https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202311/index.html#page=4 写真のキャプション 会場となった「愛知県国際展示場」 アビリンピック大会旗の旗手を務めた澤井翔さん(左から2人目)(「第61回技能五輪全国大会・第43回全国アビリンピック合同開会式」公式動画より) 選手宣誓を行った青山杏梛さん(右)(「第61回技能五輪全国大会・第43回全国アビリンピック合同開会式」公式動画より) 「オフィスアシスタント」平田梨沙さん(奈良県) 「オフィスアシスタント」鎮目英美理さん(山梨県) 「喫茶サービス」金賞、高橋夏姫さん(大分県) 「ビルクリーニング」片岡徹さん(徳島県) 「製品パッキング」銀賞、宇野智貴さん(岐阜県) 「製品パッキング」松浦健太郎さん(山形県) 「ワード・プロセッサ」志水馨さん(岐阜県) 第10回国際アビリンピック「英文ワープロ」銀メダリストの佐藤翔悟さんによる実演 「パソコンデータ入力」大原尚史さん(滋賀県) 「DTP」井門明日香さん(愛媛県) 「DTP」菅野雄喜さん(宮城県) 「表計算」下田康幸さん(群馬県) 「パソコン操作」石K知頼さん(新潟県) 「電子機器組立」浅野壱哲さん(埼玉県) 「建築CAD」努力賞、割石崇寛さん(栃木県) 「ホームページ」努力賞、三浦寿規さん(宮城県) 「データベース」金賞、小林隆誠さん(愛知県) 「パソコン組立」島田静香さん(北海道) 「コンピュータプログラミング」稲葉洋介さん(東京都) 「歯科技工」小林正典さん(千葉県) 「機械CAD」東蒼一郎さん(熊本県) 「義肢」金賞、武内啓さん(愛知県) 「家具」奥野大和さん(長崎県) 「洋裁」金賞、小M望さん(鹿児島県) 「木工」銀賞、斉藤大地さん(北海道) 「家具」田中匠貴さん(長崎県) 「ネイル施術」宮城県代表の及川晴菜さん(左)と河邊由菜さん(右) 「写真撮影」福田孝二さん(鳥取県) 「フラワーアレンジメント」銅賞、井口健太郎さん(東京都) 「縫製」前田章江さん(熊本県) 技能デモンストレーション「物流ワーク」 技能デモンストレーション「ドローン操作」中山友希さん 「障害者ワークフェア2023」 第10回国際アビリンピック「歯科技工」種目金メダリストの中川直樹さんらが参加したトークセッション みなさん、おめでとうございます! 「建築CAD」金賞、天野寛隆さん(愛知県) 「機械CAD」金賞、植村晃さん(愛知県) 「DTP」金賞、石川小百合さん(東京都) 「洋裁」金賞、小M望さん(鹿児島県) 「ワード・プロセッサ」金賞、前川哲志さん(長野県) 「歯科技工」金賞、村上祐太郎さん(千葉県) 「義肢」金賞、武内啓さん(愛知県) 「電子機器組立」金賞、岡本是信さん(愛知県) 「ビルクリーニング」金賞、伊藤直明さん(北海道) 「コンピュータプログラミング」金賞、角田智活さん(青森県) 「フラワーアレンジメント」金賞、神田優花さん(愛知県) 「データベース」金賞、小林隆誠さん(愛知県) 「表計算」金賞、風晴岬さん(青森県) 「オフィスアシスタント」金賞、菊田真弓さん(愛知県) 「喫茶サービス」金賞、高橋夏姫さん(大分県) 「製品パッキング」金賞、佐久間慶人さん(宮城県) 「パソコン操作」金賞、糸野海生さん(埼玉県) 「パソコン組立」金賞、坂根武史さん(島根県) 「写真撮影」金賞、小林梨乃さん(北海道) 「ネイル施術」金賞、坂角ゆかりさん(東京都) 「木工」金賞、宮ア裕史さん(熊本県) 「パソコンデータ入力」金賞、古澤俊則さん(千葉県) 【P12-13】 第43回全国アビリンピック 入賞者発表!  愛知県国際展示場(愛知県常滑市)において、2023(令和5)年11月17日(金)から19日(日)までの3日間にわたり開催した「第43回全国障害者技能競技大会(全国アビリンピック)」。今大会は、全25種目の技能競技に47都道府県から369人の選手が集い、日ごろつちかった技能を競い合うとともに、障害者ワークフェアも開催し、多数の来場者を迎え盛大な大会となりました。  今大会の入賞者を以下の通り決定し、表彰を行いました。 金賞 洋裁 小M(おばま)望(のぞみ) 鹿児島県株式会社中礼義肢製作所 DTP 石川(いしかわ)小百合(さゆり) 東京都富士ソフト企画株式会社 機械CAD 植村(うえむら)晃(あきら) 愛知県新東工業株式会社 建築CAD 天野(あまの)寛隆(ひろたか) 愛知県愛知玉野情報システム株式会社 電子機器組立 岡本(おかもと)是信(これのぶ) 愛知県株式会社デンソー 義肢 武内(たけうち)啓(あきら) 愛知県有限会社中部義肢 歯科技工 村上(むらかみ)祐太郎(ゆうたろう) 千葉県地方独立行政法人総合病院国保旭中央病院歯科・歯科口腔外科 ワード・プロセッサ 前川(まえかわ)哲志(さとし) 長野県信州ビバレッジ株式会社 データベース 小林(こばやし) 隆誠(りゅうせい) 愛知県中電ウイング株式会社 フラワーアレンジメント 神田(かんだ)優花(ゆうか) 愛知県デンソーテクノ株式会社 コンピュータプログラミング 角田(かくた)智活(ともかつ) 青森県特定非営利活動法人team. Step by step N-STAGE ビルクリーニング 伊藤(いとう)直明(なおあき) 北海道東京美装北海道株式会社 札幌支店 製品パッキング 佐久間(さくま)慶人(けいと) 宮城県セコム工業株式会社 喫茶サービス 高橋(たかはし)夏姫(なつき) 大分県社会福祉法人博愛会 cafe Charite オフィスアシスタント 菊田(きくた)真弓(まゆ) 愛知県株式会社デンソーブラッサム 表計算 風晴(かぜはれ)岬(みさき) 青森県株式会社みちのく銀行 ネイル施術 坂角(さかずみ)ゆかり 東京都株式会社JALサンライト 写真撮影 小林(こばやし)梨乃(りの) 北海道北海道函館高等支援学校 パソコン組立 坂根(さかね)武史(たけし) 島根県障害者就労支援B型事業所 PCエコステーションゆうあい パソコン操作 糸野(いとの)海生(かいき) 埼玉県国立職業リハビリテーションセンター パソコンデータ入力 古澤(ふるさわ)俊則(としのり) 千葉県株式会社舞浜コーポレーション 木工 宮ア(みやざき)裕史(ゆうじ) 熊本県社会福祉法人アバンセ カサ・チコ 銀賞 洋裁 松本(まつもと)弥生(やよい) 熊本県 DTP 三澤(みさわ)有香(ゆか) 長野県社会福祉法人ながのコロニー 長野福祉工場 建築CAD 木村(きむら)信隆(のぶたか) 千葉県三菱ケミカルエンジニアリング株式会社 電子機器組立 横内(よこうち)庄一(しょういち) 長野県エプソンミズベ株式会社 歯科技工 吉見(よしみ)朗(あきら) 鹿児島県鹿児島障害者職業能力開発校 ワード・プロセッサ 鈴木(すずき)誉(ほまれ) 三重県日東ひまわり亀山株式会社 ワード・プロセッサ 一野(いちの)翔太郎(しょうたろう) 熊本県障がい者IT職業訓練センター データベース 米田(よねだ)涼子(りょうこ) 福岡県進和興産株式会社 フラワーアレンジメント 兼松(かねまつ)利江(りえ) 静岡県UTハートフル株式会社 船橋オフィス ビルクリーニング 大西(おおにし)彩音(あやね) 神奈川県株式会社日立ゆうあんどあい 製品パッキング 宇野(うの)智貴(ともたか) 岐阜県株式会社OKBパートナーズ 製品パッキング 匂坂(さぎさか)まどか 愛知県中電ウイング株式会社 製品パッキング 山本(やまもと)愛斗(まなと) 鳥取県ヤマト運輸株式会社 倉吉営業所 喫茶サービス 佐々木(ささき)由美子(ゆみこ) 岩手県株式会社一歩 カフェアンパス 喫茶サービス 妹尾(せお)翔(かける) 島根県松江ニューアーバンホテル 喫茶サービス 海野(うみの)琉凪(るな) 鹿児島県鹿児島障害者職業能力開発校 オフィスアシスタント 小和田(こわだ)竜央(たつひろ) 宮城県東北電力フレンドリー・パートナーズ株式会社 オフィスアシスタント 高張(たかはり)美玖(みく) 神奈川県株式会社日立ゆうあんどあい 表計算 山本(やまもと)勇(いさむ) 栃木県株式会社栃木銀行 表計算 石田(いしだ)圭佑(けいすけ) 島根県佐川急便株式会社 松江営業所 ネイル施術 一木(いちき)侑子(ゆうこ) 東京都野村不動産ライフ&スポーツ株式会社 写真撮影 平澤(ひらさわ)実桜(みお) 山形県特定非営利活動法人輝きネットワーク メディアかがやき 写真撮影 清水(しみず)武志(たけし) 千葉県株式会社舞浜コーポレーション パソコン組立 篠原(しのはら)嘉鶴馬(かずま) 神奈川県富士ソフト企画株式会社 パソコン操作 藤戸(ふじと)雅也(まさや) 岩手県岩手県庁 ふるさと振興部調査統計課 パソコンデータ入力 石井(いしい)郁光(いくみ) 奈良県就労継続支援B型事業所TOKIO 木工 斉藤(さいとう)大地(だいち) 北海道株式会社そるーな 就労継続支援B型事業所びーぼ 木工 若子内(わかこない)塁(るい) 岩手県有限会社吉田研磨工業 木工 新地(しんち)雅(みやび) 鹿児島県鹿児島障害者職業能力開発校 銅賞 洋裁 久田(くだ)大介(だいすけ) 広島県株式会社Asahicho DTP 水野(みずの)はるか 愛知県東邦フラワー株式会社 電子機器組立 鈴木(すずき)久史(ひさし) 滋賀県パナソニックアソシエイツ滋賀株式会社 歯科技工 河野(こうの)仁志(ひとし) 北海道和田精密歯研株式会社 札幌センター ワード・プロセッサ 松井(まつい)謙太郎(けんたろう) 静岡県遠州鉄道株式会社 ワード・プロセッサ 亀山(かめやま)保(たもつ) 愛知県中電ウイング株式会社 データベース 若井(わかい)与一(よいち) 千葉県株式会社千葉データセンター ホームページ 橋本(はしもと)芽依(めい) 大阪府株式会社ニッセイ・ニュークリエーション フラワーアレンジメント 井口(いぐち)健太郎(けんたろう) 東京都東急リバブルスタッフ株式会社 ビルクリーニング 土門(どもん)大成(たいせい) 山形県エプソンスワン株式会社 ビルクリーニング 小澤(おざわ)百合(ゆり) 群馬県群馬県立吾妻特別支援学校 製品パッキング 矢野(やの)宗佑(そうすけ) 大阪府株式会社ダイキンサンライズ摂津 製品パッキング 畑本(はたもと)義晴(よしはる) 岡山県株式会社ハンズ 喫茶サービス 石倉(いしくら)安七(あんな) 埼玉県第一生命チャレンジド株式会社 喫茶サービス 内山(うちやま)瑛里(えり) 岡山県株式会社ありがとうファーム 喫茶サービス 新田(にった)月渚(るな) 広島県広島県立黒瀬特別支援学校 オフィスアシスタント 苫米地(とまべち)直樹(なおき) 福島県株式会社とうほうスマイル オフィスアシスタント 福田(ふくだ)彩佳(あやか) 大阪府株式会社旭化成アビリティ 大阪営業所 オフィスアシスタント 眞田(さなだ)英登(ひでと) 兵庫県株式会社川重ハートフルサービス KCT事業所 表計算 島津(しまつ)貴悠(たかひさ) 岩手県 表計算 西本(にしもと)康次郎(こうじろう) 富山県株式会社日本オープンシステムズ 表計算 見山(みやま)浩章(ひろあき) 宮崎県株式会社旭化成アビリティ 延岡営業所 ネイル施術 佐藤(さとう)萌子(もえこ) 北海道nail salon MIYAVI 写真撮影 森ア(もりさき)久美子(くみこ) 香川県SCC昭和町 パソコン組立 柿木(かきのき)徹夫(てつお) 栃木県レンゴー株式会社 小山工場 パソコン操作 岡澤(おかざわ)洋成(ひろなり) 栃木県国立大学法人筑波技術大学 パソコンデータ入力 伊藤(いとう)祥源(しょうげん) 東京都株式会社孝朋 パソコンデータ入力 コ野(とくの)泰聖(たいせい) 福岡県サンアクアTOTO株式会社 縫製 箱岩(はこいわ)和樹(かずき) 福島県夢みらい工房 縫製 黒澤(くろさわ)智優(ちひろ) 茨城県茨城県立水戸高等特別支援学校 木工 坂尾(さかお)麻奈(まな) 茨城県茨城県立水戸高等特別支援学校 努力賞 洋裁 時田(ときた)吏沙(りさ) 愛知県株式会社ブライダルハウスTUTU DTP 山ア(やまざき)菜津子(なつこ) 栃木県有限会社芯和 建築CAD 割石(わりいし)崇寛(たかひろ) 栃木県えむつーあしすと株式会社 多機能型障害者就労支援事業所わーくりんく宝石台 電子機器組立 小林(こばやし)寛史(ひろふみ) 三重県株式会社デンソートリム ワード・プロセッサ 石原(いしはら)慎也(しんや) 兵庫県日本パーソネルセンター株式会社 ホームページ 三浦(みうら)寿規(としき) 宮城県一般社団法人COMVS ホームページ 村上(むらかみ)駿斗(はやと) 東京都トランスコスモス株式会社 ビルクリーニング 二木(にき)愛美(まなみ) 千葉県千葉県立特別支援学校市川大野高等学園 製品パッキング 北里(きたざと)唯誠(いせい) 熊本県特定非営利活動法人栞 喫茶サービス 藤野(ふじの)陽菜子(ひなこ) 鳥取県コメダ珈琲店 鳥取立川店 オフィスアシスタント 二山(にやま)愛結花(あゆか) 岐阜県株式会社OKBビジネス 表計算 乙津(おつ)裕治(ゆうじ) 埼玉県国立職業リハビリテーションセンター ネイル施術 河村(かわむら)愛未(まなみ) 愛知県 写真撮影 垣下(かきした)晃毅(こうき) 愛知県トヨタループス株式会社 パソコン組立 三宅(みやけ)勝己(かつみ) 神奈川県富士ソフト企画株式会社 パソコン操作 原(はら)真波(まなみ) 東京都三井金属鉱業株式会社 パソコンデータ入力 鏡(かがみ)沙弥(さや) 福島県株式会社とうほうスマイル 縫製 猪井(いのい)美龍(びりゅう) 香川県社会福祉法人いいのやま福祉会 野の花 木工 大川(おおかわ)柊瑛(しゅうえい) 静岡県静岡県立あしたか職業訓練校 【P14-17】 第2回 メダリストを訪ねて 〜第10回国際アビリンピック〜 挑戦の10年「努力する大切さ」自分のものに 英文ワープロ種目銀メダリスト・特別賞受賞 佐藤翔悟さん (株式会社日立パワーソリューションズ勤務) さとう・しょうご 1994(平成6)年、茨城県生まれ。発達障害がある。2013年、茨城県立勝田特別支援学校卒業、株式会社日立パワーソリューションズ(茨城県)入社、人事総務本部人財開発部人事勤労グループに所属。2020年、第40回全国アビリンピック(愛知県)の「ワード・プロセッサ」種目で金賞、2023年、第10回国際アビリンピックフランス・メッス大会の「英文ワープロ」種目で銀賞と特別賞を受賞。  2023(令和5)年3月にフランスのメッス市で開催された「第10回国際アビリンピック」では、日本人選手8人がメダルを獲得した(※1)。  「メダリストを訪ねて」の第2回は、英文ワープロ種目で銀メダルとともに特別賞も受賞した佐藤(さとう)翔悟(しょうご)さん(茨城県)と、職場で指導役を務めてきた山川ゆかりさんに、10年にわたるアビリンピックへの挑戦や今回の国際大会をふり返っていただいた。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 幼少期からパソコンに親しむ ――佐藤さんは、幼少期からパソコンに慣れ親しんでいたそうですね。 佐藤 パソコン自体は幼稚園児のころからさわっていました。最初はゲームを楽しむ程度でしたが、小学校の授業でキーボードでのローマ字入力を教わるようになり、自宅でもどんどんパソコン入力に打ち込むようになりました。  通っていた茨城県立勝田(かつた)特別支援学校でもパソコンの授業があり、さらにワープロソフトや表計算ソフトを使いこなすようになりました。高等部3年次の1月に、いまの勤務先である「株式会社日立パワーソリューションズ」で1週間ぐらいの職場実習を受けました。いまも入力作業を担当しています。「今日中」とか「1週間以内」とか、たまに「すぐにお願い」と頼まれるときもあります。私はいつも「一度受けた仕事は最後までやり通す」ことを心に決めています。 特別支援学校から初の実習生 ――同じ職場の山川ゆかりさんは、実習時から佐藤さんの指導役を務めているそうですね。これまでの経緯について教えてください。 山川 当時は学校側から「パソコン入力が得意な生徒がいるので、職場実習として受け入れてみてほしい」と、会社に打診されたのがきっかけでした。特別支援学校からの実習生は初めてだったので、若干の戸惑いはありました。しかし、学校の先生からは「特に準備すべきことはない」といわれ、社員も自然体で接することができました。  当時ちょうど社内資料の電子化作業が始まり、やってもらう仕事も多かったですね。実習時から佐藤さんはパソコン入力に慣れているのがよくわかり、安心して任せることができました。入社後も引き続き、電子化作業のほかに表計算ソフトを使ったデータ入力やアンケート調査のデータ入力・集計などを担当してもらっています。 在学時からアビリンピック挑戦 ――アビリンピックに初めて挑戦したのはいつですか。 佐藤 2012(平成24)年、特別支援学校高等部3年次でした。パソコンのキーボードを打つスピードが速かったようで、それを見た先生がすすめてくれました。学校代表として地方アビリンピックに出場して優勝し、2013年の第34回全国アビリンピック(千葉県)「ワード・プロセッサ」種目に出場することになりました。初めての全国アビリンピックは、残念ながら入賞できませんでした。 山川 私たち職場側は、佐藤さんから入社後に「アビリンピックの全国大会に出ることになりました」と聞いて、そのとき初めてアビリンピックの存在を知りました。入社初年度は地方アビリンピックに間に合わなかったのですが、翌年からは出場できるように職場でもサポートしました。 外部講師による個別研修も ――2回目の全国アビリンピックでは銀賞だったそうですね。 佐藤 2016年(山形県)で初めて銀賞をとりましたが、翌年の第37回全国アビリンピック(栃木県)では競技の課題内容がずいぶん変わったこともあり、銅賞になってしまいました。でも、その次の2018年の第38回全国アビリンピック(沖縄県)で、ふたたび銀賞を獲得することができました。大会前に職場で受けた個別研修が、とても勉強になりました。 山川 じつは以前から佐藤さんは「全国大会で金賞をとるのが目標」と話していたので、私たちも「彼のレベルアップのためにサポートできることはないか」と考えました。それで、第38回全国アビリンピック(沖縄県)に出場する前の3月に、私たち会社側が外部からパソコン専門の先生を招き、佐藤さんに個別の研修を受けてもらったのです。研修は平日の勤務時間3時間をあてて計6日間でした。 佐藤 先生に教えてもらった大事なポイントをノートにまとめて、自分で練習するときに復習し、アビリンピック会場にも持っていきました。いまもノートは持ち続けていて、注意点などを書き足しながら確認しています。  2019年も挑戦したかったのですが、全国大会は同種目で3回連続出場すると、一度お休みしなければなりませんので、その間は練習に励みました。アビリンピックの過去問題を打ち込んで印刷・保存するまでの競技内容をタイムで測り、内容が間違っていないか自分で確認をしていました。仕事の合間に練習させてもらいました。  そうして2020(令和2)年の第40回全国アビリンピック(愛知県)で、念願の金賞を受賞し、第10回国際アビリンピック日本代表に選ばれました。 速く正確に打つ ――佐藤さんのパソコン入力スキルは、職場ではどう評価されていますか。 山川 入力スピードがとても速くて正確で、驚かされます。私たちもまったく及ばないようなスピードですから。本人は画像として文字を瞬時に記憶し、ブラインドタッチで文書を作成するので、日本語も英語も速いスピードで打てるのは、大きな強みだと思います。しかも書式や仕様を変えたり、画像や図形を挿入したりするスキルも高いので、応用がきいた文書も即座につくってくれます。そのため職場では、アビリンピック前の練習中にもかかわらず、「ちょっとお願い」と横から仕事を頼んでしまう社員もいましたね。職場になくてはならない戦力であることは間違いありません。 佐藤 ミスをしないようにするために、長い文章を打ちっぱなしにするのではなく、少し打ったら内容を確認し、次を打つというように心がけています。これは外部の先生に教えてもらったコツです。 国際大会に向けた練習 ――国際アビリンピックが決まってから、あらためて準備したことなどはありましたか。 佐藤 2022年の秋に、2023年3月に開催することが決まったと知らせを受け、大会前には、JEEDから貸与された英語OSのパソコンと英語配列のキーボードを使って職場で練習しました。全国アビリンピックの審査を行っている専門委員の先生が出してくださった練習課題で、勤務時間にも英文タイピングの練習をさせてもらいました。会社のみなさんにも応援してもらい、がんばろうという気持ちになりました。 山川 会社としても初めての国際アビリンピック出場ですから、社内ホームページでの紹介だけでなく、本社入口に横断幕を掲示するなど、社内外に向けてPRをしました。そのPRで知った社員らが本人に激励の声がけをしてくれて、さらに本人のモチベーションがあがったようでしたね。社長や所属部署のメンバーが寄せ書きした国旗も、本人に手渡しました。社長には、フランスへの出発を前に直接会って報告し、激励のメッセージをもらってさらに力が入ったようでした。 ハプニングにも落ち着いて対処 ――実際の国際アビリンピックはいかがでしたか。 佐藤 フランスに渡ってからは想定外のことやハプニングが続きました。競技当日、本番課題を見て初めて、課題となる文書が英語ではなくフランス語だとわかったり、ページ数も事前に公表されていた6ページではなく7ページに増えていたりしました。国内大会では図形のつくり方などについては指示書がありますが、国際大会では、できあがりの文書だけが用意され、作成方法はすべて自分で考える課題でした。  自分が知らない間に、競技時間が延長されていたことにも驚きました。私は予定時間がきたときに手を止めたのですが、ほかの選手たちはみんな続けていました。時間が過ぎたのにおかしいなと思ったのですが、競技エリアの外にいた家族やJEEDの人たちに話しかけることは失格になるので、落ち着いて、質問があるときの札を掲げました。通訳の人が来てくれて、延長になったと教えてもらえました。  競技は少し緊張しましたが、落ち着いて対処することを心がけていたのがよかったと思います。また、日本から山川さんが会場に応援に来てくれたのは心強かったです。 山川 佐藤さんにはお父さまが同行されていたので心配はありませんでしたが、どうしても直接応援したくて、職場の上司に相談し、フランスに行かせていただきました。選手団とは別行動で、ようやく会場で会えたときはうれしくて、競技前に励ましの言葉をかけましたが、競技中はただ見守るだけでした。  一方で、国内大会とは全然違う競技環境やハプニングにも動じず、海外の選手たちとハイレベルな闘いをくり広げていた佐藤さんの様子にはあらためて感心させられました。これは佐藤さんのお父さまが、幼少期から佐藤さんの好奇心や意欲を見逃さず、得意なことを存分に伸ばしてきたことが、能力として大きく開花した結果でもあるのだと思います。 海外の選手と喜び合う ――国際アビリンピックならではの交流もあったようですね。印象に残っていることはありますか。 佐藤 アゼルバイジャンの車いすユーザーの選手は日本語を勉強している方で、声をかけられました。「日本に行きたい」といっていました。ナイジェリアの選手とは一緒に記念写真を撮りました。  私は銀賞でしたが、金賞は2人いて中国と韓国の選手でした。閉会式では3人で喜び合い、記念写真を撮ったのも印象深いです。自分が日本選手団の一員として出場できたことが、とてもうれしかったです。 ――「英文ワープロ」種目は、全種目で最多となる14カ国から18人が参加しました。激しい競争のなかで銀賞に輝いた佐藤さんは、日本選手団でもっとも高い点数を出した選手に与えられる「特別賞」も受賞しましたね(※2)。 佐藤 まさか二度名前が呼ばれるとは思っていなかったので、本当に驚きました。特別賞はすべての参加国から1人ずつ選ばれるので、壇上には27の国と地域の選手が集まり、全員で写真を撮ったのは本当によい記念になりました。国際アビリンピックは、開会式も閉会式もすごく豪華で、圧倒されることばかりでした。 山川 ちなみに佐藤さんは、ほぼ世界中の国旗と国名を覚えているそうですよ。 佐藤 小学生のころ、オリンピックの開会式を見たのをきっかけに覚えました。国旗を見るのが好きで、最近では世界の国旗カードも買いました。国際アビリンピックの開会式では旗手を務めたかったのですが、ジャンケンに負けて残念ながら叶いませんでした。 チャレンジが自信につながった ――国際アビリンピックを経験して感じたことはなんですか。 佐藤 海外の選手たちと競技ができたこと、交流ができたことは大きな経験になりました。これまで10年にわたってアビリンピックに出場し続けてきたことで、「チャレンジすることの楽しさ」や「努力することの大切さ」を自分のものにできたと思います。これからもたくさん練習して、ふたたび国際アビリンピックに出場し、次こそは金賞をとることが大きな目標です。「寄せ書きしてもらった国旗は、金メダルを獲得したら掲げる」と決めているので、あきらめず努力を続けていきたいです。  アビリンピックは自分のスキルを試すことができる貴重な大会です。チャレンジすることで自信にもつながると思います。私は、2023年11月に開催された第43回全国アビリンピック(愛知県)でデモンストレーションを披露しましたが(※3)、今後もアドバイスできることがあれば伝えていきたいと思っています。ぜひもっと多くのみなさんにチャレンジしてほしいですね。 ※1 本誌2023年6月号で「第10回国際アビリンピック」を特集しています。https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/202306.html ※2 今大会ではすべての競技が100点満点で採点されており、各国選手団においてもっとも点数が高かった選手に「特別賞」が授与された ※3 今号の「第43回全国アビリンピック特集」(5ページ)でも紹介しています。ご一読ください 職場の方より 株式会社日立パワーソリューションズ 人事総務本部人財開発部 人事勤労グループ主任 山川ゆかりさん  佐藤さんは職場では「翔悟くん」と呼ばれ、ムードメーカー的存在です。佐藤さんの国際アビリンピック出場が決まってからは、社員みんなが「おめでとう!」と声をかけていました。先日開催された、当社発足10周年記念イベントでは、最後に佐藤さんの国際アビリンピック銀メダル獲得についても紹介され、みんなで拍手をして喜び合いました。 写真のキャプション 実習時から佐藤さんの指導役を務める山川ゆかりさん(右) 上司や同僚が寄せ書きをした国旗を背に競技に臨んだ 第10回国際アビリンピックで課題に取り組む佐藤さん 第10回国際アビリンピックで佐藤さんが獲得した銀賞(左)と特別賞(右)のメダル 閉会式で金メダルの韓国選手との記念写真 日本選手団でもっとも高い点数を出した選手として特別賞を受賞 次回の「メダリストを訪ねて」は、2024年6月号に掲載予定です。お楽しみに!! 【P18】 JEEDインフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 事業主のみなさまへ 令和6年度 「障害者雇用納付金」申告および「障害者雇用調整金」等申請のお知らせ 〜常用雇用労働者の総数が100人を超えるすべての事業主は障害者雇用納付金の申告義務があります〜  令和6年4月1日から5月15日の間に令和6年度申告申請をお願いします。前年度(令和5年4月1日から令和6年3月31日まで)の雇用障害者数をもとに、 ○障害者雇用納付金の申告を行ってください。 ○障害者の法定雇用率を下回る場合は、障害者雇用納付金を納付する必要があります。 ○障害者の法定雇用率を上回る場合は、障害者雇用調整金の支給申請ができます。 【申告申請期間】 種別 障害者雇用納付金 障害者雇用調整金 在宅就業障害者特例調整金 特例給付金 申告申請対象期間 令和5年4月1日〜令和6年3月31日 申告申請期間・納付期限 令和6年4月1日〜令和6年5月15日(注1、注2、注3) (注1)年度の中途で事業を廃止した場合(吸収合併等含む)は、廃止した日から45日以内に申告申請(障害者雇用納付金の場合は、あわせて申告額の納付)が必要です。なお、令和6年度中の事業廃止等による申告申請については、制度改正により書式が変更となる予定であるため、期限内に申告申請できるよう、余裕をもって各都道府県申告申請窓口にご相談ください。 (注2)障害者雇用調整金、在宅就業障害者特例調整金および特例給付金は、申請期限を過ぎた申請に対しては支給できませんので、十分にお気をつけください。 (注3)常用雇用労働者の総数が100人以下の事業主が、特例給付金の申請を行う場合の申請期限は令和6年7月31日となります。 *詳しくは、最寄りの都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)にお問い合わせください。 JEED 都道府県支部 検索 障害者雇用納付金制度の改正について (令和5年4月1日施行関係) 1.障害者雇用調整金支給額の見直し 1人当たり月額29,000円になります。(令和5年3月31日までの期間については27,000円) 2.精神障害者である短時間労働者に関する特例措置(要件が緩和され延長) 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者について、当分の間、雇用率上、雇入れからの期間等に関係なく、1人をもって1カウントとします。 *制度改正の概要についてはJEEDホームページをご覧ください。https://www.jeed.go.jp/disability/seido.html JEEDホームページにて、記入説明書および解説動画をぜひご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/levy_grant_system_about_procedure.html 申告申請の事務説明会にぜひご参加ください。 *全国各地で2〜3月に開催します。 *参加費は無料です。 JEED 納付金 説明会 検索 【P19】 エッセイ 印象深い海外の視覚障害者 第1回 アンゲリーカ・ドクヴィッツ(ドイツ) 日本点字図書館 会長 田中徹二 田中徹二(たなか てつじ)1934(昭和9)年生まれ。1991(平成3)年、社会福祉法人日本点字図書館館長に就任。 1993年、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の「アジア太平洋障害者の十年」のスタートを機に、アジア盲人図書館協力事業を立ち上げた。マレーシアを起点に、アジア太平洋諸国で点字印刷がないところを対象に、点字印刷技術を指導。2004年からは視覚障害者個人向けに、パソコン技術指導も行っている。2001年4月から2022(令和4)年3月まで日本点字図書館理事長、現在は会長。  初めてアンゲリーカに会ったのは1998(平成10)年だ。ドイツのベルリン森鴎外(もりおうがい)記念館の職員である妻の友人から、「日本語の勉強に来ている盲女性がいるので会ってみないか」と紹介された。その記念館で会うと、20代後半の元気のよい女性で、りっぱなシェパードの盲導犬ウタを連れていた。  彼女はベルリン盲学校の卒業生で、ロベル ト・コッホ研究所で教授の秘書をしていた。 コッホ研究所は、かつて森鴎外や北里柴(きたざとしば)三郎(さぶろう)なども留学したところだ。彼女の仕事は、主として口述筆記であり、書類、手紙など録音したものも聞き取り、パソコンで文書に仕上げていた。欧米ではパソコンが普及する前から、タイプライターが使われていて、視覚障害者の職業の一つとして文書作成があった。アンゲリーカも盲学校で訓練を受けたという。  最初に会ったとき、ベルリンのテレビ塔に私たち夫婦を連れて行ってくれたことは忘れられない。入り口でなんと盲導犬拒否にあったのだ。彼女は抗議して、あちこちに電話もしたが、あきらめるしかなかった。私たちの帰国後、彼女は盲人協会やマスコミに連絡をとったようだ。翌年、ベルリンに出かけてアンゲリーカと再会したとき、テレビ塔に再び出かけた。すると今度は入場できたのはいいが、一般の見学者とは別のルートだった。私たちだけが別扱いにされたのだ。ドイツでも視覚障害者はこんな待遇を受けるのかと驚いた。日本でもドイツでも、当事者自ら動くことで壁を一つひとつ壊していくことは同じだが、その対処方法の違いには疑問を持った。  二度目の訪問の際、アンゲリーカは自分の職場へと案内してくれた。教授の広い部屋の一角で、秘書である彼女と盲導犬のスペースもとても広かった。点字の資料がたくさんあり、パソコンを前に彼女が見えなくても問題なく仕事をこなす様子がよく伝わってきた。  ベルリンの暗闇レストランにも一緒に出かけた。ドイツは「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク」の発祥の地でもある。ハンブルクのハイネッケ博士が提唱し、暗闇の空間のなか、視覚障害者の誘導で、一般の人々が視覚以外の感覚を使ってさまざまなシーンを体験するイベントだ。日本にも導入されている。暗闇レストランは日本にはなかなかないが、ドイツにはあちこちにある。私たちは、真っ暗闇でワインを注文し、フルコースの料理を楽しもうとした。ところが、アンゲリーカが突然、「ウタが不安で怯えている」といい出した。照度ゼロの真の暗闇は、自然の世界には存在しない。犬には耐えられなかったようだ。結局彼女はウタをそこから連れ出して、明るい場所で食事をした。  2005年の夏にドイツを訪れたときは、ウタが引退して、ラブラドール・レトリバーとゴールデン・レトリバーの雑種タッコに代わったばかりだった。街中を一緒に歩いたが、彼女をうまく案内できなかった。ウタに比べると、ずいぶん能力が低いようで心配になったものだ。  その年の秋のある夜、ベルリンから電話が入った。アンゲリーカが通勤の途中、電車のホームから転落して、即死したという。まさかの出来事で、たいへん悲しく、残念だった。三度目の来日も一緒に計画中だった。  もしアンゲリーカが生きていたら、私たちの交流は続いていたはずだ。彼女の仕事は、AIの進歩で、どう変わっていただろうか。消えていく運命にあったのではないかと思う。いま、ドイツの盲女性の新しい職業分野として、乳がんの健診で触察をになう仕事が注目を集めている。すでに50人以上の従事者がいるという。年間7万人が乳がんと診断されるドイツで、盲女性がていねいに触察して、医師に説明することは、多くの人々に歓迎されている。アンゲリーカの意見もぜひ聞いてみたかった。 【P20-25】 編集委員が行く 特別支援学校におけるキャリア教育の推進による成果 京都市立東山総合支援学校(京都府) 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 取材先データ 京都市立東山(ひがしやま)総合支援学校 〒605-0932 京都府京都市東山区妙法院前側町(みょうほういんまえかわちょう)441 TEL 075-561-3373 FAX 075-561-3383 編集委員から  地域のなかで多様な他者からの求めに応じていくことを通して、キャリア発達はうながされる。生徒たちは日々の地域での多様な協働活動を通して、働くことの意義を理解し、「なぜ・なんのため」に学ぶのかということを考えるようになり、自身のいまと将来をふまえ、主体的に学習に取り組んでいく。  他方、地域の側も彼らの姿からたくさんのことに気づかされ、活性化され、互いになくてはならない存在となっていく。その実際として京都市立東山総合支援学校における地域協働活動や対話を大切にした授業実践を紹介する。 写真:官野貴 Keyword:特別支援学校、職業学科、地域協働活動、キャリア発達支援、知的障害 POINT 1 地域協働活動を通したキャリア発達の「相互性」 2 多様な他者の「求めに応じる」経験 3 対話を通したふり返りによる「意味づけ」  高等学校および特別支援学校高等部学習指導要領(※)に「キャリア教育の推進」が明示されてから十年以上が経過し、特別支援学校においても職業教育のみならず教育活動全体を通したさまざまなキャリア教育の取組みが進められてきた。  これまでの特別支援学校におけるおもな成果としては、@さまざまなリソースを活用した地域協働活動の推進、A育成を目ざす「資質・能力」の明確化と授業や教育課程の改善、B児童生徒の内面の育ちをとらえた「キャリア発達」への着目と重視、の3点があげられる。  これらの成果をふまえ、現行の小・中・高等学校および特別支援学校小・中・高等部の学習指導要領に「キャリア教育の充実」と明示されており、職業教育に限定しない、小学校・小学部段階からの教育活動全体を通した「キャリア発達」を支援する教育の、いっそうの充実が求められている。 京都市立総合支援学校職業学科3校の職業教育の取組みによる成果  京都市では、2004(平成16)年に、当時の京都市立白河(しらかわ)養護学校と京都市立鳴滝(なるたき)養護学校(現在は両校とも総合支援学校)に職業学科を設置し、企業とのパートナーシップによるデュアルシステムをスタートさせ、職域の拡大を図るとともに、高い就職率を維持してきた。この成果は、全国各地のキャリア教育・職業教育を重視した高等部単置の特別支援学校における一つのモデルとなったといえる。  その後、このような十年間にわたるデュアルシステムをはじめとする職業教育の成果をふまえ、京都市立東山総合支援学校(以下、「東山総合支援学校」)は、2013年に白河総合支援学校の分校として開設され、独立した。  この間、2014年から3カ年にわたり、文部科学省の「キャリア教育・就労支援等の充実事業」を受託し、職業学科三校合同で「自己肯定感」、「地域協働活動」、「学びの環境のデザイン」をキーワードとした実践研究に取り組んだ。  本研究の成果として、@スキルや知識の習得にとどまらない、自己肯定感の向上が学習意欲に影響すること、A地域協働活動が自己有用感や自己肯定感を育む環境であること、Bこれらをふまえたキャリア発達の視点に基づくカリキュラム・マネジメントにより、社会とのかかわりを見いだし創出する必要性があることの3点があげられた。  以上の委託事業による成果は、特別支援学校卒業後に「社会の中で役割を果たすことを通して、自分らしく生きることを実現していく過程」である「キャリア発達」支援における重要なポイントを示唆したといえる。  なお、京都市の総合支援学校職業学科の取組みと本事業の詳細については、文献1、2(25ページ)を参照いただきたい。 京都市立東山総合支援学校の教育課程  特別支援学校高等部学習指導要領に示されている、知的障害のある児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科は、共通教科と専門教科に大別される。  共通教科とは、「国語」、「数学」、「理科」、「社会」など、一般的に耳にする教科のほか、独自の教科「職業」が位置づけられており、普通科を設置する特別支援学校高等部では、職業を中核とした各教科等を合わせた指導である「作業学習」を中心に教育課程が編成され、職業教育が展開される。  専門教科とは、「家政」、「農業」、「工業」、「流通・サービス」、「福祉」といった職業に関する専門的内容を取り扱う教科をさす。職業学科を設置する特別支援学校においては、専門教科に3年間で875単位時間以上の時数を配当することとしており、専門教科を中心とした職業教育が展開される。  東山総合支援学校は、知的障害のある生徒を対象とする高等部単置の職業学科(現在は「地域総合科」という名称)設置校であり、「地域とともに」をコンセプトに、今般の学習指導要領が求める「社会に開かれた教育課程」の中核として「地域協働活動」を位置づけている。  東山総合支援学校では、地域協働活動を通してコミュニケーション力の向上を図るという趣旨から専門教科「福祉」を「地域コミュニケーション」という名称で取り扱っている。地域コミュニケーションでは、地域との「共生」と「協働」によりさまざまな人とかかわり、働くために必要な力を育むことを目的とし、ほかの専門教科の内容をふまえつつ、より実際的な多様かつ豊かな活動を展開している。  また、共通教科については、生活のなかで、活きて発揮される力を育むことを目的とし、各教科等を合わせた指導の形態による「表現」、「社会生活」などの学習を進めている。  さらには、産業現場等における実習(以下、「現場実習」)で働く経験を通して、社会に出るために必要な力を育んでいる。これらが教育課程の3つの柱(図1)として、有機的かつ実際的に展開されている。 地域協働活動の意義  地域協働活動は、地域のなかで展開されるさまざまな活動において役割をになうことを通して、生徒が必要とされる実感を得ることにより、自己有用感や自己肯定感を高めることをねらいとしている。ここでは、生徒たち自身が、地域から必要とされるように、自分から動き出すこともねらいとしている。  地域協働活動において、生徒たちは自分から進んで取り組むことだけでなく、幼児から高齢者まで、多様な年齢層とのかかわりを通して、しなやかな心が育ち、対応力を高めていく。  地域協働活動は、「支援する・される」関係とは異なり、活動を通して「ともに必要とする」新しい関係が構築されていく。生徒たちは地域協働活動を通して自尊感情を高め、主体性や社会性、コミュニケーション力を高め、自己決定する力を身につけていく。言い換えると働くために必要な力を身につけていくのである。 地域協働活動の実際  地域協働活動は、次に示す四つのサービスで構成される。生徒たちは卒業までにローテーションにより、すべてのサービスを経験する。これらの経験が企業で行う現場実習で発揮されるとともに、自身の課題を認識するようになる。そしてこれらをくり返すことにより、日々の学習活動において「なぜ・なんのため」に学ぶのかを意識するようになるなど、本人にとっての学びの必然性につながっていく。  このようなリアルな経験の積み重ねにより、生徒たちは自身の適性を考え、三年間で希望する就労先を見つけていくのである。 1 食品サービス  食品サービスでは、食品の製造と販売、接客などを通して地域と連携し、協働活動を展開している。おもな活動は次の通りである。 ○製菓  ケーキやクッキーなどの食品の製造を行う。東山総合支援学校に隣接するフォーシーズンズホテル京都のシェフから技術指導を受け、本格的な洋菓子を製造している。なお、つくっている生徒たちがおすすめする季節のチーズケーキは、絶品である。 ○カフェしゅうどう  月曜日から金曜日の10時に開店し、木曜日は12時まで、それ以外は15時まで営業しており、案内・接客・厨房・レジ業務を行う。地域の住民がリピーターとして多く来店するほか、名所清水寺(きよみずでら)が近くにあるため、外国人を含む観光客も多く来店する。生徒たちは緊張しながらも手製の外国語マニュアルを基に、オーダーを取るなど、相手の求めに応じて接客している。 ○すこやかサロン  当校が立地する修道(しゅうどう)地域の社会福祉協議会(以下、「社会福祉協議会」)が主催し、毎月第三水曜日に開催している。地域の高齢者を対象に、生徒の企画した催し物や、地域の警察署や消防署などの方に講話をしていただいたり、料理教室を行ったりする。生徒たちは、会場準備、受付、誘導、調理補助を担当する。 ○配食サービス  社会福祉協議会が主催し、年二回開催している。コロナ禍前は、当校の調理室で調理した弁当を地域の高齢者に届けていた。コロナ禍においては、弁当はつくらずに社会福祉協議会が準備したものを届けてきた。 ○カフェほのぼの  社会福祉協議会が主催し、毎月1回13時から15時まで「カフェしゅうどう」で開催している。地域の方々が来店し、ケーキや会話を楽しむ場となっている。生徒は案内、接客、厨房、レジ業務を行う。 ○クッキングスクール  フォーシーズンズホテル京都との共催により、当校の製菓室にて年二回実施している。製菓技術や働く姿勢を学ぶ。今後、当校の新たな構想として、当ホテルと地域の方々とのお菓子づくり教室を企画・運営していくことを検討中とのことであった。 2 コミュニティサービス  コミュニティサービスでは、農園芸を中心に地域と連携し、協働活動を展開している。おもな活動は次の通りである。 ○ぽかぽかファーム(交流農園)  生徒たちが企画し、地域の「ぽかぽかクラブ」の会員とともに、不定期に野菜などを収穫するほか、地域の保育園児との芋ほりなども行っている。基本的に管理は生徒たちが行っているが、長年のかかわりにより、夏季休業時の学校閉校期間には地域の方々が水やりをしてくれるなどのよい関係が築かれてきている。 ○ぽかぽかマルシェ(野菜などの販売)  水曜日の午前と金曜日の午後に、「カフェしゅうどう」のテラスで、「ぽかぽかファーム」で育てた無農薬野菜などを販売している。生徒たちは呼び込み、案内、接客、レジなどを担当する。地域住民に好評であり、売り切れ次第終了となる。私は訪れるたびに京野菜とほかの野菜との違いや調理方法を生徒たちにたずねているが、彼らはこれまでの地域の方々から求められ、応じてきた経験をふまえて、詳しく説明してくれる。また、答えられない場合も、ふる舞いや応じ方が適切である。 ○健康体操教室  社会福祉協議会が主催し、地域の高齢者を対象に毎週月曜日に開催している。生徒が準備や受付、片づけを行うほか、脳トレなどの運営補助を行っている。 3 東山サービス  当校が立地する修道地域を拠点とし、さまざまな機関や地域資源を活用するなど、連携して協働活動を展開している。おもな活動は次の通りである。 ○陶芸教室  地域に住む陶芸家を講師として迎え、他府県の修学旅行生や保護者を対象に陶芸教室を実施している。当校の生徒たちは準備や運営を担当し、相手が幼稚園児、小学生、中学生、高校生と、それぞれのニーズをふまえてどのようなものをつくるか、その際の配慮はどうするかなど、相手の身に立って考え、対応している。 ○観光案内  他府県の小・中学校や特別支援学校からの依頼を受けて、修学旅行生の観光案内をしている。観光名所の由来や歴史上のエピソードについて説明するなど、各教科の内容について身につけた知識などを活かす場面として、またコミュニケーション力を高める場面として、学んだことを発揮している。 ○保育所での読み聞かせ  地域の保育所で幼児に対する絵本の読み聞かせをしたり、遊びの活動を担当したり、その活動に使う道具づくりなどをしている。生徒たちは幼児にふり回されながらも相手に応じて行動することを学び、自閉スペクトラム症のあるコミュニケーションが苦手な生徒も、幼児の好みに応じた絵本の選択や喜んでもらえるような表現の仕方などを理解していく。 ○おかいもの便  毎週水曜日の午後に、生協の移動販売車に帯同し、地域の方々の買い物支援をしている。荷物を家まで届けるほか、その間、地域の方々の世間話に応じるなど、コミュニケーション力を高める機会になっている。 4 養正(ようせい)サービス  学校から離れた、高齢者が多く住む養正地区にあるサテライト施設(以下、「養正サテライト」)を拠点として、さまざまな機関や地域資源を活用した協働活動を展開している。 ○ようせい喫茶  月曜日から金曜日まで10時に開店し、11時までの1時間と短時間ではあるが、ドリンクのみのカフェを運営している。おもに地域の高齢者が利用しており、憩いの場となっている。生徒たちは案内、接客、厨房、レジの業務のほか、来店した高齢者の健康のために、ともにラジオ体操を行っている。 ○図書館運営  養正サテライトは、元々は地域の学習施設であったため、たくさんの蔵書がある。月曜日から金曜日まで、受付、貸出し、返却作業などの図書館運営を行っている。 ○養正なかよしサロン  地域の児童館が主催となり、毎月第二火曜日に幼児を対象に絵本の読み聞かせを行っている。東山サービスと同様に、幼児とのかかわりを通して生徒の成長が見られる。 ○健康体操教室  地域の特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人養寿会が主催し、高齢者を対象として毎週金曜日に開催している。生徒たちは、運営、受付、片づけなどを行っている。 ○交流農園・清掃活動  養正保育所前の交流農園でサツマイモなどの野菜を栽培し、幼児とともに収穫するほか、養正サテライト施設周辺の清掃作業を週2〜3回実施している。  そのほか、東山総合支援学校では、学校が立地する修道地域の運動会やお祭りなどにおいてテント張りやブースの設営、用具準備や片づけなどを行っており、地域にとってなくてはならない存在として期待され、多様な地域の方々と協働している。 ふり返りと対話を大切にした授業  前述したように、東山総合支援学校では、各教科等を合わせた指導として「表現」、「社会生活」などを教育課程に位置づけ、授業を行っている。なお、職業学科を設置する特別支援学校高等部は一般的に、通常の学校と同様に国語、数学などの教科ごとに時間割を組む学校が大半であり、各教科等を合わせた指導を教育課程に位置づけている学校は少ない。当校では専門教科「地域コミュニケーション」と関連づけながら、これらの指導を通して実際的なコミュニケーションスキルの向上のほか、社会生活や職業生活において必要な資質・能力の育成を効果的に進めている。  なお、「表現」では、国語や外国語などの内容を取り扱い、自己理解、自己表現、他者理解の促進を図るとともに、読む、書く、聞く、話す力を高めることを目ざしている。また、「社会生活」では、社会、数学、理科、家庭などの内容を取り扱い、社会のルール、数量の処理、交通利用、集団参加、消費者教育、健康・安全などに関する知識や技能を高めるとともに、生徒たちが卒業後の生活に具体的に活かせるようになることを目ざしている。 なぜ・なんのために学ぶかを明確にし、自身の成長をとらえるキャリアデザイン  京都市立総合支援学校では、「個別の包括支援プラン」という、本人を中心とした「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」を一体化したものを、文部科学省が義務化する前から進めてきている。このうち、本校では、本人がかかわるキャリアデザインと称し、その一環として、「事後学習ファイル」の作成を進めてきた。  これらは、生徒たちにとっての最終的な目標である就労に向けて、学校での職業教育や各教科を「なぜ・なんのため」に学ぶのか、そのために「何を」、「どのように」学ぶのかを意識化するツールであり、自身の目標に向けてプランニングし、その取組みをふり返り、自身の成長を実感するとともに、到達できていない部分について、共同的に解決していくためのツールである。また、現在作成と活用が求められている「キャリア・パスポート」につながるものといえる。  個別の諸計画は、一般的に普段は金庫で管理されていることが少なくないが、事後学習ファイルはこれらと異なり、生徒個人が管理し、いつでも見られるようにして、活用されている。例えば生徒が課題にぶつかったときに、自身のものをすぐに確認できる。また、同様の課題を解決した先輩や友だちの事後学習ファイルを参考にして、解決策を検討することができる。事後学習ファイルの活用によって、地域協働活動や現場実習での実際的な活動経験をふまえ、ホームルーム活動などにおけるふり返りや対話を通して、「表現」、「社会生活」などの授業での学びにつなぐことにも寄与している。  このように事後学習ファイルは自身の目標達成に向けた課題解決ツールとして、そして学びをつなぐツールとして本人が活用し、役立てられている。ぜひこれらの取組みを参考としていただきたい。 おわりに  筆者が東山総合支援学校をはじめ、京都市立総合支援学校職業学科にかかわるようになって15年となる。京都市では、本人を中心として地域のなかで役割をにない、自分らしく生きていけるように支援することに尽力してきた。その中核となる取組みの一つが、これまで豊かに展開されてきた地域協働活動である。地域協働活動が示唆するものは、まさにキャリア発達支援であり、「支援する側・される側」を越えたキャリア発達の相互性である。  人口減少や少子高齢化が加速するわが国において、障害のある人が社会参画し、活躍していくということは、障害のない側の意識をも大きく変え、活性化を図ることにつながると考える。  まさに社会を大きく変えていく可能性を有するものの一つとして、全国各地で展開されている地域協働活動の動向に今後も注視していきたい。 ※学習指導要領:学校教育法などに基づいて文部科学省が教育課程編成の基準として示すもので、学校において教えるべき教科などの目標や内容などが示されている 図1 教育課程の3つの柱 入学 ・「地域とともに」をコンセプトに「自己有用感」「自己肯定感」を育む ・自立と社会参加、「働く」ことを目指し、やりたい!を実現する 卒業 教育課程3つの柱 学校・地域・家庭で 地域との「共生」と「協働」により様々な人と関わり、働くために必要な力を育む ◆地域コミュニケーションの学習 地域協働活動を中心に、自己有用感や自己肯定感を育み、社会の中で向き合うためのエネルギーを蓄える 生活の中で、活きて発揮される力を育む ◆表現・社会生活等の学習 地域協働活動と連動した取組や生活の質の向上を目指した学習を通して、卒業後の自立した生活、余暇活動の充実を図る 職場で 働く経験を通して、社会に出るために必要な力を育む ◆産業現場等における実習 様々な「働く」体験を通して、自分の進路を自分で決める 「働く」場を知る 人間関係形成(自己理解・他者理解) 自己選択・自己決定 就労後の生活の姿を具体的に描く (資料提供:京都市立東山総合支援学校) 〈文献〉 1 『知的障害教育における「学びをつなぐ」キャリアデザイン −本人の「思い」や「願い」を踏まえた「深い学び」の実現に向けて−』(監修:菊地一文/編著:全国特別支援学校知的障害教育校長会、2021年、ジアース教育新社) 2 『職業学科3校合同研究実践事例集 地域と共に進めるキャリア発達支援』(編著:京都市立総合支援学校職業学科、2017年、ジアース教育新社) 3 『学校のカタチ「デュアルシステムとキャリア教育」』(著:森脇勤、2011年、ジアース教育新社) 4 「地域協働の中でキャリア発達を促す意味」(森脇勤)、『キャリア発達支援研究1』(編著:キャリア発達支援研究会、2014年、ジアース教育新社) 5 「地域協働活動の推進におけるキャリア発達とキャリア開発」(森脇勤)、『キャリア発達支援研究2』(編著:キャリア発達支援研究会、2015年、ジアース教育新社) 6 「京都市におけるキャリア発達を支援する教育の実践 京都市の高等部職業学科を中心とした今後のキャリア発達を支援する教育の在り方〜3校合同研究の目的と方向性〜」(森脇勤)、『キャリア発達支援研究3』(編著:キャリア発達支援研究会、2016年、ジアース教育新社) 写真のキャプション 京都市立東山総合支援学校 お手製の英語マニュアル カフェには、外国人観光客も多く来店する(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 東山総合支援学校に隣接する「カフェしゅうどう」 生徒が準備や運営を担当し行われる「陶芸教室」(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 「クッキングスクール」。クッキーづくりの様子(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 「すこやかサロン」。この日はスクエアボッチャを楽しんだ(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 「ぽかぽかマルシェ」では、案内や接客を生徒が行う(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 「ぽかぽかファーム」にて、地域の保育園児と芋ほり(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 「修道あきまつり」。出店の接客を生徒が担当した(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 他府県の修学旅行生への「観光案内」(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 「修道区民運動会」では、生徒が設営や運営をになう(写真提供:京都市立東山総合支援学校) 【P26-27】 省庁だより 農福連携の推進について 農林水産省 農村振興局 都市農村交流課 1 広がりを見せる農福連携  農業の担い手の不足という課題を抱えている農業分野、障害者の働く場が少ないという課題を抱えている福祉分野、それぞれが手を結び合い連携することで、双方の課題を解決できるのではないかとの考えから、農福連携の取組が推進されてきており、現在、様々な形で取組が広がっています。  農福連携と聞くと、農業者が障害者を雇用する形、障害者就労施設が農業生産や農産加工に取り組む形を、まずはイメージするのではないかと思いますが、それ以外にも、障害者就労施設が農業者の元に出向き、農作業の一部を請け負う事例、特例子会社が農業に参入する、もしくは地域の農作業を請け負う事例、農業者と障害者就労施設のニーズを農協がマッチングする事例、食品関連企業が農業者や障害者就労施設と連携して新たな品目の栽培を手掛ける事例、地域協議会が農福連携の専門人材育成に取り組む事例など、地域の実情や課題に則した様々な農福連携の形が生まれてきています。 2 農福連携のメリット  農福連携の取組は、農業分野、福祉分野双方の課題解決につながるいわゆるwin・winの関係にあり、農福連携に取り組むことにより、農業経営者にとっても、障害者の健康面でもメリットがあることも分かってきています。  例えば、「令和4年度農福連携に関するアンケート」(※)における、農福連携に取り組む農業経営体を対象とした調査では、「障がい者等を受け入れることの収益性向上に対する効果」について、「効果あり」とした経営体が37.0%、「大きな効果あり」が15.7%、「どちらかと言えばあり」が24.6%で、効果があると回答した経営体が約8割を占めています。  また、農福連携に取り組む福祉事業所を対象とした調査では、約9割の事業所が、農福連携に取り組んだことで事業所の利用者に「プラスの効果あり」と回答しています。  効果の内容を見ると、身体面・健康面への効果では「体力が付き長い時間働けるようになった」、「よく眠れるようになった」などの効果が、精神面・情緒面への効果では「物事に取り組む意欲が高まった」、「表情が明るくなった」などの効果が半数以上の事業所で見られており、農福連携に取り組むことで、障害者の心身の健康面にも良い影響が生じていることがわかります。 3 農福連携推進の方向性  このように農福連携は、障害者が農業分野での活躍を通じ、自立や生きがいを持って社会参画していく取組であり、障害者の就労機会の創出となるだけではなく、農業分野の新たな働き手の確保につながる取組であり、これを通じて農業・農村の維持発展につながることが期待されています。この農福連携を強力に推進するため、2019(令和元)年に内閣官房長官を議長とする「農福連携等推進会議」が設置され、今後の推進の方向性が「農福連携等推進ビジョン」として取りまとめられました(図1)。農福連携の裾野を広げるためには、現場において@知られていない、A踏み出しにくい、B広がっていかないという課題があることから、それぞれの課題に対して、3つのアクションを提起し、@認知度の向上のため、農福連携のメリットの客観的な提示、国民全体に訴えかける戦略的プロモーション、A取組の促進のため、ワンストップで相談できる窓口体制の整備、農福連携を進める専門人材の育成、B取組の輪の拡大のため、各界の関係者が参加するコンソーシアムの設置などに取り組むこととしています。  近年、農福連携は、障害者だけではなく、高齢者の支援や生活困窮者の就労訓練など、広がりのある取組となってきています。また、犯罪や非行をした者の立ち直り支援の方策のひとつとしても農業が注目されています。さらに、農業のみならず林福連携、水福連携の取組が見られるなど、「農」、「福」の双方において、従来の枠組にとらわれない取組が展開され始めてきており、農福連携等推進ビジョンにおいても、今後、農福連携における「農」と「福」のそれぞれの広がりを推進していくこととしています。 4 農福連携等応援コンソーシアムの取組  農福連携の取組の輪を拡大するために設置した「農福連携等応援コンソーシアム」では、全国で農福連携に取り組む団体・企業や個人を募集し、農福連携の優れた取組を表彰し、その横展開を図る取組として「ノウフク・アワード」を2020(令和2)年から実施するとともに、2021(令和3)年からは、「異なるものとつながる力!」を合言葉に各界が連携し、対話を通じて社会課題の解決や、新たな価値創造を図るプラットホームである「ノウフク・ラボ」を立ち上げる等の取組を進めることにより、農福連携の全国的な展開につなげることとしています。  農福連携の推進に向けては、今後も様々な取組を進めてまいりますので、その詳細につきましては、WEBの情報も是非ご参照下さい。 農福連携等応援コンソーシアム(農林水産省HP) 農福連携の取組事例(農林水産省HP) ノウフク・ラボ(ノウフクWEB) ※https://noufuku.jp/know/survey/(一般社団法人日本基金:農林水産省農山漁村振興交付金事業) 図1 農福連携等推進ビジョン(概要) 令和元年6月4日「第2回農福連携等推進会議」において決定 T 農福連携等の推進に向けて  農福連携は、農業と福祉が連携し、障害者の農業分野での活躍を通じて、農業経営の発展とともに、障害者の自信や生きがいを創出し、社会参画を実現する取組  年々高齢化している農業現場での貴重な働き手となることや、障害者の生活の質の向上等が期待  農福連携は、様々な目的の下で取組が展開されており、これらが多様な効果を発揮されることが求められるところ  持続的に実施されるには、農福連携に取り組む農業経営が経済活動として発展していくことが重要で、個々の取組が地域の農業、日本の農業・国土を支える力になることを期待  農福連携を全国的に広く展開し、裾野を広げていくには「知られていない」「踏み出しにくい」「広がっていかない」といった課題に対し、官民挙げて取組を推進していく必要  また、ユニバーサルな取組として、高齢者、生活困窮者等の就労・社会参画支援や犯罪・非行をした者の立ち直り支援等、様々な分野にウイングを広げ地域共生社会の実現を図ることが重要 (SDGsにも通じるもの)  農福連携等の推進については、引き続き、関係省庁等による連携を強化 U 農福連携を推進するためのアクション  目標:農福連携等に取り組む主体を新たに3,000創出※ 1 認知度の向上  ・定量的なデータを収集・解析し、農福連携のメリットを客観的に提示  ・優良事例をとりまとめ、各地の様々な取組内容を分かりやすく情報発信  ・農福連携で生産された商品の消費者向けキャンペーン等のPR活動  ・農福連携マルシェなど東京オリンピック・パラリンピック等に合わせた戦略的プロモーションの実施 2 取組の促進 〇 農福連携に取り組む機会の拡大  ・ワンストップで相談できる窓口体制の整備・スタートアップマニュアルの作成  ・試験的に農作業委託等を短期間行う「お試しノウフク」の仕組みの構築  ・特別支援学校における農業実習の充実  ・農業分野における公的職業訓練の推進 〇 ニーズをつなぐマッチングの仕組み等の構築  ・農業経営体と障害者就労施設等のニーズをマッチングする仕組み等の構築  ・コーディネーターの育成・普及  ・ハローワーク等関係者における連携強化を通じた、農業分野での障害者雇用の推進 〇 障害者が働きやすい環境の整備と専門人材の育成  ・農業法人等への障害者の就職・研修等の推進と、障害者を新たに雇用して行う実践的な研修の推進  ・障害者の作業をサポートする機械器具、スマート農業の技術等の活用  ・全国共通の枠組みとして農業版ジョブコーチの仕組みの構築  ・農林水産研修所等による農業版ジョブコーチ等の育成の推進  ・農業大学校や農業高校等において農福連携を学ぶ取組の推進  ・障害者就労施設等における工賃・賃金向上の支援の強化 〇 農福連携に取り組む経営の発展  ・農福連携を行う農業経営体等の収益力強化等の経営発展を目指す取組の推進  ・農福連携の特色を生かした6次産業化の推進・障害者就労施設等への経営指導  ・農福連携でのGAPの実施の推進 3 取組の輪の拡大  ・各界関係者が参加するコンソーシアムの設置、優良事例の表彰・横展開  ・障害者優先調達推進法の推進とともに、関係団体等による農福連携の横展開等の推進への期待 V ○農○福連携の広がりの推進  「農」と「福」のそれぞれの広がりを推進し、農福連携等を地域づくりのキーワードに据え、地域共生社会の実現へ 1 「農」の広がりへの支援  林業及び水産業において、特殊な環境での作業もあることにも留意しつつ、障害特性等に応じた、マッチング、研修の促進、経営発展を目指す取組の推進、林・水産業等向け障害者就労のモデル事業の創設 2 「福」の広がりへの支援  高齢者、生活困窮者、ひきこもりの状態にある者等の働きづらさや生きづらさを感じている者の就労・社会参画の機会の確保や、犯罪や非行をした者の立ち直りに向けた取組の推進 ※令和6(2024)年度までの目標 【P28-29】 ニュースファイル 国の動き 厚生労働省 「現代の名工」に障害者部門など  厚生労働省は、卓越した技能を持ち、その道で第一人者と目(もく)されている技能者150人を2023(令和5)年度の「卓越した技能者(現代の名工)」に選んだと発表した。本年度から新たに障害者部門などを設け、国内できわめて優れた技能を持ち活躍している障害のある技能者も表彰している。  今回は、紳士服仕立職の瀧(たき)こと代(よ)さん(81歳、静岡県)、歯科技工士の中澤(なかざわ)昇一(しょういち)さん(57歳、東京都)、ソフトウェア開発技術者の齋藤(さいとう)正夫(まさお)さん(75歳、石川県)の3人が選出された。  発表によると、瀧さんは独学で紳士服製造の技能を学び、左上肢の機能障害となった後も技能向上を続け、2007(平成19)年の第7回国際アビリンピック「洋服- 紳士服」で銅賞を受賞。聴覚障害のある中澤さんはセラミックの補てつ物製作における卓越した技術を持ち、2021年の第41回全国アビリンピック(東京都)「歯科技工」で金賞を獲得した。齋藤さんは、視覚障害の当事者として、1983(昭和58)年からデジタルデータを音声で読み上げるパソコン用ソフトウェアの開発に着手、世界初の日本語「スクリーンリーダー」を開発し、改良を重ねてきた。3人は長年にわたり後進の指導や障害者の社会参加・社会進出にも尽力した。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36120.html 生活情報 宮崎 ろう者ら製作の映画DVDに  「社会福祉法人宮崎県聴覚障害者協会」(宮崎市)が製作し、宮崎市内で2023(令和5)年春に上映されたドキュメンタリー映画「おわりなき聲(こえ)」のDVDを、同協会が販売開始した。  脚本・監督を務めたのは、自身も生まれつき聴覚障害のある盛田(もりた)弘(ひろし)さん。これまでの実体験や県内に暮らすろう者のエピソードから着想を得て、ろう者の努力と「変化の物語」をリアルに描いた作品となっている。本編と制作舞台裏ドキュメンタリー作品「circle」を含め計61分のDVDは1枚2000円(税込)。上映会をする学校や団体なども募っている。  購入や上映会の問合せは同協会の宮崎県立聴覚障害者センターまで。 電話:0985−38−8733 FAX:0985−29−2279 働く 岩手 障害者アートのラッピング車両  JR東日本盛岡(もりおか)支社は、知的障害のある作家のアート作品事業を展開する「株式会社ヘラルボニー」(盛岡市)とのコラボレーション企画で、アート作品のラッピング車両を2023(令和5)年10月から約2年間の予定で運行している。おもに釜石(かまいし)線(花巻(はなまき)駅〜釜石駅間)、東北本線(花巻駅〜盛岡駅間)を走行する「快速はまゆり」で、3両編成のうち2両にラッピングされている。  作品は、陸前高田(りくぜんたかた)市在住の先天性の脳性まひと知的障害がある田ア(たざき)飛鳥(あすか)さんが描いた「森の道・赤い森」と「森の道・青い森」の2作品で、「岩手らしさ」や「東北の豊かな自然」をイメージできるとして選ばれた。 埼玉 スーパー運営企業が子会社設立  食品スーパーマーケットを運営する「株式会社ヤオコー」(川越(かわごえ)市)は、障害者の安定した職場環境の確保を図るため、子会社の「株式会社ヤオコーハーモニー」を設立する。  特例子会社の認定取得を前提に、2024(令 和6)年4月に東松山市(ひがしまつやまし)坂東山(ばんどうやま)で開業する予定。同社の食品製造、加工、包装など付帯する業務を行う。 本紹介 『障害者雇用で幸せになる方法もにす認定5社の企業戦略』  全国の障害福祉施設で働く障害者がつくった商品を販売している「一般社団法人ありがとうショップ」(東京都)の代表理事を務める砂長美(すなながび)んさんが監修を務めた『障害者雇用で幸せになる方法 もにす認定5社の企業戦略』(ラグーナ出版刊)が出版された。  中小企業向けの障害者雇用の認定制度「もにす認定制度」の成り立ちや意義、申請方法などを解説し、いち早く障害者雇用に取り組んできた5社の多様な実例を紹介している。資料として「もにす認定制度」チェックリストや「もにす認定」事業主一覧も掲載。四六判216ページ、2200円(税込)。 『発達障害のある高校生のキャリア教育・進路指導ハンドブック−就労支援編−』  独立行政法人国立特別支援教育総合研究所発達障害教育推進センター主任研究員の榎本(えのもと)容子(ようこ)さんと、同センター総括研究員の井上(いのうえ)秀和(ひでかず)さんが編著を務めた『発達障害のある高校生のキャリア教育・進路指導ハンドブック−就労支援編−』(学事出版刊)が出版された。  発達障害のある高校生の基礎理解から、就労に必要な指導・支援のポイント、就労のための制度・施策、職場定着を見すえた支援のあり方、相談・支援機関との具体的な連携方法、企業のサポート体制まで、幅広くイラストやQ&A形式を交えて解説。巻末には就労支援に役立つ資料も紹介している。B5判136ページ、3080円(税込)。 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2023年度地方アビリンピック開催予定 2月 東京都、京都府、香川県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります * は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 写真のキャプション 東京都 京都府 香川県 ミニコラム 第32回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は菊地委員が執筆しています。ご一読ください。 「働くこと」への意味づけや価値づけとその変化 弘前大学教職大学院教授 菊地一文  これまで特別支援学校では、職業教育の充実を図り、作業現場などにおける実習などの実際的に働く体験を大切にしてきた。実際的かつ具体的な活動を通して、生徒が働くために必要な知識や技能を身につけていけるよう努めてきたが、それだけでは卒業後の働く生活は成立しにくく、「働くこと」そのものへの意味や価値に生徒自身が気づいていく過程、すなわち「キャリア発達」の視点が求められてきた。  働くことの意味や価値は教えこむことがむずかしい。また、本来「働くこと」と「学ぶこと」は、乖離した関係ではないはずである。つまり、指導・支援する側が、生徒にとっての「学ぶこと」と「働くこと」をつなぐ工夫や、学びの過程で生じる生徒の育ちを見取り、適切に応じていくことが必要となる。そのためには、生徒が体験をふり返り、その意味や価値に気づけるような機会を大切にする必要がある。また、対話を通してなりたい自分とそのために必要なことの意識化を図ることや、本人の取組みを価値づけることで、生徒本人が取組みを重ねていけるよう支援していくことが肝要となる。  京都市立東山総合支援学校は、多様な地域協働活動を通して、異なる年齢の相手の求めに応じていく「心が動く」体験を重視してきた。そして生徒本人を中心に、教師と生徒、生徒同士の対話を重ねることで、単なる体験にとどめず、生徒の見方や受けとめ方、行動に影響を与える、たしかな「経験」につなげてきた。社会のなかでよりよく生きていくことを実現するためには、希望する進路先にかかわらず、このようなカリキュラム全体を通した資質・能力の育成と本人を中心とした取組みが求められる。  全国のどの特別支援学校にも地域リソースがあるはずであり、今後、その活用を通した小学部段階からの実践のアップデートを期待したい。また、近年求められている「キャリア・パスポート」の活用により、対話を通した「いま」と「将来」の「学びをつなぐ」取組みの充実を期待したい。 【P30】 掲示板 JEEDメールマガジン 登録受付中!  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、JEEDが全国で実施する高齢者や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を、毎月月末に配信しています。 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当者のみなさま、必読! ○高○齢 定年延長や廃止・再雇用 ○障○害 障害のある従業員の新規・継続雇用 ○求○職 ものづくり技能開発・向上の手段 みなさまの「どうする?」に応えるヒント、見つかります! JEED メルマガ で 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 次号予告 ●私のひとこと  京都大学学生総合支援機構准教授の村田淳さんに、障害のある学生の就職活動や就職状況などについて、ご執筆いただきます。 ●職場ルポ  総合ビルメンテナンス業の株式会社白青舎(東京都)を訪問。同社で働く、国立職業リハビリテーションセンター(埼玉県)の修了生の様子などを取材しました。 ●グラビア  株式会社伊予銀行の特例子会社である、株式会社いよぎんChallenge & Smile(愛媛県)を取材。「伝福連携」を推し進め、県内の伝統工芸品を製作する様子を紹介します。 ●クローズアップ  「障害のある人とスポーツ」第2回は、2023年9月まで競泳のパラアスリートとして活躍された、株式会社NTTドコモ(東京都)の山田拓朗さんに、これまでの競技生活や現在の仕事について、お話をうかがいました。 読者アンケートはこちら 公式X(旧Twitter)はこちら 本誌購入方法  定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。  1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み 株式会社広済堂ネクストまでご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境 伸栄 編集人−−企画部次長 中上英二 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6526(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社広済堂ネクスト 〒105−8318 東京都港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 2月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和6年1月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 管理部次長 金井渉 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田淳 常磐大学 准教授 若林功 【裏表紙】 −アビリンピック− アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 最新情報はコチラ! 第44回全国障害者技能競技大会 障害者ワークフェア2024 〜働く障害者を応援する仲間の集い〜 2024/11/23(土) (11/22(金)→11/24(日)) 愛知県国際展示場 (愛知県常滑市セントレア5丁目10番1号) 2月号 令和6年1月25日発行 通巻556号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)