特集 第43回 全国アビリンピック 11月17・18・19日  「第43回全国障害者技能競技大会(全国アビリンピック)」が2023(令和5)年11月17日(金)〜19日(日)、「第61回技能五輪全国大会」とともに愛知県常とこ滑なめ市の愛知県国際展示場で開催された。全国から集まった選手369人が25種目の技能競技に参加したほか、2職種の技能デモンストレーションが実施され、応援や見学のために多くの人たちも訪れた。  また会場には、「第11回国際アビリンピック」が2027年5月にフィンランド共和国のヘルシンキ市で開催されることを伝える看板なども設置され、来場者の関心を集めていた。 文:豊浦美紀/写真:官野貴・岩尾克治 11月17日(金) 開会式  第61回技能五輪全国大会との合同開会式はウェブ配信形式で行われた。愛知県立愛知総合工科高等学校音楽部による国歌斉唱では、「建築CAD」種目に出場する天野(あまの)寛隆(ひろたか)さん(愛知県)がピアノ伴奏を務めた。続いて武見(たけみ)敬三(けいぞう)厚生労働大臣がビデオメッセージで「(この大会が)障害のある方々の職業能力向上に向けた高い意欲や技能に対し、国民の理解を深める大きな契機となると確信しています」などと挨拶し、大会会長である当機構(JEED)の輪島(わじま)忍(しのぶ)理事長が「1972(昭和47)年から開催されてきたアビリンピックは昨年50周年、日本から始まった国際アビリンピックは今年10回目を迎えました。選手のみなさんには、都道府県の代表としての誇りを胸に、これまで職場や学校などで磨き上げた技をいかんなく発揮していただくことを期待します」などと激励した。  大会旗の入場でアビリンピック大会旗の旗手を務めたのは、「ビルクリーニング」種目に出場する澤井(さわい)翔(しょう)さん(東京都)。選手宣誓では、「喫茶サービス」種目に出場する青山(あおやま)杏梛(あんな)さん(東京都)が、技能五輪の選手とともに「われわれ選手一同は、職場の指導者、仲間、そして家族への感謝を胸に、全国大会という晴れの舞台で日々つちかった技能を最大限に発揮し、正々堂々と競い合うことを誓います」と表明した。 11月18日(土) 競技紹介 選手・関係者の声 ●ビルクリーニング/喫茶サービス/オフィスアシスタント/製品パッキング  「ビルクリーニング」は、カーペット床の清掃(7分)(※1)、弾性床(だんせいゆか)の清掃と机上清掃(10分)の2課題。勤務先の制服姿で競技に臨んだ片岡(かたおか)徹(とおる)さん(徳島県)は、ビルメンテナンス会社に入社して6年目。同行の上司は「県庁知事室のお手洗いの清掃も任せられるほど信頼しています」という。そして片岡さんは、競技後に「最初は少しあわてましたが、最後までやり切りました」とふり返っていた。  「喫茶サービス」は、会場内の模擬喫茶店で3人程度のグループごとに接客サービスを行う(1グループ約60分)。お客さまの立場に立った正確かつスムーズなサービスを目ざす。高橋(たかはし)夏姫(なつき)さん(大分県)は、社会福祉法人が運営するカフェでホールを担当。「これまでの反省点を見直し、積極的に動いていきたいです」と語っていた高橋さんは、念願の金賞受賞を果たした。  「オフィスアシスタント」は、配布物の準備として書類とポケットティッシュ、付箋を手さげ袋に入れる作業(15分)、発送書類の封入(30分)、社内便の仕分け(10分)の3課題。鎮目(しずめ)英美理(えみり)さん(山梨県)は、食品関連の会社で食材を詰める仕事をしている。「昨年、訓練校ですすめられてアビリンピックに初挑戦しました。競技は最後までがんばりたい」と話してくれた。同じく初出場の平田(ひらた)梨沙(りさ)さん(奈良県)は調理器具の洗浄業務などの仕事をしていたが、ほかの仕事に挑戦したいと、現在は県立高等技術専門校で学んでいる。競技前に「アビリンピックの経験を活かして事務職に就きたい」と意気込んでいた。  「製品パッキング」は、緩衝材の組立て・結束25セット(30分)、小箱・中箱・化粧箱・外箱の組立て・組込・セットアップ4梱包(60分)の2課題だ。機器メーカーに勤める松浦(まつうら)健太郎(けんたろう)さん(山形県)は、昨年は地方アビリンピック山形大会独自競技の「製品パッキング(初級)」で実績を残し、今年は地方大会を勝ち抜き、全国大会出場を果たした。「時間内に終えられるようがんばりたい」と話す松浦さんのそばで、上司は「職場で本人の担当は部品の袋詰めですが、アビリンピック挑戦で自信をつけ、社内周知や業務拡大につなげていけたら」と話していた。宇野(うの)智貴(ともたか)さん(岐阜県)は、職場では帳票の管理や送付の作業を担当。競技後に「前回よりていねいさを心がけて取り組みました。メダルをとりたいです」と話していた通り、銀賞を受賞した。 ●ワード・プロセッサ/パソコンデータ入力/パソコン操作/表計算  「ワード・プロセッサ」は、ワープロソフトを使い、作成見本と作業指示書を見ながら和文文書の作成(80分)と英文文書の作成(60分)を行う。志水(しみず)馨(かおる)さん(岐阜県)は、特別支援学校時代はパソコン部に所属し、いまは地方銀行の特例子会社で働いて4年目。職場では書類の電子化業務を担当している。競技後「余白の“マージン”という言葉や図形の組合せ方がわからず戸惑いましたが、自分の課題も見つけられて勉強になりました」と満足そう。応援に来ていた同社の社長は「2年前から会社としてアビリンピック挑戦を支援し、今回10人が手をあげました。練習を通して自ら学ぶことも多いようです」と話し、また、「日ごろから彼らの能力の高さに驚かされています。今日応援に来ている社員たちは、さまざまな競技を見て感じることもあるはずです」と語った。  そして競技終了後、第10回国際アビリンピック(※2)「英文ワープロ」種目銀メダリストで、特別賞受賞者の佐藤(さとう)翔悟(しょうご)さんによる実演も披露された(※3)。  知的障害のある選手が対象の「パソコンデータ入力」は、アンケート入力、書類とパソコン画面上のデータを見比べたうえでの文書修正、表計算ソフトを使った帳票等作成の3課題(各30分)で、速さと正確さを競う。大原(おおはら)尚史(なおふみ)さん(滋賀県)は、入社7年目の会社でデータ入力や事務補助業務を担当し、上司のすすめでアビリンピックに挑戦し始めたという。「アビリンピックは全国のレベルがわかると同時に、ほかの競技も見ることができて勉強になります」と前向きに話していた。  視覚障害のある選手が対象の「パソコン操作」は、パソコン画面情報読み上げソフトや拡大読書器などの支援機器を活用し、表データの修正・加工や差込文書機能の利用、プレゼンテーションソフトによる資料作成など4課題(90分)。石K(いしぐろ)知頼(ともより)さん(新潟県)は、入社7年目の特例子会社で20人ほどに仕事をふり分けるリーダー役。アビリンピックには盲学校時代から挑戦してきた。競技後、「見た目を意識して取り組みました。今後もアビリンピックでの経験を活かしていきたいです」と語っていた。  「表計算」は、表計算ソフトを使用し、表の装飾・編集、関数式による表の完成、データ処理およびグラフ作成を行い、総合的なスキルを競う(75分)。下田(しもだ)康幸(やすゆき)さん(群馬県)は、職場では集計業務などを担当。「毎回ひねりがきいている課題が出る全国アビリンピックで、自分の足りない部分を認識します。若い世代を指導する年齢と立場ですが、自己研鑽(けんさん)は続けていきたいです」と語っていた。 ●DTP/データベース/ホームページ/コンピュータプログラミング  「DTP」の課題は、観光業界における「マイクロツーリズム」という新しいムーブメントをテーマに、アフターコロナの時代に消費者の興味を喚起するリーフレット(表面カラー・裏面モノクロ)の作成(3時間30分)。4回目の挑戦で全国アビリンピック出場を決めたという菅野(かんの)雄喜(ゆうき)さん(宮城県)は、競技前「説明会で審査員にわからない部分を教えてもらい安心しました。自分のペースでがんばりたいです」と意気込んでいた。お子さんを抱っこした夫に応援されていた井門(いど)明日香(あすか)さん(愛媛県)は、前回の全国アビリンピック銀賞受賞を機に転職、希望していたDTPオペレーターとして働いているそうだ。「今回は持ち込めるデータ素材が限られ、本番でどれだけ描けるかがポイントでした。得意のイラストを活かしました」と話していた。  「データベース」は、雑貨販売店における売上を管理する「売上管理システム」を指定された10の課題に沿って作成する(3時間)。小林(こばやし)隆誠(りゅうせい)さん(愛知県)は、会社でデータ入力やシステムを組む仕事などを担当。職場の上司が「社内では『先輩が出たなら私も』などとアビリンピック挑戦者が増え、今回の地方大会は約15人です。練習しながら効率的な作業にもつながるなど、よい影響も広がっています」と語っていた小林さんは、金賞を受賞した。  「ホームページ」は、「観光農園に関するホームページ作成」をテーマとする課題(4時間30分)。事前課題として作成・提出した作品に対し、当日新たに提示された要件・仕様に沿って制作する。三浦(みうら)寿規(としき)さん(宮城県)は、脊椎(せきつい)損傷による重度の身体障害があり寝たきりだが、競技会場では、目の前に固定された棒状のスイッチを口先で触れながら器用にパソコンを操作していた。約8年前から就労継続支援B型事業所で週3日、1日4時間の在宅勤務をしている。同行していた関係者によると「すばらしい実力の持ち主で、企業のホームページなどを制作しています」という。母親は「以前から働きたいといっていて、事業所で本格的にプログラミングなどを習得したようです。アビリンピックに出たいという本人の強い意思で、ここまで無事にやってこられました」。「この仕事が好きです」と答えてくれた三浦さんは、努力賞を獲得した。  「コンピュータプログラミング」は、ロボットの動きを指示するプログラムを作成し、動きの指示のしやすさや動作確認の機能、ロボットを動かしたときの正確さや速さを競う(6時間)。稲葉(いなば)洋介(ようすけ)さん(東京都)は、第三セクター企業でパソコンの研修指導をしている。「同僚に仕事を肩代わりしてもらいながら準備をしてきましたが、本番では仕様が違う点も多く苦労しました。アビリンピックには、今後も挑戦したいですね」と語っていた。 ●機械CAD/建築CAD/電子機器組立/パソコン組立  「機械CAD」の課題は、「リフト機構」の部品図と組立図、軸測投影法による組立図と立体分解図の作成(3時間10分)。IT職業訓練センターに通う東(ひがし)蒼一郎(そういちろう)さん(熊本県)は、「ソフトが違うこともあり、むずかしかったですね」と話す一方で、「機械CADを扱う職場で働くことになったので、仕事に慣れたらまた挑戦してみたいです」と意欲を見せた。  「建築CAD」は、集合住宅を目的とした鉄筋コンクリート造3階建てビルの図面(縮尺1/100の平面図、立面図、断面図)をA3用紙2枚に仕上げる(3時間30分)。割石(わりいし)崇寛(たかひろ)さん(栃木県)は、多機能型事業所で2年前から建築CADの勉強を始めた。事業所の関係者によると、「体調を崩して中断することもありましたが、アビリンピックを目標に強い意思でがんばってこられました」という。割石さんは競技後、「こんなに限られた時間で手がけたことがなく、たいへんでしたが、今後もスキルアップしていきます」と答え、努力賞を受賞した。  「電子機器組立」の課題は、省エネコントローラーの組立て(4時間)。なかでも「はんだ付け」作業は、機器の信頼性に影響をおよぼす重要な部分だという。埼玉県にある、JEEDが運営する国立職業リハビリテーションセンターで学ぶ浅野(あさの)壱哲(いってつ)さん(埼玉県)は、競技後に「完成させることができず、準備不足と実力不足を痛感しましたが、こうした経験を活かして就職にもつなげていきたいです」と話していた。  「パソコン組立」は、デスクトップ型パソコンの指定された部品を取り外し、メンテナンス作業後に組み立て直して、ソフトウェアのインストールや設定を行う(4時間)。島田(しまだ)静香(しずか)さん(北海道)は、NPO法人が運営するパソコン教室で教えたりパソコン検品などを担当したりしている。4回目の全国アビリンピックだが「じつはCPUファンの組立てが苦手で、今日もつまずいています。少しでも完成に近づけるようがんばります」と気持ちを奮い立たせていた。 ●歯科技工/義肢/家具/木工  「歯科技工」は前回大会から、歯科医療業界で多く使われているソフトを使った競技になっている。課題は、2種類のデジタルカービング(各2時間30分)だ。小林(こばやし)正典(まさのり)さん(千葉県)は、全国アビリンピックで銀賞受賞経験もあるベテラン。競技後「今回は課題内容が想定外でむずかしかったです。歯科技工もデジタル化になりつつあるので、今後もスキルアップに努めていきたいです」と答えてくれた。  「義肢」の課題は、繊維強化プラスチック製の「下腿義足ソケット」の製作(4時間15分)。7年ぶりの全国アビリンピックという武内(たけうち)啓(あきら)さん(愛知県)は13年前、交通事故で義足となったのを機に義肢装具士となった。参加選手は1人で孤軍奮闘のなか「実力は出し切ったと思います」と話していた武内さんは、見事金賞を受賞した。  「家具」の課題は、花台の製作(5時間30分)。板と板、角材と角材の接合をいかに正確に加工できるかが重要だ。参加選手は、聾(ろう)学校に通う奥野(おくの)大和(やまと)さん(長崎県)と、同校OBで船舶装備会社に勤める田中(たなか)匠貴(しょうき)さん(長崎県)の2人。競技後、奥野さんは「朝早く学校に行って練習してきました。時間オーバーでしたが楽しかったです。来年も出て1位になれるようがんばりたいです」、田中さんは「仕事でバタバタして練習時間が足りないと思い努力しました。課題内容は勉強になりました。来年も出て、国際大会を目ざしたいです」と、それぞれ思いを伝えてくれた。  知的障害のある選手が参加する「木工」の課題は、「蓋(ふた)付き木箱」の製作(5時間)。のこぎり、のみ、かんななどの手工具を使いこなして洗練された製品づくりを競う。斉藤(さいとう)大地(だいち)さん(北海道)は、手先を使った作業が得意で、就労継続支援B型事業所では木のおもちゃのやすりがけを担当。「作業台の高さが変わるだけで、微妙にむずかしくなりますね。ふた部分は練習より早くできた分、油断して箱の作業が遅れました。作業所でもおもちゃをつくるようになりたいです」と語っていた斉藤さんは、銀賞入賞を果たした。 ●洋裁/縫製/フラワーアレンジメント/ネイル施術/写真撮影  「洋裁」の課題は、薄手ウールを使ったオーダー仕立ての「オーバーブラウス」の製作(6時間)。支給される粗裁(あらだ)ちした布地を使い、裁断から芯貼り、印付け、本縫いミシン、アイロン、ロックミシンの順で作業を進める。小濱(おばま)望(のぞみ)さん(鹿児島県)は、昨年は障害者職業能力開発校から全国アビリンピックに出場した後、義肢製作所に就職。職場もアビリンピック出場への理解があるそうだ。「練習では余裕があったのに、本番では慎重になってしまいました」と話していた小Mさんだが、金賞に輝いた。  「縫製」の課題は、エプロンの縫製で、配付された9枚のパーツをミシンやアイロンなどを使って完成させる(4時間)。銅賞入賞の経験もある前田(まえだ)章江(あきえ)さん(熊本県)は、社会福祉法人が運営する作業所に通いながら、好きな縫製でアビリンピックに挑戦し続けてきた。競技後、「最後まで完成できましたので、とてもよかったです。またがんばります」と笑顔で話していた。  「フラワーアレンジメント」は花束、花嫁のブーケ、会場装飾(ワンサイドアレンジメント)に、今回から新たにサプライズ競技を加えた4課題(60分・60分・45分・45分)となった。不動産関連会社に勤める井口(いぐち)健太郎(けんたろう)さん(東京都)は、就労継続支援B型事業所で始めたフラワーアレンジメントを個人的に学び続け、いまは顧客に贈る花をつくる部署のリーダー役だ。「前回大会の講評でいわれた“滝の流れのように”というブーケのつくり方を、教室の先生に教えてもらいました」とふり返った井口さんは、銅賞を獲得。同行した先生は「彼は子ども向けの教室で教える立場でもあり、そこに通う障害のある子どもたちにも夢を与える存在です」とたたえていた。  「ネイル施術」は、ネイルケアとカラーリング(75分)、ネイルチップアート(70分)の2課題。宮城県代表の及川(おいかわ)晴菜(はるな)さんと河邊(かわべ)由菜(ゆな)さんは、私立特別支援学校の3年生だ。授業でネイルや着付けなどを学んでいるという。及川さんは「いままでにないぐらい集中しました。練習通りにできて満足です」、河邊さんは「緊張しましたが、イラストを描くのは楽しかったです」と笑顔を見せてくれた。  「写真撮影」は、愛知県国際展示場で開催されるアビリンピックを、パンフレットやホームページ上で紹介することを想定した魅力的な写真を撮影し、6枚を選択してプリントする(4時間)。聴覚障害のある福田(ふくだ)孝二(こうじ)さん(鳥取県)は、勤務先である県警本部の広報関連部署で一眼レフカメラを使って仕事をしているそうだ。「前日のオリエンテーションで内容を理解し、にぎわっていた展示場内外では、みなさんに親切にしていただいて撮影できました」と答えてくれた。 ●技能デモンストレーション物流ワーク/ドローン操作  前回に続き披露された「物流ワーク」は、国立職業リハビリテーションセンターのアシスタントワーク科に通う3人が参加した。倉庫の棚にストックしてある品物を指示書通りに選び出し、折りたたみコンテナに詰める。さらに納品物が伝票通りかを確認して店内の棚に補充するという流れだ。地方アビリンピック埼玉大会では以前から独自競技として実施している。担当者によると「コンビニやスーパー、ドラッグストアでの品出し作業を想定した訓練を重ね、就職につなげています」という。昨年のデモンストレーションでは「うちの県でもやってみたい」という関係者もいたそうだ。  一方、今回初めての「ドローン操作」は、建築物の点検業務を想定し、高い場所や操縦者から見えない位置に設置された複数の対象物をドローンで見つけて撮影し、位置を把握するという内容。デモンストレーションを実施した、岡山県にあるJEEDが運営する国立吉備高原職業リハビリテーションセンターの指導員は「ドローン操作の訓練は昨年から始め、撮影や設備点検関連の仕事に活かしてもらう予定です」と説明する。技を披露してくれた中山(なかやま)友希(ゆうき)さんは「初めてドローン操作を学んでいますが、楽しいです」と話してくれた。 ●障害者ワークフェア2023  競技エリアの隣接フロアで開催された「障害者ワークフェア2023〜働く障害者を応援する仲間の集い〜」は、アビリンピックの一環として開催しており、障害のある人の職業能力や雇用に関する展示・実演などを通して来場者に理解と認識を深めてもらうことが目的。今年は91団体・事業所などが、「能力開発エリア」、「就労支援エリア」、「職場紹介エリア」、「特設コーナー」にそれぞれ出展したほか、特設ステージでは出展者の紹介や実演、トークセッションなどが開催された。  トークセッションでは、第10回国際アビリンピック「歯科技工」種目金メダリストである中川(なかがわ)直樹(なおき)さん(※4)、東京2020パラ五輪のパラバドミントン金メダリストの山崎(やまざき)悠麻(ゆま)さん、里見(さとみ)紗李奈(さりな)さんらが、「挑戦」をテーマに意見を交わした。 11月19日(日) 閉会式  閉会式には、前日熱戦をくり広げた大勢の選手たちが参加。厚生労働省の岸本(きしもと)武史(たけし)人材開発統括官の挨拶に続き、成績発表と表彰式が行われた。競技種目ごとに努力賞・銅賞・銀賞・金賞の受賞者が発表され、ステージ上の表彰台では、大きな拍手とともに受賞者にメダルが授与された。  次回大会開催地である愛知県の大村(おおむら)秀章(ひであき)知事が、大会旗の引継ぎ後に挨拶。最後に、JEEDの輪島忍理事長がアビリンピックのマスコットキャラクター「アビリス」とともに登壇し、「2027年にフィンランドのヘルシンキにおいて第11回国際アビリンピックを開催することが決まりました。JEEDにおいても国際アビリンピックに向けて国内大会の充実を図っていきます」などと締めくくった。閉会式終了後は、専門委員による講評の場が設けられ、アドバイスを求める選手たちの長い列ができていた。 金賞受賞者たちの喜びの声  「洋裁」の小濱(おばま)望(のぞみ)さん(鹿児島県)は、「念願の金賞をいただけたことが、とってもうれしいです。まだまだ足りない知識や技能があるとわかったので、今後も勉強していきながら、国際大会を目ざしたいです」。  「DTP」の石川(いしかわ)小百合(さゆり)さん(東京都)は2回目の全国大会。IT企業の印刷部署で働いているという。「実感がわかないのですがありがたいです。今後も仕事に活かしていきながら、国際大会に行けたらと思っています」。  「機械CAD」の植村(うえむら)晃(あきら)さん(愛知県)は、職場でもCADの管理業務にたずさわる。「これまで何回も参加してきたので、すごくうれしいです。経験を活かしてさらにスキルアップしながら国際大会への出場も目ざしていきたいです」。  「建築CAD」の天野(あまの)寛隆(ひろたか)さん(愛知県)は、2回の銀賞からの金賞。「とてもうれしいです。つちかってきたスキルを仕事にも活かしていきます。アビリンピックという目標に向けてがんばることができました。今後は違う種目にも挑戦してみたいです」。  「電子機器組立」の岡本(おかもと)是信(これのぶ)さん(愛知県)は、勤務先である自動車部品メーカーの先輩が昨年、金賞を受賞。自身も初出場での快挙に「目標を達成することができてよかったです。これからも精進してがんばっていきたいです」。  「義肢」の武内(たけうち)啓(あきら)さん(愛知県)は、「私自身が義足になった後、この競技に挑戦し続けてきました。しっかりと結果を出すことができてよかったです。まだ研鑽すべき部分もあるのでがんばりながら、国際大会も目ざします」。  「歯科技工」の村むら上祐(かみゆう)太郎(たろう)さん(千葉県)は、「前大会でメダルなしに終わった反省をふまえながら練習をしてきた結果、念願の金メダルを手にすることができ、うれしく思います。これまで支えてくださった方々に恩返しができるようにがんばりたいと思います」。  「ワード・プロセッサ」の前川(まえかわ)哲志(さとし)さん(長野県)は、「前回銀賞の反省から、段取りも考え正確に取り組むようにしました。ようやく金賞がとれ、うれしいです。今後も障害のある方たちの活躍を多くの人にも知ってもらえるといいと思います」。  「データベース」の小林(こばやし)隆誠(りゅうせい)さん(愛知県)は、銅賞、銀賞からの金賞。「すごくうれしいです。職場でバックアップをしてもらいつつ自宅でも練習してきました。データベースは出場者が多くないので、もっと門戸が広がってほしいですね」。  「フラワーアレンジメント」の神田(かんだ)優花(ゆうか)さん(愛知県)は、努力賞からのジャンプアップ。「出身の聾学校の後輩たちにも、努力が結果につながることを示すことができました。アビリンピックは、いろいろな人に技能を知ってもらえるきっかけになります」。  「コンピュータプログラミング」の角田(かくた)智活(ともかつ)さん(青森県)は、「成果を評価してもらいうれしいです。改善点も承知しているので、精進して高みを目ざします。アビリンピックがもっと知られて、多くの選手が挑戦できる大会になればいいと思います」。  「ビルクリーニング」の伊藤(いとう)直明(なおあき)さん(北海道)は、勤務先ではオフィスビルの清掃業務を担当し、3回目の挑戦で初の全国大会。「いままでの練習の成果を出せたことがよかったのかなと思います。たくさんの後輩たちにも教えていきたいです」。  「製品パッキング」の佐久間(さくま)慶人(けいと)さん(宮城県)は、製造の前加工の作業を担当。昨年金賞だった会社の先輩から助言ももらった。「本当にうれしいです。職場でもパッキング作業があるので、この経験を活かしてがんばっていきたいです」。  「喫茶サービス」の高橋(たかはし)夏姫(なつき)さん(大分県)は、あふれる涙をぬぐいながら「長く挑戦してきて挫折しそうになりましたが、上司が『それでいいの?』とやさしく諭さとしてくれて金賞がとれました。あきらめずに続けてよかったです」。  「オフィスアシスタント」の菊田(きくた)真弓(まゆ)さん(愛知県)は、職場ではメール便業務を担当。「練習は辛いときもありましたが、アビリンピックに挑戦する仲間たちとがんばれました。今後は後輩たちを指導しながら、品質向上に努めていきたいです」。  「表計算」の風晴(かぜはれ)岬(みさき)さん(青森県)は、職場の同僚たちの寄せ書きの旗を手に喜びをかみしめていた。「銅賞、銀賞を経ていたので金賞を狙っていましたが本当にとれてうれしいです。職場の仕事に活かしていきます」。  「ネイル施術」の坂角(さかずみ)ゆかりさん(東京都)は、「前回の銀から金になって感無量です。競技中も含め、これまで応援してくれた職場のみなさんのおかげだと思っています。今後もスキルアップしながら国際大会を目ざしてがんばりたいです」。  「写真撮影」の小林(こばやし)梨乃(りの)さん(北海道)は、特別支援学校で美術部に所属し、趣味で鳥の写真などを撮っているという。「この経験を今後の写真活動にも役立てたいです。見てくれる人に、思いが伝わるような写真を撮り続けていきたいです」。  「パソコン組立」の坂根(さかね)武史(たけし)さん(島根県)は、就労継続支援B型事業所で中古パソコンの整備や修理を担当。「私は30歳を過ぎてから始めて5年半です。みなさんにも、年齢を気にせずにどんどんチャレンジしてほしいですね」。  「パソコン操作」の糸野(いとの)海生(かいき)さん(埼玉県)は、臨床心理士などの資格を持ち、今後は就労支援の現場でカウンセラーとして働くそうだ。「アビリンピックを目ざすプロセスのなかで大きな学びがありました。よい機会をありがとうございました」。  「パソコンデータ入力」の古澤(ふるさわ)俊則(としのり)さん(千葉県)は、職場ではデータ入力や名刺作成などの業務を担当。「時間内に正確に入力することができ、金賞がとれてよかったです。これからも長く会社で働き続けていきたいです」。  「木工」の宮ア(みやざき)裕史(ゆうじ)さん(熊本県)は、多機能型事業所で木製雑貨などをつくっている。「うれしいです」と満面の笑みを見せる本人のそばで、母親は「これまで何度も挑戦し、本番で緊張してうまくいかないことが多かったのですが、今回は驚くほど落ち着いて取り組めたようです」と喜びを分かち合っていた。 ※1 課題内容後の( )内の時間は、競技時間をさします ※2 本誌2023年6月号で「第10回国際アビリンピック」を特集しています。https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/202306.html ※3 今号の「メダリストを訪ねて」(14〜17ページ)は、佐藤さんにご登場いただいています。ご一読ください ※4 本誌2023年11月号「メダリストを訪ねて」で、中川さんをご紹介しています。https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202311/index.html#page=4 写真のキャプション 会場となった「愛知県国際展示場」 アビリンピック大会旗の旗手を務めた澤井翔さん(左から2人目)(「第61回技能五輪全国大会・第43回全国アビリンピック合同開会式」公式動画より) 選手宣誓を行った青山杏梛さん(右)(「第61回技能五輪全国大会・第43回全国アビリンピック合同開会式」公式動画より) 「オフィスアシスタント」平田梨沙さん(奈良県) 「オフィスアシスタント」鎮目英美理さん(山梨県) 「喫茶サービス」金賞、高橋夏姫さん(大分県) 「ビルクリーニング」片岡徹さん(徳島県) 「製品パッキング」銀賞、宇野智貴さん(岐阜県) 「製品パッキング」松浦健太郎さん(山形県) 「ワード・プロセッサ」志水馨さん(岐阜県) 第10回国際アビリンピック「英文ワープロ」銀メダリストの佐藤翔悟さんによる実演 「パソコンデータ入力」大原尚史さん(滋賀県) 「DTP」井門明日香さん(愛媛県) 「DTP」菅野雄喜さん(宮城県) 「表計算」下田康幸さん(群馬県) 「パソコン操作」石K知頼さん(新潟県) 「電子機器組立」浅野壱哲さん(埼玉県) 「建築CAD」努力賞、割石崇寛さん(栃木県) 「ホームページ」努力賞、三浦寿規さん(宮城県) 「データベース」金賞、小林隆誠さん(愛知県) 「パソコン組立」島田静香さん(北海道) 「コンピュータプログラミング」稲葉洋介さん(東京都) 「歯科技工」小林正典さん(千葉県) 「機械CAD」東蒼一郎さん(熊本県) 「義肢」金賞、武内啓さん(愛知県) 「家具」奥野大和さん(長崎県) 「洋裁」金賞、小M望さん(鹿児島県) 「木工」銀賞、斉藤大地さん(北海道) 「家具」田中匠貴さん(長崎県) 「ネイル施術」宮城県代表の及川晴菜さん(左)と河邊由菜さん(右) 「写真撮影」福田孝二さん(鳥取県) 「フラワーアレンジメント」銅賞、井口健太郎さん(東京都) 「縫製」前田章江さん(熊本県) 技能デモンストレーション「物流ワーク」 技能デモンストレーション「ドローン操作」中山友希さん 「障害者ワークフェア2023」 第10回国際アビリンピック「歯科技工」種目金メダリストの中川直樹さんらが参加したトークセッション みなさん、おめでとうございます! 「建築CAD」金賞、天野寛隆さん(愛知県) 「機械CAD」金賞、植村晃さん(愛知県) 「DTP」金賞、石川小百合さん(東京都) 「洋裁」金賞、小M望さん(鹿児島県) 「ワード・プロセッサ」金賞、前川哲志さん(長野県) 「歯科技工」金賞、村上祐太郎さん(千葉県) 「義肢」金賞、武内啓さん(愛知県) 「電子機器組立」金賞、岡本是信さん(愛知県) 「ビルクリーニング」金賞、伊藤直明さん(北海道) 「コンピュータプログラミング」金賞、角田智活さん(青森県) 「フラワーアレンジメント」金賞、神田優花さん(愛知県) 「データベース」金賞、小林隆誠さん(愛知県) 「表計算」金賞、風晴岬さん(青森県) 「オフィスアシスタント」金賞、菊田真弓さん(愛知県) 「喫茶サービス」金賞、高橋夏姫さん(大分県) 「製品パッキング」金賞、佐久間慶人さん(宮城県) 「パソコン操作」金賞、糸野海生さん(埼玉県) 「パソコン組立」金賞、坂根武史さん(島根県) 「写真撮影」金賞、小林梨乃さん(北海道) 「ネイル施術」金賞、坂角ゆかりさん(東京都) 「木工」金賞、宮ア裕史さん(熊本県) 「パソコンデータ入力」金賞、古澤俊則さん(千葉県)