省庁だより 農福連携の推進について 農林水産省 農村振興局 都市農村交流課 1 広がりを見せる農福連携  農業の担い手の不足という課題を抱えている農業分野、障害者の働く場が少ないという課題を抱えている福祉分野、それぞれが手を結び合い連携することで、双方の課題を解決できるのではないかとの考えから、農福連携の取組が推進されてきており、現在、様々な形で取組が広がっています。  農福連携と聞くと、農業者が障害者を雇用する形、障害者就労施設が農業生産や農産加工に取り組む形を、まずはイメージするのではないかと思いますが、それ以外にも、障害者就労施設が農業者の元に出向き、農作業の一部を請け負う事例、特例子会社が農業に参入する、もしくは地域の農作業を請け負う事例、農業者と障害者就労施設のニーズを農協がマッチングする事例、食品関連企業が農業者や障害者就労施設と連携して新たな品目の栽培を手掛ける事例、地域協議会が農福連携の専門人材育成に取り組む事例など、地域の実情や課題に則した様々な農福連携の形が生まれてきています。 2 農福連携のメリット  農福連携の取組は、農業分野、福祉分野双方の課題解決につながるいわゆるwin・winの関係にあり、農福連携に取り組むことにより、農業経営者にとっても、障害者の健康面でもメリットがあることも分かってきています。  例えば、「令和4年度農福連携に関するアンケート」(※)における、農福連携に取り組む農業経営体を対象とした調査では、「障がい者等を受け入れることの収益性向上に対する効果」について、「効果あり」とした経営体が37.0%、「大きな効果あり」が15.7%、「どちらかと言えばあり」が24.6%で、効果があると回答した経営体が約8割を占めています。  また、農福連携に取り組む福祉事業所を対象とした調査では、約9割の事業所が、農福連携に取り組んだことで事業所の利用者に「プラスの効果あり」と回答しています。  効果の内容を見ると、身体面・健康面への効果では「体力が付き長い時間働けるようになった」、「よく眠れるようになった」などの効果が、精神面・情緒面への効果では「物事に取り組む意欲が高まった」、「表情が明るくなった」などの効果が半数以上の事業所で見られており、農福連携に取り組むことで、障害者の心身の健康面にも良い影響が生じていることがわかります。 3 農福連携推進の方向性  このように農福連携は、障害者が農業分野での活躍を通じ、自立や生きがいを持って社会参画していく取組であり、障害者の就労機会の創出となるだけではなく、農業分野の新たな働き手の確保につながる取組であり、これを通じて農業・農村の維持発展につながることが期待されています。この農福連携を強力に推進するため、2019(令和元)年に内閣官房長官を議長とする「農福連携等推進会議」が設置され、今後の推進の方向性が「農福連携等推進ビジョン」として取りまとめられました(図1)。農福連携の裾野を広げるためには、現場において@知られていない、A踏み出しにくい、B広がっていかないという課題があることから、それぞれの課題に対して、3つのアクションを提起し、@認知度の向上のため、農福連携のメリットの客観的な提示、国民全体に訴えかける戦略的プロモーション、A取組の促進のため、ワンストップで相談できる窓口体制の整備、農福連携を進める専門人材の育成、B取組の輪の拡大のため、各界の関係者が参加するコンソーシアムの設置などに取り組むこととしています。  近年、農福連携は、障害者だけではなく、高齢者の支援や生活困窮者の就労訓練など、広がりのある取組となってきています。また、犯罪や非行をした者の立ち直り支援の方策のひとつとしても農業が注目されています。さらに、農業のみならず林福連携、水福連携の取組が見られるなど、「農」、「福」の双方において、従来の枠組にとらわれない取組が展開され始めてきており、農福連携等推進ビジョンにおいても、今後、農福連携における「農」と「福」のそれぞれの広がりを推進していくこととしています。 4 農福連携等応援コンソーシアムの取組  農福連携の取組の輪を拡大するために設置した「農福連携等応援コンソーシアム」では、全国で農福連携に取り組む団体・企業や個人を募集し、農福連携の優れた取組を表彰し、その横展開を図る取組として「ノウフク・アワード」を2020(令和2)年から実施するとともに、2021(令和3)年からは、「異なるものとつながる力!」を合言葉に各界が連携し、対話を通じて社会課題の解決や、新たな価値創造を図るプラットホームである「ノウフク・ラボ」を立ち上げる等の取組を進めることにより、農福連携の全国的な展開につなげることとしています。  農福連携の推進に向けては、今後も様々な取組を進めてまいりますので、その詳細につきましては、WEBの情報も是非ご参照下さい。 農福連携等応援コンソーシアム(農林水産省HP) 農福連携の取組事例(農林水産省HP) ノウフク・ラボ(ノウフクWEB) ※https://noufuku.jp/know/survey/(一般社団法人日本基金:農林水産省農山漁村振興交付金事業) 図1 農福連携等推進ビジョン(概要) 令和元年6月4日「第2回農福連携等推進会議」において決定 T 農福連携等の推進に向けて  農福連携は、農業と福祉が連携し、障害者の農業分野での活躍を通じて、農業経営の発展とともに、障害者の自信や生きがいを創出し、社会参画を実現する取組  年々高齢化している農業現場での貴重な働き手となることや、障害者の生活の質の向上等が期待  農福連携は、様々な目的の下で取組が展開されており、これらが多様な効果を発揮されることが求められるところ  持続的に実施されるには、農福連携に取り組む農業経営が経済活動として発展していくことが重要で、個々の取組が地域の農業、日本の農業・国土を支える力になることを期待  農福連携を全国的に広く展開し、裾野を広げていくには「知られていない」「踏み出しにくい」「広がっていかない」といった課題に対し、官民挙げて取組を推進していく必要  また、ユニバーサルな取組として、高齢者、生活困窮者等の就労・社会参画支援や犯罪・非行をした者の立ち直り支援等、様々な分野にウイングを広げ地域共生社会の実現を図ることが重要 (SDGsにも通じるもの)  農福連携等の推進については、引き続き、関係省庁等による連携を強化 U 農福連携を推進するためのアクション  目標:農福連携等に取り組む主体を新たに3,000創出※ 1 認知度の向上  ・定量的なデータを収集・解析し、農福連携のメリットを客観的に提示  ・優良事例をとりまとめ、各地の様々な取組内容を分かりやすく情報発信  ・農福連携で生産された商品の消費者向けキャンペーン等のPR活動  ・農福連携マルシェなど東京オリンピック・パラリンピック等に合わせた戦略的プロモーションの実施 2 取組の促進 〇 農福連携に取り組む機会の拡大  ・ワンストップで相談できる窓口体制の整備・スタートアップマニュアルの作成  ・試験的に農作業委託等を短期間行う「お試しノウフク」の仕組みの構築  ・特別支援学校における農業実習の充実  ・農業分野における公的職業訓練の推進 〇 ニーズをつなぐマッチングの仕組み等の構築  ・農業経営体と障害者就労施設等のニーズをマッチングする仕組み等の構築  ・コーディネーターの育成・普及  ・ハローワーク等関係者における連携強化を通じた、農業分野での障害者雇用の推進 〇 障害者が働きやすい環境の整備と専門人材の育成  ・農業法人等への障害者の就職・研修等の推進と、障害者を新たに雇用して行う実践的な研修の推進  ・障害者の作業をサポートする機械器具、スマート農業の技術等の活用  ・全国共通の枠組みとして農業版ジョブコーチの仕組みの構築  ・農林水産研修所等による農業版ジョブコーチ等の育成の推進  ・農業大学校や農業高校等において農福連携を学ぶ取組の推進  ・障害者就労施設等における工賃・賃金向上の支援の強化 〇 農福連携に取り組む経営の発展  ・農福連携を行う農業経営体等の収益力強化等の経営発展を目指す取組の推進  ・農福連携の特色を生かした6次産業化の推進・障害者就労施設等への経営指導  ・農福連携でのGAPの実施の推進 3 取組の輪の拡大  ・各界関係者が参加するコンソーシアムの設置、優良事例の表彰・横展開  ・障害者優先調達推進法の推進とともに、関係団体等による農福連携の横展開等の推進への期待 V ○農○福連携の広がりの推進  「農」と「福」のそれぞれの広がりを推進し、農福連携等を地域づくりのキーワードに据え、地域共生社会の実現へ 1 「農」の広がりへの支援  林業及び水産業において、特殊な環境での作業もあることにも留意しつつ、障害特性等に応じた、マッチング、研修の促進、経営発展を目指す取組の推進、林・水産業等向け障害者就労のモデル事業の創設 2 「福」の広がりへの支援  高齢者、生活困窮者、ひきこもりの状態にある者等の働きづらさや生きづらさを感じている者の就労・社会参画の機会の確保や、犯罪や非行をした者の立ち直りに向けた取組の推進 ※令和6(2024)年度までの目標