ミニコラム 第32回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は菊地委員が執筆しています。ご一読ください。 「働くこと」への意味づけや価値づけとその変化 弘前大学教職大学院教授 菊地一文  これまで特別支援学校では、職業教育の充実を図り、作業現場などにおける実習などの実際的に働く体験を大切にしてきた。実際的かつ具体的な活動を通して、生徒が働くために必要な知識や技能を身につけていけるよう努めてきたが、それだけでは卒業後の働く生活は成立しにくく、「働くこと」そのものへの意味や価値に生徒自身が気づいていく過程、すなわち「キャリア発達」の視点が求められてきた。  働くことの意味や価値は教えこむことがむずかしい。また、本来「働くこと」と「学ぶこと」は、乖離した関係ではないはずである。つまり、指導・支援する側が、生徒にとっての「学ぶこと」と「働くこと」をつなぐ工夫や、学びの過程で生じる生徒の育ちを見取り、適切に応じていくことが必要となる。そのためには、生徒が体験をふり返り、その意味や価値に気づけるような機会を大切にする必要がある。また、対話を通してなりたい自分とそのために必要なことの意識化を図ることや、本人の取組みを価値づけることで、生徒本人が取組みを重ねていけるよう支援していくことが肝要となる。  京都市立東山総合支援学校は、多様な地域協働活動を通して、異なる年齢の相手の求めに応じていく「心が動く」体験を重視してきた。そして生徒本人を中心に、教師と生徒、生徒同士の対話を重ねることで、単なる体験にとどめず、生徒の見方や受けとめ方、行動に影響を与える、たしかな「経験」につなげてきた。社会のなかでよりよく生きていくことを実現するためには、希望する進路先にかかわらず、このようなカリキュラム全体を通した資質・能力の育成と本人を中心とした取組みが求められる。  全国のどの特別支援学校にも地域リソースがあるはずであり、今後、その活用を通した小学部段階からの実践のアップデートを期待したい。また、近年求められている「キャリア・パスポート」の活用により、対話を通した「いま」と「将来」の「学びをつなぐ」取組みの充実を期待したい。