クローズアップ 障害のある人とスポーツ 第2回 〜パラアスリートを支える職場〜  「東京2020パラリンピック競技大会」を契機に、注目されているパラスポーツ。現在、数多くの種類のパラスポーツがあり、参加したり応援したりする人や企業が増えています。  第2回は、競泳選手として国際大会で活躍した山田拓朗さんと、山田さんが所属する企業で、その活動を応援してきた上司の方にお話をうかがいました。 『シンボルアスリート』として競技に取り組んだ現役時代  3歳から水泳を始めた山田拓朗さん。その後、着実に力を伸ばして強化選手へ。13歳でアテネ2004パラリンピック競技大会に出場し、筑波大学を経て2014(平成26)年に一般採用枠で株式会社NTTドコモ(以下、「NTTドコモ」)に入社しました。大学時代は水泳部に所属し、ほかの仲間に交じって厳しい練習をこなしてきました。  「パラスポーツへの関心は近年になって高まりつつありますが、私の学生時代やNTTドコモに入社した10年前は、十分に認知されていたわけではありませんでした。大学3年生のときに出場したロンドン2012パラリンピック競技大会は4位という結果でメダルに届かなかったので、『社会人として競技を続けたい』ということを就職活動の面接でアピールしました」と、山田さんは話します。  現役時代は『シンボルアスリート』として競技と業務を両立してきました。『シンボルアスリート』とは、スポーツを通じて会社のモラルアップや地域活動に寄与する社員として、社内で認定されたアスリートであり、NTTドコモでは、ほかにもラグビーチームを保有して活動をサポートしています。シンボルアスリートであった現役時代の山田さんのスケジュールは、始業から14時までオフィス勤務やリモートワークを行い、一度帰宅した後、夕方から夜にかけて、練習場所である屋内プールで選手として練習を行うのが日課だったそうです。  「入社当初は、セカンドキャリアのことも意識して、通常業務にたずさわりたいと思っていました。その後、アスリートとしての活動に注目が集まるにつれ、練習場所の調整や取材対応など、シンボルアスリートとしての自分の競技にかかわる業務が中心になりました」 必要な環境を一つひとつ整備  それまでもNTTドコモでは社会人ラグビーチームの活動を支えてきた実績がありましたが、競泳のような個人競技のサポートは初めてのことでした。職場の上司として、山田さんの競技を応援してきた、総務人事部労務厚生担当で厚生担当課長の大橋(おおはし)浩之(ひろゆき)さんは次のように話します。  「練習場所やコーチの選び方、強化合宿や大会への参加など、競技をするために必要な環境を、本人と相談しながら手探りで整えてきました。最大限のパフォーマンスを発揮することで、パラスポーツの価値を高めたいという本人の情熱が、競技環境の整備につながっていった最大の理由だったと思います」  その後、国際大会で活躍し、会社全体で盛り上がったそうです。  「シンボルアスリートが活躍することで、会社内の一体感が高まるように感じます。同じオフィスで働いている同僚はもちろん、地方での大会の際には、地方勤務の社員もたくさん応援に駆けつけました」と大橋さんは語ってくれました。 パラスポーツへの注目を共生社会実現への足がかりに  山田さんは2023(令和5)年9月に現役を引退し、今後は厚生担当として、これまでとは異なる業務にもたずさわる予定です。山田さんは、国際大会で活躍した、社内のだれもが知るシンボルアスリートですが、職場では特別に意識することもなくほかの同僚と変わらず業務に従事しています。  最後に、山田さんと大橋さんは、今後のビジョンを次のように語ってくれました。  「水泳に関しては、やり切ったと思っています。近年、パラアスリートを取り巻く環境は飛躍的によくなっていますが、まだまだ十分とはいいがたいものがありますので、今後は、自分ならではの特別な経験を活かして、選手をサポートしたりパラスポーツを盛り上げたりする活動にも力を入れたいと考えています」と山田さん。  大橋さんは「パラアスリートとともに歩んだ10年は、企業としても有意義な経験になったと思います。この歩みが、後進のアスリートに道をつくることになるかもしれません。NTTドコモとしても、この経験を活かした社会貢献活動をよりいっそう進めていければと考えています。パラスポーツは、障害のある人に注目が集まる機会です。そのような機会が、障害の有無にかかわらず、さまざまな個性や特性を持つ人たちが、自分の持ち味を活かしながらともに働く社会の実現につながるきっかけの一つになってくれればと思います」と話してくれました。 *  *  *  *  *  次回は、パラアスリートの活躍を支える装具製造などにたずさわる方々にお話をうかがいます。 プロフィール 株式会社NTTドコモ 総務人事部 労務厚生 厚生担当 山田(やまだ)拓朗(たくろう)さん  生まれつき左腕の肘から先がない。パラリンピック競泳の運動機能障害別の分類には10クラスあり、そのうちの9番目に障害が重いクラスに所属している。  3歳から水泳を始め、2004(平成16)年に13歳でアテネ2004パラリンピック競技大会に初出場。その後、2016年のリオ2016パラリンピック競技大会では、50m自由形で銅メダルを獲得。2021(令和3)年の東京2020パラリンピック競技大会まで5大会連続でパラリンピックに出場。2023年9月のジャパンパラ水泳競技大会を最後に、20年にわたる競技生活を終え、現役を引退した。  2014年に株式会社NTTドコモ入社。 取材協力 株式会社NTTドコモ 〒100-6150 東京都千代田区永田町2丁目11-1 山王パークタワー ◆従業員数:7903人(2023年3月31日現在) ◆事業内容:通信事業、スマートライフ事業など https://www.docomo.ne.jp/corporate/ パラスポーツ ミニ知識 パラスポーツの「競泳」とは?  さまざまな障害クラスの人が、装具などを身につけずに、肉体のみで水泳を行い競い合います。パラリンピックでは、肢体不自由、視覚障害、知的障害のある選手が対象です。基本的には一般の競泳と同じルールで行われますが、障害に応じてルールを一部変更します。例えば、飛び込みが困難な選手は水中からのスタートが認められたり、視覚障害のある選手にはタッピングバーを使ってコーチがゴールやターンの位置を伝えたりします。 写真のキャプション 現役時代の山田さん。パラスポーツとしてではなく「純粋にスポーツとして見てもらえるパフォーマンス」を追求してきた(写真提供:株式会社NTTドコモ) 大会では、たくさんの仲間たちが駆けつけて応援。山田さんの活躍が社員の一体感を高めてきた(写真提供:株式会社NTTドコモ) 山田拓朗さん(左)と上司の大橋浩之さん(右)