クローズアップ 障害のある人とスポーツ 第4回 〜肢体不自由とスポーツ、視覚障害とスポーツ〜  「東京2020パラリンピック競技大会」を契機に注目されているパラスポーツは、障害の種類や程度に応じて用具やルール等も工夫したり、また、障害の有無にかかわらず参加できるものもあります。第4回は肢体不自由のある人と、視覚障害のある人が楽しまれているスポーツについてご紹介します。 肢体不自由とスポーツ  上肢や下肢の切断、脳疾患による麻痺など、肢体不自由のある人が行うパラスポーツは、陸上競技や水泳、スキー、卓球、アーチェリー、各種球技など約30種類あります。いずれも、障害の程度、動かせる部位や可動範囲などに合わせてルールを変更したり、クラス分けをしたり、専用の支援具を使ったりして競技します。現在、多くのスポーツ競技が、肢体不自由の方も競技できるように工夫されつつあります。スポーツ用車いすで競技する「車いすバスケットボール」や「車いすテニス」などもパラアスリートの活躍で注目されるようになり、やってみたいと思う人が増えているようです。  重度の肢体不自由のある人が楽しめる競技としては「ボッチャ」があります。ボッチャは、ジャックボール(目標球)に向けて球を投げたり転がしたり、ほかの球に当てたりして、いかに近づけるかを競います。障害の程度でクラス分けされ、自分で投げられない場合はランプという勾配具を使います。ランプオペレーターに意思を伝えることができれば競技に参加できます。年齢、性別、障害の有無にかかわらず、だれもが競い合えるスポーツとして開発されました。 仲間との出会いがパラスポーツのきっかけ  勤務中の事故で両大腿切断となった金子(かねこ)幹央(みきお)さんは、義足を使用するようになりましたが、切断面が柔らかい状態の期間は義足もなかなかフィットせず、痛くてたいへんだったそうです。「両足を切断した後の2~3カ月は呆然としていました。その後、義肢装具サポートセンター(※)や、東京都障害者総合スポーツセンターなどに通い、リハビリを続けていました。あるとき、一緒にバスケットボールをしていた方からパラアイスホッケーのことを聞き、『東京アイスバーンズ』というチームの練習会に参加してみることにしました。はじめは“スレッジ”という競技用のソリに乗ることもむずかしかったのですが、いまは、紹介してくれた彼とともに、パラアイスホッケーの選手として活動しています」と金子さん。現在、パラアイスホッケー全日本代表強化チームのメンバーにもなり、練習に励んでいます。 パラスポーツは生活を楽しむきっかけ  病気やケガによる中途障害で落ち込んでいた人が、周囲のすすめで練習会などに参加し、それがきっかけで前向きな気持ちを取り戻して生活できるようになる例は多いそうです。肢体不自由の場合、スポーツをして体のさまざまな部分を動かすことで、血行がよくなったり筋力やバランス感覚が鍛えられたりするなど、障害のない部分の運動機能が向上するという効果が着目されていました。  しかし現在では、スポーツをすることは生活全般へのモチベーションアップやコミュニケーションをとることによる仲間づくり、社会参加といった意義があるともされています。また、運動不足の解消による健康増進、ストレス発散といったメリットもあり、これは肢体不自由にかぎらず、ほかの障害にも同じような効果があります。 視覚障害とスポーツ  視覚障害のある人が行うスポーツは、ブラインドマラソンやブラインドサッカーなどがあります。ブラインドマラソンは、ガイドランナーが視覚障害のある人と伴走します。ブラインドサッカーでは、ガイドが声で選手に進む方向を伝えます。そのほか、2人乗りのタンデム自転車競技や、ガイドがサポートしながら滑るブラインドスキーという競技もあり、いずれも視覚障害のある人は、それをサポートするパートナーと組んで競技に参加します。また、競技大会などでは障害の程度によってクラス分けがされています。 特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会 障害を越えたチームワークづくりを目ざす  ブラインドサッカーは、全盲の選手4人と、視覚障害のない(あるいは弱視の)ゴールキーパーで一つのチームとなり、音の出るボールを使って行う5人制のサッカーです。敵陣のゴール裏に味方のガイドがいて、正確なシュートを打つために、距離や角度、タイミングなどを声で指示します。パラリンピックでは、「ブラインドフットボール」という種目名でアテネ2004パラリンピック競技大会から正式種目(男子のみ)となっています。  日本国内の競技人口は約660人(2023〈令和5〉年5月時点)で、ブラインドサッカーのチームは全国で約30チームを数えます。ブラインドサッカーもほかのスポーツと同様、心身を鍛える効果が期待できるとともに、視覚障害のない選手が競技に加わるため、障害の有無を越えたチームとしての達成感も醍醐味といえます。 初めてスポーツで褒められた  日本ブラインドサッカー協会の職員兼選手の内田(うちだ)佳(けい)さんは、視覚障害があり、高校生のとき友人に誘われて初めてブラインドサッカーを体験しました。怖さよりも「上手にできなかった」という悔しさが大きかったそうです。その悔しい思いをバネにして練習に打ち込み、上達してくると、まわりからプレーを褒められるようになったそうです。「それまでスポーツをして褒められたことがなかったので、とてもうれしかったことを覚えています」と内田さん。  ブラインドサッカーは視覚障害のない人がアイマスクをつけて参加することもできるので、同協会では、体験型ダイバーシティプログラムとして子ども向け体験会や、企業向けのチームビルディング研修なども行っています。同協会広報コミュニケーション室室長の源(みなもと)友紀美(ゆきみ)さんは「“ブラインドサッカーを通じて視覚障がい者と健常者があたり前に混ざり合う社会を実現する”というビジョンのもと、目が見える見えないに関係なく、お互い支え合って生きる社会をつくることを目ざし、広く啓発していきます」と語ってくれました。 ※本誌4月号のクローズアップで紹介しています。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202404/index.html#page=12 取材協力 特定非営利活動法人 日本ブラインドサッカー協会(JBFA) https://www.b-soccer.jp/  2002(平成14)年に「日本視覚障がい者サッカー協会」として発足、2010年に「日本ブラインドサッカー協会」と改称。「スポ育」やワークショップのほか、障害の有無にかかわらず、幅広くブラインドサッカーを体験してもらう活動を行っている。企業向け研修なども手がけており、ブラインドサッカーを通して相互理解を深めるプログラムを実践している。そのほか強化合宿の開催や国際大会への選手派遣など、パラアスリートの発掘・育成においてもさまざまな活動を行っている。 写真のキャプション 東京アイスバーンズ所属の金子幹央さん(写真提供:金子幹央さん) 日本ブラインドサッカー協会職員兼選手の内田佳さん(写真提供:特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会)