クローズアップ 障害のある人とスポーツ 第5回 〜知的障害とスポーツ、聴覚障害とスポーツ〜  「東京2020パラリンピック競技大会」を契機に注目を集めているパラスポーツ。第5回は、知的障害のある人、聴覚障害のある人が取り組んでいるスポーツについてご紹介します。そこで、東京都障害者総合スポーツセンターと一般財団法人全日本ろうあ連盟デフリンピック運営委員会にお話をうかがいました。 取材協力 東京都障害者総合スポーツセンター 〒114-0033 東京都北区十条台1-2-2 TEL 03-3907-5631 https://tsad-portal.com/mscd  東京都が設置し公益社団法人東京都障害者スポーツ協会が運営する複合スポーツ施設。障害のある人やその介助者が利用でき、体育館や運動場などの体育スペースのほか、集会室や研修室、宿泊施設も完備している。同協会運営で、東京都多摩障害者スポーツセンター(東京都国立市)もある。 知的障害とスポーツ  知的障害のある人が行うスポーツには、陸上競技や水泳、卓球、バドミントンなどがあります。東京都障害者総合スポーツセンター(以下、「スポーツセンター」)には、はじめは家族と一緒に訪れる人が多いそうですが、スポーツセンターの雰囲気やスポーツをすることに慣れてくると1人で通えるようになり、その後運動レベルが同じくらいの仲間同士で練習する人たちもいます。1人で訪れてもスポーツを楽しめるよう、職員が利用者をサポートする環境も整備されています。  また、知的障害のある人の運動能力は多くの場合、一般の人と変わりません。障害の程度によりますが、競技ルールが理解できればスポーツを楽しむことができます。そして、けがやルール違反が起こらないよう、周囲がサポートする場合もあります。スポーツセンターでは職員がサポートを行い、障害者団体での利用やスポーツ大会なども開かれています。 卓球に励んで12年、大会参加も  樅山(もみやま)駿(しゅん)さん(「株式会社KDDIチャレンジド」勤務)は、休日になると、家族と一緒にスポーツセンターを訪れ卓球の練習をしています。樅山さんが卓球を始めたのは12歳のとき。「短い時間でもスポーツに触れる時間をつくって楽しんでほしい」という父親の思いもあって、毎日のようにスポーツセンターを訪れていたそうです。練習を重ね、24歳になったいまでは、知的障害者参加の卓球大会のみならず、一般の卓球大会に参加するまでになりました。練習に励みながらも「卓球は楽しい」と話してくれました。  スポーツセンターには、常時10〜20人程度の職員が常駐し、利用者をサポートしています。  「最初はうまくできなかった人が徐々に上達していくのを見て一緒に喜んだり、『次はここまでやってみましょうか?』などアドバイスしながら、少しずつできることを増やしていけるようお手伝いしたりしています」と、職員の石巻(いしまき)詩織(しおり)さんは話してくれました。利用者にとってもスポーツを一緒に楽しんでくれる職員のバックアップは、大きな励みになっているようです。 聴覚障害とスポーツ  聴覚障害のある人は、ほとんどのスポーツを障害のない人と一緒に行うことができます。  マラソンなどの陸上競技や水泳、サッカーやバレーボール、空手などのスポーツに参加が可能です。聴覚障害のある人とともにスポーツをする場合、伝えたいことは、ランプや旗などを利用したり、ジャスチャーなどを工夫したり、目で見てわかるようにします。 きこえる人と同じ競技を楽しむ  「聴覚障害のある人の身体動作の自由度は、きこえる人と変わりません。そのため、きこえる人と同じ競技を楽しんでおり、選手として一般の競技に出ることも珍しくないと思います」と、一般財団法人全日本ろうあ連盟デフリンピック運営委員会事務局長の倉野(くらの)直紀(なおき)さんは話します。  「聴覚障害のある人がスポーツを始めるきっかけは、保護者からのすすめや、家族・友人がやっているのを見て始める人、学校のクラブ活動、またはスター選手に憧れてなど、一般の人がスポーツを始めるきっかけと大差はないと思います。選手で活躍している人のなかには、アスリート雇用で企業に勤めている人もいらっしゃいます」と倉野さん。活動の場は広がっています。  2025年に「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025」が開催されます。デフリンピックは、聴覚障害のある当事者が運営する国際大会です。大会のビジョンの一つに「“誰もが個性を活かし力を発揮できる”共生社会の実現」が掲げられています。  「『共生社会』とは何かということを示し、社会を変える大会にしたいと考えています」と、デフリンピックへの思いについても、倉野さんは話してくれました。 *****  最終回となる次回は、この連載をふり返り、第1回執筆者の日本福祉大学教授の藤田(ふじた)紀昭(もとあき)さんに、パラスポーツについて総括していただきます。 取材協力 一般財団法人全日本ろうあ連盟 デフリンピック運営委員会 〒162-0053 東京都新宿区原町3-61 桂ビル2F TEL 03-6302-1448 https://www.jfd.or.jp/sc/deaflympics  2025年東京で開催される東京2025デフリンピックに向けて、一般財団法人全日本ろうあ連盟の内部に設置された組織。自治体や関係機関と協働しながら、大会準備を進めるとともにデフアスリートやデフ競技について周知啓発を行っている。 パラスポーツ ◆ミニ知識◆ スペシャルオリンピックスとは  スペシャルオリンピックス(SO)は、1968(昭和43)年、故ケネディ米大統領の妹ユニス・シュライバーが、当時スポーツを楽しむ機会が少なかった知的障害のある人たちにスポーツを通じ社会参加を応援する組織として設立しました。知的障害のある人たちへ多様なスポーツトレーニングとその成果を発表する場である競技会を、年間を通じ提供している国際的なスポーツ組織です。  スペシャルオリンピックス日本は、1994(平成6)年に設立され、今年30周年を迎えます。「2024年第8回スペシャルオリンピックス日本冬季ナショナルゲーム」(2023〈令和5〉年11月〜2024〈令和6〉年2月)を長野県と北海道で開催、全8競技を実施し、470人以上のアスリートが参加しました。本大会に参加したアスリートたちから、2025年SO冬季世界大会・トリノに派遣する、SO日本選手団が選考されます。 写真のキャプション ○C Special Olympics Nippon (左から)父親の樅山さん、駿さん、スポーツセンター職員の石巻さん 卓球の練習をする樅山駿さん