【表紙】 令和5年5月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第548号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2023/6 No.548 特集 第10回 国際アビリンピック フランス・メッス大会2023 この人を訪ねて 「eスポーツ」が障害者の就労機会を広げる 株式会社ePARA 代表取締役 加藤大貴さん 編集委員が行く 精神科医療と一体化した就労支援で個別プログラムを設定し、就労へつなぐ 医療法人社団三愛会三船病院(香川県) 「明るく元気で働いている姿」東京都・佐々木(ささき)亮介(りょうすけ)さん 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 6月号 【巻頭】 10th International Abilympics 第10回 国際アビリンピック フランス・メッス大会 2023年3月22日(水)〜25日(土) 写真:官野 貴 写真のキャプション 開会式において、旗手の田中達也さんを先頭に入場する日本選手団 開会式の司会者2人と輪島会長(右) 輪島忍・国際アビリンピック連合会長による挨拶 アビリンピック・フランスのノエル・ロジェ会長による挨拶 競技に臨む日本選手団。アビリス(右)もフランスに駆けつけた。勝利への決意を込めて 競技会場には多くの見学者が訪れた 27カ国・地域から322人の選手が参加し、技を競った 競技会場「メッスエキスポ」 「家具(基礎)」深見尚生さん(神奈川県) 「家具(応用)」伊藤俊貴さん(愛知県) 「ポスターデザイン」海藤航貴さん(宮城県) 「洋裁(応用)」穴水洋美さん(山梨県) 「洋裁(応用)」山田美里さん(東京都) 「洋裁(基礎)」北村重雄さん(宮崎県) 「洋裁(基礎)」苑田愛美さん(熊本県) 「ホームページ作成」金子理沙さん(広島県) 「データ処理」米田涼子さん(福岡県) 「機械CAD」木村信隆さん(千葉県) 「ホームページ作成」佐藤知沙子さん(愛知県) 「データ処理」中山太郎さん(熊本県) 「機械CAD」篠孝忠さん(愛知県) 「洋裁(基礎)」北村重雄さん(宮崎県) 「英文ワープロ」「英文ワープロ」佐藤翔悟さん(茨城県) 「コンピュータプログラミング」角田智活さん(青森県) 「コンピュータプログラミング」伊敷学さん(沖縄県) 「電子機器組立」小倉怜さん(三重県) 「電子機器組立」島田美穂さん(三重県) 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2023年6月号 NO.548 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 特集 第10回 国際アビリンピック フランス・メッス大会2023 グラビア 巻頭・巻末 写真:官野 貴 アビリンピックルポ 4 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 JEEDインフォメーション 14 障害者雇用を進める事業主のみなさまへ 就労支援機器をご活用ください! エッセイ 15 ろう者である想い 第3回 〜人生の転機〜 忍足亜希子 この人を訪ねて 16 「eスポーツ」が障害者の就労機会を広げる 株式会社ePARA 代表取締役 加藤大貴さん 編集委員が行く 18 精神科医療と一体化した就労支援で個別プログラムを設定し、就労へつなぐ 医療法人社団三愛会三船病院(香川県) 編集委員 阪本文雄 省庁だより 24 令和5年度 予算の概要 (障害者雇用施策関係部分の抜粋版) 厚生労働省 職業安定局 研究開発レポート 26 障害等により配慮が必要な従業員の上司・同僚の意識に関する研究 障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門 ニュースファイル 28 編集委員のひとこと 29 掲示板・次号予告 30 第31回職業リハビリテーション研究・実践発表会 発表者募集のお知らせ ※「心のアート」、「クローズアップ」は休載します 表紙絵の説明 「新しい店舗で、新しい作業を一つずつ覚えながら作業している仲間の姿を描きました。とてもきれいで明るいお店なので、きれいな色で明るい雰囲気を出せるよう意識しました。帽子や、持っているカップの袋、景色など濃淡の表現に苦労しました。受賞を聞いたときは、本当にうれしくて幸せだなと思いました。今年もコンテストに応募しようと絵を描き始めています」 (令和4年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 高校・一般の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(https://www.jeed.go.jp/) 【P4-13】 特集 第10回 国際アビリンピック フランス・メッス大会2023  「第10回国際アビリンピック」が、2023(令和5)年3月22日(水)〜25日(土)の4日間にわたり、フランス共和国メッス(Metz)市で開催された。今大会の主催国フランスをはじめ、世界27の国と地域から総勢322人の選手が計44の技能種目に参加。日本からは30人が17種目に出場し、8人がメダルを獲得した。その活躍の様子を紹介する。 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 秋篠宮皇嗣同妃両殿下ご接見、結団式  3月18日(土)午後、日本選手団は、紺色のスーツに色鮮やかな縞模様のネクタイやスカーフの公式ユニフォームに身を包み、赤坂御用地の赤坂東邸(東京都港区)で秋篠宮(あきしののみや)皇嗣(こうし)同妃(どうひ)両殿下(りょうでんか)にご接見いただいた。両殿下は選手一人ひとりから競技内容や意気込みなどを聞かれていた。選手代表挨拶を行ったのはポスターデザイン種目に出場する海藤(かいとう)航貴(こうき)さん(宮城県)。「個別にお話しした際には、どんなデザインにするのかなどを聞かれ、うれしかったです。挨拶の言葉は緊張で息が詰まりそうになりましたが、穏やかな表情で見守っていただけました」。殿下からは「有意義な滞在を願っています」と激励されたという。  その後、品川のホテルで結団式が行われた。来賓に厚生労働省の宇野(うの)禎晃(よしてる)人材開発統括官付参事官、菊地(きくち)政幸(まさゆき)人材開発統括官付特別支援室長らを迎えたなか、日本選手団の団長を務める輪島(わじま)忍(しのぶ)当機構理事長代理(取材時)が「記念すべき第10回として選手たちも高いモチベーションで参加し、よい交流もできると期待しています。選手のみなさんは日本の代表として誇りを持って、日ごろつちかった技能を存分に発揮してください」などと激励。加藤(かとう)勝信(かつのぶ)厚生労働大臣からのビデオメッセージでは「昨年の臨時国会で障害者雇用促進法を改正し、多様な就労ニーズに対して支援するとともに、障害のある方が特性や能力に応じて活躍できるよう職場環境の整備など、障害者雇用の質の向上を目ざした取組みを進めています」と話したうえで、「選手のみなさんの活躍を通じて、障害のある方たちが習得している技能に対する企業や一般の方たちの理解が深まり、障害者雇用の促進につながると考えています。各国の選手たちと切磋琢磨しながら交流を深める機会としてください」などと伝えられた。その後、選手が一人ずつ介助者とともに前に出て、自己紹介と大会に向けた一言を述べ、それぞれに気持ちを引き締めていた。 いざフランス、メッスへ  19日(日)は、1日かけてホテル内でオリエンテーションと医師による健康面談、班別ミーティングが行われた。種目によって、新たに必要になった器具などを購入するため外出する選手たちもいるなど慌ただしい一幕もあった。  20日(月)、選手のほか介助者、医師、看護師、手話通訳者、要約筆記者、国際審査員、当機構職員など総勢112人の選手団は、羽田空港発の飛行機で約15時間かけてフランスのシャルル・ド・ゴール空港に到着。パリ市内に1泊後、大会会場のあるメッス市までバスで約6時間かけて移動した。この際、車いすユーザーの選手と介助者は専用車に分乗した。  22日(水)午前中は、競技別に担当の言語通訳者と選手らが顔を合わせ、競技内容についての情報共有を行った。国際大会では当日になって競技の細かい条件などが変更されることも少なくないため、少しでもスムーズに競技に臨めるよう念入りな打合せが必要だ。  また、競技会場「メッスエキスポ」の見学も行った。ホテルからバスで20分ほどの同会場では、設営が着々と進んでいた。会場内の特設食堂には、すでに数多くの参加国選手団が集まり、日本人選手のなかにも、ビュッフェの列に並びながらさっそくフランスの選手と手話で会話する人が見られた。 開会式  この日の夕方から、メッス市街地にある「メッスアリーナ」で開会式が開かれた。日本の技能五輪にあたる「ワールドスキルズフランス・グランテスト地域圏予選」が同時開催だったため、いっそうにぎやかだった。フランス側による歓迎パフォーマンスに続き、各国選手団の入場。日本選手団の旗手を務めたのは、フラワーアレンジメント種目出場の田中(たなか)達也(たつや)さん(新潟県)。「4人ほど立候補した人がいてジャンケンで勝ちました。先導役は緊張しましたが、大会に来た実感が湧いてきました」と笑顔で話した。  式典では、アビリンピック・フランスのノエル・ロジェ会長らの挨拶の後に、輪島忍・国際アビリンピック連合会長が登壇。「この第10回大会は、新型コロナによる延期、さらに2022年にいったん中止というつらい決断がありました。こうした困難にもかかわらず27の国と地域から選手が集結したのは、アビリンピックの炎を消してはならないという世界の意思のあらわれです。みなさんの才能を見せるときがきました。競技でベストを尽くし、仲間とともにすばらしいときを過ごされることを心から期待します」などと述べた。 日本の夕べ  23日(木)は午前からあらためて競技会場に向かい、競技ごとに審査員から説明を受けたり事前準備をしたりした。夕方からはメッス市街のレストランで「日本の夕べ」が開催された。参加した在フランス日本国大使館の安東(あんどう)義雄(よしお)次席公使は「第10回を迎えるこの国際大会は日本が発祥で、世界に広がっている意義のある大会です。みなさんがいままでつちかってこられた技術や技能を存分に発揮していただきたいと思います。国際交流も盛り上げてください」と乾杯の挨拶をした。 競技1日目  2日間にわたる競技。日本人選手が出場した種目を順に紹介していきたい。 〈家具(応用)〉  支給された木材を使い、扉つきのコンソールテーブルを6時間以内に製作。参加選手3人。伊藤(いとう)俊貴(としき)さん(愛知県)は、ろう学校在籍中の2020年、第40回全国アビリンピック「家具」種目で金賞を受賞し、現在は同校インテリア科の教員。生徒たちから「金賞を目ざして」と送り出されてきたそうだ。競技前に「ポイントは、接合部分をいかにきれいに仕上げられるかです」と伝えてくれたが、競技後は「時間が足りず最後まで納得のいく仕上げができなかった。悔しいです」。それでも銅メダルを獲得した。 〈洋裁/基礎(国内大会では縫製)〉  支給された布で、5時間30分以内に規定のブラウスをつくる。参加選手10人。北村(きたむら)重雄(しげお)さん(宮崎県)は特例子会社の縫製部門で働いて10年になる。「1週間前に具体的な課題が伝えられ、1枚だけ試作できました。指導員からのアドバイスをメモにして、自分で手順を考えながら作品を時間内に仕上げたいです」。苑田(そのだ)愛美(まなみ)さん(熊本県)は、日ごろは就労継続支援B型事業所でジェラートやパンづくり、ステンドグラス作品の製作のほか、施設外就労もしているそうだ。「これまでに2枚のブラウスをつくって自信をつけました。競技では型紙の配置を考え、気持ちを集中していきたいです」と話していた。課題は予想以上にむずかしく、2人を含む多くの選手が時間内に完成できなかった。 〈ネイリスト(国内大会ではネイル施術)〉  指定の器具や材料を使い、ハンドケア、装飾的なコーティング、テーマに沿ったネイルデザインを4時間40分以内に施す。参加選手4人。日本からは航空会社の特例子会社にネイリストとして勤務する2人が出場した。2019年の第39回全国アビリンピック「ネイル施術」種目で金賞を獲った山下(やました)加代(かよ)さん(東京都)と、2021年の第41回全国アビリンピック同種目で金賞の荒山(あらやま)美夢(みむ)さん(千葉県)だ。キャビンアテンダントに施術してきた経験も活かし、「支えてくれた周りの人に感謝しながら、楽しんで臨みたいです」と話していた2人。当日になって使う道具が限定されるなどイレギュラーな条件のもと、山下さんが銀メダル、荒山さんは銅メダルを獲得した。 〈コンピュータ組立(国内大会ではパソコン組立)〉  ハードウェア・ソフトウェアの知識を用いてパソコンを組み立て(システム作成からネットワークのインストールなど)指示書に沿ってOSを起動させる。制限時間は4時間30分。参加選手12人。赤地(あかち)和典(かずのり)さん(千葉県)は、勤務する総合病院で設備品などの修理を担当する。競技後、「国内大会と違い、一度分解して組み立てるという難易度の高い内容でした。勉強させてもらいました」と語る一方、「日本国内でアビリンピックに挑戦する人が増えてほしいです。知名度を高め、地域でもっと盛り上がるとよいと思います。ほかの競技にも、驚くような能力のある選手たちがたくさんいることを知ってほしいですね」と今後に期待を寄せた。 〈ホームページ作成〉  提供データに基づくさまざまな情報や機能を備えたウェブページを6時間で作成。参加選手13人。金子(かねこ)理沙(りさ)さん(広島県)は、勤務先で自社のホームページ作成も担当している。「準備時間が足りず困っていたが、職場のみんなが仕事を調整してくれ、練習できたのでありがたかったです。最後まで作品を仕上げられるよう努力したいです」と語っていた。市役所勤務の佐藤(さとう)知沙子(ちさこ)さん(愛知県)は、11歳の子どもと9カ月になる子どもの2人を子育て中。この大会中は、母と義母が交代で子どもの面倒を見てくれているそうだ。「職場では、アビリンピックに出場し続け、結果を出したことで念願の広報部門に異動できました。今回の課題はボリュームが多いので、できるだけ完成に近づけるよう自分を超えていきたいです」と話していた。実際の競技は予想以上にハードルが高かったようだが、2人は揃って「よい経験になりました」と納得していた。 〈データ処理(国内大会ではデータベース)〉  データベース管理システム(DBMS)を使ってデータ処理アプリを3時間で作成。参加選手6人。IT企業に勤める中山(なかやま)太郎(たろう)さん(熊本県)は、「具体的な課題が公表されたのが1週間ほど前なので、準備が追いつきませんでした。ほかの選手も同じ条件かもしれませんが、最後はどこまで完成に近づけるかですね」と厳しい表情。米田(よねだ)涼子(りょうこ)さん(福岡県)も、「職場のシステム管理会社で使うソフトや機能と異なるので、自分なりに練習してみましたが、時間内にできていないのが不安です」ともらしていた。2人とも入賞はかなわなかったが「今後はほかの競技にも挑戦してみたいです」(中山さん)、「またがんばります」(米田さん)と気持ちを新たにしていた。 〈写真撮影(屋外)〉  建物内外でデジタルカメラによる写真撮影を行い、専門的な画像処理ソフトで処理する。今回は「感情」をテーマに喜び・怒り・悲しみ・恐怖・嫌悪・驚きの6枚を撮影。制限時間は6時間。参加選手19人。耳が不自由な小島(こじま)未来(みき)さん(愛知県)は、特例子会社の業務部門で書類の電子化を担当している。高校生のころから写真に興味を持ち、給料で一眼レフカメラを買ったそうだ。「職場の上司がアビリンピック挑戦をすすめてくれました。人物撮影に慣れていないので、会社の人に協力してもらい撮影の練習をしてきました」。地元スーパーに勤める大塚(おおつか)弘也(ひろや)さん(鹿児島県)は、養護学校在籍中からアビリンピックに参加。「通っている教室の先生にアドバイスをもらい、シャッタースピードの調整などを練習してきました。自分が世界でどこまで輝けるのか挑戦です」。会場を歩き回りながらシャッターチャンスを狙い、何百枚もの画像から選定、加工・印刷まで終えたころには、2人とも達成感に包まれたよい笑顔を見せていた。 〈ポスターデザイン(国内大会ではDTP)〉  テキストとデザインフォームを含むテーマ(メッス開催の熱気球大会)に沿ったポスターを6時間以内にパソコンでカラーデザインする。参加選手14人。渡航前に選手代表挨拶を行った海藤航貴さんは、2019年の第39回全国アビリンピック「DTP」種目で金賞受賞後、会社から独立し、今は大手出版社からの仕事も受けるなど忙しい日々。海藤さんは、「仕事を長期間空けるのはたいへんでしたが、なんとか調整しました。準備してきたことを出し切ってよい作品を仕上げたいです」と臨んだ。入賞はかなわなかったが、この経験は必ず仕事にも活かせるはずだ。 〈英文ワープロ(国内大会ではワード・プロセッサ)〉  Microsoft(マイクロソフト) Word(ワード)のサンプルにしたがって指定文書を2時間30分以内に入力する。今回はフランス語が含まれていた。参加選手20人。佐藤(さとう)翔悟(しょうご)さん(茨城県)は、国際大会に向けて「会社から外国語用のキーボードを用意してもらい練習してきました。職場の人達から激励されてきました。当日は落ち着いて臨みたいです」。山本(やまもと)巧(たくみ)さん(愛知県)は、日ごろは社内のインフラやOA関連などサーバー管理などを手がける。「国際大会の選手に選ばれ、社長も喜んでくれました。150分の長丁場で集中力を切らさず文章を打ち切れるようがんばりたいです」。ちなみに2人とも、勤務する会社から国際大会に出場した第1号だそうで、競技当日にはそれぞれの会社の方が応援に駆けつけた。佐藤さんが、銀メダルと特別賞(※)をダブル受賞した。 出展ブース  会場の出展ブースでは、各国の団体や企業が障害にかかわるさまざまな取組みを紹介。地元の児童や学生らも大勢見学に訪れ、終始にぎわっていた。 【日本ブース】  競技会場にあらわれた日本のアビリンピックマスコットキャラクター「アビリス」が注目を集め、「キューティ!」と、周囲にはあっという間に人だかりができ、ひっきりなしに記念撮影が行われていた。日本ブースでは、アビリスの缶バッジやファイルケースなどが大好評だった。 【フリースタイルチェア】  入口付近の広場では、スポーティな車いすやスケートボードを使ったデモンストレーションが行われ、見学者や子どもたちも試乗して盛り上がっていた。開催していたのは、フランスでフリースタイルチェアの開発を手がける団体「PRATIKABLE」。副代表の男性は「私たちはユーザー一人ひとりのニーズに沿った車いすの改造なども行っており、日本の電動車いすメーカーとも連携しています」と紹介してくれた。 【大型車の運転シミュレーション】  3面モニターと大きな運転台が目を引いていたのは、フランスにある物流関連の運転訓練センター「AFTRAL」のブース。実演紹介されていたのは、下半身不随などの身体障害のある人が大型車を運転するための技能確認や訓練などを行うシミュレーション設備。手だけで運転操作ができるよう改造された運転台で、さまざまな条件のもと、実際の運転感覚を体験できる。「私たちのセンターでは、トラック運転手が事故で障害を負っても再び働けるよう支援しています」と担当者が教えてくれた。 競技2日目(一部競技は2日間実施) 〈家具/基礎(国内大会では木工)〉  支給された木材を使ったコンソールテーブルを5時間以内に製作。参加選手4人。2018年の第38回全国アビリンピック「木工」種目で、当時最年少15歳で金賞を受賞した深見(ふかみ)尚生(なおき)さん(神奈川県)は、障害者職業能力開発校から技術専門学校を経て家具づくりの会社に。今回は、普段あまり手がけない組みつぎの特殊加工を重点的に訓練してきたそうだ。競技後、「カンナの調子が悪く、鋸(のこぎり)ややすりを総動員してなんとか時間内に仕上げました」と胸をなでおろし、結果、銀メダルを獲得した。 〈洋裁(応用)〉  支給された布で、ベルトや飾りがついた女性用のケープをつくる。競技時間は6時間。参加選手9人。穴水(あなみず)洋美(ひろみ)さん(山梨県)は車いすユーザーだが、足首を動かせるため自宅で縫製の仕事をしている。「山梨県から23年ぶりの出場ということで、県知事にも直接激励してもらいました。裁断が少し不安ですが、時間内に作品を仕上げることが目標です」の言葉通り、きれいな花の飾りつけをしたケープを仕上げた。山田(やまだ)美里(みさと)さん(東京都)は事務職だが、高校時代から続けていた洋服づくりの技を磨き、アビリンピックに挑戦してきた。競技中、母親は「本人は洋裁が大好きなので、この時間も幸せに感じていると思います」と見守っていた。競技後、隣のアゼルバイジャンの選手と笑顔で抱き合った山田さんは、SNSのアドレスも交換したそうだ。 〈フラワーアレンジメント〉  花材・グリーン・装飾品を用いて、テーマに合う作品三つ(身に着けるアクセサリー、花束、高さ1.5m以上の造形物)を製作。2日間で計6時間。参加選手11人。選手団の旗手を務めた田中達也さんは、技術向上のために通い続けている教室に、国際大会のため週3日集中的に通った。「自分は作業がていねいになりすぎるのが課題なので、時間を意識するようアドバイスされました」と話していた。手首に巻きつけるような花飾りが印象的だった。山口(やまぐち)めぐみさん(愛知県)は、勤務先では高級車のシート縫製作業を担当している。ろう学校1年次だった2012年の第33回全国アビリンピックで金賞を獲って以来、アトリエに通って10年だ。「どんな素材でも自分のつくりたい作品をつくれるよう、軸をぶらさずに取り組みたいです。他国選手の作品からもよい刺激を受けられたら」と話していた山口さん。造形物の幅について指摘を受け、つくり直すというハプニングがあったが、しっかりと完成させた。 〈歯科技工〉  歯の印象材から補てつ(クラウン、リング、ブラケット)を製作。2日間で計6時間。参加選手4人。三津橋(みつはし)幸勇(ゆきお)さん(北海道)は、歯科技工歴約40年。「北海道代表として一緒に出場した後輩は残念ながら選考に落ちてしまったので、その分もがんばりたいです」と話していた。競技後は「昨日は少し失敗してしまったが、今日はがんばって仕上げられました」と笑顔を見せてくれた。中川(なかがわ)直樹(なおき)さん(埼玉県)は、職場では高難度の歯型づくりも任されている実力者。競技前に「国際大会では、時間の配分に気をつけたい。いまの自分の実力を世界がどんなふうに評価してくれるのか楽しみです」と話していた。中川さんが、日本選手団で唯一となる金メダルに輝いた。 〈コンピュータプログラミング〉  プログラミング言語およびデータベースを使って単語検索システムのアプリケーションプログラムを作成し、与えられた課題を行う。制限時間6時間。参加選手7人。伊敷(いしき)学(まなぶ)さん(沖縄県)は、沖縄職業能力開発大学校で計4年間プログラミングなどを学び、職場では社員のパソコンのセットアップや社内外のホームページの修正などを担当。「国際大会では初めて使うアプリケーションも多いので、使い方などを学んできました。これを機に仕事の幅も広げたいですね」。角田(かくた)智活(ともかつ)さん(青森県)は、趣味のゲームをきっかけに高校生のころからほぼ独学でプログラミングに取り組んできたという。所属するNPO法人事業所では木工品の製作をしている。「今回は、課題に関する周辺技術も、独学でスキルアップしてきました」。レベルの高い競技で2人とも入賞にはおよばなかったが、学びは多かったようだ。 〈電子機器組立〉  基礎的な回路の作成とテストを実施。電子スキームやガイドライン、産業分野の知識にしたがって回路を接続する。2日間で計6時間。参加選手7人。小倉(おぐら)怜(れい)さん(三重県)と島田(しまだ)美穂(みほ)さん(三重県)は、大手電機関連会社の同僚。国際大会に向け、2人は通常業務から離れ、専門の先生の指導を受けて半年間毎日特訓してきた。小倉さんは「電気関連に強い会社らしく、先輩たちに教わりながら勝ち抜いてきたことをうれしく思っています」。島田さんは「JAPANと書かれたユニフォームを着て、代表なのだという実感が出ました」。2人によると、会社の方針として、自分から学ぶ姿勢のなかで、わからないことを教えてもらう形でスキルアップしてきたのだそうだ。そして、小倉さんが銀メダルに輝いた。 〈機械CAD〉  マシンツールの詳細な側面図およびパーツの作成。2日間で6時間。参加選手7人。木村(きむら)信隆(のぶたか)さん(千葉県)は、職場では化学プラント関連設備の設計をしている。「いまできることをやり切りたいです」との意気込みを見せてくれたが、競技後は「いままでの競技内容と全然違っていて、手に負えませんでした。国際大会のレベルの高さを知り、勉強になりました」。篠(しの)孝忠(たかのり)さん(愛知県)は、職場では治具の設計をしている。職場の上司は「アビリンピックの練習と並行して仕事のスキルを覚えてもらうことで上達も早かったように思います」とふり返りつつ、「国際大会は課題内容や条件に未定部分も多く、通常業務で全体的なスキルアップに努めてきました。これがアビリンピックの本来の目的でもあると思います」。競技後、篠さんは「日本と世界では図面が違うことを知りました。いろいろと経験になりました」と語っていた。 〈クリーニングサービス(国内大会ではビルクリーニング)〉  用意された窓および窓枠の清掃、掃除機を使った床清掃(ポリッシャー含む)。競技時間は2時間。参加選手9人。下内(しもうち)寿也(じゅにや)さん(京都府)は、京都市内のホテルの客室清掃やベッドメイキングをしている。国際大会に向けて2カ月間、職場で特別な練習をさせてもらったそうだ。競技前は「日本とフランスの機器が違うので不安。先生からは半分楽しんでおいでといわれました」と話していた。競技後には、審査員の1人からワインを贈られるサプライズがあった。本田(ほんだ)駿斗(はやと)さん(神奈川県)も、クリーニング関連会社に勤務。国際大会に向けて計4日間にわたり本社で特訓を受けた。「水と洗剤を使うポリッシャーは仕事では使わず、床清掃が苦手なのでメインで練習しました。会社からも期待を受けての出場です。目標は金メダルですが、何より楽しみたいです」。本田さんは銅メダルを手にした。 さまざまな競技  ほかにも、国際アビリンピックならではのバラエティに富んだ競技種目があった。興味深かったものをいくつか紹介したい。 〈ICTネットワークシステム運用・管理〉  パソコン機器およびソフトウェアのインストール、メンテナンス、更新作業を行う。比較的大きな組織に新しいシステムを導入することを想定したもの。IT業界においては需要の高いスキルだ。 〈キャラクターデザイン〉  パソコンのソフトウェアを使い、当日に与えられたテーマに沿ったキャラクターをデザインする。会場では「形態や衣装を変えたものをいくつか考案し、動作スケッチも必要。デッサン力や色使い、創造性などを評価」などと説明されていた。 〈陶芸〉  ろくろを使い、スケッチに沿って、同じ形の小さな器(茶碗)10個と大きな器3個をつくる。日ごろから仕事として手がけていないと完成がむずかしいレベルだ。競技会場では、中国や韓国などの選手が見事な職人技を発揮していた。 〈ベーカリー(製パン)〉  専門的な器具やオーブンを使い、指定された数種類のパン(伝統的なパン、無農薬パン、装飾パン、菓子パンなど)を製作する。課題内容を教えてくれたフランス人ベーカリーシェフは昔、東京の有名ベーカリー店で働いていたそうだ。「日本が大好きです。この競技に日本人選手が参加していないのがとても残念です。ぜひ次回は挑戦してください」とラブコールを送ってくれた。 〈レストランサービス〉  レストランでのテーブルセッティングやカクテルづくり、デザートなどの提供を通してていねいで適切な接客サービスを行う。高級フランス料理店を思わせる場所で、工夫を凝らしたナプキン折り、皿やグラスの的確な準備や置き方、テーマ(この日は「コスモポリタン」)に沿ったカクテルづくりやデザート提供なども競う。出場選手にも話を聞いた。エクアドル代表の男性(20歳)は、大学でガストロノミー(食文化)を専攻しているそうだ。競技後、「僕のつくったカクテルの感想を聞かせて」と試飲をすすめられ、「おいしいよ!」と感想を伝えると、同行していた母親と一緒に晴れやかな笑顔を見せていた。フランス代表の女性(27歳)は普段から、ESATと呼ばれる福祉的就労支援機関で飲食サービスにたずさわる。「7年ほどこの仕事をしています。今回の競技はまあまあの出来でした」と苦笑いしていたが、銀賞を受賞した。  このほかにも台湾と韓国の選手が競っていた「かご製作」や、巨大なダミーの3段ケーキをアイシングなどで飾りつける「ケーキデコレーション」、野菜やフルーツを使った「カービング」、個別のケーキやチョコレート作品をつくる「パティスリー・製菓」などもあった。 閉会式、帰国の途へ  2日間の競技が無事終了し、25日(土)の夕方からは閉会式が行われた。式典ではフランス人でつくる和太鼓チームが勇壮なパフォーマンスを披露。そしていよいよ成績発表。名前が呼ばれるたびに会場は拍手と声援で盛り上がった。日本選手団は金1個・銀4個・銅3個を獲得。最後に、大会旗が国際アビリンピック連合の輪島会長へと返還された。  閉会式の前後には、会場フロアに各国の選手たちが入り混じり、同じ競技で競った選手同士で記念写真を撮ったり、SNSのアドレス交換をしたり、抱き合いながらあらためて健闘をたたえ合う姿が見られた。たった2日間の競技だが、選手たちにとっては人生の宝物になるかもしれない友情があちこちで生まれていたようだった。  今大会も、国際大会ならではのさまざまなハプニングはあったが、最後まであきらめることなく、それぞれに力を出し切った日本人選手たち。翌日パリへ戻り、セーヌ河に浮かぶクルーズ船上で行われた解団式では、選手や介助者、医療従事者、手話通訳者ら関係者全員に、大会組織側から参加賞として発行された表彰状が手渡され、労をねぎらい合った。翌日、復路13時間の飛行機で羽田空港に向かい、帰国の途についた。 入賞喜びの声 〈金賞〉 「歯科技工」中川直樹さん  「世界一を手にすることができ、夢のようです。みなさんの応援や支えがあったからこその受賞だと思います。また、大会を通して出会いもありました。各地の、耳が聴こえない方たちと手話で交流し、視野が広がりました。今後も、さらなる高みを目ざして精進していきます」 〈銀賞〉 「家具(基礎)」深見尚生さん  「道具で苦労しましたが、最後まであきらめずにがんばってよかったです。今後も技術を磨きながら、ほかの競技にも挑戦してみたいです」 「ネイリスト」山下加代さん  「自分のつくりたい作品をぶれずに仕上げようと思っていたことを貫けました。今後は、国内大会の知名度を上げる活動もできたらいいですね」 「電子機器組立」小倉怜さん  「イレギュラーなことも多かったのですが、できることを最後までやり切ることができました。経験を活かし、次の選手をサポートしていくつもりです」 「英文ワープロ」佐藤翔悟さん  「賞を二つもいただけてうれしいです。競技時間の変更などがあるなか、7ページ分のフランス語入力をやり切ることができて満足しています」 〈銅賞〉 「家具(応用)」伊藤俊貴さん  「自分の競技内容には納得できていませんが、それでも入賞はうれしいです。この経験を後輩たちの指導に活かしていけたらと思います」 「ネイリスト」荒山美夢さん  「私には経験不足の競技課題もあったのですが、最後まで仕上げることができました。今後も技術向上を目ざしてがんばっていきたいです」 「クリーニングサービス」本田駿斗さん  「競技中、審査員から『できているから落ち着いて』と声をかけてもらえたのが印象的でした。得意の窓ふきで力を出せてよかったです」 ※特別賞:所属する代表団のなかで最も高い点数を獲得した出場者に授与される賞 写真のキャプション 赤坂東邸にて、秋篠宮皇嗣同妃両殿下にご接見いただいた(写真提供:宮内庁) 選手代表挨拶を行った海藤航貴さん 選手を激励する輪島忍当機構理事長代理(取材時) 結団式の会場では加藤勝信厚生労働大臣からのビデオメッセージが流された 介助者とともに自己紹介する選手 健康面談の様子 班ごとのミーティングが行われた シャルル・ド・ゴール空港に到着した選手団 選手団はバスと車いす専用車に分乗し、メッス市へと向かった メッス市内のホテルに到着した選手団 競技ごとに打合せが行われた 競技が行われた「メッスエキスポ」 会場内では設営作業が行われていた 特設食堂での食事風景 開会式および閉会式の会場となった「メッスアリーナ」 開会式で旗手を務めた田中達也さん 田中さんを先頭に日本選手団の入場 開会式では、各国の選手たちに大きな声援が送られた 機材の取扱いについて審査員から説明を受ける選手ら 希望者による市街観光では、メッス大聖堂を訪れた 「日本の夕べ」での一コマ。楽しいひとときを過ごした 挨拶する在フランス日本国大使館の安東義雄次席公使 「家具(応用)」伊藤俊貴さん(愛知県) 「洋裁(基礎)」北村重雄さん(宮崎県) 「洋裁(基礎)」苑田愛美さん(熊本県) 「ネイリスト」山下加代さん(東京都) 「ネイリスト」荒山美夢さん(千葉県) 「コンピュータ組立」赤地和典さん(千葉県) 「ホームページ作成」金子理沙さん(広島県) 「ホームページ作成」佐藤知沙子さん(愛知県) 「データ処理」中山太郎さん(熊本県) 「データ処理」米田涼子さん(福岡県) 「写真撮影(屋外)」小島未来さん(愛知県) 「写真撮影(屋外)」大塚弘也さん(鹿児島県) 「ポスターデザイン」海藤航貴さん(宮城県) 「英文ワープロ」佐藤翔悟さん(茨城県) 「英文ワープロ」山本巧さん(愛知県) 「日本ブース」には、多くの見学者が訪れた 「フリースタイルチェア」の試乗体験を行う見学者 「大型車の運転シミュレーション」運転席を模した筐体が見える 「家具(基礎)」深見尚生さん(神奈川県) 「洋裁(応用)」穴水洋美さん(山梨県) 「洋裁(応用)」山田美里さん(東京都) 「フラワーアレンジメント」田中達也さん(新潟県) 「フラワーアレンジメント」山口めぐみさん(愛知県) 「歯科技工」三津橋幸勇さん(北海道) 「歯科技工」中川直樹さん(埼玉県) 「コンピュータプログラミング」伊敷学さん(沖縄県) 「コンピュータプログラミング」角田智活さん(青森県) 「電子機器組立」小倉怜さん(三重県) 「電子機器組立」島田美穂さん(三重県) 「機械CAD」木村信隆さん(千葉県) 「機械CAD」篠孝忠さん(愛知県) 「クリーニングサービス」下内寿也さん(京都府) 「クリーニングサービス」本田駿斗さん(神奈川県) 「陶芸」 「ベーカリー(製パン)」 「レストランサービス」(写真:豊浦美紀) 入賞者の発表を待つ日本選手団 ほかの国の選手と記念撮影 閉会式会場は大きな歓声に包まれた 「家具(応用)」銅メダル、伊藤俊貴さん 「家具(基礎)」銀メダル、深見尚生さん 「歯科技工」金メダル、中川直樹さん フランス人の和太鼓チームによるパフォーマンス 関係者へ入賞の報告をする小倉怜さん ほかの国の選手たちと喜びを分かちあった 解団式で挨拶する輪島忍日本選手団団長 【P14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 障害者雇用を進める事業主のみなさまへ 就労支援機器をご活用ください!  当機構の中央障害者雇用情報センターでは、障害者を雇用している、または雇用しようとする事業主に無料で就労支援機器の貸出しを行っています。 「就労支援機器」とは障害者の就労を容易にするための機器のことで、例えば視覚障害者を対象とした拡大読書器や、聴覚障害者を対象とした補聴システム(集音システム)等があります。 (例) 拡大読書器 ●書類や写真などを拡大表示する機器です。 ●コントラストや色調の変更も可能なためより見やすく調整することができます。 ●卓上型、携帯型など活用シーンに合わせて選択できます。 補聴システム(集音システム) 受信機 マイク送信機 ●マイク(送信機)が拾った音を直接、補聴器や人工内耳に届けるシステムです。 ●聞きたい音を大きくできるので就労のさまざまな場面で有効に使用できます。 ノイズキャンセラー パーテーション ●視覚的・聴覚的環境刺激を低減させることで、周囲の状況に影響されずに集中できる環境を整えます。 貸出しの対象となる事業主 障害者を雇用している、または雇用しようとしている事業主 ※国、地方公共団体、独立行政法人などは対象外です 貸出し期間 原則、6カ月以内 ※職場実習やトライアル雇用の場合も利用できます (正当な理由がある場合にかぎり、1回のみ延長可能) 貸出しの流れ 申請書の提出 申請書を記入し、メールまたは郵送でご提出ください ※申請書は当機構ホームページよりダウンロードできます 貸出し決定 申請のあった事業主に対し、申請内容を確認のうえ決定内容を通知し、機器を配送します〔無料〕 貸出しの終了・回収 当機構が契約している業者が回収にうかがいます〔無料〕 ※申請前に対象機器の貸出し状況等について下記までご照会ください お問合せ 中央障害者雇用情報センター 〒130-0022 東京都墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 TEL:03-5638-2792 E-mail:kiki@jeed.go.jp 就労支援機器を展示しているほか、導入に関する相談も行っています 就労支援機器は当機構ホームページで詳しくご紹介しています https://www.kiki.jeed.go.jp/ 就労支援機器のページ 検索 【P15】 エッセイ 第3回 ろう者である想い 〜人生の転機〜 忍足亜希子 忍足亜希子(おしだり あきこ)  俳優。1970(昭和45)年生まれ。北海道千歳市出身。銀行勤務を経て、1999(平成11)年、映画『アイ・ラヴ・ユー』で日本最初のろう者主演女優としてデビュー。同作で毎日映画コンクール「スポニチグランプリ新人賞」を受賞。以後、俳優業以外にも講演会や手話教室開催など、多方面で活躍中。  2021(令和3)年には、夫で俳優の三浦剛との共著『我が家は今日もにぎやかです』(アプリスタイル刊)を出版。  25歳のとき、自分に合う職業を模索しながら、自分探しの旅をしていました。ちょうど銀行を退職すると決心したときにお世話になっている手話通訳士さんから、NHK教育テレビ『ノッポさんの手話で歌おう』という番組を紹介していただき、参加することになりました。そこであらためて手話に対する意識が芽生え、心を動かされました。私にとって「手話」という言語は、一番大切で欠かせないものです。さまよって探していたものとようやく出会えた気がしました。とてもうれしくなって心から叫びたくなりました。  もともと飽きっぽいところがあり、なかなか自分に合うものがなくて気持ちが萎えていたものの、銀行を退職してしばらく自分探しの旅をしたおかげで、自分の目標が見えてきました。25歳という年齢が、「人生の転機」と世間でいわれていることが理解できたように思います。これが一つ目の節目です。  そして27歳のとき、映画『アイ・ラヴ・ユー』のオーディションに合格し、1999(平成11)年、ろう者女優としてデビューし芸能界入りしました。芸能界といえば、とても華やかなイメージです。俳優という職業は表現者として見られる立場なのに、最初のころは全然慣れなくて、右も左もわからず戸惑うことがたくさんありました。聴者の世界に慣れているにもかかわらず、異世界にやってきて迷子になった気分でした。  デビュー当時はまったく演技経験がなく、撮影現場で周囲の役者さんたちの演技を見て一つひとつ噛みしめながら学んでいきました。当時はろう者女優は珍しかったらしく、映像関係やマスコミ関係の方から注目されたため多くのメディアから取材が殺到し、とても慌ただしい日々を過ごしていました。  休む間もなく映画のキャンペーンで全国各地を訪れ、舞台挨拶をしました。こんなに忙しくなるとは思っていなかったので正直とても驚きましたが、ろう者と手話に関心を持ってくださる方が増えて、とてもうれしくなりました。そして、このままずっと手話が広まっていったらいいなと思っていました。しかし、数年経つと徐々に熱は冷め、ろう者や手話に対する意識が薄まってきたように感じられて、とても寂しく思いました。  「ブームは必ず去る」。これは仕方がないことなのでしょうか?  でも、「手話」という言語を持つろう者や、「手話」の存在自体が忘れられるのは、本当にとても悲しく辛いことです。俳優を目ざすろう者が増えてほしいという思いもあります。そのためにはどうしたらいいのか、少しずつ考えるようになりました。  そんなとき、とあるろう学校に講演を依頼され、訪問しました。ろうの子どもたちに向けて映画に関するお話を終える前に、子どもの一人が質問してくれました。  「おしだりさん、私も将来女優さんになれるかな? できるかな?」  すると、ほかの子どもたちもウンウンとうなずいて、目をキラキラ輝かせてこちらをじっと見つめていました。  そういわれたとき、ハッとして雷に打たれたような気分になりました。  「そうなんだ、ろうの子どもたちも自分の夢を叶えたい! 自分が持っている才能、自分にしかできない特技を活かせる職業に就きたい!将来のことを考えているんだ」  聞こえないことで職業の選択肢が限られてしまうのは嫌だと思ったので「もちろん! できるよ! 一生懸命努力してがんばれば必ず女優になれるよ!」と答えました。  ろうの子どもの一言がきっかけで、私は女優という仕事をあらためて見直しました。これが二つ目の節目、ターニングポイントです。  最近、俳優を目ざす若いろう者が増えて、とてもうれしいです。そんな人たちや、聞こえない子どもたちに夢や希望を与えられるように私もがんばらなくてはと、勇気と希望をもらいながら日々精進の毎日です。 【P16-17】 この人を訪ねて 「eスポーツ」が障害者の就労機会を広げる 株式会社ePARA(イーパラ)代表取締役 加藤大貴さん かとう だいき 1981(昭和56)年、愛知県生まれ。2007(平成19)年、法政大学法科大学院修了、国家公務員として2011年から2019年まで東京地方裁判所勤務、2018年12月に「特定非営利活動法人市民後見支援協会」を設立し副代表に就任。2019年から2021年まで社会福祉法人品川区社会福祉協議会に勤務。2020(令和2)年、障害者の就労支援やeスポーツ事業を行う「株式会社ePARA」を設立。 eスポーツで障害者の就労を支援する会社 ――加藤さんが設立した「株式会社ePARA」は、eスポーツ(※1)で障害者の就労を支援しているそうですね。 加藤 私たちは2019(令和元)年11月、東京都内で障害者の就労支援を目的としたeスポーツ大会を初めて開催しました。就労移行支援事業所やクラウドソーシング会社などに声をかけて、eスポーツが好きな障害のある選手20人ほどが集まりました。同時にIT関連の企業5社の担当者も招いて会場観戦してもらった結果、コールセンターを展開する企業に3人が就職しました。これに手ごたえを感じ、本腰を入れるため2020年に「株式会社ePARA」を設立しました。 裁判所職員からの転身 ――eスポーツを活かした障害者の就労支援を行おうと思ったのはなぜですか。 加藤 もともと私は裁判所の書記官として働いていたのですが、あるとき、地方で一人暮らしをする祖母の住居契約にかかわるトラブルを機に、「成年後見制度」(※2)の大切さを実感しました。もっと一般に広めるために市民後見人の養成講座を受けて、弁護士の元同僚とNPO法人を設立しました。ただこの活動は、裁判所とは利益相反の関係になるため兼業ができないと知り、裁判所を退職して社会福祉法人品川区社会福祉協議会(社協)に入りました。  社協では成年後見制度にかかわる仕事をしていましたが、同じフロアに障害のある人もよく訪れていたことから、自然と話す機会が増えました。私が大好きなeスポーツを同じように楽しむ人も多くてうれしい驚きがあった一方、「もっと働きたい」、「やりがいのある仕事をしたい」といった声も聞きました。eスポーツをする人は相応のパソコンスキルもありますから、就労支援にも活かせるのではと考えるようになりました。 企業担当者もゲームに参加 ――eスポーツは、どのように採用とマッチングしていくのでしょうか。 加藤 私たちのeスポーツ大会には、IT関連を中心にパソコンスキルなどを必要とする企業を招待しています。競技の様子を直接見てもらうと、企業の担当者から毎回、「こんなに高いスキルを持った人たちがいるのですね」という感嘆の声を聞きます。私も彼らの能力を再認識するとともに、出会いの接点をつくることで、こんなふうに人の心を動かせるのだと実感します。  場合によっては企業担当者も、eスポーツチームのメンバーとして競技に参加してもらっています。競技はチーム制で行うことが多く、メンバー同士の作戦会議や競技中のコミュニケーションが欠かせません。競技を通して企業担当者は、選手たちの人となりや、実際に職場で一緒に働いたときの雰囲気もわかるようです。「こういうパソコン操作はできますか」、「オンラインでの業務は可能ですか」といった企業担当者からの追加の質問にも、私たちが詳しく説明します。  こうしたイベントを機に、企業の求める人材と彼らの能力がうまくマッチングし、これまでエンジニア職などとして12人が就職し、延べ50人がゲームのナレーションやライティングの業務委託を受けています。なかにはゲーム会社に採用され、YouTubeでeスポーツのストリーマー(ゲームをしながら実況配信する人)として活動する人もいます。  2021年の4月には、VR(仮想現実)を使った職場見学や仕事体験ができる障害者向けの就職イベントをオンラインで開催しました。企業は大手通信会社など10社、求職者も全国から100人ほど参加したほか、このイベントを就業トレーニングの一環としている就労移行支援事業所もあります。 視覚障害者による音声制作事務所 ――eスポーツで、障害のある人たちの活躍の場も広がっているそうですね。 加藤 2022年の4月には、先天性の全盲の選手たちによるブラインドeスポーツ大会「心眼(しんがん)CUP」を都内で開催しました。生まれたときから聴覚が鍛えられてきた彼らは、音だけでキャラクターの立ち位置や動きがわかります。イベントは海外のeスポーツメディアでも大きく紹介されました。  有名選手の一人である北村(きたむら)直也(なおや)さんは、ePARAの社員ですが、プロの声優でもあります。大手の声優養成所を経て事務所に所属し、一般の声優にまじって活躍されています。いまの時代はリアルタイムに点字が表示される機器もあるので、ほとんどハンディがないそうです。  そんな北村さんを中心に今年1月、視覚障害者による音声制作事務所「ePARA(イーパラ) Voice(ボイス)」を立ち上げました。現在、視覚障害者6人が登録し、それぞれ自宅に録音環境などを整えライブ収録にも対応しています。  また2月には、J1サッカーチーム「川崎フロンターレ」で活躍する選手と、車いすユーザーだけで結成するeサッカーチーム「ePARAユナイテッド」がタッグを組み、CPU(コンピューター)を相手に11人制eサッカーの試合を行いました。チームのメンバーは脳性麻痺、筋ジストロフィー、横断性脊髄炎などの障害のある人たちで、さまざまな活動や仕事をしています。 VRやメタバースの普及とともに ――ePARAの活動や障害者雇用の今後について、お考えを聞かせてください。 加藤 いまはePARAに所属するほとんどの選手が、自分の顔を公開してパーソナリティも紹介しながら活動してくれています。彼らはバリアフリーのeスポーツ界におけるフロントランナーとして、同じ障害のある人や世の中に向けて「補助機材や一定のサポートがあれば、ここまでできます」というメッセージを、説得力を持たせて発信したいのだろうと思います。今後はもっと気軽に、例えばアバターを使ったVTuber(ブイチューバー)(バーチャルユーチューバー)として活動できる人も増えてくるでしょう。私たちの会社は先日初めて、メタバース(仮想空間)を使った株主総会を行いました。また、eスポーツのイベントを海外向けにオンライン開催することも検討しています。  今後もインターネット環境の拡充やVR、メタバースの普及とともに、さまざまな事情を抱えた障害のある人たちも柔軟な環境で働き、活躍できる機会が広がっていくはずです。一般の採用活動でeスポーツを活用する企業も増えていますから、ぜひ障害者雇用の場でも使ってみてほしいですね。また、国内外ではタイピングやエクセルを使った財務モデリングのeスポーツ競技がありますから、いつかアビリンピックの種目にも加わったらよいなと思っています。当事者のみなさんでeスポーツに興味のある方は、ePARAの“部活動”にも参加できますので、ぜひホームページをのぞいてみてください。お待ちしています。 ※1 eスポーツ:「エレクトロニック・スポーツ(electronic sports)」の略で、おもにコンピューターゲームやビデオゲームを使った対戦などをスポーツ競技としてとらえる名称 ※2 成年後見制度:認知症や知的障害・精神障害などによって判断能力が十分ではない人を保護するための制度。さまざまな契約や手続をするときに、本人を援助する人として親族や弁護士などの成年後見人を裁判所が選任する 【P18-23】 編集委員が行く 精神科医療と一体化した就労支援で個別プログラムを設定し、就労へつなぐ 医療法人社団三愛会三船病院(香川県) 一般社団法人岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 取材先データ 医療法人社団三愛会三船(さんあいかいみふね)病院 〒763-0073 香川県丸亀市(まるがめし)柞原町(くばらちょう)366 TEL 0877-23-2341(代表)  1953年開院。精神科、心療内科、内科、歯科。328床。  「医療法人社団三愛会」がコミュニティケアセンターとして「障害者就業・生活支援センターくばら」を運営。さらに同法人が運営する「多機能型事業所ワークサポートセンター三愛」に就労移行支援、就労定着支援、就労継続支援B型の事業所がある。 編集委員から  四国の地方都市で精神科病院の就労支援の取組みを取材した。それはそのまま、日本の精神科医療、精神障害者への就労支援の歩みだった。変遷する法律に対応する医療法人にとっては病院の在り方そのものの方針転換であり、それにしたがい最前線で支援する人々の取組みに頭が下がる思いがした。 写真:官野 貴 Keyword:医療法人、精神障害、就労支援、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センター POINT 1 精神保健福祉士によって、医療と就労の一体化した支援がスムーズに 2 地域障害者職業センターなど外部の社会資源を活用、就労サービスの専門性を高めている 3 地域の精神科の病院やクリニックとネットワークを構築し、就労支援の拠点へ 医療法人社団三愛会三船(さんあいかいみふね)病院  瀬戸大橋を渡り丸亀市(まるがめし)へ。香川県は東讃(とうさん)、中讃(ちゅうさん)、西讃(せいさん)に分かれるが、丸亀市は県域中央部・中讃(善通寺(ぜんつうじ)、坂出(さかいで)、琴平(ことひら)など)の中心地で、うちわの生産地で知られる。JR丸亀駅から車で10分のところに医療法人社団三愛会(以下、「三愛会」)の三船病院はあった。戦後間もない1953(昭和28)年、開放的な環境下で園芸、農耕、畜産、縫製などによる作業療法を中心に治療を行う精神科病院として開院した。右肩上がりの経済成長とともに入院患者も増え、在院日数も長期化していった。  「1985年がピークで、入院患者数は約700人でした。いま、2023(令和5)年の入院患者数は約320人ですから、半分以上の減少です」と三愛会理事長の三船(みふね)和史(かずし)さんはふり返る。  1987年、精神衛生法から精神保健法にあらためられ、国は精神障害者の人権に配慮した適正な医療、保護の確保と精神障害者の社会復帰の促進の2本柱を打ち出した。  さらに1995(平成7)年、精神保健法は精神保健福祉法にあらためられ、精神障害者の自立と社会参加促進のために援助する福祉施策が盛り込まれた。そして1997年、退院後の生活支援、社会復帰の促進にあたる専門職であり、国家資格の精神保健福祉士制度が始まった。  理事長の三船さんはすぐにこれを採用し、年々、職員を増員した。地域での自立した生活のため、生活リズムの確立、定期的な通院、服薬の習慣化など就労に備えたプログラムの指導を行い、個々のケースで就労への取組みを進めた。  2004年、精神保健医療福祉の改革ビジョンで入院医療中心から地域生活中心へ基本方針を示し、2005年、障害者自立支援法が制定され、就労支援事業がスタート。精神障害者が地域で暮らし、働く、具体的な公的支援が始まった。  三船さんは国の就労支援開始に合わせ、2006年から本格的に在院患者のダウンサイジングに取り組んだ。その一方で、就労支援の施設整備を実施。2008年には障害者就業・生活支援センターを、障害者総合支援法が制定された2012年には就労継続支援B型事業所を、2014年には就労移行支援事業所を開設した。  そして2018年、障害者雇用促進法の改正で、身体障害者、知的障害者に加え、新たに精神障害者が雇用率算定の対象になった。 就労移行支援事業所みなみ  三愛会が運営する、多機能型事業所ワークサポートセンター三愛の「就労移行支援事業所みなみ」(以下、「みなみ」)を取材した。定員15人に対し利用者10人が就労へ向けた学習、作業を行っていた。  注文書を見ながら商品を出していくピッキング。ジャガイモ、トマト、キュウリなどを計量しながらの袋詰め。プラグの組立て。郵便物の社内メールへの仕分け。座学では、SST(ソーシャルスキルトレーニング)やグループワーク、問題解決技能トレーニング、マナー講習などのほか、ワード、エクセルを習得しパソコンによる納品書、請求書の作成など、さまざまな作業に取りかかっていた。  これらの一部は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センター研究部門が開発したアセスメントツール「ワークサンプル幕張版(MWS)」(※1)、同機構の障害者職業総合センター職業センターが開発した精神障害者向け支援技法「ジョブリハーサル」(※2)を導入。利用者は作業しながら向き不向きを判断し自己特性を知り、仕事の選択に役立てて、支援員は個別プログラム設定に活かしている。  精神保健福祉士で主任の大西(おおにし)拓(たくみ)さんは「作業だけでなく、座学やJST(職場対人技能トレーニング)などを通して自己理解を深めるとともに、苦手と感じる課題(コミュニケーション能力)にも取り組みます」と話す。  大西さんは個別相談で支援の効果を確認し、利用者が自分の課題、目標を自覚し就労を目ざすよう導いている。  利用者は、利用期間の2年間(原則)のうち、基礎の期間は労働習慣、職業能力向上を、実践の期間では自己管理能力、職場適応を磨き、就職活動に進み、就労へとステップアップしていく。  みなみでは、就労移行支援事業を始めて8年になり、60人が製造、販売、介護などの職場へ一般就労した。精神保健福祉士で課長の田(たかだ)裕子(ゆうこ)さんは、「就職した約80%が精神障害のある方、そして定着率は80%以上です。病院受診同行や、家族や支援機関と相談してていねいにアセスメントを行い、企業とのマッチングを図るように心がけています」という。  みなみから地元企業へ就職した40代の女性に話を聞いた。パソコンで仕入伝票を処理するなど、事務や庶務の業務を担当している。  「入社して5年目です。仕事には慣れました。また、若いときよりセルフコントロールができるようになりました。1年半の就労移行支援で体力がつき、気持ちのコントロール方法を学びました」と話してくれた。  みなみでは2018年10月から就労定着支援事業も開始した。前述の女性の支援を担当した定着支援員で看護師の島崎(しまさき)須美(すみ)さんは、「週1回ぐらいの相談が1年近く続きました。ストレスを溜めない方法などを話したりもしました。その後職場にだんだん慣れ、2年目から落ち着きました」と話す。  就労定着支援の基本は、早めの相談と、リフレッシュでストレス解消。支援員は相談があれば、本人、家族、さらに企業を訪問して職場の方々にも様子を聞き、パイプ役として双方をつなぐ。  「職場の人に本人が悩んでいる内容を伝え、問題を理解し、解決へ協力してもらうこともあります」という。  周囲とのコミュニケーションに悩む人々には定着支援は欠かせない。 就労継続支援B型事業所さんあい  次は同じく三愛会が運営する「就労継続支援B型事業所さんあい」へ。  定員は1日25人。46人が登録し1日に計22人〜25人が利用している。利用者は20〜70代、平均年齢48歳。精神障害のある方が90%だ。仕事は病院内の食器洗浄、パンフレットの袋詰め、農作業、清掃のほか、運送会社で荷物の仕分け作業など。工賃は月平均2万円。  介護福祉士でサービス管理責任者の三宅(みやけ)ナオミさんは、「精神障害のある方々は、体調や気持ちに日々波があり、それぞれの支援ニーズは個別で多様です。企業への一般就労を目ざす人には、就労継続支援B型事業所から就職する方と、就労移行支援事業所の利用を経て就職する方がいるため、その方との日々のかかわりから、ていねいにアセスメントを行っています」と説明する。 障害者就業・生活支援センターくばら  最後に、「障害者就業・生活支援センターくばら」を訪ねた。  スタッフは、主任就業支援ワーカー1人、就業支援ワーカー3人、生活支援ワーカー2人。対象エリアは丸亀市、坂出市、善通寺市、宇多津町(うたづちょう)、多度津町(たどつちょう)、琴平町、綾川町(あやがわちょう)、まんのう町(ちょう)の3市5町。2023年2月末時点の登録者は638人。身体障害59人、知的障害283人、精神障害286人、そのほか10人。通信制・定時制高校を卒業した就労未経験の若者が増えているという。  登録者のうち、2022年度の就職者は43人(身体障害1人、知的障害15人、精神障害26人、そのほか1人)。就職先は製造、運送、農業、サービス業で、事務職の場合は高松市への勤務者もいる。  精神保健福祉士で主任就業支援ワーカーの大西(おおにし)由美子(ゆみこ)さんは、「ほかの障害者就業・生活支援センターは知的障害のある方の利用が多いのですが、私たちのセンターは精神科病院が母体ですので、これまでも多くの精神保健福祉士が地域の企業、事業所に働きかけ、職場実習、就労へと活動してきた実績があり、その蓄積の結果として登録者も就職者も精神障害のある方が多くなっています。さらに中讃地域にある8つの精神科病院、7つの精神科クリニックだけでなく、高松市内の病院、クリニックとも連携しています。このネットワークの構築が地域で暮らす人々の就労支援に役立っていると思います」と話す。  就労支援の現場へ精神保健福祉士を多く投入、精神障害の特性の把握、対応、サービスの提供に役立っている。 医療と就労が一体となった支援  ここでは、精神科医療と一体となった就業支援、生活支援体制が効果を発揮している。  1985年以降、国の方針に沿って入院患者が早く退院し地域で生活できるよう支援を始め、1995年から香川障害者職業センターと連携したことによって支援体制が充実した。2006年の障害者自立支援法施行に合わせて、思い切ったダウンサイジングを実施。在院患者数は5年間で170人減少し、就労支援事業所などを順次、開設したという。理事長の三船さんは、「施設を整備し、精神障害のある方に対し、専門的で多様な支援のサービス提供を心がけています。専門職である精神保健福祉士を早くから採用し、病院と就労支援の現場で合わせて30人います。その人たちが10年、20年と経験を積み、就労支援の柱になり、最前線でよい仕事をしてくれています。地方都市で仕事の確保などむずかしい点もありますが、今後も着実に取り組んでいきたいです」と語る。  医療と就労支援の現場の情報共有、人事交流も行い、精神科医療と就労支援が1本につながり、地域の精神科病院、クリニックとのネットワークをつくり拠点化へ進んでいる。  香川障害者職業センター上席障害者職業カウンセラーの國田(くにた)敬子(けいこ)さんは、「母体の病院が地域で長く精神科医療をけん引しており、就労支援のパイオニアとして支援機関、事業主とのつながりも強い。個々の障害特性に即した個別のプログラム設定、支援を展開しています」と話している。 「完全参加と平等」の最終ゴールを目ざして  「完全参加と平等」をテーマにした国際障害者年は1981年。その理念の中心になったのは、デンマーク政府の障害福祉の行政官だったバンク・ミケルセンが提唱した「ノーマライゼーション」。障害者は施設を出て、地域で暮らし、働き、施設は地域で暮らす障害者を支援する役割になる。  ノーマライゼーションは、施設ケアから地域ケアへ大きく転換することを求めた。ライフステージに合わせ、就学年齢になれば地域の小学校で学び、成人になれば就労支援を受け、音楽や絵画を楽しむアート支援を利用し、障害のある人もない人も地域社会の構成員として、生産活動に参加し、良き隣人としてともに生きる。  国連は各国政府に1992年までに医療、交通、教育、就労などの施策を中心にした行動計画をつくるように宣言した。  日本政府は障害者自立支援法を制定し就労支援制度を始めた。養護学校は特別支援学校になり、キャリア教育を進めている。昭和の時代に国連が問題提起し、国が法律を立案、平成の時代に具体的に新しい制度となって展開され、40年を超えた。  今回、医療法人社団三愛会三船病院の取組みを取材し、「完全参加と平等」の最終ゴールは、精神障害者の就労支援だと思った。 ※1 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai59.html ※2 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/support21.html 写真のキャプション 医療法人社団三愛会三船病院 理事長の三船和史さん ワークサポートセンター三愛 「就労移行支援事業所みなみ」のワーキングルーム 野菜の袋詰め作業 郵便物の仕分け作業 プラグの組立作業 野菜を模した手づくりの模型 ピッキング作業 精神保健福祉士で課長を務める田裕子さん 精神保健福祉士で主任の大西拓さん 医療機関で働く松島(まつしま)健太(けんた)さんは、「就労移行支援事業所みなみ」の支援終了後も、継続して看護補助業務に従事している(写真提供:ワークサポートセンター三愛) パソコンでの事務作業の様子を見学する阪本委員(中央)と案内してくれた大西さん(右) 「みなみ」の就労支援を受け、地元企業で事務、庶務などを担当する女性(写真提供:ワークサポートセンター三愛) 定着支援員とともにお話をうかがった 定着支援員で看護師の島崎須美さん 「就労継続支援B型事業所さんあい」のワーキングルーム 介護福祉士でサービス管理責任者の三宅ナオミさん 「障害者就業・生活支援センターくばら」のミーティングルーム 精神保健福祉士で主任就業支援ワーカーの大西由美子さん 香川障害者職業センター上席障害者職業カウンセラーの國田敬子さん 香川障害者職業センターとの連携について話す理事長の三船さん 【P24-25】 省庁だより 令和5年度 予算の概要 (障害者雇用施策関係部分の抜粋版) 厚生労働省 職業安定局 厚生労働省職業安定局より発表された「令和5年度予算の概要」について、障害者雇用施策関係部分の抜粋版を紹介します。 障害者の就労促進 【186億円(187億円)】 ※( )内は前年度当初予算額 中小企業をはじめとした障害者の雇入れ等の支援 ●障害者雇用ゼロ企業等に対する「企業向けチーム支援」の実施等 予算額 10億円(9.6億円)  障害者の雇用経験や雇用ノウハウが不足している雇用ゼロ企業に対して、ハローワークが中心となって各種支援機関と連携し、企業ごとのニーズに合わせて、求人ニーズに適合した求職者の開拓等の準備段階から採用後の定着支援まで障害者雇用を一貫して支援する。 ●「障害者向けチーム支援」の実施等によるハローワークマッチングの強化 予算額 17億円(18億円)  福祉施設等の利用者をはじめ、就職を希望する障害者一人ひとりに対して、ハローワーク職員(主査)と福祉施設の職員、その他の就職支援者がチームを結成し、就職から職場定着まで一貫した支援を実施する。 ●障害者就業・生活支援センターによる地域における就業支援 予算額 81億円(80億円)  障害者就業・生活支援センター(以下「センター」という。)は障害者の職業生活における自立を図るため、雇用、保健、福祉、教育等の関係機関との連携の下、障害者の身近な地域において就業面及び生活面における一体的な支援を行い、障害者の雇用の促進及び安定を図る。  更に、全国の障害保健福祉圏域ごとに設置しているセンターは、各地域における中核的な就労支援機関として位置づけられており、個々の障害者のニーズに応じた相談・支援に加えて、地域の支援機関のネットワークの拠点としての役割を担う。 ●障害者の雇用を推進するためのテレワークの推進 予算額 75百万円(80百万円)  障害者へのテレワークの導入は徐々に進みつつあるが、導入にあたっては、個々の障害の特性に応じたコミュニケーションや体調管理等の個別の対応が必要であることから、引き続き個別のコンサルティングを実施する。加えて、障害者へのテレワークを導入した企業に対して、運用面での課題への助言や障害者の職場定着に向けた相談支援を行う。  また、DXの進展等により、これまで障害者が担ってきた定型的な業務が減少し、障害者の雇用維持が難しくなる事案が生じることが懸念されており、障害者の新たな職域の開発が求められていることから、テレワーク導入を通じて、新たな職域開発に向けた雇用モデルの構築を支援する。 ●福祉、教育、医療から雇用への移行推進事業 予算額 2.8億円(2.9億円)  障害者やその保護者、これらを取り巻く就労支援機関・特別支援学校・医療機関等関係機関の職員等は、企業就業への意識や実際に企業で就業するイメージが十分とは言えず、企業での就業に対する躊躇や諦めを持つなど、福祉から企業就業への円滑な移行が課題となっている。  このため、関係機関の職員等に対し、企業での就業への理解促進を図り、企業での就業に対する不安感等を払拭させるため、地域のニーズを踏まえた支援を実施する。 ●トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース・短時間トライアルコース) 予算額 12億円(13億円)  障害者雇用の取組が遅れている事業所では、障害者雇用の経験が乏しいために、障害者に合った職域開発、雇用管理等のノウハウがなく、障害者を雇い入れることを躊躇する面があるところである。このため、これらの事業所に対して、障害者の試行雇用を通じ、障害者の雇用に対する理解を促進するとともに、障害者の業務遂行の可能性を見極め、試行雇用終了後に常用雇用への移行を進め、就業機会の確保を図ることとする。 精神障害者、発達障害者、難病患者等の多様な障害特性に対応した就労支援 ●精神障害者等の就職及び雇用継続の促進に向けた支援事業(精神障害者雇用トータルサポーター) 予算額 14億円(15億円)  きめ細かな支援を要する精神障害者等の求職者が増加していることから、障害特性を踏まえた専門的な就職支援や職場定着支援、及び事業主に対する精神障害者等の雇用に係る課題解決のための相談援助を実施する必要がある。  ハローワークに精神障害者等の専門知識や支援経験を有する者を配置し、相談援助や専門的なカウンセリング等を実施する。 ●発達障害者の就職及び雇用継続の促進に向けた支援事業(発達障害者雇用トータルサポーター) 予算額 4.6億円(4.7億円)  きめ細かな支援を要する発達障害者の求職者が増加していることから、障害特性を踏まえた専門的な就職支援や職場定着支援、及び事業主に対する発達障害者の雇用に係る課題解決のための相談援助を実施する必要がある。  ハローワークに発達障害者の専門知識や支援経験を有する者を配置し、相談援助や専門的なカウンセリング等を実施する。 ●就職活動に困難な課題を抱える障害のある学生等への就職支援 予算額 1.2億円(1.1億円)  発達障害等のために専門的な支援がないと就職活動自体が困難な学生等に対して、大学等と連携して支援が必要な学生等への早期把握を図るとともに、就職準備から就職・職場定着までの一貫したチーム支援を行う。 ●精神・発達障害者しごとサポーターの養成 予算額 15百万円(22百万円)  職場における精神・発達障害者を支援する環境づくりにより、職場定着を推進するため、企業内において、精神・発達障害者を温かく見守り、支援する応援者となる「精神・発達障害者しごとサポーター」を養成し、精神・発達障害者に対する正しい理解を促進する。 ●難病相談支援センターと連携した就労支援の強化 予算額 2.2億円(2.2億円)  ハローワークに「難病患者就職サポーター」を配置し、難病相談支援センターをはじめとした地域の関係機関と連携しながら、個々の難病患者の希望や特性、配慮事項等を踏まえたきめ細かな職業相談・職業紹介及び定着支援等総合的な支援を実施。 ●特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース) 予算額 6.3億円(6.1億円)  発達障害者は、社会性やコミュニケーション能力に困難を抱えている場合が多く、就職・職場定着には困難が伴っている。  また、難病患者は、慢性疾患化して十分に働くことができる場合もあるが、実際の就労に当たっては様々な制限・困難に直面している。  このため、発達障害者及び難病患者の雇用を促進するため、これらの者を新たに雇用し、雇用管理等について配慮を行う事業主に対する助成を行う。 ※本広誌場では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 【P26-27】 研究開発レポート 障害等により配慮が必要な従業員の上司・同僚の意識に関する研究 障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門 1 はじめに  企業で雇用されている障害者数が増加するなか、採用後の職場定着に向けた企業の取組みや、企業への支援が求められています。先行研究からは、職場の上司・同僚との人間関係の悪化が障害者の離職理由の一つとなっていることや、上司・同僚からサポートを受けることで、働く障害者の職場のストレスが緩和され、雇用継続につながる可能性が示唆されています。このように職場の上司・同僚が障害者の雇用継続に果たす役割は大きいと考えられますが、職場の上司・同僚は人事担当者や企業内ジョブコーチのように障害者雇用に対する知識を持っているとはかぎらず、障害者とともに働くことにとまどいを感じている可能性も考えられます。そこで障害者職業総合センター研究部門では、障害者と同じ職場で働く上司・同僚(以下、「同僚従業員」)に注目し、障害者と働くことに対する意識や行動について明らかにすることを目的とした調査を実施しました。本稿ではその結果の一部についてご紹介します。 2 調査方法 (1)調査手続き  調査会社が保有するモニターを対象としたWeb調査を実施しました。スクリーニング調査を実施し、年齢が18〜69歳に該当する者を対象に@配慮が必要な障害者と同じ職場で働いている、A障害者の採用に関わる立場にない、という二つの条件を満たす1,000名を抽出しました。 (2)調査内容  (1)で抽出した1,000名に対して、おもに以下の内容について回答を求めました。@回答者の属性、A回答者と同じ職場で働く障害者(以下、「障害者従業員」)の障害や困難の状況、B障害者従業員に対し、会社等が実施する配慮の状況、C障害者従業員が受けている配慮に対する認識、D障害者従業員と働くうえでの課題、E障害者従業員に提供するサポートと提供した理由。 3 調査結果の概要 (1)回答者の属性  回答者の平均年齢は50.2歳(SD=±10.14)であり、職業は「会社勤務(一般社員)」(40.5%)が最も多く選択されました。また、「ジョブコーチ」や「障害者職業生活相談員」など障害者雇用に関わる資格を保有しているかどうか回答を求めたところ、「保有していない」が95.6%でした。さらに、現在の職場以外で障害者と関わった経験について回答を求めたところ、「特になし」(46.9%)が最も多く、現在の職場以外では、障害者と関わった経験がない者が半数弱でした。したがって、職場における障害者への配慮に関する一般的な知識をあまり持たない回答者が一定程度含まれていると考えられます。 (2)障害者従業員に関する結果 ア 障害や困難の状況  障害者従業員(想定する1名)について、どのような障害や困難があるか、最も配慮が必要な内容について一つ選択を求めました。その結果、「歩行や階段の上り下りに障害や困難がある」(35.6%)が最も多く選択され、「対人関係やコミュニケーションに障害や困難がある」(17.7%)、「聞くことに障害や困難がある」(11.7%)と続きました。 イ 障害者従業員への配慮の状況  障害者従業員が会社等の所属している組織から受けている配慮について、当てはまるものすべてに選択を求めた結果、「作業の負担を軽減するための配慮」(46.5%)が最も多く選択され、「職場内移動の負担を軽減するための配慮」(28.6%)、「業務遂行を容易にするための配慮」(24.0%)と続きました(図1)。 (3)同僚従業員の意識 ア 障害者従業員が職場から受けている配慮に対する認識  (2)イの各配慮項目のうち、「その他」を除くすべての配慮項目において「適切な配慮が提供されている」の選択率が80%以上であり、配慮が過剰、または不足しているとする回答は多くありませんでした。同僚従業員は、障害者従業員が受けている配慮をおおむね適切であると考えていることがうかがえます。 イ 障害者従業員と働くうえでの課題  障害者従業員と働くうえで課題に感じていることについて、当てはまるものすべてに選択を求めました。その結果「特になし」が64.9%であり、半数以上は課題を感じていないことが示されました。課題の内容では「困っている様子はみられるが、自分が何をすればよいかわからない」(14.8%)が最も多く選択されました。 ウ 障害者従業員に提供するサポート  障害者従業員に対して提供したことのあるサポートについて、当てはまるものすべてに選択を求めました。その結果、「特に何もしていない」が43.7%であり、最も多く選択されました(図2)。一方で、半数以上の回答者が何らかのサポートを提供していることも示されました。サポート内容では、「障害のある方に声をかけている」(31.2%)が最も多く選択されました。また、サポートを行った理由については、サポートの内容による違いはあまり見られず、どのサポート内容においても、「サポートが必要だと思ったから」が最も多く選択されました。 4 まとめ  アンケート調査からは、半数強の回答者にサポートの提供経験があったものの、4割は何もしていないという結果が示されました。そのため、サポートが必要な障害者従業員にサポートが届いていないことも考えられます。同僚従業員による障害者へのサポートを増やしていくためには、同僚従業員がサポートを提供しやすい条件、あるいはサポートを提供しようとする意志を持てるような条件を整備することが、支援者・企業担当者に求められることも指摘されています(※1)。今後は、これらがどのような条件であるかを明らかにすることも必要と考えられます。  また、本稿では紹介しきれませんでしたが、本調査研究では障害者従業員の状態像別の分析も行いました。詳しくは資料シリーズbP05「障害等により配慮が必要な従業員の上司・同僚の意識に関する研究」(※2)をご覧いただき、職場で障害者雇用の理解を促進する際の参考にしてください。 ※1 若林功・石原まほろ・行實志都子(2017).精神障害者・発達障害者への復職支援の実際:障害特性及び職場同僚・上司の理解に焦点を当てて,職業リハビリテーション,30(2),3-11. ※2 「資料シリーズNo.105」https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/shiryou/shiryou105.html ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図1 障害者従業員が受けている配慮(複数回答) n=1,000 作業の負担を軽減するための配慮 46.5% 職場内移動の負担を軽減するための配慮 28.6% 業務遂行を容易にするための配慮 24.0% 通院・体調等への配慮 23.5% 相談に関する配慮 15.9% 疲労やストレス等に対する配慮 15.3% 業務遂行を可能にするための配慮 14.9% 通勤に関する配慮 14.6% 集中しやすい環境にするための配慮 5.8% その他 1.9% 図2 障害者従業員に対して提供したことのあるサポート(複数回答) n=1,000 障害のある方に声をかけている 31.2% 障害のある方の話し相手になっている 18.1% 障害のある方の仕事に関してアドバイスをしている 16.3% 障害のある方を認めており、それを伝えている 14.8% 障害のある方の仕事を手伝っている 14.7% 障害のある方の相談にのっている 12.6% その他 1.2% 特に何もしていない 43.7% 【P28-29】 ニュースファイル 国の動き 内閣府 「第5次障害者基本計画」決定  2023(令和5)年度から5年間の新たな「障害者基本計画」が閣議決定された。東京パラ五輪のレガシーを受け継ぎ、公共交通機関のバリアフリー化を進めるとともに、民間事業者に対して「合理的配慮」を義務づける改正障害者差別解消法が2024年4月1日に施行されることを見すえ、理解の促進に向けた取組みを進める。  また障害者が災害などの情報を得やすくするため、情報通信機器やサービスの開発、人材育成などを通じて障害者が意思疎通しやすいよう支援の充実を図る。2024年度までに障害者が情報通信機器について相談できるICTサポートセンターを全都道府県に設置する、2025年度までにすべての公立小中学校にスロープなどを整備することなどを目標に掲げる。 https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/wakugumi.html 厚生労働省 障害者の雇用改善が見られない企業名を公表  厚生労働省は、法律で義務づけられる障害者の雇用が十分でなく、国が勧告したにもかかわらず改善が見られない企業5社を公表(うち、3社は再公表)した。  厚生労働省は法定雇用率の達成に向けた計画の作成を求め、適切な実施を勧告し、これに従わない場合は企業名を公表できることとしている。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32284.html 地方の動き 東京 18歳以上の発達障害相談窓口  東京都は、都内在住で発達障害のある人や家族からの相談を受けつける「東京都発達障害者支援センター」について、18歳以上を対象にした専用の相談窓口を新たに設けた。同センターは2003(平成15)年に開設され、学校や会社、支援機関、行政機関などへのコンサルテーションや支援者への研修など、地域のバックアップも行っている。  これまでは全年齢を対象に対応してきたが、今年から18歳以上については「おとなTOSCA(トスカ)」(文京区)として公益財団法人神経研究所が、18歳未満は「こどもTOSCA」(世田谷区)として社会福祉法人嬉泉が、都から委託を受けている。「おとなTOSCA」では、まず電話かメールで相談の申し込みを受けつける。電話受けつけは平日9時から17時まで。 電話:03−6902−2082 メール:otona-tosca@ionp.or.jp 長野 強度行動障害者支援へ住宅改修費補助  塩尻市は、自傷や物を壊すなどの行動が高い頻度で見られる「強度行動障害」のある人と家族を支援するための「強度行動障害児者住宅改良促進事業」を始める。  障害特性に応じた生活環境を整備する住宅改修に経費の9割(上限90万円)を補助する。在宅生活者が対象で、破壊行動に耐えうる壁や床、アクリル窓への交換や、家電製品を囲う柵の設置などに対応する。問合せは、塩尻市健康福祉事業部福祉課障がい福祉係へ。 電話:0263−52−0280(代表) 内線2115 大分 差別解消へ啓発動画  大分県は、障害を理由とする差別の解消に向けた啓発動画「障がいのある人もない人も誰もが自分らしく生きる大分県にするために」を制作した。障害者関係団体の監修・協力のもと、一部で当事者にも出演してもらいながら、県内の事例や当事者目線をふまえた実情に即した内容となっている。また企業・団体向けに職場研修等の場面でも活用できるよう「Q&A形式」や「分割版」も公開。全4部構成で計32分程度。分割版は(1)障害者差別解消法について、(2)さまざまな障がいの特性、(3)合理的配慮の提供、(4)障がい者を助けるマークやツール、となっている。県のホームページ内にあるリンク先から「大分県障害者社会参加推進センター」のYouTubeチャンネルに遷移する。 https://www.pref.oita.jp/soshiki/12370/syougaisayasabetsukaisyou.html 生活情報 気象台と筑波技術大学が連携  東京管区気象台(東京都)、水戸地方気象台(茨城県)、国立大学法人筑波技術大学(茨城県)は、障害のある学生らの意見を活かして防災対策を進めるための協定を結び、障害者ら要配慮者の防災対策など5項目での連携を確認した。  対策の一つとして、津波については、海岸の近くにいる人や聴覚障害のある人などに情報を伝える赤と白の格子模様の旗、「津波フラッグ」の普及を図る防災教育や啓発活動を強化する。また、気象台が会見で警戒を呼びかける際の言葉づかいや資料の示し方などについても、より連携して意見交換を行うなどして、災害時の情報の伝え方が向上するよう検討する。 本紹介 『はい。園長さんはいつもにこにこしてますよ。―障害者福祉の現場から―』  山口県大島郡周防大島町(すおうおおしまちょう)にある障害福祉サービス事業所の園長を2021(令和3)年まで務めていた古川(ふるかわ)英希(ひでのぶ)さんが『はい。園長さんはいつもにこにこしてますよ。―障害者福祉の現場から―』(パレードブックス刊)を出版した。20年にわたる園長時代の「園長ブログ」に、退職後も引き続き投稿してきた記事に、「私が学んだ知的障害者と呼ばれている人たちのこと」をテーマとした「仮想講話」を加えた。知的障害のある利用者との日々のなかから感じた障害者福祉の実感と、私たちの社会の価値観への疑問と葛藤、明日への思いを綴ったエッセイ。四六判、366ページ、1430円(税込)。 締切迫る! あなたの力作がポスターになる! 令和5年度 「絵画コンテスト働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 応募締切 令和5年6月15日(木)【消印有効】 児童・生徒をはじめ社会人・一般の方もご応募いただけます。 絵画コンテストの応募は障害のある方が対象です。 写真コンテストの応募は障害の有無を問いません。 多くのみなさまからのご応募をお待ちしています。 詳しくはホームページの募集要項をご覧ください。 JEED 絵画写真 検索 <過去のポスターや入賞作品などもご覧いただけます> 主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 シンボルキャラクター“ピクチャノサウルス” ミニコラム 第24回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(18〜23ページ)は阪本委員が執筆しています。  ご一読ください。 「完全参加と平等」から43年 一般社団法人岡山障害者文化芸術協会代表理事 阪本文雄  1980(昭和55)年、当時私が勤務していた株式会社山陽新聞社は、翌年の国際障害者年に合わせ障害者を取り巻く福祉、医療、教育、地域生活、社会の理解などを記事で連載する年間キャンペーンを展開することになり、取材班はアメリカ、ヨーロッパ、アジアへ飛んだ。岡山県に本社のある地方紙にとっては初めての本格的な海外取材だった。私は社会福祉法人旭川荘の江草(えぐさ)安彦(やすひこ)理事長と先輩記者と一緒に、デンマークの社会省(当時)にバンク・ミケルセン氏を訪ね、インタビューを行いました。大学の教授室のように本がいっぱいの部屋で、パイプの煙をくゆらせ「障害があるからという理由で家族と離れ、施設で生涯を過ごすのは理解できない。市民として地域で働き、暮らすべきだ」という新鮮な言葉が胸に突き刺さった。  あれから43年。  「完全参加と平等」をテーマにした国際障害者年を機に、医療、福祉の施設ケアは役割、機能を大きく転換し、精神科病院の患者は病院を出て、地域で働き、暮らす人が増えた。病院は長期入院という囲い込み型の施設ケアから地域で生活する人々の生活支援、就労支援、アート支援などを行うサポートセンターの機能を持った。今後も、ノーマライゼーションの一層の充実へ医療と就労支援やアート支援など幅広いニーズへの対応が求められている。 【P30】 掲示板 第31回職業リハビリテーション研究・実践発表会 発表者募集のお知らせ  当機構では職業リハビリテーションの研究成果を広く周知するとともに、参加者相互の意見交換、経験交流を行う場として「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を毎年開催しています。  今年度は、2023(令和5)年11月8日(水)、11月9日(木)の2日間、東京都江東区有明の東京ビッグサイトで開催する予定です。5月末ごろから発表者を募集しますので、詳細は当機構障害者職業総合センター(NIVR)ホームページをご覧ください。  なお、当日の参加者については、8月末ごろにホームページなどで募集する予定です。 ※新型コロナウイルス感染症のへ対応等により、開催等に変更が生じる場合があります。 ※NIVRホームページでは、昨年度までの発表資料等を掲載していますので、あわせてご覧ください。 NIVR 検索 〈お問合せ先〉 研究企画部企画調整室 TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp 読者アンケートにご協力をお願いします! 回答はこちらから メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 次号予告 ●この人を訪ねて  全国で「久遠チョコレート事業」を展開する一般社団法人ラバルカグループ(愛知県)代表理事の夏目浩次さんに、今後の障害者雇用の可能性などについて、お話をうかがいます。 ●職場ルポ  除雪機や草刈機、高所作業機などの開発・製造・販売を行う、フジイコーポレーション株式会社(新潟県)を訪問。職場環境から支援体制の整備まで、同社が行うさまざまな取組みを取材しました。 ●グラビア  多数の乳製品を取り扱う、大山乳業農業協同組合(鳥取県)を取材。障害のある人が作業しやすい職場環境の工夫などを紹介します。 ● 編集委員が行く  三鴨岐子編集委員が、無添加石けんなどの化粧品製造販売やOEMを行う有限会社ねば塾(長野県)を訪問。障害者の自立を目ざし、地域において共同して日常生活を営み、同社で働く様子などをお伝えします。 公式ツイッターはこちら! @JEED_hiroba 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 本誌購入方法 定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。 1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み  株式会社広済堂ネクストまでご連絡ください。  TEL 03-5484-8821  FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 飯田 剛 編集人−−企画部次長 中上英二 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6526(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社広済堂ネクスト 〒105−8318 東京都港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 6月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和5年5月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 管理部次長 金井 渉 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 武庫川女子大学 学生サポート室専門委員 諏訪田克彦 サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田 淳 常磐大学 准教授 若林 功 【巻末】 写真のキャプション 「歯科技工」三津橋幸勇さん(北海道) 「歯科技工」中川直樹さん(埼玉県) 「クリーニングサービス」本田駿斗さん(神奈川県) 「クリーニングサービス」下内寿也さん(京都府) 「フラワーアレンジメント」田中達也さん(新潟県) 「フラワーアレンジメント」山口めぐみさん(愛知県) 「写真撮影(屋外)」大塚弘也さん(鹿児島県) 「写真撮影(屋外)」小島未来さん(愛知県) 「コンピュータ組立」赤地和典さん(千葉県) 「ネイリスト」荒山美夢さん(千葉県) 「ネイリスト」山下加代さん(東京都) 「歯科技工」で金メダルを獲得した中川直樹さん 「英文ワープロ」で銀メダルの佐藤翔悟さん。あわせて「特別賞」(※)も受賞 ※所属する代表団のなかで最も高い点数を獲得した出場者に授与される賞 「電子機器組立」で銀メダルに輝いた小倉怜さん (左から)「家具(基礎)」銀メダルの深見尚生さん、「電子機器組立」銀メダルの小倉怜さん、「家具(応用)」銅メダルの伊藤俊貴さん (左から)「ネイリスト」銀メダルの山下加代さん、銅メダルの荒山美夢さん 「クリーニングサービス」銅メダル、本田駿斗さん 各国の特別賞受賞者が勢ぞろいし、表彰式はフィナーレを迎えた 熱戦を終えエッフェル塔をバックに記念写真 【裏表紙】 職場適応援助者の養成・スキル向上研修のご案内  当機構では、職場適応援助者(ジョブコーチ)に必要とされる専門的知識および支援技術を修得するための「職場適応援助者養成研修」、「職場適応援助者支援スキル向上研修」を実施しています。  各研修の詳細・お申込み先などは、右記のコードなどから当機構のホームページ(https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/supporter04.html)にアクセスいただき、サイト内検索(各研修名で検索)でご確認ください。みなさまの受講を心よりお待ちしています。 職場適応援助者の養成・スキル向上研修 ステップ1 入門編・実践編 職場適応援助者養成研修 ◆訪問型職場適応援助者養成研修 (年6回)※うち4回は東日本と西日本に分けて実施 ◆企業在籍型職場適応援助者養成研修 (年6回)※うち4回は東日本と西日本に分けて実施 ステップ2 スキルアップ編 職場適応援助者支援スキル向上研修 ◆訪問型職場適応援助者支援スキル向上研修 (年3回) ◆企業在籍型職場適応援助者支援スキル向上研修 (年3回) ※職場適応援助者として1年以上の実務経験のある方が対象となります 職場適応援助者養成研修 【対象】訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)としての援助を行う予定の方など 【内容】ジョブコーチの役割、作業指導の実際、ケースから学ぶジョブコーチ支援の実際、職場における雇用管理の実際、支援記録の作成など ※集合研修4日+地域障害者職業センターでの実技研修4日程度を全て受講する必要があります 地域区分 集合研修(日程、開催場所など) 実技研修 東日本:北海道、東北、関東甲信越、静岡、富山 西日本:東海(静岡を除く)、北陸(富山を除く)、近畿、中国、四国、九州、沖縄 8月期 全国対象 オンライン形式と集合形式の両方の受講が必須 オンライン形式  令和5年8月23日(水)〜8月24日(木) 集合研修終了後に、各地域障害者職業センターが実施。 集合形式  令和5年8月31日(木)〜9月1日(金) 千葉県千葉市 9月期 西日本対象 令和5年9月26日(火)〜9月29日(金) 大阪府大阪市 10月期 東日本対象 令和5年10月3日(火)〜10月6日(金) 千葉県千葉市 12月期 西日本対象 令和5年12月12日(火)〜12月15日(金) 大阪府大阪市 東日本対象 令和5年12月19日(火)〜12月22日(金) 千葉県千葉市 2月期 全国対象 オンライン形式と集合形式の両方の受講が必須 オンライン形式  令和6年2月14日(水)〜2月15日(木) 集合形式  令和6年2月21日(水)〜2月22日(木) 千葉県千葉市 職場適応援助者支援スキル向上研修 【対象】ジョブコーチとして1年以上の実務経験のある訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の方 【内容】精神・発達障害者のアセスメントや支援方法、アンガーコントロール支援、意見交換、ケーススタディなど 第3回 全国対象 令和6年1月16日(火)〜1月19日(金) オンライン形式 ※申込受付期間終了分を除く <お問合せ先> (オンライン形式・千葉県で実施する研修)職業リハビリテーション部 人材育成企画課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.go.jp (大阪府で実施する研修)大阪障害者職業センター TEL:06-6261-5215 E-mail:osaka-ctr02@jeed.go.jp 6月号 令和5年5月25日発行 通巻548号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)