働く広場増刊号 精神障害者の雇用 グラビア 精神障害者と ともに成長する会社に ラグーナ出版(鹿児島) 株式会社ラグーナ出版 〒890-0053 鹿児島県鹿児島市中央町10番地 キャンセビル6階 TEL 099-221-9321 FAX 099-297-6268 http://www.lagunapublishing.co.jp/ 写真・文/小山博孝 会社設立のきっかけで、「シナプスの笑い」の編集長である竜人さん。自ら執筆し、連載する「ノンフィクション精神科事典」は、精神科医学用語や日常のことばを、ユーモアを交えて定義する。ファンが多い 福祉大学を卒業したYさん。福祉の資格を活かしたいと考えていたが、社会恐怖症で精神科に通院。現在は編集部で原稿の入力、デザイン、レイアウトなどを担当している(2010年4月号掲載当時) ラグーナ出版で発行・発売されている出版物 精神保健福祉士だった川畑善博社長がYさんたちにアドバイス。「責任ある仕事を与えられ、それに応えられたときがいちばんうれしい」と話すYさん スタート時から積極的に協力し続ける精神科医の森越まやさん グラビア 障害者の働くフレンチ! ハープの演奏を聞きながらランチはいかが? レストラン アンシェーヌ藍(東京・世田谷) レストラン アンシェーヌ藍 〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋1-36-8 由上ビル2F TEL/FAX 03-5430-3671 http://www.ancienne-ai.aikobo.or.jp/ 〈定休日〉土・日・祝日 〈ランチタイム〉11:30〜14:30 写真・文/小山博孝 社会福祉法人藍が、「高級感のある素敵なところで、だれもが誇りをもって働いてほしい」との思いからオープンしたレストラン。東京會舘のシェフだった尾原寛調理長の指導・指示を受けて、厨房で働く岩谷啓史さんと福原美穂さん 本日のハーピストは伊藤美与子さん 本日の「藍ランチ」(1365円)。メインは若鶏の 骨付きもも肉ソテー、赤ワイン煮ブルゴーニュ風 尾原調理長の補佐役として活躍する岩谷啓史さん 開店前のミーティング。調理長から本日のメニューの説明、マネージャーからは予約状況とその対応について指示を受け、お客さまをお迎えする。精神障害者15人、知的障害者4人が、スタッフとして交代で働いている 料理人としては新人の福原美穂さん。 「大変だけど頑張ります」と話す はじめに 『働く広場2013年増刊号』をお届けします。2013(平成25)年は、障害者雇用促進法の改正が行われ、大きな転機の年になりました。4月から民間企業の法定雇用率が2・0%に引き上げられ、それに伴って障害者を雇用しなければならない事業主の範囲が、従業員56人以上から50人以上に広がりました。 もうひとつ重要なことは、精神障害者を法定雇用率に算定することが盛り込まれたことです。1997(平成9)年に、それまで身体障害者だけだった法定雇用率の対象に、知的障害者が追加されて以来の大幅な改正です。そのほか、雇用する際の障害者差別の禁止、職場で支障なく働ける措置の義務化などが定められました。同時に、障害を理由とする差別の解消を目的とした障害者差別解消法も成立しました。 本誌は、以前より精神障害者を雇用している事業所・職場の取材を積極的に行ってきました。民間の事業所での就労や農業分野での就労、ソーシャルファームなどの事例も取り上げました。精神障害者雇用に関する研究の紹介もあわせて行い、事業主のみなさまに、精神障害者を雇用するにあたっての情報を提供してきました。また近年、広く社会で問題になっている「うつ病」に関する事例も取り上げ、機構では「うつ病」の方の職場復帰、リワーク支援も行っています。 今回の増刊号には、過去4年以内の取材も含めて、精神障害のある方が職場で活躍している事例などを掲載しました。また、昨年8月から連載して注目を集めている「NOTE『はじめての精神障害者雇用』」(福島障害者職業センター所長 相澤欽一執筆)全篇も掲載しました。さらに、事例のうちから、「アイテックス/アイコール」、「三菱商事太陽」の2事例を取材して映像を撮影し、当機構のホームページに掲載しています。 この増刊号が、障害のある当事者の方、雇用の現場にいる方、そして支える方など、多くの方々に少しでも役立つことができれば幸いです。『働く広場』は、今後も障害者を含めたすべての働きたい人が働ける社会を目指して、努力していきます。 目 次 グラビア 写真・文:小山博孝 1 株式会社ラグーナ出版(鹿児島) 精神障害者とともに成長する会社に 3 レストラン アンシェーヌ藍(東京・世田谷) 障害者の働くフレンチ! ハープの演奏を聞きながらランチはいかが? 5 はじめに 対  談 8 これからの精神障害者雇用を考える 藤枝 茂 氏(厚生労働省 職業安定局 高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課長)×松矢勝宏 氏(東京学芸大学名誉教授・本誌編集委員会座長) 職場ルポ 編集委員が行く から事業所の事例をご紹介 写真:小山博孝/文:清原れい子(職場ルポ) 12 職場ルポ●アイテックス株式会社/特例子会社アイコール株式会社 障害者に責任ある仕事を任せる 18 編集委員が行く●有限会社サポートセンターれいめい  金子鮎子 精神障害者がホームヘルパー! ――姫路こころの障害者自立支援の動きとともに―― 24 職場ルポ●三菱商事太陽株式会社 「共生社会」を実現したい 30 職場ルポ●株式会社日立製作所 「社会が変わるとき、変えるのは日立でありたい」 38 編集委員が行く●アクテック株式会社  金子鮎子 社内収益率4年連続1位は諦めないチームワークで ――正しく認められた障害者が力を発揮 44 職場ルポ●株式会社ぐるなびサポートアソシエ 「働いて、貢献して、稼ぐ」チームをめざして NOTE 文:相澤欽一(福島障害者職業センター 所長) はじめての精神障害者雇用 50 @ 「精神障害」について知る 52 A 統合失調症について 54 B 「気分障害」および「精神障害者の雇用管理」 56 C 採用時に考慮すること 58 D 仕事の教え方 60 E 相談しやすい職場作り 62 F 健康管理と環境の変化への対応 64 G 職場のメンタルヘルスと精神障害者の雇用管理 知っておきたいことば 66 ジョブコーチ 68 リワーク支援 70 職業準備訓練 72 精神障害者雇用Q&A 74 高齢・障害・求職者雇用支援機構の発行物 75 広域障害者職業センター、地域障害者職業センター所在地等一覧 特別対談 これからの 精神障害者雇用を考える 厚生労働省職業安定局 高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課長 藤枝 茂 氏 東京学芸大学名誉教授 本誌編集委員会座長 松矢勝宏 氏 法定雇用率の算定基礎に精神障害者数を加えるなどの制度改正を受けて、「精神障害者の雇用」に焦点を当て、厚生労働省障害者雇用対策課・藤枝課長と本誌・松矢勝宏編集委員に、法改正のポイント、精神障害者雇用の意義、今後の展望などについて語っていただいた。 就職件数の35%が精神障害者 松矢 身体障害者の雇用義務が始まって、1987(昭和62)年の法改正で、いわゆる「障害者雇用促進法」となり、知的障害者の算入(カウント)が翌年4月に始まりました。画期的な法律改正でした。職業リハビリテーションが行きわたり、やがて重度障害者についてはダブルカウント(2倍で算入)されるようになりました。それから約10年で知的障害者を雇用義務の対象に加えるようになりました。 その次の10年というのは非常に重要でした。その間に、障害者就業・生活支援センターやジョブコーチなどの施策ができました。私自身も「働く広場」の編集委員を務め、雇用義務の対象とするときには審議会の委員でした。 次に2006(平成18)年から精神障害者のカウントが始まり、今回の法改正で、2018年度から法定雇用率の算定基礎に加えることになりました。この法律改正の意義をお話しいただけますか。 藤枝 身体障害者の雇用義務化から始まって、知的障害者にその対象が拡大され、2005年の法改正で精神障害の方も実雇用率の算入が可能になりました。そしてこの10年の間に、精神障害の方の就職件数、雇用者数が非常に伸びています。 ハローワークの窓口で就職される方の割合を見ても、10年近く前は身体障害者が圧倒的に多かったのですが、いまや就職件数でいくと、精神障害のある方が全体の35%ぐらいを占めています。企業の取組みはもちろん、精神障害の方自身の働きたいという意欲の高まり、また社会の理解も進んで、精神障害者を受け入れる環境が、この10年で急速に整ってきたのかなと感じています。 松矢 4月から法定雇用率が2%に上がったということで、いつから雇用義務の対象とするかということでは、だいぶ議論があったようですね。法定雇用率が2%に上がると、これまで達成していた企業も法定雇用率が達成できなくなるし、精神障害者にはとても対応できないという意見があったようです。 藤枝 事業主のご心配というか、これまで障害者雇用の経験のない企業もあるなかで、急に多くの障害者の方を雇うというのは、現実的には難しいという声もありました。労働政策審議会の議論をふまえ、精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えるのは2018年、次回の雇用率改定のときにスタートさせるという結論になりました。加えて実際に雇用率を決めるにあたっては、施行後5年間は、精神障害者の追加による引き上げ分は計算式どおりに引き上げないことも可能という仕組みになっています。 ただ、2018年を迎えるにあたっての雇用率をどう考えるかは、改めて労働政策審議会で議論をしていただく話ですので、現時点で決まっていません。 法定雇用率改正と精神障害者雇用 松矢 雇用促進法が精神障害まで入れたということは、ようやくすべての障害について欧州並みになってきたということですよね。 日本の少子高齢化は、なかなか改善しそうもない。すると、法定雇用率の計算式の分母にくる数が減っていく。一方で、精神障害者が算定基礎に加わるので、分子が大きくなっていきます。フランスが6%、ドイツは5%、オーストリアが3%ですから、私は、日本も長い将来を展望すれば、次第に3%ぐらいにいくのではないかと考えています。 支援機関は、法定雇用率2%時代を迎えることで、すごく期待しています。特別支援学校では毎年就職率が上がっています。知的障害者だけみても、2013年3月の卒業生には雇用率2%の効果がはっきり出ています。いままで達成していた企業は、2%になって未達成だといけないと、相当頑張っています。特別支援学校の知的障害の卒業生の就職率が40%を超える県もいくつか出てきました。知的障害の卒業生の全国平均は30・2%と過去最高になりました。 精神障害者が算定基礎に加わると、次が発達障害者へと、弾みが出てくるといいと思っています。学校では、社会参加のための力をしっかり育てていこうという気運が、この改正ですごくあるんです。 藤枝 ハローワークで就職される方の数も、特に精神障害の方が非常に増えています。まずはハローワークで精神障害の方に対するカウンセリング、対応能力の向上を図ることが最大の課題です。 これまでもチーム支援という形で、特別支援学校や福祉機関と連携して、障害のある方一人ひとりの状況、生活環境も含めた状況に合わせた就職支援を行ってきました。医療機関も含め、ていねいな対応をして、就職に結びつけるという事業をやってきています。精神障害の方には、ますます医療機関も含めた連携体制を構築して対応していかなければいけないと思っています。 それから、相談に来られる方に対する適切なカウンセリング機能を整備するという観点で、ハローワークに精神保健福祉士などの資格をお持ちの方にお願いして、「精神障害者雇用トータルサポーター」という専門職員を配置し、求職者に対するカウンセリングはもちろん、事業主に対する相談・アドバイスもしており、これを充実していきたいと思っています。 また事業主の方々には、雇用率が2%に上がったということもあって、前向きに雇用に取り組んでいただいています。われわれとしても企業が精神障害の方を雇うにあたってさまざまな支援、例えば助成金制度の充実やジョブコーチの派遣など、企業側の就職支援にも力を入れていきたいと思っています。 松矢 障害者施策だけではなく、いわゆるニート対策ということも含めて、ハローワークがかなり相談支援的なネットワークの中核的な役割を果たしてきています。いま東京では、すべての高校に臨床心理士を配置しました。そのようななか、高校の進路指導の先生と特別支援学校の先生たちが、特に発達障害や精神障害を疑われる生徒の支援ということで交流会を開きました。 そこでハローワークが、高校の発達障害や精神障害を疑われる生徒は、障害者手帳を持っているわけではありませんから、ニート対策もあって、非常に懇切ていねいに高校の進路相談にのってくれる。ハローワークが、全体の連携の中核になってくれると、企業などの受入れ側も送り出す側も非常にありがたい。一人ひとりのケースについて支援会議を開くときに、ハローワークがしっかり支えてくれると非常にありがたいと思います。 藤枝 高齢・障害・求職者雇用支援機構でも、発達障害者に対する支援プログラムを行っていたり、中途障害というか、職場でうつになった方へのリワーク支援など、精神障害者に対する対策を充実させています。機構との連携もさらに緊密にして、全体として雇用を進めていければと思います。 松矢 精神障害者の支援もかなり実績を上げてきています。うつ病対策、リワーク支援、雇用継続支援などで、地道に地域障害者職業センターが活動しています。障害者就業・生活支援センターのバックアップも行っています。自立支援法の改正で、発達障害者も精神障害者とみなすことで、精神保健福祉手帳が取得できるのですが、カミングアウトすることはなかなか難しい。さまざまな相談に対応するという点からも、地域障害者職業センターの役割は非常に大きいと思います。 定着支援とジョブコーチ 松矢 都立高校のモデル校では、東大の精神科と連携して精神保健検査をすべての新入生に行っています。面接もして、生徒の精神保健をきちんと支えていこうというねらいです。発達障害や精神障害が疑われる生徒に、学習や生活面の「困り感」に対して具体的な支援を校内委員会で講じていく。このような支援によって障害を疑われる生徒たちがニートになる可能性は低くなるだろうと考えられます。生徒本人の了解を得れば、進学先の大学との連携も可能になります。 私は精神障害の統合失調症とか、うつ病の方々の従来型の課題と、発達障害や精神障害が疑われる若い人たちへの対応について、ハローワークの連携がきちんと中核に入っていただくことで、教育行政も協力していく。そのように進んでいくことを、期待しているのです。 藤枝 ハローワークの障害者専門の窓口ではなく、一般の窓口に来られた方のなかで、職業相談の過程で、発達障害や精神障害が疑われる場合もあります。ご本人の障害に対する認知の問題もあって、窓口でも悩みながら試行錯誤しているところです。障害者であることをオープンにして就職活動をするメリットなどをていねいに説明して、ご本人の納得を得たうえで対応するようにしています。 松矢 障害のある方たちの雇用促進では、就職の次は定着が大きな課題です。ジョブコーチ制度、障害者就業・生活支援センターなどがありますが、その充実についてはどうお考えでしょうか。 藤枝 まさに職場にいかに定着させるかが、次の課題です。いわゆるジョブコーチ、職場適応援助者の制度が重要になってきます。既に企業で障害者雇用を担当しておられる方々にもジョブコーチとしての能力をさらに身につけていただくことが、定着を図っていくためには有効です。ジョブコーチの研修を受けていただけるような働きかけを行っていきたいと思っています。 専門の担当者を置けないような中小企業向けには、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなどの支援機関が支えていくことが重要だと思っています。 松矢 精神障害者の定着支援では、企業も相当努力されています。2012年の日本職業リハビリテーション学会で、大手銀行の子会社の社長だった方が報告されました。 その会社に就職された8人の精神障害者の個別資料をきちんと整え、勤務時間も短時間から入り、段階的に可能な限り長時間勤務できるようにしていったそうです。 この会社の就労定着のポイントが4つ。一つは「短時間制度の導入」。ここがスタートです。それを順調に本人の希望するレベルに上げていく。二つめは「精神科や精神保健福祉の定期的なカウンセリング」です。次に重要なのは、「趣味とストレス解消法」なんですね。職場の勤務時間だけでなくて、趣味とか余暇の活用を重視して、いろいろ配慮されている。 さらに「受入れ体制の構築」。精神障害者の理解を全社的にやるという、企業でも個別の支援計画に近い形で、精神科医や精神保健福祉士の方々のサポート、健康管理を重視していました。 藤枝 精神障害者雇用に理解のある企業に対して、助成金制度を充実させています。現在でも精神障害者等雇用安定奨励金といって、企業の取組みとして精神障害のある方のためのカウンセリング体制を整えたり、相談機関に委嘱したり、また体調管理などに対応できるような体制を整えた企業に対する助成制度、奨励金を支給する制度などもあります。 また、ジョブコーチを配置した場合の助成などもあります。企業で働きやすい職場を整備していただくための支援を、一層充実させていきたいと思っています。 まず「働く広場」を 松矢 「働く広場」の啓発誌としての果たす役割について話を進めていきたいと思います。本誌は本来、事業主の方々に障害者を雇用することへの理解と啓発という目的を持っています。それから本誌の特色は、働いている障害者本人が主役になって登場してくるということです。 私は本誌に関わって30年近くなります。本誌に登場する障害者の方たちのほとんどが匿名ではなく、自分の名前を出してくれるようになりました。かつてはAさん、Bさんといった時代もありましたが、最近は知的障害の方も精神障害の方も了解してくれています。 藤枝 私が障害者雇用対策課長に着任して、手始めに何を勉強したらいいかなと思ったときに、まず読ませていただいたのが、「働く広場」なんです。とりあえず過去1年分読みました。写真も多くて、簡単に読みやすくて、朝コーヒーを飲みながらとか、通勤電車の中でも気軽に読める誌面になっています。記事の内容も、障害者を雇っている先進的な取組みや、実際に働いている障害者の生き生きとした姿がわかりやすく紹介されていると思いました。 精神障害者の雇用に対して、まだまだ企業の理解は十分でなく、不安感もあると思いますので、それを解消していくためには、実際に精神障害のある方を雇用している企業とか、働いておられる人の状況を情報として広く提供していくということは意義があることですし、まさに求められていることだと思います。障害理解を進めるための情報提供という役割をますます期待したいと思います。 松矢 始めは季刊誌でしたが、月刊誌になって20年を超えました。 なるべくどこからでも読め、どんな人が読んでも何かが発見できる、読み応えのある雑誌ということで編集をしてきました。また、視覚障害のある方には、淡い色だと読みづらいということで、配慮し、またホームページ上のテキストの音声読上げソフトで対応している段階です。映像についても、この「増刊号」では取材・掲載する企業と働く障害者の姿を、ホームページの動画で見ることができるようになります。 本誌では、読者アンケートを行っています。それによると、事業主、支援機関などに非常に高い評価を得ています。特に事業主にとって評判がいいのは「職場ルポ」。なかには職場で回覧されるうちにボロボロになってしまうという企業もあるそうです。熱心に読んでくださっているのは、ありがたいことです。本誌は、特別支援学校の高等部にもお読みいただいています。進路指導の先生、さらに生徒たちも、障害があり頑張って働いているという事例がたくさんあるので、みんな一生懸命読んでいますよ。そういう意味では、教育の場でも役に立っているということですね。 藤枝 特別支援学校の卒業生の就職率も増えていますね。 本誌がきっかけで全国展開 松矢 本誌では、いろいろな立場の方が編集委員を務めています。障害者雇用対策課の課長さんが入っている時代もあり、いまの厚生労働事務次官の村木厚子さんもメンバーでした。 企業の人も大学の先生もいる。障害者雇用に関わる現場を訪ねて、それぞれの立場で原稿を書こうじゃないかと、「編集委員が行く」が10年ぐらい前に始まりました。 藤枝 直接訪れて、感じたことを書いていらっしゃるから、とてもわかりやすいです。 松矢 障害のある編集委員の方も入っており、その視点や配慮のある編集になっています。それぞれ専門性を持つみなさんが現場に足を運んで書くという、ほかにないリアリティがあると思っています。読みやすいということを心がけて、事業主のみなさんに障害者の雇用促進を大いに進めていただき、障害のある方々はチャレンジをしていただく。さらに関係機関の方々がそれを広く読んで応援をしていただくという、そんな広報誌にしたいと思っています。 藤枝 取材は遠方まで行かれているのですか。 松矢 私は学校関係で北海道から沖縄まで行っています。沖縄に取材に行ったときに、校長会の話を聞きました。「沖縄は企業が少ないので、国と県のお金で経営している老人ホームと保育所が特別支援学校の生徒の実習を受け入れるべきだ。そして雇用もすべきだ」という文書を出して、それで実習が始まったんですね。こういう仕事ができるんじゃないかというものを切り出してくれて、実際に実習で見事にそれができるということで、直ちに雇用が始まったんですよ。 この取材後に沖縄から高等部の先生に来ていただいて、私は大学で公開講座を開催しました。すると公開講座に来た進路指導の先生たちが、「わー、すごい。やろう」って、全国に広がった。知的障害の方々も、子どもが好きだとか、お年寄り、おじいさん、おばあさんに世話になっていたからやりたいというので、福祉現場の知的障害者の雇用が一気にスタートしたわけです。 このような取材と記事の効果が精神障害者の雇用にも広がっていくことを期待したいです。 藤枝 参考になる好事例が全国にまだまだたくさんある。それらを「働く広場」でより多く取り上げていくということですね。これからも期待しています。 障害者に 責任ある仕事を任せる ―アイテックス/特例子会社アイコ―ル― (文)清原れい子(写真)小山博孝 取材先データ アイテックス株式会社 アイコ―ル株式会社(特例子会社) 〒959?0231 新潟県燕市吉田日之出町9?1 TEL 0256?94?8785  FAX 0256?94?8789 アイテックス株式会社 ■代表:代表取締役 板垣政之 ■設立:2001(平成13)年12月 ■資本金:1000万円 ■従業員数:80人 ■事業内容:現金自動受払機、照明器具部品、医療機器などの組立製造のほか、リサイクルトナー・リボン、OAサプライ商品、山形県特産物の販売を行っている アイコール株式会社(特例子会社) ■代表:代表取締役 板垣政之 ■設立:2001(平成13)年 ■従業員数:23人 Keyword:特例子会社、精神障害、発達障害、身体障害、知的障害、製造業、障害理解、職務創出、ジョブマッチング、 職場環境の整備、障害者就業・生活支援センター POINT @ 目標制度で達成すれば報酬 A 一人ひとりに合わせた指導 B リストラを危惧しないよう責任ある仕事をさせる 肘先を失った野球少年 会社経営へ 新潟県のほぼ中央、新幹線の燕三条駅から弥彦線に乗り換え、3つ目の吉田駅のすぐ近くにアイテックス株式会社と特例子会社のアイコ―ル株式会社がある。「マニュアルがない! でもそれが強み」とうたう障害者雇用の現場を訪ねた。 アイテックスは2001(平成13)年、アイコ―ルは2011年に操業を開始した。スーパーマ―ケットの建物だったという両社の工場では、ATM(現金自動受払機)の組立・修理、医療器具・生活日用品などの研磨・プレス業務などのほか、2013年9月からLED蛍光灯の金具の組立を始めた。また9月には新潟市内に工場を設立して、スチームオーブンの品質検査を請け負ってもいる。 従業員はアイテックス67人、そのうち27人は取引先の工場で働いている。アイコ―ルは23人。障害のある人たちは両社ともに7人ずつ。精神障害者8人、身体障害者4人、知的障害者7人の計19人で、これまで辞めた人は1人もいない。 障害者雇用は、両社の社長を務める板垣政之さんが5歳のとき、農機具に右腕を巻き込まれて、肘から先を失った経験なしにはありえなかった。板垣さんは野球少年で、ポジションはピッチャー。通っていた高校は、板垣さんが2年生、3年生のときに甲子園に出場した。当時の挑戦は、幼少期から少年期までを描いた自叙伝「アボットさん こんにちは」(文溪堂刊)に記されている。 「野球は頑張りましたよ。野球がすべてでした。高校では部員が100人ぐらいいましたから、甲子園のマウンドには立てませんでした。家業は継ぐつもりでしたが、大学に進んでからも野球づけの毎日でした」 父親は故郷の山形県東根市で、神町電子株式会社を経営。ATMなどの組立をしている。長男である板垣さんは大学卒業後、長年の取引先である富士通機電(現富士通フロンテック)で総務・経理の実務経験を積んでいた。 「経営の勉強をしてから帰ってこいと父にいわれて、ボロボロだったスーパーの建物を借りて、ATMの組立を始めました。やってみたら社長業が楽しくて。私はプラス志向のかたまりですので、いろいろなところを回って仕事をもらいました」 創業したときは25歳。従業員10人は全員が社長より年上だった。 「いま振り返れば、徹夜しながらよく頑張ったと思います。5年後には従業員が50人ぐらいになっていました。いまはATMの組立のほか、さまざまな仕事をしています。いろいろな会合に出ても一番若く、山形から出てきていることもあって、みなさんに応援していただきました。人と人のつながりが大切ですね」 精神障害者の仕事ぶりで 「考え」が変わった 板垣さんは会社理念に、「全員参加の経営をしよう」と掲げた。 「建物は借りているし設備もないので、人材が財産です。従業員全員がみんな社長だという思いを持ってもらおうと、『全員参加の経営』とうたって、教育にもお金をかけています。最近よく思うのですが、障害者になったことで前向きになり、いままでの経験がすべて経営につながっている。私が障害者にならなかったら、人を使うどころか、自身の成長もなかっただろうと思います」 父親は、会社経営とともに工業団地の会社敷地内で保育園の経営をしている。そのことも障害者雇用につながっているという。 「父は『子どもが宝だ』と、社員の子どもを大事にしていました。父の姿を見ていて、障害のある人たちを雇用していくのが私の運命なのかと思いました。設立当初は障害者雇用について何もわからなかったので、心臓疾患の人を採用して運送の仕事をしてもらいました。当時、彼は90キロぐらいの体格でしたが、いまはスマ―トになって心臓もよくなっていますよ」 その後、障害者の集団面接会で身体障害者を2人採用した。2008年に精神障害者を3人雇用したことが、障害者雇用への考え方を大きく変えた。 「たまたま受注した車の部品の仕事がとにかく大変でした。価格が安く、数が多い、品質も非常に厳しい。1つ不良品が出れば全部を検査しなくてはならない。健常者が簡単な作業を集中し続けるのは難しくて、不良品が続出しました。こういう作業ができるのはどんな人たちだろうと考えて、障害者施設を紹介してもらい、そこで作業をしている人たちのなかから3人採用しました。精神障害者の雇用が難しいなどとは考えていませんでしたし、知識もありませんでした。任せてみたらパーフェクトだったのです」 その3人は、いまも働き続けている。 「私たちは、たまたまよく働く障害者と出会ったのだと思っています。最初は苦労もしましたが、『障害者雇用のマニュアル』もありません。うち独自のやり方でやってきました」 特別視せず それぞれの才能を見つける   「雇用をしたら企業の責任」と考える板垣さんは、一人ひとりに合わせて仕事を教えてきた。 「障害のあるなしで分けることはありません。配慮はしますが、特別視することはありません。健常者でも難しい勉強会に、知的障害者も一緒に参加します。わからなくても、そういう雰囲気を経験するためで、参加することに価値があると思っています。精神障害者は行事に対する抵抗があったので、最初の1回だけは不参加を認めましたが、あとは参加です。会社に入ったら、仕事は違ってもみんな一緒。同じ目線で接しています」 社是は、「創意・熱意・誠意」。工場内には「変えよう!思考」、「変わろう!行動」、「変えろ!結果」の文字が目立つ。入口の壁には従業員全員の顔写真入りで、ふりがな付きの一覧表がある。 「上に立つ人たちには、『できないのが悪いのではなく、やらせられないお前が悪い』といいます。仕事ができるようになるにはどうしたらいいかを考え、わかりやすく作業指導をして、作業ができるような補助具を作る。それぞれ違う個性に対して、やれる方法を根気よく見つけ出しています。ひとくちに知的障害といっても、漢字が読める人、読めない人などさまざまです。同じ作業でも、つまずくところは一人ひとり違います。本人と話しながら、それぞれに応じた作業指導書を作っています」 板垣さんは、各人にどんな才能があるのかを見つけるのがおもしろくて仕方がないそうだ。 「固定観念があるから難しいと身構えるわけで、教え込めば発達障害や知的障害のある人たちは100%素晴らしいものづくりができます。その仕事を探すのはわれわれの仕事です。それを大変だと思ったらできない。興味がないと障害者雇用は難しいでしょう。私は、素晴らしい才能を持っている障害者に興味がありすぎるのです」 採用は定期的に行うのではなく、仕事の拡大で人が必要なときに面接会を開く。地元の障害者就業・生活支援センターに依頼して、周辺の障害者施設から推薦された人に作業をしてもらい、話をして採用を決める。能力に応じて昇給し、いずれ昇進も考えている。 「最低限の仕事ができることは必要ですが、一緒に仕事をしたいと思えるかどうかが採用のポイントです。休憩時間をうまく過ごせるか、ほかの人とコミュニケーションがとれるか、表情よく話ができるかなど、どれだけ働く気があるのかを見せていただきます」 会社には野球部と釣り部がある。野球部の監督はもちろん社長で、地域のリーグに加入している。監督いわく、「最初はめちゃくちゃ下手な人たちばかりでした。これまでの野球経験はそれなりに高いレベルでやってきたので、もう少しうまくなれよと指導していたら、結構強くなりましたよ。ホームランも打ち、試合になりますから」。そう話す、監督としての顔は楽しそうだ。 障害者がさまざまな 仕事をこなす 2010年入社の桑原昌和さんは、知的障害者の入社一人目。ATMの細かい部品を棚から出して各作業部署に供給、空箱を回収している。工場の中を1日25周もするとか。社長は、桑原さんが部品供給の仕事ができる仕組みを考えた。 「社内改善で、部品管理を変えようとしていたところでしたので、供給する部品をすべて箱で管理し、倉庫の番号、作業の場所などを色別に『番地』をつけました。簡素化すれば、だれでも作業ができます。彼には最初、廃棄する部品を分別する作業をしてもらったのですが、作業を改善してもなかなかできない……。やはり難しいと後悔しました。でも改善後の部品供給の仕事を任せたらバッチリ。すばらしい能力を持っています。知的障害者は仕事ができるとわかって、その後4人採用しました」 数年前、ATM修理が業務の中心だったときは、司令塔に精神障害者を指名した。 「解体したものをラインに出して再びつくっていくのですが、何が必要かを察知してユニットを供給したり完成品を引き取ったり、まわりを見渡しながら自分の仕事をやりつつ、相手の仕事も考えなければならない。精神障害者は人と接するのが苦手だといわれますが、組立ラインの人たちに話をしなくては仕事になりません。重要なポストをきちんとこなしていました」 社長がそう評価する古澤英司さんは入社して5年。自動車整備学校を卒業後、ディーラーに。その後、休職期間があった。基礎知識があるので機械に強く、マルチに仕事をこなす。現在はATMの修理が少なくなり、プレスの仕事を中心に行っている。その日は、骨折したときに体の中に入れる医療用鋼線の研磨を行っていた。 「いろいろな太さがあり、何千という数を仕上げます。医療用品のためシビアで、検査のためのゲージに通すときに引っかかるとNGです。以前の仕事では1日動いていましたが、プレスと研磨の仕事は動かないので、少し太りました」 アイテックスの工場の中に、特例子会社アイコ―ルの現場がある。1つでも不良が出るとすべてをやり直さなければならない車載部品の検査を、精神障害者が担当する。工場の一角を区切った作業場では、鉗子などの医療器具、包丁や箸などの研磨とプレス、洗浄を行っている。研磨した包丁が輝きを増す。研磨作業を担当する知的障害者は、いわれたことは必ず守るという。一人ひとりが一人前の職人だ。 新たに障害者の ラインを立ち上げ アイコールでは昨年9月、新しくLED蛍光灯組立ラインを立ち上げた。LED蛍光灯の中に組み込まれている金具の組立に、知的・精神・身体障害者9人が従事している。 「いままでは障害者には一定した仕事がなかったので、模索した結果、ちょっと方向転換しました。『障害者ができる軽作業の仕事はないですか』と営業をかけて受注しました。注意したのは品質です。お客さんに迷惑をかけることはできないので、スタッフが総出で立ち上げました」 軌道に乗るまでが大変だったという。 「最初は最悪でした。数は上がらない、作っては不良。やめようかとも思いましたが、1カ月ぐらいで一気に変わりました。作業の改善を図り、『見える化』でノルマと意識を変えることができたのです。建築ラッシュで、依頼先の会社はフル稼働で生産しているので、私どもも忙しいです」 ピンク、黄色、青……と色分けされ、各人の名前が書かれたベルトコンベアの上に部品を乗せていくので、責任の所在がわかる。ラインが動き始めたころに比べると、作業ペースは2倍に上がったという。 「細かい仕事ではないのですが、1日何万個も作るので、不良が出るとすべて検査しなければなりません。そのリスクは大きいですね。簡単な仕事ほど難しいんです」 立上げにあたっては、特別支援学校で障害者の介助員をしていた多賀尚美さんを指導員として採用した。 「具体的な数字の目標を設定しないと、ペース配分ができないところに苦労しました。1日の目標が2千個なら、カウンターを20個1セットにして、100回押したら2千だと教えました。できる人とできない人の差があるので、できる人のやり方をお手本に仕事を覚えていくようにしました。『あなたは何個』とその日に作る数をグラフにしたら、自分の目標がわかるのでわりと安定しています。気をつけているのは体調管理です。気持ちの浮き沈みがあるので、やる気の出ないときにどうしたらやる気を起こさせるかが課題ですね」   障害者には力があると 発信したい 社長の板垣さんは、障害のある人たちと本音でぶつかり本気で叱る。 「障害のない社員には、『特別視はしなくていいけれど配慮はしてくれ』と話しています。同じことを何回も聞かれたりすると、面倒くさいなと顔に出る若い社員もいます。そうすると、障害のある人が感づいて落ち込んだりします。そのときは、『対応は大変だと思うけれど、将来きっと自分のためになる。わかるまで何度も教えるんだよ』と個人的に話しています」 障害者の作業を工夫することは、会社のプラスになるとの実感がある。 「健常者がやりづらいことは、障害者は何倍もやりにくい。作業の工夫をしただけ勉強になっています。そこがアイテックスの強みかもしれません。仕組みが簡単になると間違いがなくなって、会社全体の効率を上げ、結果として会社を成長させていくと思います」 2011年の特例子会社の設立には、障害者雇用への決意を込めた。  「9%の雇用率でしたので、雇用率のためではなくて、障害のある人でもやれると発信したかったことと、障害者雇用の本気度を示したかったのです。今後も、障害のある方をどんどん増やしていくためには、製造業プラスアルファの仕事が必要だと考えています。能力と適性に応じた雇用の場があれば、障害があっても自立した生活を送ることができるような、社会の実現を目指したいですね」 「けっこう適当。でも神経質なんですよ」と自らいう板垣社長は38歳。会社を設立してから10年余。この1年半、経営環境はさらに厳しくなったという。 「下請けですから経営は大変です。自社で作り上げていくものがないと難しいと思っています。障害者でラインを立ち上げていますが、やればできる。障害者の雇用によって、海外に流れる仕事を阻止したいですね。これからやりたいことはいっぱいあって……。障害者で働けない人がまだまだたくさんいますので、製造業とは違った分野で障害者雇用を伸ばしていきたいとか、学校の延長のような教育に取り組みたいとか、高齢者をターゲットとして障害者が関わる事業をしたいとか、具体的にはまだですが、いろいろ考えています」 障害者が作業できるように考えるのが楽しい! 障害者は素晴らしい能力を発揮できる! 障害者雇用に大変前向きな、若い企業にエ―ルを送りたい。 板垣政之社長 アイテックス(上)と、その工場内にある 特例子会社アイコール(下) 部品供給を担当する桑原昌和さん。部品棚から必要な部品を取り出し、各作業部署に供給する 基板のチェック作業を進める勝山敏幸さん 重要な仕事をきちんとこなす古澤英司さん 医療器具の研磨と洗浄作業 LED蛍光灯の組立ライン。ベルトコンベアの上の各自の名前が書いてあるところに部品を載せる 指導員として活躍する多賀尚美さん 精神障害者がホームヘルパー! ――姫路こころの障害者自立支援の動きとともに―― 本誌編集委員 株式会社ストローク 代表取締役 金子鮎子 取材先データ 有限会社サポートセンターれいめい 〒679?2151 兵庫県姫路市香寺町香呂210?1?102号 TEL・FAX 079?232?6500 ■代表:代表取締役 野村浩之 ■サービス開始日:2004(平成16)年9月 ■職員:15人(うち精神障害のあるヘルパー10人) ■事業内容:居宅介護事業、パソコン教室運営受託 編集委員から 精神障害者社会適応訓練事業(社適訓練)の協力事業所は「職親(しょくおや)」と呼ばれることもあるが、今回訪問したサポートセンター「れいめい」も、この社適訓練を利用して、精神に障害のある人々が育てられている兵庫県精神保健職親会の副会長さんの会社である。障害のある介護ヘルパーと利用者の交流がさらに地域につながっている様子をお伝えしたい。 Keyword:精神障害、視覚障害、医療・福祉業、障害理解、ジョブマッチング、社適訓練、ジョブコーチ、キャリアサポーター、ステップアップ雇用 POINT @ ステップアップ雇用から本格的雇用へ A 社適訓練中にヘルパーの資格を取得 B キャリアサポーターの支援で職場定着 ほとんどのホームヘルパーが精神障害のある人たちというユニークな居宅介護支援事業所、有限会社サポートセンター「れいめい」は兵庫県姫路市の北、香寺町にある。 JR播但線香呂駅のすぐ近く、「れいめい」のホームヘルパー利用者は近所のお年寄りや身体障害のある方々が多い。 2004(平成16)年9月に設立された「れいめい」は、現在20カ所ほどの利用者を抱えている。職員15名のうち10名が統合失調症やうつ病といった精神の障害のあるヘルパーで、利用する人たちからは名指しでオーダーがくるほど好評だという。 精神障害のホームヘルパー? 「精神障害の人がホームヘルパー? そんな仕事ができるの?」とか、「訓練をして資格を取っても、その人たちにヘルパーとして介助を頼む人がいるの?」といった疑問をもつ向きも少なくない。 お年寄りと精神に障害のある人たちは、その緩やかなテンポがマッチしていて相性がいいので、以前から高齢者の給食宅配事業などでも成果を上げている。また、介護施設で働いている障害者も少なくない。しかし、個人宅でのホームヘルプの仕事はなかなか敷居が高いに違いない。 「れいめい」も設立当初から精神障害者のヘルパーがいたわけでない。たまたま障害を隠して働いていた人がいた。代表取締役の野村浩之さんはその人の様子を見て、精神障害のある人でも、「ひょっとしたらこの仕事、いけるかもしれない」と感じたという。 かつて建築関係の仕事をしていた野村さんは、精神病院で働く作業療法士の友人に頼まれて、ある入院患者にガラス・サッシの仕事の手ほどきをしたことがあった。こういう人たちのために「何か」できないかと考えたのが、精神障害者の就労と関わるきっかけだった。 社適訓練から、いまや主任に 「れいめい」の精神障害のあるホームヘルパー第一号は高橋琢さん。ヘルパー歴丸6年の主任で、ヘルパー事業所開設の資格も持つ52歳のベテランだ。統合失調症だが、みんなが苦手な早朝や真冬の仕事にも心強い戦力である。 野村さんが県のジョブコーチとして、違う職場の支援に入っていたときに出会った。麺づくりの現場で働いていた高橋さんは仕事が覚えきれず、四苦八苦していた。 高橋さんはおっとりした人柄。野村さんからヘルパーの仕事をすすめられた。短い時間の精神障害者社会適応訓練事業(社適訓練)からということで、当初1週間に1回、1時間程度の訓練から始め、徐々に時間を延ばして仕事に慣れていった。3年(当時)の訓練中にヘルパー2級の資格を取得した。「れいめい」ではほとんどのメンバーが社適訓練期間中に毎週2回の講習に通い、この資格を取っている。 ヘルパーの仕事は、掃除・洗濯・食事作りが基本だが、訓練生にはそうした家事には不慣れで自信のない人が多い。台所のガスコンロの火の付け方や目玉焼きの作り方から教わることも少なくない。 「れいめい」の考えは、こうした家事サービスだけがヘルパーの仕事ではなく、「利用者の気持ちに沿うことが第一」と、「お年寄りの話し相手をしていて時間が伸びてしまっても焦らずに、時間が多少超過してもいい」、「食事作りの時間が間に合わなければ、弁当を買ってもいい」という柔軟な考え方である。 こうした「れいめい」のヘルパーたちの働きぶりは、普通とはちょっと違う。 いわゆる健常者のヘルパーは能率的でテキパキと手際がよいが、次の利用者宅へと慌ただしく急ぐこともある。入浴サービスにしても、お年寄りによっては、もう少しゆっくりしたい、お風呂もササッと済んでしまって味気ないという人もいる。 助けられたり、助けたり 「れいめい」のヘルパーたちは、社適訓練を通じて利用者にもヘルパーの訓練にも時間をかけている。その訓練の第一歩は、会社と同じアパートの隣棟に住む75歳の全盲のマッサージ師、駒田次男さんが、新人に理解ある稽古台になってくれているのだ。 身のまわりを世話していた奥さんを10年前に亡くして、途方に暮れていた駒田さん。その日々の世話をしながら、「れいめい」のヘルパーは育てられてきた。 ヘルパーの基礎訓練には目の不自由な方への接し方や、コミュニケ―ションの取り方など学ぶことが多い。例えば、お茶をいれるときも、「駒田さん、ここにお茶を置きますよ」と湯飲みにそっと手を添えて知らせる心遣いを忘れない。 「れいめい」では新しい利用者につく場合、トップやヘルパーの責任者と一緒に訓練生が必ず事前に訪問する。障害者であることをオープンにしたうえで、「この人が担当としてお宅に伺っていいか」と、まずは様子を見て納得していただくことを前提としている。 夢はお嫁さんをもらうこと 高橋さんと同じ病院に通院する赤藤英樹さん(統合失調症・35歳)も、以前はいろいろな仕事に就いても続かなかった。同じ病院の仲間がやっているなら、「できるかな?」と、この仕事に入ったという。 社適訓練のあと、精神障害者に特化した「ステップアップ雇用」をふまえての雇用で、今年で4年になる。初めは失敗ばかりで、きつかったようだ。約束の日に訪問すると、認知症の方から「帰れ!」といわれて、先輩が来るまであせってしまったこともあった。いまでは帰り際にわざわざ送ってくれるお年寄りに、「ありがとうね」と言葉をかけられると、「この仕事について本当によかった」と思う。 利用者からすると、「サービスをしてあげる」と「上から目線」のように感じられることもあるようだが、ここのヘルパーは、自信はなくても、わからないことは素直に聞く「下から目線のヘルパーだ」と感じるようだ。ある認知症のお婆ちゃんは、まるで孫が来るかのように、「今日はあの子が来るから、私がしっかりして教えてやらなきゃ」と首を長くして、笑顔の赤藤さんの訪問を待っているのだという。 こうした支え合いのなかで育った赤藤さんは、いつしか自信をつけて、将来は障害年金を受けずに自分で稼ぎたいと思っている。次は「お嫁さんをもらうこと」と、みんなの前で将来の夢を話すようになってきた。 ゆくゆくは親の面倒を ヘルパーの資格を持っていた福永勝博さん(42歳)は、ハローワークから、高橋さんや赤藤さんの通っている姫路北病院のデイケアを紹介され、そこからさらに「れいめい」を知ることになった。 福永さんは、うつ病から一時は絶望的になったこともあったが、周囲に支えられながら社適訓練を経て、兵庫県独自の社適訓練である「雇用指向型」から「ステップアップ雇用」へと進んだ。そして本格的雇用になり、「れいめい」に来てもう5年になる。初めはつらくて辞めたくなったこともあったらしい。家族の期待による重圧に、つぶれそうになったこともあった。いまは家を離れて自立。会社の近くのアパートで暮らし、安定して仕事に打ち込めるようになり、落ち着きを取り戻してきた。 家族からの自立を助けたのも、代表取締役の野村さんをはじめとする姫路の「わーくわくねっと」の支援者たちの計らいだった。 その福永さん、もっともっと働いて、いずれは自分のことを心配してくれた親の面倒を見るつもりだという。そして自殺者が年間3万人を上回るという最近のニュースを見るにつけ、この国が「自殺者ゼロ」になるために、福永さんは自分の経験や力を何か世の中に活かしたいと考えている。 社適訓練卒業のケース会議 坂田泰智さん(33歳)は8月で社適訓練を終わって、「れいめい」で働くことが決まっている。受診先の姫路北病院で、主治医で院長の西野直樹先生も同席して、訓練最後のケース会議が開かれた。 会議はこれまで2カ月に1回程度開かれてきた。今回も受け入れている職親事業所である「れいめい」の野村さんをはじめ、病院のケースワーカー、保健所やハローワークの担当者のほか、姫路特有の就労支援システム、キャリアサポーターの三木章弘さんも出席した。 社適訓練を終えた坂田さんには奥さんや子どもがいる。以前は自動車販売会社の営業マンだった。「うつ」から紆余曲折を経て、「れいめい」で正式雇用になる前に、ぜひともガイドヘルパーの資格を取りたいという。 西野院長からは、その資格をなぜ、いま取りたいと考えているのかを聞かれた。坂田さんは、利用者のなかに全盲で旅行好きな方がいらっしゃるので、その方を旅にお連れし、その笑顔を見たいことや、資格を持てば、収入のアップにもつながること、などを理由に挙げた。 坂田さんの説明に耳を傾けた西野院長は、「なるほど。現実的な考えだね。自分の考えをきちんとまとめて、関係者のみなさんの前で、説得力ある話し振りだったね」と卒業祝いの言葉をかけた。関係機関の方も、「何かあったら、いつでもグチを言いに来てください」といってくれた。こんなに大勢の方たちに支えられて、坂田さんは、「本当に感謝の一言です。この気持ちを無駄にしないようにします」と、感動的なシーンになった。 坂田さんは、将来はお年寄りから喜ばれる居宅介護支援事業所を、自分でも立ち上げたいと考えている。 高齢者のパソコン教室も 「れいめい」の事業は介護事業だけではない。2年前、地元の香寺町の自治会から高齢者のパソコン教室を委託された。パソコン歴の長い身体障害のある事務職員、三浦康宏さんが講師を務めている。秋の半年コースは、毎週1回の2つの連続講座。「高齢者が参加しやすいゆっくりペースだ」と地元のお年寄りの人気を集め、リピーターも少なくない。講師の三浦さんの食事やトイレ、移動の介護は、同じ「れいめい」の仲間の仕事だ。坂田さんはそのかたわらパソコン教室のサブリーダーとしても手伝っている。 こうしたきめ細かな仕事の組立てで、「れいめいの採算は?」と野村さんに聞くと、「そこは何とか『まあまあ』で、みんなで頑張ってもらっています」ということだった。「れいめい」のヘルパーの活動は、地元の神戸新聞でも取り上げられ、障害者の家族からの問合せや相談が相次いだようだ。 キャリアサポーターが巡回 兵庫県では精神障害者の社適訓練が以前から活発で、その実績は全国的でも一、二を競う先進県である。2008(平成20)年10月からは、雇用にいかない「実習型」と「雇用指向型」の2つのタイプに分け、訓練生をより雇用へと誘導する工夫がなされてきた。 さらに姫路を中心とする中播磨地域の特色は、「社適訓練」の段階から支援に職場をまわるキャリアサポーター制度である。障害者の雇用支援策として、1週20時間以上の雇用にはジョブコーチ制度があるが、訓練である「社適」には国の制度であるジョブコーチは利用できない。 身体障害の人が働くには車いすなどのハード面のサポートが必要であり、知的障害者や精神障害者には、人によるサポートが不可欠だという理解は広まっているが、精神障害の人たちへの就労支援はどの段階に、どういう人による支援が、働き続けるポイントなのか――。その意味で、キャリアサポーターは「企業で永年のキャリアを持った定年後の人材」が社適訓練の段階から、マメに巡回支援する画期的な仕組みである。 姫路では数年来、支援者のなかで、精神障害者だけでなく発達障害者やニート、引きこもりなどの若年者を含む心的障害者への就労支援は、「早い段階から、切れ目なく、時間をかけることが必要だ」という機運が高まってきた。 心の障害者就労支援の輪 こうした動きの発信源は、「NPO法人姫路こころの事業団」から始まった。理事長の濱中美貴子さんは、かねてから、心の障害のために就労に踏み出せなかったり、あるいは働き続けることの難しい人たちには特別な支援の仕組みが必要だと考えていた。 4年前の2009年4月、地元の財界に人脈の広い濱中さんは、企業・医療・就労支援機関などに呼びかけ、「姫路こころの障害者自立支援チャリティーゴルフ」を開催し、200人近い賛同者を集めた。以後毎年開催されたチャリティーゴルフの寄付金は、毎回140万円を超える金額となり、これを基金に活動を広げてスタートした「わーくわくねっと」(中播磨心的障がい者就労支援協議会)は、ここから姫路独自のキャリアサポーターを誕生させた。 この「わーくわくねっと」には、社適訓練の実績を持つ居宅介護支援「れいめい」の代表取締役の野村さんほか13社の職親企業(訓練生を受け入れる協力事業所)や施設外就労の1カ所、請負作業3カ所の発注元と、彼らの就労の場が市内に次第に広がった。 また、職場に入りたての不安定な時期に相談にのってもらうことで、社適訓練からの雇用も増え、職場定着の実を結んだ。 企業からは、本音の話ができるとの理由で、キャリアサポーターの存在は大歓迎である。こんな仕事はやってもらえるかと、「わーくわくねっと」に企業からの提案も持ち込まれ、キャリアサポーターが率先して仕事にあたって指導するため、企業も働く人も安心できる環境が生まれた。 また、「働くのが一番の薬」という姫路北病院の西野院長を招いての商工会議所での会も、企業の障害者受入れの機運を大きくバックアップした。 今年の兵庫県精神保健職親会総会のシンポジウム『「働く」を考えよう』では、「れいめい」の赤藤さんや坂田さんが司会を担当、200人を越える市民を前に、心の障害があっても働ける実際をアピールした。 これは「わーくわくねっと」、「NPO法人コムサロン21」との共催で開催され、画期的なイベントとなった。 こうした、こころの障害やハンディのある人たちの就労を助ける市民のネットワークは行政を巻き込み、さらに障害のある人の働く力とその応援団の活動が姫路の人々の意識を確実に変えているようだ。 ● 社適訓練(精神障害者社会適応訓練事業)  働きたいが、直ちに就労は難しい精神障害者が、職場での訓練を通じて働く習慣や職場でのマナーなどを学び、仕事の技術を身に付けながら集中力・継続力を高める訓練。熱心な協力事業所(職親)が各都道府県などの自治体と要綱によって契約を結び、委託費を受給する。古くは、精神病院の院外作業として始まり、1982(昭和57)年度から国庫補助事業となり、1995(平成7)年からは「精神保健福祉法」上に位置づけられた。2012年度には同法から削除されたが、多少形を変えて全国の約7割の自治体がこの訓練事業を継続しており、一般の雇用に結びつくケースも多い。 「サポートセンターれいめい」の野村浩之代表取締役(左)と小林真理子サービス提供責任者 (2012年12月号掲載、内容は当時のまま) 精神障害のある「れいめい」のホームヘルパー第1号、高橋琢さん。ヘルパー歴丸6年になる 全盲の駒田さん宅で、ホームヘルパーとして仕事をする赤藤英樹さん 「自分の体験を生かして、いじめや自殺ゼロをめざしたい」と話す福永勝博さん 姫路北病院 西野直樹院長 「わーくわくねっと」 三木章弘キャリアサポーター 社適訓練を終える坂田泰智さん(下の写真中央)。 坂田さんも参加したケース会議の様子 地域の高齢者向けのパソコン教室。 右から2人目が三浦康宏さん パソコン教室の講師の三浦さんの介助をしながら、サブリーダーとしても活躍する坂田泰智さん 兵庫県精神保健職親会総会のシンポジウム『「働く」を考えよう』 NPO法人姫路こころの事業団の濱中美貴子理事長(右から2人目)を中心に「わーくわくねっと」の打合せ会 「共生社会」を実現したい ―三菱商事太陽株式会社― (文)清原れい子(写真)小山博孝 取材先データ 三菱商事太陽株式会社 〒874?0011 大分県別府市大字内竈1393番地 TEL 0977?67?3214(代表) http://www.mctaiyo.co.jp/ ■代表:代表取締役 徳田泰彦 ■設立:1983(昭和58)年12月(創業1984年2月) ■資本金:3500万円 ■株主構成:三菱商事株式会社(67%)、社会福祉法人太陽の家(33%) ■従業員数:83人(うち身体障害者36人(重度30人、一般6人)、知的障害者1人、精神障害者11人) ■事業内容:情報処理業務の受託、システム設計、プログラミング、データ処理など、コンテンツの制作、データ入力、DTP業務、サーバーホスティングサービス Keyword:精神障害、特例子会社、製造業、障害理解、職場環境の整備、トライアル雇用、障害者就業・生活支援センター POINT @ 自分の障害を受容・理解させるため、障害の状態を入社時に全社員の前で話す A 生活支援センターと連携し就労支援 B 不調時の対応方法を増やし、安易に早退や休暇を認めない 今回の職場ルポでは、障害者週間に開催された本誌「公開座談会」(2012年3月号20〜25ページ)でパネリストを務めた三菱商事太陽株式会社取締役、総務・管理部長の山下達夫さんの発言をより詳しく紹介するため、大分県別府市の「三菱商事太陽株式会社」を訪ねた。 IT黎明期に会社設立   日本でまだ身体障害者の就労が難しかったころ、先駆的な試みが大分県別府市で始まった。日本を代表する企業が、社会福祉法人「太陽の家」の創設者、中村裕博士の「世に心身障害者はあっても仕事に障害はあり得ない」、「保護より機会を」の理念に共鳴し、重度身体障害者の働く場をつくったのだ。 まず「オムロン太陽」、続いて「ソニー太陽」、「ホンダ太陽」と製造業中心の会社が設立され、さらに「手足にハンディはあっても、頭脳労働においては何らハンディにならない職種。もっと重度の人が働ける場を」と、三菱商事に協力を求め、IT事業の「三菱商事太陽」が1983(昭和58)年に設立された。 その3年前、太陽の家の訓練科目に情報処理科ができた。電子部品の組立工場で太陽の家訓練生として働いていた山下達夫さんは夜、コンピュータ技術の訓練に通い、会社設立と同時に入社する。仲間10人でのスタートだった。 「中村先生は先見の明がありました。これからコンピュータの時代がくる。君たちが頑張って、もっと多くの重度障害者をIT部門で雇用しろといわれました」 時代とともに情報産業は発展し、仕事も増え、社員は別府本社、東京・丸の内事務所、北海道・岩見沢事務所の3事業所で89人になった。本社に75人(うち身体障害者33人、精神障害者6人、知的障害者1人)、東京に9人(うち精神障害者5人)、北海道に5人(うち身体障害者4人)が働いている。 初代、二代目社長は太陽の家から、三代目からは三菱商事から出て、現社長の徳田泰彦さんは四代目になる。「会社の設立の目的は、社会貢献として製造業で働けない重度の方を雇用することと、三菱商事の障害者雇用率アップでした。会社のビジョンは、多様な障害者の方を雇用すること、社会に役立つ仕事をしているという実感を社員に持っていただくことです。会社の運営は、10年経ったころからようやく安定してきました」 勉強会で空気が変わった 本社で、精神障害者の雇用が始まったのは2007(平成19)年のことだった。その年に2人、2008年に1人、2009年に1人、2011年に2人雇用した。東京では、厚生労働省の精神障害者雇用促進モデル事業で2009年からトライアル雇用を始めた。雇用のきっかけを山下さんにお聞きした。 「2006年に精神障害者が障害者雇用率にカウントされるようになったこともありましたが、大きな理由は、社会の障害者雇用が身体障害から知的障害、精神障害に広がってきたことです。前任の社長が、これからの障害者雇用は精神障害に向かうという話をしていたとき、県の障害者合同面接会で私どものブースに、精神障害の方とクリニックの看護師長さんがいらっしゃいました。ちょうど経理の募集をしており、優秀な人でしたので、社長と相談して雇用しました」 当初、精神障害者の雇用には社内の抵抗があった。 「初めての雇用でしたので、正直いって大きな不安がありました。一緒に働くメンバーは身体障害者が多いので、新聞などの報道から、トラブルになったら対処できないという思いがありました。そして社員の理解を得るためには、管理職が勉強する必要があります。たまたま応募者が通っていたクリニックの院長が雇用に理解があったので、院長や看護師長にお話を聞き、デイサービスに見学に行ったりして勉強しました」 社員の総合支援を行うワークサポート室の渡邉雅子さんのところには、社員の本音が寄せられた。 「障害があっても深夜に及ぶまで残業して頑張るメンバーもいるのに、短時間で働くなんて甘えているのではないかという声がありました。見えない障害だけに、最初は理解を求めるのが難しかったですね」 厚生労働省の精神障害者雇用促進モデル事業に選定された2009年、渡邉さんは1年かけて太陽の家の精神保健福祉士とともに、10チームごとに勉強会を開催した。 「精神障害者がいるチームには、その人にも参加してもらいました。この説明会を機に、自分も仕事のストレスを抱えて朝起きづらいのでどうしたらいいかとか、自分の身に置き換えて考えるようになってきて、理解が進みました。これまで理解してもらえなかった職員も、精神障害のAさんの具合がよくなさそうなので様子を見にきてくださいなどと、話してくれるようになりました」 全チームの勉強会を終えると、社内の空気は変わってきた。 企業人だから甘やかさない   山下さんが説明する「採用のポイント」(上掲)は、「入社時に全社員の前で自己紹介を兼ねて、自分の症状を話せること」だった。この条件は、山下さんが考えた。 「当人が自分の障害を受容・理解しているかは大事なことです。気分が悪くなって10分ぐらい休憩するとしたら、周囲がわからないままでは、何をサボっているかということになります。自分の特徴、どういうときに体調が悪くなるのか、悪くなったときに自分で解決できるかなどを全社員にわかってもらったうえで、仕事をするのが大事だと思います」 昨年12月に入社した女性は、自分のことを原稿3〜4枚に綴って、発表した。 「勉強会をしてもすべてを覚えているわけではありません。うつといっても、人によって違いますし、本人にはなかなか聞きにくい。入社時に本人から話されるのと、第三者から聞かされるのでは、社員の理解度がまったく違います」 また、「企業内支援のポイント」として「安易に早退や休暇を認めない」というものがあった。車いす当事者の山下さんの話だけに説得力ある丁寧な解説が聞けた。 「安易に休ませないことは大事だと思います。企業人である以上、甘やかしてはいけない。最低限、自分の稼ぎは自分で稼げと常にいいます。障害がある相手には、とかくいうとおりにしてしまいがち。私が当事者だからかもしれませんが、簡単に休ませてはいけません」 渡邉さんも甘やかしてはいない。その具体的な対応を再現する。 「出社したくないけれど……と電話がかかってきたら、『そんなことで悩むのだったら、入社時の条件をクリアしていないけれど大丈夫? 企業人としての姿勢がなっていないよね』と返します。会社として譲れない線を本人に示すことが大切だと思います」 「きついので帰ってもいいかと聞きにきたら、面談の時間を取ります。いまどうしてきついのか、帰る以外に方法はないのか、本人に考えさせます。ちょっと休憩をとってみようとか、負の考えが頭をめぐるのだったら、違うことを考えてみようかとか、もう1時間頑張ってみようとかアイデアを出して、対応方法を増やしていきます。そうすることで安易に帰らないようにもっていくようにします」 きちんと本人と向き合っているからこそ、このような対応ができるのだろう。 「私は、厳しいとよくいわれます。先週も1人が『もう頑張れません』といってきました。『頑張れないというのは頑張っている人がいうこと。あなたは頑張っていないでしょ。データ入力1日150件が目標なのに100件。130件を目標にしよう』と切り返します。その人が頑張れると思っているから、はっぱをかけるわけです。本当に頑張れない状態も知っているので、そのときは帰らせたり、フォローします。本当にきついときと、まだ頑張れるときの見極めが難しいので、そこは神経を使いながら対応しています」 渡邉さんは前任者が産休に入ったため、別の業務から、障害者スポーツで障害者と接していた経験を見込まれて、2009年に担当になった。実践しながら、研修会に参加しながら今日まできた。精神障害の人たちや社員の相談を受けるほかに、他部署の業務も担当している。 「最初は入り込みすぎて、山下さんによく注意されました。『それは企業の支援ではない』とブレーキをかけてくれました。一番大事にしているのは、企業も努力するけど、本人たちにも努力させるということでしょうか」 山下さんが続ける。「たまたまハンディがあるだけで、障害がない人だったらどういう指導をするかが基本だと思います。厳しさだけではない証しに、我々がいうことは安心して聞けると社員からいわれます」  プライベートは生活支援で 精神障害者の就労支援で、一番大事に考えているのは生活支援だそうだ。渡邉さんは、太陽の家の障害者就業・生活支援センターの精神保健福祉士(PSW)である奥武あかねさんと情報交換をしている。 「彼らの相談はプライベートなことですね。ほぼ100%、プライベートな悩みで調子を崩すことが多いので、企業で抱え込まない。生活支援との連携は必須だと思います。何かあれば週に1〜2回打ち合わせをしています」 山下さんも、仕事とプライベートは切り離すべきだという。 「プライベートな悩みは、会社では受けつけない。PSWに相談しなさいといいます。仕事の悩みは現場とタッグを組み、定期的な会合をしながら働きやすい職場をつくっています」 精神保健福祉士として、奥武さんが別府本社で働く精神障害者6人の支援をしている。 「気を使うところはそれぞれ違うのですが、社内担当の方に何もかも話して頼りすぎてしまうことがあるので、どこまで相談したらいいかの線引きについて話しています。会社の人の注意や指導をつらく解釈していたら、本人がつらくなく理解できるように言い換えます。障害者を複数雇用しているのは会社として勇気があると思いますが、次々と仲間が増えると、本人たちも認められていると感じられるでしょう。いろいろなタイプの人がいますので、ここでは定着が進んでいるのだと思います」 奥武さんに、障害者が企業に定着するために必要なことを聞いた。 「自分の障害の状態をしっかり説明できることが大事です。自分の体調を申告できれば、体調が悪いなりに働き続ける環境ができると思います。病気で療養するにしても、自分から申告して療養するのと、休んだほうがいいと勧められて休むのでは、意識も定着率も違うと感じます」 精神障害者を雇用する企業に望むことは。 「病名でその人を判断するのはやめてほしいと思います。統合失調症ですといわれたときには、病名からその人をとらえないでほしい。薬を飲んでいる状態を基本として、その人とどう付き合えるのかを判断してほしいです。同じ病名でも症状には非常に差があり、たとえば統合失調症でも、とてもいきいきしている人もいますから」 東京・丸の内事務所では、精神保健福祉士が正社員として勤務している。精神障害者の雇用をはじめて4年。1年以上の定着率は100%だ。 一番働きやすい職場 ここで働く2人に話を聞いた。齊藤智さん(29歳)はトライアル雇用を経て、今年1月1日に正式採用となった。 「3年ほど地元の金融機関で貯金や保険の営業の仕事をしていました。でも営業のノルマ、お客さんとの対人ストレス、職場内の人間関係で、体調を崩して辞めることになりました。その後、アルバイトをして、職業訓練を受けてパソコンの初級の資格を取りました」 ほかの企業に総務事務で採用されたがその後退職、太陽の家を紹介されたことが現在につながった。 「それまで普通に働いていたときは、どうも怒られることが多かったのですが、障害の診断を受けて、いままで何かずれていたのはそういうことだったのかと納得しました。きちんと働きたいと思ってもどこに相談していいかわからなくて、太陽の家が相談を受け付けているのを知ったときは、わらにもすがる気持ちでした。パソコンはある程度扱えますとお話ししたら、三菱商事太陽さんで研修ができるか聞いてみますといわれました」 そこで、山下さんの面接を受けた。 「面接はガチガチに緊張して何をいわれたのか覚えていません。もともと緊張しやすいので、入社時の挨拶でもちゃんと話せたのか、いまだにわかっていないくらいです」 面接をした山下さんは、「まずはやる気です。働きたいということが一番。それが伝わってきました」という。 データ入力業務につき、最初からフルタイム勤務で残業もしている。「頑張りすぎていないかな。息切れしないように」と渡邉さんが気づかう。齊藤さんは、「大丈夫です。自分の障害をカミングアウトしていることもありますが、以前の職場とはまったく違います」という。 通勤は車で15分。仕事に慣れてきたら、音楽とマラソンの趣味も再開したい。最初の会社の退職前に結婚しており、就職が決まったとき、「ほんとによかったね」と奥さんも喜んでくれた。 「だから、ぜひきちんと働きたかったです。いままでのなかで一番働きやすくて、職場の雰囲気、仕事内容が自分に合っていると思います」 経理を担っていかれれば 高口雄平さん(33歳)は、2007年、三菱商事太陽で初めての精神障害者として入社した。大学卒業前に障害がわかって、働いた経験はなかった。 「経理の勉強をしていたのですが、調子が悪くなって、病院のデイケアや作業所に通っていました。障害者の合同面接会で山下部長と渡邉さんに会い、『もう少したったら、精神障害者の受入態勢ができるので、連絡する』といわれて待っていました」 入社時には全社員の前で障害について自己紹介。勤務を始めた。 「簿記の勉強はしていましたが、実務は初めてでした。やる気はあっても、仕事を始めたときは本当に向いているのか、わかりませんでした」 当時の高口さんの様子を山下さんは、「ひと言でいえば、ぼんぼん。働いたことがなかったので、社会人としてはまだまだでした。大卒の新人を育てるのと一緒で、経理関係の外部研修に行ってもらいました」という。 高口さんは総務・管理部管理チームに所属。どんどん成長している。「毎年、新しいことを教えていただき、業務を達成しようと頑張ってきました。いまは伝票入力と決算業務もしており、今年度の初めには役員会の報告資料も作りました」 週4日の午前中勤務からスタートした勤務時間も徐々に長くなり、昨年11月からは8時15分から17時15分までのフルタイムとなった。 「大変ですが、何とか出勤できると思います。前日の眠りが浅いと、人の言葉に過敏になって、自分を悪くいわれていると思ってしまったりするのですが、職場の人たちはよくしてくれます。仕事で自信がなくなったとき、山下部長に相談すると、厳しいこともいわれます。しかし、そこを乗り越えないと成長できないという気持ちが生まれました」 昨年7月に買ったバイクで気晴らしする。お酒も大好き。みんなと飲み仲間だ。 「決算、予算などに興味が出てきて、勉強してみようと思っています。研修で会計がいかに重要かを教えてもらい、モチベーションが上がってきました。会計や税法などを学べたらいいなと思います」 精神障害者はトライアル雇用から契約社員、準社員(フル勤務できないが、仕事は優秀な者)、そして正社員となる。高口さんは準社員。山下さんから激励のひと言。 「次は正社員をめざせ。経理は会社の要なので、少しずつでいいから自分のノウハウを蓄積してほしい」 「心の車いす」を 障害者の安定就労につながる要素として、山下さんは、「当事者の就労意欲と目標設定」、「当事者の自己管理能力」、「社内の障害に対する理解」、「当事者と支援者の信頼関係」、「当事者を囲む支援体制の充実」の5つをあげている。障害者のメンバーは入社したころと大きく変わってきた。 「勤務時間も伸びていますし、全然違いますね。精神障害のある人が身体障害の人と働くのは初めてだと思うんです。我々も初めてです。よかったと思うのは、教えたわけではないのに、精神障害の人たちが車いすを畳んだりと、身体障害の人ができないことを手伝う。そして身体障害の我々は精神障害の人の短時間勤務をフォローする。いいペアだという感じがします。一緒に飲みにも行き、そこに階段があれば、やはり手伝ってくれます」 精神障害者の雇用を進めるために、渡邉さんが思っていることです。 「いま現場のリーダーがすごく理解を示してくれていますが、時間の配慮とか、ちょっとした工夫で、精神に障害があっても働ける方はいると思います。また、精神障害のある方々に企業の情報をもっと提供できたらと思います。自分たちが何をめざせば企業に入れるのか、企業の支援などの情報をどんどん発信して、働きたい人が夢を持てる社会をつくっていければと思います」 山下さんは4年間の経験で、精神障害者と身体障害者は職場で「共生」できると感じている。その思いを全国の企業に発信したい。 「講演依頼があれば、いつでもどこでも行きます。我々身体障害者は、車いすや松葉づえがあれば社会復帰できます。精神障害の人たちは、勤務をうまくコントロールをすれば仕事ができると感じています。私は彼らに、『心の車いす』を作ってあげたい。そうすれば、彼らも働ける、それは身体障害と同じです。この職場は働きやすいといわれていますが、安心して働ける職場は、安心して相談できる人がいるかどうかだと思います」 三菱商事太陽の今後について、社長の徳田さんにうかがった。 「会社としての大きな方向性は私のほうで示しますが、事業プランは各チームに作ってもらっています。自ら仕事を作り出す、社会に何らかの貢献をするという意識を持ってもらうことが大事です。DTPの印刷事業、データ入力事業を伸ばして、重度障害者の雇用から多様な障害者の雇用に貢献するのが今後の課題だと思います」 障害者雇用の話は、自信がないと「はれもの」に触れるようになる。公開座談会の発言や仕事の現場での話から、精神障害者の雇用に真剣に取り組んでいるという三菱商事太陽のみなさんの自信が伝わってきた。だから、厳しく言える。本物の厳しさには、人への温かさがある。障害者雇用もその時代に入ってほしいと感じた、すがすがしい取材だった。 別府本社で働くみなさん 徳田泰彦代表取締役社長 (2012年3月号掲載、内容は当時のまま) 三菱商事太陽の採用のポイント ・病識を持ち、定期的な通院、服薬管理がきちんとできること ・自分の意思を伝えることができること(調子の悪いときは申し出るなど) ・調子が悪くなったときの対応方法を身につけていること ・就労意欲があること ・基本的なビジネスマナーを身につけていること ・規則正しい生活を送ることができており、決まった日時に安定して出勤できること ・基本的なパソコン操作ができること ・弊社職員の前で自分の症状を話せること 山下達夫取締役総務・管理部長 精神保健福祉士の奥武あかねさん (社会福祉法人太陽の家) ワークサポート室の 渡邉雅子さん 齊藤智さんの担当はデータ入力業務 総務・管理部で働く高口雄平さん 「社会が変わるとき、 変えるのは日立でありたい」 ―株式会社日立製作所― 取材先データ 株式会社日立製作所 〒100?8280 東京都千代田区丸の内1?6?6 TEL 03?3258?1111(大代表) FAX 03?4564?1452 http://www.hitachi.co.jp/ ■代表:代表執行役 執行役社長 中西宏明 ■設立:1920(大正9)年2月(創業1910[明治43]年) ■資本金:4587億9千万円 ※2013年3月末現在 ■従業員数:3万3665人(連結従業員数32万6240人) ※2013年3月末現在 株式会社日立ゆうあんどあい (日立製作所特例子会社) 〒244?8567 神奈川県横浜市戸塚区戸塚町216番地 TEL 045?881?2277 FAX 045?881?2493 http://www.hitachi-youandi.co.jp/ ■代表:取締役社長 鈴木 巌 ■設立:1999(平成11)年10月 ■資本金:1000万円(日立製作所100%) ■従業員数:176人(知的障害者122人、管理・指導スタッフ54人) ※2013年4月1日現在 ■事業内容:社内郵便集配、オフィスビル清掃・寮清掃・緑化、シュレッダー・不要文書分別、庶務補助、食堂補助・喫茶補助 Keyword:身体障害、知的障害、精神障害、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、特例子会社、情報通信業、電力・電気システム、障害理解、ジョブマッチング POINT @ 仕事の基本は「よく聞く」、「はっきり話す」、「しっかり見る」 A 社内資格制度、国家検定にチャレンジ B 支援機関、医療機関と連携 日本を代表するブランド「日立」。日立製作所は、事業所で身体障がい者、特例子会社で知的障がい者を雇用し、さらに本社で精神障がい者雇用促進モデル事業に取り組む。日立のコーポレートステートメントは、「社会が変わるとき、変えるのは日立でありたい」。 障がい者雇用率2%超。今回は日立製作所の障がい者雇用の考え方、本社での精神障がい者雇用の取組み、聴覚障がい者が働く水戸事業所、知的障がい者を雇用する特例子会社「日立ゆうあんどあい」をご紹介する。 日立製作所 社内納付金制度で 雇用率達成 1910年、茨城県日立市で1台のモーターを作ることから歴史が始まった日立製作所は昨年、創業100周年を迎えた。「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念の下、原子力、大型コンピューター、半導体と日本の技術の発展を担ってきた。現在は、これまで培ってきた日立グループの事業基盤を最大限に活用し、「真のグローバル企業への変容」、「情報通信システムと電力・電機システムの融合」、「環境ビジネスの拡大」という3つの観点から、情報通信システム、電力システム、環境・産業・交通システム、社会・都市システムなどで構成される「社会イノベーション事業」と、これらを支える高機能材料、キーデバイスへの注力強化を図っている。 従業員は約3万人、グループ会社や海外も含めると約36万人。東京丸の内の本社で、人財統括本部労政人事部労務課長の三輪高嶺さんに、障がい者雇用についてお話を伺った。 「かつては工場にたくさんの従業員がいて、障がいのある人もラインで一緒に働いていました。日立製作所単体で見ると分社化や工場の海外移転で、障がい者雇用率が落ち込んだ時期もありましたが、各種社内制度の改訂などにより改善に努力してきました」 81年に社内雇用促進制度を制定。雇用率を達成していない事業所は、本社に「納付金」を納めることにした。99年には特例子会社を設立。2004年に雇用促進制度を見直し、障がい者雇用緊急対策を策定して、事業所ごとの採用割当数を設定した。 「日立製作所は、02年と03年は法定雇用率を割り込んでいましたから、全社をあげて取り組みました。採用したら『採用奨励金』を出し、法定雇用率1・8%を超えている事業所には『報奨金』を支給しています」 労務課主任の藤原敏さんは、障がい者雇用担当として03年に中途入社した。 「社内の理解を進めるために、階層別研修などで広くPRをしました。障がい者本人の働きぶりを見て、各事業所の理解が深まってきたと思います」 04年まで労政人事部にいた三輪さんは、研究開発本部中央研究所の勤労課長を経て08年7月に労務課長として戻ってきた。「今ではほぼすべての事業所で雇用率を達成しています。社内雇用促進制度の果たしてきた役割は大きかったと思います」 日立製作所で働く障がいのある人は613人。身体障がい者503人、知的障がい者95人、精神障がい者15人。重度障がい者をダブルカウントすると933人、雇用率は2・05%になる。職場は、研究、設計、事務、製造現場とさまざまな部門で、職場不適応で退職する人はほとんどいない。日立グループ900社の雇用率も1・88%と法定雇用率を超えている。 全盲の視覚障がい者が働く 本社では、3人の全盲の視覚障がい者が働く。藤原さんは、パソコンの音声ソフトを使うことで仕事ができると知った。 「最初は労政人事部内でも、紙が多いのにどうやって読むのかと言われました。職場実習で、視覚障がいの方が音声パソコンを使いこなす姿を見て、当時の部長が『雇用しよう』と決断し、第1号の方が入社しました。翌年もその翌年も総合職として新卒を採用しました。実際に接してみないと分かってもらえないと思います。また病気などで中途失明をした2名の方もリハビリをして、音声パソコンの操作を習得して職場復帰しています」 06年に総合職として入社した榊恵理さんはブランド・コミュニケーション本部に所属。07年からは広報・IR部でイントラネットの英語版サイトを立ち上げ、日立グループの社員に日立に関連するニュースを伝えている。メールや電話のやり取りなので、榊さんが目が見えないことに気付かない人も多い。 「どのタイミングで目が見えないことを伝えるのか、迷うことがあります。仕事上では、職場の皆さんがとてもよく配慮してくださるので、ありがたいと思います」 上司の広報・IR部部長代理の紺野篤志さんは、榊さんをごく自然にサポートして現れた。 「入社当時、一緒に仕事をしたことがあります。語学がとても優れていて、リサーチ力があると感心しました。積極性があり、苦労を見せないで仕事をしてくれます。今後も1人の社員として期待しています」 「頑張ります」と言う榊さんは、「英語を使う海外の社員は、社内の情報入手に言葉のバリアがあります。その状況をどこまで最小化できるかが当面の課題だと思っています。また日立グループのユニバーサルデザインや視覚障がい者に配慮した製品などのヒアリングや提案に協力できればと思います」 精神障がい者の雇用へ 精神障がい者の雇用は05年からグループ企業の聞き取り調査、先進事例の収集などの準備を進めた。07年からインターンシップを受け入れ、09年には厚生労働省の精神障がい者雇用促進モデル事業に手を上げた。その際、精神保健福祉士の五味渕律子さんを雇用して、労政人事部を中心に社内委員会を作った。 三輪さんは社内の空気について、「職場では、メンタルヘルス不全の方の就労サポートに苦労しているケースも少なくありませんから、精神障がい者と聞くと大丈夫なのか?という雰囲気がまだあります。モデル事業で雇用した人たちを実際に見ていただき、こうした活動の意義と重要性を広めていこうとしているところです」と語る。 精神障がい者雇用の推進役を担ったのは藤原さんだ。 「職場の中に在籍精神疾患社員を抱えているのに、新規雇用は考えられないと言われたのですが、私は逆に新規雇用の方たちから、なぜ安定して働けるのかのノウハウを学び、職場で生かせたらと考えました。当面は週15時間ぐらいの短時間勤務から始めて週30時間ぐらい働くようにできればと思っています。一般企業の管理部門で精神障がい者が働きやすいノウハウを作っていかなければ、精神障がい者雇用拡大の道はないと思っています」 支援機関と連携しながら職場の理解を求めた。日立グループの障がい者雇用状況調査などの業務を行い、10年7月には有期労災プロジェクトの仕事を始めた。責任者は本社総務部主任の桐原本茂さん。 「有期労災付保業務は、今後更に仕事が増える見込みがあり、そのために人員を増強する必要があります。今回、精神に障がいのある人たちが抜てきされたのですが、私としては違和感なく受け入れられました。昼食を一緒に食べに行くとか、一般の人と同じように接しています。体調が悪くて休むときは遠慮なく言える環境づくりに努めています。会社の文化、社内用語に慣れてもらうのに時間がかかりましたが、今後どこの職場に配属されたとしてもここで学んだことを生かし、ほかの職場でも問題なく働けるようになることを望んでいます」 藤原さんは、電話のやり取りにもあえて挑戦させた。 「人とのコミュニケーションは苦手だと思いますが、実習の段階からあえて電話を取らせています。精神障がい者の職場を広げていきたいので、仕事も評価も我々と同じ基準にしています。出張も人前での発表もさせ、責任も与えています」 五味渕さんは、医療機関とも連携をとる。 「定着には孤立させないことが一番だと思っています。能力の高い方でも、最初のころはすごいストレスを感じていると気づきました。自分の悩みを誰かと共有できる、困ったときにいつでも相談できる存在があるだけで安心して職場に来られると思います」 挑戦から安定。 さらに広がりを 09年度に3人、10年度に3人を嘱託で雇用。採用のときには「本人の病気の認識と、支援者とつながっているかどうか」を確認する。数え切れないほど転職を繰り返してきたという外口善崇さんは09年10月に入社した。「1年続いたのは、ここ(日立)が初めて」だそうだ。 「最初は週3日10時?15時の勤務でしたが、今は週4日8時50分から16時5分の勤務です。パソコンで目を酷使しますので少し大変だと思いますが、相談できる人がそばにいるのは大きいです。先のことを考えると気持ちがめげてしまうので、仕事を1日で完了する。その繰り返しという考え方をしています」(外口さん) Aさんは大学卒業後、父親の会社で働いていて発病した。 「このフロアは広いので、最初は圧倒されましたが、週4日10時15分?16時の勤務に慣れてきました。1日1日働いて積み上がっていけばいいと思います」と話す。 3人が一般社員と同じ8時50分出勤にチャレンジ中だ。五味渕さんは、「朝辛くてこられないとか、休みたいとか、遅参・早退したいとか、まだまだ波はあります。仕事の負荷の後で大事にしているのはアセスメント&フィードバックです。仕事の評価をきちんとしてあげると自信につながります。1日1日積み上げていくことで、日立の社員として自分でできる仕事を確立してほしい。そしてプライベート面でも新しい希望を見出してほしいと願っています」 アフター5にストレスを発散できる場をと、自助グループ「スマイルの会」も作った。社内のホームページでは社員向けに情報も発信。社内サポーター制度を作り、いま240名のメンバーがいる。 精神障がい者雇用促進モデル事業を活用して、当事者やサポーター向けの研修会も開催。当事者たちが準備などを担い、当日の司会も担当する。直近の研修会は10月末に1泊2日で行われた。 毎年、ハローワークと共同で日立グループの採用フェアを実施しているが、藤原さんは「社会の支援とつながっている精神障がい者を採用して、外からの支援を得ながら雇用していくとうまくいく」と伝えている。 「『うちでも雇用できる』という事例を作るために、総合職の仕事をしてもらっていますが、波及効果でグループ会社の中でも精神障がい者を雇用する会社も出てきました」 聴覚障がい者が働く 日立製作所水戸事業所 社内資格取得で同作業担当 JR常磐線勝田駅から車で数分。日立製作所の中でも大きな事業体の水戸事業所を訪ねた。ここには「都市開発システム社水戸事業所」と「社会・産業インフラシステム社水戸交通システム本部」があり、敷地内には、昨年完成した213mという世界一の高さを持つエレベーターの新研究塔「G1 TOWER」がそびえる。 水戸事業所は1940年、電車用制御装置関係の工場としてスタートした。エレベーター、エスカレーターなどと機関車・電車用の制御装置などを製造している。常用雇用者数は2390人。障がいのある人25人のうち17人が聴覚障がい者で、障がい者雇用率は1・92%となっている。 障がいのある人の多くが働いているのは、都市開発システム社水戸事業所生産本部ビルシステム製造部電気電子製作課。ここはエレベーター、エスカレーターや交通システムのプリント板や制御装置の組み立てを行う205人の大きな課で、聴覚障がい者13人と肢体不自由と人工透析の人たちが3人働く。 電気電子製作課長の黒羽誠さんは、入社以来20数年この職場で働く大ベテランだ。 「障がいのない人と同じ仕事をしてもらっています。社内の作業認定という資格制度の試験を受けて1級2級の資格をとって作業をしています。国家検定にもチャレンジして、電子機器組立の1級が1人、2級が2人います。同じ職場には手話ができる人もいますが、私たちは大きく口を開けて、ゆっくり話しています。今はパソコン画面の早見表、指示表などで指示を出しています」 日立製作所では障がいのある人の悩みや相談は人事・勤労部門が中心となって担当しているが、総務本部総務部勤労グループ主任の細越淳一さんのところまで上がってくる問題はほとんどないという。 「日ごろは職場の組長、課長が対応して、解決できなければ勤労グループや人事部で対応しますが、特別問題はありません。近年、地元のろう学校とお付き合いをして、定期的に採用しています。研修に参加して、精神障がい者の雇用も視野に入れています」 聴覚障がい者の勤続年数は長く、Uターン就職のため故郷に帰った人を除いて退職者はいない。黒羽さんは「職場で特に配慮していることはない」と言う。「ただ、課や組の朝礼は普通のペースで話しますので、終了後にもう一度、聴覚障がいの人たちに組長が同じことを話しています」 新人教育は障がいのない人たちと同じ。アビリンピックの電子機器組立競技入賞の常連企業だが、約1カ月半特訓をする。工場では、機械の音は光で分かるようにするなど工夫している。 黒羽さんは、「以前、うまく伝わらないこともあったので、分かったかと念を押して、何が分かったのかを言ってもらうようにしています。基本は、障がいのある人として意識しないこと。何かあったときは助けますが、できるだけ自分でやってもらうことを心がけています」と話す。 それぞれの持ち場で活躍 工場を案内していただく。プリント板を作る作業、ハンダ付けの部品は米粒よりも小さい。一人前になるには5年ほどかかるらしい。高橋賢さんは20年選手。プリント板の追加ハンダ付け作業をしている。 五十嵐和宏さんは、ハンダ付けはプロ中のプロ。国家検定1級で、後輩たちの指導員だ。昨年10月から部品をまとめる部署に移った。 「ミスは許されないので、どちらの仕事も大変ですね。部品の種類は1万ぐらい。似たような部品もあるので、早く全部覚えたいと思います」 次にエスカレーター制御盤の配線作業の現場へ。色、長さ、先端の端子が違う多種類の線を、パソコン画面上の指示を見ながら配線していく。「教えるときに悩むのは、しばったときの力の入れ具合。1かゼロなら教えられるのですが、感覚的なことは筆談しています」と黒羽さんが説明してくれる。 エレベーターの制御盤の工程では、1年前に東海事業所から異動してきた平善範さんが各ラインに部品を供給し、空箱を回収している。「確実に覚えて、昔からいるような」が組長の評価。黒羽さんは「誰が来ても受け入れられる職場の雰囲気を作ってきましたが、聴覚障がいの方たちはネットワークが強く、すぐ打ち解けていました。戦力になっています」 水戸事業所では障がい者と上長の集まり、「心輪の会」を作り、コミュニケーションを図ってきた。その幹事も務めた黒羽さんは、ほとんどの聴覚障がい者と顔見知りで、口話がよく通じる。課対抗スポーツイベントで選手になる人、社内駅伝大会で活躍する人、ゴルフが上手な人。障がいのある人も1人の従業員として、さまざまな行事に参加している。 知的障がい者が働く特例子会社 日立ゆうあんどあい 働く場所は拠点分散方式で 神奈川県横浜市戸塚区に「日立ゆうあんどあい」の本社がある。98年に知的障がい者が雇用率にカウントされるようになり、身体障がい者を中心に雇用してきた日立製作所はCSRの観点等から、99年に特例子会社を設立した。 主な事業は社内郵便集配、独身寮やオフィス内外の清掃、機密文書湿式シュレッダー、そのほか庶務や食堂・喫茶の補助で、売り上げは清掃と郵便がともに35%を占める。 当初、寮の清掃、郵便業務を4拠点10人でスタートしたが、今では神奈川県を中心に20事業所33拠点に広がった。知的障がい者88人(神奈川県64人、東京都22人、茨城県2人)に指導員が34人。そのほか本社スタッフ8人が各拠点をバックアップする。 3代目社長の鈴木巌さんは、生産技術の合理化に携わった後、労働組合の役員として活躍、07年現職に就任した。 「お客様のニーズに応えることと雇用数の確保を考えたときに、戸塚の拠点だけで固まっていたら限界があります。労働形態は派遣ではなく業務請負で、現地集合現地解散であり、33拠点の労務管理やマネジメントは大事です。各拠点の指導員が要(かなめ)ですから、まず知的障がい者の特性とはなんぞやという基本のところを教育します。その後も定期的に本社で指導員会議を開いたり、近隣の特例子会社、特別支援学校、福祉施設を見学しています。入り口でしっかり指導者を教育することが大事ですね」 指導員の採用はグループ会社から転籍した人たちだ。何か問題が起きたときは、本社スタッフが個別に対応して解決策を考える。また、業務部の3人を中心に各拠点を巡回している。 「指導員会議でディスカッションをしたり、各拠点に出向いて話を聞いたりして、どんな改善をしたらいいかを考え、全体のスキルアップ、レベルアップにつなげていきたいと思います」 「逆ザル」教育。 地域との連携も 4拠点から33拠点へ。どのように増やしてきたのか、鈴木社長に聞いた。 「日立では各事業所ごとに障がい者雇用率1・8%を守るルールになっていますから、一番の切り口は雇用率だったと思います。以前は『日立ゆうあんどあいに仕事を出してください』とお願いしていましたが、最近は『こういう仕事ができるからお願いします』と提案する形にしています」 社長の鈴木さんは、NPO法人障害者雇用部会の理事、養護学校の評議員などを務め、地元の障害者生活・就労支援センターなどとも連携、地域とのつながりを大事にしている。採用は拠点ごとに地元から。新卒は特別支援学校、中途は障害者就労支援センター、福祉施設などから面接、実習、トライアル雇用を経て正式採用する。 「60歳までの終身雇用で65歳まで継続雇用ですから、雇用契約を締結する立場として、採用に関しては私が直接面接して決めています」 社員は全員が正社員だ。1期生には転職したいと辞めた人もいたが、その後の離職率は極めて低い。 社員は月1回、本社で集合研修を行う。鈴木社長の挨拶のほか、「初夢は?」「いま夢中になっていることは?」などの宿題も出る。 「長く働いてもらいたいので、人間関係や金銭、健康、家庭の問題などのトラブルで辞める人が出ないよう、アフター5の教育もしています。仕事の基本は、『よく聞く』『はっきり話す』『しっかり見る』。『逆ザル』教育ですね」 この拠点分散方式の雇用は、きちんとしたフォローアップ体制が不可欠だが、このような特例子会社が増えれば知的障がい者の雇用はもっと広がりそうだ。鈴木社長も「そう思いますね。多くの企業は全国各地に拠点が分散していますから、できると思います。ただし、親会社の協力がないとできませんね」 近隣の日帰り旅行、忘年会、スポーツ大会などの楽しみもある。 日立の社員として 自覚ある行動を 引き続き33拠点の1つ、戸塚区の「日立製作所システム開発研究所・生産技術研究所」の現場を訪ねた。社員3人に指導員2人が、マル秘書類の回収とシュレッダー・リサイクル、資材・物品の運搬、社内郵便集配の業務を担っている。 白い紙は再生紙として利用、色紙はトイレットペーパーなどにリサイクル……。清掃業務から最近この職場に異動した岡田洋介さんは働いて4年目。 「この仕事が好きです。できるかぎり力を出して働き続けたいです」と言う岡田さんは、第10回全国障害者スポーツ大会(ゆめ半島千葉大会)で準優勝した横浜市のソフトボールチームのキャプテンでもある。 次にシステム開発研究所の清掃チームの仕事場へ。男性3人、女性2人、指導員が1人。指導員の久保みちるさんは、グループ会社から出向して2年目。仕事を分かりやすくするため、作業のさまざまな工夫をしている。 「最初は私に務まるかと思ったのですが、一生懸命作業をする社員を見て、精いっぱい応えなければと自分も励みになっています」 建物の入り口のドアガラスはピカピカ。「いつもきれいにしてありがとう」と通り過ぎる感謝の声に励まされる。働く姿を見守りながら、鈴木社長は「日立の社員として、自覚を持った行動をしましょうと日々教育している。拠点の事業所の総務から懇親会にお誘いいただいたり、納涼祭や大運動会に参加させてもらったり、ありがたいですね」と話す。 さらに「私は職場を拡大していきたいという思いがあります。弊社が存在しなくても雇用率はクリアできていますから、1・8%のための会社ではないと自負しています」 日立グループにある特例子会社4社、日立金属の「ハロー」、日立ハイテクノロジーズの「日立ハイテクサポート」、日立ビルシステムの「ビルケアスタッフ」と日立製作所の「日立ゆうあんどあい」。各社の社長は、日立製作所労政人事部を交えて年1回、連絡会議を行っている。 今後の日立製作所の障がい者雇用について、労務課長の三輪さんは、「さまざまな職場で他の社員と同じように働いていただけるかたちにすることを目指しています。未達成のグループ企業がまだありますので、ゼロにしていきたいと思います」 障がい者担当の藤原さんは、「日立製作所をはじめ多くのグループ会社が、社員のうつ病などの対応で悩んでいます。私たちのノウハウが生かされて、在職者が支援を受けて働き続けられ、新たに精神障がい者の雇用ができたら……、日立だから見られる夢ですね」 大企業で身体障がい者、知的障がい者と進んできた障がい者雇用。今後は精神障がい者への取り組みが期待されている。 「社会が変わるとき、変えるのは日立でありたい」。その理念で、日立製作所は、精神障がい者の雇用をいち早く進めている。 三輪高嶺労政人事部労務課長 上司の広報・IR部長代理の紺野篤志さん(写真右)と打ち合わせをする全盲の榊恵理さん 藤原敏労務課主任(写真右)と、精神保健福祉士として労務課で働く五味渕律子さん 日立本社で活躍するAさん 精神障がい者雇用促進モデル事業を活用しての日立製作所主催の宿泊研修会。本社労務課で働く当事者の皆さんが準備、運営を担当した 外口善崇さん(写真右)をフォローアップする桐原本茂本社総務部主任 水戸事業所、 黒羽誠電気電子製作課長 細越淳一総務部勤労グループ主任 細かな作業を進める高橋賢さん(右)と末永和彦さん 聴覚障がい者13名が働く電気電子製作課。リーダー的な存在の五十嵐和宏さん(国際アビリンピック・プラハ大会で銅メダリスト) エレベーターの制御盤の配線作業をする清水隆之さん 白紙と色紙の分別。中村哲也さんと 伊賀田純平さん(写真手前) シュレッダー作業をする 岡田洋介さん 「日立ゆうあんどあい」の鈴木巌社長 社内郵便集配作業 株式会社日立ゆうあんどあい 〒244-8567 神奈川県横浜市戸塚区戸塚町216 TEL 045-881-2277 FAX 045-881-2493 社内清掃に励む戸井田新一さん オフィス内外の清掃。佐藤翔伍さん (右奥)と山崎まな美さん(写真手前) 社内収益率4年連続1位は 諦めないチームワークで ――正しく認められた障害者が力を発揮 本誌編集委員 株式会社ストローク 代表取締役 金子鮎子 取材先データ アクテック株式会社 〒573?0102 大阪府枚方市長尾家具町3?10?10 TEL 072?857?0898  FAX 0120?898?001 URL http://www.actec1972.co.jp ■代表:代表取締役社長 芦田庄司 ■創立:1972(昭和47)年9月  ■設立:1975(昭和50)年2月 ■資本金:1000万円  ■従業員数:50人(うち精神障害者4人) ■業務内容:各種アルミケース、ソフトケース、ビデオオーディオアクセサリー、アルミ加工品、携帯電話関連アクセサリー、ノベルティグッズ、その他製造組立て 編集委員から 最近は精神障害者の雇用も増えているが、定着率はなかなか上がらない。アクテックは定着率のよさも優れ、障害者が働く部門の収益率が社内で3年間連続トップ、4年目もトップが予想される。そこには障害者が働き続けるうえで大事な職場環境がある。2012年3月号でグラビアに掲載されたが、それだけでは紹介しきれない障害者雇用の実際を取材した。 (写真)小山博孝 Keyword:製造業、精神障害者、精神障害者社会適応訓練事業、障害理解、地域密着型雇用、リーダーの役割、経営者の心構え Keyword:製造業、精神障害者、精神障害者社会適応訓練事業、障害理解、地域密着型雇用、リーダーの役割、経営者の心構え POINT @ 業況悪化でもリストラせず乗り切る A 数値化でだれもが経営者意識を持つ B 朝礼は社員教育の核 アクテック株式会社は、大阪府枚方市にあるカメラや精密機器などのアルミケースの製造・販売をしている会社で、現在従業員50人あまりのうち4人の精神障害者が立派な戦力として、フルタイムで働いている。 創業41年のアクテックが精神障害のある人を職場に受け入れたのは1991(平成3)年で、その歴史は20年以上になるが、この20年来、働く障害者の定着率が非常に高い。 精神障害者の場合、慨して仕事が長続きせず、辞めてしまうことが多いが、ここでは定着して、一般従業員としての戦力になっている。それどころか障害者が3人と最も多い「製造一課一係」が、3年間連続で収益率トップの成績をあげている。 このようなめざましい業績をあげられるのは、なぜなのだろうか。 「特別な障害者対策を講じているわけではない」と芦田庄司社長はいわれるが、そのトップのお考えを知りたい。そして、会社の運営や職場の実際から学べるものが多々あるに違いないと考えて、2012年3月号のグラビア取材でも訪れた小山博孝カメラマンにも、同行をお願いした。 精神障害者 受入れは20年以上 そもそもアクテック株式会社が精神障害者を職場に受け入れたのは、同社の「パートさん募集」の広告を見た地元の福祉作業所から、「内職の仕事をさせてほしい」との話が持ち込まれたことからだった。 さらに保健所からも、「福祉の作業所では、企業で働けるよう障害者を訓練しているが、なかなか就職できない。何とか職場で訓練してくれないか」と強く頼まれ、1991年6月から「精神障害者社会適応訓練事業」の委託を受け、障害者を職場に受け入れるようになった。 しかし、作業所など福祉の施設と企業とでは、「働くことへの意識がかなり違うと感じた」と芦田社長は語る。 1991年、職場に精神障害者を受け入れてほどなく、カメラなどAV機器業界は不況に見舞われた。その年も翌年も2年連続の売上3割減の年が続いた。 どうするか。普通ならまずリストラと考えるところだが、芦田社長は「そう簡単にリストラするわけにはいかない」と考えた。同社の従業員やパートさんは同じ町内に住み、買物に行っても、スーパーで顔を合わせることも多い。ご近所の従業員や受け入れたばかりの障害者を簡単にやめさせるわけにはいかない。 ではどうするか。芦田社長はその頃、会社で導入し始めた稲盛和夫の経営塾の経営理念に沿って、考えに考えた。 「この会社は何のために経営しているのか。安いアルミケースを作るためにだけやっているわけではない。会社で働く人たちや、ひいては地域の人たちみんなの幸せのために経営しているのだ。となれば、とことん頑張って、みんなにも頑張ってもらい、苦しいけれどリストラしないでやっていく。それでもどうしてもアカンのであれば、会社を閉める。従業員みんなに話して、協力してもらうことにした」と社長は、なみなみならぬ当時の覚悟を語った。 ミスをなくし会社の改革   そこへ翌1992年、ある大手メーカーの注文に、障害者の仕事からミスが発生した。信用にかかわる大問題だ。そこで全製品を国内だけでなく海外からもすべて回収したところ、ミスは1件だけだったが、そこから学ぶものは大きかった。 こうしたミスは考えてみれば、障害者だから起こすものというより、健常者だってだれでも起こす可能性がある。芦田社長は、ミスを障害者のせいと考えたことに、自責の念に駆られたという。 そこでうっかりミスを防ぐため、社内全体として大きな2つの対策を立てた。1つは作業方法を見直し、作業のムダ・ムリ・ムラをなくす、より具体的な工程表をつくった。もう1つは、チームによるダブルチェックの仕組みを徹底することだった。 そして、稲盛の考案した「アメーバ経営」の特徴である、小集団部門別採算制度を推し進めた。 職場のだれもが経営者意識を持てるように、自分の働くグループの生産計画・実績・月次さらにはその週の進捗状況、自分があげている収益額までわかりやすく日々はっきり数値化して、従業員のだれでも共有できる仕組みにしていった。 また会社の経営方針として、作業は複雑になるが、お客様の注文により、量の多寡にかかわらず、1点からでも受注する方針とした。 全員参加の朝礼が軸   アクテックの朝礼は毎朝8時30分から始まり、もちろん全員参加する。 会社の基本方針を確認し、業績や大切な連絡・報告が行われる。毎週月曜は全社員の合同朝礼に続いて、部門ごとの朝礼になる。 この朝礼は、ありきたりの朝礼ではない。一日単位で損益をみるアメーバ経営の日々の実践である。「京セラのフィロソフィ」や「職場の教養」を輪番で読み、その「所感」をその日の担当の従業員が自分の言葉で発表する。 部門員8人のうち3人が障害者である「製造一課一係」ではその順番もすぐにまわってくる。慣れないうちは、その「所感」を述べるのにも一汗かくが、8日ごとに順番がくるので次第に慣れて、いつの間にか、人前で自分の考えを発表する力がついてくる。 前日までの業績や収益率、その日の目標などをみんなで確認し、当日の作業のポイントについての連絡となる。 また、ともすればパートや障害者には無関係だと省略されがちな、他社との連携や営業の可能性といった観点からの報告や連絡があり、朝礼はまさに社員教育の核となっている。 朝礼が終わるとそれぞれ自分の担当の作業に就く。その進捗状況を各自30分ごとに、自分の「作業日報」に記入する。製品番号ごとにその内容・個数を記録し、これが業績のデータの基となる。   職場が育てたベテラン   「製造一課一係」(以下「一―一係」)は各製品の前工程の担当なので、各製品を組み立てるパーツをつくる。 「一―一係」の奥野哲治さんは勤続17年の47歳になるベテランである。統合失調症だが、通院日以外に休むことはない安定した戦力である。しかし、最初からいまのように、自分で進んで仕事をこなせたわけではなかった。 「指が切れちゃった、と絆創膏を貼るでもなく、じっと立ち尽くしていたんですよ、昔は」と、前リーダーの田隈康之さんは、以前の彼の姿を振り返る。 ここまで来るのには、何より障害を持つ人を根気よく育てる職場の包容力と、奥野さん自身の努力の相乗効果が大きかったに違いない。そしてお母さんが毎日作ってくれる心尽くしの弁当は、奥野さんの働く力の影の原動力でもある。 決起大会で論文発表   浜口慎さんは奥野さんの4年後輩で36歳、勤続13年になる。昨年下半期の社員決起大会では、ほかの社員とともに論文を発表した。 その論文で浜口さんは、「寝食を忘れて思いをめぐらし、自分の仕事をこうしたいと思っていると、その思いは潜在意識に浸透して、突然素晴らしいアイデアが生まれるまでになる」と発表した。 浜口さんはアルミの材料板の色目の違いにも気を配り、社員の小濱哲史さんに、製品として「不適合」にならないか確認する。一つひとつ几帳面な仕事振りである。 精神障害者保健福祉手帳の所持者であり、薬を服用しているので、時に眠気に襲われる。 「気をつけてあげなくちゃいけないことといえば、会議のときなど、船をこいじゃうくらいの眠気かな」と前のリーダーの田隈さん。会議のときはいいが、プレス作業のときは危ないので、「眠いようなら、顔を洗っておいで」と、何気なく声をかけた。 夕方、16時30分、作業が終わると浜口さんは、サブリーダ―にその日の結果を報告する。少量多品種の注文が多いので、疑問があれば必ず質問し、打合せをする。翌日の仕事についても、勝手に一人飲み込みせず、納得のいくまで確認し合う。 浜口さんは一日の仕事が終わると、当番でなくても自分が使った機械の周囲を掃除するのが日課だ。 係の成長を論文で紹介   Tさんは、36歳、2003年入社の10年選手だが、同じく下半期決起大会では、「製造部製造一課一係の成長と各々がなすべき事」という論文で、「障害者のパートが何を大言をと思われるかもしれないが」と断りつつも、自分の意見を堂々と披瀝した。 Tさんの文章に基づきお話をうかがって、「一―一係」を紹介する。 障害者が3人いるにもかかわらず、健常者だけの部門の実績よりも好成績を収め、社長が外部の人にも胸を張って、「障害者でも健常者と同じように頑張れるんだ!」と自負できる部門に成長した。 しかしこれは障害者だけが頑張ったのではなく、部門員全員が障害者を理解し、あるときは叱咤激励し、あるときはフォローに回り、うまくみんなが「一―一係」の歯車として機能するように、創意工夫を重ねた努力の賜物だ。 さらに、Tさんは、飛躍の原動力となった田隈リーダーと、営業活動で外に出向くことの多くなった田隈さんを補佐する中井サブリーダー、小濱さんの2人へ深い信頼を寄せている。通常の業務は自分たちで行い、先輩たちにはより高度な仕事を担当してもらう。みんなの力をまとめて、その力を伸ばしてくれた兄貴分のようなリーダーたちの役割の大きさを称え、それは現在のグループリーダー、硲寛樹さんにも引き継がれている。 グループ内のお母さん役でもある森内敬子さんは、障害者についての理解度は係の中でバツグン。みんなが仕事を長続きできたのには、彼女の気配りが一役買っている。 また、部門の飲み会も単なる慰労会でなく、普段思っていることを、歯に衣を着せず話し合い、モチベーションが上がる場になっているようだ。 一方、Tさんは新製品の開発について、景気の動向に左右されない医療や福祉関連分野へのさらなる進出を提案した。 頑張り屋のTさんは、19歳のとき統合失調症を発症したが、専門学校を卒業。病気もあり、将来のことを考えると不安だからと、勉強好きなところもあって、種々の資格も取りたいと、フォークリフトをはじめ、すでに十種類あまりの資格を取っている。 その試験の前には調子を崩しかねないので、尊敬する精神科医の指導を受けながら食事療法や運動療法にも気を配っている。そしてできれば、将来はよいパートナーと出会う夢も視野に入れている。   目標は梱包のプロ   所属の部門は別だが、製造一課四係で働くWさんは42歳、製品の梱包の担当である。仕事を始めてこの1月で7年になる。統合失調症で、一時期調子を崩して休職したこともあったが、いまではこの職場に復帰できたことを何よりも感謝している。 以前は短時間で4時間、12時半までの勤務だったが、現在はフルタイムになり、自宅から電車で片道40分の道程を、休まず通っている。 周囲の状況によって、Wさんは気が散りやすい傾向もあるが、将来は「梱包のプロ」になることを目指している。 そしてWさんは、ゆくゆくは両親から自立して、グループホームか、一人で暮らすことも考えている。 働く精神障害者は現在もこの4人だが、「前回の2年前の取材以来、だれ一人退社していない。これはすごい」と、40年来、障害者雇用の取材に関わる小山カメラマンはいう。   人事考課はみんな同じ アクテックでは、入社時には、パートも障害者も「一般職業適性検査」のテストを受けるが、それだけでなく、「これからどう生きるかを自分に言い聞かせる言葉」として短文を書いて持ってきてもらうことにしている。 また能力開発に役立てるため、毎年2回人事評価を行い、長所・短所をしっかり把握し、次期、どうレベルアップするかについての期待水準が示される。その評価はパート・障害者クラスでいえば、プライマリ、ジュニア、シニアの3クラスに分かれ、それぞれ知識、技能、表現等の5項目について上司が評価する。 その評価は障害者もパートも同じ尺度で行われ、本人にフィードバックされて、昇格すれば、時給もアップする。   経営理念を徹底し 人を活かす   2006年には部門間の収益率が最下位だった「一―一係」の飲み会の席で、芦田社長は「障害者の働く部門がビリというのは残念だ。次はみんなで一番を目指して頑張ろうや!」と酒の勢いもあっていってしまった。専門家は「障害者に頑張れっていってはいけない」とよくいわれるけれど、と社長は付け加えた。 ところが意外にも彼らの方が、「頑張ろう」、「頑張ろう」と発奮、盛り上がった。 その結果は目覚ましく、翌2007年、2008年、2009年と続いて上位2位に上がり、さらに2010年からは2011年、2012年と連続で収益率トップとなった。 そして、この2013年度末の成績1位も「まず間違いない」という。 障害のある彼らがここまでできるのは、「諦めないチームワーク≠ナはないでしょうか」と芦田社長は語った。 病気をしたことで自信を失い、普通の職場で働くことをいったんは諦めかけた精神障害者たちが、チームワークの中で期待され、働いて活かされ、元気に甦った、さわやかなアクテックの実例である。 精神障害を抱えるようになった人たちのなかには、障害があっても、「正しく認められたい」という思いは人一倍強く、一般の人たちの間で評価されることではじめて、生きてゆく自信を取り戻すことが多い。そのとき、障害を持った人たちが発揮できるパワーには目覚ましいものがある。 アクテックの従業員たちにとっても、障害者たちの、このひたむきな働きぶりは、職場のみんなにとっても新鮮な活力となっているようだ。 出来る 出来る 必ず出来る やる気が あれば 必ず出来る 出来ないと思えば 出来ない 出来ないと考えず 出来ると信じ 永遠に自分は 進歩したい 出来る 出来る 必ず出来る 社内全部のトイレの貼紙は、何事も諦めない社風を示していた (武者小路実篤のことば) アクテックで製造・販売されているアルミケース製品 勤続17年になる奥野哲治さん サブリーダーの中井勝頼さん(左)に作業報告をする奥野さん 浜口慎さん 小濱哲史さん(右)に相談、確認して仕事を進める浜口さん 製造一課一係の 硲寛樹グループリーダー 「一課一係のお母さん」と呼ばれる森内敬子さん 仕事の様子を取材する金子編集委員 製造一課四係で、梱包のプロを目指して働くWさん 「働いて、貢献して、稼ぐ」 チームをめざして ―株式会社ぐるなびサポートアソシエ― (文)清原れい子(写真)小山博孝 取材先データ 株式会社ぐるなびサポートアソシエ 〒260?0031 千葉市中央区新千葉2?1?7 第二石橋ビル4階 TEL 043?244?7011  FAX 043?245?4711 http://www.gnavi.co.jp/company/recruit/gsa/info.html ■代表:代表取締役 田中 潤 ■設立:2010(平成22)年11月 ■資本金:2000万円 ■従業員:16人(2013年12月1日現在) 管理スタッフ2人、障害者14人(精神障害者8人、身体障害者4人、発達障害者1人、知的障害者1人) ■事業内容:事務関連業務請負事業および福利厚生サービスの提供 Keyword:身体障害、知的障害、発達障害、精神障害、特例子会社、サービス業、障害理解、職務創出 POINT @ 主体的に働きたい人を採用 A 業務日報で体調を把握 B コミュニケーションを大事に ぐるなびの特例子会社として 「株式会社ぐるなびサポートアソシエ」(以下、アソシエ)は、日本最大級の飲食店検索サイト「ぐるなび」を運営する株式会社ぐるなびの特例子会社として、2010(平成22)年11月に誕生した。会社のポリシーは「働いて、貢献して、稼ぐ」。会社の前向きな姿勢がよく表れている。 現在、社員は16人。管理スタッフ2人に、精神障害者8人、身体障害者4人、発達障害者と知的障害者が1人ずつ働く。年代は10代から50代までと幅広い。 業務はぐるなびから委託される事務作業で、ぐるなびが所有する契約書などの紙資料を電子化する「PDF化業務」、ぐるなびサイトの飲食店が行っている、クーポン登録作業を代行する「クーポン登録業務」、店舗ページの文章や写真に不適切な表現や誇大表記がないかをチェックする「WEB監視業務」、PDF化業務で使用する契約書を並び替える「ファイリング業務」などだ。 なかでもWEB監視業務は、店舗の誇大表記がないかを、ぐるなびポリシーにのっとってチェックするため、トレーニングを経た7人が担当している。最近、サイト上のメニューランキング・コメント・チェック(MRCC)の業務も始めた。こちらは「お勧め情報を投稿する」というルールに反した投稿を見つけて報告する。工藤賢治さんは現場の責任者、管理部リーダーを務めている。 「WEB監視業務は、文章の読解力や集中力と物事を広くとらえられる力が必要です。障害特性によっては難しいので、トレーニングしても難しい人はほかの仕事に就くようにしています。MRCC業務は、食に関しては個人の好き嫌いがありますが、『よかったときに書き込むことが本当に役に立つ情報』というぐるなびのポリシーに沿って、作業をしています」 ぐるなびは飲食店検索サイトの運営のほか、日本各地の特産品の通信販売、デリバリーや宅配など、飲食店に関する事業を手広く手がけている。  株式会社だから利益にこだわる 精神障害者が、障害者の社員の半数以上を占める特例子会社は非常に少ない。設立のいきさつを、ぐるなび執行役員・管理本部人事部門長で、ぐるなびサポートアソシエ代表取締役の田中潤さんにうかがった。 「最初から今日の姿をイメージしていたのではなく、経験がないのでいろいろと教えを乞いながら、何がいいのかを考えてきました。設立した2010年当時は、ぐるなびの社員数が急速に増えたために、法定雇用率を下回っていた時期です。本社の各部署に数名ずつ、障害者の社員を配置していました。たまたま本社の品質管理の部署で、アスペルガー症候群の社員が複数名うまく働いている事例があり、障害の特性を活かした職場をつくるのもいいかもしれないと感じていました。特例子会社設立の助成金などもあり、社員が増えても安定的に障害者雇用率を維持できるのではないかとも考え、2010年夏前から検討を始めました」 最初は、本社内でのビジネスを考えていた。しかし、都内で後発の特例子会社が優秀な障害者を採用するのはなかなか難しいことがわかってきた。 「都内に比べて障害者の雇用の場が少ない埼玉か千葉で設立したほうが社会的にも意味があるのではないか、千葉駅の近くなら、千葉の県東や県南に住む方も通えると考えました。そして、駅から至近のちょうどいい物件に出会えました」 設立にあたって、田中さんは会社のポリシーを3つに整理した。1番目は、「働いて、貢献して、稼ぐ」。 「ぐるなびの創業者が『貢献したいと思う心は人間の本能だ』と説いており、当社のポリシーに貢献という言葉はふさわしいと思いました。しばらく働けなかったメンバーが中心ですから、働くことの大変さと喜びを実感してほしい。まず働くこと、『あなたの作業でだれかが、なにか助かる、それが貢献』。まだ親会社に甘えているところはありますが、株式会社というのは稼がないとつぶれる存在です。自分の給料を稼ぎ、利益貢献をして、胸を張って委託料を稼いでいきたいと考えています」 2番目に、「さまざまな障害のあるメンバーが集まっているので、チームワークの精神が大切」と考え、「仲間で貢献しあうチームに」と掲げた。3番目は「優れた貢献をするために最適な環境を作る」こと。 「特例子会社ですので、一人ひとりをきちんと見つめ、十分な配慮ができることがメリットです。特例子会社のようなきめ細やかな対応ができれば、職場でうつ病を発症する人はいなくなるのでは、とも思うのですが、現実には普通の職場はそこまでできないでしょう。ただ社員はこの配慮に甘えず、会社と社会に貢献して、それが社会人としての誇りと自信につながってほしいと思います」 精神障害に限らず前向きな人に 千葉事業所長の笠置明さんも立上げにかかわった中心人物だ。 「精神障害の人や、ぐるなび本社のような混在型の雇用には向かない障害特性の人たちにも働きやすい環境を作っていけば長く勤められるだろうと考えて、特例子会社を設立することになりました。どういう業務をするかに悩みました。同じビルの1階の就労移行支援事業所『ウイングル』が精神障害者の就労支援をしていたこともあり、ウイングル経由での採用もあったので、ぐるなび社内のさまざまな業務のなかから精神障害のある人にできることはないかと探して、障害に合わせた業務を設計していきました」 車いすの人がたくさん働くかもしれないとオフィスをバリアフリーで設計したが、2013年に女性が入社するまでゼロだった。「最初から精神障害の人を中心にしようとしたわけではありませんでした」と田中さんは話す。 「ぐるなび本社の障害者雇用でも、障害者雇用率だけを考えた『お客さん』的な扱いではなく、主体的に働きたい、健常者と変わらずに成果を出したいという思いの方を採用してきたので、このアソシエでも、明確な思いを持っている方を第一にして、障害の種別は特に考えませんでした。前を向く気持ちがあれば障害を問わずに採用し、結果的にいまのような比率になっています」 「ビジネスができる会社に」と考えていた田中さんは、ベンチャー企業で働いていた工藤さんを現場のリーダーに採用した。「彼は、新しいビジネスをやりたいという。特例子会社はものすごく新しいビジネス、どんどんやらなければならないビジネスだと説明しました」 工藤さんは、立上げ時に転職してきた。 「会社の経営に興味がありましたが、特例子会社という言葉すら知りませんでした。調べてみたら、障害者が働く会社か、同じ人間だから何とかなるかな、と思いました。2010年の年末には身体障害者2人、精神障害者3人の採用が決まりましたが、どんな人たちでどんな仕事ができるのだろうと、不安の年越しでした。相手を理解し、障害を理解しようと必死でした」 2011年1月、5人でPDF化業務を始めた。経験のあるウイングルからの派遣社員が5人をサポートしてくれた。その年にさらに次々と障害のある社員が入社し、2012年初めに現在のかたちが固まった。工藤さんは、「設立当初は、障害についての勉強に相手の理解、信頼関係の構築から業務の組立て、さらには会社の仕組みを考えてと、やることや決めることが多く無我夢中でした」と振り返る。 「最初のころは採用のノウハウもわからず、初期に採用したうちの2人はほどなく退職してしまいました。そこで、会社説明会では、『障害者雇用をしているほかの会社と比べて、うちはビジネスとして考えているので厳しいですよ』という話をしっかり伝え、次に5日間の職場実習を実施し、職場環境や仕事内容、自身の生活の変化などを確認してもらう。この時点でミスマッチに気づくので、本当に働きたい人から応募書類をもらい、書類選考と1次・2次面接をしています」 会社設立後に「『働きたい』という強い意志のある方」など4項目の「求める人物像」を作り、2012年4月に開いたホームページでも訴えた。給料は13〜16万円。ぐるなびからの受託業務をこなし、経営は黒字になっている。   精神障害者定着への取組み 勤務時間は9時半から17時半まで、精神障害者も同条件で働ける人を採用している。朝礼では、「休日はどんなことをして過ごしたか」など身近なテーマを1つ決めて、みんなが発表しあう。「あの人はこんなことを考えているんだ」、「同じ意見だし、休み時間に話してみよう」などお互いを知ることで、コミュニケーションが円滑になることを目的としている。 全員で清掃の後、10時から業務開始。その日の業務はホワイトボードに書き出してあり、1日中同じ業務ではなく、複数の業務を切り替えながら行う。集中力の持続や疲れにくくするために、午前と午後に10分ずつ休憩もある。17時からは業務日報を書き、1日を振り返る。そこで就寝時間と起床時間、5段階に分けた健康状態を記録し、それをもとにグラフ化して、1カ月の体調の推移が一目でわかるようになっている。 「管理者が個人の健康状態をチェックするのではなくて、一人ひとりが自ら意識できるようにしています。精神障害者を中心に体調を崩す人が多かったので、自己管理ができるようにと考えました。グラフを見ると、調子の悪いときは前日の睡眠時間が少なかったなどがわかり、睡眠時間は大事だからと改善するようになります。このツールにより体調管理への意識が強まり、安定した就業につながっていると感じています」と工藤さん。 業務日報には、1日に感じたこと、3つのよいことを書く欄もある。 「ドアを開けてもらったとか、お年寄りに席を譲っている人を見かけたとか、小さなことでいいので書いてもらっています。よいことに目を向けると、気持ちがポジティブになるし、お互いのよい面を探すので人間関係もよくなります」と、5月に入社した管理部の小坂正和さん。 17時20分から終礼を行う。その日の業務上のミスを発表しあい、翌日までミスを引きずらないように、ほかの人が同じミスをしないように全員で情報を共有する。工藤さんは精神障害者の職場定着には、まずコミュニケーションが大切だと指摘する。 「精神障害の方たちは、たいていはコミュニケーションが苦手です。同じことをいっても伝わり方が全然違うので、伝わるまで伝えます。管理者と本人はまだいいのですが、障害者同士で、ちょっとでも齟齬がありそうなときはサポートしたり間に入ったり、ずれていると伝えたりします。口頭で伝え、同じことをメールで送り、最後に理解しているかを確認することもあります。面談なども、ずれをなくしていくための取組みだと思っています」 田中さんは、身体障害者と精神障害者への周囲の配慮の違いについて、こう語る。 「身体障害者は、まわりが自然と配慮する雰囲気になるのに対して、精神障害者は外から見て障害者かどうかわからないので、そういう自然な配慮ができにくいのが、一般的に難しいところだと思います。精神障害者が症状がよくなって再就職する場としては、混在型の普通の職場よりも、その人の特性を理解できている特例子会社のほうがいいとも考えられます。精神障害の方を敬遠されている特例子会社の担当者から、当初は『本当に大丈夫なの?』と聞かれることがありましたが、『やってみないとわからない』と取り組み、笠置君や工藤君が一生懸命フォローしてくれました」 給料分を稼ぎ自立を目指す 社員は千葉県内各地から通勤してくる。それぞれの障害の代表の人に話を聞いた。 若林邦彦さん(31歳)は、パソコンを使う経験はあったが、事務の仕事は初めてだった。 「覚えがちょっと遅いと思っています。知的障害者は私1人なのでスランプに陥った時期もありましたが、支援機関などを利用して大分よくなりました。日報を書くときは1日を振り返って文章を考えるので、書くことで成長したかと思います。ここでずっと働き続けて、いずれは障害者手帳を返納して自立したいという目標があります」 警察官をしていた深山昌邦さん(57歳)は6年前に脳出血で倒れた。事件現場の家の間取りなどをパソコンで描いていた経験があり、パソコンを使用した業務を広く担当している。穏やかな表情からは想像できないが、最初は笑顔が出せず鏡を見て練習したとか。 「60歳まで働ければいいと思っていましたが、7年後東京オリンピックを有給で休んで見に行きたいという夢がわき、定年延長(継続雇用)を申し入れています」 稲垣信一さん(37歳)は、WEB監視およびMRCCの業務担当者を任されている。あるとき身体障害者の相談員をしている叔母に、「障害と闘うのではなく、上手に付き合っていこう」といわれて、それまで「病気」と思っていたことを、「自分らしさ」なのだと認められるようになったという。 「病気をオープンにして働いているので、働きやすいですね。でも最初は、障害者雇用ということに割り切れない思いがあって、休みがちでした。アソシエではやる気があれば力を発揮できるので、ほどよい責任感があります。精神障害者保健福祉手帳を持っていても働けることを示していきたい。前向きに生きていきたいです」 吉澤祐子さん(24歳)はアソシエが初めての就職先で、業務の支援ツールの保守を担当する。 「以前から働きたいと思っていて、ハローワークに行っていたのですが、なかなかうまくいきませんでした。千葉障害者職業センターで、発達障害があるかもしれないといわれ、20歳過ぎてから自分の障害を知りました」 精神障害者保健福祉手帳を取得し、障害者枠で職を探していたとき、アソシエの募集があった。 「最初はまわりにご迷惑をおかけし、自分でも胃が痛いとか精神的に大変でしたが、ようやく落ち着いてきました」 入社当時は、人の目を見て会話ができなかったそうだが、工藤さんや外部支援者たちとの面談やアドバイスと、自身の努力でしゃべれるようになったとか。礼儀正しく、ていねいな言葉づかいで、きちんと話す。 「技術不足を感じているので、自分の技術を上げて、会社の役に立つ人間になりたいと思います。入社3年になりますので、給料に見合った仕事ができる人間になれたらいいなと思います」 次のステップへ 2011年1月に業務を開始してから3年。「新しいことをやるのはおもしろい。ここを作るにあたっては、ドキドキとワクワクがあった」という田中さんは、今後の課題を見すえる。 「いまは微妙な時期になってきたと思います。これまでは勢いでやれたし、次々と新しいことが起こって悩んでいる暇はなかったのですが、3年ぐらい経つと、最初からいる人はマンネリになって不満や悩みが起きやすい。組織にとって最初の危機は3年目くらいに起こるものだと思いますが、うちの場合は幸い、いまも人を増やしているので、その循環が止まらない間は、組織としてはうまくやっていけるのかと思っています。工藤君には伸びが止まったときの組織をどう活性化させていくかを考えてほしいし、工藤君自身もマンネリになりますから、ぐるなびの仕事を2〜3年経験して違う立場で戻るとか、小坂君にも同様にしていきたいですね」 本社所属で、週1回状況を見にくる笠置さんは、「質の高いしっかりとした成果を提供できる環境になりつつある」と感じている。 「仕事をする喜びを感じて、誠実に仕事をしてくださる社員が多いです。『アソシエに委託をすると、まじめに、ていねいにやってくれるのでありがたい』と、どの仕事でもぐるなび社内から一定の評価を得ています。私自身は、ぐるなびとアソシエをつなぐことを常に心がけています。ぐるなびの経営陣にアソシエの存在価値、グループ全体への貢献度の高い事業体であるという意識を持ってもらえるように、同時に発注側の現場の方々にも、アソシエの価値を感じてもらえるようにしたいと思います。受注している仕事の満足度の聞き取りなど、社内営業的な働きかけは重要ですね。ぐるなびの人たちにもアソシエを身近に感じてもらえるよう、交流の機会を増やしていきたいと思っています」 初めて障害者雇用にかかわった工藤さんは、思いがたくさんある。 「障害者雇用の仕組みも含めて、できることはまだまだたくさんあると感じています。若輩ですが、精神障害者の雇用は重要だと思いますので、試行錯誤した経験を企業や支援機関、行政にお伝えして、障害者雇用がどんどんよくなっていけばと思います」 小坂さんは、知り合いには障害のある人がいたが、仕事として接したのは初めてだった。 「本人たちの特性を理解して、1人の人間として『個人』として接しています。一人ひとりの弱い部分をサポートして個人の力を上げることで、会社の底上げもできると考えています。まだまだ勉強中ですが、業務改善で会社に貢献できればと考えています」 ぐるなびが外部委託している業務はたくさんあり、いまのアソシエオフィスのスペースにもまだ余裕がある。今後も採用を続けるという田中さんに、今後の決意を聞いた。 「格好いいことはしなくてもいいので、ちゃんと続く会社にしたいですね。そのためには、価値を発揮し続けないといけません。会社のポリシーを守ってみんなで頑張っていけば、ちゃんと続く会社になるはずだと思います」 高いポリシーを掲げて、前向きに。しかし歩みは堅実に。精神障害者の定着にもみられるように、日々の取組みの地道な積み重ねを感じた。 ぐるなびサポートアソシエ 田中潤代表取締役 工藤賢治管理部リーダー ぐるなびサポートアソシエの事務所 笠置明千葉事業所長 PDF化業務のデータ入力を行う若林邦彦さん。若林さんのパソコンにはたくさんの注意メモが貼ってある 管理部の小坂正和さん WEB監視業務を担当する稲垣信一さん 2020年の東京オリンピックまでは働きたいという深山昌邦さん 20歳を過ぎてから自分の障害を知った吉澤祐子さん。「自分の技術をもっと上げて仕事をしたい」と話す はじめての精神障害者雇用 @ 「精神障害」について知る 福島障害者職業センター 所長  相澤欽一 法改正により、企業における精神障害者の雇用が、ますます重要になっています。そこで、精神障害者の雇用管理に関する連載を開始します。 精神障害者の雇用 精神障害者雇用というと、「仕事のことを考えるのは、病気を治してからにすべきでは」、「病気が治れば障害もなくなり、精神障害者とはいわないのでは」という疑問をもたれる方もいらっしゃるかもしれません。 肺炎になったら、肺炎を治してから仕事を再開するのが望ましく、「病気を治してから」と考えたくなるのも無理はありません。 しかし、例えば身体障害である腎臓機能障害のことを考えてみましょう。腎臓機能障害は慢性の腎臓疾患ですが、腎臓疾患を治してから仕事をするという発想ではなく、人工透析などの通院・治療時間を確保し、重労働や寒冷な労働環境を避け、職業生活上の障害を軽減していくという考え方が必要になります。 精神障害も同様で、慢性疾患の場合には完治して障害をなくす発想ではなく、病気を管理しながら、生活や職業上の困難に対してさまざまな配慮や工夫をすることで、職業生活を可能にしていくという考え方が望まれます。 掲載されている職場ルポなどを読めば、職場での配慮や支援機関の支援により、精神障害があっても十分に働ける人たちがいることを理解していただけると思います。 病気と障害 精神疾患は、調子がよくなったり悪くなったりと状態が変動したり、治る可能性もあります。ですから、「状態が固定しないと障害といわないのでは」、「治る可能性があるものは病気であって障害ではないのでは」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、障害についての考え方は、近年大きく変化しています。 変動するとか、治る可能性があっても、健康上の変調(病気やケガなど)により一定期間以上、日常生活や社会生活に困難がある状態は障害とみなす考え方が国際基準になってきています。日本でも、基本的にはこのような考え方を採用しています。ただし、どの程度の問題や困難性がある場合に「障害」として支援の対象とするかは、国によって大きく違いますし、同じ国内でも制度(例えば、年金や雇用率など)によって、対象となる障害の範囲は異なるのが一般的です。 なお、病気と障害の関係についていえば、「病気」は医学的な観点から治療の対象となるもので、「障害」は生活上の困難性の観点からいろいろな支援(例えばグループホームなどの生活支援、ジョブコーチなどの就労支援、雇用率などの法制度の整備など)の対象になると考えればよいでしょう。 精神障害者とは 「精神障害」や「精神障害者」という言葉は、使用する人や状況によって異なり、必ずしも定まっているわけではありません。 一般的には、精神疾患を有する人を精神障害者ということが多く、例えば、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(精神保健福祉法)では、「『精神障害者』とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」と定義しています。 では、「精神疾患とは何を指すのか」ということになりますが、世界保健機構(WHO)の国際疾病分類に基づいて考えるのが一般的です。国際疾病分類は、大分類「感染症」、中分類「腸管感染症」、小分類「コレラ」というように、さまざまな疾患を分類しています。精神疾患は「精神および行動の障害」という大分類にまとめられ、その内容は表1のとおりです。日本でも、この国際疾病分類をもとに精神疾患の分類をしていますが、精神障害者数の算出に際しては、「精神および行動の障害」から知的障害を除外し、さらに国際疾病分類で「神経系の疾患」に分類される「てんかん」などを含めています。 一方、「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、雇用対策上の障害者を定義していますが、この法律で定義される精神障害者は、障害者(身体障害、知的障害または精神障害があるため、長期にわたって職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な者)のうち、表2に該当する人になります。ただし、障害者雇用率の算定対象は、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者に限られます。 精神障害者保健福祉手帳 精神障害者保健福祉手帳は精神保健福祉法で定められており、精神疾患を有する者のうち、一定レベル以上の機能障害や能力障害のある者を交付対象としています。手帳の申請は、初診日から6カ月以上経過していることが必要で、手帳申請用の診断書を添付して都道府県知事に申請します。申請された書類は、各都道府県の精神保健福祉センターで、手帳に該当するかどうか、該当する場合にはその等級(1〜3級)が審査されます。 精神障害者保健福祉手帳所持者は、2011年3月末時点で約60万人います。2006年3月末が約38万人ですから、手帳所持者は年々増加していることがわかります。手帳制度が周知され、手帳を申請しようとする人が増加していることがその背景にあると考えられます。 相澤欽一(あいざわ・きんいち) 1982(昭和57)年、雇用促進事業団入団。各地の障害者職業センターで勤務。2008(平成20)年、障害者職業総合センター研究部門主任研究員。「精神障害者の雇用管理のあり方に関する調査研究」、「精神障害者雇用管理ガイドブック」の作成などに従事。2013年より現職。日本精神障害者リハビリテーション学会常任理事、日本職業リハビリテーション学会運営理事、早稲田大学非常勤講師。著書「現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック」金剛出版、共著「職業リハビリテーションの基礎と実践」中央法規など。 表1 国際疾病分類(第10版)の「精神および行動の障害」に含まれる疾患・障害 中分類名 症状性を含む器質性精神障害 精神作用物質使用による精神および行動の障害 統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害 気分(感情)障害 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群 成人の人格および行動の障害 知的障害(精神遅滞) 心理的発達の障害 小児期(児童)、青年期に通常発症する行動および情緒の障害 詳細不明の精神障害 具体的な疾患・障害の分類 認知症、高次脳機能障害など アルコールや薬物の依存症など 統合失調症など うつ病、そううつ病など 不安障害、適応障害など 摂食障害、睡眠障害など 人格障害など 軽度知的障害、中等度知的障害など 自閉症、学習障害など 多動性障害、チック症など 表2 雇用対策上の精神障害者 @またはAに該当する者であって、症状が安定し、就労が可能な状態にあるもの。 @精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者 A統合失調症、そううつ病(そう病およびうつ病を含む)またはてんかんにかかっている者(@に該当する者を除く) (「障害者の雇用の促進等に関する法律」施行規則を簡略化して示す) はじめての精神障害者雇用 A 統合失調症について 福島障害者職業センター 所長  相澤欽一 ひと口に精神障害といっても、さまざまな疾患があります。2008(平成20)年の患者調査によると、精神科の患者で最も多いのが気分障害で104万1千人、次いで統合失調症が79万5千人でした。また、精神保健福祉センター59カ所での2009年9月の精神障害者保健福祉手帳の新規交付件数は5561件あり、うち統合失調症が2197件、気分障害が1810件と、全体の72%を占めていました(文献1)。 患者数や手帳所持者の割合から考えると、精神障害者の雇用管理は、統合失調症と気分障害への対応が大きな比重を占めることになります。そこで今月号は、統合失調症を取り上げて解説します。 統合失調症とは 「統合失調症」は、およそ100人に1人がかかる比較的よくある病気です。10代後半から20代前半に発病のピークがあり、学生時代や社会人の門出を迎える時期の発病は、その後の人生に少なからぬ影響を与えることになります。 原因ははっきりしていませんが、脳の神経伝達物質の過剰や低下が、さまざまな症状を引き起こすと考えられています。 症状には、幻聴(実在しない人の声が聞こえる)や妄想(実際にはあり得ないことを信じ込む)、まとまりのない言動や落ち着きのなさなどの「陽性症状」や、感情表現が乏しくなる、意欲低下などの「陰性症状」がみられます。 治療には、薬物療法のほか、精神療法、病気を自己管理するための教育プログラム、社会生活技能の向上をめざした訓練などがあります。比較的短期間で治癒するものや、回復と再発を繰り返すもの、回復が得られずに病気の状態が持続するものなど、発病後の経過は多様です。長期的な追跡調査によると、約半数の人が治癒、または比較的社会的に良好な状態になるとされています。副作用の少ない薬の導入やリハビリテーション技術の進歩などにより、今後は、さらに予後の改善が期待されます。 職場で現れやすい「障害」の例 ハローワークの障害者窓口から紹介される人は、前述したような「陽性症状」が激しくて治療を最優先することが必要な人ではありません。陽性症状が治まり、就労を考えることが可能な人たちです。ただし、陽性症状が治まっても、日常生活で何らかの「障害」が現れることもあります。 職場で問題となりやすい「障害」には、次のようなものがあるといわれています(文献2)。 @体力や持続力に乏しい A細かな指先の動作が苦手で作業速度が遅い B生真面目さや過緊張のため疲れやすい C注意や集中が持続せずミスを出しやすい D同時に複数のことをこなすのが苦手 E仕事の段取りをつけるなど全体把握が苦手 F明確な指示がないと仕事が滞るなど、あいまいな状況で困惑する G融通や機転がきかず手順や流儀の変更が難しい H経験をほかの場面に応用することが苦手 I新しい職場環境や仕事内容に不安を覚え、適応までに時間がかかる J上司や同僚の評価に敏感で注意や指摘を過度に気にする傾向がある K断ることや頼むことが苦手 L相手の立場に立って考えるなど、視点の転換が苦手 M失敗により自信を失いやすい 「障害」の現れ方は人によって異なる 職場で現れやすいといわれる「障害」を列挙しましたが、このようなものがすべて現れるのかといったら、そうではありません。 障害者雇用に関するシンポジウムで、統合失調症に罹患した人が専門家に混じって登壇し、込み入った議論になっても専門家よりもわかりやすく話をし、融通や機転のなさを微塵も感じさせない人もいます。また、ノーベル経済学賞を受賞し、その人生が「ビューティフルマインド」という映画にもなったジョン・ナッシュのような人もいます。 「障害」の現れ方は、発病の時期や病気の症状、もともとの能力や性格、周囲の環境などによって変わってきます。前述の「障害」例にとらわれすぎないように、気をつけましょう。 ところで障害には、「機能障害:心身の機能や構造上の問題」、「活動制限:個人が活動を行うときに生じる難しさ」、「参加制約:個人が何らかの生活・人生場面に関わるときに経験する難しさ」の3つの側面があります。脊髄を損傷した人の場合でいえば、足が動かなくなる(機能障害)、移動・活動が制限される(活動制限)、職業生活の継続に支障が出る(参加制約)といったことが考えられます。 この場合、足は動かなくても手だけで運転できる車をマスターし、職場をバリアフリーにすれば、活動制限や参加制約は軽減します。このように、周囲の配慮や支援によって、機能障害が活動制限や参加制約につながらないようにすることが重要です。 脳機能の障害から統合失調症を考える 障害を3つの側面で見ると、統合失調症の場合、例えば活動制限では対人関係が苦手、参加制約では就職先を見つけにくいなどが考えられます。機能障害にあたるものが何かわかりにくい面もありますが、脳機能の障害という側面から考えると理解しやすいでしょう。 統合失調症は、次のような脳機能の障害が発生しやすいと指摘されています(文献3)。 @認知障害(「さまざまな情報を脳にインプットする→処理(蓄積・照合・判断など)する→アウトプットする」という過程のどこかに支障があり、注意の幅や処理容量の狭さ、情報の文脈を読み取ることの困難さ、技能を学習したり学習したことを一般化させることの困難さ、他者の感情や言動の認知に関する障害などが出やすい) A脳機能の不安定性(疲れやすかったり、ストレスで機能が低下したり混乱しやすい) B再燃への脆弱性(発病した人はいったん症状が治まっても何らかのきっかけで症状が再燃しやすく、二度三度と再燃を繰り返すとさらに再燃しやすくなる) このような脳機能の障害をふまえ、表のような対応が望まれています(文献4)。 どこに何があるかわからない、作業手順が決まっていない職場より、表の@のように、どこに何があるか明確で、標準化された作業手順が図示されている職場の方が働きやすいでしょう。また、新入社員や目の前の仕事でいっぱいいっぱいの社員にはAやBの対応は必須ですし、自信のない職員には頭ごなしの叱責よりも、CやDの対応が効果的でしょう。 このように、統合失調症の脳機能の障害をふまえた対応は、障害のない社員にとっても有効な対応になるといえます。 表 脳の機能障害をふまえた対応方法 @ 生活や働く場を構造化された明確なものにする A 指示は具体的に、誤解の余地なく、タイミングよく、   一度にたくさんいわない B 混乱した状態は整理してやり、いつまでも迷わせない C 成功体験と達成感を重視する D ミスに対しては具体的な対応策を一緒に考える はじめての精神障害者雇用 B 「気分障害」および 「精神障害者の雇用管理」 福島障害者職業センター 所長  相澤欽一 先月号では統合失調症を取り上げましたが、今月号は気分障害を取り上げ、中川正俊氏による「気分障害」(『精神障害者雇用管理ガイドブック』)(文献1)をもとに説明します。また、気分障害や統合失調症などさまざまな疾患があるなかで、「精神障害者の雇用管理」のポイントをどう考えればよいのかについても解説します。 気分障害とは 気分障害とは、憂うつや気分の高ぶりなどの気分の浮き沈みが、一定期間正常を超えた状態となり、それに伴い、考え方や行動面、身体面などにも障害が生じたものの総称として使用される病名です。 「うつ状態」だけが現れるものを「うつ病」、「うつ状態」と「躁状態」の両方を繰り返すものを「躁うつ病」と呼んでいます。 「うつ状態」では、憂うつや物悲しさ、絶望感などの気分の変化に加えて、好きなことにも興味を持てず何をしても楽しめない、考えが浮かばず簡単な判断もできない、集中力に欠ける、何事も億劫で疲れやすい、過度に申し訳なさを感じ自己を責めるなどの精神症状が現れます。また、不眠(朝早く目覚めるのが典型的)や食欲低下、頭痛、胃部不快感などの身体症状もみられます。多くの人で精神症状や身体症状は朝方に強く現れ、時間とともにやや軽快する「日内変動」が認められます。 「躁状態」では、気分が高ぶり爽快である反面、時にいらいらして怒りっぽくなります。考えは飛躍しがちで、自分が大物で金持ちであるなどと誇大的となります。行動面では、落ち着きなく口数も多くなり、買い物などの外出や知人宅への電話・訪問などが頻繁になります。身体面では、「うつ状態」と同様に不眠がみられますが、食欲は亢進します。時に浪費や無分別な性的逸脱行為などが問題となることもあります。 日本では、うつ病の頻度は7%ぐらいで、躁うつ病の割合は0・7%ぐらいといわれています。「うつ病」は女性が男性の2倍多くかかるといわれていますが、「躁うつ病」はかかりやすさに性差はありません。 原因は明らかではありませんが、本人の側の要因(遺伝や性格など)に加え、何らかのきっかけ(心理的ストレス、睡眠不足や疲労などの身体的負荷、生活状況の変化など)が関係して発症に至ることが多いと考えられています。 「うつ病」では、「抗うつ薬」と呼ばれる薬物の服用に加え、仕事や家事などの役割から開放され休養することが、治療の基本となります。「躁うつ病」では、「気分安定薬」と呼ばれる薬物を中心とした服薬による治療が行われます。 「うつ病」や「躁うつ病」は、診断における分類法の違いによりさまざまな呼称があり、診断書にも多様な病名が使用されています。具体的には、「うつ病エピソード」や「反復性うつ病性障害」、「大うつ病性障害」は「うつ病」を意味し、「双極性感情障害」や「双極性障害」は「躁うつ病」を意味します。 〈気分障害に対する留意点〉 「うつ病」も「躁うつ病」も、主治医や産業医の指示に従い、職場ができる協力を行う必要があります。いずれも健康管理と再発予防のために、定期的な通院と服薬が必要ですが、特に「躁うつ病」は、多くの人で症状がない時期でも、再発予防の目的で継続した服薬を必要とします。 また、再発には対人ストレスや生活リズムの乱れなどが影響することが知られており、再発予防のためには、過重労働や不規則勤務を避け、職場の人間関係に配慮する必要があります。 精神障害者の雇用管理とは 精神障害者の雇用管理といっても、「さまざまな異なる疾患について、『精神障害者の雇用管理』と一括りにすることができるのか」という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、障害者雇用制度の対象となる精神障害者には、さまざまな精神疾患が含まれ、精神障害者保健福祉手帳を取得すれば、企業の方が精神疾患のイメージを持ちにくい発達障害や高次脳機能障害なども、雇用対策上の精神障害者になります。 しかし、ハローワークの障害者窓口から紹介されて就職した精神障害者は、統合失調症48%、気分障害28%、てんかん8%、適応障害や不安障害などの神経症性障害5%、発達障害3%、高次脳機能障害2%でした(文献2)。さまざまな疾患が含まれているとはいえ、「精神障害者雇用」として新規雇用された精神障害者の8割以上は、企業の方が精神科の疾患であるとイメージしやすい統合失調症と気分障害、それに神経症性障害の3つで占められていることがわかります。 〈雇用管理上の共通項〉 この3つの疾患について雇用管理上の共通項を考えると、以下のようになります。 @いずれも病気がベースにあり、通院の確保など健康管理面での配慮が必要です。Aまた、病気とストレスには深い関連性がありますが、精神疾患に罹患した人の場合、特にストレスに弱い面があり、仕事で過重な負担をかけないなどの配慮が求められます。Bさらに、中途障害であることと、精神疾患に対する周囲の無理解・偏見なども相まって、障害による自信の喪失という問題を抱えている人たちもいます。コミュニケーション上の配慮により安心して働ける雰囲気をつくることも重要です。C加えて、認知面の障害(大雑把にいえば、情報を脳にインプットし、脳内で情報を処理し、処理した情報をアウトプットする一連の流れのどこかに障害がある)が見られる人も一部おり、その人に対しては、仕事を簡素化するといった工夫も望まれます。 〈支援機関の活用〉 もっとも、統合失調症と気分障害では病気が異なり、統合失調症のなかでも症状や重症度が異なるうえ、もともとの能力や性格、発病前に身につけていた技能や経験など、多くの点で違いがあります。 このため、個々人の状況を的確に把握し、個別対応していくことが必要になります。個別対応による適切な雇用管理を行うためには、採用時の情報収集を工夫するだけでなく、採用後の状況把握も適宜求められ、ひいては医療や生活面の問題も考慮に入れる必要があります。これらのことを企業だけで行うにはかなりの負担が伴うため、精神障害者の雇用管理を適切に行うためには、支援機関を活用することが効果的です。 つまり、「ある程度の共通項(健康管理・ストレス・自信喪失・認知面の障害などへの配慮)をふまえつつ、適切な個別対応をするために必要に応じて支援機関を活用する」ことが、精神障害者の雇用管理のポイントになります。そして、このような取組みを通じて自信を回復し、持っている力を発揮できるようにすることが望まれます。 なお、健康管理・ストレス・自信喪失・認知障害への配慮、支援機関の活用などは、発達障害や高次脳機能障害、てんかんのある人にもあてはまることは多いのですが、これらの障害に特化した全般的な解説は左の文献(文献3〜5)をご覧ください。 (注)2011年、精神障害者保健福祉手帳の診断書の様式改正に伴い、発達障害や高次脳機能障害のある人で手帳取得する人たちが増加する可能性はある。 【文献】 1 中川正俊「気分障害」(『精神障害者雇用管理ガイドブック』)43〜45頁(2012年) 2 障害者職業総合センター『精神障害者の雇用促進のための就業状況等に関する調査研究』調査研究報告書95(2010年) 3 厚生労働省『発達障害のある人の雇用管理マニュアル』(2005年) 4 高齢・障害・求職者雇用支援機構『高次脳機能障害者の雇用のために』雇用マニュアル90(2001年) 5 「てんかんinfo」www.tenkan.info 「高次脳機能障害者の 雇用のために」 「発達障害のある人の 雇用管理マニュアル」 「精神障害者雇用管理 ガイドブック」 はじめての精神障害者雇用 C 採用時に考慮すること 福島障害者職業センター 所長  相澤欽一 先月号までは、「精神障害」の障害特性など基本的な知識について説明しましたが、今月号からは、雇用管理の具体的な留意点について説明します。 採用の選択肢に入れる 障害者雇用を考える際に、精神障害者の雇用を想定する企業はまだ多くないかもしれません。しかし、8月号に掲載されている事例からもわかるとおり、戦力として活躍している精神障害者は大勢います。精神障害者の場合、通常、職場の物理的環境などのハード面の改善は必要なく、工程の多い作業や専門性を要求される職務に対応できる人もいます。自社の仕事内容にマッチする人を見つけ、労働条件面や指導の仕方、コミュニケーションのとり方などのソフト面の対応を適切に行えば、有用な人材を採用できるチャンスは十分にあります。 「有用な人材=即戦力」という視点にこだわらない ただし、「有用な人材=即戦力」としか考えないようでは、かえって有用な人材を見逃すこともあります。最近は即戦力の人材が求められ、人材をじっくり育成するゆとりが少なくなっている企業が多いかもしれませんが、障害のあるなしに関わらず、新しい人材を長期的な視点で育てていくことの大切さは、いつの時代でも変わりません。ましてや、障害のある従業員の場合には、障害に対し一定の配慮が必要です。精神障害者の場合、初めての場面に弱かったり、慣れるまで時間がかかる人も多いので、長期的な視点で育てていく姿勢は、さまざまな配慮の中でも特に重要なポイントになります。 どんな仕事で募集するのか ひとくちに「精神障害者」といっても、もともと持っている能力、職歴や学歴、資格取得の状況など、人によって大きく異なります。このため、精神障害者に向いている仕事を初めから特定することはできません。 ただ、初めての場面に弱く、慣れるまで時間がかかることに加え、臨機応変な対応が苦手、仕事内容や仕事量の急な変更にストレスを感じやすいといった人が多いので、初めから納期がきびしかったり、仕事内容や仕事量が急変するようなものはなるべく避けることが望まれます。 もちろん、そういわれても、「納期がきびしくない仕事」なんてほとんどないし、「仕事内容や仕事量もそのときどきの状況で変化する」のは当然で、とてもそのような仕事は用意できないと考える企業もあるかもしれません。その場合は、多数の部署から横断的に仕事を切り出して、精神障害者が行う仕事をつくり出すことを検討することが考えられます。もっとも、このような対応を考えなくても、指導の仕方や仕事の与え方などにより、本人に過重な負担がかからないように配慮するだけでも、かなり違います。あまり大げさに考えずに、27頁の上に示した精神障害者雇用の事例集などを参考にしながら、自社で考えられる職務を検討するとよいでしょう。 募集の仕方 求人はハローワークに出すことが基本です。また、就労支援機関や医療機関、職業訓練校などを訪問し、自社に向いた人材を捜す企業もあります。各種支援機関の職員に直接説明することで、企業が望む人材のイメージを支援機関の職員に理解してもらいやすくなりますし、支援機関を利用している精神障害者の訓練場面などを見ることで、企業側も働く精神障害者のイメージが持てるようになります。 どんな人を採用したらよいか 募集している仕事内容に、ある程度、対応できる人かどうかの確認は当然必要ですが、資格や職歴だけで採用しても、職場に適応できなかったり、健康管理面で大きな問題が発生する可能性もあります。採用後に育成していく視点をもって、健康管理面や仕事に対する意欲、社内のルールを守るといったような、基本的な面を確認することが望まれます。 特に、本人が自分の障害を自覚していること、具体的には、@自分自身の精神疾患や障害がどのようなものか理解している、A普段の生活や仕事をするときに、健康管理上どのような点に気をつけなければいけないか、理解し実行できる、B仕事をする際に、どのような配慮や支援があると働きやすいかをいえる、といったことは、精神障害者を採用する際の大きなポイントになります。 病気や障害については、プライバシーに関わる問題で、面接で聞いてはいけないのではないかと考える方もいるかもしれませんが、精神障害といっても、さまざまな精神疾患がありますし、同じ疾患でも、個人個人で障害の状況が異なります。上記の点をきちんと把握しないと、精神障害があることを前提に採用したにも関わらず、具体的にどんな配慮をすればよいか、企業側が手探りで考えることになりますので、注意が必要です。 また、「精神障害者」であることをオープンにして応募してきたのだから、自分自身の病気を理解しており、健康管理上の留意点や周囲の人に求める配慮事項もわかっているはずだと思うかもしれませんが、実はそのような人ばかりではありません。本人が病気や障害のことをどのように考えているか把握するときには、例えば、「紹介があったハローワークからは、精神障害(疾患)があるとお聞きしていますが、具体的にはどのような障害(疾患)ですか。また、仕事を続けていくうえで、自分自身が気をつけるべきことや周囲の人に配慮してほしいことはありますか」といったような聞き方が考えられます。 面接だけの情報収集には限界がある 採用面接をさまざまに工夫しても、働く意欲があるか、基本的労働習慣が身についているか、働き出したら体調の変化はないか、といったことは面接だけではなかなか把握できません。これまでの職歴から考えて、企業で想定している仕事は十分に対応できるだろうと思われる人でも、病気やその後のブランクのために持っているスキルを十分発揮できない人もいます。 面接だけで適当な人材かどうかを把握することは、障害のある・なしに関わらず難しい面がありますが、特に精神障害のある人の場合には、調子の波があって、面接のときは絶好調だったが採用すると違っていたとか、面接ではしっかりとした話はできなかったが、実際に仕事をさせると大変まじめに着実に仕事をこなすといった人もいます。このため、精神障害者雇用の経験豊富な企業では、職場実習など、実際に職場で働いてもらう期間を設定し、具体的に実態把握するところも多いようです。 支援機関を有効に活用する 適切な支援を実施している支援機関であれば、病気や障害のことを企業にどう伝えるか本人ときちんと相談し、支援機関の方からも企業側に情報提供を行うはずです。本人のセールスポイントや具体的な配慮事項、調子を崩すきっかけ、調子を崩すときのサイン、調子を崩したときの対処方法、生活面を含めた支援体制の状況などについて、支援機関から情報提供してもらうことが望まれます。採用を検討する段階から支援機関を活用すると、精神障害者雇用はよりスムーズに進みます。 さまざまな支援機関があるなかで、どのような支援機関の協力を得たらよいか迷うときには、まずはハローワークに問い合わせたり、専門的な助言を求めるときには地域障害者職業センターに相談してみるとよいでしょう。 上記資料は、それぞれ「精神障害 好事例」、「理解する心、支え合う職場」、「障害者雇用 コミック」で検索ください。 ■問合せ:雇用開発推進部雇用開発課 TEL 043―297―9513 FAX 043―297―9547 「精神障害者のための 職場改善好事例集」 「理解する心、支えあう職場」(DVD) 「障害者雇用マニュアル コミック版」 はじめての精神障害者雇用 D 仕事の教え方 福島障害者職業センター 所長  相澤欽一 初めて精神障害のある社員を指導する場合、どのような声かけをすべきか、「頑張れ」といっていいのかなど、不安になる人もいるかもしれません。今回は仕事の教え方について述べます。ここで述べることの多くは、新入社員に仕事を教えるときの留意点とさほど異なるものではありません。精神障害だからというより、ていねいな対応が必要な社員に対する指導という視点で取り組んでいただければと思います。 仕事を教えるときの基本 ●特定の指導者を配置する いろいろな人から指示を出され戸惑う、人によって指示の出し方が異なり混乱する。わからないことがあったときに、だれに質問すればよいか迷う、といったことを避けるため、特定の指導者を配置すると効果的です。 ●やってみせ、わかったかどうか確認し、やらせてみる いきなり仕事をさせるより、まずは指導者が説明しながら実際に仕事をやってみせるとよいでしょう。わかったかどうか本人に確認した後、実際に仕事をやらせ、どの程度仕事ができるか、しばらく観察します。その後は、状況に応じて必要な指導をするようにします。 ●指示は具体的に、誤解の余地なく、タイミングよく 指示は具体的に、誤解の余地なく明確に出すよう心がけましょう。また、本人が落ち着いて聞けるタイミングで指示を出すことも大切です。相手の目を見ながら、ゆっくりと話すことや、一度に指示されると混乱する場合があるので、必要なことだけをピンポイントで伝えることにも留意します。 ●混乱した状況は整理してやり、いつまでも迷わせない どうしたらよいか悩んでいるときは、対応方法を具体的に示し、いつまでも迷わせないことが重要です。例えば、「指示されたAの仕事が途中までしかできていませんが、Bをする時間になりました。どうしたらいいでしょうか」といった質問をしてきたとします。このとき、「どちらでもいいですよ」とか、「自分で判断しなさい」という指示ではなく、「Aを最後まで終わらせてから、Bに取りかかってください」とか、「Aは中断して、Bを始めてください」といった指示を出すとよいでしょう。 ただし、指導者が本人の能力をある程度把握し、本人が仕事に慣れてきて自分で判断できそうだと推測できるときには、「あなたはどう思いますか?」とか、「Aを中断することで何か不都合はありますか?」という質問をし、本人がどう答えるか様子を見るといった方法も考えられます。本人の力をある程度把握したら、本人の力を引き出す工夫も望まれます。 ●指示を出した後の本人の様子に注意する 指示を出したり、本人の質問に答えた後は、本人の様子をよく見て、指示や回答に納得しているかどうか、確認することが重要です。指示を受けても、不安げな様子であれば、何か気になっている点があるかもしれません。その際には、どこかわからないことや不安に思っていることがないか、尋ねるようにしましょう。指示を出した後に、この数秒間の手間をかけるだけで、本人の不安が大きくならずに早期に解決する場合もありますので、時間を惜しまず、ていねいに対応することが望まれます。 ●できているところを伝える(褒める) 精神障害者の場合、自信が持てない、不安が強いといった人が多いのですが、特に就職したてのころは、仕事にも職場環境にも慣れていないため、不安感が一層強まっています。このような人に対しては、できていることを見つけ、本人に伝えることが重要です。自分のことをきちんと認めてくれる人がいると、やる気や自信につながりますし、よりよい人間関係を構築する基礎になります。 ●ミスをしたら解決策を一緒に考える  (頭ごなしの叱責はNG) ミスをしたときは、頭ごなしに叱責しても効果はありません。「やっぱり自分はだめなんだ」と自信をなくしたり、叱責した人の指導を安心して受けることができなくなる場合もあります。ミスに対しては、その原因を明確にし、「どうすれば同じ失敗を繰り返さないですむか」、具体的な解決策を一緒に考える姿勢が重要です。ミスを極端に気にして萎縮してしまう人もいます。そのような場合には、万一ミスをしても、最終的な責任は上司がとることを明確に伝えることで、安心して仕事をしてもらっているという企業もあります。 適切な指導を行うための条件 上述したような指導を行うためには、仕事を教える人が指導しやすい環境を整えておくことが重要です。 ●仕事内容を明確にする 指示を「具体的に、誤解の余地なく、明確に」伝えるためには、だれがやっても基本的に同じ手順で作業遂行できるようにしておくことが必要です。作業を標準化することで、どのように仕事をすればよいか迷うことが少なくなり、作業遂行に伴う不安も軽減します。標準化した作業を、手順書や工程表などにまとめておくことで、より早い作業の習得が期待できます。 また、どこに何があるか明確にしておくことで、作業に伴うストレスを軽減することができます。パソコンを使う作業でも、さまざまな文書ファイルが、どのフォルダに入っているかわかりにくいといったことが、ストレスになる場合もあるので、注意しましょう。 ●指導する人をバックアップする スムーズに仕事を覚えたり、環境に慣れるのにあまり時間がかからない人もいますが、その一方で、仕事や環境に慣れるのに時間のかかる人もいます。指導者の予想や期待通りにならない場合もあり、精神障害のある社員を指導する人には、急いで結果を求めず、心に余裕を持って、根気強く指導する姿勢が求められます。 もっとも、指導者が自分の仕事を持ちながら指導する場合は、指導者自身がストレスを抱え込みがちになります。現場の指導者の悩みを所属長などがきちんと聞く体制を整えることが望まれます。また、上司や企業全体が障害者を長い目で育てる視点を明確に持っていると、指導者は心に余裕を持って指導しやすくなります。人事担当者や企業のトップは、現場に対し、障害者雇用の大切さについてメッセージを発することが望まれます。 「頑張れ」というのは禁句だと聞いたことがありますが、「頑張れ」といってはいけないのでしょうか? 「頑張れ」という励ましの言葉自体は、決して悪い言葉ではありません。例えば、本人ができたことを見つけ、「大変よくできました。頑張りましたね」と努力を認め、「ここを注意するともっとよくなるので頑張りましょう」というのは、本人の励みにもなります。 ただし、「頑張れ」という言葉が、「ちゃんと仕事をしてないじゃないか、もっと頑張って仕事をしろ」といった意味で受けとめられたり、「頑張れといわれても、具体的にどのように仕事をすれば頑張ったことになるのか、わからない」と本人が悩んだりするようでは、問題です。どのような声かけをすれば効果的な励ましの言葉となるかは、そのときどきの状況で適切に使い分けることが望まれますが、このような配慮は、精神障害のある社員に対してだけ求められる問題ではないでしょう。 はじめての精神障害者雇用 E 相談しやすい職場作り 福島障害者職業センター 所長  相澤欽一 障害者職業総合センターの調査によると、精神障害者雇用をしている企業の9割弱が「本人が上司や同僚に相談しやすい雰囲気作りをする」と答えています(文献1)。相談しやすい雰囲気がつくれれば、職場への帰属意識が高まるとともに、本人が一人で問題を抱え込み、それが職場不適応につながるといったことも避けられます。そのためには、常日頃のコミュニケーションのとり方が重要です。先月号に記載した「仕事の教え方」を実践するだけでも、相談しやすい職場になりますが、今月号ではそれ以外のコミュニケーション上の工夫や、周囲の社員の協力を引き出すための工夫などについて述べます。 コミュニケーション上の工夫や配慮 〈定期的に相談時間を設定する〉 何かあったらいつでも相談するようにといわれても、なかなか自分から相談できない人もいます。このような人に対しては、定期的に相談時間を設定し、本人が従事した仕事について振り返るなかで、本人が感じている不安や疑問、体調の変化などを早期に把握するという方法をとれば、本人があれこれ自分一人で悩むことを防いだり、コミュニケーションを深めることができます。 相談前に、図の様式にあらかじめ本人に記入してもらい、効果的に相談を行っている企業もあります。 また、採用後、仕事に慣れて大きな問題が発生しなくなると、仕事ぶりに関する評価のフィードバックが少なくなりがちです。このような状況が長期間続くと、仕事に対する目標がはっきりしなくなり、意欲が低下して、本人が持っている能力を十分に発揮できなくなることもあります。このようなことを防ぎ、目的意識をもって仕事に取り組めるように、本人と定期的に話し合い、仕事について振り返り、企業側の評価をフィードバックし、本人と一緒に新たな目標を設定していくことが望まれます。 〈リラックスした場面でのコミュニケーション〉 休憩室や喫煙所などのリラックスした場面で、職場の上下関係をあまり意識させずに、趣味などの雑談をすることで、コミュニケーションを深めるよう工夫している企業もあります。 また、昼休み時間に、ほかの社員と一緒に食事をしながら雑談することが、職場での円滑な人間関係のベースになっている人もいるようです。 ただし、人によっては、職場では仕事以外の話をしたくないとか、休憩時間は一人でゆっくりしたいという人もいますので、休憩時間の過ごし方についても、本人の意向を確認したり、必要に応じて支援機関とも相談するなど、本人に合わせた対応が望まれます。 〈職場全体の雰囲気を和やかにする〉 本人とのコミュニケーションにいくら気を遣っても、職場全体の雰囲気がよくないと本人の職場定着に悪影響を与えます。 例えば、休憩時間の雑談中に、その場にいない人の悪口などが出ると、自分のことをいわれていなくても、嫌な気持ちになって精神的にストレスを感じる人もいますが、精神障害のある社員のなかにも、そういったことに大変敏感な人がいますので、職場全体がなるべく和やかな雰囲気になるよう、所属長などが気を配ることが大切です。 周囲の協力や配慮を得る 相談しやすい職場にしていくためには、精神障害のある社員と一緒に働く周囲の人の協力や配慮も欠かせません。この際、障害のあることを周囲の社員に伝えないと、協力や配慮を得ることができないだけでなく、通院や残業などの配慮が必要な場合、「なぜあの人は残業しないのか」とか「定期的に休むのはなぜか」といった疑問が出てくることもあります。なお、効果的な協力や配慮を引き出すことが目的ですので、精神障害や疾患名を伝えるより、会社としてこのような配慮を提供するので、周囲の社員にはこのような協力・対応をしてほしいということを伝えるのが大切です。伝える際には、次のようなことに留意しましょう。 〈紹介の仕方を本人と相談する〉 企業として配慮したいと考えていること(例えば、残業の制限、通院日の確保、仕事内容の設定の仕方や指示の出し方など)を周囲の社員に伝えないと、周囲の配慮が得られないことを、本人にも十分説明し納得してもらわなければいけません。ただし、精神障害のあることを前提にして就職した人でも、周囲の社員に障害のことを伝えることに抵抗があったり、どのような説明をされるのか不安に思う人もいます。説明内容を企業側が一方的に決めるのではなく、本人の意向を確認しながら、説明の仕方を決めることが大切です。精神障害のある社員が支援機関を利用していれば、その支援機関とも相談するとよいでしょう。 〈紹介の仕方の具体例〉 どのような場面で、どのような説明を行うかは、本人の意向や職場の状況によりさまざま考えられますが、例えば、仕事を開始するときに、本人が簡単な自己紹介をした後、所属長から配慮事項(精神科に通院しており毎月○回休暇を取得してもらう。勤務時間は○時〜○時で残業はさせない。指示は主に○○さんから出してもらうようにする。仕事などで困ったことがないか定期的に相談を行う。会社としては焦らずにじっくり仕事を覚えてもらおうと思っているので、温かく長い目で見てほしい、など)を説明するといったことが考えられます。本人が自己紹介する前に、まず先輩社員の方から名前だけでなく自分の特徴なども織り交ぜて自己紹介し、本人が話しやすい雰囲気を作っているという企業もあります。 〈精神障害者雇用に関する情報を提供する〉 精神障害者雇用に初めて取り組む場合、精神障害のある人と一緒に働くことになる社員がいろいろ不安を持つこともあります。これらの不安は、精神障害のある人と実際に働くなかで解消していくことが多いのですが、事前に精神障害者雇用に関する基礎的な情報を提供することで、不安を緩和することもできます。地域障害者職業センターなどの支援機関を活用して、職員研修などを実施する方法もあります。このような研修会をするときは、事前に従業員の疑問や不安を把握し、それらに沿って情報提供を行うと効果的です。 【文献】 1 障害者職業総合センター『精神障害者の雇用管理のあり方に関する調査研究、調査研究報告書 bP09』2012年 2 障害者職業総合センター『精神障害者雇用管理ガイドブック』2012年 図 業務の振返り用紙 質問項目 体調はいかがですか? 疲れ具合はいかがですか? 目標を意識できましたか? 仕事に集中できましたか? 他社員とのコミュニケーションは? 業務・その他の困り事は? 質問項目以外で話したいことは? ○で囲んでください よ い・まあまあよい・普 通・あまりよくない・悪 い すごく疲れた・ほどよい疲れ・疲れていない できた・だいぶできた・普 通・あまりできなかった・取り組めなかった できた・だいぶできた・普 通・あまりできなかった・できなかった できた・だいぶできた・普 通・あまりできなかった・できなかった あった・なかった 具体的な状況 出典:大東コーポレート株式会社の様式を一部変更して引用(文献2) はじめての精神障害者雇用 F 健康管理と環境の変化への対応 福島障害者職業センター 所長  相澤欽一 疾患と障害が併存する精神障害者の場合、健康管理面に関する配慮は欠かせません。また、長期的な職場定着を考えると、健康管理面の配慮とともに、人事異動などによる職場の人間関係の変化などにも留意が必要です。 健康管理面について 〈通院の確保〉 本人が通院している医療機関が夜間や休日に診療していない場合、勤務を休んで通院する必要があります。また、夜間や休日に診療していても、本人の疲労度などを考慮し、勤務を休んで通院することが望ましいときもあります。勤務を休んで通院するときは、有給休暇を利用して通院する場合が多いようですが、時間休をとれるようにしたり、通院時間を勤務扱いにする制度を設けている企業もあります。 〈本人の様子に気をつけ、早めに体調の変化を把握する〉 体調に波のある人も多いので、出勤してきたときに、「調子はどうか」と一声かけるなど、本人の様子に気をつけましょう。普段と違った様子がうかがわれるときは、体調や疲れ具合、睡眠の状況などを確認します。 〈体調不良で休みを訴えてきたときの対応〉 当機構の障害者職業総合センターの調査では、精神障害者を雇用している企業の9割以上が、「不調時には、職務を軽減したり、一時的に休養をとらせるなどの対応をする」と答えており、体調不良のときは何らかの対応を行っていることがわかります。 体調不良のときには、休ませるという対応以外に、勤務時間をしばらく短縮するなど緩和勤務の選択肢を用意している企業もあります。また、体調を崩したらほかの人が代わって仕事ができるように社員教育するなど、体制を整えている企業もあります。 筆者が、精神障害のある社員を対象としたインタビュー調査をしたときに、「調子の悪いときは無理をしなくてよいといわれていますが、そのことで気持ちにゆとりが生まれ、体調を崩さず、かえって休まないで出勤できています」という主旨の話をする人が複数いました。体調不良のときの対応が、安心につながっているようです。 一方、「体調不良を訴えたときは、基本的に無理はさせないが、人によっては異なる対応をする場合もある」という企業もあります。例えば、ちょっとでも不調を訴えると、周囲から無理しないで休むようにいわれ続けてきて、就職してもすぐに休もうとする傾向のある人の場合です。安易に欠勤を認めると、欠勤したことでさらに出勤しにくくなる悪循環に陥ってしまうことが多いため、このような人に対しては、「体調不良で欠勤したい」と連絡してきても、本人の話を十分に聞いたうえで、大丈夫そうであれば、まずは出勤するよう促すそうです。 このような人はそれほど多くはないと思いますが、体調不良を訴えてきたときの対応も、一人ひとりの状況を十分に把握し、個別の対応を求められることがわかります。体調不良のときの特徴や、そのときの望ましい対応方法などについても、支援機関と十分に連携をとって対応することが望まれます。 〈産業保健スタッフの活用〉 在職者が心の健康問題で休職したときに、産業医や保健師などの産業保健スタッフがさまざまな役割を担っている企業でも、精神障害者の新規雇用では、産業保健スタッフの関わりが乏しい場合もあるようです。企業の中の数少ない医療保健の専門家ですので、精神障害のある社員の健康管理や医療機関との連携については、産業保健スタッフの有効活用が望まれます。 環境変化への対応 〈指導者や上司の異動に伴う対応〉 指導者や上司が異動する際には、引継ぎをきちんと行い、担当者が変わったとたんに指導方針も変わるといったことがないように、注意する必要があります。担当者が変わる際に、前任者と後任者が一緒に本人と相談し、引継ぎなども十分行っていることを説明するとともに、後任者と本人の関係づくりが円滑に行われるよう配慮している企業もあります。 特定の指導者や上司との関係が強く、それ以外の人との人間関係が希薄な場合、その人が異動するだけで、本人が不安定になることがあります。そのため、特定の指導者だけでなく、職場内のいろいろな人とある程度の関係性を構築できるようにしておくことも重要です。 また、慣れた人が変わるのは、職場の都合で避けられない場合もあります。環境の変化をピンチとしてとらえるだけでなく、さまざまな人と仕事をすることにより、本人が職業人として成長していくチャンスでもあるという視点を持つことも、必要でしょう。 〈日常環境の変化が職業生活に影響を及ぼす場合〉 生活面の問題から仕事に支障をきたしたり、生活環境の変化が職業生活にも影響する人がいます。企業によっては家族と相談するなどして、生活面への課題に対応するところもありますが、日常生活や家庭の問題には、企業は直接入り込まず、支援機関の方で対応してもらうのが一般的でしょう。問題が発生したときに、生活支援の対応をしてもらえるところがないといった状況は困りますので、生活面の支援をしてくれる機関を把握しておくと安心です。 〈長期的な支援機関との連携〉 障害者職業センターなどの支援機関に定期的に職場に来てもらい、職場での対応方法について助言をもらったり、本人の相談に乗ってもらう企業もあります。 また、ハローワークや障害者就業・生活支援センター、保健所、福祉施設、医療機関など、本人を支援している人に集まってもらい、本人も参加してのケア会議を開催している企業もあります。このケア会議は、何か課題があったら開催するほかに、何もなくても支援者の異動などに併せて年1回は開催するようにし、何かあったら関係者が連携して対応しているそうです。 このような企業と支援機関との継続的な支援をあまり必要としない人もいますが、特に、精神障害のある社員を多数雇用している企業の場合には、さまざまなタイプの人がいますので、支援機関との連携体制を構築しておくことが望まれます。 主治医から情報収集するときの工夫例 主治医から情報収集する際に、ある企業では、次のような工夫をしています。 @主治医には守秘義務があることを念頭におき、情報収集に際し本人の同意を得ておく。 A本人の了承を得たうえで、必要に応じて、診察に同行して情報収集する。 B診察同行の際は、事前に本人から主治医にその旨を伝えてもらい、ある程度、面接時間が確保できる日時で診察の予約をする。 C企業としては本人の職場定着を願っており、本人のためにどのような対応が望ましいのかを知りたいなど、本人を辞めさせる材料を把握するために情報収集したいのではないことを、明確に主治医に伝える。 D主治医が数週間に1回、数分から10数分程度の面接しかできないのに対し、企業では仕事ぶりや職場での人間関係を通じて本人の状況を把握しているので、職場での普段の様子や、調子を崩してからの状況などをわかりやすく報告し、主治医から的確な助言をもらえるようにする。 はじめての精神障害者雇用 G(最終回) 職場のメンタルヘルスと 精神障害者の雇用管理 福島障害者職業センター 所長  相澤欽一 精神障害者の雇用管理 これまで7回にわたり、新規に採用した精神障害者の雇用管理について述べてきましたが、例えば、本人の話をよく聞く、悩みごとには迅速に対応する、叱責ではなく有用な助言を行う、成功体験を積ませ達成感を持たせる、職場の人間関係を和やかにするといったようなことは、障害のない社員にとっても有益だと感じる方も多いでしょう。 疾患や障害状況に合わせて、通院日や調子の悪いときに休みを与えるといった対応は、健康面で配慮を要する社員にも必要ですし、短時間労働のような本人の状況に合わせた労働時間の設定は、子育て中の社員などにも求められるでしょう。仕事を標準化し必要に応じてマニュアルを整備する、根気よくわかりやすく教えるといったことは、仕事に習熟していない新入社員などにも求められる対応です。このように、精神障害者の雇用管理の基本的な対応は、多くの社員にも共通して求められる対応といえます。 さて最終回では、若干視点を変えて障害のない社員も含めた職場のメンタルヘルスの側面から、精神障害者の雇用管理について考えてみたいと思います。 職場のメンタルヘルス 過剰な業務量、長時間労働、能率の追求、職場環境の急激な変化、複雑な人間関係など、職場のストレスが増大するなか、社員の休職や自殺など、企業はさまざまな問題に直面し、メンタルヘルスの重要性が指摘されるようになりました。 厚生労働省では、2006(平成18)年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定し、セルフケア(社員が自らのストレスに気づき対処する)、ラインケア(管理監督者の対応)、産業保健スタッフなどによるケア(産業医や保健師、人事労務担当者などが職場環境の改善や管理監督者への助言、労働者の相談に応じる)、職場外の専門機関のケア、という4つのケアを継続的・計画的に行うことの重要性を指摘しています。 このうち、ラインケアでは、管理監督者に対し、人間関係などを含めた職場環境の把握と改善、メンタルヘルス不調者の発見と対処などを求めています。 企業のメンタルヘルスを推進する担当者向けのテキスト(文献1)では、メンタルヘルス不調者の発見と対処について、日頃から部下をよく見て→いつもと違う様子があれば→声をかけ→よく話を聞き(批判はしない・結論は急がない)→必要に応じて社内の担当者や社外の専門家への相談・受診を促すこと、を指摘しています。 さらに、このテキストでは、休職後に復職する者を支援する際の管理監督者の心得を示しています。それによると、「復職者は、『職場ではどう思われているだろうか』(中略)など、さまざまな心配をしながら出社しています。そうした復職者の気持ちを受け止めることを、管理監督者には望みたいのです」としたうえで、困ったことがないか、こまめに声かけと確認を行う、心理状態には波があるので、良好な状態・低下した状態・平均的な状態を把握し、産業保健スタッフなどと相談しながら回復状況を理解する、ほかの社員に過度の負担がかからないよう注意し、復職者への接し方や配慮すべき点をあらかじめ伝える、うまくいかないことも多いので自分だけで背負い込まず、産業保健スタッフや人事労務管理スタッフと連携する、などに留意するよう指摘しています。そして、「『上司は自分をわかってくれている』と感じることができれば、復職者の職場での緊張は大幅に軽減されます」としています。 ここに示されたようなラインケアの対応は、新規雇用した精神障害者の雇用管理にも活かせることがあると感じる方も多いでしょう。 同様のことは、ほかのケアについても言えます。 セルフケアについては、新規雇用された精神障害者でも、自分自身の疾患や障害を理解し、健康を維持するために睡眠や食事に気をつける、ストレッチや呼吸法などでリラックスする、職場以外の楽しみを見つけるなどのストレス対処が望まれます。産業保健スタッフのケアは、2月号で、精神障害者の健康管理においても産業保健スタッフの活用が望まれることを指摘したように、新規雇用した精神障害者の雇用管理にとっても、一定の役割を担うことが期待されます。職場外の専門機関のケアも、精神障害者の雇用管理では個別対応が必要であり、そのためには支援機関の活用が重要になることを、この連載中に何度も指摘してきました。 このように、今後は、障害者雇用の分野と産業精神保健や労働安全衛生分野の連携が、これまで以上に注目されるかもしれません。 職場環境の重要性 職場のメンタルヘルス対策では、一次予防、二次予防、三次予防の視点で考える必要があります。心の健康問題で休職した社員の職場復帰支援は三次予防、メンタルヘルス不調になった者が長期休職にならないような早期発見と適切な対処は二次予防、メンタル不調の未然防止は一次予防に位置づけられます。 企業にとっても、社員にとっても、できれば三次予防が必要になる前に、一次予防や二次予防の段階でとどまることが望まれます。特に、メンタル不調を未然に防止する一次予防の強化は重要です。 この一次予防の重要な柱としては、仕事の進め方や人間関係までを含む、広い意味での「職場環境の改善」があげられます。職場におけるストレスの原因を軽減し、メンタルヘルス不調の発生リスクを低減するための職場環境の改善の取組みは、ラインケア、産業保健スタッフなどのケア、そして経営者も含めた全社的な対応が必要でしょう。 仕事量や責任が過重でない、仕事のやり方やペースに意見をいえる、仕事上の指示や目標が明確である、いじめや対人葛藤がない、上司や同僚のサポートが得られる、といった職場と、そうでない職場では、社員のメンタルヘルスの状態が大きく異なるのは容易に推測されます。 もちろん、精神疾患はさまざまな原因により発症しますので、どのような職場であっても、社員が精神疾患を発症したり、それにより休職することがあるかもしれません。 しかし、上記のような働きやすい職場の方が、休職した社員の復職もスムーズに行われる可能性が高いでしょう。さらに、このような職場の方が、精神障害のある社員の就業継続も期待できます。 表に示したような雰囲気のなかで、同じ働く仲間として受け入れてくれる職場であれば、新規雇用された精神障害のある社員も安心して働くことができるでしょう。 企業は厳しい競争にさらされており、そのような職場づくりの余裕はないという見方もあるかもしれません。しかし、職場のストレスにより社員が心身の不調に陥れば、企業の負担も増大します。職場のメンタルヘルスと精神障害者の雇用管理の両面から、だれでも無理なく働ける職場づくりが求められているといえます。 【文献】 1 『事業所内メンタルヘルス推進担当者テキスト』 中央労働災害防止協会、2010年 2 大野裕監修『職場のメンタルヘルス』東京法規出版、2005年 快適な職場づくりのためのチェックポイント □あいさつが交わされている □気軽に話せる雰囲気がある □休憩時間には笑い声が聞こえるときもある □意見を率直に言える雰囲気がある □自分のミスを率直に認める雰囲気がある □多忙なときや困難な事態が生じたときはみんなで協力し合える □職場の目標と労働者の役割を全員が理解している 文献2より改変して 一部抜粋 ジョブコーチ 1.ジョブコーチ支援の   基本的な考え方 1986(昭和61)年、米国でリハビリテーション法が改正され、「援助付き雇用」が制度化されたことにより、日本の職業リハビリテーションでも、就労支援の考え方が大きく変わるきっかけとなりました。 それまでは、就職に必要となる諸能力について、職業訓練やさまざまな支援を通じて一定水準に到達させ、その後、就職につなげるという考え方が主流でした。それに対して「援助付き雇用」は、訓練してから就職を目指すのではなく、まず企業を紹介して就職した後に、その職場で求められる作業能力や対人対応力を引き上げるとともに、能力を発揮しやすいように職場環境(物理的環境、人的環境、要求水準など)を調整するという考え方です。ジョブコーチ支援は、この「援助付き雇用」の考え方をもとに生まれたものです。 現行のジョブコーチ支援は、ジョブコーチが職場に出向き、本人・事業所などに直接、間接的に支援を行います。ジョブコーチ支援の目的は、障害のある人が自分の能力に応じた役割と責任をもって働けるようになるとともに、企業が障害のある人を職場の一員として自然に受け入れ、無理なくサポートできることを目指しています。こうした障害のある人を受け入れた企業内の従業員(上司、同僚)から障害のある人への種々のサポートを、ナチュラルサポートといいます。 2.ジョブコーチに関する制度 ? ジョブコーチの種類 現在、国のジョブコーチ支援制度は3種類あります。地域障害者職業センターの職員である配置型ジョブコーチ、職場適応援助者(ジョブコーチ)助成金制度に基づく第1号ジョブコーチと第2号ジョブコーチです。 職場適応援助者助成金制度とは、ジョブコーチ支援事業を実施する社会福祉法人などや企業に対し、一定の要件を満たしている場合にその費用の一部を助成するものです。社会福祉法人などの職員であるジョブコーチを第1号ジョブコーチといい、企業の従業員であるジョブコーチを第2号ジョブコーチといいます。なお、支援の利用に経費はかかりません。 こうした国のジョブコーチ制度以外にも、地方自治体でジョブコーチに類似した事業が展開されています(事業内容の詳細などはそれぞれの自治体で異なります)。 ? ジョブコーチの研修 (1)の職場適応援助者助成金制度を利用してジョブコーチの活動を行う際は、当機構が実施しているジョブコーチ養成研修か、厚生労働大臣が定める研修を行う民間の研修機関の研修を受講する必要があります。 なお、職場適応援助者助成金制度は活用せず、ジョブコーチの活動に必要な技能・知識などの習得だけを希望される場合は、民間の研修を受講することになります。 ? ジョブコーチ支援のポイント ジョブコーチ支援は、障害特性を考慮し、その人が仕事を遂行し、職場の環境に適応していくための支援計画に基づいて実施するものです。 ジョブコーチ支援のポイントは次のとおりです。 ●雇用の前後を問わず、必要なタイミングで支援を行います(就職時、配置転換や人事異動といった職場環境の変化などにより、職場適応上の問題が生じたときなど)。 ●障害のある人が職場に適応できるように、ジョブコーチが直接的・間接的な支援を行います。 ●障害のある人自身に対する支援だけではなく、事業主や職場の上司・同僚などに対しても、障害者の職場適応に必要な助言を行い、また必要に応じて職務や職場環境の改善を提案します。 ●事業所内の支援体制を整備し、障害者の職場定着を図ることが目的です。支援の主体をジョブコーチから事業所担当者に徐々に移行していきます。 ? 支援の対象となる障害者 ジョブコーチ支援の対象となる人の、障害状況や程度などに制限はありません。地域障害者職業センターの対象者割合(2012年度実績)では、知的障害者が約44%、精神障害者が約24%、発達障害者が約17%、身体障害者が約6%となっており、近年は精神障害者、発達障害者の対象者が増加しています。 3.ジョブコーチ支援の実際 ? 原因をふまえて対策を検討 事業所で不適応状態になってしまう原因はさまざまですが、ジョブコーチ支援をより効果的に実施するために、障害のある人の状況把握のみならず、従事する作業とのマッチングや上司・同僚との関わり状況(作業指示の出し方、仕上がり基準の設定、報告のタイミングなど)も把握・分析しています。これによって課題や問題とされている事項の原因が明確になるとともに、対応策としてスケジュール表や手順書、セルフチェックリストなど、本人が自律的に仕事を進めていくうえで手がかりとなる支援ツールの作成にもつながっていきます。 また、支援ツールを事業所全体で共有することで、作業指示の出し方や確認ポイントなどが社員間で統一され、本人の混乱や戸惑いを防止する点でも効果があります。 ? 対処方法を実際の職場で伝達 支援対象者の障害状況や作業指示の配慮事項などは、社員向けにレクチャーなどを行う方法もありますが、一定の知識はあっても、具体的な対応にあたっては戸惑うこともあります。ジョブコーチ支援では、ジョブコーチが本人と関わっている様子を周囲の社員に見てもらい、社員の反応や関心などの様子を見はからいながら、本人の障害特性やそれをふまえた対応方法のポイントを、企業に合わせて伝えるように心がけます。これは、ナチュラルサポート体制を円滑に築いていくうえでも大切なプロセスであり、ジョブコーチ支援の効果にも大きく作用するものといえます。 ? 不安やストレスに対応 作業の正確な遂行を支援する目的だけではなく、不安やストレスを抱えやすい精神障害や発達障害のある人に対して、相談を中心として、職場内でのコミュニケーションに関する支援、業務内容や職場環境の調整などを通じて、不安やストレスの軽減などの支援を行います。 リワーク支援 1.リワーク支援とは うつ病などで休職中の精神障害のある方の職場復帰のための、休職者と事業主(事業所担当者)を対象とした支援をいいます(リワークとは「復職」〔Return to Work〕を意味する造語です)。職場復帰支援には、医療機関の実施するものもありますが、ここでは、当機構の地域障害者職業センター(以下「センター」)が実施する内容を紹介します。 2.支援を受けるには リワーク支援を受けるためには、次のことが必要です。 ? 障害のある方 休職中の精神障害者で、次のすべてに該当し、センターが必要と判断した方 @ご本人が職場復帰を希望し、復帰に向けたセンターの支援を受けることに同意している A主治医が職場復帰に向けた活動に同意している B事業主による職場復帰の取組みを見込める ? ?に該当する精神障害者の職場復帰に、「センターの支援が必要」と認められる事業主 3.支援概要 ? コーディネート支援 休職中の精神障害者、主治医、事業主の三者の意向を確認し、職場復帰に向けた活動のすすめ方や目標について、合意形成を図ります。 ? リワーク支援 支援計画に基づき、リワーク支援を開始します。センターで実施している作業課題やグループミーティング、個別相談などのプログラムを通じて、生活リズムの立て直し、集中力・持続力の向上、ストレスへの対処方法、復職後の新たなキャリアプランの再構築等、職場復帰に必要な職務や環境に対する対応力の向上に取り組みます。事業所には、職場復帰の際の仕事内容や労働条件の設定などの助言・提案を行います。 ? 復職・フォローアップ 復職後もフォローアップを行います。 おおまかな支援の流れは、図のとおりです。 4.Q&A Q 精神障害者保健福祉手帳を持っていません A リワーク支援は手帳取得の有無にかかわらず利用可能ですが、主治医からの診断書などにより、うつ病などの精神疾患を有していること等を確認させていただきます Q 支援はすぐに受けられますか A まず職場復帰に向けたコーディネートを実施したうえで、今後のすすめ方や支援期間を検討します。また、センターの相談は予約制になりますので、各施設へお問い合わせください Q 公務員は受けられますか A リワーク支援は雇用保険適用事業所の社員の方を対象とするプログラムのため、公務員の方はご利用いただけません Q 毎日通所する自信がないのですが A 活動スケジュールは、個々の状況・ニーズに応じて柔軟かつ段階的に設定しています(たとえば週2日、半日程度の頻度から徐々に日数・時間を増加するパターンや、週3回の活動スケジュールで通所後職場復帰するパターン等) Q 費用はかかりますか A 無料です 職業準備支援 1.職業準備支援とは 地域障害者職業センターで実施されている職業準備支援は、障害のある方が企業などで働くこと、働き続けることを目的とした支援です。就職し、職場に円滑に適応するために、個々の障害者の職業上の課題を把握し、その改善を図る支援を行うとともに、職業に関する知識の習得や、社会生活を営むスキルの向上を図るための支援を行います。 職業準備支援では、一人ひとりの特性や課題などに応じ、対象者ごとに個別に必要な期間を柔軟に設定し、「個別カリキュラム」を立案します。「個別カリキュラム」の目標の具体例としては、@自分に合った働き方を見つける、A求職活動に役立つ知識を身につける、B職場で必要なコミュニケーションの方法を身につける、などです。支援終了後は、ハローワークによる職業紹介、ジョブコーチによる支援(*)などにつなげていきます(図)。 職業準備支援では、「個別カリキュラム」の目標に基づき次のメニューを組み合わせ、支援を行います。なお、支援に費用はかかりません。 2.個別カリキュラムのための   メニュー 〈模擬的場面での作業支援〉 さまざまな作業を通して、基本的な労働習慣を身につけ、自分に合った働き方を見つけます。 〈職業準備講習〉 履歴書の書き方や面接の受け方などの各種講座を受講し、求職活動に役立つ知識を習得します。 〈自立支援カリキュラム〉 精神障害者を対象とした対人技能やグループミーティングなどの講座を受講し、社会生活技能などの向上を目指します。 〈就労支援カリキュラム(**)〉 発達障害者を対象とした対人技能や作業マニュアル作成、問題解決技能、ストレス対処法などの講座を受講し、社会生活技能や作業遂行力の向上を目指します。また、必要に応じて、カリキュラムで学んだ内容を事業所での体験実習で実践します。 ■「職業準備支援」の支援を受けた方の声 ・前の会社でミスが多いといわれて困っていましたが、スタッフと対策を考え、得意なこと、不得意なことを整理しました。それを元に、@セールスポイント、Aコミュニケーション、B会社へのお願いなどの「自己紹介シート」を作成し、これが役立ちました。 ・職場の人間関係から体調を崩しました。スタッフとともに「体調管理シート」を作成して、作業のペースや疲れやすさをチェックし、どんな仕事が自分に合っているか、わかってきました。就職先では不安があったため、ジョブコーチ支援を受けることにしました。 ・これまで自分の適性がわからず、面接でうまくPRできませんでしたが、さまざまな作業を通じて書類やデータの照合、反復作業は苦にならないと気づき、企業面接もスムーズになりました。 ・コミュニケーションに自信がなかったのですが、仕事で必要な質問・報告などを体験的に学び、「恐れ入りますが」などのクッション言葉がスムーズにいえるようになり、質問のタイミングにも自信が持てるようになりました。 ・一つの職場に長続きしなかったのですが、自分が「指示に集中できず同じ質問をする」、「うっかりミスをしてしまう」、「一方的に話す」ことなどに気づき、相手の話を聞くこと、メモの活用、指さし確認などを意識するようになりました。 精神障害者雇用Q&A Q1 「精神障害者の雇用義務化」と大きく報じられたが、(法定)雇用率の算定はどのように変わるのか? A 企業や国・地方公共団体などは、一定割合以上の障害者を雇用するよう義務づけられています。この割合を法定雇用率といい、民間企業は2013(平成25)年4月から2・0%になりました。いまは身体障害者と知的障害者の労働者の数をもとに法定雇用率が算定されていますが、5年後の2018年4月から精神障害者の労働者数も含めて算定される(*)ということになります。 Q2 雇用・就労支援の対象になる精神障害者は? A 「障害者の雇用の促進等に関する法律」の施行規則では、精神障害者について「@精神保健福祉法第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者、A統合失調症、そううつ症(そう病およびうつ病を含む)または、てんかんにかかっている者」であって、いずれも症状が安定し、就労が可能な状態にある者と規定されています。 精神障害者については、精神疾患が改善した後も障害が残り、就労し続けているための特別な援助が必要な人としてとらえることが適当と考えられます。 障害者雇用率制度では、精神障害者保健福祉手帳を所持している人が雇用率算定の対象とされ、短時間労働(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満)の場合には0・5人分として算定されます。 なお、てんかんは国際疾病分類(ICD―10)では「神経系の疾患」の一部とされていますが、厚生労働省では精神障害者として施策の対象としています。 Q3 採用にあたって、職場として準備をしたほうがいいことは? A 職場で日常的にかかわることができ、信頼関係を築くことができる支援担当者を決めておくことです。仕事上のことや職場生活のことを、いつでも相談できる人が身近にいると、安心して仕事ができます。日常を見守る支援担当者が心身の緊張をほぐすように、休み方などの配慮をすることで継続的な就業が可能になります。 もうひとつは、本人を支援する人たち(支援機関の担当者、家族、知人など)と連携することをおすすめします。支援機関には医療・保健機関、地域の社会復帰施設や作業所、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどがあり、担当者を中心に、日ごろから生活面や就業面の支援をしています。 Q4 雇用後も、通院や服薬は必要? A 定期的な通院と服薬の継続は、精神障害者が仕事を続けていくうえで、とても大切なことです。主治医に健康、仕事、対人関係などの状況を常に理解、把握してもらい、問題があるときはいつでも相談できることが重要です。 社会生活中の人でも、薬をやめた人の再発率は服薬を続けている人の2・5倍から3倍に達します。 Q5 採用時に病気のことを従業員に知らせた方がいいか? A 職場での適応をよくするためには、本人の障害特性や指導上の配慮事項などを従業員に理解してもらうことが大切ですが、一方で本人がそのことをどう考えているか、また職場の人間関係がどうかを見極め、個別に考える必要があります。まず本人の気持ちを確認し尊重したうえで判断するのがよいでしょう。 ただ、直属の上司や本人の支援を担当する従業員には、「心の病気をしたために、治療を続けながら働くこと」を前提に、本人の障害特性と対応方法を伝えるとともに、通院や残業の際の取扱いなどを指示します。「なぜあの人は残業しないのか」とか「定期的に休むのはなぜか」といったほかの従業員からの質問に答えられるようにしておくことが大切です。 「ほかの従業員にも障害のことを周知してほしい」と本人や支援機関が希望し、事業主としても職場環境などから考えてその方が望ましいと判断したときは、職場配置の前に予告する形で話しておけばよいでしょう。 Q6 精神障害者に適した仕事とは? A 個別に異なるので、一概にいえませんが、精神障害者の特徴として、@臨機応変に判断することが苦手、A動作が遅く、ぎこちない、B新しい環境に慣れるのに時間がかかる、などがあげられています。例えば、職務の範囲や手順が明確な作業が向いていて、スピードが求められる作業や、対人業務などの精神的に負荷がかかる仕事は苦手と考えられます。しかしさまざまな支援を得て、いろいろな仕事で個々の力を発揮される人も多いので、今後はさらに仕事の可能性は広がると思われます。面接時に仕事への希望や特徴を確認し、配置後に就業状況を見ながら職場内で「適材適所」を検討してみてください。  本人の適性を見るために、当初は比較的簡単な仕事から入り、様子を見ながら本人の希望も尊重しつつ仕事を決めていくことが望まれます。高学歴の人の場合には、単純労働につくことに抵抗を感じることもあるので、その仕事の重要性を伝えるなど、動機づけを高める配慮が大切です。 また、変化への対応を苦手とする人が多いので、仕事を変える際には注意が必要です。特に、より難易度の高い仕事へ変える場合には、本人のストレス状況を見ながら実施する必要があります。また、過大な評価や肩書きのあるポストへの配置は慎重にして、本人の負担にならないようにする配慮が必要です。いずれの場合も時間をかけ、自信を回復するようステップを踏むことが重要です。 Q7 特別に指導する人をつける必要は? A 必ずしも大がかりな制度や組織を作る必要はありません。しかし、一般的に「キーパーソン」(本人の障害や勤務状態などをよく理解しており、気軽に相談や指導ができる人)がいる事業所の方が適応しやすいのも事実です。キーパーソンには、職場の直属の上司(職長、主任)やグループリーダー、中小企業では社長や工場長自身がなる場合が多いですが、先輩や同僚がこの役割を担う場合もあります。職制とは別にカウンセラーをおいている例もありますし、同じ病歴をもつ先輩が後輩を指導して効果を上げているところもあります。 本人が気軽に相談できる、同一の人から指示されるほうが迷いも少なく、効果的と思われます。ただ、相談や指導に当たる人にもさまざまな負担が生じるので、キーパーソン本人に対する職場の理解とバックアップも不可欠です。 なお、5人以上の障害者を雇用する事業所では、障害者職業生活相談員を選任することが法律で定められています。相談員は、職務内容や作業環境、職業生活について障害者から相談を受けたり指導したりすることになっています。職場内の相談や指導だけでは、問題の解決が難しい場合には、ジョブコーチ(職場適応援助者)による支援事業を利用すると、地域障害者職業センターなどからジョブコーチが出向き、本人への支援を行うとともに事業主や従業員に対して必要な助言を行います。 Q8 障害のない従業員との人間関係の維持のために配慮することは? A 障害のない従業員が、障害者本人の障害についての一般的な知識があると、人間関係の維持が楽になるでしょう。「心の健康」といったテーマで、社員教育の一環として勉強してもらうのもよいかもしれません。障害のない従業員が知らない場合は、障害者本人が職場内で孤立しないように気を配る必要があります。しかし、配慮も過ぎればかえって目立ち、障害者本人も気が重くなるかもしれません。上司が折にふれて声をかける程度で十分なようです。 Q9 何か困ったときは、どこに相談すればいいか? A 採用するとき、それまで本人の生活を支えてきた支援機関をまず確認しましょう。対処に困ったときは、まずそこに相談できるようにしておくことが大切です。一般的な支援機関として、病気や障害に関することは主治医の所属する医療機関や各都道府県にある精神保健福祉センター、保健所、地域生活支援センターなど、採用や職場不適応など就業に関することは、公共職業安定所、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどがあります。 Q10 精神障害で休職している従業員の職場復帰について、どのような点に注意すればいいか? A 本人のこれまでの経過や現在の状況を把握することが大切です。職場内に限らず、本人の通院している医療機関や支援機関などとの情報交換や連携を早い時期から始めておくといいでしょう。職場復帰にあたっては、本人の希望や職場復帰後どのような仕事をするのかなどが重要です。最初は、本人にとって無理のない勤務条件や職種を設定するほうが、本人だけでなく迎える側もやりやすいと思います。 Q11 精神科に通院していて休みがちな従業員がいる。どのような対応をしたらいいか? A 自分のことを表現したり伝えたりすることが苦手な人が多いので、担当者を決めて話を聴くことが必要です。本人が精一杯頑張っている場合には、励ましはかえって負担を増やしてしまうこともあるのは、精神障害のある従業員に限りません。気分転換や休息を上手にとるのが苦手な人も多く、効果的に休むことへのアドバイスも必要となる場合があります。日常的にはごく普通の対応でいいのですが、職務内容や業務量、勤務時間については調整や配慮が必要な場合もありますので、まずは本人にどうしてほしいか希望を聞いて、必要に応じて産業医や産業保健スタッフ、主治医、支援機関と相談しながら対応していくことができればいいのではないでしょうか。 高齢・障害・求職者雇用支援機構の発行物 01 障害者雇用マニュアルコミック版4 精神障害者と働く 統合失調症のある人の採用から定着、うつ病で休職している職員の職場復帰を取り上げ、精神障害者の雇用管理などについて、コミック形式で紹介。 02 精神障害者雇用管理マニュアル 精神障害者の雇用を検討、あるいは雇用している事業主に、精神障害の主な疾患や特性、支援制度、復職に際しての留意点、先行企業の取組み事例などを解説・紹介。 03 精神障害者のための職場改善好事例集 ―平成21年度障害者雇用職場改善好事例募集の入賞事例から― 平成21年度に精神障害者の新規雇用、または職場復帰をテーマに職場改善好事例を募集、さまざまな改善・工夫を行い入賞した11事業所の取組みをまとめた事例集。 04 理解する心、支えあう職場 〜精神障害者雇用への道〜 精神障害者の新規雇用や雇用の継続に成功している事例、うつ病で休職した従業員を職場復帰させた事例やリワーク支援の取組みを紹介したDVD。 05 精神障害者雇用管理ガイドブック 精神障害者に対する雇用管理上のノウハウなどをまとめた事業主向けのガイドブック。精神障害者雇用に必要な情報をわかりやすく整理。 06 ジョブコミュニケーション・スキルアップセミナー 〜SST研修資料集〜 障害のある社員と障害者を職場で支援する人材の育成を同時に行うことを目的に作成。 07 精神障害者相談窓口ガイドブック 精神障害の障害特性や支援制度を説明した「基礎編」、ハローワークでの窓口相談を進める際の留意点や参考事例などの「相談実務編」で構成。 08 トータルパッケージの活用のために(増補改訂版) 2007年3月の「トータルパッケージの活用のために 〜ワークサンプル幕張版(MWS)とウィスコンシン・カードソーティングテスト(WCST)幕張式を中心として〜」の増補改訂版。 09 幕張ストレス・疲労アセスメントシート MSFASの活用のために 就職、職場適応、復職の各支援段階における幕張ストレス・疲労アセスメントシートの多様な活用可能性を紹介。 10 調査研究報告書 95「精神障害者の雇用促進の ための就業状況等に関する調査研究」 11 調査研究報告書 108「精神障害者の常用雇用 への移行のための支援に関する研究」 12 調査研究報告書 109「精神障害者の雇用管理の あり方に関する調査研究」 お問合せ:雇用開発推進部 TEL 043-297-9513/研究企画部 TEL 043-297-9067 広域障害者職業センター 全国の広範な地域から障害者を受け入れ、職業評価、職業指導、職業訓練などの職業リハビリテーションを実施し、その成果に基づく指導技法などを能力開発施設へ提供しています 国立職業リハビリテーションセンター (中央障害者職業能力開発校) 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター (吉備高原障害者職業能力開発校) 〒359-0042 〒716-1241 埼玉県所沢市並木4-2 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 04-2995-1711 0866-56-9000 地域障害者職業センター 北海道障害者職業センター 旭川支所 青森障害者職業センター 岩手障害者職業センター 宮城障害者職業センター 秋田障害者職業センター 山形障害者職業センター 福島障害者職業センター 茨城障害者職業センター 栃木障害者職業センター 群馬障害者職業センター 埼玉障害者職業センター 千葉障害者職業センター 東京障害者職業センター 多摩支所 神奈川障害者職業センター 新潟障害者職業センター 富山障害者職業センター 石川障害者職業センター 福井障害者職業センター 山梨障害者職業センター 長野障害者職業センター 岐阜障害者職業センター 静岡障害者職業センター 愛知障害者職業センター 豊橋支所 三重障害者職業センター 滋賀障害者職業センター 京都障害者職業センター 大阪障害者職業センター 南大阪支所 兵庫障害者職業センター 奈良障害者職業センター 和歌山障害者職業センター 鳥取障害者職業センター 島根障害者職業センター 岡山障害者職業センター 広島障害者職業センター 山口障害者職業センター 徳島障害者職業センター 香川障害者職業センター 愛媛障害者職業センター 高知障害者職業センター 福岡障害者職業センター 北九州支所 佐賀障害者職業センター 長崎障害者職業センター 熊本障害者職業センター 大分障害者職業センター 宮崎障害者職業センター 鹿児島障害者職業センター 沖縄障害者職業センター 〒001-0024 〒070-0034 〒030-0845 〒020-0133 〒983-0836 〒010-0944 〒990-0021 〒960-8135 〒309-1703 〒320-0865 〒379-2154 〒338-0825 〒261-0001 〒110-0015 〒190-0012 〒252-0315 〒950-0067 〒930-0004 〒920-0856 〒910-0026 〒400-0864 〒380-0935 〒502-0933 〒420-0851 〒453-0015 〒440-0888 〒514-0002 〒525-0027 〒600-8235 〒541-0056 〒591-8025 〒657-0833 〒630-8014 〒640-8323 〒680-0842 〒690-0877 〒732-0052 〒747-0803 〒770-0823 〒700-0821 〒760-0055 〒790-0808 〒781-5102 〒810-0042 〒802-0066 〒840-0851 〒852-8104 〒862-0971 〒874-0905 〒880-0014 〒890-0063 〒900-0006 札幌市北区北二十四条西5-1-1 札幌サンプラザ5階 旭川市4条通8丁目右1号 ツジビル5階 青森市緑2-17-2 盛岡市青山4-12-30 仙台市宮城野区幸町4-6-1 秋田市川尻若葉町4-48 山形市小白川町2-3-68 福島市腰浜町23-28 笠間市鯉淵6528-66 宇都宮市睦町3-8 前橋市天川大島町130-1 さいたま市桜区下大久保136-1 千葉市美浜区幸町1-1-3 台東区東上野4-27-3 上野トーセイビル3階 立川市曙町2-38-5 立川ビジネスセンタービル5階 相模原市南区桜台13-1 新潟市東区大山2-13-1 富山市桜橋通り1-18 北日本桜橋ビル7階 金沢市昭和町16-1 ヴィサージュ1階 福井市光陽2-3-32 甲府市湯田2-17-14 長野市中御所3-2-4 岐阜市日光町6-30 静岡市葵区黒金町59-6 大同生命静岡ビル7階 名古屋市中村区椿町1-16 井門名古屋ビル4階 豊橋市駅前大通り1-27 MUS豊橋ビル6階 津市島崎町327-1 草津市野村2-20-5 京都市下京区西洞院通塩小路下る東油小路町803 大阪市中央区久太郎町2-4-11 クラボウアネッスビル4階 堺市北区長曽根町130-23 堺商工会議所5階 神戸市灘区大内通5-2-2 奈良市四条大路4-2-4 和歌山市太田130-3 鳥取市吉方189 松江市春日町532 岡山市北区中山下1-8-45 NTTクレド岡山ビル17階 広島市東区光町2-15-55 防府市岡村町3-1 徳島市出来島本町1-5 高松市観光通2-5-20 松山市若草町7-2 高知市大津甲770-3 福岡市中央区赤坂1-6-19 ワークプラザ赤坂5階 北九州市小倉北区萩崎町1-27 佐賀市天祐1-8-5 長崎市茂里町3-26 熊本市中央区大江6-1-38 4階 別府市上野口町3088-170 宮崎市鶴島2-14-17 鹿児島市鴨池2-30-10 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎5階 011-747-8231 0166-26-8231 017-774-7123 019-646-4117 022-257-5601 018-864-3608 023-624-2102 024-522-2230 0296-77-7373 028-637-3216 027-290-2540 048-854-3222 043-204-2080 03-6673-3938 042-529-3341 042-745-3131 025-271-0333 076-413-5515 076-225-5011 0776-25-3685 055-232-7069 026-227-9774 058-231-1222 054-652-3322 052-452-3541 0532-56-3861 059-224-4726 077-564-1641 075-341-2666 06-6261-7005 072-258-7137 078-881-6776 0742-34-5335 073-472-3233 0857-22-0260 0852-21-0900 086-235-0830 082-263-7080 0835-21-0520 088-611-8111 087-861-6868 089-921-1213 088-866-2111 092-752-5801 093-941-8521 0952-24-8030 095-844-3431 096-371-8333 0977-25-9035 0985-26-5226 099-257-9240 098-861-1254 -事業主の方へ 障害者の雇用支援に関しては、下記の地域障害者職業センターにお問合せください http://www.jeed.or.jp/location/chiiki/index.html 編集委員 埼玉県立大学教授 株式会社ストローク 代表取締役 国際医療福祉大学 福岡保健医療学部教授 山陽新聞社会事業団専務理事 社会福祉法人南高愛隣会 東京事務所長 元東京経営者協会 障害者雇用アドバイザー ホンダ太陽株式会社 取締役管理本部長 東京学芸大学名誉教授 横河電機株式会社 朝日雅也 金子鮎子 齊場三十四 阪本文雄 武田牧子 西嶋美那子 樋口克己 松矢勝宏 箕輪優子 朝日雅也 金子鮎子 齊場三十四 阪本文雄 武田牧子 西嶋美那子 樋口克己 松矢勝宏 箕輪優子