職場ルポ 就労支援機関と連携し「だれもが働きやすい職場」に ―株式会社日本エー・エム・シー(福井県)― 従業員180人の部品メーカーでは、就労支援機関と連携しながら障がい者雇用を進め、継続的な支援や改善で、だれもが働きやすい職場を目ざしている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 株式会社日本エー・エム・シー 〒910-2222 福井県福井市市波町(いちなみちょう)13-8 TEL 0776-96-4631(代表) FAX 0776-96-4600 Keyword:製造業、知的障害、精神障害、聴覚障害、就労支援機関、ジョブコーチ、定着支援 (左の写真提供:株式会社日本エー・エム・シー) POINT 1 雇用前から支援会議や学習会などを実施し受け入れ体制を準備 2 2カ月ごとの面談を継続し、ていねいな定着支援とキャリアアップを図る 3 「だれもが働きやすい職場づくり」を軸に職場全体の社風を醸成 高圧配管用継手の製造  1963(昭和38)年創業の「株式会社日本エー・エム・シー」(以下、「日本AMC」)は、高圧配管用の金属製継手(つぎて)の専門メーカーとして建設機械、農業用機械、工作機械など多くの製品を提供している。福井県内をはじめタイ、フィリピン、中国など5拠点で毎月約1万種類、300万個を生産し、建設機械向け高圧配管用継手の市場では国内トップシェアを誇る。  日本AMCは2015(平成27)年ごろから障がい者雇用に力を入れ始め、いまでは従業員180人のうち障がいのある従業員が9人(身体障がい2人、知的障がい3人、精神障がい4人)で、「障害者雇用率」は4.77%(2025〈令和7〉年4月15日現在)にのぼるという。日本AMCは2022年3月に「もにす認定」(※)を受けたほか、2024年には「障害者雇用優良事業所」当機構理事長表彰を受賞した。  障がいのある従業員の担当作業は、組立をはじめ梱包、開梱、検査、出荷、清掃など幅広く、必要な配慮やサポートを受けながら戦力として育っている。  総務部を中心とする職場でのサポートや支援機関との連携など、これまでの取組みとともに、現場で活躍する従業員のみなさんを紹介する。 合同就職面接会を機に  日本AMCは2014年、身体障がいのある従業員2人のうちの1人が定年退職したことから翌年の雇用率が0.6%となり、当時の法定雇用率2.0%を下回った。  当時から総務部の部長を務め、現在は取締役専務執行役員も兼任する高橋(たかはし)永(ひさし)さんは、「ちょうどそのころ会社全体としてダイバーシティ経営の推進に動き出していたこともあり、総務部として障がい者雇用にも取り組んでいこうということになりました」と話す。同じく当時から総務部に所属し、いまは総務課長を務める平瀬(ひらせ)布美代(ふみよ)さんとともに障がい者雇用に取り組むことになった。  高橋さんたちはさっそく2014年10月、ハローワーク主催の障がい者向け企業就職面接会に初めて参加した。「予想以上に多くの求職者が参加していて驚きました。17人の方と面接もして、大きな手ごたえも感じました」(高橋さん)  その後、日本AMCが開催した「会社見学会」には就労移行支援事業所や特別支援学校から12人が参加、11月に7人が3日間の就業体験会に参加し、精神障がいのある男性1人が高校新卒として2015年4月に入社した。  このとき日本AMCは、3月から6月にかけ計3回の「支援会議」を開催した。本人と保護者をはじめハローワーク担当者、当機構(JEED)の福井障害者職業センターの障害者職業カウンセラーと職場適応援助者(ジョブコーチ)が一堂に会し、本人の不安を軽減できるよう、現場の支援体制づくりについて意見交換や情報共有を行ったそうだ。  一方、総務部や入社した男性の配属部署の17人を対象に「障がい者雇用学習会」も開いた。福井障害者職業センターから、本人の特性や必要な配慮、ジョブコーチ支援の内容について説明を受け、アドバイスももらった。平瀬さんは「いろいろな面で初めて経験することもあり、専門家の方たちに相談しながら受け入れの準備ができたのは心強かったですね」と当時について話す。  その男性社員は、職場では出荷準備作業などを順調にこなしていたが、事情により7カ月後に退職となった。「残念な結果でしたが、受け入れが失敗したわけではないので、引き続きハローワークなどの紹介を受けながら採用活動を進めていきました」と高橋さん。  同年のうちに男性2人を採用し、最初に入社した従業員と同様に、支援会議や学習会を開催しながら定着支援に力を入れたそうだ。前回同様、ジョブコーチによる支援を活用し、入社3カ月後には「ジョブコーチ支援振り返り会議」として、福井障害者就業・生活支援センターの担当者も加わり、職場改善や本人への支援対応について情報交換を行った。  2人のうち1人は2年目にやむなく退職となったが、もう1人の麻生(あそう)竜馬(りょうま)さん(37歳)は、現在勤続10年目になるという。さっそく、麻生さんが働いている現場を見せてもらった。 部品の組付け作業  麻生さんの配属先である製造部製造2課組立グループは、本社2階のフロアにある。あちこちに部品材料などが入った容器が積み上げられ、従業員はそれぞれ部品の組立作業などに従事している。麻生さんも、組立の工程の一つであるナットやワッシャーの組付け作業をしていた。  麻生さんは、以前の職場で体調を崩し退職後、就労移行支援事業所に通っていたところハローワーク経由で紹介されたそうだ。日本AMCでは、本人の特性を考慮して「作業指示はこまかく分ける」、「図や写真を活用した説明」などの工夫をしながらOJTを重ねた。  麻生さんについて、製造部製造2課課長の今度(こんど)隆宏(たかひろ)さんは、「ほかの従業員と分けへだてなく指導していますが、毎日コミュニケーションをとるようにしています」と話す。本人の特性として、周囲への注意力が散漫になったり、忘れやすくなったりすることがあるため「現場には安全面で守るべきルールがあり、麻生さんには、毎日のようにくり返し確認しています」とのことだ。  また麻生さんは、隣のベテラン男性に話しかけることが好きで、つい話に夢中になってしまうこともある。そこで本人に承諾を取り、2人の間にパーテーションを立てることで、作業の合間だけ世間話ができるようになっているそうだ。  数年前から麻生さんは、組付け作業以外にも、部品入り容器を別フロアから運搬してくる作業も担当するようになった。「やることがたくさんあって、たいへん」という麻生さんだが、一方で「いまはやさしい先輩がいて、上司もよい人だからありがたいです」と明かしてくれた。 2カ月ごとの面談でフィードバック  麻生さんたちが入社以来ずっと続けているのが、2カ月ごとの「障がい者フォロー面談」だ。就業面や生活面についての状況確認と可能な支援について、本人と総務部、配属先の管理職らが一緒に話し合う場となっている。  高橋さんは「日ごろから本人と会話はしていますが、それとは別に面談というあらたまった場で、じっくり話を聞いてもらいたいという気持ちがあるようです。職場では言葉数が少ない従業員でも、面談の終わるころに、急に話し始めることも少なくありません」と話す。  面談を通して本人の状況を把握するなかで「思い切って生活面に立ち入ることもあります」と平瀬さん。あるときは、年末調整で保険料の金額がかなり高いことに気づいた平瀬さんたちが本人に確認してみると、必要のない保険契約をいくつもしていたことが判明した。外部の支援機関とも連携しながら、解約手続きをサポートしたこともあったそうだ。高橋さんが話す。  「本格的な障がい者雇用に取り組むときは、やはり外部の就労支援機関との連携体制づくりが最重要だと実感しています。一人ひとりの特性について多様なアドバイスをもらいながら一緒に職場環境を考えていけば、私たちができることも多いと気づきますね」 社内で品質優秀賞  現場の上司や同僚に見守られつつ、キャリアアップを図っている従業員もいる。営業部出荷課出荷Bグループに所属する水本(みずもと)美咲(みさき)さん(25歳)だ。特別支援学校3年次に先生からすすめられて会社見学に訪れ、夏休みを活用した就業体験を6日間、11月〜12月にも現場実習を9日間経験したという。  水本さんは2018年の入社以来、オーリング装着と呼ばれる出荷準備作業を担当してきた。オーリングとは環状パッキンのことで、ネジなどにはめ込むことで接着部分から液体などが漏れないようにするものだ。  作業デスクに置かれた専用トレーは20カ所に区切られており、水本さんが、一つずつオーリングを入れてから、専用の治具を使ってネジ部品に一つずつはめ込んでいく。営業部出荷課課長の中(なか)重徳(じゅうとく)さんは、「この専用トレーを使うことで、数え間違いによる二重装着・装着漏れや異品装着を防止しています。水本さんにかぎらず、だれもが作業しやすいよう工夫した職場改善の一つです」と説明する。  同じ現場の先輩としてフォロー役をになっている酒田(さかた)真奈美(まなみ)さんは、「心がけているのは、不安のない状態で仕事に取り組んでもらうことです」と話す。「『気になることはいつでも聞いてね』といってありますし、顔や手の動きが見える距離にいるので、動きが止まったり顔色が悪かったりするときは声をかけています」  特に入社から数年の間は体調を崩すこともあり、休憩室に行くよう誘導したり、同僚の女性従業員らで励ましたりしていたそうだ。水本さんは「最初のころは仕事への緊張で、食べても吐いてしまって、すごく痩せてしまったこともありました。だんだん職場に慣れてきて、大丈夫になりました」とふり返る。最近では「安全唱和の声が大きいと褒められたことが、うれしかったです」という。  水本さんの仕事ぶりについて酒田さんは、「とにかく素直でまっすぐな性格で、まじめにていねいに作業してくれます。私がダブルチェックをしていますが、全然ミスがありません。それどころか製品の小さな傷も見つけ出してくれるので、助かっています」と太鼓判を押す。実際に水本さんは2024年、2人の従業員とともに社内で「品質優秀賞」を受賞している。  中さんは、水本さんについて「そろそろ次のステップというか、ほかの業務にもトライしてみないかとすすめているところです」という。そして、いまはピッキング作業をペアでやり始めているそうだ。同時に、現在の6時間勤務のパートタイム契約から正社員を目ざせるよう、週1回の8時間勤務も試している。  「フォロー面談などで、みんなで相談し、彼女の意思を尊重しながら進めています」と平瀬さん。中さんも「これは本人が自立して生活していくためのキャリアアップの一環です。余計なお世話と思われているかもしれませんが、少しずつ背中を押していきたいですね」と親心をのぞかせる。  水本さんも「新しい作業でミスがないか不安になることもありますが、ほかの業務もフルタイム勤務も、挑戦したいと思っています」と笑顔で意欲を語ってくれた。 人と話すことが苦手でも  2017年に入社した沙(いさご)新吾(しんご)さん(56歳)は、前の仕事を辞めてから、初めて療育手帳を取得したという。「なんとなく自覚があったので、きちんと診断してもらいました。その後は障害福祉サービス事業所で清掃やシール貼りの作業などをしていました」  その後、福井障害者就業・生活支援センターの紹介で5日間の就業体験に参加し、「就業振り返り会議」などで必要な配慮についても情報共有してもらったそうだ。平瀬さんによると「人と話すのが苦手と聞いていたので、会話の負担をかけないようスケジュール表を作成し、それに沿って作業できるようにしました」。  沙さんの担当は本社建物内の清掃業務で、日ごろは1人でこなしている。会議室や食堂、廊下など場所も内容も多岐にわたるが、最初は福井障害者職業センターから派遣されたジョブコーチにくり返していねいに教えてもらいながら、作業を覚えることができたそうだ。  5〜10分ごとに細かく区切られた「作業タイムスケジュール表」も年々改善されてきた。簡単な平面図に番号で清掃場所を示したり、使い分けるタオルを色で判別しやすくしたり、備品の補充を総務部に依頼するときは「注文リスト」にチェックを入れて提出する形にした。沙さんは「いまはストレスなく、1人で作業できているので働きやすいです」と話す。平瀬さんによると「職場に慣れてきたのか、最近は注文リストを提出するときも、私たちに声がけをしてくれるようになっています」とのことだ。  一人暮らしの沙さんは「今後は、健康に気をつけながら定年まで働き続けることが目標です」と話してくれた。私生活では、毎日家計簿をつけ、お弁当もつくっているそうだ。 「優秀勤労障害者」を受賞  4人目に紹介するのは、2021年に「優秀勤労障害者」当機構理事長努力賞を受賞した油谷(あぶらだに)宏明(ひろあき)さん(36歳)だ。油谷さんは2007年、農業高校の卒業と同時に入社し、品質保証部で検査業務を担当してきた。聴覚障がいのある油谷さんは、通常の会話はできるため、入社前に「少し聴こえにくいので、迷惑をかけることがあるかもしれない」と伝えていたそうだ。  だが実際に工場内で働き始めてみると、予想以上に、相手の声が聴き取れないことに気づいた。特に機械音で騒がしい現場での細かい指示や、自分に向けられていない会話などは聴き取りにくかったという。「まだ人間関係ができていなかったこともあり、内容を聞き返すことがなかなかできませんでした。その結果、何度かミスをしてしまったこともあります」と明かす。  入社以来10年以上にわたり先輩として指導してきた小林(こばやし)晶子(あきこ)さんが、当時のことをふり返ってくれた。  「最初のころ、『わかりました』といったあとに勘違いしていたことがありました。それで一時期、指示した内容をその場で復唱してもらうことにしました。すると本人も、自分から『もう1回いってください』などと積極的に確認するようになっていったように思います」  その後、職場に慣れるなかで本音もいえるようになり、いまではわからないときもすぐに確認できるようになったそうだ。  油谷さんは5年ほど前、上司にすすめられて国家資格の機械検査技能士2級試験を受け、2回目で合格できた。2年前からは、機械を使っての専門的な検査業務を任されている。「覚えることが増えたので、たいへんなことも多いですけど、キャリアアップという意味でも、自分の身になっていると実感しています」と話す。次は、機械検査技能士1級試験にも挑戦したいという油谷さんは、「ゆくゆくは、職場の上司や同僚から安心して仕事を頼まれるような存在になりたいですね」と語る。小林さんも「本人の努力もあり、すっかり成長して、いまではかなり助けてもらうこともあります。今後も活躍していってほしいです」と笑顔で激励していた。 だれもが働きやすい職場に  日本AMCは2017年から、企業と特別支援学校の連携・協力を推進する福井県の制度「『ともに働く』就労応援ふくい」サポーター企業に登録し、職場見学・就業体験・現場実習の受け入れを行っている。同様に、就労支援機関などからの職場見学・就業体験も続けている。「職場全体で人材不足というわけではありませんが、今後も特別支援学校からの実習生は受け入れますし、採用活動も続けていきます」と高橋さんは語る。  一方で、現場の支援担当者や同僚に過度な負担がかからないよう、フォローが必要な場面も増えている。平瀬さんは、2022年にJEEDの「企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修」を修了し、継続的に「職場適応援助者支援スキル向上研修」も受けているそうだ。「私たちの障がい者雇用についての姿勢は、会社全体のダイバーシティ推進にもつながっているので、ぶれずに取り組むことができていると思います」と平瀬さん。実際に職場では、フィリピンやベトナムなど5カ国の出身者が15人、60〜70代の従業員も20人働いており、コミュニケーションや体力などのハンデを軽減する工夫をしてきた。  こうした会社全体の取組みの軸となっているのが、「『だれでも、いつでも、どこでも』働きやすい、働きがいのある職場づくり」という社長方針だ。  高橋さんは「職場では、子育てや介護、病気療養など、いつだれがサポートを必要になるかわかりませんよね」としたうえで、「障がいの有無に関係なく『働きやすい職場づくり』は基本的に同じです。さまざまなサポートや職場改善の取組みが、だれにとっても働きやすい職場につながりますし、またサポートする側も、一緒に成長できるということを実感しています」と語ってくれた。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社日本エー・エム・シー様のご意向により「障がい」としています ※もにす認定:正式名称は「障害者雇用に関する優良な中小企業主に対する認定制度」で、厚生労働大臣が認定するもの 写真のキャプション 株式会社日本エー・エム・シーは、高圧配管用の金属製継手の製造を手がける 株式会社日本エー・エム・シー取締役専務執行役員で総務部部長の高橋永さん 総務部総務課長の平瀬布美代さん 製造部製造2課課長の今度隆宏さん 麻生さんは、ナットやワッシャーの組付け作業を担当している 製造部製造2課組立グループの麻生竜馬さん 水本さんは、オーリング装着作業を担当している 営業部出荷課出荷Bグループの水本美咲さん オーリングの装着漏れ防止などに専用トレーが活用されている 営業部出荷課で水本さんのフォローにあたる酒田真奈美さん 営業部出荷課課長の中重徳さん 折りたたんだ新聞は、製品を入れるコンテナの下敷きや中敷きとして利用されている 沙さんは、清掃業務のほか「新聞折り」の作業も担当している 総務部総務課の沙新吾さん 品質保証部で油谷さんの指導にあたってきた小林晶子さん 油谷さんは、製品の検査業務を担当している 品質保証部の油谷宏明さん