【表紙】 令和7年7月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第574号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2025/8 No.574 職場ルポ 町の基幹産業を支える工場、一人ひとりが戦力に 住田フーズ株式会社(岩手県) グラビア ものづくりにたずさわれてうれしい! タイム技研高知株式会社(高知県) 編集委員が行く 「感謝される仕事」で働き方の選択肢を広げる 28年目を迎えたスワンの障害者雇用の取組み 株式会社スワン(東京都) 私のひとこと 共生社会のフロントランナー:障害当事者と共に築く、D&I先進企業への道 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 教授 白澤麻弓さん 「徳山動物園の飼育員さんにゾウになっている」 山口県・徳原(とくはら)望(のぞみ)さん 読者アンケートにご協力をお願いします! 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 8月号 【前頁】 心のアート 街 宮本昇汰 (特定非営利活動法人障害者アート支援工房COCOPELLI) 画材:クレヨン、水彩絵の具、ケント紙/サイズ:84cm×60cm  小学生のころから、宇宙人のような人が運転するたくさんの自転車や自動車、消防車などが画面を埋めつくすような絵ばかりを描いてきました。同じ構図の作品は数百枚になるでしょう。作品への愛情は強く1枚でも見失うと気になって、いつまでも探してしまうそうです。そんな昇汰さんがいつもよりも大きな紙に描いたこの作品で画面を埋めつくすのは、乗り物ではなく、藍色に浮かび上がる無数の信号機でした。周囲は、あまり見たことのない画面に作品が変わるのかと色めき立ちましたが、その後はやはり以前の通りの明るい背景の乗り物ばかりの作品を描き続けました。特別支援学校卒業後も同じ作風でしたが、コロナ禍が去るタイミングで長年描いてきた表現から方向転換し、いままで絵に描いていた自動車や飛行機を、折り紙や画用紙で立体的につくることが始まり、いまもずっとそれを続けています。内部までしっかりつくっているのに、何度も何度も大量ののりで重ね貼りし、分厚い紙のかたまりになったような作品も含めて、不思議な飛行機や自動車はいまも増え続けています。いくつつくれば彼が満足するのかはだれもわかりません。 (文:特定非営利活動法人障害者アート支援工房COCOPELLI(ココペリ) 米田(よねだ)昌功(まさのり)) 宮本昇汰(みやもと・しょうた) 1998(平成10)年生まれ 2018年 「OPEN DOOR!ボーダレス・アートセッションin TOYAMA」富山県民会館・美術館 2021(令和3)年 「『障がい者アート』と呼んだ途端に見えなくなるもの展」石川県立美術館広坂別館 2023年 「NOMAMA to GAMAMA〜氷見のアールブリュット展〜」氷見市芸術文化館 2024年 「ART HUG COCOPELLI」北日本新聞社ギャラリー 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2025年8月号 NO.574 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 街 作者:宮本昇汰(特定非営利活動法人障害者アート支援工房COCOPELLI) 私のひとこと 2 共生社会のフロントランナー:障害当事者と共に築く、D&I先進企業への道 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 教授 白澤麻弓さん 職場ルポ 4 町の基幹産業を支える工場、一人ひとりが戦力に 住田フーズ株式会社(岩手県) 文:豊浦美紀/写真:官野貴 クローズアップ 10 障害者雇用率向上へのヒント 最終回 未来の障害者雇用に向けた企業の取組み 〜「IT×精神・発達障害」で存在感を増す企業の事例から〜 JEEDインフォメーション 12 “事例で見る”“動画で見る”『雇用の分野における合理的配慮事例の紹介』/受講者募集!2025(令和7)年新規開催「ステップアップ研修T」のご案内 グラビア 15 ものづくりにたずさわれてうれしい! タイム技研高知株式会社(高知県) 写真/文:官野貴 エッセイ 19 障害のある人の地域生活支援について 第4回 バリアフリー演劇は共生社会の入口 日本社会事業大学社会事業研究所 客員教授 曽根直樹 編集委員が行く 20 「感謝される仕事」で働き方の選択肢を広げる28年目を迎えたスワンの障害者雇用の取組み 株式会社スワン(東京都) 編集委員 大塚由紀子 省庁だより 26 「卓越した技能者の表彰」制度、障害者部門の紹介 厚生労働省 人材開発統括官付 能力評価担当参事官室 研究開発レポート 28 効果的な就労支援に必要な知識・スキル等の具体的内容や習得のための組織的取組み等について 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 障害者雇用の月刊誌「働く広場」がデジタルブックでいつでもお読みいただけます! 表紙絵の説明 「どんな絵を描きたいかと聞かれたとき、園の行事で徳山動物園に出かけて見た象さんと飼育員さんと答えました。象さんと飼育員さんを思い出しながら楽しく描けたので、かっこよい自信作が完成しました。コンクールでの受賞を聞いたときは、手をあげて職員さんとハイタッチしてよろこびました」 (令和6年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 高校生・一般の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-3】 私のひとこと 共生社会のフロントランナー:障害当事者と共に築く、D&I先進企業への道 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 教授 白澤麻弓 はじめに  筆者の所属する筑波技術大学は、聴覚・視覚に障害のある学生を専門的に受け入れている日本で唯一の高等教育機関です。キャンパスは二つに分かれていて、少人数教育のもと、学生の障害特性にあわせた教育が行われています。  このような筑波技術大学で、今年、新たな学部が誕生しました。その名も「共生社会創成学部」といいます。この学部のコンセプトをひとことであらわすと、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)時代の当事者リーダーを育成する」という点に集約されます。障害のある人を取りまく制度や社会意識は、D&Iの実現に向けて着実に変化をみせてきました。しかし、いざ障害当事者が企業に就職し、持てる力を発揮して活躍したいと思っても、まだまだ多くの壁にぶつかってしまう現状があるのではないでしょうか。私たち共生社会創成学部では、こうした課題に対し、障害や社会、情報アクセシビリティに関する知識技術を習得した障害当事者を社会に輩出することで、D&I推進の一つのきっかけになればと願っています。本稿では、こうした私たちの理念について紹介するとともに、障害当事者がD&I推進の主役となり、企業と共に未来を創造していくための道筋について、考えていければと思います。 「見えない壁」を知る強み:障害当事者こそ、D&I推進のキーパーソン  冒頭にも述べた通り、現在の企業や社会には、目には見えにくい「壁」が存在しているように思います。そして、障害のある方々は、日々これに直面しつつも、乗り越える工夫を重ねています。この経験が、ほかの社員では気づきにくい組織の課題発見や多様な人々にとって働きやすい環境をデザインするための「特別なレンズ」となり得るのではないでしょうか。私たちが育成を目ざす「当事者リーダー」とは、まさにこうしたレンズを通して、組織や社会のD&Iを推進していく可能性を秘めた人材になると考えています。  先日、本学の聴覚障害のある学生が、悩みを抱えて相談に来てくれました。彼女はカフェでアルバイトをしていますが、レジ対応に時間がかかり、お客さまやスタッフに迷惑をかけていると感じていたのです。「もっと早く、スムーズに対応ができるようになりたい。でも、どうしたらよいのかわからない」といいます。たしかに、既存の「聞こえる人」を中心に設計されたオペレーションのなかでは、聴覚に障害のある店員さんは困難を抱えがちです。そして、その状況に対して「合理的配慮」を提供しようとしても限界があるでしょう。しかし、これは本当に彼女一人の問題なのでしょうか。  思い詰めていた彼女に、私は一つの問いを投げかけてみました。「もし、あなたがカフェのリーダーだったら、このお店をどんな風にデザインする?」。すると、彼女の表情がみるみる変わり、堰(せき)を切ったように話し始めました。「従業員同士がもっと互いを理解し、だれもが笑顔で働けるような職場にしたい。そのためにも、互いに気軽に相談し合えるような…申し訳なさを感じなくていい職場をつくりたい」、「スタッフ全員の顔写真と名前はもちろん、自己紹介や趣味、ほかのスタッフに知ってほしいことなどをまとめたプロフィールブックをつくって、見られるようにしたらどうかな」、「お客さまが注文する際も、もっとわかりやすい指差し注文の方法があるはず。それを提案したい」。彼女からは、そんなアイデアが次々と溢れ出てきたのです。  このエピソードは、障害のある人が単に「支援を受ける」立場から、「自らが活躍できる環境をデザインする」立場へと視点を転換したとき、いかに創造的で豊かな力が発揮されるかを示唆しているように思えます。彼女が提案したアイデアは、彼女自身を助けるだけでなく、きっとスタッフ全員のコミュニケーションを円滑にし、お客さまにとっても利用しやすいカフェへとつながる可能性を秘めていることでしょう。これこそ「当事者リーダー」が持つ力の一端ではないかと思います。 合理的配慮は「負荷」か? 「戦略的投資」としての可能性  一方、障害者雇用の懸念の一つに、合理的配慮の負荷があります。たしかに、個別の配慮には初期コストや運用の工夫が求められるでしょう。しかし、これを単なる「負荷」ととらえるか、企業の成長をうながす「投資」ととらえるかでその意味合いは大きく変わってきます。  例えば、聴覚に障害のある人が会議に参加する際に情報保障を行うことは、一見、手間や負担増に思えるかもしれません。しかし、会議内容を文字化すれば、議事録作成の効率化や議論の「見える化」につながり、生産性向上も期待できます。情報保障によって当事者の能力が発揮されれば、業務負荷の分散や多様な視点での意思決定も可能です。このように個別の配慮が、組織全体の利益となることは決して少なくないのではないでしょうか。  こうしてみてみると、障害のある人への合理的配慮は、「特定のだれかのためのコスト」という側面のみでなく、新たな組織文化を育み価値創造につなげる「戦略的投資」ととらえ直すことができるでしょう。もちろん、これは理想論であり、きれいごとかもしれません。実際に、すべてがうまくいくわけではないでしょう。しかし、ほんの少し視点を変えることで、これまでみえてこなかった可能性や、組織の強みを発見できるのではないかと感じています。 「当事者リーダー」とともに、企業の未来地図を描くために  これまでに述べてきたように、私たち共生社会創成学部では、企業変革のにない手となる当事者リーダー育成を目ざしています。障害のある社員の独自の視点やアイデアを活かすことは、新たな事業機会の創出や企業文化改善、競争力強化につながる可能性を秘めているのではないかと思います。共生社会のフロントランナーとしての新たな道を切り拓いていくためにも、まずは、障害のある社員の声に耳を傾け、彼らとともに新しい未来をデザインしていくための一歩を踏み出してみませんか。 白澤麻弓 (しらさわまゆみ)  筑波大学卒業後、同大学院博士課程にて博士号(心身障害学)を取得。2004(平成16)年に現在の勤務先である筑波技術大学(当時:筑波技術短期大学)に着任し、現在は同大学障害者高等教育研究支援センター教授。日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局長。2025(令和7)年からは、同学に新設された共生社会創成学部共生社会創成学科長に就任。手話通訳士。おもな著書に『海の向こうに行ったら日本が見えた−米国先進大学に学ぶ聴覚障害学生支援』(デザインエッグ)など。 【P4-9】 職場ルポ 町の基幹産業を支える工場、一人ひとりが戦力に ―住田フーズ株式会社(岩手県)― ブランド鶏肉の生産加工工場では、外国籍やシニアの人など多様な人材とともに障がいのある社員も大事な戦力として働き、地域の基幹産業を支えている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 住田(すみた)フーズ株式会社 〒029-2311 岩手県気仙郡(けせんぐん)住田町(すみたちょう)世田米(せたまい)字(あざ)火石(ひいし)19-6 TEL 0192-46-2466(代) FAX 0192-46-2467 Keyword:知的障害、工場、製造ライン、特別支援学校、障害者雇用優良事業所 POINT 1 地域の特別支援学校や支援機関と連携しながら、採用と定着を図る 2 外国籍の実習生やシニア社員も一緒に支え合う現場づくり 3 本人の自立生活をうながしながら、職場全体で見守る社風も 鶏肉の生産加工  JR盛岡駅から南東に車で2時間ほど走った山あいにある住田町(すみたちょう)。町内を横断する清流・気仙川(けせんがわ)のそばにある「住田(すみた)フーズ株式会社」(以下、「住田フーズ」)は、町の基幹産業の一つである鶏肉の生産加工業の会社だ。銘柄商品「みちのく清流どり」などで知られ、ブロイラーの飼育生産から加工、関連商品の製造販売までを手がけている。  もともと、1971(昭和46)年に当時の住田町農業協同組合とブロイラー生産農家が出資して設立した住田ブロイラー株式会社が、1994(平成6)年に住田フーズへと商号変更、さらに2002年には全農チキンフーズ株式会社の子会社となった。住田町内には、生産加工工場から動物性油脂などを製造するレンダリング工場、鶏ふんを活用した炭化工場やたい肥センターまで整えている。  障がい者雇用については、これまで特に組織立って取り組んできたわけではないが、現在は従業員311人(2025年3月現在)のうち障がいのある従業員は10人(身体障がい4人、知的障がい6人)で、「障害者雇用率」は3.2%(2025年3月31日現在)という。住田フーズではフルタイム勤務であれば全員が正社員で、総合職社員と現業社員に分かれている。障がいのある社員10人のうち1人が総合職社員、9人が現業社員として勤務している。  住田フーズは2020(令和2)年度、「障害者雇用優良事業所」として岩手県知事表彰を受賞した。  毎日3万羽もの鶏肉を扱う生産現場で、ほかの従業員たちと同じように戦力として働くみなさんの様子とともに、これまでの障がい者雇用の経緯を紹介していきたい。 先生の熱意に感銘受け  住田フーズでは、もともと不慮の事故や病気などで身体障がいのある従業員がいたが、知的障がいのある従業員を雇用し始めたのは、25年ほど前だという。  当時のことを知るのは、2025年2月まで管理部長を務め、現在は執行役員で生産部長の吉田(よしだ)順(じゅん)さんだ。  「地元の特別支援学校の先生が、ご自身が受け持つ生徒の職業訓練のお願いに来社されました。そのときの当社役員が、先生の熱意に感銘を受け、職業訓練を受け入れることになりました。結果としてそのまま採用に至ったのが最初だったと思います。最初に採用したその社員は、現在も活躍してくれています」  それがきっかけで、引き続き特別支援学校からの実習生受け入れと採用を進めてきた。吉田さん自身も長年、管理部管理課で障がい者雇用にたずさわってきたなかで「基本的に、特別支援学校から推薦された生徒さんは、本人の希望さえあれば採用してきました」という。  「理由は、特別支援学校で基本的な教育を受けていること、また学習面のみならず集団行動においても柔軟な対応を取ることができる生徒さんの推薦をいただいていたからです。先生方は、入社後も職場を訪問されては卒業生を勇気づけてくださり、とても感謝しています」  その後は、特別支援学校だけでなく、大船渡(おおふなと)市の社会福祉法人大洋会気仙障がい者就業・生活支援センターから紹介された人も同様に実習を経て採用し、「周囲の方々のサポートと連携しながら、微力ですが、社会的責任を果たすべく取り組んでいます」とのことだ。住田フーズは、岩手県が2021年度から実施している障がい者向け職業訓練にも、受け入れ企業として参加している。 上司に学びながら  現在、管理部管理課で人事関連を担当しているのは平野(ひらの)美季(みき)さん。障がいのある人の採用に際しては「工場内では、ベルトコンベアーと機械による流れ作業とともに、解体用のナイフを手に作業する従業員も少なくないので、特に安全面において問題がないかを確かめています」と話す。  ほかにも比較的狭い空間での作業が続く、大きな機械音がする、といった環境も考慮している。「できるかぎり対応策も検討しますが、なかにはどうしても物理的な環境になじめず辞退されるケースもあります」(平野さん)  2022年の入社後、まもなく採用活動にかかわるようになった平野さんは、当時管理部長だった吉田さんに、障がい者雇用についていろいろなアドバイスをもらってきた。  平野さんは、「“住田フーズは障がい者雇用をしているんだよ”といわれて、初めて認識しました」というが、自然に受けとめられたという。「私の母が福祉施設の職員をしていて、日ごろから、さまざまな事情を抱えている人や、障がいのある人たちのことを聞いていました。私も偶然ですが、障がい者雇用にかかわることになり、何かしらサポートができるのではないかと考えていました」  平野さんは、さっそく「障害者職業生活相談員」の資格認定講習を受けたほか、吉田さんと一緒に、県内で同じように障がい者雇用を進めている同業者の話を聞きに行くなどして理解を深めてきた。  「私たちだれもが生きていくなかで、いろいろなことがあると思いますが、せっかくこの住田フーズという会社に来てもらったのですから、長く一緒に働いていけたらなと思っています。そのために私ができることを、できるかぎりやっていきたいですね」と語ってくれた平野さん。ちなみに平野さんは大船渡市から通勤しているが、住田町にある県立高校OGで、平日の退勤後は、かつて所属していたアーチェリー部でコーチとして指導もしているそうだ。 鶏肉の解体ライン  知的障がいのある6人が配属されている製造部解体課は、150人ほどが働いている、工場内の最も大きな部署だ。地元で育てられたブロイラーが1羽ずつ、さまざまな機械やベルトコンベアーを通り、ところどころで手作業も入りながら解体されていく。ここで6人は、解体ラインでの前準備やモモ肉のセッティング、計量・運搬などをそれぞれ担当している。  工場長を務める吉田(よしだ)健(けん)さんに、6人が働く現場で全体として気をつけていることを聞くと「現場は機械だけでなく、解体用のナイフを持った作業者もいるので、その周辺は安全面で特に注意を払っています」と教えてくれた。事故防止のため、最低二人一組の共同作業を徹底している。  「それ以外で、6人について特に考慮していることはありません。障がいのある従業員は20年以上前から少しずつ増えてきたこともあり、受け入れる現場の社員や従業員も理解があるというか、慣れているような気がします」  現場の取り仕切り役として製造部解体課長を務める松田(まつだ)哲也(てつや)さんにも、日ごろ心がけていることを聞いたところ、「日常的なコミュニケーションについては、本人が、言葉を選びながら話していることが多いので、途中でさえぎるようなことをせず、いったんすべて聞いてから、こちらであらためて『それって、こういうこと?』などと一緒に確認しながら、お互いの認識に食い違いがないよう気をつけています」とのことだ。その場で一緒に確認することで、こちらの指示をしっかり理解してくれていることもわかり、ほかのことも指示できるようになるという。 外国籍やシニアの従業員も  解体課では、従事者の3分の1にあたる50人がベトナムやインドネシア、ミャンマーの国籍だという。ほとんどが技能実習生だ。現場では日本語ができる実習生を介して指示や確認をしてきたが、2年前には日本語のできるベトナム人女性を総合職として迎え、だれもが働きやすい環境づくりを図ってきた。また、70代後半のシニア世代の従業員も、ベテランとして力を発揮してもらっているそうだ。  吉田健さんは「私たちの工場は、近隣の市町村に住む従業員も多いのですが、全体として人材不足であることは間違いありません。ここで働く全員が戦力ですし、だからこそ現場でも全員で支え合いながら、いろいろな課題も乗り越えてきました」と語ってくれた。 仕事に真摯に向き合う  ここで「モモがけ」と呼ばれる作業を担当している1人が、2014年に入社した平賀(ひらか)莉沙(りさ)さん(36歳)だ。この日は、隣に立つ同僚の従業員が、重さによって選別した鶏モモ肉の足首部分を、自動レーンにぶらさがっているカギ状の器具に1本ずつ次々と引っかけていく。レーンが回るスピードにあわせなければならず、「油断するとたちまち工程が滞ってしまうため、ある程度の集中力も必要ですね」と松田さん。  平賀さんは、大船渡市にある岩手県立気仙光陵支援学校を卒業後、就労継続支援B型事業所「星雲工房」で箱折り作業やお菓子づくりなどを行っていたそうで、「シフォンケーキもつくっていました」という。そのうちに気仙障がい者就業・生活支援センターからの紹介で、住田フーズでの職場実習を受けることになった。  平賀さんの働きぶりがよかったことと、彼女を知る人が職場にもいて働きやすい環境にあると考えられることから採用に至ったそうだ。  入社後、平賀さんは軟骨拾いや皮取り、解体ラインへのモモ肉並べといった作業から始めたという。「作業を見たときは、自分にできるかなと不安になりましたが、隣に入ってくれた方に、いろいろ教えてもらいました」とふり返る平賀さんは、11年目のいまでは大事な戦力として作業ラインに立っている。  松田さんは、平賀さんについてこう評する。  「彼女は、いまの担当業務でいえば私よりもずっとベテランなので信頼しています。素直でまじめな性格で、いつも仕事に真摯に向き合ってくれているなと感じています」  平賀さんは、今後の目標について「休憩前にモモ肉を冷蔵庫に戻すとき、もっと素早くできるようにしたいです」と教えてくれた。じつは工場内では、作業中に肉の鮮度を落とさないよう、各工程で昼休憩を時間差で取りながら現場に肉を残さない工夫をしている。平賀さんも、処理途中のモモ肉をかごに入れて冷蔵庫に移動させてから休憩を取り、休憩後に再び出してくるのだそうだ。  松田さんも「ふだんはそんなに口数も多くないですが、作業をするうえで少しでもよい方法を自分なりに考えているようです。思ったことは大きな声で私にしっかりいってくれます。今後もそのまま向上心を持って、伸びていってほしいですね」と期待する。  工場長の吉田健さんも、平賀さんについて「先日の朝、会社の送迎バスに一緒に乗っていたほかの従業員が具合を悪くしたとき、真っ先に私がいる事務所の更衣室まで来て、外から大きな声で説明してくれました。頼りになります」と、エピソードを紹介してくれた。 各工程で戦力として  取材した日は、生産ラインに影響を及ぼさないよう直接インタビューの時間をもらったのは平賀さん1人だったが、ほかにも知的障がいのある社員3人の働いている様子を撮影させてもらうことができた。  1人めの女性は、ベルトコンベアーを挟んで同僚と向かい合い、成形前のむね肉を同じ向きに並べていた。松田さんによると「この先でナイフを使って成形するのですが、流れ作業なので、スムーズに進めるために大事な前準備です」とのことだ。  2人めの女性は、平賀さんと同じく「モモがけ」作業に従事していた。モモがけをするときには、基準より大きなモモはその場で選別されて、クリスマスシーズンなどに売られる特大商品として冷凍保存されるのだそうだ。  鶏肉が、さまざまな工程を自動的に回りながら解体されていき、最後に「せせり」や軟骨などを含んだ部位が、大きなかごにたまっていく。これも重要な商品として出荷される。計量したケースを運搬していたのは、3人めの男性社員。「25kg〜30kgにもなるケースを計量し、スムーズに取り替え、台車に積み上げて運搬する作業は体力も含めてたいへんな仕事です。彼はとてもがんばってくれて、助かっています」と松田さん。 一人ひとりの人生を  このように住田フーズで働く知的障がいのある社員もみな、大事な戦力として働き続けている社員ばかりだが、執行役員の吉田順さんによると、プライベートな面での支援には苦労することもあったという。特に金銭管理の面では、ときに後見人にも相談の場に入ってもらうなどして解決にあたってきたそうだ。  なかには、本人の社会的自立をめぐって家族の同意が得られない例があったそうだ。吉田順さんは「例えば、本人なりにお金を貯めて、自立した生活をしたいという夢があるにもかかわらず、その実現がむずかしい例がありました。その保護者と話し合いをしたこともあります」と明かす。  また、別の例ではグループホームでの自立生活を希望している一方で、実家の収入が減ることを後ろめたく思い、決断できずにいることがあった。事情を知った吉田さんたちが、自分の希望を最優先にするよううながし、現在はグループホームで楽しく暮らしているそうだ。  吉田順さんは「一人ひとりの人生を考えたときに『働いてお金を得る』ことは大切なことですし、障がいの有無にかかわらず、自分で考えながら生きていくことも、大切なことだと感じています」という。だからこそ働こうとする本人に対しても「一定の、勤務し続ける気構えや体力は必要です」とつけ加えた。  最後に、住田フーズでの障がい者雇用について吉田順さんは、こう語ってくれた。  「当社では、障がいのある社員を職場全体で温かく見守っていると同時に、特別扱いをしないという社風があります。だからこそ彼らは、休憩時はいつも輪のなかに存在しています。そういう点からも、職場の同僚たちには本当に感謝しています」 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、住田フーズ株式会社様のご意向により「障がい」としています 写真のキャプション 住田フーズ株式会社は鶏肉の生産加工を手がける (写真提供:住田フーズ株式会社) 住田フーズ株式会社 執行役員、生産部長の吉田順さん (写真提供:住田フーズ株式会社) 管理部管理課で人事関連を担当する平野美季さん 工場長の吉田健さん 製造部解体課長の松田哲也さん 「モモがけ」を担当する平賀莉沙さん 鶏モモ肉をレーンの器具に手際よくセットする平賀さん 成形前のむね肉を同じ向きに並べる 「モモがけ」作業 計量したケースを台車に積み上げる 【P10-11】 クローズアップ 障害者雇用率向上へのヒント 最終回 未来の障害者雇用に向けた企業の取組み 〜「IT×精神・発達障害」で存在感を増す企業の事例から〜  いま、障害者雇用は新たな転換点を迎えています。従来の職域や働き方の枠を超え、ITスキルを活かしたリモートワークや柔軟な勤務体系が広がるなかで、精神障害や発達障害のある人たちの可能性に注目が集まっています。最終回は「IT×障害者雇用」という革新的なアプローチで成果をあげる日揮パラレルテクノロジーズ株式会社の実践事例を通じて、これからの障害者雇用のヒントを探ります。現場に根ざした障害者雇用のコンサルティングに長くたずさわってきた松井優子さんが解説します。 執筆者 障害者雇用ドットコム代表 東京情報大学非常勤講師 松井(まつい)優子(ゆうこ)さん  障害者雇用がいま、大きな転換点を迎えています。これまで4回にわたり「障害者雇用率向上のヒント」をお届けしてきましたが、最終回となる今回は、テクノロジーによって開かれた新たな働き方と、その可能性を実践している日揮(にっき)パラレルテクノロジーズ株式会社(以下、「JPT」)の事例をみていきます。 社内課題から生まれた「IT×障害者雇用」という発想  JPTは、2021(令和3)年1月に設立され、同年10月に日揮グループの特例子会社として認定されました。その背景には、グループの分社化により法定雇用率を満たすことが急務となっていたこと、また、社内ではIT・DX推進の必要性があるもののIT人材の不足がありました。  決め手となったのは、IT分野に特化した就労移行支援事業所の見学。そこでは、精神障害や発達障害のある人たちが高い集中力や論理的思考力を活かし、AIやWeb制作などの分野で実力を発揮していました。その様子を目の当たりにし、「これだ」と直感したといいます(図1)。 採用から定着まで、テクノロジー時代の新しい障害者雇用モデル  JPTが実践する障害者雇用モデルは、まさにテクノロジー時代に最適化された働き方です。最大の特徴は「フルリモート・フルフレックス勤務」。社員の多くは全国に分散しており、出社する必要はありません。自宅で、自分のライフスタイルにあわせて働ける環境が整えられています。働く時間も柔軟で、深夜帯(22時〜翌5時)を除けば、朝型・夜型といった個人のリズムにあわせて自由にスケジュールを組むことができます。週20時間からの短時間勤務も可能で、育児や体調面など多様な事情に対応しています(11ページ、図2)。  業務のスタイルも独特です。JPTでは「1人1業務」という体制をとり、1人の社員が顧客との要件定義から設計・開発・納品まですべてを担当します。これにより、対人ストレスなどによる体調悪化といったリスクを最小限に抑えるとともに、個々の強みや裁量を最大限に活かすことができています。  また、プロジェクトの内容は「重要だけれど、緊急ではない業務」に絞られているのが特徴です。DXが求められている社内業務のIT化やシステム改善など、日々のオペレーションに追われがちな現場では手がつけられない領域をJPTがになうことで、全体の生産性向上にも貢献しつつも、納期に追われず、自分のペースで取り組める分野を確保しています。  加えて、コミュニケーションは原則としてテキストベースで行っています。これは「聞き逃しが不安」、「1回で理解できない」、「発言のタイミングがむずかしい」という声への配慮から生まれました。テキストに残ることでふり返りが可能になり、相互理解の精度が高まると同時に、情報の透明性や自律的な働き方にもつながっています(図3)。 “実践型”の採用で特例子会社が挑戦のフィールドに  採用では1カ月間のインターンシップが行われます。AI系とWeb系の2コースに分かれ、抽象度が高く、かつ100時間では完成できない難易度の課題に取り組みます。  これは「技術力」だけでなく、「かぎられた時間のなかでどのように課題を整理し、どこまで仕上げるか」といった業務推進力や思考の柔軟性などをみるためです。  最終面接では、障害理解やJPTで働く意義に対する考え方、志望動機などのヒアリングを通して、組織としてともに歩んでいけるかという視点から採用を判断します。このように時間をかけて迎え入れることは、入社後の定着率やエンゲージメントの高さにつながっています。  JPTの設立当初、社内からの業務依頼は少なかったそうです。しかし、グループ内のだれも手をつけられなかった課題を社員が技術と創意工夫をもって解決することで、いまではJPTに業務を依頼する部門が増え、案件はつねに20〜30件の待ち状態となっています。これまで取り組んできたプロジェクトは150件以上にのぼります。これらの活動が生み出したのは、「JPTに依頼すれば質の高い仕事をしてくれる」という信頼です。 働き方が変わるいま、障害者雇用の未来をどう描くか  「こんなに自由に、自分の得意を活かしながら働ける会社があるとは思わなかった」これは入社した社員の方の言葉です。前職では障害特性への理解が得られず、居場所を感じられなかった人が、JPTで「初めて社会とつながっている実感を持てた」そうです。JPTが大切にしてきたのは「働くハードルを下げること」。必要以上に守るのではなく、本人の力を信じ、裁量を渡す。制度や常識に縛られない柔軟な環境づくりが、結果として多くの人の力を引き出しています。  社会や労働環境の急速な変化により働き方が大きく変わるなかで、障害者雇用においても新たな視点から取り組んでいくことが求められています。それは「雇用」をゴールにするのではなく、人材として「活かす」という発想の転換やITを軸にした新しい業務の創出、リモートワークやフレックスタイム勤務といった働きやすさの選択肢を広げることです。このような考え方や実践を知ることは、障害者雇用に取り組むあらゆる企業にとって参考となるでしょう。 図1 会社概要 設立:2021年1月12日 名称:日揮パラレルテクノロジーズ株式会社 JGC Parallel Technologies Corporation 株主:日揮ホールディングス株式会社 100% 資本:1千万円 社員:46名(2025年4月1日現在) ※内43名が身体または精神・発達障害者 業務:日揮グループ内のIT業務支援 (資料提供:日揮パラレルテクノロジーズ株式会社) 図2 在宅勤務地 社員46名 宮城1名 石川1名 富山1名 岐阜1名 愛知1名 静岡1名 東京11名 神奈川8名 千葉1名 埼玉1名 大阪9名 京都1名 奈良1名 兵庫1名 和歌山3名 岡山1名 福岡2名 (資料提供:日揮パラレルテクノロジーズ株式会社) 図3 社員の能力発揮を支えるための体制・制度 1人1業務体制 重要だけど緊急でない ●原則、納期なし ●やりたいことを仕事にする ●途中でギブアップしてもいい ●技術支援  ・書籍購入費補助  ・Udemy無料学習 フルリモート・フルフレックス ●いつ働いてもいい (深夜勤務×) ●どこで働いてもいい (出社義務なし) ●中抜けあり ●短時間勤務も可 (最短契約20時間/週) コミュニケーション ●テキストベース (teams/Discord) ●個人面談(1on1) ●社内外研修 ●人間関係を固定化しない ●業務外でのつながり有り (資料提供:日揮パラレルテクノロジーズ株式会社) 【P12-14】 JEEDインフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 『雇用の分野における合理的配慮事例の紹介』 ホームページ「障害者雇用事例リファレンスサービス」 ホームページで検索できます! 紹介ページはこちら JEED リファレンス 検索  事業主には、障害者の募集・採用時および採用後に、障害の特性や本人の希望・ニーズに応じて個別に配慮する『合理的配慮の提供』が義務づけられています(2016〈平成28〉年4月より)。  しかし、「どのような配慮をすればよいのかわからない」という事業主の方や、「企業から相談されたが、どのような支援を行えばよいか迷う」という支援機関の方もいらっしゃるのではないでしょうか。  JEEDが運営するホームページ「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、実際に『合理的配慮の提供』を行っている企業の事例(合理的配慮事例)を紹介しています。また、そのほかにも、さまざまな創意工夫を行い、障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業の事例(モデル事例)を掲載しています。  今後も、企業や支援機関のみなさまに役立つ事例を掲載していきますので、ぜひご利用ください。 業種や従業員規模、障害の種類などの条件を設定して事例を検索することができます。 拡大 合理的配慮事例を検索する場合は、こちらのチェック欄を選択してください。 掲載例(抜粋) <利用者アンケートから> ・「募集・採用、定着までの経緯を知ることができた」 ・「具体的な配慮の例を知ることができた」  「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、よりよいサービスの提供のため、みなさまのご意見等をおうかがいしています。  ホームページからアンケートへのご協力をお願いいたします。 ◆お問合せ 障害者雇用開発推進部 雇用開発課 TEL:043-297-9513 FAX:043-297-9547 E-mail:ref@jeed.go.jp “事例で見る”“動画で見る” ホームページでご覧ください! 動画「みんな輝く職場へ 〜事例から学ぶ 合理的配慮の提供〜」 紹介ページはこちら JEED みんな輝く 検索  「合理的配慮とは何か」、「どのように取り組めばよいか」と疑問をお持ちの事業主の方にもわかりやすく、『合理的配慮の提供』に関するポイントの解説などを紹介しています。  JEEDホームページでご覧いただくことができるほか、関連するDVDの無料貸出しも行っていますので、ぜひご活用ください。 【視覚障害】就労支援機器の活用 【精神障害】社内相談支援体制の整備 【発達障害】企業在籍型ジョブコーチの活用 障害別に取組みのポイントを専門家がわかりやすく解説しています。 ◆お問合せ 障害者雇用開発推進部 雇用開発課 TEL:043-297-9514 FAX:043-297-9547 E-mail:manual@jeed.go.jp ▲就労支援機器に関する相談  「みんな輝く職場へ」の動画内でも紹介しました「就労支援機器貸出・相談窓口」では、企業向けに機器の有効活用に関する情報提供、相談、機器の無料貸出し(6カ月間)を行っております。お気軽にお問い合わせください。  貸し出しているおもな機器は次の通りです。 視覚を補助する機器 ・拡大読書器 ・パソコン支援ソフト (画面読み上げソフト、画面拡大ソフト、文字認識OCRソフトなど) 聴覚を補助する機器 ・デジタル補聴システム ・難聴者向けスピーカー など 感覚過敏を軽減する機器 ・パーテーション ・イヤーマフ ・ノイズキャンセラー など 就労支援機器貸出・相談窓口(旧名称:中央障害者雇用情報センター) TEL:03-5638-2792 E-mail:kiki@jeed.go.jp 紹介ページはこちら 受講者募集! 2025(令和7)年新規開催 「ステップアップ研修T」のご案内 受講料 無料  当機構(JEED)では新たに、障害者および企業に対する就労支援の実践的な知識・スキルの習得を目的とした「ステップアップ研修T」を実施します。みなさまのご参加を心よりお待ちしています。 対象者 「障害者の就労支援に関する基礎的研修」を修了し、かつ1年以上の就労支援の実務経験を有する支援者の方 2025年は「障害者の就労支援に関する基礎的研修」が未修了の方も、2年以上の実務経験を有している場合は受講いただけます。 内容 【日程】2025年11月6日(木)〜11月7日(金) 【方法】オンライン(リアルタイム配信) 【研修内容】 科目1 「障害特性に応じたアセスメント・支援T〜V」  「身体障害・難病」、「知的障害・発達障害」、「精神障害・高次脳機能障害」の障害特性に応じたアセスメントおよび支援の方法ツールについて説明します。 (各講義120分を予定) 科目2 「課題分析の理論」  作業支援および企業に対する支援において必要となる理論を解説します。 (60分) 科目3 「企業へのアプローチと事業所における調整方法」  企業への支援の具体的な方法(職務分析および職務創出の考え方や方法)について解説します。 (60分) 計:480分 申込方法 「JEED研修電子申請サービス」(※)より期間内に申請ください。申込方法の詳細は8月初旬にJEEDホームページに掲載する予定です。 (申込期間) 2025年8月14日(木)〜9月9日(火) ※「JEED研修電子申請サービス」は、株式会社NTTデータ関西が提供する「e-TUMO(イーツモ)」を利用しています お問合せ先 職業リハビリテーション部 人材育成企画課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.go.jp 2026年2月にはJEEDの調査研究・支援技法の開発の成果をふまえた専門的な知識・スキル習得のための「ステップアップ研修U」の実施を予定しています。詳細は『働く広場』2025年11月号、JEEDホームページに掲載予定です。 【P15-18】 グラビア ものづくりにたずさわれてうれしい! タイム技研高知株式会社(高知県) 取材先データ タイム技研高知株式会社 〒788-0783 高知県宿毛市(すくもし)平田町(ひらたちょう)戸内(へない)字(あざ)扇(おうぎ)3386-57 TEL 0880-66-1777(代) FAX 0880-66-1780 写真・文:官野貴  タイム技研高知株式会社は、愛知県に本社を置くタイム技研株式会社の子会社であり、高知県宿毛(すくも)市において、給湯器などに搭載されるバルブやセンサーなどを製造している。同社では、障害のある従業員が製造の現場において欠かすことのできない人材となっている。  入社20年目の嶋崎(しまさき)加代(かよ)さん(38歳)も、その一人。知的障害のある嶋崎さんは、外部で製造された部品の洗浄や、配送用の段ボール箱から工場内で使用するコンテナに移し替える「箱入れ」という工程を担当している。これらの工程は、工場の製造エリア内にゴミやほこりを持ち込まないために、欠かすことのできない工程であり、製品の高い品質につながっている。  朝礼後、まず取りかかったのはプラスチック製部品の洗浄作業だ。水を貯めたシンクで部品を水洗いし、ゴミやほこりなどを取り除く。エアガンで大まかな水滴を落とし、カゴに移し替え、乾燥させる。  続いては「箱入れ」の作業。段ボール箱を開梱し、部品に付着したゴミやほこりをバキューム装置で吸い取り、部品をコンテナに移し替える。嶋崎さんに仕事のやりがいについてたずねると「ものづくりにたずさわれてうれしいです」と教えてくれた。  入社4年目で知的障害のある富田(とみた)李(もも)さん(21歳)も「箱入れ」を担当。富田さんの作業エリアには、ホワイトボードが設置されており、次に行う作業が一目でわかるようになっている。これは、富田さんからの提案を部内で検討し、設置されたものだ。  同社は、障害特性に配慮した職場環境づくり、雇用管理や体制づくりへの取組みが評価され、2023(令和5)年度に「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度」(もにす認定制度)の認定を受けた。今後も、障害者雇用への取組みに積極的に臨む予定だという。 写真のキャプション 朝礼から業務がスタート。一日の作業計画などの情報共有が行われる 工場内の一角に設けられたシンクで、部品の洗浄作業にあたる嶋崎加代さん シンクに水を貯め、空気を送り込むブロワー装置を作動させる。部品をざるに入れ水洗いし、ゴミや不良品などを取り除く 洗浄した部品にエアガンで空気を吹きかけ、水滴を落とす。その後カゴに移し替え、乾燥させる 嶋崎さんは「箱入れ」も担当。バキュームをかけた部品をコンテナに移し替える。製造エリア内にほこりなどを持ち込まないために欠かせない工程だ 嶋崎さんの作業日誌。作業の進捗だけではなく、体調や仕事での困りごとなどが記載でき、支援担当者がすぐに相談にのれるようになっている 作業の「見える化」を図った写真入りの作業マニュアル。写真により作業内容が容易に把握できるようになっている 富田さんの業務改善提案を受けて設置されたホワイトボード。作業順が一目でわかる ホワイトボードに記入する富田さん。急ぎの作業が入っても、ホワイトボードのおかげで、作業順に迷うことはないという 「箱入れ」の作業にあたる富田李さん。富田さんは「部品を落とさないように注意しています。急ぐ気持ちを押さえて焦らないことが大事です」と話す 部品をコンテナ内の専用トレーに並べてゆく。富田さんは「作業は楽しいです。ここは働き続けたい職場です」と教えてくれた 専用のトレーにきれいに並べられた部品。「箱入れ」は、指定された部品を指定された数だけ間違いなく詰めていくことが求められる 「箱入れ」を終えたコンテナに、部品の型番や個数などが記された伝票を貼りつける富田さん コンテナの側面に、部品の個数が書かれた紙を挟み込む。作業で部品の数が合わないようなことがあれば上司や担当者に確認する 部品の入ったコンテナを保管場所に運ぶ。コンテナを積み上げる段数も定められており、安全面も配慮されている 空きコンテナの整理にあたる部署においても、障害のある従業員が活躍している コンテナの汚れをクロスでふき取る。すみずみまでていねいかつスピーディーにふき上げる 【P19】 エッセイ 障害のある人の地域生活支援について 第4回 バリアフリー演劇は共生社会の入口 日本社会事業大学社会事業研究所 客員教授 曽根(そね)直樹(なおき) 知的障害のある人の入所施設、障害児の通園施設、レスパイトサービス、障害者グループホームの職員を経験した後、障害者相談支援事業の相談員などを経て厚生労働省障害福祉課虐待防止専門官として5年間勤務。日本社会事業大学専門職大学院教授を経て定年退職後、現職。 バリアフリー演劇の衝撃  「バリアフリー演劇」と聞くと、舞台の袖に手話通訳者がいて聞こえない人に役者のセリフを手話通訳したり、三脚式のスクリーンを客席の隅に立てて字幕を映したり、見えない人のためにイヤホンを貸し出して、演劇の情景を説明する音声ガイドを流したり、という合理的配慮がある演劇鑑賞会とイメージされるかもしれません。  4年前、はじめて「東京演劇集団風」のバリアフリー演劇を観て衝撃を受けました。舞台で演技する役者と一緒に動き回りながら手話通訳をする舞台手話通訳者、舞台のセットの真ん中に直接映し出される字幕、役者の動きに合わせてアドリブも入れながら会場に流れる生の音声ガイド。これだけでも驚きなのに、演劇の最中に次々に舞台に上がる子どもや知的障害のある人たち。それを止めるどころか、役者は舞台に上がった人たちを巻き込んで演劇を続け、さらに上がってくるように誘っているようにさえ見える…。想像できますか? バリアフリー演劇が超える壁  バリアフリー演劇には三つのバリアフリーが掲げられています。舞台手話通訳者や字幕、音声ガイドなどの情報のバリアフリー、劇場がなくても、体育館があればすべて持ち込みで劇場に変えてしまう地域差のバリアフリー、演劇の最中に舞台に上がることができる、舞台と客席のバリアフリー。  これまで、知的障害のある人にとってのバリアフリーは、漢字にルビをふる、わかりやすい言葉を使うなど、情報保障が中心でした。でも、文字を読むことがむずかしい重い知的障害のある人にとってのバリアフリーはなかったように思います。劇場では静かにおとなしくしていることが求められますが、それが苦手な人にとっては苦痛でしかありません。自由に舞台に上がることができて、演劇の世界に入り込むことができるなんて、最高のバリアフリーではないでしょうか。だれでも、どこでも、すべての人が楽しめる、体験のバリアフリーを実現しているのです。 幸せに包まれる瞬間  一般的に、演劇は演出家がつくりあげた世界観を役者が舞台で表現し、それを観た観客に感動を与え、そのことに役者は歓びを感じるのではないかと思います。東京演劇集団風もバリアフリー演劇だけを上演しているのではなく、バリアフリーではない一般的な演劇公演も行っています。それで、劇団の役者に、一般的な演劇とバリアフリー演劇、どちらにやりがいを感じるか聞いてみました。  その答えは、バリアフリー演劇も一般の演劇もどちらも同じようにやりがいがある、というものでした。それを聞いて、障害福祉関係者のわたしだから、バリアフリー演劇を評価した答え方をしたのかなと思っていました。でも、バリアフリー演劇を何度も観て、それは、心からの答えだったことがわかりました。  バリアフリー演劇のフィナーレで、演劇の最中に客席から舞台に上がった人たちも役者と一緒に並び、大きな拍手を浴びていました。客席に目を移すと、いっせいに拍手を送っている会場の人たちの表情は、幸せに包まれていました。舞台の上の役者たちは、それを見て、さらに幸せを感じているようでした。「だれひとり取り残さない」という言葉がありますが、それを実現することができたとき、人は心からの歓びを感じるのかもしれません。  「演劇を観るだけでなく、観客も一緒に参加できることで、さまざまな人たちをつなげることができる」、「すべての人が一緒に同じ空間を楽しめ、最後まで釘づけになった」、「また、観にきたい!」。バリアフリー演劇の感想には、観た人の熱い想いがつづられています。バリアフリー演劇がつくり出す空間は、共生社会の入口なのかもしれません。ぜひ、あなたも体験してください。 【P20-25】 編集委員が行く 「感謝される仕事」で働き方の選択肢を広げる28年目を迎えたスワンの障害者雇用の取組み 株式会社スワン(東京都) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 取材先データ 株式会社スワン 〒104-0061 東京都中央区銀座2-16-10 TEL 03-3543-1067 FAX 03-5148-1067 大塚(おおつか)由紀子(ゆきこ) 編集委員から  公益財団法人ヤマト福祉財団理事長であった故・小倉(おぐら)昌男(まさお)さんは、作業所(現在の就労継続支援B型事業所)で福祉的就労に従事する障害者の1カ月の工賃が1万円足らずであることに驚きと疑問を抱き、1998(平成10)年に「スワンベーカリー銀座店」をオープンした。当時、商品とサービスで堂々と勝負し、障害のあるスタッフがフロントヤードで働くスワンベーカリーの存在は、関係者に大きな衝撃を与えた。  今回は、ヤマト本社ビル新社屋1階にリニューアルオープンした「SWAN GINZA」を紹介するとともに、スワンの「いま」をご紹介したい。 Keyword:特例子会社、ベーカリー、レストラン、ノーマライゼーション、クリーニング、目標シート POINT 1 先入観を持たず相手を見て、得意・不得意を理解し指導することが大切 2 働きやすさや働きがいを高めることで、長く働ける職場をつくる 3 感謝される仕事で働く選択肢を広げ、仕事の意欲を高める  ヤマトホールディングス株式会社(以下、「ヤマトホールディングス」)の特例子会社である株式会社スワン(以下「スワン」)では、2025(令和7)年6月現在、35人の障害のあるスタッフと60人の一般スタッフが働いている。始まりは、1998(平成10)年にオープンした「スワンベーカリー銀座店」である。公益財団法人ヤマト福祉財団理事長であった故・小倉昌男さんが「障害者に月給10万円払える事業」としてスタートさせたのだ。  オープンから27年後の2025年2月、「スワンベーカリー銀座店」は、「スワンカフェ銀座店」とともに、それぞれ「SWAN GINZAベーカリー銀座店」、「SWAN GINZAレストラン銀座店」としてリニューアルオープンした。  また、スワンには全国に直営の6店舗と20店舗のフランチャイズ加盟店があり、加盟店で働く障害者を合わせると、全国で280人もの障害のある人に働く場を創出している。  企業理念にも謳われている通り、「障がい者雇用の場をつくり、自立と社会参加を応援し、働く喜びと幸せを感じられる社会を実現する」がスワンの事業の目的である。  スワン設立3年後の2001年には、ヤマトホールディングスの特例子会社に認定されている。ただ、スワンのミッションは、特例子会社として親会社の障害者雇用の社会的責任を果たすというより、「障害のある人もない人も、ともに働き、ともに生きていく社会」、つまり「ノーマライゼーション」の実現を目ざした故・小倉昌男さんの思いを継承していく企業であると表現した方がしっくりするように感じる。  「一人ひとりが主人公になろう」、「明るい接客でお客さまを笑顔にしよう」、「ルールを守ってお客さまの喜ぶ仕事をしよう」の三つのスローガンのもと27年間にわたって事業を継続してきた。 地域住民、ビジネスパーソンでにぎわうSWAN GINZA  以前は別々の建物で営業していた「スワンベーカリー銀座店」、「スワンカフェ銀座店」であったが、新店舗ではベーカリーとレストランの一体的な営業となった。  店舗は全面ガラス張りのつくりで天気のよい日はオープンテラスの空間となる。天井高も5m以上はある。白鳥をモチーフにしたインテリアが各所にレイアウトされ、とても洗練された雰囲気である。まるでホテルのラウンジにいるような感覚になる。  ベーカリーの営業時間は8時から18時まで。常時55種類を超えるパン、スイーツなどが販売されている。イタリアンとフレンチを中心としたレストランの営業時間は8時から21時30分まで。通路の幅も十分に取られていて、車いすやベビーカーのお客さまもそのまま店舗に入ることができる。  多目的トイレも2カ所あり、障害のある人のみならず、子育て中のママさんにもうれしい設計になっている。新店舗では赤ちゃん連れのママさんグループの来店が増えたそうだ。  ベーカリー、レストランのいずれも地域住民、近隣のビジネスパーソンなどで終日にぎわっている。銀座の店舗では、ベーカリーとレストランを合わせて7人の障害のあるスタッフが働いている。 「ここで働き続けることが目標」という障害者スタッフ  加藤(かとう)聡美(さとみ)さん(30歳)はSWAN GINZAベーカリー銀座店の所属で、お店のフロントヤードで働く障害のあるスタッフの一人だ。レジでの接客や店舗で使用するPOPのラミネート加工などを担当している。特別支援学校を卒業後、就労移行支援事業所に2年通所し、スワンに入社して10年とのことである。  取材時は、慣れた手つきでパンを袋に入れ、「お持ち帰り用の袋はお使いになりますか?」、「お支払いはどのようになさいますか?」と声をかけていた。  仕事のやりがいについて聞くと、「(お客さまが)いっぱい買ってくれるとうれしい」と、はにかみながらもしっかりと話をしてくださった。目標は「ここで働き続けること」だそうだ。  店長の金子(かねこ)和広(かずひろ)さんは、加藤さんを「一つひとつていねいに作業(袋詰めなど)をしてくれるのでありがたい。ランチタイムの忙しいときにフォローに入ることもあるが、まったく心配なく任せられる」と仕事ぶりを高く評価する。  加藤(かとう)錦(にしき)さん(47歳)は、SWAN GINZAレストラン銀座店で洗浄業務に従事する勤続20年の超ベテランスタッフである。「洗い物が好き」、「スプーンなどに汚れが残らないようていねいに作業している」と答える笑顔がとても印象的だ。  店長の平田(ひらた)智也(ともや)さんにも話をうかがった。平田さんはスワンに入社して18年が経つ。障害のあるスタッフが働く店だとは知らずに就職したという平田さん。当初はかかわり方などがわからず不安に思ったそうだが、実際に働いてみるとイメージは違ったという。「安心して任せられる」、「彼ら(障害のあるスタッフ)のほうが力を発揮することがある」と断言する。平田さんが意識していることは、指導側が、障害のあるスタッフの得意なこと不得意なことをしっかりと理解して指導することだそう。  銀座の2店舗のほか、赤坂店、羽田CHRONOGATE(クロノゲート)店、成城店、品川港南店と6店舗のスワン直営店が営業している。 障害者スタッフの半数が勤続20年以上中高年齢のスタッフも半数以上  「うち(スワン)の障害者スタッフはベテランぞろい」というのは、店舗運営事業長の坂本(さかもと)和義(かずよし)さん。2001年からスワンにかかわっている坂本さんであるが、障害のあるスタッフたちも勤続年数の長い人が多い。障害のあるスタッフ35人のうち27人が勤続10年以上、そのうち20年以上勤務する人は17人にものぼる。勤続年数が10年以下の障害のあるスタッフはわずか8人である。当然のこととして中高年齢の障害のあるスタッフの割合が高くなる。50代が8人、40代が11人、30代が10人、20代が6人の構成である。 クリーニング事業へも積極的に職域を拡大 現在のスワンの事業は5領域にまたがっている。直営6店舗でのベーカリー、レストランやカフェなどの事業、クリスマスケーキや誕生日ケーキなどを提供するケーキ事業、フィナンシェなどのスイーツ類の物販事業、ヤマト運輸のベース(物流拠点)で作業員が使用する安全靴やヘルメットのクリーニング事業、ヤマト本社ビル新社屋の食堂や会議室清掃を行うビルクリーニング事業である。  安全靴やヘルメットのクリーニング事業は、社会福祉法人ヤマト自立センター(就労移行支援事業所)と相互連携し、2021年より開始した。  ビルクリーニング事業は、障害のある人にも使いやすい清掃道具を導入し、2022年よりヤマト銀座ビルの食堂の清掃を開始した。そして2025年には新社屋の食堂や会議室の清掃にも取り組んでいる。 働きやすさと働きがいを高める取組み  スワンでは障害のあるスタッフが長く働き続けられるために、数々の取組みが行われている。 ・障害のあるスタッフ主導で行われる日々の朝礼  元気よく声を合わせて「今日も頑張ろう!」と業務がスタートする ・非接触型のセルフレジの導入  お金の取り扱いが苦手な障害のあるスタッフも自信をもって接客ができるようになった ・障害特性に配慮した年2回の研修  オリジナルのフラップ型の資料やヤマトグループのハラスメント防止小冊子を使用した研修、ブラックライトを使用した「手の洗い残しの見える化講習」など ・業務内容別の目標シート「どこまでできるかなぁ表」をもとにした日々の指導、個人ごとに目標設定と達成確認を通じたスキルアップ ・年2回の「遠足」や「お楽しみ会」などの行事  ほかの店舗や事業所で働くスタッフたち、家族や支援者とも交流しコミュニケーションを深めている 「感謝される仕事」にこだわって「働く選択肢」を広げる。そしてこれからも  事業拡大の取組みについて、代表取締役社長の江浦(えうら)聖治(せいじ)さんに話をうかがった。  「障害のあるスタッフのなかには、加齢によって立ち仕事がつらくなったり、対応力の低下が認められる人もいる」、「やりがいをもって定年まで働いてもらうためにも、積極的に働き方の選択肢を広げる必要がありました」と話す。  シューズクリーニングやビルクリーニングの事業に取り組んだのは、そういった中高年齢の障害のあるスタッフへの配慮を考えてのことでもあったとも理解した。スワンがこれまで取り組んできたベーカリーやカフェの仕事と、シューズやビルのクリーニングの仕事は、タイプの違う仕事にみえるがそうではない。スワンのすべての事業は「感謝される仕事」である。「感謝される仕事」で、障害のあるスタッフの特性や能力に対応した「働く選択肢」を広げ続けてきている。  「ベーカリーやカフェの仕事、ケーキの物販事業は、お客さまから直接『ありがとう』、『おいしかった』といってもらえます」、「シューズクリーニングもビルのクリーニングも、ヤマトの従業員から『きれいにしてくれてありがとう』と感謝され、成果を目に見える形で確認することができる仕事です」(江浦さん)  感謝されるからやりがいを感じる。やりがいを感じるから長く働き続けられるのだ。  「まだまだやることがある」と江浦さんは続ける。「より多くの障害のある人の自立と社会参加を応援できるよう、スワン、公益財団法人ヤマト福祉財団、社会福祉法人ヤマト自立センターの相互連携を、これまで以上に強化していきます。3団体の知見を結集すれば、本体であるヤマトグループ全体の障害者雇用にももっと貢献できると思います」  今後がますます楽しみなスワンである。 写真のキャプション 「SWAN GINZAベーカリー銀座店・レストラン銀座店」 人気商品である生チョコの「スワンミルク」(上)と「スワンホワイト」(下) パッケージ内には、「障がい者雇用の場をつくり、自立と社会参加を応援し、働く喜びと幸せを感じられる社会の実現を目指しています。」と書かれている 「SWAN GINZAベーカリー銀座店・レストラン銀座店」の客席部 ベーカリーでは、さまざまな種類の焼きたてのパンが販売されている ベーカリーの通路は幅も広く、車いすなどでも余裕を持って通行できる 加藤聡美さんは、ベーカリーの接客を担当。レジ入力や商品の袋詰めなどをていねいにこなす 「SWAN GINZAベーカリー銀座店」で働く加藤聡美さん 「SWAN GINZAベーカリー銀座店」店長の金子和広さん 「SWAN GINZAレストラン銀座店」で働く加藤錦さん 「SWAN GINZAレストラン銀座店」店長の平田智也さん 加藤錦さんは、レストランで使用する食器や調理器具の洗浄作業を担当している ビルクリーニングの様子。障害のある人にも使いやすい清掃道具などを駆使し、新社屋の食堂や会議室の清掃にあたっている(写真提供:株式会社スワン) 株式会社スワン店舗運営事業長の坂本和義さん 物流拠点で作業員が使用する安全靴やヘルメットのクリーニング。専用の機材を使って除菌やパーツの交換を行う(写真提供:株式会社スワン) セルフレジの導入により、お金の計算が苦手な社員も憧れの接客業務に就けるようになった 株式会社スワン代表取締役社長の江浦聖治さん 【P26-27】 省庁だより 「卓越した技能者の表彰」制度、障害者部門の紹介 厚生労働省 人材開発統括官付 能力評価担当参事官室  「卓越した技能者(現代の名工)の表彰」制度は、技能の世界で活躍する職人や技能の世界を志す若者に目標を示し、技能者の地位と技能水準の向上、優れた技能の継承などを目的としている。  表彰は、厚生労働大臣が毎年1回実施しており、昭和42年に第1回の表彰が行われて以来、令和6年度の第58回の表彰までに7234名が表彰されている。  令和5年度より、「障害者部門」が新設され、これまでに5名が表彰されているが、その制度の趣旨と障害者部門の概要についてあらためてご紹介する。 卓越した技能者「障害者部門」の概要  「卓越した技能者の表彰」においては、きわめて優れた技能を持ち、活躍する国内の最高水準にある技能者を表彰しており、「障害者部門」では、国内で第一人者と目されるきわめて優れた技能を持ち、活躍する障害者を表彰している。  優秀な技能を持つ障害者が卓越した技能者として表彰されることで、ほかの障害を持つ技能者の模範となるよう、技能の研鑽をうながすとともに、活き活きと働ける就労環境づくりに資することで、障害者雇用の質をより一層高めることを目標としている。 卓越した技能者の要件  被表彰者は、次の@〜Cの全ての要件を充たす者であって、都道府県知事、全国的な事業主団体等、全国的な障害者団体、個人のいずれかの推薦を受けた者のうちから、厚生労働大臣が技能者表彰審査委員の意見に基づき決定する。 @きわめて優れた技能を有する者 A現に表彰に係る技能を要する職業に従事している者 B技能を通じて労働者の福祉の増進及び産業の発展に寄与した者 C他の技能者の模範と認められる者 卓越した技能者「障害者部門」の表彰対象者・障害区分  表彰対象者 障害者手帳の取得者  障害区分 @身体障害者 A知的障害者 B精神障害者 障害者部門被表彰者一覧 1 被表彰者名 瀧(たき)こと代(よ) 年齢 81歳(表彰当時) 職種名 紳士服仕立職 所属名 コトヨ洋服店 就業地 静岡県 技能功績の概要  紳士服製造について独学で技能を磨き、顧客の体型や好みなどに合わせて精緻(せいち)な製図を行い、後工程の仮縫いで手直しを発生させないことを心がけて日々技能の研鑚に努めた結果、県外からも依頼が来るようになった。自身が左上肢の機能障害となった後、技能向上を目的として出場した第7回国際アビリンピックでは、洋服・洋裁の二種目に出場し、洋服種目では銅賞を受賞した。  また、障害のある方や子育てによる離職者などに対して技能指導を行い、就職や開業へと導いた。 2 被表彰者名 中澤(なかざわ)昇一(しょういち) 年齢 57歳(表彰当時) 職種名 歯科技工士 所属名 和田精密歯研株式会社東京ラボ 就業地 東京都 技能功績の概要  氏は、聴覚障害がありながらも歯科技工士としてセラミックの補綴物(ほてつぶつ)の製作における卓越した技術を要する。  失われた歯をつくるにあたって前の状態にかぎりなく近い再現力、なおかつ隣り合った歯との調和させる技術に長けている。また、第41回全国アビリンピックにおいても金メダルを獲得している。  さらに、後進指導に関しても、自分の仕事の合間に後輩の指導やアビリンピック参加希望者に対し、助言と指導を行っている。 3 被表彰者名 齋藤(さいとう)正夫(まさお) 年齢 75歳(表彰当時) 職種名 ソフトウェア開発技術者 所属名 株式会社アクセス・テクノロジー 就業地 石川県 技能功績の概要  氏は視覚障害がありながら、デジタルデータが視覚障害者のコミュニケーション手段に有効であることに気づき、昭和58年よりデジタルデータを音声で読み上げるパソコン用ソフトウェア「スクリーンリーダー」の開発に着手し、改良を重ね、同ソフトウェアの普及・発展に努めた。このことにより、多くの視覚障害者がパソコンを使ったコミュニケーションを取れるようになり、視覚障害者の社会参加・社会進出を広げた。  また、これに刺激を受けた視覚障害者はソフトウェアの開発者等を目ざし、彼らへの指導にも尽力した。 令和6年度 1 被表彰者名 山下(やました)弥壽男(やすお) 年齢 62歳(表彰当時) 職種名 印判師 所属名 有限会社山下弘栄堂 就業地 京都府 技能功績の概要  氏は、聴覚障害があることから、手に職を持つことを父親にすすめられ、家業である印章業へ就職と同時に弟子入りをした。師匠の傍らに座し、その技術を見て盗み身につけるよういわれ繰り返し練習を重ねた。かいあって印章彫刻、篆刻(てんこく)において「字法、章法、刀法」をきわめた。印面の粗密を考え整った美しさだけでなく力強い印章をつくり上げる。  第16回技能グランプリにおいて労働大臣賞を受賞した。障害に怯(ひる)むことなく先頭に立って技能士会長を務め、後進の指導や技術の向上、業界の発展に貢献している。 2 被表彰者名 植松(うえまつ)譲(ゆずる) 年齢 58歳(表彰当時) 職種名 プリント基板組立工 所属名 株式会社フカサワ 就業地 静岡県 技能功績の概要  聴覚障害があることで作業指示の伝達がうまくいかず、納期遅れ等が発生していたが、筋ジストロフィーを持つ上司のもとで指導を受けたことにより改善された。現在では、プリント基板の試作や改造において極小部品が密集するなかでも手作業で不良なく完成させることができる卓越した技能を有し、第30回全国アビリンピックでは、大手メーカの選手がいるなか、金賞を受賞した。  また、社内での技能検定等の講習会講師や、自身の後継者育成のため育成計画を立案している。 照会先  厚生労働省人材開発統括官付能力評価担当参事官室 技能振興係 【P28-29】 研究開発レポート 効果的な就労支援に必要な知識・スキル等の具体的内容や習得のための組織的取組み等について 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 1 はじめに  地域の障害者就労支援の成果には、幅広い知識・スキル等の習得や組織の人材育成の取組みが関連していますが、それらは従来、必ずしも雇用と福祉にわたる関係者の共通認識として言語化・体系化されてきませんでした。  そこで、障害者職業総合センター研究部門では、研修等の効果的な内容の検討に資することや、就労支援実務者と人材育成担当者が共通認識をもって専門性の向上に取り組むことができるよう、多様な就労支援実務者が効果的な支援を実施するために必要な知識・スキル等の内容を明らかにすることを目的とし、学識経験者や全国の障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所および就労定着支援事業所を対象とした調査を行いました。 2 調査研究の内容 (1)「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の言語化・体系化  国内外の先行研究をふまえつつ、わが国における就労支援分野のリーダー的な有識者へのヒアリング調査や、地域で効果的な就労支援を実施している就労支援実務者からの意見を集約しました。その結果から、「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の具体的内容について、16領域・65項目に言語化・体系化しました(表1)。 (2)人材育成における知識・スキル等の習得や習得方法の優先度  言語化・体系化された「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の具体的内容について、就労支援機関の現実的な優先度の認識にばらつきがあることをふまえながら専門性や支援力の向上を図るという観点から4領域に分類しました。 @障害者本人を中心とした多職種連携による職業生活の支援 A地域の企業や関係機関との関係構築と障害者雇用の周知・啓発 B職場適応・定着のための障害者本人と企業双方への支援 C障害者本人の自己理解と自信向上の支援  また、「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の習得にあたり優先的とされていた方法について、表2の通りに分類しました。 (3)知識・スキル等の内容別の経験年数に応じた役割  人材育成に組織的に取り組んでいる就労支援機関へのヒアリング調査の結果から、表3の通り、知識・スキル等の内容別の経験年数に応じた役割に関する内容を整理しました。 (4)まとめ  これらの調査結果から、「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の具体的内容が言語化・体系化され、知識・スキル等の習得や習得方法の優先度、就労支援人材の育成に関する組織的取組みについても明らかになりました。その全体像は、図1の通りです。これらの成果については、就労支援機関等で実施する人材育成(研修の内容、OJTで取り組む内容、地域のネットワーク会議での情報交換のテーマ等の検討)においてご活用いただけます。 3 おわりに  本レポートの元となる「調査研究報告書180(※)」では、今回ご紹介した内容以外にも、効果的な就労支援に必要な知識・スキル等の具体的内容やこれらの充足のための取組みなどについてまとめています。  また、巻末資料として、効果的な就労支援に必要な知識・スキル等の具体的内容(完全版・要点版・4領域版)、研修や助言・援助などのニーズを検討できるチェックリスト、就労支援機関における組織的な人材育成の取組みを行う際の参考となる具体的なポイントや留意点をまとめた資料を作成しています。よろしければ下記ホームページからご覧ください。 ※「調査研究報告書No.180 就労支援実務者の専門性と支援力に資する知識・スキル等に関する研究」 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku180.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 表1 「効果的な就労支援を行うために必要な知識・スキル等」の16領域 @ 障害者の就労支援の意義 A 就労支援における支援者の基本的姿勢 B 障害者就労支援に関する法令・制度・サービス C 企業経営と雇用管理 D 様々な相手(障害者・事業主・関係機関・家族等)との相談・説明 E 支援者間の記録・伝達 F 障害者の自己理解・自己選択・自己決定の支援 G 就労支援における障害者のアセスメント H 就労支援のプランニング I 職業生活に必要なスキル習得に向けた支援 J 仕事の選択・求職活動や職場への移行の支援 K 職場(実習中含む)への適応支援 L 職業生活を充実させるための体調管理や生活の支援 M 障害者雇用に取り組む企業のアセスメントと支援 N 関係機関や家族との連携 O 障害者雇用の啓発と支援人材の育成 表2 就労支援機関において実際に優先的とされていた習得方法 優先的とされていた習得方法 知識・スキル等の内容 研修中心 ・支援者が持つべき心構えと倫理意識 ・障害者差別の解消・禁止、虐待防止の理解と対応 ・障害者本人の自己肯定感の回復や自己選択・自己決定 ・障害者本人の強み・能力の把握 等 OJT中心 ・支援者が取るべき態度 ・記録・伝達のスキル ・求職活動や退職・再就職支援 ・職場・職務の調整支援 等 情報交換中心 ・関係機関との連携 ・企業情報の収集 ・生活支援 等 上記以外の組み合わせ(複合的な方法) ・相談の実施や支援計画の説明 ・事業主への支援 等 表3 知識・スキル等の内容別の経験年数に応じた役割 支援者が持つべき心構え・倫理意識・態度 就労支援における障害者のアセスメント 事業主との連携 地域の支援ネットワークづくり 初任者(おおよそ3年目まで) ・外部研修や内部研修による基本部分の習得 ・初回面接への同席・実施 ・他事業所への見学とその資料による学習 ・事業所内でのアセスメント会議への参加 等による基本部分の習得 ・企業訪問への同行 ・OJTや研修を通して企業も支援対象であることを理解 ・面談会への参加 ・地域ネットワーク会議への同行 中堅(おおよそ5年目まで) ・初任者へのOJT ・主担当としての面接の実施 ・アセスメント会議の運営・ファシリテーション ・主担当としての企業見学・訪問 ・職場定着支援の実施 ・地域のネットワークへの積極的参加 ・地域ネットワーク活動の提案 中堅以上 ・内外部での講師としての指導 ・初任者の面接への同席・OJT ・企業評価の実施 ・企業支援の実施 ・ジョブコーチ資格の取得 ・行政機関等への就労支援に関する情報発信 ・地域ネットワークの運営 図1 本調査研究の成果の普及・活用に関する全体像 知識・スキル等 障害者本人を中心とした多職種連携による職業生活の支援に関する知識・スキル等 障害者本人の自己理解と自信向上の支援に関する知識・スキル等 職場適応・定着のための障害者本人と企業双方への支援に関する知識・スキル等 地域の企業や関係機関との関係構築と障害者雇用の周知・啓発に関する知識・スキル等 現実的な優先度が高い習得方法 研修中心 OJT 情報共有・事例検討 効果的な組織的人材育成実施のための創意工夫 ・外部研修(外部機関主催の研修)の受講効果を高める取組み ・内部研修(所属する法人・機関のみで実施される研修)の受講効果を高める取組み ・OJTの効果を高める取組み ・情報共有・事例検討の効果を高める取組み 雇用と福祉の分野横断的な知識を持った就労支援人材 【P30】 ニュースファイル 国の動き 厚生労働省 就労選択支援員の養成研修  厚生労働省は、障害のある人の就労支援として2025(令和7)年10月からスタートさせる新しい障害福祉サービス「就労選択支援」について、ホームページで実施マニュアルを作成・公開し、「就労選択支援員養成研修」を開始した。  就労選択支援は、障害者本人が就労先や働き方についてよりよい選択ができるよう就労アセスメントの手法を活用し、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援するというもので、本人との協同による意思決定を支援するもの。これまで就労系障害福祉サービスについては、本人の就労能力や適性を客観的に評価し、本人の就労に関する選択や具体的な支援内容に活用する手法等が確立されておらず、@いったん就労継続支援A型・B型の利用が始まると固定化しやすい、A本人の目線で次のステップをうながす支援者がいるかどうかで職業生活が大きく左右される、などの課題があったという。  専門的な知見を必要とする就労選択支援員の養成研修は、オンデマンド講義と対面演習があり、今年度は2026年2月まで10回行う予定(1回あたり80〜100人)。受講対象者は、障害者の就労支援に関する基礎的研修を修了していることなどの一定条件が必要。実施マニュアルと養成研修の詳細は厚生労働省ホームページで。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56733.html  問合せは就労選択支援員養成研修ヘルプデスク(株式会社インソース)まで。 電話03−5577−2051 国土交通省 施設のバリアフリー設計標準を改正  国土交通省は、建築物のバリアフリー化のいっそうの推進のため、バリアフリー設計のガイドライン「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」を改正、公表した。  おもな改正点は、一定規模以上の施設内における車いすユーザー向けのトイレ設置数を原則・各階に一つ以上とすることや、劇場・競技場の車いすユーザー向け客席数、駐車場の設置数などに関する基準。また、これまで「〜することが望ましい」として記述していた整備内容については原則、標準的な整備内容に強化した。このほか設計事例や改修・改善事例のポイントの別冊化、改正タイミングにかかわらず好事例はホームページに随時アップロードする形式に変更したほか、新たに「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン」も策定した。 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_fr_000049.html 生活情報 全国 盲導犬受け入れ「拒否された」48%  認定NPO法人全国盲導犬施設連合会(東京都)は、加盟している盲導犬育成8団体のユーザーを対象に、盲導犬同伴での受け入れ拒否について聞き取り調査の結果を公表した。全国規模の調査は2020(令和2)年以来2回目。  2024年4月に改正障害者差別解消法が施行され民間事業者による合理的配慮の提供が義務となって1年になることから、盲導犬ユーザーへの理解と対応の広がりが期待されていたが、回答のあった576人のうち昨年1年間で拒否を経験した人は276人(48%)と、2020年調査の643人のうち336人(52%)という結果と比較して微減だった。「ある」と答えた276人に回数を聞いたところ延べ1144回で、1人あたり平均4回の受け入れ拒否を経験している計算になる。  拒否が発生する場所は飲食店が488回(43%)と最も多く、次いで電車・バス・タクシーなどの交通機関156回(14%)、宿泊施設が132回(12%)だった。  拒否された理由については、「動物や犬はダメ」が169人(61%)と最多で、「犬アレルギーや犬嫌いの人など他の人に迷惑がかかる」が134人(49%)、「犬を店の外に待たせる、外の席でなどの条件をつけられた」が104人(38%)、「受け入れの前例がない」が96人(35%)となった。 https://www.gd-rengokai.jp/custom_contents/cms_rwd/linkfile/zenkokuchosa2025.pdf 全国 発達障害の当事者団体が全国組織を発足  発達障害の当事者団体が中心となり、国や自治体への政策提言や社会への啓発活動を行うための全国ネットワーク組織「全国発達障害者連絡会議」を立ち上げた。これまでシンポジウムなどで意見交換を行ってきた6団体が参加。「NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)」(大阪府)の理事長・広野ゆいさんらが共同代表を務める。  同連絡会議では、発達障害者支援法の2005(平成17)年施行から20年が経ち、発達障害についての理解や支援が広がってきている一方で、自治体の施策等にはいまだ十分反映されていないとして、全国の当事者会・自助会と連携し、発達障害者の意見集約と情報共有を行い、行政・立法に対して提言を行っていくとしている。 https://hattatsu-renraku.net/ 働く 群馬 障害者アート作品グッズをミュージアムショップで  障害者の芸術活動を支援している「NPO法人あめんぼ」(桐生市)が、前橋市にある複合文化施設「アーツ前橋」1階に、「ミュージアムショップamenbo(あめんぼ)」をオープンした。  ショップでは、アーツ前橋のオリジナルグッズ(図録、ポストカード等)のほか、あめんぼと交流がある全国各地の福祉事業所約20カ所に通う利用者が制作したイラストがプリントされたTシャツやスカーフ、手ぬぐい、バッグ、絵はがきなどを販売する。あめんぼでは現在14人の障害者が作家として活動している。ショップの営業時間は10時〜18時、定休日は毎週水曜日・年末年始(不定休あり)。 本紹介 『障がい者の中の自分 健常者の中の自分 〜ポリオと共に歩んだ人生〜』  幼少期に小児麻痺を患い、装具と松葉杖とともに人生を歩んだという島津(しまづ)正博(まさひろ)さんが『障がい者の中の自分 健常者の中の自分 〜ポリオと共に歩んだ人生〜』(梓書院刊)を出版した。  1960(昭和35)年福岡県大牟田(おおむた)市生まれの島津さんは、生後7カ月目にポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)に感染。両足の力がなくなり、幼少時から両長下肢装具と両松葉杖を使用した。小学校までは養護学校に通うため寄宿舎で生活し、地元の普通中学校と高校に通い、その後は職業訓練校を経て福岡市の会社に就職。10回の転職を経験した。  祖母の死をきっかけに「メンタルケアスペシャリスト」の資格を取得。その後は脳梗塞と認知症を発症した父親の介護を行う。会社退職後は妻と家事をしながら、趣味に親しむ日々だという。健常者とのかかわりのなかで学び、支えられ、ときに葛藤しながら積み重ねた日々をふり返り、自分らしく生きるために大切なことを問いかける。四六判、112ページ、1100円(税込)。 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2025年度地方アビリンピック開催予定 9月 新潟県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 ※全国アビリンピックは10月17日(金)〜10月19日(日)に、愛知県で開催されます。 写真のキャプション 新潟 【P31】 ミニコラム 第48回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は大塚委員が執筆しています。ご一読ください。 働く喜びと幸せを感じられる障害者雇用を 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子  「障害者に月給10万円払える事業を」と、元ヤマト福祉財団理事長の故・小倉昌男さんが始めたスワンの事業。「障がい者雇用の場をつくり、自立と社会参加を応援し、働く喜びと幸せを感じられる社会を実現する」の企業理念に照らし、27年もの長きにわたり事業を展開している。「障害のある人がフロントヤードで働くこと」にこだわり続け、「障害のある人の働く喜びと幸せ」に向き合い続けている社員のみなさま、そして障害者スタッフたちの自信に満ちた表情に敬服する。  いまから25年前、私は小倉昌男さんとのご縁によってこの業界の仕事を始めた。ずいぶんと、時が流れた。社会は大きく変わった。就労支援の制度も変わった。企業の障害者雇用に対する意識も変わった。それはよいことだと思う。  最近の障害者雇用にかかわる方のなかには、「スワンベーカリー」を知らない方もいるのではないか。一般の客として利用ができるのがスワンのよいところである。機会をつくり一度スワンを訪れてほしいと思う。  法定雇用率達成が先行しがちな最近の障害者雇用。障害者雇用を外部化する動きも衰えない。小倉昌男さんは、いまの障害者雇用の状況をどうお感じになるだろう。そんなことも考えた。働く喜びと幸せを感じられる障害者雇用。そんな気持ちで障害者雇用を進める企業が増えることを願う。 【P32】 掲示板 障害者雇用の月刊誌「働く広場」がデジタルブックでいつでもお読みいただけます!  本誌はJEEDホームページで、デジタルブックとしても公開しており、いつでも無料でお読みいただけます。  また、最新号は毎月5日ごろにJEEDホームページに掲載されます。掲載をお知らせするメール配信サービスもございますのであわせてご利用ください。 自由に拡大できて便利! 読みたいページにすぐ飛べる! JEED 働く広場 検索 ※2021年4月号〜最新号まで掲載しています 読者アンケートにご協力をお願いします! ※カメラで読み取ったリンク先が「https://krs.bz/jeed/m/hiroba_enquete」であることをご確認ください。 回答はこちらから→ 次号予告 ●この人を訪ねて  一般社団法人ビーラインドプロジェクト代表理事の浅見幸佑さんに、視覚障害のある人が働くカフェの運営などを通してインクルーシブな社会を目ざす取組みについて、お話をうかがいます。 ●職場ルポ  株式会社ノーリツの関連会社として給湯器部品製造などを行う株式会社カシマ(茨城県)を取材。だれもがミスなく業務に取り組めるよう改善・工夫を重ねてきた現場をお伝えします。 ●グラビア  「令和7年度障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト」入賞作品をご紹介します。 ●編集委員が行く  増田和高編集委員が、1883(明治16)年創業で、2023(令和5)年にもにす認定を受けた植村牧場(奈良県)を訪問。知的障害のある人の雇用と職業生活への支援の取組みなどを取材します。 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_hiroba 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 取締役 大野聡士 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 武庫川女子大学 准教授 増田和高 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田淳 国際医療福祉大学 准教授 若林功 あなたの原稿をお待ちしています ■声−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 電話 043-213-6200(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●編集委託−株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 電話 03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 令和7年7月25日発行 無断転載を禁ずる 8月号 ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 【P33】 第45回 全国アビリンピック 障害者ワークフェア2025 〜働く障害者を応援する仲間の集い〜 入場無料 2025(令和7)年10月17日(金)〜10月19日(日) 10月17日(金)開会式 10月18日(土)技能競技および障害者ワークフェア 10月19日(日)閉会式 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 開催場所 愛知県国際展示場AICHI SKY EXPO 愛知県常滑市セントレア5-10-1 ●中部国際空港駅より徒歩5分 全国アビリンピック 第45回全国アビリンピックでは、全25種目の技能競技を実施します。全国各地から集った400人を超える選手たちが日ごろつちかった技能を披露し、競い合います。 なお、本大会は、第11回国際アビリンピック(2027年5月フィンランド・ヘルシンキにて開催)に向けた派遣選手選考会を兼ねて実施します。 障害者ワークフェア 障害者ワークフェアでは、「働く障害者を応援する仲間の集い」として、約100企業・団体による出展を予定しています(能力開発、就労支援、職場紹介の三つのエリアによる展示・実演のほか、ステージイベント、各種特設コーナーなど)。 当日はライブ配信も予定しています! アビリンピック 検索 主催 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)、愛知県 【裏表紙】 国立職業リハビリテーションセンター 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 指導技法等体験プログラムのご案内 訓練場面の見学や体験等を通して、疑問や不安を解消しませんか?  職業訓練上特別な支援を要する障害のある人の職業訓練技法等について理解を深め、新たな受入れや受入れの拡大に向けた今後の検討の参考にしていただくことを目的に、訓練場面の見学や体験等を行う『指導技法等体験プログラム』を実施しています。  障害者の職業能力開発のあらまし、障害者職業訓練の構成と運営等を学ぶ「障害者職業訓練初任者コース」や、発達障害者・精神障害者の特性、生活チェックシートの活用、訓練教材の体験(データ入力課題)等を学ぶ「支援入門コース」など幅広いコースを設置しておりますので、ぜひご参加ください。 コース名 開催日 コース概要 開催方法 支援入門コース 2025(令和7)年9月11日(木)〜12日(金) 精神・発達障害者等の職業訓練編 現地開催 (担当:国立職業リハビリテーションセンター) 2025年10月16日(木)〜17日(金) 発達障害を伴う知的障害者の職業訓練編 オンライン開催 (担当:国立吉備高原職業リハビリテーションセンター) 2025年10月23日(木)〜24日(金) 精神・発達障害者等の職業訓練編 オンライン開催 (担当:国立吉備高原職業リハビリテーションセンター) 専門支援実践コース 2025年10月8日(水)〜10日(金) 精神・発達障害者等の職業訓練編 現地開催 (担当:国立職業リハビリテーションセンター) 委託訓練コース 2026年1月16日(金) 精神・発達障害者等の職業訓練編 オンライン開催 (担当:国立職業リハビリテーションセンター) 対象者 ・障害者職業能力開発校、一般の職業能力開発校において職業訓練の運営等にたずさわっている方 ・委託訓練(障害者の多様なニーズに対応した委託訓練)を実施している機関において障害者職業訓練にたずさわっている方 ・都道府県人材開発主管課において障害者職業訓練の企画等にたずさわっている方 ※詳細については、下記ホームページ等をご覧ください お問合せ先 国立職業リハビリテーションセンター 職業指導部 技法普及課 https://www.nvrcd.jeed.go.jp/technique/experience/index.html 〒359-0042 埼玉県所沢市並木4-2 TEL:04-2995-1144 E-mail:shokureha-giho@jeed.go.jp 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 職業訓練部 訓練第二課 https://www.kibireha.jeed.go.jp/technique/information.html 〒716-1241 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 TEL:0866-56-9045 E-mail:kibireha-giho@jeed.go.jp 8月号 令和7年7月25日発行 通巻574号(毎月1回25日発行)