省庁だより 「卓越した技能者の表彰」制度、障害者部門の紹介 厚生労働省 人材開発統括官付 能力評価担当参事官室  「卓越した技能者(現代の名工)の表彰」制度は、技能の世界で活躍する職人や技能の世界を志す若者に目標を示し、技能者の地位と技能水準の向上、優れた技能の継承などを目的としている。  表彰は、厚生労働大臣が毎年1回実施しており、昭和42年に第1回の表彰が行われて以来、令和6年度の第58回の表彰までに7234名が表彰されている。  令和5年度より、「障害者部門」が新設され、これまでに5名が表彰されているが、その制度の趣旨と障害者部門の概要についてあらためてご紹介する。 卓越した技能者「障害者部門」の概要  「卓越した技能者の表彰」においては、きわめて優れた技能を持ち、活躍する国内の最高水準にある技能者を表彰しており、「障害者部門」では、国内で第一人者と目されるきわめて優れた技能を持ち、活躍する障害者を表彰している。  優秀な技能を持つ障害者が卓越した技能者として表彰されることで、ほかの障害を持つ技能者の模範となるよう、技能の研鑽をうながすとともに、活き活きと働ける就労環境づくりに資することで、障害者雇用の質をより一層高めることを目標としている。 卓越した技能者の要件  被表彰者は、次の@〜Cの全ての要件を充たす者であって、都道府県知事、全国的な事業主団体等、全国的な障害者団体、個人のいずれかの推薦を受けた者のうちから、厚生労働大臣が技能者表彰審査委員の意見に基づき決定する。 @きわめて優れた技能を有する者 A現に表彰に係る技能を要する職業に従事している者 B技能を通じて労働者の福祉の増進及び産業の発展に寄与した者 C他の技能者の模範と認められる者 卓越した技能者「障害者部門」の表彰対象者・障害区分  表彰対象者 障害者手帳の取得者  障害区分 @身体障害者 A知的障害者 B精神障害者 障害者部門被表彰者一覧 1 被表彰者名 瀧(たき)こと代(よ) 年齢 81歳(表彰当時) 職種名 紳士服仕立職 所属名 コトヨ洋服店 就業地 静岡県 技能功績の概要  紳士服製造について独学で技能を磨き、顧客の体型や好みなどに合わせて精緻(せいち)な製図を行い、後工程の仮縫いで手直しを発生させないことを心がけて日々技能の研鑚に努めた結果、県外からも依頼が来るようになった。自身が左上肢の機能障害となった後、技能向上を目的として出場した第7回国際アビリンピックでは、洋服・洋裁の二種目に出場し、洋服種目では銅賞を受賞した。  また、障害のある方や子育てによる離職者などに対して技能指導を行い、就職や開業へと導いた。 2 被表彰者名 中澤(なかざわ)昇一(しょういち) 年齢 57歳(表彰当時) 職種名 歯科技工士 所属名 和田精密歯研株式会社東京ラボ 就業地 東京都 技能功績の概要  氏は、聴覚障害がありながらも歯科技工士としてセラミックの補綴物(ほてつぶつ)の製作における卓越した技術を要する。  失われた歯をつくるにあたって前の状態にかぎりなく近い再現力、なおかつ隣り合った歯との調和させる技術に長けている。また、第41回全国アビリンピックにおいても金メダルを獲得している。  さらに、後進指導に関しても、自分の仕事の合間に後輩の指導やアビリンピック参加希望者に対し、助言と指導を行っている。 3 被表彰者名 齋藤(さいとう)正夫(まさお) 年齢 75歳(表彰当時) 職種名 ソフトウェア開発技術者 所属名 株式会社アクセス・テクノロジー 就業地 石川県 技能功績の概要  氏は視覚障害がありながら、デジタルデータが視覚障害者のコミュニケーション手段に有効であることに気づき、昭和58年よりデジタルデータを音声で読み上げるパソコン用ソフトウェア「スクリーンリーダー」の開発に着手し、改良を重ね、同ソフトウェアの普及・発展に努めた。このことにより、多くの視覚障害者がパソコンを使ったコミュニケーションを取れるようになり、視覚障害者の社会参加・社会進出を広げた。  また、これに刺激を受けた視覚障害者はソフトウェアの開発者等を目ざし、彼らへの指導にも尽力した。 令和6年度 1 被表彰者名 山下(やました)弥壽男(やすお) 年齢 62歳(表彰当時) 職種名 印判師 所属名 有限会社山下弘栄堂 就業地 京都府 技能功績の概要  氏は、聴覚障害があることから、手に職を持つことを父親にすすめられ、家業である印章業へ就職と同時に弟子入りをした。師匠の傍らに座し、その技術を見て盗み身につけるよういわれ繰り返し練習を重ねた。かいあって印章彫刻、篆刻(てんこく)において「字法、章法、刀法」をきわめた。印面の粗密を考え整った美しさだけでなく力強い印章をつくり上げる。  第16回技能グランプリにおいて労働大臣賞を受賞した。障害に怯(ひる)むことなく先頭に立って技能士会長を務め、後進の指導や技術の向上、業界の発展に貢献している。 2 被表彰者名 植松(うえまつ)譲(ゆずる) 年齢 58歳(表彰当時) 職種名 プリント基板組立工 所属名 株式会社フカサワ 就業地 静岡県 技能功績の概要  聴覚障害があることで作業指示の伝達がうまくいかず、納期遅れ等が発生していたが、筋ジストロフィーを持つ上司のもとで指導を受けたことにより改善された。現在では、プリント基板の試作や改造において極小部品が密集するなかでも手作業で不良なく完成させることができる卓越した技能を有し、第30回全国アビリンピックでは、大手メーカの選手がいるなか、金賞を受賞した。  また、社内での技能検定等の講習会講師や、自身の後継者育成のため育成計画を立案している。 照会先  厚生労働省人材開発統括官付能力評価担当参事官室 技能振興係