研究開発レポート 効果的な就労支援に必要な知識・スキル等の具体的内容や習得のための組織的取組み等について 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 1 はじめに  地域の障害者就労支援の成果には、幅広い知識・スキル等の習得や組織の人材育成の取組みが関連していますが、それらは従来、必ずしも雇用と福祉にわたる関係者の共通認識として言語化・体系化されてきませんでした。  そこで、障害者職業総合センター研究部門では、研修等の効果的な内容の検討に資することや、就労支援実務者と人材育成担当者が共通認識をもって専門性の向上に取り組むことができるよう、多様な就労支援実務者が効果的な支援を実施するために必要な知識・スキル等の内容を明らかにすることを目的とし、学識経験者や全国の障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所および就労定着支援事業所を対象とした調査を行いました。 2 調査研究の内容 (1)「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の言語化・体系化  国内外の先行研究をふまえつつ、わが国における就労支援分野のリーダー的な有識者へのヒアリング調査や、地域で効果的な就労支援を実施している就労支援実務者からの意見を集約しました。その結果から、「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の具体的内容について、16領域・65項目に言語化・体系化しました(表1)。 (2)人材育成における知識・スキル等の習得や習得方法の優先度  言語化・体系化された「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の具体的内容について、就労支援機関の現実的な優先度の認識にばらつきがあることをふまえながら専門性や支援力の向上を図るという観点から4領域に分類しました。 @障害者本人を中心とした多職種連携による職業生活の支援 A地域の企業や関係機関との関係構築と障害者雇用の周知・啓発 B職場適応・定着のための障害者本人と企業双方への支援 C障害者本人の自己理解と自信向上の支援  また、「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の習得にあたり優先的とされていた方法について、表2の通りに分類しました。 (3)知識・スキル等の内容別の経験年数に応じた役割  人材育成に組織的に取り組んでいる就労支援機関へのヒアリング調査の結果から、表3の通り、知識・スキル等の内容別の経験年数に応じた役割に関する内容を整理しました。 (4)まとめ  これらの調査結果から、「効果的な就労支援に必要な知識・スキル等」の具体的内容が言語化・体系化され、知識・スキル等の習得や習得方法の優先度、就労支援人材の育成に関する組織的取組みについても明らかになりました。その全体像は、図1の通りです。これらの成果については、就労支援機関等で実施する人材育成(研修の内容、OJTで取り組む内容、地域のネットワーク会議での情報交換のテーマ等の検討)においてご活用いただけます。 3 おわりに  本レポートの元となる「調査研究報告書180(※)」では、今回ご紹介した内容以外にも、効果的な就労支援に必要な知識・スキル等の具体的内容やこれらの充足のための取組みなどについてまとめています。  また、巻末資料として、効果的な就労支援に必要な知識・スキル等の具体的内容(完全版・要点版・4領域版)、研修や助言・援助などのニーズを検討できるチェックリスト、就労支援機関における組織的な人材育成の取組みを行う際の参考となる具体的なポイントや留意点をまとめた資料を作成しています。よろしければ下記ホームページからご覧ください。 ※「調査研究報告書No.180 就労支援実務者の専門性と支援力に資する知識・スキル等に関する研究」 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku180.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 表1 「効果的な就労支援を行うために必要な知識・スキル等」の16領域 @ 障害者の就労支援の意義 A 就労支援における支援者の基本的姿勢 B 障害者就労支援に関する法令・制度・サービス C 企業経営と雇用管理 D 様々な相手(障害者・事業主・関係機関・家族等)との相談・説明 E 支援者間の記録・伝達 F 障害者の自己理解・自己選択・自己決定の支援 G 就労支援における障害者のアセスメント H 就労支援のプランニング I 職業生活に必要なスキル習得に向けた支援 J 仕事の選択・求職活動や職場への移行の支援 K 職場(実習中含む)への適応支援 L 職業生活を充実させるための体調管理や生活の支援 M 障害者雇用に取り組む企業のアセスメントと支援 N 関係機関や家族との連携 O 障害者雇用の啓発と支援人材の育成 表2 就労支援機関において実際に優先的とされていた習得方法 優先的とされていた習得方法 知識・スキル等の内容 研修中心 ・支援者が持つべき心構えと倫理意識 ・障害者差別の解消・禁止、虐待防止の理解と対応 ・障害者本人の自己肯定感の回復や自己選択・自己決定 ・障害者本人の強み・能力の把握 等 OJT中心 ・支援者が取るべき態度 ・記録・伝達のスキル ・求職活動や退職・再就職支援 ・職場・職務の調整支援 等 情報交換中心 ・関係機関との連携 ・企業情報の収集 ・生活支援 等 上記以外の組み合わせ(複合的な方法) ・相談の実施や支援計画の説明 ・事業主への支援 等 表3 知識・スキル等の内容別の経験年数に応じた役割 支援者が持つべき心構え・倫理意識・態度 就労支援における障害者のアセスメント 事業主との連携 地域の支援ネットワークづくり 初任者(おおよそ3年目まで) ・外部研修や内部研修による基本部分の習得 ・初回面接への同席・実施 ・他事業所への見学とその資料による学習 ・事業所内でのアセスメント会議への参加 等による基本部分の習得 ・企業訪問への同行 ・OJTや研修を通して企業も支援対象であることを理解 ・面談会への参加 ・地域ネットワーク会議への同行 中堅(おおよそ5年目まで) ・初任者へのOJT ・主担当としての面接の実施 ・アセスメント会議の運営・ファシリテーション ・主担当としての企業見学・訪問 ・職場定着支援の実施 ・地域のネットワークへの積極的参加 ・地域ネットワーク活動の提案 中堅以上 ・内外部での講師としての指導 ・初任者の面接への同席・OJT ・企業評価の実施 ・企業支援の実施 ・ジョブコーチ資格の取得 ・行政機関等への就労支援に関する情報発信 ・地域ネットワークの運営 図1 本調査研究の成果の普及・活用に関する全体像 知識・スキル等 障害者本人を中心とした多職種連携による職業生活の支援に関する知識・スキル等 障害者本人の自己理解と自信向上の支援に関する知識・スキル等 職場適応・定着のための障害者本人と企業双方への支援に関する知識・スキル等 地域の企業や関係機関との関係構築と障害者雇用の周知・啓発に関する知識・スキル等 現実的な優先度が高い習得方法 研修中心 OJT 情報共有・事例検討 効果的な組織的人材育成実施のための創意工夫 ・外部研修(外部機関主催の研修)の受講効果を高める取組み ・内部研修(所属する法人・機関のみで実施される研修)の受講効果を高める取組み ・OJTの効果を高める取組み ・情報共有・事例検討の効果を高める取組み 雇用と福祉の分野横断的な知識を持った就労支援人材