【表紙】 令和7年8月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第575号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2025/9 No.575 職場ルポ 柔軟な配置転換や現場の工夫で「共存共栄」の職場へ 株式会社カシマ(茨城県) グラビア 令和7年度障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト入賞作品 「絵画コンテスト 働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト 職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 編集委員が行く 顔の見える仕事と業務マッチング 植村牧場株式会社(奈良県) この人を訪ねて 「見ても見なくても見えなくても楽しめる」を増やす 一般社団法人ビーラインドプロジェクト 代表理事 浅見幸佑さん 「生活に役立つロボットの研究者」福岡県・彦田(ひこだ)旺助(おうすけ)さん 9月は「障害者雇用支援月間」です 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 9月号 【表紙2】 右下のホームページ もしくは下の2次元コードから参加申込みをお願いします。 入場無料 第33回 職業リハビリテーション 研究・実践発表会  当機構(JEED)では、職業リハビリテーションの研究成果を広く周知するとともに、参加者相互の意見交換、経験交流を行う場として「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を毎年開催しています。  この発表会では「特別講演」、「パネルディスカッション」、分科会形式による「口頭発表」、「ポスター発表」を行います。ぜひご参加ください。 2025年 11月12日13日(水) 13日(木) 会場 東京ビッグサイト会議棟 (東京都江東区有明3-11-1) 事務局:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 研究企画部企画調整室 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9067/Mail:vrsr@jeed.go.jp HP:https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/vrhappyou-index.html 11月12日[水] ◆基礎講座 職業リハビリテーションに関する基礎的事項等に関する講義 「精神障害の基礎と職業的課題」 「『就労支援のためのアセスメントシート』を活用したアセスメント」 ◆支援技法普及講習 職業センターで開発した支援技法の紹介 「高次脳機能障害者の就労に役立つ視聴覚教材」 「発達障害者の強みを活かすための支援」 ◆特別講演 「誰もが力を発揮できる職場づくり〜一人ひとりが生き生きと成長し、能力を発揮できる組織へ〜」 龍田久美氏(オリンパスサポートメイト株式会社 代表取締役社長) ◆パネルディスカッションT 「“働き続けたい”を支える〜高齢化する障害者雇用の今とこれから〜」 11月13日[木] ◆研究・実践発表(口頭発表・ポスター発表) 研究者、企業関係者などが研究成果や実践報告などを発表します。口頭発表は、障害者雇用に関するテーマを設定した分科会ごとに登壇形式で行います。 ポスター発表は、テーマごとに発表者が自作のポスターを展示し、参加者と直接意見交換を行います。 ◆パネルディスカッションU 「“定着・活躍・成長”につながる障害者雇用×雇用の質を高めるための支援を考える」 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2025年9月号 NO.575 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 この人を訪ねて 2 「見ても見なくても見えなくても楽しめる」を増やす 一般社団法人ビーラインドプロジェクト 代表理事 浅見幸佑さん 職場ルポ 4 柔軟な配置転換や現場の工夫で「共存共栄」の職場へ 株式会社カシマ(茨城県) 文:豊浦美紀/写真:官野貴 クローズアップ 10 はじめての障害者雇用〜職場定着のための取組み〜 第1回 職場定着のための基本的支援とその留意点@ JEEDインフォメーション 12 国立職業リハビリテーションセンター 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター企業担当者向けセミナーのご案内/障害者職業訓練推進交流プラザのご案内/2025(令和7)年度12月開催・1月開催 研修のご案内 グラビア 15 33 令和7年度障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト入賞作品 「絵画コンテスト 働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト 職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 エッセイ 19 障害のある人の地域生活支援について 最終回 知的障害のある人の「当事者参加」を進めよう 日本社会事業大学社会事業研究所 客員教授 曽根直樹 編集委員が行く 20 顔の見える仕事と業務マッチング 植村牧場株式会社(奈良県) 編集委員 増田和高 省庁だより 26 特別支援学校等における就労支援や共生社会の実現に向けた生涯学習の推進 文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課 総合教育政策局 男女共同参画共生社会学習・安全課 障害者学習支援推進室 研究開発レポート 28 高次脳機能障害者の自己理解を進めるための支援技法の開発 障害者職業総合センター職業センター ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 第45回全国アビリンピック 障害者ワークフェア2025〜働く障害者を応援する仲間の集い〜 ※「心のアート」は休載します 表紙絵の説明 「いろいろなロボットをつくりたいと思いこの題材を選びました。太陽に照らされているところと、照らされていないところを塗り分けるのに苦労しましたが、うまく塗れてうれしかったです。受賞を聞いたときには、本当にびっくりしました」 (令和6年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 中学生の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-3】 この人を訪ねて 「見ても見なくても見えなくても楽しめる」を増やす 一般社団法人ビーラインドプロジェクト 代表理事 浅見幸佑さん あさみ こうすけ 2003(平成15)年、東京都生まれ。2023(令和5)年、立教大学文学部在籍時に「一般社団法人ビーラインドプロジェクト」を設立し、ボードゲーム「グラマ」の開発や福祉・障害をテーマにしたイベントなどを企画運営する。2024年に「大学SDGs ACTION! AWARDS」(朝日新聞社主催)で準グランプリ受賞。2025年2月に視覚障害のあるスタッフがいる「Moonloop Cafe(ムーンループ カフェ)」(東京都杉並区)をオープンさせた。 視覚の障害に関係なく楽しめるゲーム ――浅見さんたちは大学2年次に、視覚障害がある人もない人も一緒に楽しめるボードゲーム「グラマ」を開発しましたね。経緯を教えてください。 浅見 きっかけは大学1年次に受けた福祉の授業です。なかでも視覚障害に興味を持ちました。もともと僕は視覚優位なものが好きで、ゲームや漫画、アートなどをきっかけに友だちもつくってきましたが、そうすると視覚障害のある人と一緒に楽しめるものがないと気づき、仲間5人と一緒に開発することにしました。  重視したのは「みんなが同時に楽しめる」ことです。例えばサッカーなどで歓声が上がると、見えていない人は、ゴールが決まったのか惜しくも外れたのか、すぐにはわかりません。時間差で喜ぶのは、僕だったら少しつまらないと思ったのです。  成功・失敗や勝ち負けを目でも耳でも同時にわかる仕組みとして、音とシーソー、重さを活用したボードゲームを思いつきました。当事者団体などにフィードバックをもらいながら完成したのが「グラマ」です。2人または4人が、鈴つきの小袋を手に「家のなかにあるもの」といったテーマを決めて間接的なヒントを出し合いながら、多様な形状の重りを出し入れし、全員が同じ重さを目ざすというものです。最後に十字のシーソー型の天秤に載せ、同時に手を放して釣り合えば成功、バランスを崩したら鈴の音とともに失敗とわかります。  クラウドファンディングで資金を集め、「数十台つくって寄贈できたらいいよね」ぐらいの気持ちでしたが、予想以上に反響があり、2024(令和6)年に商品化しました。課題は、材料費が6000円もかかることで、販売額6500円は高すぎるうえに事実上赤字です。コンセプトを広げることが目的なので続けていますが、ビジネスとしてはむずかしいですね。 「ビーラインドプロジェクト」設立 ――ゲーム開発とともに、一般社団法人ビーラインドプロジェクトを設立されました。 浅見 ミッションは「見ても見なくても見えなくても楽しめる」を社会に増やすことです。2023年に仲間と立ち上げたとき、名前は最初ローマ字でBlined Projectとしていました。Blind(目が不自由な)に、Be lined(横に並ぶ)の意味をあわせた造語ですが、視覚障害のある人が端末で聴き取る場合にブラインドプロジェクトと読まれてしまうため、カナ表記に統一しました。  視覚障害に関するイベントやワークショップなども開催していますが、そこで多くの当事者と知り合うなかで、予想以上に、彼らを取り巻く課題があることも知りました。なかでも多かったのが「働くことへのハードル」です。やってみたいアルバイトがないとか、就職先が非常に限られているといった悩みを聞きました。  僕自身は、働くことを幸せなものにできるかどうかと、人生を幸せにできるかどうかは、ほぼ同義ではないかと感じています。精神的な成長や自己実現の場にもなる機会を、見えないとか見えにくいというだけで閉ざされるのは納得できませんでした。  そこで僕たちは、視覚障害のある人も「楽しんで働ける場」をつくってみようと動き始めました。彼らの希望で多かったのが接客業で、カフェや洋服店などが候補にあがるなか、ちょうどシェアリングコーヒーショップ「蜃気楼(しんきろう)珈琲(こーひー)」のオーナーさんとつながりました。蜃気楼珈琲は焙煎(ばいせん)機やキッチンなどを共有し、経営に挑戦しながら互いに学べる仕組みで、資金の少ない僕らでも始められます。そのお店の月曜夜の部(17時半〜21時半)を借り、2025年2月にオープンしたのが、視覚障害のあるスタッフがいる「Moonloop Cafe(ムーンループ カフェ)」です。 視野の違いを月の満ち欠けで表現 ――Moonloop Cafeには、どんな特徴や工夫がありますか。 浅見 このカフェをつくるにあたり、視覚障害を違った視点からとらえてみようと話し合って出てきたコンセプトが「視野の違いを月の満ち欠けで表現する」でした。視覚障害というと全盲を想像する人が多いなかで、人によって視野の欠け方が違うことを、月の満ち欠けと融合させて体験してもらうというものです。  現在、店のスタッフを務めている視覚障害のある学生は、見え方が全盲の人と、右目がまったく見えず左目も弱視の人、弱視の人の3人です。担当日にあわせ新月、半月、おぼろ月と名づけた特別メニューとして、スパイスなどの調合を変えたチャイとデザートを提供します。晴眼者もスタッフに入り、協力して運営しています。  12席ある店内は、視覚障害のある人の動線を考慮したレイアウトに変更しました。カトラリーやカップをあらかじめトレーに並べ、テーブル席で直接チャイなどを注ぎ入れる手順です。デジタル音声が出るスケールなどを活用し、カクテルもつくります。フードメニューも増やし、最近全盲のスタッフが「食べやすくて映えるパフェ」を開発しました。 「楽しい雇用」生み出していきたい ――これまでのカフェの手応えと、今後の展開について教えてください。 浅見 同じ視覚障害のある人や関係者を中心にカフェの認知度が上がっていて、問合せも多いです。晴眼者のお客さまからは、店内にある点字の一覧表や点字器に触って「よい体験になった」、「スタッフと気軽に話せて楽しかった」などの感想をもらいました。また全盲のスタッフは「カフェで働いてみたいという憧れが現実になったとき、それぞれ選択肢から外していたのは自分自身だったと気づいた。同じように諦めている人の背中を押してあげたい」と話してくれています。  大きなミッションの「楽しい雇用を生み出す」現場として、自分たちの思いやエネルギーが存分に発揮されていると感じています。課題は来店者数の波が大きいことで、障害の有無に関係なく多くの人たちにどう興味を持ってもらうか探っているところです。  僕自身は今年9月の大学卒業後、NPO法人に就職し、一般社団法人ビーラインドプロジェクトと二足の草鞋(わらじ)になります。社会経験や知見も重ねたうえで、数年後には新しい事業を始めたいと考えています。欧州では視覚障害者団体が4ツ星ホテルを経営している例もあると聞きました。僕たちも、視覚障害のある人たちが働く選択肢を広げられる雇用の場をつくったり、視覚障害にかかわる課題を解決していったりできるビジネスを目ざします。  スポンサー企業も大募集中です。障害者雇用や福祉の分野で協業できることも多いと思いますので、関心のある企業の方は、ぜひご連絡ください。お待ちしています。 【P4-9】 職場ルポ 柔軟な配置転換や現場の工夫で「共存共栄」の職場へ ―株式会社カシマ(茨城県)― 金属部品を製造する会社では、障がいのある従業員の得手不得手を見きわめ、作業の改善や工夫を重ねながら「共存共栄」の職場を目ざしている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 株式会社カシマ 〒315-0056 茨城県かすみがうら市上稲吉(かみいなよし)1830-1 TEL 029-834-8855 FAX 029-834-7716 Keyword:知的障害、精神障害、製造ライン、特別支援学校、ジョブコーチ POINT 1 本人の得手不得手を見きわめながらの指導や柔軟な配置換え 2 職場全体で、だれもがミスなく取り組みやすいよう改善・工夫 3 小グループのランチ会や社外活動などでコミュニケーションを図る 給湯器の金属部品製造  金属部品製造業の「株式会社カシマ」(以下、「カシマ」)は、1948(昭和23)年創業の矢口製作所が法人化などを経て、2009(平成21)年に、給湯器メーカー「株式会社ノーリツ」の孫会社として誕生した。おもに給湯器の金属部品をプレス板金から溶接・組立・加工まで受け持っている。  カシマが障がい者雇用に取り組み始めたのは2011年。専務取締役を務める横山(よこやま)正人(まさと)さんは「地域の特別支援学校から職場実習生を受け入れたことを機に、継続して採用してきました」と説明する。いまでは全従業員81人のうち障がいのある従業員は13人(知的障がい8人、精神障がい5人)で、「障害者雇用率」は19.88%になるという(2025〈令和7〉年4月末現在)。13人は、プレス加工や配管切断、製品検査、梱包・ピッキングなどさまざまな業務を任され、「もはや欠かせない戦力」(横山さん)となっているそうだ。  障がい者雇用を始めた当初は、全員を正社員として採用していたが、フルタイム勤務がむずかしいケースが生じたこともあり、4年ほど前からはいったん契約社員からスタートし、勤務時間など一定条件をクリアすれば正社員に登用する形となっている。現在13人のうち11人が正社員だ。  カシマは2019年、「障害者雇用優良事業所」の(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰を受けた。これまでの会社の取組みと、製造現場で活躍するみなさんを紹介する。 人材確保のために  これまで障がい者雇用にかかわってきた1人が、常務取締役で工場長を務めている箱根(はこね)一徳(かずのり)さんだ。初めて特別支援学校から実習生を受け入れたときの経緯について語ってくれた。  「当時は業界内での人材獲得競争が厳しくなっており、外国籍の従業員を中心に雇用を増やしていましたが、それでも足りませんでした。受注生産も増えていた時期で、人材確保は大きな課題です。そんなとき、たまたま茨城県立水戸高等特別支援学校から職場実習の依頼があり、一度受け入れてみようということになりました」  受け入れた実習生2人には、バリ取りや仕分けなど比較的簡単な作業を2週間ほど行ってもらった。「まずは周囲とのコミュニケーションがしっかりとれるかを注視していましたが、まったく問題なく、言葉の壁がある外国籍の方より指導しやすいと感じました」と箱根さん。くり返し作業を予想以上にきちんと取り組み続けたことも好感触で、2人の採用を決めたという。  入社後は、障害者就業・生活支援センターから派遣されたジョブコーチに定着支援をしてもらったことも大きな助けになったという。箱根さんは「最初は職場として何に配慮し、どう接したらよいか不安な部分もありました。ジョブコーチが2人を指導する様子を見ながら、学べることも多かったですね」とふり返る。  入社後の2人については、箱根さんたちがあらためて得手不得手を見きわめながら、本人の意向を聞きつつ柔軟に担当業務を変更し、いまでは大事な戦力になっている。そこで、それぞれが職場で働く様子を見せてもらった。 手先の器用さを買われ  「工作が好きで、モノづくりの仕事に就きたいと思っていました」と話してくれたのは1人目の箱田(はこた)望(のぞむ)さん(32歳)。入社後はプレス加工グループに配属され、部品の形状に合わせた型をプレス機に取りつける作業を3カ月程度で習得。その後も順調に上達していったが、数年ほどして、精神的に不安定になる様子が増えてきた。箱根さんによると「自分の仕事ぶりを周囲と比べ、気にしてしまうようでした」。全体の作業効率にも影響するため、配置転換を検討することになった。  工場長の箱根さんは、箱田さんが以前職場の掲示板向けに上手なイラストを描いてくれたことを思い出し、「手先の器用さを活かせるように」と組立梱包作業を提案した。器用さや判断力が必要だが、ほぼ1人で完結する作業だ。箱田さんも意欲を見せてくれたことからトライすることになった。  指導にあたった、製造部製造2課課長の石坂(いしざか)鶴夫(つるお)さんによると「箱田さんは作業の飲み込みが早く、ていねい」とのことで、すぐに新しい仕事になじんでいったそうだ。  その後、組立梱包作業は職場からなくなったものの、その実績を買われ、現在は金属配管の切断・穴あけ作業を、やはり1人で担当している。  現場では、切断サイズや穴あけ場所を間違えずにすむ治具を使っているほか、トラブルや疑問が生じたときには周囲に音と光で知らせる呼び出しベルもある。「もともと外国籍の従業員向けに工夫したものですが、このおかげで箱田さんも安心して最初から単独作業ができました」と箱根さん。一方で、気持ちに余裕がなくなったりすると作業に影響が出やすいことから「“慌てないでいいよ”と声がけしたり、注意するときは声のトーンを落として穏やかに伝えるよう心がけています」(石坂さん)とのことだ。  箱田さん自身は「自分のペースと責任で仕事ができ、やりがいもあります。仕事のあとは機械や現場の掃除をして、ルーティン作業を意識できるようになり、上司から信頼の言葉をもらったことがうれしかったです」と教えてくれた。ちなみに箱田さんはマラソンが趣味で、「かすみがうらマラソン」の10マイルコースも好タイムで完走しているそうだ。 コツコツ作業を続ける力  2人目の田山(たやま)裕也(ゆうや)さん(32歳)は入社当初、スポット溶接作業を担当していた。「おっとりした性格なので、単独での作業が合うだろうと判断しました」(箱根さん)。  ただ、部品ごとに溶接位置を変えるなどの複雑な作業だったことで、心配性の田山さんが判断をあおぐことが増え、周囲の負担が大きくなってしまった。本人も落ち込むようになったことから、配置転換を検討することにしたという。そして本人の「やってみたい」との意思も尊重し、梱包作業などを経験してもらった。  だんだんと仕事に自信が持てるようになった田山さんは、現在は品質管理部品質管理グループで製品検査を担当している。箱根さんは「田山さんは、どんな作業もコツコツ集中して取り組み続けられるので、たくさんの部品が良品か不良品かを見きわめる作業に向いていると考えました。1人で作業をするので、精神的な負担も軽いと思います」。  この日も、バーナーコーンと呼ばれる給湯器の部品を1個ずつ手に取って、針のようなもので内側のすき間などを確認していた。  田山さんは、これまでをふり返り「最初は仕事に慣れず、遅刻したこともあります。積極性のなさが裏目に出て、苦しくて辞めたくなったこともありました。でもいろいろな仕事をしていくなかで、検査作業は自分に合っていると感じています」と語ってくれた。  品質グループリーダーを務める山口(やまぐち)健一(けんいち)さんは「田山さんは仕事を最後まできちんとやり抜き、検査できる品目も増えました。急ぎの検査にも対応してくれます。品質管理に関する知識やスキルを向上させて、さらに活躍してほしいですね」と激励する。田山さんも「みんなと協力して苦労しながら製品を仕上げ、達成感を持てるようになりました。品質最優先の約束を守り続けられるようがんばりたいです」と話す。  ちなみに田山さんは、職場の有志によるボランティア活動も楽しみにしており、箱田さんが出場している「かすみがうらマラソン」では給水ボランティアを務めているそうだ。 プレス加工で予習欠かさず  カシマでは、箱田さんと田山さんの職場定着を機に、継続的に障がい者雇用を進めてきた。横山さんによると「あくまで戦力として雇用しますので、採用時に本人から念入りにヒアリングし、場合によって実習期間も延長するなどして慎重にマッチングを判断しています」という。  特別支援学校だけでなく障害者就業・生活支援センターからも希望者の実習を受け入れ、採用につなげている。その一人、製造部製造1課プレスグループの小野(おの)隆之(たかゆき)さん(45歳)は、2014年の入社以来、プレス機を使った金属加工を担当してきたベテランだ。以前は介護職として働いていたという小野さんは、「人と接する仕事に向いていなくて、負担になっていました」と明かす。  一方で小野さんは実習時から、仕事にまじめに向き合う姿勢が見られていた。箱根さんによると「勉強熱心で、一日の仕事が終わると、自分なりに明日の予習を毎日やっていました。いまも続けているようです」と感心する。プレスグループリーダーを務める臼井(うすい)寿也(としや)さんも、「小野さんの長所は、仕事を覚えようと努力することです。作業内容を理解してもらうまで苦労もありましたが、本人もメモを取って忘れないようにしていました。いまは周囲と同じように作業をし、頼みごとにもよく対応してくれます」と評価する。  作業は、数秒ごとに1回の割合で金属板を入れ替えるので、集中力も必要だ。小野さんは「金型によって段取りの仕方が違うので、それに慣れるまでが苦労しました」と話しつつ、「モノづくりという仕事が合っていると思うので、続けてこられました。今後はほかの業務、例えばタップ加工なども担当できるようになりたいですね」と意欲を見せてくれた。 粘り強い支援と努力  なかには採用後、雇用継続が困難と思われる状況になっても、周囲の粘り強い支援と本人の努力で、定着と戦力化につながったケースもある。  久米(くめ)耕平(こうへい)さん(23歳)は、特別支援学校在籍時の職場実習を経て2020年に入社し、製造部製造2課スポットグループで梱包作業を担当することになった。  顧客から注文を受けた数種類の部品を組み合わせて梱包するため、ある程度の商品知識や選別・判断力などが必要だという。そこで活用されているのが「絵皿(えざら)」と呼ばれる大きな板とバーコード照合だ。必要な1セット分の部品の形に合わせて型抜きされた専用トレーに、バーコードで照合した部品をはめ込むことで間違いを防止できる。絵皿は現在10種類ほどあるそうだ。以前、ほかの従業員のために改善を重ねて完成させたもので、「だれでもミスなく完成できます」と箱根さん。久米さんも、当初はジョブコーチの支援を受けながら無事に習得した。  ところが、その後しばらくして、勤務中に長い時間トイレにいたり、作業に波が出てきたりするようになった。  そこで、管理部経理・総務課で課長を務める岩浪(いわなみ)真弥(まや)さんが対応に乗り出した。障害者職業生活相談員でもある岩浪さんは、定着支援を担当してもらった障害者就業・生活支援センターのジョブコーチに相談し、再び現場で指導してもらうことにした。岩浪さんや久米さんの母親も一緒に現場で見守る日々だったそうだ。  またジョブコーチの助言を受けて岩浪さんは、久米さんと交換日誌も始めた。「毎日の作業内容を点数化して一緒に確認し、親御さんにもコメントをもらい、みんなで叱咤激励の言葉をかけていましたね」(岩浪さん)  そうして1年ほど経ったころ、岩浪さんが「もう明日から1人でもがんばれるね」というと、本当に翌日から独り立ちできたという。専務取締役の横山さんが「いまでは逆に、ルールと手順を守りながら黙々と梱包を仕上げています。ほかの従業員でもなかなかできません」と舌を巻くほどだ。岩浪さんは「ときに厳しい母親役だったかもしれないですが、見守られながら仕事を続けるうちに、続けること自体に慣れていったのかもしれませんね」と安堵(あんど) する。  久米さんに当時のことを聞いたところ、「あのときは仕事を続けられるか不安でした。日誌で、岩浪さんとやり取りできたことがよかったです。いまは自分で組み立てる仕事ができているので、もっと早く作業できるようになりたいです」と元気に答えてくれた。 社内蓄積の集大成も  これまでカシマでは、外国籍や障がいのある従業員のために重ねてきた工夫や改善を、全職場に波及させることで「全社的に働きやすい環境づくり」を図ってきたという。  その集大成の一つが、部品ストアと呼ばれる商品ピッキング作業の現場だ。「以前は、商品知識を熟知したようなベテランでないと務まりにくい部署でした」と箱根さんが説明する。というのも1500種以上の商品が、似たような名前や6桁もの品番で並び置かれていたため、品数が増えるにしたがい誤出荷してしまうことも少なくなかったそうだ。  そこで6桁の品番を4桁の背番号として整理し直し、注文書に反映。商品棚も背番号順に番地のように表示して、見つけやすくした。「さらにバーコードで二重チェックすることで、だれがやっても、ミスなくスムーズにピッキングできるようになりました」(箱根さん)  この部品ストアのある管理部管理課資材グループで働いている1人が、2022年入社の小島(こじま)有斗(ゆうと)さん(21歳)だ。  特別支援学校3年次に受けた職場実習では、出荷先から戻ってきた空ケースの片づけなどを担当し、「みなさんに温かい対応をしてもらって、仕事もていねいに教えてもらいました」という小島さんだが、入社後は、「ピッキング作業を覚えるのに苦労しました」とふり返る。その焦りからか、たまに感情的になることもあった。資材グループリーダーの飯塚(いいづか)祐司(ゆうじ)さんは、「おだやかな声がけを意識しながらも、しっかり返答するまで何度もくり返すなどコミュニケーションの指導を続けました」という。  一方で岩浪さんが家族と連絡を取り合い、本人に従業員としての自覚をうながしてきたところ、「この数カ月で急にしっかりしてきて驚いています」(横山さん)。理由は本人も明らかにしていないが、最近うれしかったことについて「仕事の量を三つ以上任せてもらえたことです」と話していた。  箱根さんは「彼なりに、周囲から必要とされていることに気づき、それがモチベーションにつながったのかもしれませんね」。欠勤や早退も激減した小島さんは「今後は少しでもミスがないよう取り組みたいです」と笑顔で話してくれた。 「共存共栄」の実現を目ざし  障がいのある従業員が増えてきたなか、カシマでは数年前から、少人数によるランチ会も行っている。企業在籍型ジョブコーチでもある横山さんが、箱根さんとペアを組み、障がいのある従業員2人と一緒に4人で近くの飲食店などでランチをともにするというものだ。1人あたり年3回ほど参加するという。  「彼らと雑談しながら、仕事や職場についての悩みや不満、私生活の様子などを第三者的な立場で聞き、必要なら現場にもフィードバックする目的でした。ただ、やはり私たち2人だと、少し圧迫感があるようなので、いまでは岩浪さんともう一人の女性従業員にお願いしています」(横山さん)  食後にはアンケート用紙も配り、その場で話せなかったことや感想などを記入してもらっているそうだ。  「もう職場には慣れた人たちばかりなので、最近はもっぱら世間話が多いですね。でも、そうやってたまに外で好きなものを食べながらおしゃべりすることがリフレッシュにもなっているようで、楽しみにしている従業員が多いです」(岩浪さん)  職場外でのコミュニケーションを深めてもらおうと、社内行事にも力を入れている。地域清掃やマラソン大会でのボランティア活動のほか、有志によるバス貸し切り社員旅行、ノーリツグループでの夏祭りイベント、忘年会などには、毎年参加する従業員も多いそうだ。  横山さんは「コロナ禍で一時中止していた行事も復活し始めています。80人ほどの職場規模では、日ごろから職場内のコミュニケーションを軸にしたまとまりも重要だと思っています。全員が戦力ですから」として、「みんなで働いて、みんなで利益を出すために、私たちが企業理念に掲げている『共存共栄』の実現に向けて、より働きやすく、生産性を上げられる職場環境づくりを目ざしていきます」と話してくれた。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社カシマ様のご意向により「障がい」としています 写真のキャプション 株式会社カシマは、金属部品のプレス板金や溶接、組立を手がける 株式会社カシマ専務取締役の横山正人さん 常務取締役で工場長の箱根一徳さん 製造した部品は給湯器の内部部品として使用される 製造部製造2課の箱田望さん 工作機械で金属配管に穴をあける箱田さん 製造部製造2課課長の石坂鶴夫さん 品質管理部品質管理グループの田山裕也さん バーナーコーンを検査し、微調整を行う田山さん バーナーコーン内部。部品にあけられた隙間を検査し、微調整する 品質グループリーダーの山口健一さん 製造部製造1課プレスグループの小野隆之さん 小野さんは、プレス加工を担当している プレスグループリーダーの臼井寿也さん 製造部製造2課スポットグループの久米耕平さん 部品の形に合わせて型抜きされた絵皿に部品をセットする久米さん 管理部経理・総務課課長の岩浪真弥さん 部品ストアの棚には4桁の背番号が番地のように表示されている 管理部管理課資材グループの小島有斗さん 部品ストアでピッキング作業にあたる小島さん 資材グループリーダーの飯塚祐司さん 【P10-11】 クローズアップ はじめての障害者雇用 〜職場定着のための取組み〜 第1回 職場定着のための基本的支援とその留意点@  障害のある人をはじめて雇用する企業にとって、雇用そのものの実現は大きな一歩です。しかし、障害のある人が「継続して安心して働き続けられる」職場づくりこそが、雇用の真の成功につながることはいうまでもありません。  そこで今号から連載で、はじめて障害のある人を雇用した場合にどのような取組みをすれば職場定着につながるのかについて解説していきます。  第1回は、「職場定着のための基本的支援とその留意点について」の前編です。 はじめに〜職場定着に取り組むときの基本的な考え方〜  障害者の雇用については、2022(令和4)年の障害者雇用促進法の改正において、事業主の責務として雇用の質の向上が明確化されました(※1)。  これには、適当な雇用の場の提供、適正な雇用管理等に加え、職業能力の開発および向上に関する措置が含まれており、障害のある人が活躍し続けることができる職場づくりに向けて、定着支援の重要性がますます高まっているといえます。  そのようななか、事業主のみなさまが適切なサポートを行うために、今回は、業務を教えるときの伝え方やかかわり方について紹介します。 業務習得の支援における基本的な留意点  障害のある人が業務を習得するためには、本人へのわかりやすい説明と本人の理解、計画的なサポートが必要です。  また、特に初期段階では、職場に対する緊張や不安も大きく、無理なくスムーズに業務を覚えてもらうための工夫が欠かせません。以下の点をポイントに対応するとよいでしょう。 ○説明を行う際の注意点  説明をするときは、できるだけ簡潔でわかりやすい言葉を用いるようにし、伝える内容が長くならないように意識します。  重要な点については、くり返し伝えたり、メモや図表で示したりして、本人に理解してもらうようにしましょう。話し方は、感情的になったり高圧的な口調になったりしないよう注意が必要です。  また、説明した内容でも、相手が理解できていない場合には、「前にも言いましたよね」ですませず、ていねいにくり返して説明することが大切です。 ○伝え方の工夫  状況に応じて、段階的に業務内容を分解し、マニュアルや図表を使って一つずつ確認しながら学べる仕組みを整えることが有効です。図や写真などの視覚的な資料を活用することで、理解しやすくなります。作業のイメージが湧くように、いっしょに作業したり、あらかじめ完成品や仕上がりを見せたうえで作業の内容を説明すると、より効果的です。さらに、その作業を終えるとどのような結果が得られるのかをあわせて伝えることで、本人の納得感や意欲の向上につながります。 ○ほめる・注意する際の配慮  ほめるときには、抽象的な言い方ではなく、「〇〇がよくできていた」、「△△のときの行動がすばらしかった」といったように、実際の行動や成果、改善点などを具体的に伝えることが大切です。注意をする際には、ただ指摘するのではなく、「なぜそれがよくないのか」といった理由を説明し、あわせてどのようにすれば改善できるかを明確に伝えるようにします。 ○コミュニケーションに関する配慮  障害の有無にかかわらず、コミュニケーションのスタイルは人それぞれです。「自分の話は積極的にできるが、人の話をうまく聞けない」、「言葉で伝えるのは苦手だが、相手の話はしっかりと理解できる」など、多様な特性があるものです。  そのため、一部の特徴や印象だけで本人のコミュニケーション力全体を判断せず、本人や支援機関からの情報などを参考にしながら、それぞれの特性に配慮したコミュニケーション方法をとることが大切です。例えば、聞くことが苦手な人にはメールで伝えたり、言葉が出にくい人には紙に書いてもらったりするなど、工夫しましょう。 ○定期的なふり返り  定期的な面談などにより、本人の気持ちを聞いたり、作業日誌や健康チェック表の内容などを確認しながら、ふり返りを行うようにしましょう(※2)。進捗は作業日誌やチェックリストで「見える化」し、本人の自己評価にもつなげていきます。また、本人の感想や希望、目標、企業から伝えたことなどを記録しておくことが大事です。 作業手順をわかりやすく説明するためには?  障害のある人が業務を習得するために、作業を行う目的等を説明することや、本人にとってわかりやすい方法で説明をすることはとても大切です。特に、作業手順を説明する場合、図のように、説明する人のかかわる度合いには段階があります。本人の特性をふまえながら、本人が習得しやすい方法で行うことが大事です。 おわりに  職場適応のために実施したさまざまな配慮や工夫について、それらが実際に効果を発揮しているかどうかは、本人が「これなら理解できる」、「自分にもできそうだ」と感じているかどうかという観点から見ていくことも大切です。  また、作業や環境に慣れるまでに時間がかかることもありますので、本人に対してすぐに成果を求めるのではなく、長い目で見てくり返し指導を重ねるようにしましょう。  次回は「職場定着のための基本的支援とその留意点について」の後編をお届けします。 ※1「令和4年障害者雇用促進法の改正等について」は、以下ホームページをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00019.html ※2 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q&a/#page=57 参考! 合理的配慮の好事例集  障害のある人と職場でともに働くにあたり、「合理的配慮」の提供は事業主の義務であり、職場定着のためにも欠かせません。例えば、「合理的配慮」の具体例として、車いすユーザーに対し、机の高さを調整することがあげられますが、「合理的配慮」といっても、さまざまな視点や方向性、方法があります。以下は、障害のある人が活き活きと働ける取組みを推進している民間企業などの好事例集です。ぜひ参考にして、自社と雇用した障害のある人の特性にマッチした職場をつくっていきましょう。 「障害者への合理的配慮好事例集」厚生労働省、2024年 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001234010.pdf 参考! 「障害者雇用事例リファレンスサービス」の活用  障害者雇用について創意工夫を行い積極的に取り組んでいる企業の事例や、合理的配慮の提供に関する事例を紹介しているJEEDのサイトです。業種や障害種別、従業員規模など、知りたい項目を選んで検索することもできます。事例は随時追加されていますので、ぜひご活用ください。 「障害者雇用事例リファレンスサービス」JEED https://www.ref.jeed.go.jp 図 作業手順を説明する場合の段階(説明者のかかわる度合い) 度合いが低い 度合いが高い 〇言語指示 ・直接的言語指示:指示する内容を具体的な言葉で表す ・間接的言語指示:「次は何?」、「さあ次は?」などとうながして、自発的に行動するための間をとる 〇ジェスチャー ・指導者が対象となる物や方向を指差し、行動を想起させる部分的な身振りをするなどの方法でヒントを与える 〇見本の提示 ・指導者が先に見本をみせて、そのあとに作業してもらう ・指導者が本人のとなりで同じ仕事のやり方を見せながら同時に行う 〇手添え ・手添え:直接体に触れて動作を教える(触れられることを嫌がる人もいることに留意する) ・シャドーイング:直接体に触れず動作を教える(触れそうで触れない距離感) 出典:「はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜」JEED、2025年 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003lweg.html 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 国立職業リハビリテーションセンター 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 企業担当者向けセミナーのご案内  国立職業リハビリテーションセンターと国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでは、障害のある人に対して、就職に必要な専門知識・技能を習得していただくための職業訓練を行っており、その一環としてすでに障害者を雇用している企業の担当者を対象に障害者の採用や雇用管理、職業訓練などについて理解を深めることを目的としたセミナーを開催しています。 セミナーの風景 施設見学の風景 開催日時 国立職業リハビリテーションセンター:2025(令和7)年10月29日(水)13:30〜16:30 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター:2025(令和7)年11月10日(月)10:00〜16:00 内容 @施設紹介 業務概要の説明および職業訓練現場の見学 A障害者雇用の取組み紹介 各企業の障害者雇用の取組み事例等の発表 B参加者の交流/情報交換 グループに分かれ、全員参加型のグループディスカッション方式にて実施 参加者の声 訓練生の発表を聴いて ・いろいろな問題について解決策を試行錯誤している様子が伝わった。 ・車いすの方がどんなことで困り、どうすれば働けるようになるのかわかりやすい説明だった。 ・訓練生のレベルの高さに驚いた。次は上司を連れて参加したい。 企業の事例発表・意見交換を経て ・他社の受入れ事例を学んだことがなかったので参考になった。 ・同じ悩みを持った方が多くいらっしゃり、相談できたことがよかった。 訓練場面を見学して ・具体的な訓練内容を見学し、受入れ部署の検討に役立つ情報を得られた。 ・きめ細かいトレーニング、スキルアップに取り組んでいる様子を見られてよかった。 講演を聴いて ・具体的な取組み事例があり、たいへん参考になった。 ・いままでなかなか雇用の継続がむずかしかった理由が見えたと思う。 お問合せ先 国立職業リハビリテーションセンター 職業指導課 埼玉県所沢市並木4-2 TEL:04-2995-1207 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 職業指導課 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 TEL:0866-56-9002 障害者職業訓練推進交流プラザのご案内 会場参加とオンライン参加を選べます。 参加費は無料です! 開催日時:2025(令和7)年11月7日(金)10:00〜16:30 会場:障害者職業総合センター  厚生労働省および当機構(JEED)では、障害のある方の公共職業訓練を実施している、または、障害のある方の受入れを検討している職業能力開発施設などの方を対象に、精神障害や発達障害、高次脳機能障害のある方などに対する職業訓練技法の普及を行っています。  その一環として、厚生労働省主催の「障害者職業訓練指導員経験交流会」とJEED主催の「障害者能力開発指導者交流集会」をあわせて「障害者職業訓練推進交流プラザ」として共同開催するものです。  みなさまのお申込みを心よりお待ちしております! 【内容】 ※プログラム内容につきましては、確定次第JEEDホームページに掲載しますのでご確認ください。 対象者  障害のある方の職業訓練を実施している、または、障害のある方の受入れを検討している施設など(障害者職業能力開発校、一般の職業能力開発校、民間の障害者職業能力開発施設、障害者委託訓練受託施設、都道府県人材開発主管課)の方 お申込み方法  9月下旬〜10月上旬ごろ、JEEDホームページ上に「申込フォーム」を掲載しますので、そちらからお申し込みください。 障害者職業訓練推進交流プラザ 検索 ◆お問合せ 厚生労働省 人材開発統括官付参事官(人材開発政策担当)付特別支援室 障害者企画係 〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2 TEL:03-5253-1111(内線5962) ◆お問合せ・お申込み 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 職業リハビリテーション部 指導課 広域・職業訓練係 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9030 E-mail:ssgrp@jeed.go.jp 2025(令和7)年度 12月開催・1月開催 研修のご案内 受講料無料  労働、福祉、医療、教育等の機関における障害者の就業支援担当者を対象に、職業リハビリテーションに関する知識や、就業支援に必要な技術の修得、資質の向上を図る研修を実施しています。 ●就業支援テーマ別研修 研修 就業支援テーマ別研修 【テーマ】障害者雇用に関する労働関係法規 【対象】障害者の就業支援機関および関係領域の支援者 日程 2025年12月3日(水) 受付期間 2025年9月17日(水)〜10月29日(水) ※定員を超える申込みがある場合は、予定より早く受付を締め切ることがあります。 開催形式・場所 オンライン形式 医療・福祉等の機関で企業等への就職・定着に向けた就業支援を担当する方 ステップ0 初めて担当する方 基礎的研修 就業支援の基礎的な知識・技術等の習得 全国の地域障害者職業センター ステップ1 基礎的な知識及び技術を習得した方 基礎的研修フォローアップ研修 就業支援に関するアセスメントおよび企業に対する支援の知識・技術等の習得 全国の地域障害者職業センター テップ2 1年以上実務経験のある方 ステップアップ研修T 就業支援の実践的な知識・スキルの向上 障害者職業総合センター ステップ3 2年以上実務経験のある方 ステップアップ研修U 障害者職業総合センターにおける研究・技法開発の成果をふまえた専門的な知識・スキルの向上 障害者職業総合センター 就業支援テーマ別研修 就業支援の動向をふまえた知識・技術等の向上 障害者職業総合センター ※ステップ1〜3については、企業で障害者雇用を担当している方は受講対象になりません。 ●職場適応援助者支援スキル向上研修 研修 職場適応援助者支援スキル向上研修 【対象】ジョブコーチとして1年以上の実務経験のある訪問型・企業在籍型職場適応援助者の方 日程 第3回 2026年1月20日(火)〜1月23日(金) 受付期間 2025年10月21日(火)〜11月28日(金) ※定員を超える申込みがある場合は、予定より早く受付を締め切ることがあります。 開催形式・場所 オンライン形式 職場適応援助者(ジョブコーチ)を目ざす方・支援スキルの向上を目ざす方 ステップ1 職場適応援助者養成研修 ジョブコーチ支援をする際に必要な知識・技術の修得 障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター 全国の地域障害者職業センター 養成研修修了者サポート研修 支援の実践ノウハウの修得 全国の地域障害者職業センター ステップ2 職場適応援助者支援スキル向上研修 ジョブコーチとしての支援スキルの向上 障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター 支援スキル向上研修修了者サポート研修 困難性の高い支援の実践ノウハウの修得 全国の地域障害者職業センター ■実務経験に応じて、講義・演習・事例検討などを組み合わせた、実践的なカリキュラムとなっています。 ■研修の参加には事前のお申込みが必要です。受講料は無料です。 ■各研修のカリキュラム、会場、受講要件など、詳しくはホームページをご覧ください。 JEED 就業支援担当者 研修 検索 お問合せ先 職業リハビリテーション部 人材育成企画課 E-mail : stgrp@jeed.go.jp TEL:043-297-9095 FAX:043-297-9056 【P15-18】 令和7年度 障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト入賞作品 「絵画コンテスト 働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト 職場で輝く障害者〜今その瞬間〜  当機構(JEED)では、広く障害者雇用への理解と関心を深めていただくため、障害のある方々などから絵画と写真を募集し、優秀な作品をもとに9月の「障害者雇用支援月間」にあわせてポスターを作成しています。  募集は絵画コンテスト3部門と写真コンテストに分けて行い、全国から寄せられた1、680点(絵画1、252点、写真428点)の応募作品のなかから、審査の結果、ポスターに採用する厚生労働大臣賞4点のほか当機構理事長賞4点、同理事長奨励賞72点がそれぞれ選ばれました。  厚生労働大臣賞を受賞した4作品をもとに作成したポスターは、障害者雇用支援月間中、全国のハローワークなどに掲示されます。 入賞作品展示会のお知らせ 全国5カ所で入賞作品展示会を開催します。 【東京】 9/9(火)〜9/13(土) 日本橋案内所隣 江戸桜通り地下歩道 【大阪】 9/24(水)〜9/26(金) 大阪市役所 【札幌】 10/17(金)〜10/19(日) 札幌駅前通地下広場 【愛知】 11/10(月)〜11/12(水) GLOBAL GATE 【福岡】 11/19(水)〜11/21(金) 福岡市役所 詳しくはJEEDホームページをご覧ください。 今年度も力作がそろいました! シンボルキャラクター ピクチャノサウルス 厚生労働大臣賞 ◆絵画コンテスト 小学生の部◆ 「おいしいハンバーグをやくよ」 山本 雄都樹(やまもと ゆずき 静岡県) ◆絵画コンテスト 中学生の部◆ 「かっこいい整備士さん」 野口 詢真(のぐち とうま 東京都) ◆絵画コンテスト 高校生・一般の部◆ 「お客様のために 真心をこめて」 井舟 佑太(いぶね ゆうた 石川県) ◆写真コンテスト◆ 「なかまと楽しく力合わせて」 丹野 麻衣(たんの まい 京都府) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞 ◆絵画コンテスト 小学生の部◆ 「消防士、がんばれ」 佐々木 健仁(ささき けんと 青森県) ◆絵画コンテスト 中学生の部◆ 「本を封する」 十河 泰聖(そごう たいせい 長野県) ◆絵画コンテスト 高校生・一般の部◆ 「向上心」 森 淳(もり じゅん 愛知県) ◆写真コンテスト◆ 「落花生の重みを両手に受けて」 千葉 未来(ちば みく 茨城県) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞 絵画コンテスト 小学生の部 「おしゃれなケーキをつくるパティシエ」 相内 玲舞(あいない れま 青森県) 「日本一うまい コロッケやさん」 木村 侑柊(きむら ゆうひ 青森県) 「ジャングルにいるはっくつチームのリーダー」 草野 友飛 (くさの ゆうと 東京都) 「大好きなおかしに囲まれて〜世界のパティシエ〜」 角皆 詩乃(つのがい しの 東京都) 「科学者 〜新しい薬をつくろう〜」 伊藤 歩眸(いとう あゆむ 愛知県) 「けいさつ官になりたいな」 榎嶋 新(えのきじま あらた 愛知県) 「マンガかになりたい」 酒井 琉海斗(さかい るいと 愛知県) 「おみやげショップの店員さん」 入江 陸(いりえ りく 福岡県) 「かっこいい大工さん」 坂口 諒永(さかぐち あきと 鹿児島県) 「ロボットをつくりたい!」 菱田 唯斗(ひしだ ゆいと 鹿児島県) 絵画コンテスト 中学生の部 「消防士」 岡 大貴(おか たいき 北海道) 「木工の仕事でがんばっている姿」 栗原 秀輝(くりはら ひでき 茨城県) 「優しい色で描くアーティスト」 有山 まいか(ありやま まいか 埼玉県) 「車の点検をする整備士」 小林 勇飛(こばやし はやと 静岡県) 「将来の僕 マジシャン」 デラクルス クライス チェスター シブノ (でらくるす くらいす ちぇすたー しぶの 静岡県) 「集中している土木作業員」 神谷 晴輝(かみや はるき 愛知県) 「チクッとしますよ」 刀根 唯(とね ゆい 愛知県) 「おいしくなあれ みんなの給食」 吉野 晴祐(よしの はるま 愛知県) 絵画コンテスト 中学生の部 「鮪を捌く調理人」 上田 惟人(うえだ ゆいと 大阪府) 「たたら機くるくる」 野中 湊斗(のなか みなと 福岡県) 絵画コンテスト 高校生・一般の部 「パソコン業務を頑張る仲間」 中村 絵美(なかむら えみ 北海道) 「就労支援員さんと古着チェック」 石戸谷 有記(いしどや ゆき 青森県) 「作業所での仕事 タオルたたみ」 平 祐哉(たいら ゆうき 山形県) 「校外実習(ダンボールの作成)」 三田 光(みた ひかる 群馬県) 「工場のトイレ清掃」 長谷川 皓(はせがわ あきら 千葉県) 「玉ねぎ大好き!大豊作!」 三浦 聖弥(みうら せいや 千葉県) 「私の今日、私の未来」 村上 かおる(むらかみ かおる 千葉県) 「先生とお砂あそび」 池田 佳子(いけだ かこ 東京都) 「折り鶴を懸命に折っている姿」 佐々木 亮介(ささき りょうすけ 東京都) 「お客さまのために一生懸命きれいに清掃する姿」 山本 舞(やまもと まい 東京都) 「今日も笑顔で」 申 恵晶(しん へじょん 東京都) 「お菓子の販売、行っております!」 小林 杏里(こばやし あんり 神奈川県) 「小春日和の落ち葉掃き」 吉田 遥奈(よしだ はるな 神奈川県) 「現場の英気」 久保 和己(くぼ かずき 富山県) 「頑張る後ろ姿」 沖津 恵梨香(おきつ えりか 石川県) 「バチバチッ 弾ける閃光」 山口 祐典(やまぐち ゆうすけ 石川県) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞 絵画コンテスト 高校生・一般の部 「左官職人、修業中」 金井 百合子(かない ゆりこ 長野県) 「カツサンドづくり」 神戸 陽子(かんべ ようこ 長野県) 「播種の仕事はこまかいな」 加藤 利和(かとう としかず 岐阜県) 「『自然を大切にする』無農薬で工場緑地の除草作業」 高橋 璃沙(たかはし りさ 岐阜県) 「煌めきをつなぐビーズ手芸作家」 大村 麻子(おおむら あさこ 愛知県) 「決められた具材をトッピング」 戸苅 宏二(とがり こうじ 愛知県) 「鋭意制作中」 杉崎 則仁(すぎさき のりひと 愛知県) 「集中」 松田 慎之輔(まつだ しんのすけ 三重県) 「自分のペースで、自分のスペースで、テープ起こし」 伊藤 成美(いとう なるみ 大阪府) 「私たち、縫製班!みんなで枕カバーをつくる」 野口 澪(のぐち みお 大阪府) 「悩める副主任」 奥村 駿介(おくむら しゅんすけ 大阪府) 「絵本作家は本に生命を吹き込む」 小林 弘典(こばやし ひろのり 奈良県) 「足場職人」 山ア 陽(やまさき はる 和歌山県) 「お掃除」 田原 歩(たばら あゆみ 島根県) 「開店準備」 藤永 茜(ふじなが あかね 島根県) 「梅壺を作っている僕の職場です。」 垰村 朋彦(たおむら ともひこ 山口県) 「ウエスの働く人のタオルにはこばれている」 徳原 望(とくはら のぞみ 山口県) 「これからアップデート」 コ本 香菜(とくもと かな 愛媛県) 「会議しよう!時代はハイブリッド」 廣滝 里緒奈(ひろたき りおな 福岡県) 「介護職にもっと光を」 相澤 知文(あいざわ としふみ 大分県) 【P19】 エッセイ 障害のある人の地域生活支援について 最終回 知的障害のある人の「当事者参加」を進めよう 日本社会事業大学社会事業研究所 客員教授 曽根(そね)直樹(なおき) 知的障害のある人の入所施設、障害児の通園施設、レスパイトサービス、障害者グループホームの職員を経験した後、障害者相談支援事業の相談員などを経て厚生労働省障害福祉課虐待防止専門官として5年間勤務。日本社会事業大学専門職大学院教授を経て定年退職後、現職。 障害当事者の参加  障害のある当事者が、公的な会議に参加して発言することはあたり前になりました。特に、障害者関係の会議メンバーに当事者が入っていない場合、おかしいなと感じるようになりましたし、主催者は、障害当事者をメンバーに選ぶようになってきていると思います。  国連で2006(平成18)年に採択された障害者権利条約の起草に関する会議では、政府関係者に加えて障害者団体も同席し発言する機会が設けられました。「“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」は、障害当事者が主体的に参加してこの条約が起草されたことを表すスローガンでした。障害当事者と一言でいっても、身体障害、知的障害、精神障害などさまざまでニーズも異なることから、会議には多様な障害当事者が参加することが必要です。 当事者参加の実態  障害のある人にかかわりが深い会議として、都道府県・市町村の(自立支援)協議会があります。(自立支援)協議会は、障害者総合支援法に基づいて自治体が開く会議で、障害福祉を進めていくために地域の関係者が集まり、課題を共有し、地域の障害福祉サービスの基盤整備を進め、関係者や関係機関が連携を図るための役割をになっています。まさに、当事者抜きには進めることはできない会議です。  知的障害当事者も委員として参加している「東京都自立支援協議会」では、毎年、都内全区市町村を対象として、(自立支援)協議会の動向について調査し、報告書を取りまとめています。調査項目には、「地域自立支援協議会における当事者の参画状況」として、障害種別に当事者委員の人数を公表しています。2023(令和5)年度の結果は、表の通りでした。  3障害といわれる身体障害、知的障害、精神障害のある人が委員として参加している区市町村の割合は、身体障害85%に対して、精神障害40%、知的障害27%と、知的障害当事者の参加が最も少ない結果でした。  知的障害のある人は知的発達の遅れがあるため、会議内容の理解がむずかしく、話合いの内容を理解できるように伝えるための工夫がむずかしい、参加しても発言できないのではないか、などの理由から、知的障害者の親の会の代表が当事者の立場も兼ねて委員として参加する、という方法がとられてきました。しかし、親が本人のニーズを理解できるとはかぎりませんし、ときには親と本人のニーズが相反することもあります。 厚生労働省の会議への参加  厚生労働省は、2025年5月から、「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会」を開催していますが、厚生労働省としては初めて、知的障害の当事者委員3名が参加しています。  会議では、次のような発言がありました。「施設では4人一部屋で、布団を敷いたら部屋いっぱい状態で狭かったし、プライバシーがなかった。泣きたいときは布団の中で泣くことにしていた。だから、入所施設の居室は個室であるべきだと思う」、「欲しいものがあったけれども、お小遣いのくり越しは認められなかった。『規則だから』の一言で片づけられてしまったこと、そのことがいまでも悔しく悲しい思い出として残っています」、「これからは町に近いところに施設があったほうが僕はよいと思います」、「職場でも住む場所でも同じ人と過ごすのは自分的には少し嫌だなと感じました」、「自分みたいに地域に出たい、生活したいと思っている人には積極的に体験させてあげたり、地域で暮らせるようにしてあげたほうがよいと僕は思います」  体験を元にした発言の重さを実感します。あらゆる機会を通じて、知的障害当事者の参加をもっともっと進めていきましょう。 表 地域自立支援協議会における当事者の参画状況(回答49/62自治体) 全体会及び専門部会等の当事者委員障害等 身体障害 知的障害 精神障害 難病等対象者 発達障害 高次脳機能障害 合計 合計 130 22 36 7 0 4 199 出典:東京都自立支援協議会「令和6年度版 東京都内の自立支援協議会の動向」 【P20-25】 編集委員が行く 顔の見える仕事と業務マッチング 植村牧場株式会社(奈良県) 武庫川女子大学 准教授 増田和高 取材先データ 植村(うえむら)牧場株式会社 〒630-8102 奈良県奈良市般若寺町(はんにゃじちょう)168 TEL 0742-23-2125 FAX 0742-23-2126 増田(ますだ)和高(かずたか) 編集委員から  障害者雇用を検討する際、「障害者でもできる仕事」という発想を耳にすることがある。しかし、「障害者」と一括りにされる人々は、実際には多様な個性と得意分野をもっている。そうした個別性をとらえずに業務を調整することは、真のマッチングとはいえないはずである。  今回は「障害者雇用のさきがけ」として40年以上の実績を誇り、全国から行政や政治家が絶えず視察に訪れる植村牧場株式会社を取材した。植村牧場では、障害という枠組みで人を見るのではなく、「仕事」を通して「その人自身」を見つめる姿勢が貫かれており、その姿勢のもと実施される業務マッチングについて紹介したい。 写真:官野貴 Keyword:酪農、知的障害、業務の切り出し、業務マッチング、職住一体型雇用 POINT 1 生活の安定が仕事の土台 2 「障害」ではなく「人」を起点に考える 3 企業価値を高める「ていねいさ」  奈良市街地の静かな住宅地に所在する、1883(明治16)年創業の「植村(うえむら)牧場株式会社」(以下、「植村牧場」)。般若寺(はんにゃじむ)、旧奈良監獄、奈良ホテルなど、歴史ある名所に囲まれたこの地で、創業以来140年余にわたり運営を続けている。牧場の敷地は約6600u。その敷地に、牛舎1棟のほか、加工場やレストラン、アイスクリームの販売所、グループホームが建つ。まず驚いたのは、清潔感があり、かつ洗練された、木造のつなぎ牛舎。創業時から使用していた瓦葺(かわらぶき)牛舎が台風被害を受け、改修に向けた業者探しが難航していた際、宮大工が名乗りをあげ、その協力を得て2019(令和元)年に新牛舎が完成。内装もさることながら、新牛舎の屋根に乗るホルスタインのオブジェも印象的だ。この牛舎で育った牛から搾乳された牛乳は低温殺菌の後、牛乳瓶に充填されて自慢の「植村牛乳」として出荷される。毎朝約800本程度が近隣の一般家庭やお店に配送されるだけでなく、奈良ホテルをはじめ有名店にも牛乳を卸しており、奈良に皇族方が宿泊される際には、いわば「宮内庁御用達」として納入されているブランド牛乳である。  取材に応じてくれたのは、同牧場4代目、代表取締役の黒瀬(くろせ)礼子(れいこ)さん。朗らかで気さくなその口調のなかに、障害者雇用と仕事に対する確かな信念と覚悟が垣間見えた。 始まりは「人手不足」から  植村牧場で障害のある従業員の雇用が始まったのは約45年前。黒瀬さんが代表になって間もないころであった。きっかけは「朝早く、夜遅い牧場の仕事に人手が集まらなかった」こと。立地的にも大阪や京都、三重に接しており、就職場所と業種に選択肢が多い奈良市において、牧場での求人募集をかけても1年近く応募はなかった。そうしたなか、ハローワークから「一度、障害者を雇ってみては」といわれたことをきっかけに、障害のある人を雇用した。初めて知的障害のある人を雇用したとき「コミュニケーション能力がどの程度で、どの程度の業務なら働けるのかなど、彼らに対する認識は浅かった」と語る黒瀬さん。採用当初はまさに試行錯誤の連続であり、当初は牛糞の運搬や除草などを任せていたが、除草作業の際に大事な植木や花まで綺麗に抜いてしまうなど、思いもよらないトラブルも経験した。「正直、障害者雇用はむずかしいかもしれない」と感じる場面もあったが、その都度、特別支援学校の教員やハローワークの職員から助言を受け、一人ひとりの特性に寄り添いながら、できる仕事をともに見出していった。現在では、知的障害のある人を中心に9人の障害のある従業員が働いている。性別や年齢もさまざまで、20代から50代までの幅広い人材が日々の仕事に従事しており、うち8人が敷地内の居住施設で生活をしている。日々のルーティンをこなしながらも、個々のペースを尊重し、必要に応じて声をかける。こうした日々の積重ねが、相互の信頼関係と安定した就労につながっている様子がうかがえた。 「生活」が支える「仕事」  初期の雇用は通勤スタイルだったが、第1期生の雇用が施設入所によって終了したことをきっかけに、黒瀬さんは「住み込み」という新たなスタイルを提案し、第2期生の雇用に踏み出すことになる。敷地内に居住スペースを設け、生活と仕事を一体で支える仕組みを整えた。いわゆる「職住一体型」の雇用である。背景にあったのは、「しっかり働いてもらうためには、しっかりとした生活の土台が必要」という思い。親元を離れての宿泊体験から始まった「職住一体型」の雇用であるが、その効果は「朝早い牧場の仕事への適応」以外にも、生活スキルの向上が本人の自信となり、やがて仕事への挑戦意欲にもつながっていくという効果をもたらした。洗濯、布団干し、着替えといった日常の営みが、「やってみたい」という意欲を生み出し、働く力へと変わっていったという。ある男性従業員は、最初は生活のなかでもほとんどのことに手助けを必要としていたが、グループホームでの生活を始め、自分の洗濯をし、時間を見て就寝し、定時には持ち場に向かう生活を続けるなかで、いまでは早朝3時の業務に向けて自力で起床できるようになった。自分のことが自分でできるようになることで、自然と仕事にも責任感をもって取り組むようになっていったとのこと。また、生活のなかでこうした小さな成功体験を積み重ねることで、休日には電車に乗って映画を観に行ったり、大阪・関西万博にも出かけたりするようになった。そうした活動が本人にとっての「楽しみ」となり、生活の豊かさを実感できるようになる。植村牧場の仕事は単なる労働ではなく、生活の延長線上に位置づけられており、相互に好循環をもたらしていた。  植村牧場における「職住一体型」の雇用形態は、仕事と生活を切り離さずに支えるという取組みである。グループホームを敷地内に設け、働く場と住まいを一体的にとらえることで、生活面の安定と仕事への責任感が相乗効果をもって育まれている。これは、日々の生活が自立につながり、やがて職場での成長へとつながるという、まさに循環的なモデルである。しかしながら、すべての企業が植村牧場のような「職住一体型」の体制を整えることができるわけではない。都市部では用地の確保がむずかしく、生活支援のノウハウを社内に備えることも現実的ではない企業も多いだろう。それでも、この「職住一体型」から学べる重要な示唆がある。それは、仕事の安定のためには、生活面の安定が不可欠であるという視点だ。例えば、通勤スタイルの雇用であっても、働く障害のある人の生活状況に関心を持ち、必要に応じて地域における支援機関と連携を図り、住環境や通勤支援、体調管理などに配慮を行うことで、生活と仕事をつないでいくことは十分に可能である。また、定期的な面談や生活状況に関するヒアリングを通じて、仕事上の課題と生活上の課題を一体としてとらえる姿勢をもつことで、職場定着率を高めることにもつながる。就労継続の土台には、本人の安心できる日常があることを認識することが、企業側にも求められる時代となっている。「職住一体型」の雇用モデルはたしかに理想の一つであるが、その本質は「生活と仕事を切り離さずに考える」という価値観にある。この価値観を自社なりの形で取り入れていくことで、より多くの企業が障害者雇用の成果と可能性を実感できるようになると考える。 業務の切り出しとマッチング  障害者雇用を進めるうえで、しばしば課題としてあげられるのが「どのような業務を任せるか」という点である。採用したはよいものの、業務内容が本人の特性と合わないことによる業務上のミスマッチや、業務内容を調整する際に生じるストレス、こうした悩みは多くの企業が直面する現実であろう。そうしたなか、植村牧場が実践してきた「業務の切り出し」という工夫は、多くの企業にとって示唆に富む実践だといえる。植村牧場では、牛の世話、搾乳、牛乳瓶の洗浄、製品の箱詰め、配達助手など、多岐にわたる業務が存在している。それらの業務を作業として細かく分解し、単なる作業工程の分割ではなく、「意味ある単位」として切り出していた。例えば「牛乳の製造」とひとくくりにするのではなく、「牛乳瓶の洗浄」、「牛乳の瓶詰」、「製品となった牛乳を冷蔵庫に入れる」といった具体的な行動に分けて、それぞれに「作業の関連」と「ゴール」がみえるようにする。「仕事である以上、『障害があるから仕方がない』ということではすまされません。それぞれの仕事に責任をもってもらえるよう、厳しくいうこともあります。でも、時間はかかるかもしれないけれど、信じて任せれば応えてくれるのです。彼らはそれぞれの持ち場のプロフェッショナルなのです」と力強く語る黒瀬さん。こうした業務の切り出しが、達成感や責任感、連帯感の醸成につながっていると考えられる。  業務を切り出すことで、「何が得意で、何が苦手か」という本人の特性もみえやすくなる。加えて、「業務の切り出し」は、単に障害者に仕事を任せやすくするための手段にとどまらず、企業全体の業務設計を見直す契機にもなりうる。実際、「だれにとってもわかりやすい仕事の流れ」ができあがることで、障害のある人を含むすべての従業員の作業効率やモチベーションが向上したという報告もある。障害者雇用をうまく活用するために、特別な制度や大規模な設備投資が必要なのではない。まずは目の前の仕事をみつめ直し、「どのように任せたら、その人の力を引き出せるか」を考えること。そして、その第一歩が「業務の切り出し」だと考える。  植村牧場では、こうして切り出された業務と障害のある人の適性とのマッチングにも力をいれている。作業を「だれにでも同じように割りふる」のではなく、まずはすべての業務を順番に数カ月かけて体験してもらうことに取り組んでいるとのこと。植村牧場の業務は大きく分けて三つある。一つめは本来の酪農の仕事である牛の飼育、搾乳。二つめは搾られた牛乳を殺菌し瓶詰めにする業務。三つめは、その製品を各店や家庭に配達する業務で、運転をになう従業員の横に乗り助手的な役割を果たすことである。それぞれの業務を一通り体験するプロセスのなかで、作業中はつねに先輩たちがついて一緒に仕事をしながら作業内容を覚えてもらう。そして、作業を覚えた段階からは黙って仕事ぶりを観察しつつ、その仕事を任せてみる。その過程のなかで、一番適当と思われる作業をみきわめてその後はその作業を中心にになってもらう形で業務の割りふりを行っているということであった。「適した業務のみきわめはむずかしくないのか」という質問に対して、黒瀬さんは笑顔で「ていねいに教えても、翌日には同じミスをすることはよくあること。根負けしそうになったこともあったし、最初は適した作業が何かわかりにくいこともあったけれど、くり返しやってもらっていると一番適した、というか本人にとって『好きな作業』が必ずみつかる」と語ってくれた。「もちろん、ビジネスとしてみたときによくないことは叱ったり、注意したりすることもありますよ。でも、任せた仕事がきちんとできたときには『できたね!』って思いっきりほめるんです。そうすると自ずと仕事に対する責任感のようなものが芽生えてくるんですよね」といった黒瀬さんのコメントからもわかるように、こうした「小さな単位での体験」は、本人にとっても成功体験の積重ねとなり、「自分にもできることがある」、「次はこれに挑戦してみよう」といった前向きな意欲につながっていく。また、同僚にとっても、どこまでをサポートし、どこからは本人に任せるかという線引きが明確になることで、混乱や過剰な支援を避けることができるのである。 アナログだからみえるもの  「最新の設備はありません。業務内容もアナログそのもの。でも、手作業だからこそていねいな仕事ができるし、それが結果的にブランド価値になっているのです」。黒瀬さんは、そういって微笑む。一つひとつの業務が人の手で行われ、だれがどの仕事をになっているかがみえている。雇用の場面では「業務効率」に意識が向けられがちである。もちろん、それらは大切な視点だ。しかし、植村牧場のように、作業効率とは異なる尺度で、働く人の力が活かされている場面もある。  レストラン「いちづ」では、あえてキャッシュレス決済を導入していない。その理由は、現金会計なら落ちついて対応できる従業員がいるからだ。機械ではなくお客さまの目を見て、ていねいに「ありがとうございました」と頭を下げる従業員。黒瀬さんは「看板娘のこの子の接客をみて、また来たいと思ってくださるお客さまもいる」と語る。「いちづ」での接客だけでなく、植村牧場の業務では随所でこうした「ていねいさ」を感じ取ることができた。このように、障害のある従業員が発揮する「ていねいさ」や「まじめさ」は、ただの作業能力ではなく、顧客との関係づくりや企業イメージの向上にもつながる可能性を秘めている。とりわけサービス業では、その対応が「また来たい」という顧客の感情に直結する。効率化が重視される現代において、ていねいに仕事をすることは、むしろ希少価値になりつつある。AIや自動化が進んでも、人と人との「ていねいなかかわり」を求める場面は必ず残る。障害者雇用は、そうした「人間らしい価値」を再発見する機会にもなりうるのだ。  効率化だけが企業の成長を支えるのではなく、ていねいな仕事と、ていねいに働く人の姿勢が、顧客の心に残り、企業の信頼やブランド価値を築いていく。あらためてそうした視点の重要性について取材を通して認識することができた。 顔の見える仕事が生む価値  植村牧場では、「みんなの顔が見える範囲で仕事をする」ことが、仕事のあり方の根幹として大切にされている。それは、4代目の黒瀬礼子さんの祖父が残した教えでもある。従業員の顔が見えるからこそ、だれがどの仕事をになっているのかが自然と共有され、責任が生まれ、同時にその人にしかできない「自分の仕事」として誇りも芽生えていく。これは、障害の有無にかかわらず、だれにとっても働く喜びを実感できる重要な視点だ。障害者雇用というと、「だれでもできる簡単な作業を切り出して担当してもらう」というイメージをもつ企業もあるかもしれない。しかし、植村牧場では「障害者でもできる仕事」ではなく、「その人だからこそになえる仕事」がつくられている。その理由は、日々一緒に働くなかで、「その人の顔」がしっかりと見えているからにほかならない。「顔の見える範囲で仕事をする」ということは、ただ小規模であることを意味するのではない。それは、人と人との関係性が見え、業務と担当者が結びつき、顧客の顔までが見える距離であるということだ。例えば、配達でトラブルがあったときにも、「だれが担当していたのか」、「どのようなやりとりだったのか」が具体的にわかるから説明ができ、ていねいな対応が可能になる。また、顧客の顔が見える仕事であれば、障害のある従業員にとっても「自分の仕事がだれかの役に立っている」ことを実感しやすい。その実感こそが、モチベーションを生み、職場への定着や成長にもつながっていく。そうした透明性と信頼感が、植村牧場というブランドへの地域の共感を育んできた。植村牧場に併設されたレストラン「いちづ」は映画監督の河瀬(かわせ)直美(なおみ)さんが命名し、その看板を手がけたのは書道家の紫舟(ししゅう)さんである。こうした著名人だけでなく、地域が自然と植村牧場の応援団にかかわっていることが、こうした「顔の見える関係」を大切にしてきた植村牧場の価値を物語っているように感じることができた。  「顔の見える」仕事のあり方は、規模の大小にかかわらず、どの企業にとっても参考になる姿勢である。障害者雇用の導入を検討する企業には、まずは自社の職場において「だれがどんな仕事をしているのかが見えているか」、「顧客や関係者と顔の見える関係が築けているか」という観点をもってみてほしい。そうすることで、単なる労働力の補填ではない、個人の強みや関心を活かした仕事のマッチングが可能になるものと考える。 新たな挑戦  順調と思われる植村牧場での障害者雇用であるが、黒瀬さんは新たな課題も出てきているという。そのうちの一つがこれまで雇用してきた従業員の高齢化問題である。加齢による処理能力の低下や、判断能力の低下など高齢化は業務にも影響を及ぼすようになってきている。黒瀬さんは「彼らが働きたいと望むかぎり、雇用を続けていきたい」と語るが、両親が他界してしまっている従業員などの場合、施設入所も含め「老後」をどう考えるのかということは大きな課題であるという。こうした側面については、やはり企業の努力だけでなく行政とも協力して検討を進めていく必要があるものと考える。  また、黒瀬さんはこれまで知的障害のある人を中心に雇用してきたが、こうした高齢化の問題と継続する人手不足の課題を受けて、地域の障害者就業・生活支援センターと協力して精神障害や発達障害のある人の雇用にも取り組み始めている。障害特性の違いにより、新たに従業員同士の人間関係からくるトラブルや、金銭的なトラブルなど知的障害のある人の雇用では経験したことのない問題や課題に直面しているとのこと。しかし、最近では牧場の生活にも慣れてきたことで、トラブルも少しずつ減少してきているそう。「悩みは尽きないですよ。でも、その都度向き合う姿勢はいままでと一緒だし、異なる特性をもつ人たちを受け入れることでみえてくる新しい側面もあります。突き詰めれば、働きやすい環境への改善につながる可能性を秘めていると思うので、がんばっていきますよ」とその決意を聞くことができた。 まとめ  取材を通して感じたのは、黒瀬さんが「障害者雇用」という枠組みで人をみていないということだ。「福祉としての支援が必要なら、福祉の作業場に行けばいい。私は福祉のためなんて立派な考えはないんよ。ただただ、任された仕事をていねいに、しっかりやってくれればいい。それが仕事というもんでしょ」と黒瀬さんは語る。障害があるからと特別扱いするのではなく、「仕事をする一人」として向き合う。「叱ることもあるし、喧嘩することもある。でも、それは障害があるからではなく、対等な仕事仲間として接しているからこそだと思っています。社長の私が怒ると一番怖いっていわれていますけどね…」と語る黒瀬さんのその姿勢は、厳しくも温かい信頼の表れと感じ取れた。  現在、多くの業種で深刻な人手不足が続いている。特に中小企業や第一次産業、サービス業などでは、「仕事はあるのに人がいない」という声が後を絶たない。このような状況において、障害者雇用は単なる社会貢献にとどまらず、企業の人材戦略として有効な選択肢となりうることが今回の取材を通して得られた結論である。植村牧場がそうであったように、「人が足りない」という課題に直面したときこそ、障害のある人の力に目を向けてほしい。もちろん、はじめからすべてがうまくいくわけではない。理解不足や戸惑い、コミュニケーションのむずかしさに直面することもあるだろう。しかし、それらを乗り越えるなかで、職場には新しい視点や協働のかたちが育まれていく。  その際に重要となることは、障害のある人を「支援される存在」としてみるのではなく、「ともに働く仲間」として迎え入れることである。そうすることで、企業は新たな人材を得るだけでなく、職場の風土そのものが豊かになると考える。実際、障害のある従業員を受け入れた企業からは、「職場の雰囲気がよくなった」、「従業員同士が互いに思いやるようになった」といった声も多く聞かれる。人手不足に悩む企業にこそ、いまこそ障害者雇用の可能性をみつめ直してほしい。ていねいな業務の切り出しや、少しの工夫と柔軟な発想があれば、多くの現場で障害のある人の力を活かすことができる。その一歩が、企業の未来を支える人材確保と、組織全体の価値向上、多様性を尊重する持続可能な社会づくりにつながっていく。  帰り際にいただいた、レストラン「いちづ」おすすめの植村牛乳を使用したクリームコロッケは、繊細で、そしてやさしい味がした。そこにも、植村牧場らしいていねいな仕事が込められていた。 写真のキャプション 「植村牧場」は住宅地の一角にある 「植村牛乳」右は業務用として出荷される900ml瓶 木造の骨組みが美しい牛舎 牛舎の屋根に置かれたホルスタインのオブジェが目を引く 植村牧場株式会社代表取締役の黒瀬礼子さん 敷地内の居住スペース 居住スペース内のリビング。従業員の憩いの場だ 牛の世話(写真提供:植村牧場株式会社) 搾乳作業(写真提供:植村牧場株式会社) 牛乳瓶の洗浄(写真提供:植村牧場株式会社) 瓶詰作業(写真提供:植村牧場株式会社) 敷地内のレストラン「いちづ」 「いちづ」では、障害のある従業員が看板娘として活躍している 「いちづ」の人気メニューの「ミックスランチ」。右側がクリームコロッケ 【P26-27】 省庁だより 特別支援学校等における就労支援や共生社会の実現に向けた生涯学習の推進 文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課 総合教育政策局 男女共同参画共生社会学習・安全課 障害者学習支援推進室  改正障害者雇用促進法等の法的整備を背景に障害者の社会参加が進むなか、特別支援教育の教育現場でも、障害のある生徒の就職や職場定着を促進するための教育の充実に力が注がれています。ここでは、特別支援教育における就労支援や共生社会の実現に向けた生涯学習の推進に関する取組の現状について紹介します。 1 特別支援学校の特色  障害のある子供については、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加するために必要な力を培うため、一人一人の障害の状態等に応じ、特別な配慮の下で適切な指導を行うとともに、必要な支援を行う必要があります。特別支援学校高等部においては、生徒の就労を見据え、職業教育を行う専門学科を設置している学校や、資格取得に向けた専門的な指導を行う専攻科を設置している学校があります。また、知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校高等部においては、教科「職業」を設け、卒業後の進路に関する実践的・体験的な学習活動を通して、将来の職業生活に係る力を育成しています。 2 キャリア教育・職業教育の推進  平成31年2月に公示された特別支援学校高等部学習指導要領では、キャリア教育・職業教育の充実を目指して、次の点が示されています。 キャリア教育及び職業教育に関して配慮すべき事項 ●学校においては、キャリア教育及び職業教育を推進するために、生徒の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等、学校や地域の実態等を考慮し、地域及び産業界や労働等の業務を行う関係機関との連携を図り、産業現場等における長期間の実習を取り入れるなどの就業体験活動の機会を積極的に設ける。 ●地域及び産業界や労働等の業務を行う関係機関の人々の協力を積極的に得るよう配慮する。 キャリア教育の充実 ●生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科・科目等又は各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図る。 ●その中で、生徒が自己の在り方生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、組織的かつ計画的な進路指導を行う。その際、家庭及び地域や福祉、労働等の業務を行う関係機関との連携を十分に図る。  特別支援学校では、こうした学習指導要領の内容を踏まえ、個別の指導計画や個別の教育支援計画を活用し、生徒や保護者の意向や生徒の障害等を十分に踏まえながら、キャリア教育・職業教育を進めています。 3 特別支援学校と関連機関・部局の連携  障害のある人が生涯にわたって自立し社会参加していくためには、職業的な自立を目指すことが重要です。しかしながら、特別支援学校高等部卒業者の進路を見ると、就職者の割合は約3割となっており、近年横ばいの状況が続いています(図1)。障害者の就労支援をさらに推し進めていくためには、教育、福祉、医療、労働等の関連機関・部局の連携強化が強く求められています。  厚生労働省においては、障害者の雇用に関する労働関係機関と教育、福祉、医療等関係機関の連携について、都道府県労働局や公共職業安定所等において特別支援学校等との連携を一層強化するよう、通知を発出しました(平成25年3月29日に通知、平成30年4月2日改正)。これを受けて、文部科学省では、教育委員会等に対し、労働関係機関との一層の連携のもとに、障害のある生徒の就労に向けた支援の充実を図るよう周知しました。  また、令和7年10月からは新たな障害福祉サービスとして就労選択支援が開始されます。文部科学省では、特別支援学校等に在籍する生徒の就労選択支援の利用に関する留意事項について、各都道府県・指定都市教育委員会等に対して厚生労働省との連名で通知(令和7年5月15日付け)を発出し、サービス開始後、特別支援学校等に在籍する生徒が就労選択支援を円滑に利用できるよう、周知を図っているところです。 4 共生社会の実現に向けた生涯学習の推進  障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会を実現するためには、障害者が生涯にわたり自らの可能性を追求でき、地域の一員として豊かな人生を送ることができる環境を整えていくことが重要です。  文部科学省では、障害者が生涯を通じて教育、文化、スポーツ等のさまざまな機会に親しむことができるよう、次のような事業を実施しています。 ●学校卒業後における障害者の学びの支援推進事業 ・都道府県を中心とした地域コンソーシアム形成による持続可能な生涯学習支援モデルの構築や、地方公共団体と民間団体等の連携による障害者の生涯学習機会の拡大促進、大学・専門学校等における生涯学習機会創出・運営体制のモデル構築を目ざす取組を実施 ・生涯学習の担い手の育成や学習環境の実質的な整備につなげるための研究成果発信・実践交流等を行うブロック別コンファレンスを実施 ●特別支援学校等における運動・スポーツ活動の促進 ・特別支援学校等を活用した地域におけるスポーツの拠点づくり等を実施 ・特別支援学校の児童生徒等を対象とした全国大会の開催 ●障害者の文化芸術活動の充実 ・障害のある生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場の提供 ・障害のある生徒に対する文化芸術の鑑賞・体験機会の提供 ・障害の種別や年齢にかかわらず、鑑賞・創造・発表等の文化芸術活動に取り組むことができる機会の提供 ●障害のある学生の修学・就職支援促進事業 ・高等教育における障害学生支援の充実を図るため、先進的な取組や多くの知見を持つ複数の大学等が連携するプラットフォームを形成し、組織的なアプローチにより障害のある学生を支援する「障害のある学生の修学・就職支援促進事業」を実施 ※本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 図1 特別支援学校高等部(本科)卒業後の状況 (令和6年3月卒業者) 区分 卒業者 進学者 教育訓練機関等 就職者等★ 社会福祉施設等入所・通所者 その他 計 20,641人 375人(1.8%) 264人(1.3%) 6,115人(29.6%) 12,809人(62.1%) 1,078人(5.2%) (学校基本調査より) (各年3月時点) 社会福祉施設等入所・通所者 就職者等 平成26 5,557人 28.4% 令和6 6,115人 29.6% 進学者・教育訓練機関等 その他 ★「就職者等」について、令和2年度の学校基本調査で就職状況の区分が細かく分類されたことから、令和2年度以降においては「就職者等」の数を、平成31年度以前は「就職者」の数を学校基本調査から抽出することとした 【P28-29】 研究開発レポート 高次脳機能障害者の自己理解を進めるための支援技法の開発 障害者職業総合センター職業センター  障害者職業総合センター職業センター(以下、「職業センター」)では、高次脳機能障害者を対象とした支援プログラムの実施を通じて、高次脳機能障害の特性の整理、補完手段の獲得、および事業主のニーズに対応した支援を行うための技法開発・改良を行っています。  高次脳機能障害のある人(以下、「本人」)の支援において、本人に困り感はないが、周囲の人が困っているといった状況の打開のためには、「本人の自己理解が必要」と考える人もいらっしゃると思います。  一方、高次脳機能障害は認知機能の低下が生じる障害といわれています。また、受障後に自分のことを知る機会が積まれていないなど環境的な側面によって障害の理解をむずかしくしている場合も少なくありません。  そのような本人の障害特性や置かれた状況を考慮しないまま、無理に自己理解を深めようと周囲がアプローチを図ることで本人との信頼関係が築けず支援が途切れてしまったり、本人の心理的な負荷が高まり、うつ症状などの悪化につながったりすることなどが危惧されます。  そこで、今回の技法開発では、本人の状況に応じて今できていることや関心のあることからアプローチし、個別性の高い目標を設定することで、職場適応を図る方法を検討しました。  以下にその報告書(実践報告書42「高次脳機能障害者の自己理解を進めるための支援技法の開発」2025〈令和7〉年)の概要についてご紹介します。 【高次脳機能障害者版 キャリア講習】  休職中の気分障害等のある人のための職場復帰支援(ジョブデザイン・サポートプログラム)で実施しているキャリア講習をベースに、高次脳機能障害のある人向けに講習内容などを改良しました(図1)。 ●改良ポイント@「今ある」興味・関心を考える  過去を振り返ることより、現在の興味・関心に目を向けるようにすることで、支援プログラム参加への意欲を高め、興味・関心を今後の働き方に活かせるよう支援者とともに検討します。 ●改良ポイントA「今の自分」の強みに目を向けて整理する  過去の成功体験を振り返ることで生じる気分の落ち込みや葛藤などの心理的リスクを考慮し、今の自分ができていることや工夫していることなどを強みとして整理します。今できていることや、他者から強みとしてフィードバックを受けたことに焦点を当て、現在の取組みへのモチベーションや自己肯定感を高める機会とします。 ●改良ポイントBこれから働くうえで大事にしたいことに目を向ける  受障により、これまでのキャリアやライフプランを大きく見直す必要が生じることによって、それまで大事にしていた価値観が揺らぎ、将来への不安が生じる場合があります。そこで、過去の支援プログラム参加者が述べられた価値観を紹介するなどして、価値観の個別性、ライフイベントやライフステージによる可変性への理解をうながします。 【作業支援】  作業上の障害の現れ方や課題の把握、補完手段の有効性の検討を目的に模擬的な職場場面で行う作業課題において活用する「振返り・工夫検討シート」を作成しました。 ●おもて面(図2)  「振返り・工夫検討シート」に、「他の受講者によくある状況」欄を設け、これまでの受講者に生じた作業におけるエラーや身体的・精神的な状況の例を掲載しました。本人が作業の取組み状況を振り返る際に、これを参照することで、「自分はどうしてできないのか」といった不安や気分の落ち込みを軽減できるようにしています。 ●うら面(図3)  作業で達成したい目標や、取り組めそうな工夫について、具体的な選択肢のなかから、本人が選べる形式としました。  目標としては、「手順を間違えないようにしよう」、「ミスを減らそう、なくそう」、「困ったとき、迷ったときは質問をしよう」などから選択できます。  取り組めそうな工夫としては、「道具(ふせん・手順書・アラームなど)」、「確認(目視・指差し・回数等)」、「休憩(頻度・時間・タイミング等)」、「視覚的刺激への対処(机上整理・照明等)」、「聴覚的刺激への対処(耳栓・ノイズキャンセリングヘッドフォン等)」などから選択できます。  本人自身が選択することで、主体的・意欲的に作業へ取り組めるようにしています。 【グループミーティング】  支援プログラム参加者から、「同じ症状のある人とじっくり話をしてみたい」、「復職に向け過去にプログラムを受けていた人の話をきいてみたい」との希望をふまえ、支援プログラム参加者や終了者によるグループミーティングを実施しています。同じような状況に置かれた当事者間で自らの経験を語り合い、体験的知識やロールモデルを得る機会となるとともに、本人が日々経験する、できなくなってしまったことへの不安の軽減、生活のしづらさへの対処法や障害への気づきにつながります。 【おわりに】  高次脳機能障害における認知機能の障害は、病識獲得のむずかしさなどとしても現れます。自己理解にかかる支援は、一人ひとりの状況に合わせて無理なく中長期的に進めることが大切です。今ある興味や関心、できることに目を向け、自己肯定感を高めることで、葛藤や不安を抱えつつも、本人の主体的な取組みにつなげていけるのではないかと考えます。支援方法を検討する一助として、この報告書をぜひご活用ください。 ****  実践報告書42「高次脳機能障害者の自己理解を進めるための支援技法の開発」は、障害者職業総合センター研究部門のホームページに掲載しています(★1)。また冊子の配布を希望される場合は、下記にご連絡ください(★2)。 ★1 「実践報告書No.42」は、https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/practice42.htmlよりダウンロードできます ★2 障害者職業総合センター 職業センター TEL:043-297-9043 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/index.html 実践報告書No.42 図1 高次脳機能障害者版キャリア講習の構成 構成 第1回「興味関心を見つけよう」 第2回「強みを確認しよう」 第3回「価値観を確認しよう」 ※役割について(期待されていることやサポートの確認等)、今後の働き方の検討は個別に実施 【参考】JDSP★キャリア講習 第1回「キャリアを理解しよう」 第2回「強みを確認しよう」 第3回「価値観を確認しよう」 第4回「役割について整理しよう」 第5回「今後の働き方を考えよう」 ★職業センターが実施する「休職中の気分障害等のある人のための職場復帰支援(ジョブデザイン・サポートプログラム) 図2 振返り・工夫検討シート【おもて面】 図3 振返り・工夫検討シート【うら面】 【P30-31】 ニュースファイル 国の動き 内閣府 「つなぐ窓口」相談、1年半で約4600件  内閣府は、不当な差別的取扱いや合理的配慮、障害者差別解消法に関する質問や相談に対応する「つなぐ窓口」について、2023(令和5)年10月の設置から2025年3月までの1年半で、計4602件の相談があったと発表した。  電話相談は3855件、メール相談が747件だった。月別の推移は、改正障害者差別解消法の施行時の2024年4月までは増加傾向で、その後は減少しつつも施行前より高水準で推移。各月とも障害者等からの相談が8割程度、事業者からの相談は1割程度だった。1カ月あたりの平均は274件だった。  障害者等からの相談3717件のうち、相手方事業者の業種については、不明を除き最も多かったのが「行政」で808件、ついで「医療・福祉」の558件だった。相談内容は「事業者に合理的配慮として〇〇をしてほしいが、どうすればよいか」、「合理的配慮の提供を求めたが対応してもらえなかった」、「合理的配慮の提供が義務化されると聞いたが、具体的に何をすればよいのか」といった事例があった。  相談に対応して関係自治体や府省庁に取り次ぐなどのフォローアップ事案のうち、未完了の35件を除いた完了事案は164件で、内訳は「解決」105件、「傾聴」26件、「未解決」33件となっている。「つなぐ窓口」相談は左記まで。 メール相談:info@mail.sabekai-tsunagu.go.jp 電話相談:0120−262−701(毎日10時〜17時〈祝日・年末年始を除く〉) 報告書:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/r06jirei/index-w.html スポーツ庁 スポーツ指導の入門ハンドブック  スポーツ庁は、障害のある人がスポーツに親しめる環境づくりに向けて『障害のある方へのスポーツ指導・関わり方 入門ハンドブック』を作成し、ホームページ上で公開している。  ハンドブックでは、スポーツをいかに楽しんでもらえるか、指導を受ける人の特徴に応じたコミュニケーション方法を意識することなど、指導者が持つべき心構えについて紹介。さらに肢体不自由や視覚障害、聴覚障害など各種障害の特性や、その特性をふまえた指導のポイントやコミュニケーションの取り方、けがや事故防止への配慮など具体的な指導のコツやポイントがまとめられている。  ハンドブックは「パラスポーツの基本」、「障害のある方へのスポーツ指導の入口」、「障害のある方へのスポーツ指導の実践(障害の特徴や指導方法、安全管理)」の3章構成。コラムとして、パリ2024パラリンピック競技大会の水泳(視覚障害)金メダリストの木村(きむら)敬一(けいいち)選手、東京2025デフリンピック卓球代表内定の亀澤(かめざわ)理穂(りほ)選手にインタビューをし、選手にとってわかりやすかった指導方法やアドバイス、練習の工夫といった体験談も掲載している。 https://www.mext.go.jp/sports/content/20250327-spt_kensport02-40978_1.pdf 生活情報 大阪 親と子が「じりつ」学ぶプログラム  「社会福祉法人いずみ野福祉会」(岸和田市)が、障害者本人にとってのじりつ≠ニ障害者の親自身にとってのじりつ≠ノついて学ぶプログラムを開発し、PDF版の「親子みらいワーク ライフワイドの視点で取り組むみんなのじりつの道しるべ」を公開した。  同会では2023(令和5)年度から2年間にわたり公益財団法人日本財団の助成金を受けて「重度障害者の自立支援学習プログラムの構築」事業に取り組み、じりつ≠テーマに障害者本人を対象とした学びのプログラムと、障害者の家族を対象にした学びのプログラムを開発した。じりつ≠ヘ自立と自律という二つの表記があるが、むずかしく考えすぎないよう、ひらがな表記にしたという。  「親子みらいワーク」では、本人を対象とした学習要素として重視した「相互理解」、「相談」、「聴く・伝える」のほか、「くらし」、「お金&買い物」、「余暇&楽しみ」などを楽しみながら学べる10のプログラムを、職員と数人の障害者で行う実践例とともに紹介。また、親が対象のプログラムは、成人した子どものグループホームでの生活や成年後見制度、障害基礎年金の仕組みなどを学び、実際の経験談を聞いたりグループワークで意見交換をしたりして、理解を深めていく。約90ページにプログラムの実践風景など写真やイラスト、活用シートなどを盛り込んだ内容となっている。 https://s-izumino.jp/info/2025/06/pdf.html 大阪 知的障害の人が学べる「選挙学習小辞典」  「社会福祉法人創思苑(そうしえん)」(東大阪市)が、知的障害のある人を対象に、選挙についてやさしく学べる電子書籍『せんきょのことば 選挙学習小辞典』(PDF、236ページ)を発行した。  創思苑を中心に結成された「知的な障がいのある人たちとやさしく選挙を学ぶ集い」プロジェクトが、2023(令和5)年から月1回ほど勉強会を続けるなかで、当事者と一緒に小辞典を編さんした。辞典のおもな特徴として、@原則としてすべての文をひらがなで表記、A選挙用語の辞書的説明に加えて投票の仕組みや手順などを解説、B当事者に過度の負荷がかからないように、また短時間で1回の学習が終えられるよう細かく章を立て学習項目を分散、C文字情報を補足するため挿し絵や写真などのビジュアルな資料を多く挿入、D習字や作画のコーナーを設け、当事者が自分で選挙や政治について考え、自分の考えを楽しみながら表現できるようにした、としている。公益財団法人キリン福祉財団の助成を受けて小辞典の発行を実現した。創思苑のホームページから無料でダウンロードできる。 https://www.soshien.com/senkyo/index.html 本紹介 『障害のある人の暮らす権利 ともに歩む支援者たちへ』  全国でグループホームの運営にかかわる「障害者の暮らしを支えるゼミナール」と佛教大学社会福祉学部教授の田中(たなか)智子(ともこ)さん、立命館大学産業社会学部教授の三木(みき)裕和(ひろかず)さんの編著による『障害のある人の暮らす権利 ともに歩む支援者たちへ』(クリエイツかもがわ刊)が出版された。  入所施設・グループホームなどで暮らす人が30万人を超えるなか、「暮らしの場における専門性」を理論化。パート1では、家族関係に課題を持つ事例から、知的障害のあるシングルマザーを支える場、強度行動障害のある人の支援、老いとの向き合い方などをテーマにした8ケースをコメントとともに読み解く。パート2では、障害のある人の暮らす権利と支援の専門性について、歴史的変遷や実践課題、職員の労働や専門性などについて解説している。A5判286ページ、2640円(税込)。 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2025年度地方アビリンピック開催予定 9月〜10月 北海道、青森県、新潟県、石川県、山梨県、山口県、大分県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 ※第45回全国アビリンピックは10月17日(金)〜10月19日(日)に、愛知県で開催されます。 ミニコラム 第49回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は増田委員が執筆しています。ご一読ください。 「障害者雇用」という言葉の危うさ 武庫川女子大学 准教授 増田和高  「障害者雇用」という言葉は、雇用を「障害者のための雇用」と「それ以外の者の雇用」に構造的に分化させてしまう危うさがある。制度としての障害者雇用は必要不可欠である一方で、その枠組みを強調しすぎると、かえって企業側が柔軟に対応しづらくなるようにも感じる。「障害者のための仕事を用意しなければならない」、「特別な配慮が求められる」といった意識が先に立ち、結果として本来のその人らしい働き方を模索する余白が狭まってしまうこともあるだろう。  今回取材した植村牧場でみられたのは、そうした枠組みを超えた実践だった。「障害者を雇用する」という枠組みではなく、「仕事をともにする仲間を雇用する」という姿勢に基づき、顔の見える関係のなかで、「この人にはこれが合う」、「こうすればできそうだ」と自然に役割が形づくられていた。初めから「だれもが働きやすい場をつくろう」という方針があったわけではないが、日々のやり取りのなかで、それぞれの個性に応じた仕事の切り出しやサポートが積み重ねられていった結果、気がつけば多様な人びとがともに働く職場ができあがっていた。そうした現場の蓄積から生まれる雇用のかたちは、制度設計だけでは到達できない豊かさをもっていた。「自分の力が発揮でき、楽しい」と思える仕事のあり方を、障害の有無にかかわらず、職場全体で模索していくことが、結果として「自分の力が発揮できる楽しい仕事」につながるのではないかと思う。  今後は、さまざまな背景をもつ人びとが職場でともに働く時代がやってくる。そうした時代において、特定の属性に対応するのではなく、多様な個人の個性や可能性を起点にした職場づくりを模索していくことが、社会全体として必要とされる視点ではないかと感じた。 地図のキャプション 北海道 青森県 新潟県 石川県 山梨県 山口県 大分県 【P32】 掲示板 第45回 全国アビリンピック 障害者ワークフェア2025 〜働く障害者を応援する仲間の集い〜 入場無料 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2025(令和7)年10月17日(金)〜10月19日(日) 10月17日(金)開会式 10月18日(土)技能競技および障害者ワークフェア 10月19日(日)閉会式 開催場所 愛知県国際展示場 AICHI SKY EXPO 主催 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構、愛知県 アビリンピック 検索 当日はライブ配信も予定しています! 読者アンケートにご協力をお願いします! ※カメラで読み取ったリンク先が「https://krs.bz/jeed/m/hiroba_enquete」であることをご確認ください。 回答はこちらから→ 次号予告 ●私のひとこと  特定非営利活動法人全国LD親の会副理事長の多久島睦美さんに、発達障害、特にLD(学習障害)を取り巻く環境と、それを支援する現状と支援方策などについてご執筆いただきます。 ●職場ルポ  道内を中心に銀行業務を展開する株式会社北海道銀行を訪問。ダイバーシティ推進室と連携し、一人ひとりに配慮しながら活躍をうながす現場の取組みをご紹介します。 ●グラビア  卓越した技能者(現代の名工)の表彰や黄綬褒章、全国アビリンピック「歯科技工部門」金賞を受賞された中澤昇一さんを取材。長年にわたり技能を磨き、活躍する様子をご紹介します。 ●編集委員が行く  松爲信雄編集委員が第一生命保険株式会社の特例子会社である第一生命チャレンジド株式会社(東京都)とマテリアルハンドリング機器メーカーの株式会社キトー(山梨県)を訪問。組織内キャリアアップの取組みなどを取材し、企業の人事労務管理のあり方について考察します。 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_hiroba 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 取締役 大野聡士 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 武庫川女子大学 准教授 増田和高 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田淳 国際医療福祉大学 准教授 若林功 あなたの原稿をお待ちしています ■声−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 電話 043-213-6200(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●編集委託−株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 電話 03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 9月号 令和7年8月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 【P33】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞 写真コンテスト 「ていねいに…。」 河野 仁志(こうの ひとし 北海道) 「木材加工は慎重に!」 樋口 優佳(ひぐち ゆか 福島県) 「これが私の商売道具」 市川 堅也(いちかわ けんや 千葉県) 「フィラメントのカット作業」 高地 淑美(こうち よしみ 千葉県) 「力を合わせてクロス絞り」 石川 麻衣(いしかわ まい 東京都) 「一人前になるために」 長島 拓也(ながしま たくや 神奈川県) 「お客様の為に見やすく陳列!(商品補充作業)」 深水 清志(ふかみず きよし 神奈川県) 「ラベルの検品」 橋爪 孟利(はしづめ もおり 石川県) 「アルミ(スプレー缶)ゲットだぜ!」 小田 隼也(おだ じゅんや 愛知県) 「札貼り作業」 鈴木 恵理(すずき えり 愛知県) 「皆で一緒にキレイに畳む」 松井 秀弥(まつい ひでや 大阪府) 「従業員の健康を守る後ろ姿」 佐田野 優(さだの ゆう 岡山県) 「作ってくれたテプラを見るたびにこの笑顔を思い出します!」 三原 愛来(みはら あいら 岡山県) 「おいしく、めしあがれ」 中村 正美(なかむら まさみ 佐賀県) 「仕事を黙々とする職人」 衣笠 亜純(きぬがさ あずみ 大分県) 「この植え方で大丈夫?」 森永 香奈(もりなが かな 鹿児島県) 審査委員 永関和雄(委員長) 元 全国造形教育連盟委員長 清水満久 元 昭和女子大学 初等教育学科 教授 竹内とも子 東京都新宿区立柏木小学校 指導教諭 松永かおり 東京都世田谷区立玉川中学校 校長 官野貴 日本写真家協会会員 桑原史成 日本写真家協会名誉会員 佐藤仁重 日本写真家協会会員 樫村拓郎 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 地域就労支援室長 輪島忍 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援 機構理事長 【裏表紙】 令和7年度 障害者雇用支援月間ポスター このポスターの原画は、障害のある方々などから募集したものです。絵画・写真コンテストの入賞作品は、本誌グラビアで紹介しています。 ポスターは画像です 9月号 令和7年8月25日発行 通巻575号(毎月1回25日発行)