この人を訪ねて 「見ても見なくても見えなくても楽しめる」を増やす 一般社団法人ビーラインドプロジェクト 代表理事 浅見幸佑さん あさみ こうすけ 2003(平成15)年、東京都生まれ。2023(令和5)年、立教大学文学部在籍時に「一般社団法人ビーラインドプロジェクト」を設立し、ボードゲーム「グラマ」の開発や福祉・障害をテーマにしたイベントなどを企画運営する。2024年に「大学SDGs ACTION! AWARDS」(朝日新聞社主催)で準グランプリ受賞。2025年2月に視覚障害のあるスタッフがいる「Moonloop Cafe(ムーンループ カフェ)」(東京都杉並区)をオープンさせた。 視覚の障害に関係なく楽しめるゲーム ――浅見さんたちは大学2年次に、視覚障害がある人もない人も一緒に楽しめるボードゲーム「グラマ」を開発しましたね。経緯を教えてください。 浅見 きっかけは大学1年次に受けた福祉の授業です。なかでも視覚障害に興味を持ちました。もともと僕は視覚優位なものが好きで、ゲームや漫画、アートなどをきっかけに友だちもつくってきましたが、そうすると視覚障害のある人と一緒に楽しめるものがないと気づき、仲間5人と一緒に開発することにしました。  重視したのは「みんなが同時に楽しめる」ことです。例えばサッカーなどで歓声が上がると、見えていない人は、ゴールが決まったのか惜しくも外れたのか、すぐにはわかりません。時間差で喜ぶのは、僕だったら少しつまらないと思ったのです。  成功・失敗や勝ち負けを目でも耳でも同時にわかる仕組みとして、音とシーソー、重さを活用したボードゲームを思いつきました。当事者団体などにフィードバックをもらいながら完成したのが「グラマ」です。2人または4人が、鈴つきの小袋を手に「家のなかにあるもの」といったテーマを決めて間接的なヒントを出し合いながら、多様な形状の重りを出し入れし、全員が同じ重さを目ざすというものです。最後に十字のシーソー型の天秤に載せ、同時に手を放して釣り合えば成功、バランスを崩したら鈴の音とともに失敗とわかります。  クラウドファンディングで資金を集め、「数十台つくって寄贈できたらいいよね」ぐらいの気持ちでしたが、予想以上に反響があり、2024(令和6)年に商品化しました。課題は、材料費が6000円もかかることで、販売額6500円は高すぎるうえに事実上赤字です。コンセプトを広げることが目的なので続けていますが、ビジネスとしてはむずかしいですね。 「ビーラインドプロジェクト」設立 ――ゲーム開発とともに、一般社団法人ビーラインドプロジェクトを設立されました。 浅見 ミッションは「見ても見なくても見えなくても楽しめる」を社会に増やすことです。2023年に仲間と立ち上げたとき、名前は最初ローマ字でBlined Projectとしていました。Blind(目が不自由な)に、Be lined(横に並ぶ)の意味をあわせた造語ですが、視覚障害のある人が端末で聴き取る場合にブラインドプロジェクトと読まれてしまうため、カナ表記に統一しました。  視覚障害に関するイベントやワークショップなども開催していますが、そこで多くの当事者と知り合うなかで、予想以上に、彼らを取り巻く課題があることも知りました。なかでも多かったのが「働くことへのハードル」です。やってみたいアルバイトがないとか、就職先が非常に限られているといった悩みを聞きました。  僕自身は、働くことを幸せなものにできるかどうかと、人生を幸せにできるかどうかは、ほぼ同義ではないかと感じています。精神的な成長や自己実現の場にもなる機会を、見えないとか見えにくいというだけで閉ざされるのは納得できませんでした。  そこで僕たちは、視覚障害のある人も「楽しんで働ける場」をつくってみようと動き始めました。彼らの希望で多かったのが接客業で、カフェや洋服店などが候補にあがるなか、ちょうどシェアリングコーヒーショップ「蜃気楼(しんきろう)珈琲(こーひー)」のオーナーさんとつながりました。蜃気楼珈琲は焙煎(ばいせん)機やキッチンなどを共有し、経営に挑戦しながら互いに学べる仕組みで、資金の少ない僕らでも始められます。そのお店の月曜夜の部(17時半〜21時半)を借り、2025年2月にオープンしたのが、視覚障害のあるスタッフがいる「Moonloop Cafe(ムーンループ カフェ)」です。 視野の違いを月の満ち欠けで表現 ――Moonloop Cafeには、どんな特徴や工夫がありますか。 浅見 このカフェをつくるにあたり、視覚障害を違った視点からとらえてみようと話し合って出てきたコンセプトが「視野の違いを月の満ち欠けで表現する」でした。視覚障害というと全盲を想像する人が多いなかで、人によって視野の欠け方が違うことを、月の満ち欠けと融合させて体験してもらうというものです。  現在、店のスタッフを務めている視覚障害のある学生は、見え方が全盲の人と、右目がまったく見えず左目も弱視の人、弱視の人の3人です。担当日にあわせ新月、半月、おぼろ月と名づけた特別メニューとして、スパイスなどの調合を変えたチャイとデザートを提供します。晴眼者もスタッフに入り、協力して運営しています。  12席ある店内は、視覚障害のある人の動線を考慮したレイアウトに変更しました。カトラリーやカップをあらかじめトレーに並べ、テーブル席で直接チャイなどを注ぎ入れる手順です。デジタル音声が出るスケールなどを活用し、カクテルもつくります。フードメニューも増やし、最近全盲のスタッフが「食べやすくて映えるパフェ」を開発しました。 「楽しい雇用」生み出していきたい ――これまでのカフェの手応えと、今後の展開について教えてください。 浅見 同じ視覚障害のある人や関係者を中心にカフェの認知度が上がっていて、問合せも多いです。晴眼者のお客さまからは、店内にある点字の一覧表や点字器に触って「よい体験になった」、「スタッフと気軽に話せて楽しかった」などの感想をもらいました。また全盲のスタッフは「カフェで働いてみたいという憧れが現実になったとき、それぞれ選択肢から外していたのは自分自身だったと気づいた。同じように諦めている人の背中を押してあげたい」と話してくれています。  大きなミッションの「楽しい雇用を生み出す」現場として、自分たちの思いやエネルギーが存分に発揮されていると感じています。課題は来店者数の波が大きいことで、障害の有無に関係なく多くの人たちにどう興味を持ってもらうか探っているところです。  僕自身は今年9月の大学卒業後、NPO法人に就職し、一般社団法人ビーラインドプロジェクトと二足の草鞋(わらじ)になります。社会経験や知見も重ねたうえで、数年後には新しい事業を始めたいと考えています。欧州では視覚障害者団体が4ツ星ホテルを経営している例もあると聞きました。僕たちも、視覚障害のある人たちが働く選択肢を広げられる雇用の場をつくったり、視覚障害にかかわる課題を解決していったりできるビジネスを目ざします。  スポンサー企業も大募集中です。障害者雇用や福祉の分野で協業できることも多いと思いますので、関心のある企業の方は、ぜひご連絡ください。お待ちしています。